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平成15年(ネ)第5752号 損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平
成14年(ワ)第16918号)(平成16年4月12日口頭弁論終結)
          判          決
       控訴人          株式会社マグネテックジャパン
       訴訟代理人弁護士     德永眞澄
       被控訴人         A
       被控訴人         B
       両名訴訟代理人弁護士   杉本進介
          主          文
      本件控訴を棄却する。
      控訴費用は控訴人の負担とする。
          事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人らは,控訴人に対し,各自2000万円及びこれに対する被控訴人
Aについては平成14年6月3日から,被控訴人Bについては同月4日から,各支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
 本件は,控訴人の常務取締役技術本部長であった被控訴人Aが,控訴人を退
職後に設立したC株式会社(以下「C社」という。)に平成11年8月31日付け
特許出願(特願平11-246270号,以下「本件出願1」という。)及び平成
12年4月27日付け特許出願(特願2000-128453号,以下「本件出願
2」という。)をさせたことは,委任契約の債務不履行又は不法行為に当たり,こ
れにより,オランダ法人バッカーマグネティクス(以下「バッカー社」という。)
のエディカレントに係る発明(以下「エディカレント発明」という。)及び控訴人
が開発したシゴキリングに係る発明(以下「シゴキリング発明」という。)に関
し,控訴人が支出した材料費及び設計製作費が無駄になった結果,これら支出額相
当の損害を被ったものであり,被控訴人Bはその共同不法行為者であると主張し
て,控訴人が,被控訴人ら各自に対し,エディカレント発明に係る損害1568万
0955円(材料費相当額965万6955円,設計製作費相当額602万400
0円の合計額)のうち1486万3000円及びシゴキリング発明に係る損害51
3万7000円(材料費相当額168万9000円,設計製作費相当額344万8
000円の合計額)の合計2000万円の損害賠償及びこれに対する附帯金員の支
払を請求している事案である。
 原判決は,本件出願1,2により控訴人にその主張するような損害が発生し
たということはできないとして,主張自体を失当として排斥し,控訴人の請求をい
ずれも棄却した。
 1 前提となる事実
(1)控訴人は,マグネット及びマグネット応用の異物選別除去装置の製造及び
販売等を目的とする株式会社である。
  被控訴人Aは,平成10年5月1日,控訴人に入社し,同月28日から同
年9月30日まで控訴人の常務取締役技術本部長であったが,同日,控訴人を退職
し,平成11年1月19日,C社を設立して,その代表取締役となった。
  被控訴人Bは,弁理士であり,C社の監査役である。
(2)C社は,平成11年8月31日,被控訴人Bを代理人として,発明者を被
控訴人A及びD,発明の名称を「非鉄系金属物分別方法及びその装置」とする本件
出願1(乙1はその公開特許公報〔以下「乙1公報」という。〕)をした。
 乙1公報の特許請求の範囲の記載
【請求項1】ロータ(5)の外周の周方向に永久磁石要素(23)をS極N
極を交互に取り付けて,前記ロータ(5)を駆動して交番磁場を発生させて非鉄系
金属物に渦電流を発生させる渦電流発生手段を備えて成る渦電流式非鉄系金属物分
別方法であって,前記渦電流発生手段の前記永久磁石要素(23)の一方を構成す
る第1永久磁石要素(24)から発生する磁力線が前記ロータ(5)の半径方向へ
向くように配置して,前記第1永久磁石要素(24)から発生する磁力線を,前記
永久磁石要素(23)の他方を構成する第2永久磁石要素(25)から発生する磁
力線に反撥させて前記ロータ(5)の外側へ効率的に向くように配置したことを特
徴とする渦電流式非鉄系金属物分別方法。
【請求項2】ロータ(5)の外周に永久磁石要素(23)をS極N極を交互
に取り付けて,前記ロータ(5)を駆動して交番磁場を発生させて非鉄系金属物を
分別する渦電流を発生させる渦電流発生手段を備えて成る渦電流式非鉄系金属物分
別装置であって,ロータ(5)の外周に永久磁石要素(23)をS極N極を交互に
取り付けて,前記ロータ(5)を駆動して交番磁場を発生させて非鉄系金属物に渦
電流を発生させる渦電流発生手段を備え,二つの前記第1永久磁石要素(24)の
側面の間に磁性体スペーサ(26)を挟んで,第2永久磁石要素(25)を配置
し,前記第1永久磁石要素(24)から発生する磁力線を前記第2永久磁石要素
(25)から発生する磁力線により反撥させて前記ロータ(5)の外側へ効率的に
向くように配置したことを特徴とする渦電流式非鉄系金属物分別装置。
【請求項3】請求項2に記載の渦電流式非鉄系金属物分別装置において,前
記第1永久磁石要素(24)は,6面の長方体であり,前記第2永久磁石要素(2
3)は,6面の台形状であることを特徴とする渦電流式非鉄系金属物分別装置。
【請求項4】請求項2又は3に記載の渦電流式非鉄系金属物分別装置におい
て,非鉄系金属物を前記渦電流発生手段へ移送するための非金属性のベルトコンベ
ヤ(3)と,前記ベルトコンベヤ(3)を駆動するための駆動装置とから構成され
た搬送手段とから成り,前記ベルトコンベヤ(3)は前記渦電流発生手段の手前で
前記ロータ(5)の前記永久磁石要素(23)から一段と離れるように構成されて
いることを特徴とする渦電流式非鉄系金属物分別装置。
(以下,上記【請求項1】~【請求項4】記載の発明を,併せて「乙1発
明」という。)
(3)また,C社は,平成12年4月27日,被控訴人Bを代理人として,発明
者を被控訴人A及びD,発明の名称を「着磁金属異物の除去方法とその装置」とす
る本件出願2(乙2はその公開特許公報〔以下「乙2公報」という。〕)をし,平
成16年2月20日,設定登録された(乙12)。
 乙2公報の特許請求の範囲の記載
【請求項1】チューブの軸線方向に永久磁石であるマグネット要素と磁性体
のスペーサを交互に配置し,かつ,前記マグネット要素の同極が対向して反発する
ように並べられて前記チューブに内装されているバーマグネットチューブの着磁金
属異物の除去装置であって,内周孔の直径が前記チューブの外径より大きくリング
構造を有し磁性材料から成るリングとからなり,前記リングを前記バーマグネット
チューブの一端から挿入して他端に相対移動させて,前記チューブの外周の着磁し
た金属異物を除去することを特徴とする着磁金属異物の除去装置。
【請求項2】請求項1に記載の着磁金属異物の除去装置において,前記バー
マグネットチューブの断面が多角形であることを特徴とする着磁金属異物の除去装
置。
【請求項3】請求項1又は請求項2に記載の着磁金属異物の除去装置におい
て,前記リングは,非磁性材料で作られた本体に固定されていることを特徴とする
着磁金属異物の除去装置。
【請求項4】請求項3に記載の着磁金属異物の除去装置において,前記本体
には,前記リングと同軸で前記バーマグネットチューブの外周に摺動自在であるガ
イドが配置固定されていることを特徴とする着磁金属異物の除去装置。
【請求項5】チューブの軸線方向に永久磁石であるマグネット要素と磁性体
のスペーサを交互に配置し,かつ,前記マグネット要素の同極が対向して反発する
ように並べられて前記チューブに内装されているバーマグネットチューブの着磁金
属異物の除去方法であって,磁性材料で作られた環状のリングを前記バーマグネッ
トチューブの一端から挿入し他端の方向に相対移動させて,前記バーマグネットチ
ューブの磁力線が前記リングによって短絡させ,前記磁力線を前記リング内に流
し,前記バーマグネットチューブに着磁した金属異物を前記リング前面に金属異物
を移動させることにより,前記バーマグネットチューブから除去または清掃するこ
とを特徴とする着磁金属異物の除去方法。
【請求項6】請求項5に記載の着磁金属異物の除去方法において,前記バー
マグネットチューブの断面が多角形であることを特徴とする着磁金属異物の除去方
法。
【請求項7】ケースの一直線方向に永久磁石であるマグネット要素と磁性体
のスペーサを交互に配置し,かつ,前記マグネット要素の同極が対向して反発する
ように並べられて前記ケースに内装されているバーマグネットケースの着磁金属異
物の除去装置であって,前記バーマグネットケースの上を摺動し,磁性材料から成
る磁性部材とからなり,前記磁性部材を前記バーマグネットケースの一端から他端
に相対移動させて,前記ケースの外面の着磁した金属異物を除去することを特徴と
する着磁金属異物の除去装置。
【請求項8】請求項7に記載の着磁金属異物の除去装置において,前記バー
マグネットケースの断面が多角形であることを特徴とする着磁金属異物の除去装
置。
【請求項9】請求項7又は請求項8に記載の着磁金属異物の除去装置におい
て,前記磁性部材は,非磁性材料で作られた本体に固定されていることをことを特
徴とする着磁金属異物の除去装置。
【請求項10】請求項9に記載の着磁金属異物の除去装置において,前記本
体には,前記バーマグネットケースの外周に摺動自在であるガイドが前記磁性部材
に配置固定されていることを特徴とする着磁金属異物の除去装置。
【請求項11】ケースの軸線方向に永久磁石であるマグネット要素と磁性体
のスペーサを交互に配置し,かつ,前記マグネット要素の同極が対向して反発する
ように並べられて前記ケースに内装されているバーマグネットケースの着磁金属異
物の除去方法であって,磁性材料で作られた磁性部材を前記バーマグネットケース
の一端から他端の方向に相対移動させて,前記バーマグネットケースの磁力線が前
記磁性部材によって短絡させ,前記磁力線を前記磁性部材内に流し,前記バーマグ
ネットケースに着磁した金属異物を前記磁性部材の前面に金属異物を移動させるこ
とにより,前記バーマグネットケースから除去または清掃することを特徴とする着
磁金属異物の除去方法。
【請求項12】請求項11に記載の着磁金属異物の除去方法において,前記
バーマグネットケースの断面が多角形であることを特徴とする着磁金属異物の除去
方法。
(以下,上記【請求項1】~【請求項12】記載の発明を「乙2発明1」~
「乙2発明12」といい,これらを併せて「乙2発明」という。)
 2 控訴人の主張
  (1)被控訴人Aの委任契約の債務不履行(争点1)
ア 被控訴人Aが控訴人に入社した平成10年5月1日当時,控訴人は,シ
ゴキリングの原理及び形状と,磁石に吸着されている微細な鉄片に磁性体を近づけ
ると鉄片が磁性体に乗り移る現象(以下「本件現象」という。)を組み合わせて,
控訴人代表者E作成の「着磁金属異物の除去方法とその装置(シゴキリング)につ
いて」(甲1,以下「甲1報告書」という。)記載のシゴキリング発明を完成させ
ていたものであり,また,磁石のN極とS極の短絡を防ぐため両極間に反発し合う
極を挿入する構成を採用した同人作成の2003年(平成15年)6月4日付け報
告書(甲14,以下「甲14報告書」という。)添付図面B(以下「図面B」とい
う。)記載のエディカレント発明を利用した非鉄金属分別機について,バッカー社
と製品開発をしていた。
イ 控訴人は,被控訴人Aが控訴人に入社する際,被控訴人Aとの間に,雇
用契約とともに,バッカー社が発明したエディカレント発明について,その技術を
研究開発すること,及び控訴人が開発したシゴキリング発明について,被控訴人B
と協議して,これを取りまとめ,特許出願することを内容とする委任契約(以下
「本件委任契約」という。)を,口頭ないし黙示の承諾により締結した。控訴人が
被控訴人Aに対して支払った給与は,実質的には,本件委任契約の報酬である。
  本件委任契約に基づき,被控訴人Aは,控訴人に対し,信義則上,エデ
ィカレント発明について,バッカー社の機密を公開するなど,控訴人のバッカー社
に対する守秘義務違反となる行為をしてはならない債務,及びシゴキリング発明に
ついて,自由競争の原理を逸脱して控訴人の利益を不当に害してはならない債務を
負うと解すべきである
ウ 被控訴人Aは,平成10年9月30日,上記製品開発及び特許出願に係
る債務を履行しないまま,控訴人にとって不利な時期に退社して,本件委任契約を
解除し,自ら代表取締役を務めるC社に,平成11年8月31日に本件出願1を,
平成12年4月27日に本件出願2をさせた。
  被控訴人Aのこれらの行為は,本件委任契約に基づくエディカレント発
明について製品開発すべき債務の履行を怠ったものであるとともに,バッカー社の
機密を公開するなど,控訴人のバッカー社に対する守秘義務違反となる行為をして
はならない債務に違反したものとして,また,本件委任契約に基づくシゴキリング
発明について特許出願すべき債務の履行を怠ったものであるとともに,本件出願2
により控訴人が開発したシゴキリング発明の新規性を喪失させたものであり,自由
競争の原理を逸脱して控訴人の利益を不当に害してはならない債務に違反したもの
として,債務不履行に該当する。
  (2)被控訴人Aの不法行為(争点2)
 被控訴人Aは,エディカレント発明について,バッカー社の機密を公開す
るなど,バッカー社と控訴人間の信頼関係を破壊して控訴人の利益を不当に害する
ような行為をしてはならない注意義務を,シゴキリング発明について,控訴人が開
発した発明の新規性を喪失させるなど,自由競争の原理を逸脱して控訴人の利益を
不当に害してはならない注意義務を負うものであり,被控訴人Aの上記(1)ウの行為
は,同注意義務に違反して控訴人の利益を害したものとして,不法行為に該当す
る。
  (3)被控訴人Bの共同不法行為(争点3)
 被控訴人Bは,被控訴人Aが上記(1)イ記載の債務及び上記(2)記載の注意
義務を負うことを認識しながら,C社の代理人として本件出願1及び本件出願2の
手続を行ったものであるから,被控訴人Aの債務不履行及び不法行為に積極的に加
担したものとして,被控訴人Aの共同不法行為者に該当する。
  (4)損害(争点4)
 被控訴人らの上記行為により,エディカレント発明を利用した非鉄金属分
別機についてのバッカー社との製品開発及びシゴキリング発明についての特許出願
が不可能となった結果,控訴人がエディカレント発明に係る開発のため支出した費
用合計1568万0955円(材料費965万6955円,設計製作費602万4
000円)及びシゴキリング発明に係る開発のため支出した費用合計513万70
00円(材料費168万9000円,設計製作費344万8000円)が無駄とな
り,控訴人は,同支出額相当の損害を被った。
 3 被控訴人らの主張
  (1)被控訴人Aの委任契約の債務不履行(争点1)について
ア 棒状マグネットに吸着した金属異物を除去するために,棒状マグネット
に吸着した金属異物を物理的にしごき落とす樹脂製等のいわゆるシゴキリングは,
従来からある技術であり,控訴人が開発したものではない。また,控訴人主張のシ
ゴキリング発明が,乙2発明を意味するのであれば,これを開発したのは控訴人で
はない。
  乙1発明及び乙2発明は,被控訴人AとC社の従業員であるDが共同で
発明したものである。
イ 被控訴人Aが控訴人と本件委任契約を締結したことは否認する。
  被控訴人Aは,控訴人の代表取締役Eに被控訴人Bを紹介したことはあ
るが,被控訴人Bと協議して,これを取りまとめ,特許出願する依頼を受けたこと
はない。控訴人は,技術的トラブルが多く,クレーム処理に追われていたところ,
被控訴人Aがその相談に応じ,クレーム処理のための実験レポートを作成したり,
従業員の技術者教育が必要であること等のアドバイスをしたにすぎない。また,E
が,バッカー社の営業担当者を2回ほど連れてきたことはあったが,被控訴人A
は,その用件の詳細は全く知らされていなかった。
ウ 被控訴人Aは,本件委任契約を締結したことはないから,控訴人主張の
債務を負担することはない。また,乙1発明はエディカレント発明と同一ではな
く,乙2発明もシゴキリング発明と同一ではなく,しかも,乙1発明及び乙2発明
は,被控訴人AとDが共同で発明したものであるから,本件出願1及び本件出願2
が債務不履行に該当することはない。
  (2)被控訴人Aの不法行為(争点2)について
 控訴人の不法行為の主張は争う。
 乙1発明はエディカレント発明と同一ではなく,乙2発明もシゴキリング
発明と同一ではなく,しかも,乙1発明及び乙2発明は,被控訴人AとDが共同で
発明したものであるから,本件出願1及び本件出願2が不法行為に該当することは
ない。
  (3)被控訴人Bの共同不法行為(争点3)について
 控訴人の共同不法行為の主張は争う。
  (4)損害(争点4)について
 控訴人の損害は否認する。
 製造メーカーは,ある特定の特許を取得するために技術研究開発をしてい
るわけではなく,物を製造し,技術研究開発を行っていく上で特許が生まれてくる
のであるから,製造メーカーが行っている研究が,特定の特許を取得するためだけ
のものということはあり得ず,技術研究開発費用が,ある特定の特許を取得するた
めだけの費用であるわけがない。
第3 当裁判所の判断
 1 争点1(被控訴人Aの委任契約の債務不履行)について
(1)控訴人は,被控訴人Aが控訴人に入社する際,被控訴人Aとの間に,雇用
契約とともに,バッカー社が発明したエディカレント発明について,その技術を研
究開発すること,及び控訴人が開発したシゴキリング発明について,被控訴人Bと
協議して,これを取りまとめ,特許出願することを内容とする本件委任契約を,口
頭ないし黙示の承諾により締結したと主張する。
(2)確かに,甲1報告書には,Eが,被控訴人Aに対し,入社後間もなく,従
来のシゴキリングを,本件現象を利用して,3頁の図に図示する構造のシゴキリン
グを開発し,特許出願するよう依頼した旨の記載がある。しかしながら,甲1報告
書は,控訴人代表者作成に係るものであるところ,上記記載を裏付ける的確な証拠
はなく,被控訴人A作成の2003年(平成15年)6月7日付け陳述書(乙1
0,以下「乙10陳述書」という。)の反対趣旨の記載に照らし,直ちに採用する
ことはできない。
  また,甲14報告書には,「バッカー社より提出された図面及び資料」と
して資料3(以下「資料3」という。),「A氏がエディカレント試作を行う為に
自ら作ったメモ及び図面」として資料4(以下「資料4」という。)等が添付さ
れ,本文中に,控訴人がバッカー社から入手した資料3を基にテスト機を作成する
よう依頼し,被控訴人Aはその作業を行い,資料4のメモ及び図面を作成した旨の
記載があり,資料4は,被控訴人A作成の「1.エディカレント試作 2.エディ
カレント バランス調整機試作」と題する平成10年8月27日付けのメモであっ
て,「MG固定板」,「部品図」,「軸」,「MGヨークロータ外筒」,「CUR
RENT-試作機」等の図面が添付されている。そうすると,甲14報告書によれ
ば,被控訴人Aは,控訴人がバッカー社から入手した資料を基に,バッカー社製の
非鉄金属分別機と同様の技術の研究開発に係る作業を行ったことが認められる。し
かしながら,被控訴人Aは,平成10年5月1日,控訴人に入社し,同月28日か
ら同年9月30日まで控訴人の常務取締役技術本部長であったことは,当事者間に
争いがなく,上記作業は,被控訴人Aが,控訴人の常務取締役技術本部長として行
ったものと解するのが相当であるから,上記事実のみをもって,控訴人主張の本件
委任契約の締結を推認することはできない。
  したがって,甲1報告書及び甲14報告書によっては,控訴人と被控訴人
Aとの間に本件委任契約が締結されたことを認めるに足りず,他にこれを認めるに
足りる証拠はない。
(3)以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の被控訴
人Aに対する本件契約の債務不履行に基づく請求は,理由がない。
 2 争点2(被控訴人Aの不法行為)について
(1)エディカレント発明について
 控訴人は,被控訴人Aは,エディカレント発明について,バッカー社の機
密を公開するなど,バッカー社と控訴人間の信頼関係を破壊して控訴人の利益を不
当に害するような行為をしてはならない注意義務を負うものであるところ,C社に
本件出願1をさせたことは,同注意義務に違反して控訴人の利益を害したものとし
て,不法行為に該当すると主張する。
  しかしながら,甲14報告書によれば,控訴人は,平成10年4月17
日,バッカー社から非鉄金属分別機1台を購入し,バッカー社から同製品に係る資
料3を入手したことが認められる。ところで,控訴人は,エディカレント発明は,
図面B記載の発明であると主張するが,図面Bは,資料3の4枚目の図面を縮尺し
たものであると認められる。そうすると,控訴人主張のエディカレント発明は,上
記非鉄金属分別機に係る発明をいうものと認められるところ,その譲渡の際,上記
非鉄金属分別機の構造及び資料3が非公知であり,かつ,その秘密を保持すべき旨
の契約等が締結されたことについて,主張,立証はないから,エディカレント発明
は,本件出願1がされた平成11年8月31日より前に,日本国内において公然知
られた発明ないし公然実施をされた発明であることが明らかであり,これをバッカ
ー社の機密ということはできない。
  したがって,本件出願1が,バッカー社の機密を公開し,バッカー社と控
訴人間の信頼関係を破壊して控訴人の利益を不当に害するということはできない。
(2)シゴキリング発明について
 控訴人は,被控訴人Aは,シゴキリング発明について,控訴人が開発した
発明の新規性を喪失させるなど,自由競争の原理を逸脱して控訴人の利益を不当に
害してはならない注意義務を負うものであるところ,C社に本件出願2をさせたこ
とは,控訴人が開発したシゴキリング発明の新規性を喪失させたものであり,同注
意義務に違反して控訴人の利益を害したものとして,不法行為に該当すると主張す
る。
 乙2発明1~12は,上記第2の1(3)の乙2公報の特許請求の範囲の記載
のとおり,いずれも,「永久磁石であるマグネット要素と磁性体のスペーサを交互
に配置し」及び「前記マグネット要素の同極が対向して反発するように並べられ」
との構成を有するものであり,乙2公報及び乙10陳述書によれば,バーマグネッ
トの極から出る磁力線(磁路)に除鉄リング中の磁性体リングが極に近づくと,磁
性体リングに向かって磁力線が変化し,吸着した鉄粉は磁路の変化で移動するた
め,その瞬間にリングを動かすと,それに連れて磁路も変化して鉄粉は浮いた状態
になり,次の極に落下せず移動吸着し,このように順次除鉄リングを移動させる
と,バーマグネットの無磁場まで移動し,鉄粉が落下するとの技術的思想に基づく
ものであると認められる。他方,控訴人主張のシゴキリング発明の構成及びその技
術的思想は明らかではないが,控訴人がシゴキリング発明が記載されていると主張
する甲1報告書には,乙2発明1~12の上記構成及び技術的思想についての記載
は見当たらないから,乙2発明1~12は,甲1報告書に記載されたものとは異な
るものというべきである。弁理士F作成の2003年(平成15年)9月10日付
け陳述書(甲19)には,乙2公報の段落【0005】に記載されているような従
来の除鉄技術(バーマグネットチューブの外周に合成樹脂製のリングを装着し,リ
ングを移動させることにより,バーマグネットチューブの表面に吸着されている鉄
片を除去するという技術)に本件現象に基づく原理を適用した場合には,必然的に
乙2公報に開示されたような除鉄リングとなる旨記載されているが,同陳述書に
は,その理由が全く記載されておらず,上記判断を左右するものではない。
 したがって,甲1報告書記載の発明が控訴人が開発したものであるとして
も,本件出願2が,同発明の新規性を喪失させたものということはできず,自由競
争の原理を逸脱して控訴人の利益を不当に害するものということもできない。
(3)以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の被控訴
人Aに対する不法行為に基づく請求も,理由がない。
 3 争点3(被控訴人Bの共同不法行為)について
 控訴人の被控訴人Aに対する債務不履行及び不法行為に基づく請求がいずれ
も理由のないことは,上記1,2のとおりであるから,これを前提とする被控訴人
Bに対する共同不法行為に基づく請求も,理由がない。
 4 結論
 以上のとおり,控訴人の被控訴人らに対する請求をいずれも棄却した原判決
は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のと
おり判決する。
     東京高等裁判所知的財産第2部
           裁判長裁判官    篠  原  勝  美
              裁判官      岡  本     岳
      裁判官    早  田  尚  貴

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応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛