弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審における未決勾留日数中二二〇日を原判決の刑に算入する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人堀廣士が提出した控訴趣意書に記載されているとおり
であるから、これを引用する。
 第一 控訴趣意第一(理由不備及び事実誤認)について
 所論は、要するに、原判決は、香港等の海外商品取引所に上場された粗糖等の先
物及び現物取引の国内における受託業務を目的とするA株式会社(以下「本件会
社」という。)の代表取締役であった被告人に対し、同社代表取締役B及び同取締
役Cと共謀の上、顧客が海外商品市場における先物取引の知識に乏しいことに乗
じ、香港商品取引所の粗糖の海外先物取引の受託に籍口してその委託保証金名下に
四名の被害者から金員を騙取したとして、いわゆる客殺し商法による詐欺罪を認定
したが、(1)本件会社では、客殺し商法を営業の一般方針として採用するなどし
ていた事実はない上、被告人には詐欺の犯意はなく、(2)また、原判決挙示の証
拠によっては、被告人にB及びCとの共謀の事実を認定することができないのに、
被告人に共謀を認めた原判決には、(1)の点において判決に影響を及ぼすことが
明らかな事実の誤認が、(2)の点において理由不備の違法がある、というので、
記録を精査して検討する。
 一 所論(1)(事実誤認)について
 1 原判決挙示の各証拠によれば、以下の事実を認めることができる。
 (1) 本件会社の運営資金等について
 本件会社は、昭和五八年一一月、海外先物取引の受託業務等を目的とするD株式
会社の代表取締役をしていた被告人により、資本金の払込を仮装して設立されたも
ので、当初から資本金に見合う実質的資産は皆無であり、会社の運営に必要な人件
費、一般経費などは、営業の開始当時はDからの借入金で賄われ、その後は主とし
て顧客から入金された委託保証金を、後記のとおり向い玉を建てることにより社内
に留保した上内部的経理処理をして流用するなどしてこれに充てていたこと
 (2) 本件会社の営業の実態について
 本件会社における顧客の勧誘は、いわゆる電話セールスと称する方法により、電
話帳の写をもとに、一定地域の家庭に無差別に電話をかけて訪問の約束を取り付け
た後、社員を顧客の自宅に訪問させて勧誘する方法を採っていたことから、先物取
引に無知な家庭の主婦なとが主な勧誘対象となり、これらの者を勧誘するに際して
は、粗糖等の値動きの動向を説明し、銀行預金、郵便貯金等の金融商品と比較しつ
つ、先物取引の方が二、三か月程度の短期間で確実に高い利益を得られると強調
し、これを信じて契約した顧客に対しては、顧客管理を担当する社員らにおいて、
毎日作成される委託者総合管理表記載の各顧客別の見合率をもとに、「1」損勘定
になる予定の顧客については、難平、両建を勧め、あるいは追証の提供を求め、こ
れに応じないときには損切りし、「2」益勘定になる予定の顧客については、利乗
せ満玉として更に取引を繰返すことを基本に、その都度無断売買、ころがし、途
転、手仕舞拒否、追証攻め、両建などの各手段を適宜組み合せて用い、これらの方
法により、顧客に損失を生じさせるとともに、委託手数料を増大させて、結局、委
託保証金の返還及び利益金の支払を免れようとしていたこと
 (3) 向い玉について
 本件会社では、香港商品取引所に同取引所の正会員を通じて先物取引の売買注文
を出すにあたり、昭和六〇年一月までは顧客の売注文又は買注文の委託玉それぞれ
のすべてについて、同一枚数の反対注文を出す総向い玉の方式を採り、その後は、
僅な自社の片玉を除いて、顧客らの買注文と売注文とを向い合せ、その差の分に対
し自社の向い玉を建てる方式を採って、顧客の損益は事実上本件会社との間で決済
される結果となることにより、相場の動向により発生した顧客の損失に見合う利益
が本件会社に帰属するようにしていたこと
 (4) いわゆる向上額を基本とする歩合給制度について
 本件会社では、総入金額から総出金額を差し引いた額を向上額と称し、これに基
づいて社員の歩合給が算出される制度が採られており、これにより、社員は入金額
の増大すなわち委託保証金の獲得に走り、他方で出金額の減少すなわち委託保証金
の払い戻し等の払出をできる限り押えようとするため、結局各社員は前記のような
客殺しの各手法を積極的に講じる結果となっていたこと
 (5) 本件被害者らに対する勧誘行為等
 本件各被害者に対しても、Cや本件会社の社員であった原審における分離前相被
告人Eら数名において、その営業として、原判決別紙犯罪事実一覧表(一)ないし
(四)の各欺岡文言欄に記載されたとおりの文言を用いて勧誘したり、両建、追証
などを勧め、これを信じた各被害者から、合計一五回にわたり、現金合計三一七〇
万円を受領したこと
 2 右認定の各事実によれば、もともと実質的資産のない本件会社は、設立の当
初から、必然的にいわゆる客殺し商法を営業の一般方針として採用せざるを得ず、
また、現に向い玉を建てたり向上額を基本とする歩合給制度を採用し、社員をして
積極的に客殺し商法を行わしめていたことが明らかである。なお、所論は顧客との
取引の際の個々的事情を指摘したり、本件会社で採られていた向上額を基本とする
歩合給制度等には合理性があるなととして種々論難するが、前記本件会社の実態及
びそこで採られていた各種の手法等を総合して考察すれば、右認定のとおり本件会
社が客殺し商法を営業の一般方針としていたことが優に認められるところである。
 被告人は、このような実態の本件会社を設立し、後記のとおりBらと共謀の上右
のような商法を推進していたものであるから、被告人には詐欺の故意に欠けるとこ
ろはない。
 したがって、所論(1)の事実誤認の主張は認められない。
 二 所論(2)(理由不備)について
 1 原判決挙示の各証拠によれば、以下の事実を認めることができる。
 (1) 被告人は、昭和四二年八月ころ国内先物取引を業とし、営業姿勢が本件
会社と類似するFG支店に入社し、以後その系列の会社なとを転々として、この種
業界の営業方法等に通暁していたこと
 (2) 被告人は本件会社を設立した後、昭和五九年四月ころ、Bを代表取締役
専務として、Cを取締役副部長として本件会社に迎え入れたほか、同種業界やDグ
ループと称して被告人が実質的に支配する系列会社にいた者数名を配し、これらの
者を通して本件会社の実権を掌握し、自己の意に添った経営を可能とする社内態勢
を整えたこと
 (3) そのような中、本件会社が営業を実際に開始した直後の昭和五九年五月
二四日ころ、Bが本件会社の同月分の給与の資金をDから借り入れようと被告人に
その依頼をしたところ、被告人は、「Dに少しでも早く金を返してほしい。もう三
〇〇〇万円くらい金を貸してある。明日は給料日だから一〇〇〇万の金をまわすが
こんなことでは困る。もういい加減にしてくれ。とにかく早く金を返せ。客からど
んどん集めて返せばいいじゃないか。」などと発言したこと
 (4) Bは、本件会社に実質的資産が何もなく、その営業方法がこれまで被告
人と共に携った会社のそれと同様であったことなどから、被告人の右発言が客殺し
商法による営業を貫徹、推進するように指示するものと了解し、Cにもその趣旨を
伝え、同人らは共に前記認定のような本件会社の営業活動にあたっていたこと
 2 以上の各事実によれば、被告人のB及びCとの本件共謀の事実を優に肯認す
ることができ、原判決の挙示する証拠に不足はない。
 したがって、所論(2)の理由不備の主張も認められない。
 以上によれば、被告人のB及びCとの共謀による本件詐欺罪の成立は明らかであ
る。
 論旨はいずれも理由がない。
 第二 控訴趣意第二(量刑不当)について
 所論は、要するに、原判決の量刑は重過ぎて不当である、というので、記録を調
査して検討する。
 本件は、被告人がB、Cと共謀の上、顧客が海外商品市場における先物取引の知
識に乏しいことに乗じ、Cにおいて又は社員を介し、香港商品取引所の粗糖の海外
先物取引の受託に籍口し、その委託保証金名下に被害者四名から現金合計三一七〇
万円を騙取したという事案である。被告人は、営業それ自体が詐欺商法の実行とも
いうべき本件会社を設立した上、BやCをこれに誘い込み、同人らをして自ら又は
社員に客殺し商法の手法を駆使するなどさせて多額の金員を騙取したものであっ
て、その犯行は組織的、計画的で巧妙なものであり、被害者らには財産的損害に加
えて相当な精神的打撃を与えたこと、本件が社会に及ぼした影響も看過できないこ
と、被告人にはいまだ自己の行為についての十分な反省と自覚が乏しいことなどの
諸事情を考慮すると、被告人の罪責はまことに重大であるというべきである。
 したがって、被告人にはこれまでなんらの前科、前歴もないこと、各被害者らに
対し示談等により若干の金員が返還されていること、被告人が今後は先物取引等相
場関係の仕事には関係しない旨誓約していること、その他被告人の年齢、家庭の状
況等被告人のため斟酌すべき諸事情を十分考慮すると共に、他の共犯者の罪責との
権衡を勘案しても、原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。
 論旨は理由がない。
 <要旨>(なお、職権により調査すると、被告人に対する第二四回公判調書には、
「裁判官」氏名欄に「H」と記載されているが、同調書の「裁判所書記官」
氏名欄には「H」と記載され、さらに同調書は同書記官によって作成されているこ
と、被告人及び共犯者等に対する一連の詐欺被告事件が、第二八回公判期日以後合
議体によって審理されるようになるまで、第二四回分を除く各公判調書には、すべ
て「裁判官」の氏名として「I」と記載され、その各欄外裁判官認印欄に「I」の
認印が押されているところ、それらの認印と第二四回公判調書の欄外裁判官認印欄
の認印とが同一であることによれば、第二四回公判調書中の「裁判官」氏名欄の
「H」の記載は、「I」の明白な誤記であることが認められ、このような場合、公
判調書は正しい内容にしたがって証明力を有するものであるから、右の誤記は本件
訴訟手続の効力に影響を及ぼすものではない。最高裁昭和三六年三月一四日第三小
法廷決定・刑集一五巻三号五一六頁、最高裁昭和四八年二月一六日第二小法廷判
決・刑集二七巻一号四六頁参照)
 そこで、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、当審における未決
勾留日数の算入につき、刑法二一条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 近藤和義 裁判官 栗原宏武 裁判官 高麗邦彦)

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