弁護士法人ITJ法律事務所

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              主       文
被告人を懲役1年6か月に処する。
未決勾留日数中50日をその刑に算入する。
押収してあるペテナイフ1本(平成18年押第5号の1)を没収する。
理由
(犯罪事実)
 被告人は,神戸市a区b町c丁目d番e号f住宅g号室に居住し,かねてから隣室のh号室に居住するA(当時66
歳)が騒音を立てていると思い,Aに対して不快な感情を募らせていた。平成18年1月21日,被告人は,この日も
Aが騒音を立てて被告人に嫌がらせをしていると思って腹を立て,同日午前6時50分ころ,前記h号室前通路におい
て,Aに苦情を申し入れたが,応対に出てきたAと口論になるなどしたことから,同所において,Aに対し,あらかじ
め自宅から持参していたペテナイフ(刃体の長さ約10センチメートル。平成18年押第5号の1)を振り回し,Aの
左胸部及び左腹部等を数回刺すなどして,Aに全治まで約30日間を要する外傷性左血気胸(胸部刺創),腹部刺創等
の傷害を負わせた。
(弁護人の主張に対する判断)
1 弁護人は,①被告人は,被害者A(以下単に「被害者」という。)の左腹部及び左胸部を刺したことはない,②被
告人には傷害の故意はない,③被告人には正当防衛が成立し,そうでなくとも過剰防衛が成立する旨主張するので,前
記犯罪事実を認定した理由について補足して説明する。
2 本件の事実経過に関して,証拠上動かし難い事実は次のとおりである。
 (1)被告人は,平成13年の夏ころから,被告人の居室であるg号室と隣室で被害者の居室であるh号室の境の壁か
ら,午後9時ころから午前零時過ぎころまでの間,不規則に,数十秒間続く「コンコン」という壁を叩くような音が聞
こえるようになり,被害者が被告人に嫌がらせをする目的で壁を何かでたたいていると思うようになった。
   他方,被害者も,平成13年ころから,被害者の居室と被告人の居室の境の壁から,午後9時ころから午前2時
ころまでの間「コーンコーン」という固いもので壁か何かをたたくような音が聞こえ始め,やがて,この騒音を出して
いるのは被告人であると思うようになり,こうして,被告人と被害者は,互いに,相手が夜間騒音を発していると思う
ようになった。
 (2)平成14年11月,被告人と被害者は互いに相手からの騒音を住宅管理センターに訴えたが,互いに相手が騒音
を発していると主張したため話はつかず,その後,平成15年3月には,前記の騒音を原因として,被告人の居室に苦
情を言いにきた被害者と被告人が胸倉をつかみ合い,言い争うなどの状態になり,他の部屋の住人が止めに入ったこと
もあった。また,その後,被告人は,自治会長らを伴って被害者の居室に赴き,被害者と騒音について話合いをしよう
としたが,被害者が騒音を出していないと主張したため,やはり話はつかなかった。
(3)その後,本件に至るまでの間,被告人と被害者との間で表立ったトラブルはなかったが,被告人は,引き続き夜
間の騒音に悩まされ,その騒音は被害者が発していると思っており,被害者に対する恨みや憎しみを持っていたが,直
接被害者に対して文句を言うことはなかった。
   なお,被告人は,平成14年11月ころから,被告人の居室から転居したいと考えるようになったが,他の市営
住宅の入居者募集に当選できず,生活保護を受給していて経済的余裕もなかったことなどから,転居することができな
かった。
   他方,被害者も,平成15年以降,被害者の居室を出て,他の市営住宅に転居したいと考えるようになったが,
被告人と同様,他の市営住宅の入居者募集に当選できず,生活保護を受給していて経済的余裕もなかったことから,転
居することができなかった。
 (4)平成18年1月20日の深夜,被告人は,被告人の居室の風呂場から寝室にかけての壁全体から,壁をたたくよ
うな音や何かを引きずるような音が,普段にも増して大きく聞こえてきて,いつも以上に寝付くことができず,翌21
日午前6時半か40分ころ,布団の中でラジオを聞いていたところ,コンコンという壁をたたくような音が三,四回聞
こえてきて,被害者がまた嫌がらせをしてきたと思った。
   同日午前6時50分ころ,被告人は,自宅から持ち出したペテナイフを手に被害者の居室前の通路に行き,被害
者の居室の呼び鈴を鳴らした。このペテナイフは,刃体の長さが約10センチメートルであり,背から刃までの幅は広
いところで約2センチメートルのものであった。
 (5)同時刻ころ,同所において,被害者は,被告人の持参したペテナイフにより,左顔面,左頸部,左側胸部,左下
腹部各刺創の傷害を負ったが,このうち,左顔面及び左頸部の刺創は,長さは約2センチメートルであり,深さは約1
センチメートル以下であると推測され,明らかな刺創とは言えず,切創という診断も可能なものであった。左側胸部の
刺創は,長さが約3センチメートルであり,深さは,肺を損傷していることから約2センチメートル以上約4センチメ
ートル以下と推測されるものであり,左下腹部の刺創は,長さは約4センチメートルであり,深さは,皮下脂肪を貫い
て腹腔内に達していることから約2センチメートル以上約4センチメートル以下と推測されるものであった。
   他方,この時,被告人も,被害者に殴られ,左眉根付近,左目付近,口左横及び右横付近,あご付近,首もと付
近に打撲傷を負い,また,右手人差し指にペテナイフによる切創を負った。
 (6)被害者が傷害を負った後,被告人は,5階の各部屋の呼び鈴を押し,出てきた501号室の女性に,110番通
報を依頼し,また,被害者は,509号室の呼び鈴を押したものの,誰も出てこなかったことから,自宅に戻って携帯
電話で110番通報をし,その後503号室の呼び鈴を押し,出てきた女の子に救急車を呼んでもらった。
 (7)本件当時,被告人は70歳,被害者は66歳であり,体格的に被害者の方が優っていた。
3(1)以上の事実経過を前提として,本件犯行状況に関する被告人及び被害者の各供述についてみるに,まず,被害者
は,要旨次のとおり供述している。①平成18年1月21日の早朝,眠っていたところ,呼び鈴が鳴り,ドアに大きな
音が鳴ったので,玄関横の窓ガラスを開けたところ,自室前の通路に被告人が立っており,「音したやろ。承知せえへ
んで。ええ加減にせえ。」と怒鳴ってきたことから,左手を左右に振って,「違う。寝とってんで。そんなん,せえへ
ん,せえへん。」と被告人に言ったが,被告人が,なお大声で「ええ加減にせえ,お前や。」と怒鳴ってきたため,被
告人の誤解を解こうと思い,玄関から自室前の通路に出た,②さらに被告人の誤解を解こうと左手を左右に振っていた
ところ,左胸に何かがスッと刺さる感触があり,見たところ被告人の右手にペテナイフが握られており,それで刺され
たことが分かった,③そこで,身をかばうために,被告人の顔付近を左の手のひらで押しつけ,また,被告人の顔面を
何回か殴ったが,被告人に,左顔面,左首,左脇腹を突き刺された,④被告人は,自分の左胸などから血があふれ出て
きたのを見て驚いた様子で,自分に対する攻撃をやめた。
 (2)他方,被告人は,公判廷において,要旨次のとおり供述している。①被告人は,午前6時半から40分ころに前
記の音がしたころから,どうしても我慢できなくなり,被害者に直接文句を言おうと考え,寝間着のまま,ペテナイフ
を持たずに被害者の居室前の通路に行き,被害者の居室の呼び鈴を一回鳴らしたが,被害者が出てこなかったことか
ら,一度はあきらめて部屋に戻った,②しかし,部屋に戻って5,6分間考えて,もう一度被害者の居室へ行って話を
しよう,被害者は腕力が強いのでペテナイフで脅せば騒音がやむのではないかと考え,割りばしの上にさやに入れて置
いてあったペテナイフのさやを抜いて持ち出したが,被害者を傷つけるつもりはなかった,③そして再び被害者の居室
前の通路に行き,呼び鈴を2回鳴らしたが,被害者が出てこなかったので,更にドアを2回たたいたところ,玄関横の
窓が開いて被害者が姿を見せたので「ええ加減にせえ。」と言って,ペテナイフの刃を上に向けて胸の辺りまで上げて
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被害者に見せたが,被害者は,騒音を発しているのは自分ではなく,上の住人である旨言ったことから,気が済んだの
で,自室へ帰ろうとし,被害者の居室の玄関の扉に背を向けた,④すると,突然被害者の居室の玄関が開き,振り向い
たところ,被害者が殴りかかってきて,左目付近を殴られた,⑤その後,頭は真っ白になり,被害者からの攻撃を防御
するため,ペテナイフを持った右手を振り回したが,被害者は更に自分の胸倉をつかんだり,殴ってきた,⑤被害者
は,自分の血を見てから,すぐに胸倉をつかむのをやめた。
 (3) しかし,被告人の検察官調書の供述内容(以下「被告人の検察官調書供述」という。)は,次の点で被告人の公
判供述と異なるものである。すなわち,前記①及び②の点については,被害者の居室の呼び鈴を一回鳴らし,被害者が
出てこなかったのでその場で待っていた際,被害者と素手でけんかをしても勝ち目がないので,刃物を使って被害者を
脅してやろうと考え,いったん自室に戻り,棚の上に置いてあったペテナイフを持ち出した,被害者に文句を言えば向
かってくるのではないかと思ったが,その場合には,被害者を刃物で切りつけるか刺すかしようと思っていた,前記⑤
の点については,被害者に左目付近を殴られたので,ペテナイフを持っている右手を自分の顔の前に振り上げて,被害
者の拳をかわした後,被害者を切りつけるために,ペテナイフを左上から右下に向かって勢いよく振り下ろした,ま
た,その瞬間,被害者の左脇腹が見えたことから,被害者の左脇腹にペテナイフを突き刺してやろうと思い,右手を水
平に振り回し,いわばボクシングのフックパンチのようにして被害者の左脇腹にペテナイフを突き刺したが,被害者は
更に自分の胸倉をつかんだり,殴ったりしてきたので,自分も夢中で被害者の上半身に向かってペテナイフを突き出し
たり,振り回したりした旨の供述となっている。
4(1)そこで,まず,被告人の公判供述のうち被告人の検察官調書供述と異なる部分の信用性について検討する。
  ア 被告人の公判供述のうち,ペテナイフで被害者を攻撃したのは被害者からの攻撃を防御するためであるという
点は,現行犯逮捕時の被告人の発言においてはもちろん,捜査段階における供述調書にも,逮捕後の警察署及び検察庁
における弁解録取書や勾留質問調書も含めて存在せず,特に,勾留質問調書には,殺すつもりはなかったことや被害者
から何発も顔を殴られたという旨の,被告人に有利な供述が比較的詳細に録取されているにもかかわらず,防御のため
の行為であった旨の供述は録取されていないこと,被告人自身も公判廷においてこのことを捜査段階において主張して
いたとは述べていないことからすると,公判に至って初めて供述するようになったものと認められるが,このような重
要な供述を公判に至って初めてするというのは不自然,不合理である。
  イ また,被告人の公判供述のうち,被害者を刺してやろうと思ったことはないという点は,前記のとおり,被害
者が被告人のペテナイフにより負った刺創のうち,左側胸部の刺創は長さ約3センチメートルに対して深さが約2セン
チメートル以上約4センチメートル以下,左下腹部の刺創は長さが約4センチメートルに対して深さは約2センチメー
トル以上約4センチメートル以下と推測されるものであり,いずれも創の長さに匹敵する深さの創ということができる
ところ,このような創は力の入れ方はともかく何らかの突き刺す行為がなければ生じないと考えられることからして,
客観的な状況と符合しないというべきであるし,また,現行犯逮捕時に「隣の男を刺したんや」,「この男を刺したん
や」と,被害者を刺したことを認める発言をしていることとも整合しない。
  ウ さらに,被告人の公判供述は,前記のとおり検察官調書供述とその重要部分において異なるものであるが,被
告人は,公判廷で検察官調書供述と異なる供述をするに至った理由について合理的な理由を説明していない。すなわ
ち,被告人は,同調書に署名押印した理由について,さっぱり分からないとか,検察官が殺意を認めるようにしつこく
言ってきたとか,やけくそであったなどと供述するが,①同調書には被告人が殺意を認めた供述は録取されていないこ
と,②同調書は,被告人にその原本を交付して閲読させながら検察官が調書の内容が表示されたパソコン画面を読み上
げる方法で読み聞かせた上で,被告人に訂正するところがないかを確認したところ,被告人が2点の訂正又は追加を申
し立てたので,その内容を録取した上で改めて検察官が読み聞かせ,かつ閲読させた上で被告人が署名押印しており,
被告人はその内容を十分理解した上で署名押印したものと認められること,③同調書は,弁護人がその作成以前に数回
接見し,供述調書の署名は拒否してもよい,違うところは違うと言い,訂正すべきところは訂正を申し立てるべきであ
る旨のアドバイスを受けていた状況の下で作成されたものであることからして,その説明は不合理というほかない。
  エ このほか,被告人の公判供述には,被告人が被害者に対してペテナイフを見せたのは被害者をペテナイフで脅
せば騒音がやむのではないかと考えたからである旨述べる一方で,ペテナイフを見せられた被害者が,騒音を発してい
ることを認めず,客観的に騒音がやむことが期待できる状況にはなかったにもかかわらず,それで気が済んだと思った
と述べるなど,不自然な点がみられる。
  オ 他方,被告人の検察官調書供述は,①被害者が先に被告人を殴ったのか,それとも被告人がいきなり被害者の
胸をペテナイフで刺したのかという点のほかは,被害者供述ともおおむね符合した内容であり,事件の客観的状況とも
特に矛盾する点はないこと,②現行犯逮捕時の供述,逮捕後の警察署及び検察庁における弁解録取書及び勾留質問調書
における被告人の供述とも,殺意の点を除いて特に矛盾はないこと,③被害者において被告人がいきなり刺してきたと
供述していることを知らされていながら,なお被害者が先に殴ってきたという,被告人にとって有利な供述が維持され
ているものであること,④被告人の自室にはペテナイフだけではなく,刺身包丁や文化包丁もあるのに,ペテナイフを
持ち出した理由について,刺身包丁や文化包丁を持ち出して被害者とけんかになれば被害者を殺してしまうのではない
かと思い,被害者を殺すのが目的ではなかったことからペテナイフを持ち出したという,殺意を否定する有力な根拠と
なるような供述が詳細に録取されていること,これらに加え,前記ウ②及び③の事情(同調書は,被告人が読み聞かせ
を受け,閲読し,訂正を申し立てた上で署名押印したものであり,被告人はその内容を十分理解した上で署名押印した
と認められること,また,弁護人のアドバイスを受けていた状況の下で作成されたものであること)からすれば,被告
人の公判供述に比べその信用性は高いといえる。
  カ このようにみると,被告人の公判供述のうち,被告人の検察官調書供述と異なる部分は信用できないというべ
きである。
 (2)次に,被告人の検察官調書供述と被害者供述の信用性について検討するが,両者の供述の主たる相違点は,被害
者が先に被告人の左目付近を殴ったのか(被告人の検察官調書供述),被告人が被害者の左側胸部をいきなり刺したの
か(被害者供述)という点にある。
   この点,①被告人は,被害者から騒音を立てられていると確信しており,被害者に対する恨みや憎しみを持って
いたが,直接被害者に対して文句を言うのをこらえていたことが認められ,被告人が当初から被害者を刺すつもりであ
ったとしても不自然ではないこと,②被害者は,被告人が呼び鈴を押した時点では寝ていたものであり,起きたばかり
の被害者が先に被告人を殴るという行動に出ることや,仮に被告人の供述するように被告人が被害者にペテナイフを見
せていたとすれば,それを認識した被害者が素手のまま自室から出てきて被告人を殴るという行動に出ることは,そう
起こりうることではないことなど,被告人が被害者の左側胸部をいきなり刺したことを推認させる事情も認められる。
   しかし,他方で,①被害者供述のように,全く刃物による攻撃を予期しておらず,動いていなかった被害者の左
側胸部に,ペテナイフが「スッと刺さった」のであれば,創の長さがペテナイフの刃の幅である約2センチメートルを
超える約3センチメートルであったことを説明しにくいこと,②被告人がペテナイフを見せたとしても,起床したばか
りである被害者がそれを正しく認識せずに,あるいは被告人よりも体格及び年齢で優位にある被害者において,被告人
からペテナイフを見せられたことに腹を立て,素手で制圧できると考えて被告人に殴りかかったとしても,不自然であ
るとはいえないこと,③被告人は,勾留質問においても,被害者から何発も顔を殴られたので被害者を刺した旨供述し
ており,また,前記のとおり被告人の検察官調書供述は,被害者において被告人がいきなり刺してきたと供述している
ことを知らされていながら,なお被害者が先に殴ってきたという供述が維持されているものであって,この点に関する
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被告人の検察官調書供述の信用性を直ちに否定することは困難であること,④被害者も,かねてから被告人が夜間騒音
を発していると思っており,平成15年3月の被告人と被害者の揉め事も,被害者が被告人の居室に苦情を言いに行っ
たことに端を発したものであることや,被害者も平成15年以降転居を希望していたことなどからすれば,被害者も被
告人に対して強い不満を抱いていた可能性が高いことも認められ,被告人が被害者の胸をいきなり刺したと認定するに
はなお合理的な疑いが残り,被告人の検察官調書供述のとおり,被害者が先に被告人の左目付近を殴った可能性がある
と認めるのが相当である。
5 以上によれば,まず,①被告人が被害者の左胸部及び左腹部を刺したこと及び②被告人に傷害の故意があったこと
については,上記4(1)のとおり信用できる被告人検察官調書供述から優に認定することができる。次に,③正当防衛又
は過剰防衛の成否については,前記のとおり,被告人の検察官調書供述にあるように被害者が先に被告人の左目付近を
殴った可能性があるものの,同供述によっても,被告人は,被害者が向かってきた場合には,被害者を刃物で切りつけ
るか刺すかしようと考えていたことが認められるのであって,被告人は,被害者からの加害行為を予期しつつ,その機
会を利用して被害者に対して積極的に加害する意思を持ち,その通りに被害者に対する傷害に及んだものであるから,
被告人の行為には,正当防衛における侵害の急迫性の要件が欠け,正当防衛又は過剰防衛が成立しないことは明らかで
ある。
(法令の適用)
1 罰条  刑法204条
2 刑種の選択  懲役刑を選択
3 未決勾留日数の算入  刑法21条
4 没収  刑法19条1項2号,2項本文
5 訴訟費用の不負担  刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,集合住宅の隣室に居住する被害者が騒音を発して嫌がらせをしていると考え,被害者をナイフで
刺して傷害を負わせた事案である。
 被告人は,十分な調査等を尽くさず,他の住民から被害者ではなく上の階の住民が騒音を発しているかもしれないと
の助言があったにもかかわらず,被害者が騒音を発していると思い込み,一方的に被害者に対する恨みや憎しみを募ら
せて本件犯行に及んだものであって,その動機は短絡的である上,鋭利な刃物を用いて被害者の胸部や腹部という身体
の枢要部を突き刺しており,一歩間違えば生命に対する危険を招来しかねない危険な犯行であって,被害者に与えた傷
害も全治まで約30日間を要する重大なものである。にもかかわらず,被告人は,本件について犯罪の成立を争い,被
害者に対する慰藉の措置も一切講じておらず,被害者の処罰感情が強いのも当然である。以上によれば,被告人の刑事
責任を軽くみることは到底できない。
 そうすると,他方で,本件において被害者は被告人に挑発されて先に被告人の左目付近を殴るという暴行を加えた可
能性があり,被害者にも落ち度が認められること,被告人は,犯行後近隣の住民に110番通報を依頼して深刻な結果
の発生の防止に努めていること,被害者に傷害を負わせたことについては後悔し,反省の態度を示していること,被告
人が原因はともかく長年騒音で苦しみ,精神的疲労を蓄積してきたことは事実であること,前科,前歴はなく,現在7
1歳と高齢であること,既に3か月以上身柄を拘束されていることなど,被告人のために酌むべき事情を十分に考慮し
ても,刑の執行を猶予するのは相当ではなく,主文のとおりの実刑は免れないところである。
(求刑-懲役2年6月、ペテナイフの没収)
平成18年5月10日
神戸地方裁判所第2刑事部
裁 判 官   岩崎邦生
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