弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
処分行政庁が平成16年9月13日付けでした原告の平成15年分の所得税
の更正処分のうち納付すべき税額11万2500円を超える部分を取り消す。
第2事案の概要
本件は,破産宣告を受けたA株式会社(以下「A」という。)の株式を譲渡
した原告が,これにより株式等に係る譲渡所得の金額の計算上損失が生じたと
して平成15年分の所得税を申告したところ,処分行政庁から上記損失を否認
され増額更正処分を受けたことから,その一部の取消しを求める事案である。
1法令の定め
所得税法33条1項は,譲渡所得について,資産の譲渡による所得をいうと
規定している。
租税特別措置法(平成15年法律第54号による改正前のもの)37条の1
0第1項は,居住者等が平成元年4月1日以後に株式等の譲渡をした場合に
は,当該株式等の譲渡による譲渡所得等については,所得税法22条,89
条,165条の規定にかかわらず,他の所得と区分し,その年中の当該株式等
の譲渡に係る譲渡所得等の金額として政令で定めるところにより計算した金額
に対し,株式等に係る課税譲渡所得等の金額の100分の20に相当する金額
に相当する所得税を課する旨を規定している。
2前提となる事実(証拠等によって認定した事実については,末尾に当該証拠
等を掲記した。その余の事実は当事者間に争いがない。)
()原告は,平成8年7月10日,A株式5000株を360万5668円1
で買い,平成9年4月8日,A株式1万株を315万2109円で買った。
(弁論の全趣旨)
()Aは,平成9年11月24日,自主廃業に向けて営業を休止することを2
決定し,平成10年3月27日,その株式の上場が廃止され,同月31日,
Aのすべての支店が閉鎖された。
Aは,平成11年6月1日,東京地方裁判所に対し,破産を申し立てると
ともに,同年5月21日時点における債務超過額が1602億円であると発
表した。
Aは,同年6月2日午前10時,破産宣告を受け,平成17年1月26
日,破産終結の決定を受けた。
(甲2,乙2∼6)
()原告は,平成15年6月30日,Bに対し,A株式1万5000株を13
500円(1株当たり0.1円)で譲渡した(以下,この譲渡を「本件譲
渡」という。)。
()原告は,平成16年3月15日,処分行政庁に対し,平成15年分の所4
得税について,別紙1「確定申告」欄のとおり申告した。原告は,同申告に
おいて,上記()の譲渡により株式等に係る譲渡所得の金額の計算上損失が3
生じたとして,これを他の株式に係る譲渡益の金額から控除し,株式等に係
る譲渡所得の金額を,別紙2「申告額」欄のとおり計算していた。
()処分行政庁は,平成16年9月13日付けで,原告に対し,別紙1「更5
正処分」欄のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。本
件更正処分においては,上記()の譲渡による損失は,株式等に係る譲渡所3
得の金額の計算上生じた損失と認められず,原告の平成15年分の所得税の
課税標準及び納付すべき税額は,次のとおり算定された。なお,本件譲渡に
よる損失が,株式等に係る譲渡所得の金額の計算上生じた損失と認められな
い場合の税額が,次のとおり計算されることは,当事者間に争いがない。
ア課税総所得金額(申告額と同額)0円
イ株式等に係る譲渡所得等の金額914万6254円
別紙2「更正処分額」欄の「差引金額」欄の「総合計」欄のとおり
ウ所得控除の合計額(申告額と同額)38万円
エ株式等に係る課税譲渡所得等の金額876万6000円
上記イの金額から上記ウの金額を控除し,1000円未満の端数を切り
捨てた金額
オ株式等に係る課税譲渡所得等の金額に対する税額61万3620円
上記エの金額に税率7%を乗じた金額
カ納付すべき税額49万0800円
上記オの税額から定率減税額12万2724円を控除し,100円未満
の端数を切り捨てた金額
3争点
()本件更正処分のうち申告額以下の部分の取消しを求める訴えの利益の有1

(争点1)
()本件更正処分の適否(争点2)2
4争点に関する当事者の主張
()争点1(本件更正処分のうち申告額以下の部分の取消しを求める訴えの1
利益の有無)について
(被告の主張)
原告は,本件更正のうち納付すべき税額11万2500円を超える部分の
取消しを求めているから,納付すべき税額として申告した17万2900円
以下の部分の取消しをも求めている。納税者が自ら行った申告によりいった
ん確定した課税標準,税額等を自己に有利に変更するためには,国税通則法
23条等に定める更正の請求によらなければならないところ,原告は,上記
申告をした後,更正の請求を行っていないから,申告による納付すべき税額
以下の部分を争う訴えの利益はない。
したがって,本件訴え中,本件更正のうち納付すべき税額17万2900
円以下の部分の取消しを求める部分については,訴えの利益を欠き,不適法
である。
(原告の主張)
原告は,平成15年分の所得税の納付すべき税額を17万2900円とし
て申告したが,税額の算定において,定率減税額を控除せず,また,株式の
譲渡費用に計上すべき消費税分が漏れていた。処分行政庁は,本件更正処分
において,これらの点についても更正した。原告は,本件更正処分がA株式
に係る譲渡損失を否認した点を不服とするものであり,この主張が認められ
れば,納付すべき税額は11万2500円となる以上,被告の本案前の主張
は失当である。
()争点2(本件更正処分の適否)について2
(被告の主張)
Aが破産宣告を受け,多額の債務超過の状態にあり,再建される蓋然性が
認められるという特段の事情も見いだし難い状況の下においては,A株式
は,その法的性質はともかく,株式としての経済的価値を喪失していたとみ
るほかない。
本件譲渡は,株式としての経済的価値を喪失した記念株券の譲渡であり,
「株式等の譲渡」に該当しないから,この譲渡に租税特別措置法(平成15
年法律第54号による改正前のもの)37条の10第1項の適用はない。
(原告の主張)
株式は,会社の持分であり,株主有限責任の原則等の株式の根本的性格か
らすると,破産会社の株式といえども,また,当該会社が債務超過であって
も,譲渡は可能であり,清算が結了するまで,株主の権利は失われないか
ら,それまでは,株式は譲渡所得の基因となる資産としての性質を失わな
い。BがA株式をコレクション目的で買ったからといって,株式の譲渡とし
ての性格が否定されるものではなく,これによって,Bがコレクションとい
う目的を遂げたにすぎない。
したがって,本件譲渡により,株式等に係る譲渡所得の金額の計算上損失
が生じているにもかかわらず,これを否認した本件更正処分には違法があ
る。
税法上明らかな規定がないのに,実際に行われた株式の譲渡を否認するこ
とは,租税法律主義(憲法84条)に反する。税法に規定がないのに債務超
過や破産宣告という条件を持ち出して,A株式を無価値だったとすること
は,他の事例と整合性が取れず,税務当局の恣意的運用を認めるもので,憲
法14条に違反する。
第3争点に対する判断
1争点1(本件更正処分のうち申告額以下の部分の取消しを求める訴えの利益
の有無)について
申告後に増額更正処分がされたとしても,そのことによって,納税義務者が
申告を行った事実が消滅するわけではなく,申告によって生じた効果は,上記
増額更正処分の中に吸収された形で引き継がれ,引き続き存続すると解され
る。そして,申告納税制度の下において,納税義務者がその申告の誤りを是正
するためには,所定の期間内に更正の請求をすべきことが要求されており(国
税通則法23条),この更正の請求の方法によらずに申告の誤りを是正するこ
とは,申告の錯誤が客観的に明白かつ重大であって法の所定する方法以外にそ
の是正を許さなければ納税義務者の利益を著しく害すると認められるなどの特
段の事情が存する例外的な場合に限られるというべきである(最高裁昭和38
年(オ)第499号同39年10月22日第一小法廷判決・民集18巻8号1
762頁)。
しかし,上記特段の事情の存在は,増額更正処分のうち申告に係る納付すべ
き税額の部分の取消しを求めるための訴訟要件であるとは解されず,同部分の
取消事由となる違法が上記特段の事情がある場合に制限されるにすぎないか
ら,本件訴え中,本件更正処分のうち申告額以下の部分の取消しを求める部分
も,適法な訴えと解すべきである。
2争点2(本件更正処分の適否)について
()譲渡所得に対する課税は,資産の値上がりによりその資産の所有者に帰1
属する増加益を所得として,その資産が所有者の支配を離れて他に移転する
のを機会にこれを清算して課税する趣旨のものであるから(最高裁昭和41
年(行ツ)第102号同47年12月26日第三小法廷判決・民集26巻1
0号2083頁,最高裁昭和47年(行ツ)第4号同50年5月27日第三
小法廷判決・民集29巻5号641頁),譲渡所得の基因となる資産は,一
般にその経済的価値が認められて取引の対象とされ,上記増加益(キャピタ
ル・ゲイン)又はキャピタル・ロスを生ずるような性質の資産をいうものと
解される。
そして,株式とは,株式会社の社員である株主の地位を割合的単位の形式
にしたものであり,原則として自由に譲渡され,株主においては,利益配当
請求権,残余財産分配請求権等の自益権や株主総会における議決権等の共益
権を有することから,株式は,上記権利を基礎として一般にその経済的価値
が認められて取引の対象とされ,キャピタル・ゲイン又はキャピタル・ロス
を生ずるような性質のものとして,譲渡所得の基因となる資産に当たるもの
と解される。
ところで,株式会社が破産宣告を受けて解散した場合には,破産の目的の
範囲内において存続するものとみなされるから(旧破産法(平成16年法律
第75号による廃止前のもの)4条),破産宣告によって,法的に株主の地
位が失われるものではない。しかし,株式会社の破産宣告は,支払不能又は
債務超過を破産原因としてされるものであり(同法126条,127条1
項),その一切の財産は破産財団となり(同法6条),破産財団の管理処分
権は破産管財人に専属し(同法7条),株主は,株式会社の全財産が弁済さ
れた後でなければ,残余財産の分配を受けることができない(商法(平成1
7年法律第87号による改正前のもの)131条,430条1項)ことから
すると,破産宣告を受けた株式会社の株主が,利益配当,残余財産分配等を
受けることを目的とする自益権及び株式会社の意思決定に参画することを目
的とする共益権を現実に行使し得る余地は,一般的にはなくなるというべき
である。そうすると,破産宣告を受けた株式会社の株式は,その後同社が再
建される蓋然性があるなど特段の事情が認められない限り,自益権や共益権
を基礎とする株式としての経済的価値を喪失し,もはや,キャピタル・ゲイ
ン又はキャピタル・ロスを生ずるような性質を有する譲渡所得の基因となる
資産ではなくなるものといわざるを得ない。
このような解釈は,破産手続開始決定等により個人の有する株式が株式と
しての価値を失ったことによる損失は通常税制上の損失と扱われないことを
前提として,平成17年度の税制改正において創設された特定管理株式に係
る規定(租税特別措置法37条の10の2)が,譲渡所得等の課税の特例を
定めていることに沿うものということができる。
()これをA株式についてみるに,前記のとおり,Aは,平成9年11月22
4日に自主廃業に向けて営業を休止することとなり,平成10年3月27日
には株式の上場が廃止されてその市場流通性がなくなり,平成11年6月2
日に破産を宣告されたが,同年5月21日時点における債務超過額は160
2億円であったというのである。そして,前記のとおり,Aは,平成17年
1月26日に破産終結の決定を受けたが,証拠(乙6)によれば,その時点
において,日本銀行がAに対して実施していた特別融資のうち約1111億
円が回収不能となる債務超過の状態にあったことが認められる。そうする
と,破産宣告後のAについて,本件譲渡の当時再建される蓋然性があるなど
前記の特段の事情を認めることはできないから,同時点においては,Aの破
産宣告により,A株式は,自益権や共益権を基礎とする株式としての経済的
価値を喪失していたというべきである。
そして,証拠(乙7,8)によれば,原告からA株式を譲り受けたBは,
A株式に資産価値がなく,株式市場で流通するものでないことを認識してお
り,趣味として切手や宝くじを収集しているのと同様に,破産した会社の株
券を記念として買ったことが認められるところ,この事実も,A株式が上記
経済的価値を有するものとして譲渡されていないことを裏付けるものという
ことができる。
したがって,本件譲渡に係るA株式については,既に自益権や共益権を基
礎とする株式としての経済的価値が失われ,もはや,譲渡所得の基因となる
資産としての株式ではなくなっており,単に好事家が記念品としての価値を
認める株券として譲渡されたにすぎないというべきである。
()以上によれば,本件譲渡による損失が,株式等に係る譲渡所得の金額の3
計算上生じた損失と認められないとして行われた本件更正処分に違法はない
というべきである。
この解釈は,明文の租税法規を合理的に解釈,適用した結果であるから,
憲法84条,14条違反をいう原告の主張は,前提を欠き,採用することは
できない。
第4結論
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとお
り判決する。
千葉地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官堀内明
裁判官阪本勝
裁判官佐々木清一

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