弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、本件を高松高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人弁護士島崎鋭次郎の上告理由二について、
 所論の点に関し、原判決が当事者間に争のない事実及び挙示の証拠によつて認定
した事実に基づいて確定した事実によれば、被上告人は上告人に対し昭和三元年一
月頃自己所有の本件山林の売却方の斡旋を依頼し、同時に右斡旋の報酬として、も
し代金一八〇万円で売れた場合には金二〇万円を、金二〇〇万円で売れた場合には
金三〇万円を、それ以上に売れたときは三〇万円とその超過額を与える外上告人が
予て被上告人に負担していた金一〇万円の借入金債務を免除する旨の停止条件付契
約を締結したところ、他方において被上告人は昭和三一年九月二二日頃本件山林を
訴外Dに対し代金一六五万円で売却して了つたというのである。してみれば、上告
人の前示斡旋事務の処理は、その事務の進行の程度如何にかかわらず、被上告人の
Dに対する右の売却に因り履行不能に陥つたものと解すべきであるから、被上告人
は故意に前示停止条件の成就を妨げたものと云わなければなない。尤も、原判決は
挙示の証拠により、被上告人は右の売却交渉中四回にわたりその妻女を上告人方に
遣わし「九州から本件山林を買いに来ており、その返事をしなければならないから
来てくれ」と伝え、上告人が来れば九州の買手のことを話し相談する下心であつた
が、上告人において来会しなかつたので、遂に相談ができなかつたとの事実を認定
しているが、そのような一事があつたからといつて、さきに前示のような停止条件
付契約を締結し右条件の存在することを熟知していたであろう被上告人としては、
右条件の成就を妨げる故意がないものということはできない。果して然らば、上告
人において右条件が成就したものと看做し得べく、且つ被上告人において前示斡旋
の依頼(準委任契約)の解約を申入れた等の主張且つ立証のない本件に在つては、
被上告人は上告人に対し報酬として少くとも金三〇万円の支払義務を免れないと同
時に前示債務免除の特約もその効力を生じたものと云わざるを得ない。原判決は、
上叙の関係に毫末も思を致さず、極めて安易に、被上告人が本件山林を売却したこ
とを以て前示停止条件の成就を故意に妨げたものとは認めることはできないといつ
ているのであつて、右は審理不尽、理由不備の非難を免れないばかりでなく、判決
に影響するところの重要な法令に違反しているものと言わざるを得ず、本論旨は結
局理由あるに帰する。
 同三について、
 原判決の確定した事実認定のもとでは、上人告は前掲停止条件が成就すれば取得
したであろう報酬金貰受の権利を失うに至つた外、免除されたであろう債務を免除
されなくなつたのであり、右は被上告人の故意に因るものと認めざるを得ないこと
は前段説示のとおりであるから、被上告人は上告人の有するいわゆる期待権を故意
に侵害した不法行為の責を免れないものと云わなければならない。原判決は、この
場合被上告人に過失がなかつた旨を種々論述しているが、故意による不法行為の成
立する場合過失の有無は問題とするに足りないこと多弁を俟たないところであるか
ら、他に首肯するに足る何等かの特段な事情の説明のない限り、不法行為を云為す
る上告人の予備的主張はこれを容認せざるを得ないものと考える。すなわち、原判
決には以上の点においても、審理不尽、理由不備ないし判決に影響ある重要な法令
違反の瑕瑾あるものであつて、本上告論旨も亦理由あるに帰する。
 然らば、原判決は、爾余の論点について審及するまでもなく、破棄を免れないか
ら、当裁判所は本件を原審に差戻して更に慎重審議をさせるのを相当と認め、民訴
四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    斎   藤   朔   郎
            裁判官    長   部   謹   吾

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