弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件各控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1各控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人の請求を棄却する。
3訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1事案の要旨
(1)被控訴人は,控訴人(補助参加人)A工業株式会社(以下「参加人」と
いう)の元従業員2名及び死亡した元従業員の妻1名(合計3名)が加。
入する労働組合である。
⑵被控訴人は,参加人に対し,参加人における石綿使用実態を明らかにす
ることなどを求めて,団体交渉に応じるよう求めたが,参加人はこれを拒
否した。
⑶そこで,被控訴人は,処分行政庁である兵庫県労働委員会(以下「兵庫
県労委」という)に対し,不当労働行為の救済申立てを行った。。
⑷兵庫県労委は,平成19年7月5日付けで,上記救済申立てを却下する
旨の決定(以下「本件決定」という)をした。。
⑸被控訴人は,本件決定の取消しを求めて提訴した。
これに対し,控訴人兵庫県(以下「控訴人」という)及び参加人は,。
被控訴人に加入する参加人の元従業員らはいずれも労働組合法(以下「労
組法」という)7条2号の「使用者が雇用する労働者」に該当せず,本。
件決定に違法はないと主張した。
2訴訟経緯
⑴原審裁判所は,上記「使用者が雇用する労働者」とは,基本的に,使用
者との間に現に労働契約関係が存在する労働者をいうと解されるが,労働
契約関係が存在した間に発生した事実を原因とする紛争に関する限り,当
該事実発生時点において,たとえ紛争が顕在化していなくても,客観的に
は,団体交渉その他の手段により,正常化すべき労使関係の「ほころび」
が発生しており,このような労使関係の「ほころび」は,使用者がその判
断によって解決することのできるものであるから,当該紛争が顕在化した
時点で当該労働者が既に退職していたとしても,なお未精算の労働契約関
係が存在すると理解し,当該労働者も「使用者が雇用する労働者」である
と解するのが相当であるとして,本件決定を取り消した。
⑵これに対して,控訴人及び参加人が本件控訴を提起した。したがって,
当審における審判の対象は,本件決定の当否である。
3争いのない事実等
原判決2頁16行目から同3頁末行までに記載のとおりであるから,これ
を引用する。
4争点
参加人の元従業員2名(B,C)及び死亡した元従業員(D)の妻(E)
が労組法7条2号の「使用者が雇用する労働者」に該当し,参加人は,被控
訴人に対して団体交渉応諾義務を負うか。
5争点に関する当事者の主張
原判決4頁5行目から同8頁4行目までに記載のとおりであるから,これ
を引用する。
6当審における当事者の補充主張
【控訴人】
⑴原判決の「ほころび」論について
労使紛争の原因となる事実が発生した場合に生じた「労使関係のほころ
」,,,びは当該事実発生時点においてたとえ紛争が顕在化していなくとも
団体交渉その他の手段により,正常化すべきものであるとの原審判断は,
労使紛争の原因となる事実が発生した時点では,労使関係の当事者である
労働組合がまだ存在していないのであるから,単なる結果論を述べている
にすぎない。また,このような「ほころび」は,使用者がその判断によっ
て解決することはできないから,使用者の判断によって解決することがで
きるものであるとの原審判断は誤っている。原審判断に従えば,元使用者
は,事実上,常に団体交渉に応じる義務があることになり,不当である。
⑵参加人の団体交渉応諾義務について
団体交渉とは,労働組合が,その代表者を通じて将来的な労働者の待遇
又は労使関係上のルールについて合意を形成するために,使用者の代表者
と行う交渉であり,明確な目的及び必要性の下に実施されるものである。
しかし,原判決は,どのような「ほころび」が,どのようにして顕在化し
たかについては全く言及していない。
Cについて,健康管理手帳(石綿)が交付されたが,同手帳は,石綿に
よる健康被害の特殊性から,離職後の健康管理を行う目的で交付されるも
のであって,具体的な石綿に係る病像の発現が要件ではないし,石綿を直
接取り扱う作業に継続して従事していたことについても本人の申立書と2
名以上の同僚の証明書で足りるものであるしたがって健康管理手帳石。,(
綿)が交付されたからといって,直ちに肺がんや中皮腫などに罹患する具
体的危険が認定されたとまではいえないから,Cについて団体交渉を求め
ることができる特別な事情があるとは認められない。
【参加人】
(1)原判決の「ほころび」論について
原審の判断は,労組法7条2号の文言を全く無視したものであり「ほ,
ころび」の具体的内容も全く明らかではない。原審の判断に従えば,ひと
たび雇用関係が発生すれば,その時期いかんにかかわらず,使用者は無期
限,無制限に団体交渉義務を負うことになって,団体交渉の基本原則に明
らかに反する。そもそも,労働契約が終了して長期間経過後に紛争が顕在
化した場合には,権利侵害を受けた労働者は存しても,その時点では労使
関係の当事者としての立場に立つ労働組合,すなわち,労働契約関係にあ
る労働者の代表者となる労働組合は存在しない(労働契約が終了して長期
間経過後に初めて登場した労働組合は,原則として,労使関係の当事者の
立場には立ち得ない。。)
(2)参加人の団体交渉応諾義務
労組法は,労働契約関係が終了した後は,同関係があった間に生じた労
働条件に関する紛争はもとより,その間に発生した事実を原因とする紛争
について,団体交渉を通じて改善ないし解決を図ることを予定していない
というべきである。そのように解したとしても,当該労働者と使用者間の
個別の権利義務の紛争として最終的に司法手続によって解決が図られるか
ら,当該労働者の権利保護ないし権利行使が制限されるというものではな
い。これまでの裁判例において,解雇が争われている場合など特別の事情
がないのに,使用者には,一般的・原則的に,退職した労働者が加入する
労働組合に対して団体交渉応諾義務があるとした例はない。もっとも,労
働契約が締結されていなくとも,実質的な労務提供を受け,現にその労働
者の基本的な労働条件等について雇用主と部分的にもせよ同視できるよう
な支配関係があれば,労働契約に「近似」する関係があるとして,当該労
働者が上記労組法7条2号の「使用者が雇用する労働者」と認める余地は
ある。また,雇用関係終了後の後始末的な紛争についても,雇用関係終了
時に紛争が既に発生していたと認められ,団体交渉申入れが雇用関係終了
時に近接した合理的期間内にされるなどの要件が満たされれば「使用者,
が雇用する労働者」と解される余地はあるが,これを超えて,元の使用者
に団体交渉応諾義務を認めることはできない。本件の場合は,これらの要
件を欠くから,参加人に団体交渉応諾義務はない。
【被控訴人】
(1)原判決の「ほころび」論について
原判決は,労使紛争の原因事実の発生時点において,直ちに労使関係を
正常化すべきことを求めているのではなく,紛争が顕在化した時点におい
て退職した労働者も団体交渉等の手段によって未精算の労働契約関係ほ,(「
ころび)を正常化し,これを精算することができると判示するものであ」
る。控訴人及び参加人の主張は,原審判決を理解しないもので,失当であ
る。
労働契約関係が終了した後であっても,労組法上の労使関係は存在する
ことがあり,現に労働契約関係にない労働者が加入した労働組合に対する
団体交渉拒否が不当労働行為に該当することはあり得る。解雇の撤回や退
職条件を争う退職労働者を「使用者が雇用する労働者」であると解するの
,,は憲法28条を背景とした労組法7条2号の解釈の当然の帰結であって
特別の保護を付与するというものではない。
⑵参加人の団体交渉応諾義務について
労働者は,石綿疾患に罹患する具体的危険が発生していなくても,使用
者に対して,団体交渉を求めることができる。もっとも,Cらは,健康管
理手帳(石綿)の交付を受け,健康診断でも異常を指摘されているから,
上記具体的危険が既に発生している。
第3当裁判所の判断
1事実経緯等について
原判決8頁7行目から同12頁1行目までに記載のとおりであるから,こ
れを引用する。
2「使用者が雇用する労働者」の意義ないし使用者の団体交渉応諾義務につ
いて
(1)労組法の予定する団体交渉とは,使用者が,その雇用する労働者の属す
る労働組合の代表者と,労働者の待遇及び労使関係上のルールについて合
意を得ることを目的として行う交渉であると解される(労組法1条1項,
6条,7条2号,14条等の規定参照。そして,労組法7条2号は,使)
用者がそのような団体交渉を正当な理由なく拒むことを不当労働行為とし
て禁じているのであり,団体交渉を通じて正常な労使関係が樹立されるこ
とを目的としているといえる。そうすると,同号にいう「使用者が雇用す
る労働者」とは,原則的には,現に当該使用者が「雇用」している労働者
を前提としているものと解される。
もっとも,現実に派生する労働条件等を巡る問題は様々であり,雇用関
係の前後にわたって生起する場合もあり(雇い入れが反復される臨時的労
働者の労働条件を巡る紛争,解雇後,解雇の効力に争いがある場合や退職
条件・賃金等の労働条件の紛争がある場合など,そのような例において)
は,当該労働者を「使用者が雇用する労働者」と認めて,その加入する労
働組合と使用者との団体交渉を是認することが,むしろ上記労組法の趣旨
に沿う場合が多いと考えられる。
他方,雇用関係終了後,雇用関係にあった者が労働組合に加入して,雇
用関係存続中の労働条件に関して使用者であった者に対して団体交渉申入
れがされた場合,無限定に団体交渉応諾義務を是認すれば,かえって無用
な紛糾を生じ,団体交渉を通じた正常な労使関係の樹立という上記労組法
の趣旨に背馳する結果となる場合があるといえる。
(2)そこで,上記の点を検討するに,団体交渉を通じ,労働条件等を調整し
て正常な労使関係の樹立を期するという上記労組法の趣旨からすれば,使
用者が,かって存続した雇用関係から生じた労働条件を巡る紛争として,
当該紛争を適正に処理することが可能であり,かつ,そのことが社会的に
も期待される場合には,元従業員を「使用者が雇用する労働者」と認め,
使用者に団体交渉応諾義務を負わせるのが相当であるといえる。その要件
としては,①当該紛争が雇用関係と密接に関連して発生したこと,②使用
者において,当該紛争を処理することが可能かつ適当であること,③団体
交渉の申入れが,雇用関係終了後,社会通念上合理的といえる期間内にさ
れたことを挙げることができる。そして,上記合理的期間は,雇用期間中
の労働条件を巡る通常の紛争の場合は,雇用期間終了後の近接した期間と
いえる場合が多いであろうが,紛争の形態は様々であり,結局は,個別事
案に即して判断するほかはない。
3参加人の団体交渉応諾義務について
B及びCは,参加人との雇用関係が存在した間に,その業務に従事したこ
とによって石綿を吸引したことにより,健康被害が発生している可能性があ
ると主張し,参加人に対し,石綿の使用実態を明らかにするとともに,石綿
による被害が生じている場合にはその補償を求めている。両名は,悪性中皮
腫に罹患して死亡したDと同様に石綿暴露の可能性のある業務に従事してい
たもので,参加人の業務に従事したことによって,健康被害が発生している
可能性があり,Cは健康管理手帳(石綿)の交付を受けていることからする
と,本件は,従来の雇用関係と密接に関連して発生した紛争であるというこ
とができる。
また,上記のことからすれば,参加人は,石綿の使用実態を明らかにした
り,健康被害の診断,被害発生時の対応等の措置をとることが可能であり,
かつ,それが社会的にも期待されるといえる。
次に,本件の団体交渉申入れが合理的期間内にされたといえるかを検討す
るに,上記認定の事実経緯によれば,石綿関連疾患は非常に長い潜伏期間が
あり,長期間経過した後に症状が発生するものであること,Eは平成17年
7月にB及びCを代理人として,参加人に対し,Dの職場歴と胸膜悪性中皮
腫との関係を調査してくれるよう依頼したこと,当初,参加人は,Dの悪性
中皮腫と業務との関係は不明であると主張していたこと,厚生労働省が平成
18年に作成した手引きにおいては,B及びCが従事していた業務で使用し
たタルクに不純物として石綿が混入している場合があると指摘されているこ
と,同年10月6日にB,C及びEが被控訴人に加入して分会を結成し,参
加人に対し,団体交渉を求めたことなどの事情が認められる。
このような事情からすれば,B及びCが参加人を退職してから相当の期間
が経過しているものの,その責をBらに帰することは酷であり,石綿被害の
特殊性を考慮すれば,社会通念上,合理的期間内に団体交渉の申入れがされ
たと解するのが相当である。
したがって,B及びCは,労組法7条2号の「使用者が雇用する労働者」
であり,被控訴人は上記両名を代表する労働組合と解するのが相当であり,
本件に関し,参加人には団体交渉を拒否する正当事由があると認めることも
できない(なお,証拠〔甲16,17〕及び弁論の全趣旨によれば,参加人
は,平成19年3月14日から石綿健康診断を実施し,同年4月1日から,
石綿災害特別補償制度を施行したことが認められる。しかし,これらの施行
によって,B及びCの参加人に対する要望がすべて満たされたかどうかは明
らかではなく,団体交渉拒否の正当事由が具備したとまでは認めるに足りな
い。したがって,参加人には団体交渉応諾義務があるというべきである。。)
なお,Dの遺族であるEに関し,参加人が被控訴人との団体交渉応諾義務
を負わないことは原判決説示(原判決13頁10行目から14行目まで)の
とおりである。
4以上のとおりであって,原判決は結論において相当であり,本件各控訴は
いずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官赤西芳文裁判官小野木等裁判官久保井恵子)

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