弁護士法人ITJ法律事務所

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○ 主文
本件各訴をいずれも却下する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告ら
1 被告が、昭和五四年一二月、訴外日本航空株式会社に対してなした新潟-小松
-ソウル間を路線とする定期航空運送事業の免許処分を取消す。
2 被告が、昭和五四年一二月、訴外全日本空輸株式会社に対してなした新潟-仙
台間を路線とする定期航空運送事業の免許処分を取消す。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
1 本案前の答弁
主文同旨
2 本案に対する答弁
(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 本案前の答弁の理由
原告らは本訴において、新潟空港の運用により生ずる航空機発着に伴う騒音等によ
りその生活利益を侵害されていると主張して、請求の趣旨にかかる各免許処分(以
下「本件各処分」という)の取消を求めている。しかしながら、本件各処分の根拠
法規である航空法第一〇一条の規定は、原告らの個人的な生活上の利益をその保護
の対象たる利益としていないことは明らかである。
従つて、原告らは本件各処分の取消を求めるにつき行政事件訴訟法第九条所定の
「法律上の利益」を有するものではなく、原告らが本件各訴について原告適格を欠
くことは明らかであるから、本件各訴は不適法として却下されるべきである。
二 本案前の答弁の理由に対する原告らの反論
一般に、行政作用は私法上の法律行為と異なり、社会的作用として広く公共的影響
力を及ぼすものが多く、第三番からめ出訴が許されることは当然であつて、とりわ
け本件各処分のごとく、訴外日本航空株式会社(以下「日本航空」という)及び訴
外全日本空輸株式会社(以下「全日空」という)が受益者として享受する必然の結
果として、原告らの人格権等が著しく侵害されている以上、原告らに本件各処分の
適法性の審査を求める適格性があることは歴然としている。
三 請求原因
1 原告らは、いずれも新潟空港の水平表面下に居住し、新潟空港の施設の運用に
伴つて生ずる航空機騒音のため、健康を害され、会話、ラジオ、テレビの視聴を妨
害される等その生活利益を侵害されている者たちである。
2 被告は、日本航空に対し、昭和五四年一二月、新潟-小松-ソウル間を路線と
する定期航空運送事業の免許処分をなし、同月、全日空に対し、新潟-仙合間を路
線とする定期航空運送事業の免許処分をなした。
3 本件各処分は次の各点においていずれも違法なものである。
(一) 定期航空運送事業の免許基準の一つとして航空法第一〇一条第一項第三号
は「事業計画が経営上及び航空保安上適切なものであること」を掲げているとこ
ろ、本件各定期航空運送事業に供される飛行場である新潟空港は被告設置にかかる
ものであるが、同空港は次のとおり違法な施設である。そのような施設の供用を前
提とする本件各定期航空運送事業は右航空法の規定にいう航空保安上適切なもので
ないことはいうまでもない。
公共の用に供する飛行場は、航空法第四六条の規定に基づいて告示された供用開始
期日以降でなければその施設を供用することができないにもかかわらず、被告は以
下のとおり、新潟空港の着陸帯B及び滑走路Bをその告示した供用開始期日以前か
ら違法に供用してきた。
(1) 勧告が新潟空港に補助滑走路Bを設置し、昭和三八年運輸省告示第三二八
号により、これを供用開始したのは昭和三八年一〇月一日である。右時点での着陸
帯B及び滑走路Bの現格は次のとおりである。
着陸帯B  長さ  一、三二〇メートル
幅     一五〇メートル
滑走路B  長さ  一、二〇〇メートル
幅      三〇メートル
(2) 被告は、昭和四六年一〇月九日運輸省告示第三五九号をもつて、第一期な
いし第三期の三回にわたり着陸帯Bに変更を加えることを告示した。同告示によれ
ば、着陸帯Bにつき次のとおり変更が加えられ、その供用開始が予定されるものと
されていた。すなわち
(第一期)
等級  D級
区域  長さ    一、六二〇メートル
幅     一五〇メートル
供用開始予定期日  昭和四七年四月一日
(第二期)
等級  C級
区域  長さ    二、〇二〇メートル
幅     一五〇メートル
供用開始予定期日  昭和四七年一〇月一日
(第三期)
等級  C級
区域  長さ    二、〇二〇メートル
幅     三〇〇メートル
供用諸始予定期日  昭和四八年六月一日
(3) そして、被告は、昭和四七年三月三一日、運輸省告示第一〇五号をもつ
て、次のとおり変更された着陸帯B及び滑走路Bにつきその供用開始期日を同年四
月一日とする旨告示した。
着陸帯B  等級 D級
長さ 一、六二〇メートル
滑走路B  長さ 一、五〇〇メートル
幅      四五メートル
(4) しかしながら、被告は、前記告示第三五九号を告示するより前の昭和四四
年中には、前記告示第一〇五号で告示された変更工事を完了していたのみならず、
着陸帯Bの幅のごときは既に三〇〇メートルに拡幅されていたものであり、昭和四
五年一月には実際にこれら変更された着陸帯B及び滑走路Bの供用が開始されてい
た。なお、滑走路Bについても長さ、幅の外、強度を単車輪加重で八・五トンから
二四・〇トンに強化する変更が加えられており、変更というより新設に等しいもの
である。
(5) 以上のように、変更後の着陸帯B及び滑走路Bは前記告示第一〇五号によ
り告示された供用開始期日以前に供用が開始された違法な施設に外ならない。
(二) また、新潟空港の着陸帯A及び同Bとも非計器用であるにも拘らず、被告
は、昭和四八年六月から、日本航空等の定期航空運送事業者に対し、同空港を使用
し、中型ジエツト旅客機を機材とする定期航空運送事業の免許処分をなすととも
に、計器飛行を必要とする右旅客機の離着陸の許可処分をなし、着陸帯Bを計器用
に供用している。被告の右行為は明らかに違法であり、このように違法な行為によ
つて機能している同空港を供用する本件定期航空運送事業に対してなされた本件各
処分もまた違法なものである。
4 更に、日本航空に対する本件処分は、次の各点において違法なものである。
(一) 航空法第一〇一条第一項第一号は、定期航空運送事業の免許基準として、
「当該事業の開始が、公衆の利用に適応するものであること」を掲げているが、そ
こにいう公衆の利用が公序良俗に反するものであつてならないことは言うまでもな
い。しかるところ、日本航空に免許が与えられた本件定期航空運送事業の路線は、
従前日本航空が臨時に運行していた新潟-ソウル間を小松経由としたものであると
ころ、右旧路線の利用客のほとんどは、いわゆる「買春」を目的とする「韓国ツア
ー」の団体客であつたものであり右臨時便を定期便に格上げしたものにすぎない日
本航空の本件定期航空運送事業は、公衆の公序良俗に反する利用に供するものとし
てその利用に適応しないものである。
(二) 次に、航空法第一〇一条第一項第二号は、前記基準として、「当該事業の
開始によつて当該路線における航空輸送力が、航空輸送需要に対して著しく供給過
剰にならないこと」を掲げている。ところで、日本航空の本件定期航空運送事業が
営まれる新潟-小松-ソウル線はいわゆる国際線であり、昭和四二年に日本と大韓
民国との間に締結された「日韓航空協定」に基づくものであつて、相互乗入れが原
則である以上、輸送力が著しく供給過剰となるのは免れないところである。
(三) 以上のように、日本航空に対する本件処分は航空法第一〇一条第一項の定
める免許基準を無視してなされた違法なものである。
5 よつて、原告らは本件各処分の取消を求める。
四 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実中、原告らがいずれも新潟空港の水平表面下に居住すること
は認め、その余は争う。
2 同2の事実は認める。
3 同3
(一) 中、新潟空港が被告の設置にかかるものであること、(1)ないし(3)
の事実、(4)の滑走路Bの強度が原告ら主張のとおり変更されたことは認め、航
空法に原告ら主張の規定があることを除くその余は争う。
(二) (二)中、被告が原告ら主張のとおり中型ジエツト旅客機を機材とする定
期航空運送事業の免許処分をなすとともに、右旅客機の離着陸許可処分をなしたこ
とは認め、その余は争う。
4 同4
(一) (一)中、航空怯に原告ら主張の規定のあることを除き、その余は争う。
(二) (二)中、新潟-小松-ソウル便が昭和四二年締結された「日韓航空協
定」に基づくものであつて、相互乗入れが原則であることは認め、航空法に原告ら
主張の規定のあることを除くその余は争う。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 被告が本件各処分をなしたことは、当事者間に争いがない。
二 そこで、まず、原告らに本件各処分の取消を求める当事者適格があるか否かに
ついて検討する。
行政事件訴訟法第九条によれば、行政処分の取消の訴は当該処分の取消を求めるに
つき法律上の利益を有する者に限り提起することができる旨規定している。そし
て、ここにいう当該処分の取消を求めるにつき法律上の利益を有する者とは、行政
権の行使により違法に侵害された国民の権利、利益の回復を図るところに取消訴訟
の目約があることに鑑み、当該処分の根拠法規が具体的に私人の権利ないし利益を
保護するために行政権の行使を規制している場合に、その根拠法規によつて保護さ
れている利益と解するのが相当である。
原告らは、本件各処分の取消を求める根拠として、本件各定期航空運送事業に供さ
れる飛行場である新潟空港における航空機の発着に伴う騒音によつて、原告らの健
康ないしは生活上の利益が侵害されている旨主張する。
しかしながら、本件各処分の根拠法規である航空法第一〇一条は、その第一項にお
いて免許基準を掲げているが、それは運送事業の公共性を確保することを目的とす
る事項の外、同法第一条の規定において同法の目的とされている航空機の航行の安
全を図り、航空機を運航して営む事業の秩序を確立するための事項であり、航空機
を運航して営む事業である航空運送事業に供される空港周辺住民の個人的利益を保
護することを目的とするものがその中に含まれていないことは明らかであつて、同
法第一〇一条をもつて原告らの主張する航空機の発着に伴う騒音によつて健康ない
し生活上の利益を害されないという利益を具体的に保護した規定と解することはで
きない。そして、原告らがほかに本件各処分の取消の根拠として主張する事実は、
いずれも原告らの具体的権利ないし利益とは直接関係のないものであつて、これら
を根拠として原告らに本件各処分の取消を求める適格があると解することもできな
い。
よつて原告ら主張の事実はいずれも本件各処分を取消す法律上の利益を基礎づける
ものということはできず、原告らは原告適格を欠くものといわざるを得ない。
以上の次第であるから本件各訴は不適法であるから、本案について判断するまでも
なく、いずれもこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第
七条、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決す
る。
(裁判官 豊島利夫 羽田 弘 鈴木ルミ子)

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