弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は「原判決を取消す、控訴人が別紙目録記載の一、五、六及び九の土
地を除くその余の土地について耕作権を、同一、五、六及び九の土地について牛馬
の放牧権並に牛馬飼料の採草権を各有することを確認する、被控訴人Aは控訴人に
対し同三乃至十三の土地の引渡をせよ、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担と
する」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
 当事者双方の事実上並に法律上の主張は、控訴代理人において、「別紙目録記載
の一及び二の土地はもと訴外Bの所有であつたところ、同人が昭和二十一年四月四
日隠居し長男Cが家督相続によりこれを取得し、その後昭和二十二年四月四日右C
の死亡により同人の長男Dが家督相続し、更に昭和二十七年七月二十日Dの死亡に
よりその母である訴外Eが相続によりこれを取得したものである。被控訴人A及び
訴外Bと訴外E間の函館家庭裁判所昭和二十九年(家イ)第八六号家事調停事件の
調停は本件土地の引渡に関する限り、農事調停によつたものでないから農地法の規
定に反し無効である。又右調停事件の調停調書に基く適法な引渡の強制執行もなさ
れていない。仮りに被控訴人Aが控訴人の世帯の世帯員でないとしても、同被控訴
人は勝手に控訴人の世帯を離脱したものであるから、控訴人が世帯主として本件土
地について耕作乃至採草放牧の権利を有する点については何等の消長がない。なお
別紙目録記載の一及び二の土地は現在控訴人において占有しているので、右各土地
の引渡を求める請求はこれを減縮し又その余の土地は被控訴人Aが占有しているか
らAに対してのみ右土地の引渡を求めその余の被控訴人に対する引渡の請求は減縮
する」と述べ、被控訴代理人において、「別紙目録記載の一及び二の土地はもと訴
外Bの所有であつたが、同人が昭和三十年七月五日死亡したので、その妻である被
控訴人A、二男である訴外F、長女である被控訴人G、二女である被控訴人H、長
男Cの子である控訴人I、訴外J及び訴外Kにおいて相続し、右七名の共有物であ
つて、控訴人主張の如きEの所有物ではない。Bについては控訴人主張の如き隠居
の事実がない。仮りに隠居したとしても、隠居による農地又は採草放牧地の所有権
の移転は当時施行されていた農地調整法第四条の規定により知事の許可を受けなけ
ればならないに拘らず、その許可を受けていないから、右Bの隠居は無効である。
控訴人主張の調停は単に同一世帯に属する家族の分離に基く別居に伴い各家族の所
有する土地の引渡を内容としたものであつて、その所有権乃至使用権の移動を本来
の目的としたものではないから何ら農地法に違反しない。」と述べたほか、原判決
事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
 証拠として、控訴代理人は、甲第一乃至第三号証の各一、二、第四号証の一乃至
三、第五号証の一、二、第六号証の一乃至八、第七及び第八号証の各一、二を提出
し、原審並に当審証人E、原審証人L(第一回)、同M、同N、同J、同O、当審
証人P及び同Qの各証言、原審における控訴本人の訊問の結果及び原審における検
証の結果を援用し、乙第一乃至第三号証はいずれも成立を認めて利益に援用し、同
第四号証の原本の存在並に成立を認め、被控訴代理人は、乙第一乃至第四号証を提
出し、原審(第二回)並に当審証人L、原審証人R、同P及び当審証人Sの各証言
並に原審における被控訴人T及び同A(第一、二回)各本人の訊問の結果を援用
し、甲第五号証の一、二はいずれも被控訴人A名下の印影が同被控訴人の印鑑によ
つて顕出されたことは認めるが成立は否認する、同第七号証の一、二の各成立は不
知、その余の甲号各証の成立は認めると述べた。
         理    由
 別紙目録記載の六乃至十三の土地が被控訴人Aの所有であることは当事者間に争
がない。
 控訴人は別紙目録記載の一及二の土地は訴外Bの隠居により、又同三乃至五の土
地は右Aの贈与により、その後順次相続されて現在訴外Eの所有であると主張し、
かつ、被控訴人A及び訴外Bと訴外E間に成立した家事調停は無効であつて、これ
に基く本件土地引渡の強制執行も不適法であると主張し被控訴人等はこれを争うけ
れども、その点の判断はしばらくおき、控訴人は本訴の請求原因として訴外E及び
被控訴人Aはいずれも控訴人を世帯主として耕作及び養畜の事業を行うI家の世帯
員であつて、右世帯員所有の農地又は採草放牧地である本件土地は農地法第二条第
五項の規定により耕作及養畜の事業を行う世帯主である控訴人Iの所有に属するも
のと擬制されるから、控訴人Iが右土地につき耕作乃至採草放牧の権利を有するも
のであつて、訴外E及び被控訴人Aは右土地についてその管理処分権を失つたもの
であると主張するので、まずこの点について検討する。
 農地法第二条第五項は「前三項の規定の適用については、耕作又は養畜の事業を
行う者の世帯員が農地又は採草放牧地について有する所有権その他の権利は、その
耕作又は養畜の事業を行う者が有するものとみなす」と規定しているが、同条第二
項乃至第四項はそれぞれ同法において用いる「自作地」及び「小作地」、「自作採
草放牧地」及び「小作採草放牧地」並に「自作農」及び「小作農」なる各用語の定
義を規定しているのである<要旨>から、右第二条第五項の規定は要するに農地法の
適用にあたつて「自作」「小作」の別を決定する基準を定めたものであり、
そして農地法は、耕作者の農地の取得を促進しその権利を保護しその他土地の農業
上の利用関係を調整する目的で、農地及び採草放牧地の権利移動及び転用の制限、
小作地等の所有の制限及びこれに伴う譲渡の強制乃至国による買収売渡、農地又は
採草放牧地の賃貸借等の利用関係の調整、未墾地の買収売渡等について規定してい
るものであることは同法の規定全体に徴して明かなところであるから、結局前記の
同法第二条第五項の規定は右の諸事項に関する規定の適用にあたつて、耕作又は養
畜の事業を行う個人を基準とせずその者の属する世帯を基準として「自作」「小
作」の区別をすることとしたものであつて、世帯員が本来所有権その他の権利を有
する農地又は採草放牧地について、世帯主が耕作又は採草放牧を行つてこれを使用
収益する権利を取得するものと認めた規定でないことは、寸毫も疑う余地のないと
ころである。
 もつとも、住居及び生計を一にするいわゆる同一世帯に属する者の間において
は、世帯員のうちの数名が農地又は採草放牧地について所有権その他の権利を有す
る場合にもこれを区別することなく、世帯員の全部がいわゆる世帯主乃至は主だつ
た者の主宰の下に一体となつて共同して耕作又は養畜の労働に従事して事業を行
い、収益についても特にこれを明確に区分することなく収益全部を世帯員全員の生
計にあてているのが常態であるけれども、右のような事業の主宰や労働従事の関係
は主として慣習乃至は暗黙の了解に基くものであつて、前記農地法第二条第五項の
規定も右に述べたような農業経営の実態に則して「自作」「小作」の区別を決定す
る基準を定めたにすぎない。そして右の如く世帯主がその世帯員に属する農地又は
採草放牧地につき耕作養畜の事業を主宰する場合においても、右の関係は世帯員間
の親愛感情乃至信頼によつてその関係が保たれているべきものであるから、右世帯
の内部関係において事業の主宰者である世帯主の耕作権を特に世帯員に優先して法
律上保護する必要は認められないし、またその世帯以外の第三者に対する関係にお
いては世帯主のある場合でも本来農地又は採草放牧地について権利を有する世帯員
が当事者として法律上の保護を与えられるべきものであつて、右世帯員がその世帯
員に属する農地又は採草放牧地に対する管理処分権を失うべきいわれがない。
 又世帯員が世帯主から分離独立し、又は世帯員のうちの或る者が他の世帯に移つ
た場合には、その経緯がいかなる理由によつたにもせよ世帯を異にするに至つた者
の間には同一世帯の世帯員の関係は最早存しないのであるから、前述のような事業
主宰の関係もなく、改めて当事者間に譲渡、賃貸借或いは使用貸借等の合意のなさ
れない限り、世帯主であつた者がもと世帯員であつた者に属する土地を自己の耕作
養畜の事業に供するいわれのないこともいうまでもない。
 ところで、控訴人が訴外E乃至被控訴人Aの所有と主張する本件土地について耕
作又は採草放牧の権利を主張し、その権利の確認及び土地の引渡を求める理由は専
ら農地法第二条第五項の規定を根拠とするものであつて、他に何ら本件土地につき
耕作又は採草放牧の権利又は引渡を求める権利の主張立証がないから、控訴人の本
訴請求は前述の理由により、訴外E及び被控訴人Aが控訴人を世帯主とする世帯の
世帯員であるかどうかの点、控訴人主張の調停が果して無効であるかどうかの点等
の争点について判断するまでもなく、これを失当であるとして棄却しなければなら
ない。
 よつて控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴は民事訴訟法
第三百八十四条に則りこれを棄却し、控訴費用の負担について同法第九十五条第八
十九条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 羽生田利朝 裁判官 中村義正 裁判官 今村三郎)
 (別紙目録は省略する。)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛