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平成27年3月30日判決言渡
平成24年(ワ)第8227号損害賠償請求事件(第一事件)
平成25年(ワ)第3192号損害賠償請求事件(第二事件)
主文
1被告は,原告らに対し,それぞれ6000円及びこれに対する平成24年2
月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,これを50分し,その1を被告の負担とし,その余を原告らの
負担とする。
4この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1第1事件
被告は,原告P1らに対し,それぞれ33万円及びこれに対する平成24年
2月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2第2事件
被告は,原告P2らに対し,それぞれ33万円及びこれに対する平成24年
2月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,被告の職員あるいは職員であった原告らが,被告が第三者チームに
委託して実施したアンケート(以下「本件アンケート」という。)は,原告ら
の思想・良心の自由,政治活動の自由,労働基本権,プライバシー,人格権を
侵害するなど違憲・違法なものであるところ,被告の市長が,原告らに対し,
職務命令をもって本件アンケートに回答することを命じたことが国家賠償法
(以下「国賠法」という。)上違法であるとして,被告に対し,同法1条1項
に基づき,原告らに生じた精神的損害に対する損害賠償金及びこれに対する本
件アンケート実施最終日である平成24年2月16日から支払済みまで民法所
定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがないか弁論の全趣旨
により容易に認めることができる。)
(1)当事者
ア原告らについて
原告らは,被告の職員あるいは職員であった者であり,いずれも,被告
の職員で構成される労働組合の組合員あるいは組合員であった者である。
イ被告について
被告は,地方公共団体であり,被告の市長は,平成23年12月19日
に就任したP3市長である(以下,単に「市長」というときは,P3市長
を指す。)。
(2)被告が従前実施した労使関係に関するアンケート
ア被告は,平成16年から平成17年にかけて,カラ残業,ヤミ年金,ヤ
ミ退職金,ヤミ専従など様々な職員厚遇問題が発覚したことを受けて,大
阪市福利厚生制度等改革委員会(以下「改革委員会」という。)を設けた。
改革委員会は,職員に対する福利厚生の厚遇問題の解明と是正策の提案
(平成17年4月1日付け第1次報告),監理団体の福利厚生のあり方,
互助組合・健康保険組合のあり方等についての調査・是正策の提案(平成
17年6月10日付け第2次報告),職員OB団体への利益・権益供与の
問題についての調査と是正策の提案(平成17年9月21日付け第3次報
告),職員OBの民間企業等への再就職の実態に関する調査報告(平成1
8年3月2日付け第4次報告)を行い,平成18年5月26日付け第5次
報告において,労使関係の健全化について,職員団体及び労働組合との交
渉等に関するガイドライン案を提示するとともに,全職員を対象とする定
期的なアンケートの実施を提言するなど数次の報告を行った。
(以上,乙3,11)
イ被告は,平成18年3月,全職員を対象に,労使関係についてのアンケ
ート調査を実施した。同アンケートにおける有効回答数は1132件であ
り(対象職員数4万4027名),労使関係に問題がないとする意見が7
9件,問題があるとする意見が82件であった。
また,平成18年10月に実施された労使関係についてのアンケート調
査における有効回答数は642件であり(対象職員数5万3262名),
労使関係に問題がないとする意見が34件で,問題があるとする意見が2
9件であった(以下,これらのアンケートを総称して「平成18年アンケ
ート」という。)。
(以上,乙3,11)
(3)本件アンケートの内容等
平成24年2月10日から同月16日にかけて実施された本件アンケート
は,設問項目1から22までで構成されており(以下,設問については,別
紙主張整理表の「番号欄」記載のとおり「Q1」などと略称する。),各設
問における質問内容及び回答方法は,別紙主張整理表の「アンケートの内容」
欄記載のとおりである。
なお,本件アンケートのうち,Q6からQ9までの一部,Q16の一部,
Q17ないしQ20の全部については任意回答であることが明記されており,
Q15は質問自体が自由回答となっている。他方,Q1ないしQ5,Q7,
Q8,Q10ないしQ12まで,Q14及びQ22は必ず回答しないと本件
アンケートを終了することができない仕組みとなっていた。
(以上,甲1の3)
(4)本件アンケートの実施に至る経緯等
アP4(以下「P4特別顧問」という。)の特別顧問就任等について
(ア)P4特別顧問は,商法を専門とするP5大学法科大学院の教授である
とともに,弁護士資格を有している。
P4特別顧問は,金融庁・法令等遵守調査室長,厚生労働省・年金記
録問題に関する特別チーム室長,P6事故調査委員等の公職を歴任して
おり,平成22年7月に日本弁護士連合会が策定した「企業等不祥事に
おける第三者委員会ガイドライン」(以下「日弁連ガイドライン」とい
う。)の起草メンバーも務めた。
(以上,乙1の1・2,53の1)
(イ)P4特別顧問は,平成24年1月10日,被告の特別顧問であったP
7(以下「P7特別顧問」という。)から,被告の職員による違法行為
等が発生する原因について,同年3月末までに第三者調査を行うことを
依頼されるとともに,市長からも,短時間の電話で同調査を依頼された。
なお,P7特別顧問は,政策コンサルティングを主たる業とする株式
会社P8の代表取締役であり,平成23年12月27日に,市長から,
特別顧問を委嘱されていた。
(以上,乙27,53の1)
(ウ)P4特別顧問は,平成24年1月12日,「大阪市特別顧問及び特別
参与の設置等に関する要綱」(以下「特別顧問設置要綱」という。)に
基づき,市長から,特別顧問を委嘱された。
特別顧問設置要綱は,平成23年12月22日から施行されたもので
あり,①特別顧問は,市長又はその指示を受けた者に対し,政策的又は
専門的事項に関し,指導又は助言(以下「助言等」という。)を行い,
また,特別参与は,所属長又はその指示を受けた者に対し,政策的又は
専門的事項に関し,助言等を行うとともに,政策形成に参画すること,
②特別顧問は市長から,特別参与は所属長から,それぞれ委嘱され,職
員の身分を有しないこと,③特別顧問及び特別参与は,対面での助言等
を行った場合等に,これに要した時間に応じた謝礼を支給されること,
④特別顧問及び特別参与は守秘義務を負うことなどを規定している。
(以上,乙4,53の1)
(エ)市長は,平成24年1月21日,全局長及び全区長に対し,「特別顧
問は僕の身代わりです。そして特別参与は特別顧問の補助機関。特別顧
問や特別参与は,僕の代わりに担当部局や担当者にヒアリングや調査を
やります。アポイントなしの調査を含めて全てに従って下さい。拒否は
僕に対しても拒めるものだけです。特別顧問や特別参与への協力拒否は,
僕への拒否です。組織の隅々にまでこのことを徹底させて下さい」と記
載したメールを送信した(甲33の8)。
イP4特別顧問による本件アンケート作成等について
(ア)P4特別顧問は,平成24年2月4日から同月5日にかけて,本件ア
ンケートの原案を一人で作成し,P7特別顧問及び同月1日に特別参与
に任命されていたP9弁護士(以下「P9特別参与」という。)の意見
を聴いた上で,同月8日に本件アンケートを完成させた。
なお,本件アンケートが完成して実施された時点においては,被告に
おける違法行為等に関する第三者調査を行うチーム(以下「本件調査チ
ーム」という。)は,代表であるP4特別顧問に加え,P7特別顧問及
びP9特別参与の3名で構成されていた。
(以上,乙3,27,53の1)
(イ)被告の総務局人事部人事課(当時。以下「人事課」という。)の担当
者(人事課長,同課長代理,同係長及び同係員を含む。以下「人事課担
当者」という。)は,平成24年2月8日,P4特別顧問から,本件ア
ンケートの実施について知らされるとともに,各部局の人事担当部署に
おいて,その配布及び回収を実施するよう指示された。
(乙54,55,証人P10)
ウ本件アンケートに関する職務命令等について
(ア)P4特別顧問は,本件アンケートへの回答を職務命令により義務付け
るため,本件調査チームにおいて,平成24年2月9日付けで,下記1
の内容の市長から各職員宛ての「アンケート調査について」と題する文
書(以下「職員宛て市長メッセージ」という。),及び下記2の内容の市
長から各所属長宛ての「アンケート調査の実施について」と題する文書
(以下「所属長宛て市長メッセージ」といい,職員宛て市長メッセージ
と併せて「市長メッセージ」という。)を作成させた。
(甲1の2,乙53の1,61)

1(職員宛て市長メッセージ)
市の職員による違法ないし不適切と思われる政治活動,組合活動な
どについて,次々に問題が露呈しています。
この際,P4・特別顧問のもとで,徹底した調査・実態解明を行っ
ていただき,膿を出し切りたいと考えています。
その一環で,P4特別顧問のもとで,添付のアンケート調査を実施
いただきます。
以下を認識の上,対応よろしくお願いします。
1)このアンケート調査は,任意の調査ではありません。市長の業
務命令として,全職員に,真実を正確に回答していただくことを
求めます。
正確な回答がなされない場合には処分の対象となりえます。
2)皆さんが記載した内容は,P4特別顧問が個別に指名した特別
チーム(市役所外から起用したメンバーのみ)だけが見ます。
上司,人事当局その他の市役所職員の目に触れることは決して
ありません。
調査票の回収は,庁内ポータルまたは所属部局を通じて行いま
すが,その過程でも決して情報漏えいが起きないよう,万全を期
してあります。
したがって,真実を記載することで,職場内でトラブルが生じ
たり,人事上の不利益を受けたりすることはありませんので,こ
の点は安心してください。
また,仮に,このアンケートへの回答で,自らの違法行為について,
真実を報告した場合,懲戒処分の標準的な量定を軽減し,特に悪質な
事案を除いて免職とすることはありません。
以上を踏まえ,真実を正確に回答してください。
2(所属長宛て市長メッセージ)
市の職員による違法ないし不適切と思われる政治活動,組合活動な
どについて,次々に問題が露呈しています。
この際,P4・特別顧問のもとで,徹底した調査・実態解明を行っ
ていただき,膿を出し切りたいと考えています。
その一環で,P4特別顧問のもとで,添付のアンケート調査を実施
いただきます。
以下の対応をよろしくお願いします。
1)各所属長におかれては,P4特別顧問からの指示に基づき,調
査票の配布,回収等を行ってください。
2)このアンケート調査は,任意の調査ではありません。市長の業
務命令として,全職員に,真実を正確に回答していただくことを
求めます。
正確な回答がなされない場合には処分の対象となりうることを
含め,職員への周知徹底をお願いします。
3)調査票の記載内容を,記載した職員以外の職員(P4特別顧問
が個別に示した特別チームを除く)が見ることは厳禁します。
調査票の回収は,庁内ポータルを通じて,または,紙の場合は
封筒に封印して行いますが,その過程で,記載内容が漏れること
が絶対にないようにしてください。
(イ)P4特別顧問は,平成24年2月9日正午頃,市長に対し,市長メッ
セージ及び本件アンケートの各設問を記載した用紙(以下「本件アンケ
ート用紙」という。)を示し,本件アンケートを実施することを伝える
とともに,その回答を義務付ける職務命令の発令を依頼した(以下,本
件アンケートの作成及び上記職務命令発出の依頼を「本件アンケートの
作成等」という。)。市長は,上記依頼に応じ,市長メッセージに署名
し,職務命令を発令した。
(以上,甲1の2,乙53の1,61)
(ウ)人事課担当者は,平成24年2月9日午後1時頃,P7特別顧問から,
市長が署名した市長メッセージ及び本件アンケート用紙を受領し,本件
アンケートを実施するよう指示された。そして,人事課の係員において,
被告の総務局長(以下,単に「総務局長」という。)から市長部局の各
所属長宛ての「労使関係に関する職員のアンケート調査について(依
頼)」と題する文書,及び市長から各任命権者(交通局長等)宛ての
「労使関係に関する職員アンケート調査について(依頼)」と題する文
書(以下,両文書を併せて「本件アンケート依頼文書」という。)を起
案し,人事課担当係長,同課担当課長代理及び同課長が順次決裁し,同
日午後4時頃,各部局の人事担当課長に対し,本件アンケート依頼文書
を配布した。
総務局長は,各所属長宛ての上記文書を発出することにより,市長部
局の各所属長に対し,本件アンケートの実施への協力を依頼した。
本件アンケート依頼文書は,市長メッセージ及び本件アンケート用紙
を別添し,「労使関係の適正化を図る取組みとして,別添市長メッセー
ジのとおり,『労使関係に関する職員アンケート調査』を次のとおり実
施します。つきましては,所属職員に周知いただくとともに,調査につ
いてご協力いただきますようよろしくお願いします」と記載され,同調
査について,「調査内容」を本件アンケート用紙記載のとおりとし,
「調査対象」を「大阪市職員(ただし,任期付職員,再任用職員,非常
勤嘱託職員,臨時的任用職員,消防局職員を除く)」とし,「調査期間」
を「平成24年2月10日(金)~16日(木)」とし,「調査実施の
職員周知及び調査方法」について,各所属長宛ての文書では,人事課か
ら各職員の個人アドレス宛てに調査依頼を送付し,庁内ポータル上のア
ンケートサイト(以下「本件アンケートサイト」という。)を使用して
回答及び集計を行うこととし,各任命権者宛ての文書では,本件アンケ
ート用紙を各職員に配布して,各職員が封印した本件アンケート用紙入
りの封筒を取りまとめて人事課に提出し,業者委託して集計することと
していた。
(以上,甲1の1,乙54,55,61,証人P10)
エ本件アンケートの実施について
人事課担当者は,平成24年2月10日,市長部局の各職員に対し,
「労使関係に関する職員アンケート調査について」という件名で,職員宛
て市長メッセージのPDFファイル及び「アンケートの回答手順」と題す
る文書ファイルが添付され,本文に下記内容が記載された電子メールを送
信して,本件アンケートの実施を周知した(甲3,14)。

労使関係の適正化を図る取組みとして,庁内ポータルアンケートサイト
により,記名式のアンケート調査を行います。
このアンケートについての市長メッセージを添付しておりますので,必
ずご覧頂きますようお願いします。
なお,市長メッセージのとおり,この調査は任意によるものではなく,
市長の業務命令として行いますので,必ず回答するようにしてください。
また,真実を正確に回答しない場合には処分の対象となりえます。
調査方法庁内ポータルアンケートサイト
回答方法については,添付ファイルを参考にしてください。
回答期間平成24年2月10日(金)~16日(木)
オ本件アンケートの回収・保管方法等について
本件アンケートは,原則として,本件アンケートサイトを通じて行われ
(一部の部局については,庁内ポータルサイトにアクセスすることができ
るパソコンの台数が少ないなどの理由により,アンケート用紙で実施され
た。),本件アンケートサイトで実施されたものについては,平成24年
2月16日,回答データが被告のサーバーからDVDに移行され,本件調
査チームが同DVDを保管していた。また,アンケート用紙で実施された
ものについては,各職員が封筒に封入したものが集められ,本件調査チー
ムが全ての封筒を保管していた。(以上,乙53の1)
(5)本件アンケートに関する救済の申立て等
P11連合会(以下「P11」という。),P12労働組合(以下「P1
2」という。),P13労働組合(以下「P13」という。)及びP14労
働組合は,大阪府労働委員会(以下「府労委」という。)に対し,本件アン
ケートの実施が支配介入の不当労働行為(労働組合法(以下「労組法」とい
う。)7条3号)に該当すると主張し,平成24年2月13日,救済及び審
査の実行確保の措置を求める申立てを行った。
府労委は,同月22日,被告に対し,審査の実行確保の措置として,府労
委がP11らによる救済の申立ての当否について判断するまでの間,本件ア
ンケートの続行を差し控えることを勧告した。
(以上,甲9)
(6)本件調査チームによる調査報告書の作成及び本件アンケートの回答の廃棄

ア本件調査チームは,前記(5)のとおり,救済及び審査の実効確保の措置
の申立てがされたことを受け,平成24年2月17日,当面の間,本件ア
ンケートの開封及び集計作業を凍結することとした旨を公表した(乙5)。
イ本件調査チームは,平成24年3月1日,「大阪市役所で発見された違
法ないし不適正行為について(調査中間報告)」を作成した(乙2)。
ウ本件調査チーム(代表であるP4特別顧問,P7特別顧問及び特別参与
13名の合計15名で構成)は,平成24年4月2日,「大阪市政におけ
る違法行為等に関する調査報告」(以下「本件調査報告書」という。)を
完成させた。
本件調査報告書には,本件アンケートを実施する契機となった被告にお
ける違法行為等の内容,本件調査チームが本件アンケートを実施したこと,
被告が過去に実施した労使関係の実態に関するアンケートの回答率が低か
ったため,職務命令により本件アンケートに回答することを命じたことな
どが記載されている。
(以上,乙3)
エP4特別顧問は,本件調査報告書が完成し,被告の特別顧問としての任
期が平成24年4月9日に終了することから,同月6日,複数の労働組合
の役員等の立会いの下で,本件アンケートの回答用紙及び回答データの入
ったDVDについて,全て未開封のままシュレッダーにかけるなどして廃
棄した。(乙7の1ないし5,53の1)
(7)府労委による救済命令等
ア府労委は,平成25年3月25日,本件アンケートの実施主体は被告で
あり,被告が本件アンケートを実施したことはP11らに対する支配介入
の不当労働行為に該当すると判断して,被告に対し,「当市が平成24年
2月9日付け『労使関係に関する職員アンケート調査』を実施したことは,
大阪府労働委員会において,労働組合法第7条第3号に該当する不当労働
行為であると認められました。今後,このような行為を繰り返さないよう
にいたします」と記載した文書をP11らに交付することを命じる内容の
救済命令(以下「本件救済命令」という。)を発した。(甲15)
イ被告は,本件救済命令を不服として,平成25年4月8日,中央労働委
員会(以下「中労委」という。)に対し,再審査の申立てをした(甲3
8)。
ウ中労委は,平成26年6月4日,府労委と同様に判断して,上記再審査
の申立てを棄却する旨の命令をした(甲38)。
被告は,中労委による上記命令の取消しの訴えを提起しようとしたが,
被告の議会(以下「市会」という。)において,同訴え提起についての議
案が否決されたため,本件救済命令は確定した。これを受けて,市長は,
本件救済命令を履行した。
2争点
本件の主な争点は,①本件アンケートが,原告らの思想・良心の自由,政治
活動の自由,労働基本権,プライバシー,人格権を侵害するものであり,被告
が国賠法上の責任を負うか(争点1),②原告らの損害の有無及び額(争点2)
である。
3争点に関する当事者の主張
(1)争点1(本件アンケートが,原告らの思想・良心の自由,政治活動の自由,
労働基本権,プライバシー,人格権を侵害するものであり,被告が国賠法上
の責任を負うか)に関する当事者の主張
(原告らの主張)
ア主張の概要
本件アンケートは,原告らの思想・良心の自由(憲法19条),政治活
動の自由(憲法21条),労働基本権(憲法28条),プライバシー権
(憲法13条)及び人格権(憲法13条)を侵害する正に思想調査という
べきものである。
市長の職務命令に基づく本件アンケートの実施は,国賠法1条1項にい
う「公権力の行使」に当たり,市長及び市の補助機関である幹部職員(以
下「市長ら」という。)は,故意(少なくとも過失)をもって上記行為を
行った。
イ本件アンケートの違憲・違法性について
(ア)本件アンケートの実施主体について
本件アンケートは,市長の職務命令によって,職員に回答が強制され
たものであり,その実施の方法や内容について,市長の指示の下,総務
部の職員や補助機関である特別顧問らが企画・立案し,職員らによって
周知・配付・回収されたのであるから,被告が実施したものである。被
告は,P4特別顧問が本件アンケートを独立・中立の第三者的立場から
実施したものであるなどと主張するが,事実に反する。
a市長は,就任直後から,自らの掲げる政策の実現を図るため,職員
団体・労働組合を敵視し,その活動を弱体化させようとして,庁舎内
にある組合事務所の明渡しを求めるなど,執拗に攻撃を加えた。P4
特別顧問が作成したとされる質問事項にも,委託(委嘱)した側であ
る市長の意向が色濃く反映されている。
市長が幹部職員に宛てて年末年始に発信したメールには,組合によ
る政治活動(とりわけ庁舎内における政治活動),人事への関与など
の組合活動が問題視されており,質問項目には,これらの組合活動へ
の関与や見聞きした事実を職員に問うものとなっている。
市長は,平成24年2月6日に,幹部職員に宛てたメールにおいて,
P4特別顧問に調査を依頼する意向を明らかにしており,同顧問が作
成した質問項目が市長の意向を反映したものであることは明白である。
b市長は,当初から組合是正について,P7特別顧問らの助言等を求
めるとともに,その調査の実働として総務局付6名の職員を充てたり,
関係する部局に,P7特別顧問の指示に従うよう徹底しており,その
後も,総務局に対し,組合適正化等の条例を制定するための実態調査
を全庁を挙げて実施するよう指示し,その協力をP4特別顧問に求め
て,徹底した調査を行う方針を明らかにしていた。平成24年1月2
7日の市会財政総務委員会でも,P4特別顧問ら「特別顧問のチーム」
が実施している労使関係の実態調査について,総務局も一緒になって,
全庁を挙げて実施すると答弁しているとおり,総務局による調査と,
P7特別顧問,P4特別顧問らによる調査とは,一体のものとして取
り組まれていたことは明らかであり,かかる実態調査の一環として行
われた本件アンケートもまた,総務局がP4特別顧問らと一体のもの
としてなされたものというべきである。
また,市長が各所属長や各職員に宛てて,本件アンケートへの回答
が職務命令であることを明らかにした自署による文書を作成して,こ
れを各職員に交付したり,総務局長から各任命権者や各所属長宛に,
回答や回収を周知徹底する依頼文書を送付したり,職員の回答の有無
を把握させるなどして,各部課において,各職員に本件アンケートに
回答させて,回収することを徹底していた。
c特別顧問とは,「政策的又は専門的事項に関し,指導又は助言を行
う者」をいうのであり,被告がP4特別顧問を委嘱したのは,組合適
正化等について指導・助言を得るためであるから,当初から,P4特
別顧問は第三者的な立場になかった。
被告は,本件アンケートを実施して各方面から批判を浴びるように
なってから,P4特別顧問による調査があたかも中立,第三者的な立
場から行われたかのように装うべく,「第三者チーム」なる呼称を用
いるようになったが,それまでは,「特別顧問のチーム」と称してい
たのであって,このことからも明らかなとおり,中立,第三者的な立
場として実施する意識など全くなかった。
(イ)本件アンケートの設問内容
a本件アンケートの各設問は,原告らの思想・良心の自由,政治活動
の自由,労働基本権,プライバシー権及び人格権を侵害する。
(a)思想及び良心の自由の保障は,その本質に鑑みて絶対的なものと
されており,公共の福祉による制限は認められない。そして,この
思想及び良心の自由の保障内容の一つとして,自己の思想及び良心
の表明を強制されない自由,すなわち沈黙の自由が認められている。
人間のものの考え方や見方は,人間の人格の最も基本的な要素であ
るから,これを理由にして不利益を受けることがないように,表明
を強制すること自体を禁止しなければならない。
(b)地方公務員法(以下「地公法」という。)上一定の制限はあるも
のの,原則として地方公務員に対しても政治活動の自由が保障され
ており,憲法上の重要な権利の保障を受けていることは変わりがな
い。
本件調査は,合法的な政治活動まで問題視し,原告らを含む被告
の職員の政治活動の自由を萎縮させた。
(c)プライバシー権は,自己情報コントロール権として把握されるべ
きであり,その保護の対象となる自己に関する個人情報の収集・取
得,保有・利用,開示・提供等のあらゆる場面において保障される
べきである。そして,憲法13条が個人の尊重原理を定め,個人の
人格的生存に不可欠な権利・自由を保障しているという趣旨に照ら
せば,プライバシー権の保護範囲は,少なくとも,思想・信条,精
神・身体に関する基本情報,重大な社会的差別の原因となる情報に
及ぶと解すべきである。
(d)原告らにその組合活動に対する姿勢・認識,参加の経緯,組合活
動の内容,組合活動に関連した人的関係についての表明を処分の威
嚇をもって迫るものとなっている点で,原告らの組合活動の自由を
直接に侵害するものである。
(e)職場は単に生活の糧を得る場所などではなく,人間にとって家庭
とともに,その生活の基礎となる場所である。したがって,職場に
おける自由な人間関係を形成することが妨げられるということは,
人間にとって最も基本的な,愛,友情及び信頼の関係にとって不可
欠の生活環境の充足が妨げられるということにほかならない。職場
における自由な人間関係を形成する自由は,正に人格的利益の核心
をなすものといえ,憲法13条により保障される人格権の一つとし
て保障されなければならない。本件アンケートは,この職場におけ
る自由な人間関係を形成する自由を侵害するものにほかならない。
(f)各設問が原告らの各権利を侵害する理由の要旨については,別紙
2主張整理表の,「権利侵害の内容」,「原告」欄記載のとおりで
ある。
b本件で問題となる権利が憲法上の権利であり,一人の人間が,その
人格的自立性を確立していく上で必要不可欠の基本的権利であること
からすれば,その権利侵害の有無の判断は,単なる利益衡量(比例原
則)に基づく合理性審査基準であってはならず,より厳格な目的審査
の検討を要し,手段においても必要最小限度の必要性・相当性を要求
する審査基準を用いるべきである。そして,その厳格な審査基準の適
用を巡っては,対象となる国民が公務員であるという一事をもって安
易に緩められるべきものではない。
(ウ)本件アンケートの必要性・相当性
本件アンケートは,勤務時間や勤務場所の内外,職務上の関係の有無
等を全く度外視して,一般的に被告の職員の組合活動,政治活動の意
思・傾向・内容の告白を強制しているが,このような調査について,必
要性・相当性が認められると解される余地は全くない。
被告は,本件アンケートに際して,「市の職員による違法ないし不適
切と思われる政治活動,組合活動などについて次々に問題が露呈し」た
ことを問題視し,具体的な不祥事として,P15勤務の職員による殺人
未遂事件の発生,実質的なヤミ専従と勤務時間内の選挙活動などを挙げ,
不祥事が多発する背景には,職員の採用や昇任に対する組合役員の不当
な関与や組合に対するヤミの便宜供与等の蔓延によって,職場の規律が
緩み,モラルハザードが生じていることが一因となっていると結論付け
て本件アンケートを実施したと述べる。しかしながら,個々の不祥事や
職務専念義務違反については,個別の調査や聞き取りなどにより対処す
れば足りるのであって,適法行為も含め網羅的に職員の行動内容の告白
を強制する必要性も相当性も存在しないことは明白というべきである。
各設問について必要性・相当性がないことは,別紙2主張整理表の,
「必要性・相当性」,「原告」欄記載のとおりである。
ウ国賠法上の違法性について
本件アンケートを実施するにあたって,市長らは,それが日本国憲法を
頂点とする我が国の法令に違反するものでないか否かに十分留意しつつ,
対象となる職員の基本的人権を違法に侵害することのないように配慮すべ
き職務上の注意義務が存在する。それにもかかわらず,市長らは,その職
務上尽くすべき注意義務に違反し,あえて違憲・違法な本件アンケートを,
市長名で断行し,幹部職員もその実施に向けて職務執行を行っていった。
市長らは,本件アンケートを実施する際に,平成24年2月9日の所属
長会で市長自らその実施を周知徹底しており,その上で,P4特別顧問ら
が作成した質問項目が自ら求めていたとおりのものであることを十分に把
握していた。
仮に,故意がない場合であっても,少なくとも職務上の義務を職員に課
すにあたってその内容を知っておくべきだったのであり,知らずに調査を
実施する行為それ自体,これら行為者に重大な過失が存在することは明白
である。
(被告の主張)
ア主張の概要
本件アンケートの項目には,何ら違法性が存しない。
また,仮に,本件アンケートの項目に何らかの問題があったとしても,
被告は,それに一切関与していないため,いかなる意味においても権利侵
害に対する故意は存在せず,本件アンケートへの回答を職務命令をもって
義務付けたことについても過失がない。
イ本件アンケートの違憲・違法性について
(ア)本件アンケートの実施主体について
a本件アンケートについては,実質的にも対外的にも,終始,P4特
別顧問が率いる本件調査チームが実施したものであり,その実施方法,
態様,項目内容のいずれをとっても,被告が主体であると認定すれば
およそ説明がつかない。
本件調査チームは,特別顧問,特別参与として守秘義務を負ってお
り,被告と情報を共有したなどの事実は一切ない。
とりわけ,本件アンケートは,労働組合の活動を含む労使関係,さ
らには,公務員の政治活動等が対象の一つとなっており,被告自らが
実施すれば,「公権力の行使」となる可能性が否定できない。このよ
うなリスクを回避するために,専門性・独立性を有した第三者に調査
を委託したわけであり,調査を委託した趣旨・目的に関する被告の主
張に不合理な点はない。調査の方法についても,日弁連ガイドライン
に沿っており,違法とされる点はない。
b第三者委員会が企業の不祥事を調査するにおいて,調査の実施に際
して,当該企業が何らかの協力をすることは,いわば当然であり,日
弁連ガイドラインにおいても想定されている。
確かに,総務局長名義の依頼文書,市長名義の文書,総務局人事部
人事課作成のメールをみれば,総務局長名や市長名で,本件アンケー
トを実施するかのような文言となっているが,これは,本件調査チー
ムからその実施日当日になって,事情を正確に聞かされていない人事
課の一担当者が起案したものであり,当時の実態調査の迅速性,緊急
性をも踏まえると,かかる書面の体裁をもって,被告を本件アンケー
トの主体と認めることはできない。
c実際,昨今,国又は地方公共団体における不祥事等について,民間
人を特別顧問等に任命し,第三者調査を委嘱するケースが増加してい
るが,これは,国又は地方公共団体がその職員等に対して直接的に内
部調査を行うと,当該職員等の憲法上の権利を直接侵害してしまい,
十分な調査が行えない可能性があるためであり,本件アンケートも,
このような第三者調査として行われたものである。もしも,このよう
な調査が,常に国又は地方公共団体自身による調査と同視されること
になってしまえば,国又は地方公共団体における不祥事等については,
第三者調査はおよそ実施し得ないこととなってしまうが,これは国
民・市民にとって不幸な事態である。
(イ)本件アンケートの設問内容
本件アンケートの内容項目に何らの違法性がないことは,別紙2主張
整理表の「権利侵害の内容」,「被告」欄記載のとおりである。
なお,P4特別顧問は,本件アンケートが第三者調査であることを前
提として作成したものであり,仮に,国又は地方公共団体が行うものと
してアンケートの作成を依頼されていたならば,そのような前提で憲法
上の権利を考慮した質問事項を作成していた。
(ウ)本件アンケートの必要性・相当性
a市長が就任する前後に,(a)P15勤務の職員が殺人未遂の被疑事
実で逮捕,(b)交通局中津営業所において,組合幹部たるバス運転手
2名について,通常の乗務ダイヤではなく,非乗務日を作り出し,そ
の非乗務日の勤務時間内に市長選の報告集会に参加する目的で職場を
離れたこと(実質的ヤミ専従),(c)市バスの守口営業所における実
質的ヤミ専従及び勤務時間内組合活動の存在,(d)交通局の職員1名
が勤務時間内に組合の会議に出席,(e)職員の机に「選挙活動」との
ラベルを貼った引き出しが存在し,選挙活動の書類が保管されている,
(f)事務所の公用電話が選挙活動に使用されている,(g)組合役員が
選挙のお礼のために営業所を勤務時間内に訪問している,(h)労働組
合の組合員が,人事に不当に介入しているなどの被告職員による違法
ないしは不適切な行為が指摘されるに至った。
本件アンケートは,市長の意図からすれば,これまでの歪んだ労使
関係を改善し,かつての労使関係において好ましくないものがあれば
それを排除するために,正しい労使関係は何かを一つ一つ検証しなが
ら,正しい労使関係を構築していこうというものであり,原告らが主
張する,労働組合に対する攻撃などとは全く異なる正当な目的による
ものである。
b本件調査チームが処分を求める可能性があるとすれば,それは飽く
まで調査を妨害,混乱させる明白な悪意の下で,物理的な妨害が大々
的に行われた場合に限られるというのが常識的な解釈であり(現に,
本件調査チームには妨害行為をにおわせる内部通報もあったようであ
る。),かかる業務妨害的な回答を排除するため,処分の対象とし得
ることを示唆するのは,目的において正当性を有する。
c(a)本件アンケートの実施に当たって本件職務命令が発出されている
ところ,第三者委員会が行う調査が法的な強制力をもたない任意調
査であるため,企業等の全面的な協力が不可欠であるという問題意
識から,第三者委員会が,企業等に対し,従業員等に対して同委員
会による調査に対する優先的な協力を業務として命令することを要
求することが日弁連ガイドラインでも規定されている。被告が,調
査の実効性確保のため,本件調査チームの要請に基づいて職務命令
という形をとったことは,外部の第三者による調査としては一般的
な手法であり,正当かつ合理的である。
(b)本件調査チームによると,本件アンケートの実施に対し,「罠を
仕掛ける動きがある」との内部通報があり,そのままでは全く項目
に回答しなかったり,殊更に虚偽を述べたりして本件アンケートの
実効性を妨害する動きがあることが危惧された。現に,本件調査チ
ームによる各種実態調査に対して,労働組合の一部の組合員は,重
要な書類を廃棄しようとするなど,非協力的な対応をとっており,
かかる危惧・推測は十分に現実的なものといえた。
(c)過去に,被告の職員に対するアンケートが2度行われていたが,
その回収率は2.6%,1.2%と極めて低く,強制力を持たない
本件調査チームによる本件アンケートはこれらよりも低い回収率に
なることが危惧され,現にボイコットの動きすらあったが,仮に,
本件アンケートの回収率が1ないし2%の低率になっては,全く実
のある調査結果が期待できなかった。
ウ国賠法上の違法性
(ア)被告は,公務員の不祥事調査の専門家であり弁護士であるP4特別
顧問に実態調査を依頼していたのであり,違法な調査がされるはずが
ないと考えていたことから,事前に本件アンケートの内容を確認すべ
きと考える予見可能性がない。
また,第三者調査という枠組み上,調査内容を事前に確認すること
が想定されていなかったし,その物理的時間もなかったため,本件ア
ンケートを一時停止する結果回避可能性もない。仮に,確認する機会
があったとしても,P4特別顧問がそれを許さなかったため,やはり
事前に確認することはできなかった。
(イ)本件アンケートに関しては,市長としては,不祥事調査の専門家に
調査を委託したことで,本来負うべき注意義務は果たされているとい
うべきである。前記(ア)のとおり,被告は,事実として本件アンケ
ートの内容を知らなかったし,知っておくべき根拠も特にないのであ
るから,そもそも事前に内容を確認するという動機付けが生じる余地
はなかった。
本件アンケートについて,内容を確認せずに本件職務命令を発した
ことが問題であるとするのであれば,その項目を確認すべき義務が観
念できない以上,職務命令の発令自体を問題視することもできない。
(2)争点2(原告らが被った損害の有無及びその額)に関する当事者の主張
(原告らの主張)
原告らは,自らの内心に土足で踏み込まれ,本件アンケートに回答すべき
か否かの苦悩と葛藤を余儀なくされたのである。回答してしまった原告らは
回答してしまったことへの苦悩と後悔の念を抱くこととなり,回答を拒否し
た原告らも,回答拒否を決断するまでに苦悩と葛藤に直面し,また,回答を
拒否することによる処分,昇進や人事異動での不利益等を覚悟せざるを得な
かった。
このように,原告らは,本件アンケートの実施により耐え難い精神的苦痛
を受けたのであり,その額を金銭に換算すると原告一人当たり30万円を下
らず,弁護士費用は少なくとも3万円が認められるべきである。
(被告の主張)
本件アンケートが,「特別チーム(市役所外から起用したメンバーのみ)
だけが見ます」,「上司,人事当局その他の市役所職員の目に触れることは
決してありません」,「真実を記載することで,職場内でトラブルが生じた
り,人事上の不利益を受けたりすることはありませんので,この点は安心し
てください」という説明の上で,実施されていることから,通常人がこれを
読めば,原告らが主張するような精神的苦痛が生じないことは明らかである。
また,本件調査チームは,平成23年4月6日,被告の職員立会いの下,
本件アンケートの結果を全て廃棄しているから,既に原告らの権利が侵害さ
れる具体的なおそれもなく,損害は生じていない。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前提事実のほか,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認
められる。
(1)市長就任前後における被告職員による不適切ないし違法な行為
ア被告の職員について,平成19年度から平成23年度途中までの約5年
間において,違法薬物に係る懲戒処分等が11件,傷害・暴行等に係る懲
戒処分等が29件,窃盗に係る懲戒処分等が32件存在した(乙2,3)。
イ平成▲年▲月▲日,P16局の職員が覚せい剤取締法違反(使用)の被
疑事実で逮捕された。これを受けて,P16局が同年9月,市営地下鉄及
び市バスの全乗務員を対象とする薬物検査を実施したところ,職員2名か
ら陽性反応が検出された。
(以上,乙42,43)
ウ平成▲年▲月▲日,P17局の職員が覚せい剤取締法違反(所持)の被
疑事実で逮捕された(乙44)。
エ平成▲年▲月▲日,P18局の職員が女性の背中を包丁で刺すという殺
人未遂の被疑事実で逮捕された(乙45)。
オ平成23年12月26日に開催された市会交通水道委員会において,市
会議員から,①市バスの営業所に勤務するP13の役員が,通常の乗務ダ
イヤではなく,営業所車両出入口の安全対策業務等に従事することとして
非乗務日を作り出し,当該非乗務日の勤務時間内に市長選の報告集会に参
加する目的で職場を離れたこと,②同年11月27日に実施された被告市
長選挙に関連して,P19前市長の推薦人紹介カードが市庁舎内で勤務時
間内に配布されていたことなどの指摘があり,交通局は,いずれの事実も
認めて謝罪した。
(2)市長の労働組合に対する方針の表明
ア市長は,同日,市役所内にある労働組合の事務所に退去を求めるなど,
労働組合に認めてきた便宜供与を認めないこと,市庁舎内での組合活動に
ついては一切認めないこと,ヤミ専従について調査することなどの考えを
示した(乙3,22の1,33)。
イ市長は,平成23年12月30日,全局長,全区長,P7特別顧問及び
P20教授らに対し,①午後2時59分頃,労働組合が政治活動を行って
いるところ,現行法上認められる政治活動は否定しないが,公金を投入す
ることは止める,庁舎内で政治活動をすることは認めないので,労働組合
の事務所の退去手続を直ちに始めることなどを内容とするメールを,②午
後3時30分頃,外部顧問を始め,大規模に体制を整えて,年明けには実
態調査に入るので,職員に対し,できるだけ早く不適切な関係を告白する
よう伝えることなどを内容とするメールを,③午後7時47分頃,組織を
挙げて労働組合の適正化に取り組まなければならないこと,年明けに調査
チームを立ち上げて,「組合適正化プログラム」を打ち立てることなどを
内容とするメールを,それぞれ送信した。
(甲24,33の2・3)。
ウ市長は,平成23年12月31日午後11時22分頃,全局長,全区長,
P7特別顧問及びP20教授らに対し,不適切事例が後を絶たない労働組
合との間のルール化が必要であるとして,P7特別顧問らが中心になって
「対組合関係適正化条例」の案を作成するよう依頼する内容のメールを送
信した(甲33の4)。
P7特別顧問は,市長の上記依頼を受け,平成24年以降,職員基本条
例案,労使関係条例案,職員の政治的行為の制限に関する条例案等の検
討・作成等を行った(乙62)。
エ市長は,平成24年1月4日,被告の職員に対する年頭挨拶において,
労働組合との関係について早々に実態調査を行いながら問題を明らかにし,
適正化を進めていくつもりであることなどを明らかにした。
(乙58)
(3)P4特別顧問の特別顧問就任等
ア(ア)市長は,平成24年1月11日,市会定例会において,「大阪市役
所の労働組合はどうですか。トップである僕を徹底的に落としにかか
ったということでありますので,これは政治に足を踏み込んだら,そ
れは政治的リスクを負うのは当たり前ですよ」,「通常の労働組合の
労使活動は守っていきますけれども,社長人事に口を出すような,そ
ういう労働組合は,これはもはや労働組合ではありません。立派な政
治団体です。ですから,政治団体としてしっかり扱っていくというの
は当然のことでありまして,これから実態調査を徹底的に行いまして,
その適正化に努めていく。政治団体として僕は対処していきたいとい
うふうに思っております」,「カラ残業や,その他便宜供与。総務局
にきのうですか,全庁を挙げての実態調査の指示を出しまして,それ
から外部の特別顧問-P4さんという強力な実態調査のエキスパート,
弁護士なんですけども,大体弁護士は僕のこと嫌いなんですが,僕に
協力をしてくれるという弁護士があらわれまして,東京からやってき
てもらいますので,エキスパートに徹底調査をしてもらいます」と述
べた(甲34の1)。
(イ)P4特別顧問は,同日,P20教授と面談し,改革委員会の委員とし
て被告の改革に取り組んだときの状況や,平成18年アンケートについ
ては,次第に回収率が低下し,先細りとなったことなどを聴取した。
(乙53,57)
イ市長は,平成24年1月12日,記者会見において,「P4さんってい
う最強の調査のね,エキスパートが来られてますから,組合の実態調査と
か,この市役所で行われてきた活動というものがどういうものなのかって
いう実態調査をやって」,「だからやっぱりこれは実態調査やって,これ
はだめだろうということを全部ルール化していってですね」,「これはだ
めだよこれはだめだよってことをしっかり理解させる。今までの価値観を
変えてもらうというところをしっかりやって」などと発言した。
(甲35の1)
(4)被告による調査及び便宜供与の廃止等
ア人事課長は,平成24年1月11日,各所属の人事担当課長に対し,
「労使関係についての調査について(依頼)」と題する文書を発出し,
労使関係について,有給職免における交渉状況,無給職免における組合
活動状況,勤務時間外における意見交換等の状況,人事案件に関する説
明・意見交換の状況及び職員団体等への便宜供与の状況について,同月
20日までに回答することを依頼したが,P4特別顧問の指示により,
同調査を中止した。(乙17,55)
イ交通局長は,平成24年1月13日,各所属長に対し,「交通局におけ
る労働組合支部への便宜供与の廃止について」と題する文書を発出し,同
月18日をもって,交通局の全事業所における便宜供与の許可(目的外使
用許可)を取り消すことを通知した(乙18)。
ウ総務局長は,平成24年1月18日,P21労働組合(以下「P21」
という。)に対し,各労働組合に対する庁舎スペースの便宜供与の許可
(目的外使用許可)を取り消すので,同月31日までに事務機器等を撤去
するよう通知した(乙19)。
エ総務局長は,平成24年1月30日,P21に対し,同年4月以降,組
合事務所としての目的外使用許可をしないので,3月31日までに退去す
るよう通知した(乙20)。
(5)本件調査チームによる調査の実施
アP4特別顧問は,平成24年1月19日,市会の委員会で勤務時間内組
合活動について指摘した市会議員らと面談し,市会議員らによる調査の経
緯及び被告の職員から寄せられた内部告発等について聴取した。
(乙53の1)
イP4特別顧問は,平成24年1月20日,約30分間市長と面談し,被
告が市庁舎に設置している目安箱(以下「本件目安箱」という。)に入れ
られていた10通から20通程度の投書を受領するとともに,その内容に
関するヒアリングを行った。P4特別顧問が受領した投書には,労働組合
による人事介入が存在すること,勤務時間内組合活動がされていること,
ヤミ便宜供与がされていることなどが記載されているものもあった。
また,P4特別顧問は,同日,被告の各部局を回って状況を聴取したが,
幹部職員からは,問題となっている事象は例外的なものであって,問題は
ほとんど解決されているとの説明があった。
さらに,P4特別顧問は,同日,被告の内部通報窓口を長く担当し,大
阪市役所コンプライアンス委員会委員長も務めていたP22弁護士と面談
し,被告における問題状況を聴取した。
(以上,乙8,53の1,56,57)
ウP4特別顧問は,平成24年1月27日,P7特別顧問とともに,被告
の職員である内部告発者と約2時間面談し,勤務時間内組合活動,労働組
合による人事介入及びヤミ便宜供与に関する事実を聴取した。
また,P4特別顧問は,同日,市庁舎内にある組合事務所を訪問して,
労働組合に関する資料の提供を求めるとともに,市長と面談した。
(乙53の1,56,57)
エP4特別顧問は,平成24年2月1日,P7特別顧問及び人事課担当者
とともに,労働組合の役員と面談をした。
同面談において,P4特別顧問は,被告の特別顧問に就任したこと,第
三者調査の依頼を受けていることを説明するとともに,労働組合における
自主調査を促した。
P13の委員長は,P4特別顧問が提案した自主調査について検討して
みてもよいかもしれないとの意向を明らかにしたものの,他の労働組合の
幹部は,自主調査を行うことについて否定的な対応をした。
(以上,乙53の1)
(6)本件アンケートの実施等
ア市長は,平成24年2月6日,全局長,全区長,P4・P7両特別顧問
及びP20教授らに対し,後にねつ造であると判明した知人・友人紹介カ
ード配布リストに関する報道に基づき,労働組合全体が不適切な政治活動
を行っていると考えていること,P4特別顧問を中心とするメンバーで徹
底した労働組合の実態調査を行うことが必要であると考えていること,労
働組合による人事介入が実際にあるか否かはともかく,組合員にそのよう
な事実があると思わせていることが,労働組合から組合員に対する脅しに
なっていると考えられることなどを内容とするメールを送信した。
(甲33の9・10,乙59の1ないし3)
イその余の本件アンケートの実施の経緯については,前提事実(4)イない
しオのとおりである。
2争点1(本件アンケートが,原告らの思想・良心の自由,政治活動の自由,
労働基本権,プライバシー,人格権を侵害するものであり,被告が国賠法上の
責任を負うか)について
(1)判断枠組みについて
被告は,本件アンケートは,実質的にも対外的にも本件調査チームが実施
したものであり,被告をその主体と認めることはできない旨主張する。
しかし,被告が主張するとおり,本件アンケートの項目を作成したのがP
4特別顧問であり,被告がその作成に関与していなかったとしても,本件ア
ンケートは回答が任意とされていたのではなく,市長が本件職務命令を発出
することで,被告の職員に対し,本件アンケートへの回答を義務付けている
ことからすれば,被告は,本件アンケートの実施については関与していると
いうほかない。そうすると,本件アンケートが原告らの憲法上の権利を侵害
するものである場合には,これに回答することを義務付ける本件職務命令も
国賠法上違法なものとなり得ることから,まず,本件アンケートが原告らの
憲法上の権利を侵害するものであるか否かについて検討することとする。
(2)検討
ア本件アンケートの目的について
(ア)市長による労働組合「適正化」政策について
a前提事実(4)及び認定事実(1)ないし(6)までによれば,本件調査
チームによる調査及び本件アンケートが実施されるまでの経緯として,
①市長は,平成23年12月26日に開催された市会交通水道委員会
において,P13の役員が勤務時間内組合活動を行っていたことや,
市長選挙に関連して,P19前市長の推薦人紹介カードが市庁舎内で
勤務時間内に配布されていたことなどが指摘されると,労働組合に対
する便宜供与や,市庁舎内での組合活動を一切認めない方針であるこ
とを明らかにするとともに,組合活動を調査する組織を設置するとい
う考えを示したこと,②市長は,同月28日の施政方針演説において,
「公務員の組合というものをのさばらしておくと国が破綻してしまい
ます」という強い表現を用いて,労働組合の体質の適正化が必要であ
ると考えていることを明らかにしたこと,③市長は,同月30日,市
の幹部職員及びP7特別顧問らに送信した電子メールにおいて,市長
の施策に反対する政治活動を行っている労働組合の事務所の立ち退き
の手続を進めることや,市を挙げて労働組合の適正化のための実態調
査に着手し,「組合適正化プログラム」を打ち立てることを明らかに
したこと,④市長は,平成24年1月4日の年頭挨拶において,労働
組合との関係の適正化を進めていくことを明らかにしたこと,⑤市長
は,同月11日の市会定例会において,市長選挙に関与した労働組合
は政治団体として扱っていくことや,実態調査のエキスパートである
P4特別顧問に労働組合の実態調査をしてもらうと述べたこと,⑥市
長の上記方針を受けて,総務局長及び交通局長は,同月13日及び同
月18日,P13,P21及びP12に対する便宜供与を廃止する方
針を通知したこと,⑦市長は,同月21日,被告の幹部職員に対し,
P4特別顧問は市長の身代わりであるので,全面的に協力するよう指
示する内容の電子メールを送信したこと,⑧市長は,同年2月6日,
被告の幹部職員,P4特別顧問及びP7特別顧問らに対し,労働組合
全体が不適切な政治活動を行っており,P4特別顧問を中心とするメ
ンバーによる徹底した労働組合の実態調査が必要であると考えている
ことなどを内容とする電子メールを送信していることが認められる。
bこれらの事実によれば,市長は,被告の労働組合が組合事務所の目
的外使用許可等の便宜供与を受けているにもかかわらず,市長選挙に
おいて対立候補であったP19前市長を支援する政治活動を行い,ま
た,市長の当選後も市長の政策に反対する活動を行っていたことから,
これを問題視し,労働組合に対する便宜供与を廃止することなどによ
って,労働組合を「適正化」するという政策を取るようになったもの
と認められる。また,市長は,上記政策を推進するため,被告の幹部
職員及びP7特別顧問に対して,被告を挙げて労働組合の実態調査に
着手することを指示するとともに,労働組合「適正化」の一手段とし
て,本件調査チームによる調査を利用しようと考えていたものと認め
るのが相当である。
そうすると,本件アンケートは,本件調査チームによる調査の一環
として実施されたものであるから,客観的に見れば,市長による労働
組合「適正化」政策の一部を成していたものと評価せざるを得ない。
cこの点,上記事実経過によれば,市長による労働組合「適正化」政
策の中心的課題は,市庁舎内における労働組合の政治活動の防止にあ
ると認められるところ,職員による違法な政治活動が市庁舎内で行わ
れれば,住民の行政の中立的運営に対する信頼が損なわれるおそれが
あることは否定できないから,そのような政治活動が行われる蓋然性
が存在するのであれば,そのような政策を取る必要性もあったものと
いえる。しかしながら,上記政策の一環としてであっても,その必要
性や労働組合に対する便宜供与をすることによる具体的な弊害が存在
しないにもかかわらず,労働組合の労働基本権に与える影響に配慮し
て十分な団体交渉を経るなどの手続を取らないまま,労働組合に対す
る便宜供与を一方的に廃止することは,上記政策目的との合理的関連
性が認められない以上,労働組合の活動一般を弱体化させるものとし
て,労働組合及びその組合員の労働基本権(憲法28条)を侵害する
ものであったというべきである。
(イ)本件調査チームの独立性・中立性について
aこれに対し,被告は,本件調査チームが日弁連ガイドラインに沿っ
たものであり,被告から独立性及び中立性を有する旨主張する。
しかしながら,前提事実(4)並びに認定事実(2)及び(3)に加え,
証拠(乙1の1・2,53の1,56,57)によれば,①日弁連ガ
イドラインは,企業等の内部調査を実施する内部調査委員会と区別さ
れるものとして,企業等から独立した委員のみをもって構成されるも
のを第三者委員会とし,同委員会は,企業等から独立した立場で,ス
テークホルダー(利害関係者)のために,中立・公正で客観的な調査
を行うものとされ,顧問弁護士等の企業等と利害関係を有するものは
委員に就任することはできないと規定していること,②本件アンケー
トが実施された時点では,本件調査チームは,P4特別顧問のほかに,
P7特別顧問及びP9特別参与のみで構成されていたところ,P7特
別顧問は,市長の指示を受けて,P4特別顧問に対して被告の職員に
よる違法行為等が発生している原因に関する調査を依頼するとともに,
本件アンケートの設問への加筆や市長メッセージの作成を行ったり,
本件アンケートの内容を確認したりするなど,その実施に深く関与し
ていたこと,③P4特別顧問は,労働組合のみならず,市長を含む被
告も本件調査チームによる調査の対象としていたこと,④P7特別顧
問は,本件調査チームのメンバーとして活動するのと同時に,被告の
特別顧問として,市長の労働組合「適正化」政策の中核である労働組
合への便宜供与の禁止を内容とする労使関係条例案等の作成について,
中心的に関与していたことが認められる。
これらの事実によれば,日弁連ガイドラインは,第三者委員会によ
る企業等の不祥事等の調査について,委員会のメンバーが企業等から
独立していることを特に重視しているものと考えられ,前提事実(4)
アのとおり,P4特別顧問は,同ガイドラインの起草メンバーを務め
たのであるから,そのことを十分に認識していたはずである。それに
もかかわらず,本件調査チームの主要なメンバーの一人であるP7特
別顧問は,正に調査の対象である被告における労使関係について,本
件調査チームによる調査の対象でもある市長の意向を受けて,市長の
政策を推進するための活動を行っていたものである。
そうすると,本件調査チームについては,客観的に見て,被告から
の独立性及び中立性は確保されていなかったものといわざるを得ない。
bこの点,P4特別顧問は,別件訴訟における本人尋問において,本
件調査チームによる調査作業で手一杯であり,P7特別顧問が被告と
利害関係を有するか否かを確認することをしなかった旨供述する。
しかしながら,そもそもP4特別顧問は,P7特別顧問とは旧知の
仲であり,市庁舎内で打合せをしたり電子メール等でやり取りをした
りしながら,被告における労使関係の調査を進めてきたものである
(乙53の1,56,57,62)から,P4特別顧問がP7特別顧
問の活動内容を知らなかったとは直ちに考え難い。また,仮に,P4
特別顧問が本件調査チームの主要メンバーであるP7特別顧問が被告
から独立性・中立性を有するかについて意を払わなかったとすれば,
そのことが正に本件調査チームが被告からの独立性・中立性を有して
いなかったことを示すものというべきである。
cまた,後記ウ(オ)で説示するとおり,処分権者である市長が本件
調査チームから本件アンケートの回答内容の提供を受け,それに基づ
き懲戒処分を行う可能性もあり得たことをも考慮すると,本件調査チ
ームが被告からの独立性・中立性を有していたとは認められないから,
本件アンケートを含む本件調査チームによる調査が,市長の労働組合
「適正化」政策の一部を成していたという上記評価は左右されないも
のというべきである。
(ウ)労働組合を無力化する目的の有無について
a上記で述べたとおり,本件アンケートは市長の労働組合「適正化」
政策の一部を成していたものであるところ,原告らは,本件アンケー
トについて,市長は,就任直後から,自らの掲げる政策の実現を図る
ため,職員団体・労働組合を敵視し,その活動を弱体化させようとし
ており,被告がP4特別顧問に特別顧問を委嘱したのは組合適正化等
について指導・助言を得るためであるから,当初から,P4特別顧問
は第三者的な立場になく,被告も,本件アンケートの実施につき,各
方面から批判を浴びるまでは,「特別顧問のチーム」と称していたの
であって,中立・第三者的な立場から実施されるとの意識などなく,
本件アンケートの質問項目にも,市長の意向が色濃く反映している旨
主張する。
bしかしながら,前提事実(4)並びに認定事実(3),(5)に加え,証
拠(乙53の1,56,57)及び弁論の全趣旨によれば,①P4特
別顧問は,平成24年1月12日に市長から特別顧問を委嘱されるま
での間,被告やその職員による職員団体・労働組合らとの間に契約関
係,人的関係その他の利害関係を有しておらず,市長との面識も有し
ていなかったこと,②P4特別顧問は,市長から被告の職員による違
法活動等の調査を依頼されたことから,P20教授に対するヒアリン
グの結果や過去に関与した公務員の不祥事調査における経験を踏まえ,
被告における労使関係を調査するため,本件アンケートを実施するこ
とを発案し,その内容についても,本件調査チームのメンバーであっ
たP7特別顧問及びP9特別参与の意見を聴いたほかは,一人で作成
したものであり,本件アンケートを実施すること及びその内容につい
て,市長を含む被告の職員の了承や指示を得ることはなかったことが
認められる。
そうすると,P4特別顧問は,被告における労使関係を調査すると
いう目的で,本件アンケートの作成等をしたものと認められ,それを
超えて,職員団体・労働組合を敵視したり,弱体化させようとする意
図又は動機があったとは認め難い。
また,市長において,本件アンケートの作成過程を把握し,P4特
別顧問に指示するなどして,本件アンケートの個別の設問内容を自ら
の意に沿うものにしようとしていたと認めるに足りる証拠もない。
(エ)まとめ
以上によれば,本件アンケートを含む本件調査チームによる調査が市
長の労働組合「適正化」政策の一部を成していたことは,本件アンケー
トが原告らの憲法上の権利を侵害するものであったか否かを検討する上
で,重要な要素となるものということができる。
しかしながら,P4特別顧問が本件アンケートの作成等をするに当た
って,労働組合を弱体化しようとする意図又は動機があったとは認めら
れないし,適正な労使関係を形成すること自体は正当なものであって,
このような労使関係を形成するためには,従前の被告と労働組合との関
係において不適正な点があったかどうかを具体的に調査しなければなら
ないこともまた事実である。
そうすると,本件アンケートを含む本件調査チームによる調査が市長
の労働組合「適正化」政策の一部を成しており,市長による一連の上記
政策の中に,労働組合の団結権等を侵害する違法な施策が存在していた
としても,上記(ウ)で述べたことをも考慮すれば,そのことから直ち
に,本件アンケートが上記労働基本権を侵害することを意図するもので
あったとまではいえない。
イ本件アンケートの必要性について
(ア)被告は,本件アンケートの必要性として,被告の職員等による違法行
為等が多発する背景には,従前から続く労使関係癒着の構造が存在し,
使用者側と労働組合が明示的又は黙示的に結託して違法行為等の隠ぺい
を図っているという仮説が該当する可能性が高いことから,管理する側
のヒアリング調査では問題の実態は明らかにならないこと,個別具体的
な事象についての質問では根本原因の解明を期待することができないこ
と,内部告発の信用性を確認するために対象を限定することなく情報を
得る必要があったと主張する。
(イ)そこで検討するに,前提事実(2)並びに認定事実(1),(5)に加え,
証拠(乙8,11,53の1,56,57)によれば,本件アンケート
が実施された時点における状況として,①被告においては,職員厚遇問
題が大きく報道されるようになったことを受け,平成16年12月に設
置された改革委員会における議論を踏まえ,労使関係に関する改革が図
られてきたが,平成18年アンケートによれば,労使関係に問題がある
とする意見と問題がないとする意見が同数程度であったこと,②平成2
3年12月26日の市会交通水道委員会において,P13の役員が勤務
時間内組合活動を行っていたことが指摘され,交通局の幹部職員がこの
事実を認めて謝罪したこと,③平成24年1月27日の市会財政総務委
員会において,交通局の職員が勤務時間内に労働組合の会議に出席して
いたことが指摘され,交通局の幹部職員がこの事実を認めて謝罪したこ
と,④市庁舎に設置されていた本件目安箱に対する投書の中には,労働
組合による人事介入,勤務時間内組合活動及びヤミ便宜供与等について
告発するものが含まれており,P4特別顧問が同日面談した被告の職員
である内部告発者も同様の事実を述べていたことが認められる。
そうすると,少なくとも一部の労働組合については,勤務時間内組合
活動という問題点が一部明らかになっていたものであり,平成18年ア
ンケート,本件目安箱への投書及び内部告発者の告発内容からすれば,
被告における労使関係に関する調査の必要性がなかったとはいえない。
(ウ)一方,本件アンケートが実施された時点においては,前記(イ)以外
の労働組合については,違法行為等が具体的に明らかになっていたわけ
ではなく,全ての労働組合について違法行為等が次々と明らかになって
いるような緊急性の高い事態が発生していたとまでは認められない。ま
た,本件目安箱への投書の内容や上記内部告発者の告発内容を具体的に
裏付ける証拠が存在したとも認められない。
そして,P4特別顧問は,被告の職員による違法行為等の原因に関す
る調査の端緒として本件アンケートを実施したものであり(乙53の
1・2,57),本件アンケートは模索的・探索的な性質を有するもの
であって,前記仮説も飽くまで仮説の域を出るものではなかったもので
ある。
(エ)また,認定事実(1)のとおり,本件アンケートの実施前には,被告の
職員が覚せい剤取締法違反や殺人未遂の容疑で逮捕されるなど,被告の
職員による違法行為が頻発していたことが認められる。
しかしながら,被告の職員によるこれらの違法行為については,個人
的な問題である可能性も高く,これが労使関係の問題に起因するものと
は直ちに考え難いというべきである。
(オ)さらに,認定事実(4),(5)によれば,本件アンケートの実施当時,
被告の市長部局及び交通局においては,人事担当課長や管理職を対象と
する調査に着手していただけでなく,一部の労働組合が,どこまでの意
図を有していたかはさておくとしても,自主的な内部調査を行うことの
検討を開始していたことが認められる。
(カ)そして,被告が被告のほぼ全職員を対象とする本件アンケートを実施
した必要性として主張するところは,上記のとおり,管理する側のヒア
リング調査では問題の実態は明らかにならないこと,及び内部告発の信
用性を確認するため,対象を限定することなく情報を得る必要があった
というものである。
しかしながら,これらの必要性は抽象的なものにとどまっており,被
告のほぼ全職員を対象とする本件アンケートを実施する十分な必要性を
示すものとはいえない。また,P4特別顧問において,回答者を必要十
分な範囲に絞って本件アンケートを実施するといったことを検討した形
跡も存在しない。
(キ)そうすると,P4特別顧問は,被告が着手していた被告の職員や労働
組合の憲法上の権利を侵害する可能性が比較的低い手法による調査の結
果や,労働組合による自主的な内部調査の結果を待つことなく,直ちに
被告のほぼ全職員を対象とする本件アンケートの作成等をしたものであ
るところ,上記(ウ)のとおり,当時,緊急性の高い事態が発生してい
たわけではないことからすれば,P4特別顧問による上記行動は拙速と
の評価を免れないというべきである。
(ク)以上によれば,本件アンケートを実施する必要性が全く存在しなかっ
たとはいえないものの,職務命令をもってほぼ全職員を対象に後記のよ
うな網羅的な質問を内容とするアンケートを実施しなければならない必
要性は乏しいものであったということができる。
ウ本件アンケートの手法の相当性について
(ア)前提事実(3),(4)及び認定事実(6)によれば,本件アンケートは,
被告のほぼ全職員を対象として,被告における労使関係に関する広範な
内容について,本件職務命令により記名式での回答を義務付けたもので
あって,しかも,その実施に当たって被告の職員に示された職員宛て市
長メッセージ等には,真実を正確に回答することを求めるとともに,正
確な回答がされない場合には処分の対象となり得ることが明記されてい
たものである。
そうすると,本件アンケートは,懲戒処分の威嚇力を背景に,記名式
で正確な回答をすることを義務付けるものであって,その手法は強制的
なものであったということができるから,このような強制的な記名式の
アンケートを実施する際には,任意の無記名式で行う場合に比べて,そ
の内容が回答者の憲法上の権利を侵害するものとならないよう細心の注
意が払われる必要があったというべきである。
(イ)また,前提事実(4)ウによれば,本件アンケートの実施に当たって発
出された職員宛て市長メッセージ等には,被告の職員による違法又は不
適切と思われる政治活動や組合活動等について次々と問題が露呈してお
り,徹底した調査・実態解明により膿を出し切りたいと考えていると記
載されていることが認められる。
そして,本件アンケートの実施に当たって,上記のような記載のある
職員宛て市長メッセージ等が発出されたことによって,回答者である被
告の職員としては,市長において,労働組合が違法又は不適切な政治活
動や組合活動を行っており,そこには「膿」と表現するほどの問題点が
存在すると考えていると認識することになったものと考えられる。しか
しながら,実際には,上記イ(ウ)で述べたとおり,全ての労働組合に
ついて違法行為等が次々と明らかになっているような緊急性の高い事態
が発生していたものではなかったものである。
そうすると,本件アンケートの実施に当たって発出された職員宛て市
長メッセージは,被告の職員に対し,組合活動への参加を萎縮させる効
果を有するものであったといえ,このような職員宛てメッセージ等とと
もに本件アンケートが実施されたことは,手法として相当性を欠くもの
であったというべきである。
(ウ)これに対し,被告は,第三者委員会の求めに応じて企業等が業務命令
を発出したり,それに際し,調査に対して真実を述べることなどの指示
をしたりすることは,日弁連ガイドライン及びその解説において認めら
れている正当な手法であると主張する。
しかしながら,日弁連ガイドラインが,被調査者の憲法上の権利を侵
害するような調査に応じることを命じる業務命令を発出することまでも
容認しているとは考えられないから,本件アンケートの内容が回答者の
憲法上の権利を侵害するものとならないよう細心の注意が払われる必要
があったことには何ら変わりがないというべきである。
(エ)また,被告は,平成18年アンケートが極めて低い回収率にとどまっ
ていたため,本件アンケートの実効性を高めるためには,本件職務命令
が不可欠であったと主張する。
確かに,前提事実(2)によれば,任意の方法で行われた平成18年ア
ンケートの回収率はいずれも数%にとどまっていたことや,平成24年
2月1日に行われた労働組合の幹部とP4特別顧問の面談の際に,一部
の労働組合の幹部からは自主的な内部調査を検討する旨の意見が述べら
れていたものの,その余の労働組合の幹部は自主的な内部調査に否定的
な対応であり,むしろ,P4特別顧問の提案に対し,激怒するような対
応であったこと(乙53の1)からすれば,本件アンケートへの回答を
任意のものとした場合には,極めて低い回収率となり,実効性に乏しい
ものとなった可能性が高いと認められるから,回収率を高めるための方
策を講じる必要があったということができ,そのための方策として,職
務命令を発出することも選択肢の一つとしてあり得るものということが
できる。
しかしながら,本件アンケートの回収率を重視して,本件職務命令に
より回答を義務付ける以上,その内容が回答者の憲法上の権利を侵害す
るものとならないよう細心の注意が払われる必要性があったことには何
ら変わりがないものというべきである。
(オ)さらに,被告は,被告が個々のアンケートの回答内容について知り得
る立場にはなく,本件職務命令において懲戒処分の対象として想定され
ていたのは,白紙で回答したり,ふざけた回答をしたりするものについ
て問責する趣旨であって,特に悪質なものでない限り処分の可能性はな
く,そのことは明白であった旨主張する。
確かに,前提事実(4)ウによれば,職員宛て市長メッセージには,本
件アンケートの回答内容は本件調査チームのみが見て,被告の職員の目
に触れることは決してないことが記載されていることが認められる。
しかしながら,前提事実(4)ウによれば,同メッセージ等には,正確
な回答がされない場合には処分の対象となり得ること,本件アンケート
への回答で,自らの違法行為について真実を報告した場合,懲戒処分の
標準的な量定を軽減することが明記されていたことが認められるところ,
これらの記載からは,処分権者である市長において,本件アンケートへ
の回答が正確なものか否かを判断して懲戒処分をすることや,本件アン
ケートへの回答内容を見て懲戒処分の量定を判断することがあり得ると
しか理解することができず,被告が主張するような趣旨を読み取ること
は困難である。
そうすると,このような相矛盾する記載がされていることからすれば,
本件アンケートの回答者である被告の職員としては,処分権者である市
長が本件アンケートの回答内容を確認する可能性もあり得ると考えても
何ら不自然ではなかったというべきである。
(カ)以上によれば,本件アンケートの手法は強制的なものであったから,
その内容が回答者の憲法上の権利を侵害するものとならないよう細心の
注意が払われる必要があったとともに,本件アンケートの実施に当たっ
て発出された職員宛て市長メッセージは,被告の職員に対して,組合活
動への参加を萎縮させる効果を有するものであったことからすれば,こ
のような職員宛てメッセージ等とともに本件アンケートが実施されたこ
とは,手法として相当性を欠くものであったというべきである。
エ本件アンケートの個別の設問内容について
(ア)Q1からQ5までについて
a前提事実(3)によれば,Q1からQ5までは,回答者の氏名,職員番
号,所属部署,職種及び職員区分を質問するものであることが認められ
る。
これらの質問事項のうち,氏名,職員番号及び所属部署は,回収を確
認するためや,詳細なヒアリングが必要になった場合に連絡を取るため
に必要な事項であり,職種及び職員区分は,回答に偏りが生じていた場
合に,職種や職員区分による分類を行うために必要な事項であるといえ
るから,本件アンケートが記名式でのアンケートであることを前提とす
れば,これらの質問事項は必要なものであったということができる。
b原告らは,何重にも個人を特定させる項目を設け,市長の直筆署名入
り文書をもって告知されれば威嚇効果は十分にあり,Q6以降の質問項
目が各権利を侵害することに加えて,個人を特定し,記入を強制するこ
とで,権利侵害性を強める旨主張する。
しかし,氏名,職員番号,職種及び職員区分は,元々被告が把握して
いる客観的な情報にすぎないから,それらの情報を質問したとしても,
それのみで,威嚇効果が生じるとはいえず,原告らの憲法上の権利を侵
害するともいえない。
Q1ないしQ5の質問に対する回答を強制される不利益については,
Q6以降の個別の質問において原告らの権利が侵害されるか否かを判断
する際に併せて検討すれば足りる。
(イ)Q6について
前提事実(3)によれば,Q6は,労働条件に関する組合活動への参加
の有無やその活動内容等を質問するものであり,同活動に誘った人の氏
名については任意回答としていることが認められる
a思想・良心の自由の侵害の有無について
(a)思想・良心の自由は,人の内心の表白を強制されないという沈黙
の自由も含むものであるところ,思想・良心そのものではなくとも,
例えば,特定の思想団体への所属等の経歴等の申告を強制すること
は,実質的に思想内容の表白を強制するものに等しいものとして,
思想・良心の自由を侵害するものとなり得るものと解される。
そして,Q6は,回答者の思想・良心そのものを質問するもので
はないが,回答者の労働組合加入の有無,労働条件に関する組合活
動への参加の有無やその活動内容,同活動への参加のきっかけが判
明する質問となっているということができる。
(b)しかしながら,労働組合は,労働条件の維持改善その他経済的地
位の向上を図ることを主たる目的として組織されるものである(労
組法2条)し,労働組合加入の動機や組合活動への関与の在り方は
労働者によって様々であるから,労働組合に加入していることや組
合活動に参加していることなど自体が,直ちに特定の思想内容を推
知させるものであるとまではいえない。
また,労働組合は,使用者との団体交渉(労組法6条)や労働協
約の締結(同法14条)等の団体行動を通じて,労働条件の維持改
善を図るものであるところ,このような団体行動においては,例え
ば,団体交渉やチェック・オフに関する労使協定の締結,不当労働
行為に対する救済申立て等において,個々の労働者が労働組合に加
入しているかどうかやその活動内容が使用者に対して開示されるこ
とも予定されているといえる。
そうすると,Q6については,その余の点について検討するまで
もなく,労働組合加入や組合活動への参加の有無等が判明する質問
への回答を求めることが,直ちに思想内容の表白を強制するものと
して,思想・良心の自由を侵害するとまではいえない。
(c)したがって,Q6が原告らの思想・良心の自由を侵害するもので
あったとはいえない。
(d)なお,原告らは,本設問を含め,この後の設問についても,消極
的表現の自由をも侵害すると主張するが,表現行為を強制するもの
でないことは明らかであるから理由がない。
b政治活動の自由の侵害の有無について
(a)原告らも自認するとおり,Q6は組合活動について質問するもの
であって,政治活動について質問するものではないから,その余の
点について検討するまでもなく,Q6が原告らの政治活動の自由を
侵害するものであったとはいえない。
(b)原告らは,組合活動には当然に政治活動も含まれるし,他の質問
と併せて集計すれば,どのような政治的思想を持つかも明らかにさ
れてしまうから,政治活動の自由を侵害する旨主張する。
しかし,労働組合は,労働条件の維持改善その他経済的地位の向
上を図ることを主たる目的として組織されるものであり,使用者と
の団体交渉(労組法6条)や労働協約の締結(同法14条)等の団
体行動を通じて,労働条件の維持改善を図るものであることからす
れば,組合活動に常に政治活動が含まれると解することはできない。
また,その点を措くとしても,労働組合が行う組合活動には様々
なものがあるところ,Q6はそれらの組合活動のうち労働条件に関
するものに限って参加の有無及びその活動内容を問うものにすぎず,
政治活動への参加の有無やその内容を問うものではないことからす
れば,ほかの質問と併せて検討しても,Q6に回答したからといっ
て,原告らの政治的思想が明らかになるものでもない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
c労働基本権の侵害の有無について
(a)憲法28条は労働者の労働基本権を保障しているところ,例えば,
使用者がその雇用する労働者のうち誰が組合員であるかを知ろうと
することは,それ自体として禁止されているものではなく,労働協
約の締結,賃金交渉等の前提として個々の労働者の組合加入の有無
を把握する必要を生ずることも少なくないが,本来使用者の自由に
属する行為であっても,労働者の団結権等との関係で一定の制約を
被ることは免れないものと解される(最高裁平成7年9月8日第二
小法廷判決・集民176号699頁参照)。
(b)Q6は,労働条件に関する組合活動への参加の有無やその活動内
容等を質問するものであるところ,被告は,Q6について,本件ア
ンケートに先立ち,勤務時間内組合活動やヤミ便宜供与等の存在が
判明していたことから,これらの事実の有無又はこれらに関する調
査の端緒となる事象の有無を確認する必要性があったと主張する。
確かに,被告が主張するとおり,勤務時間内組合活動やヤミ便宜
供与等の問題が存在することが判明していたことからすると,問題
のある組合活動が行われていないかを調査する必要性自体はあった
ということができる。
しかし,Q6は,被告のほぼ全職員を対象に,組合活動に誘われ
た事実や参加した組合活動の内容等に関し,時間帯が勤務時間内か
否か,場所が勤務場所か否かを限定することなく質問するものであ
るところ,被告の職員が適法な組合活動を行うこと自体には何ら問
題がないことからすれば,問題のある組合活動に関し調査すれば足
り,漫然と組合活動一般について質問を行うことは,広範にすぎる
といわざるを得ない。
(c)また,前記ア及びウで述べたとおり,本件アンケートは,市長に
よる労働組合「適正化」政策の一部を成しており,それには,市長
において,労働組合が違法又は不適切な政治活動や組合活動を行っ
ており,そこには「膿」と表現するほどの問題点が存在すると考え
ていることを示す職員宛て市長メッセージ等が添付されていたもの
である。
(d)以上からすると,Q6は,上記各事項について質問することによ
って,回答者である被告の職員に対し,被告が組合活動に参加する
こと自体について問題視しているとの印象を与えるに止まらず,労
働組合が違法又は不適切な組合活動をしているのではないかとの印
象を与え,組合活動への参加を萎縮させる効果を有するというべき
である。
また,被告の職員において,Q16で労働組合への加入歴を回答
するとともに,Q6で組合活動への参加の有無やその活動内容等を
回答した場合,前記ウ(オ)で述べた懲戒処分に言及する記載も相
まって,何らかの不利益を受けるのではないかと懸念するのもやむ
を得ないといえるから,Q6は,職員に動揺を与える内容のもので
あり,労働組合を弱体化させるものであったということができる。
さらに,Q6においては,労働条件に関する組合活動に誘った人
の氏名は任意回答とされているが,上記で述べたことからすれば,
Q6が上記萎縮効果を有するとともに,職員に動揺を与える内容の
ものであったことには変わりがないというべきである。
(e)したがって,Q6は,原告らの労働基本権を侵害するものであっ
たというべきである。
dプライバシーの侵害の有無について
(a)憲法13条は,国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても
保護されるべきことを規定しているものと解されるところ,個人の
私生活上の自由の一つとして,プライバシーをみだりに侵害されな
い自由も保障されているものと解される。そして,具体的な情報が
プライバシーとして保護されるには,個人の私生活上の事実又は情
報で周知のものではなく,一般人を基準として,他人に知られるこ
とで私生活上の平穏を害するような情報であることが必要と考えら
れる。
Q6は,労働組合加入や組合活動への参加の有無等が判明する質
問であるものの,開示を求められているのは労働条件に関する組合
活動への参加の有無等に関する事実に限られており,前記a(b)で
述べたところを併せ考慮すれば,このような事実については,一般
人を基準として,他人に知られることで私生活上の平穏を害するよ
うな情報であるとまでは認められない。
なお,前記c(d)で述べたとおり,上記事実を開示することによ
って,回答者において,被告から何らかの不利益を受けるのではな
いかという懸念や動揺が生じるとしても,このような懸念や動揺は
上記事実の開示そのものに対するものではないから,労働基本権侵
害に該当する場合であっても,プライバシーを侵害するものとはい
えない。
(b)したがって,Q6については,その余の点について検討するまで
もなく,原告らのプライバシーを侵害するものであったとはいえな
い。
e人格権の侵害の有無について
原告らは,職場における自由な人間関係を形成する自由が憲法13
条によって保障される人格権の一つであるとした上で,Q6が,上記
の内容の人格権を侵害するものにほかならない旨主張する。
しかしながら,原告らが主張する上記自由がどのような内実を有す
るものか不明瞭であり,かかる自由が人格権の一内容として保護され
ると解することはできず,その余の点について検討するまでもなく,
原告らの人格権を侵害するものであったとはいえない。
なお,原告は,Q12を除くこの後の設問について,同様の主張を
しているが,同様に理由がない。
f小括
以上によれば,Q6は,原告らの労働基本権を侵害するものであっ
たが,その他の憲法上の権利を侵害するものであったとはいえない。
(ウ)Q7について
前提事実(3)によれば,Q7は,特定の政治家を応援する活動への参
加の有無等を質問するものであると認められる。
a思想・良心の自由の侵害の有無について
(a)Q7は,特定の政治家を応援する活動への参加の有無等を質問す
るものであって,回答者の思想・良心そのものを質問するものでは
なく,具体的にどの政治家を応援する活動であるかについて質問す
るものでもないから,この質問によって,原告らの思想内容が明ら
かになるとはいえない。
なお,原告らは,回答することによって,市長選挙においてP1
9前市長を応援したことが特定されると主張するが,それはあくま
でも回答結果から本件調査チームが推測する結果にすぎず,上記回
答欄に記入された情報だけから,そのように確実に断定するには足
りないのであるから,前記結論を左右しない。
(b)したがって,Q7については,その余の点について検討するまで
もなく,原告らの思想・良心の自由を侵害するものであったとはい
えない。
b政治活動の自由の侵害の有無について
(a)憲法21条は表現の自由としての政治活動の自由を保障しており,
地公法36条の政治的行為の制約を受ける地方公務員であっても,
同制約を受けるほかは,政治活動の自由の保障を受けることには変
わりがないものと解される。
しかしながら,Q7は,特定の政治家を応援する活動への参加の
有無等を質問するものにとどまり,政治活動への参加を禁止又は妨
害したり,逆に政治活動への参加を強制したりするものではないか
ら,原告らの政治活動の自由を侵害するものとまでは認められない。
(b)したがって,Q7については,その余の点について検討するまで
もなく,原告らの政治活動の自由を侵害するものであったとはいえ
ない。
c労働基本権の侵害の有無について
(a)Q7は,特定の政治家を応援する活動への参加の有無や労働組合
から参加を誘われたかなどを質問するものであるところ,時間帯が
勤務時間内か否か,場所が勤務場所か否かを限定することなく質問
するものであって,前記(イ)c(b)で述べたとおり,過度に広範
なものであったといわざるを得ない。
また,本件アンケートは,市長による労働組合「適正化」政策の
一部を成していて,特に本設問は市長が同政策を取るようになった
動機に直接関わるものであるとともに,それには,市長において,
労働組合が違法又は不適切な政治活動や組合活動を行っており,そ
こには「膿」と表現するほどの問題点が存在すると考えていること
を示す職員宛て市長メッセージ等が添付されていたものである。
そうすると,Q7は,上記各事項について質問することによって,
回答者である被告の職員に対し,労働組合が違法又は不適切な政治
活動をしているのではないかとの印象を与え,組合活動への参加を
萎縮させかねないものであったということができる。
(b)しかしながら,前記ア(ウ)で述べたとおり,本件アンケートは,
上記動機を有する市長の指示等により作成されたものではなく,P
4特別顧問が自らの判断により作成したものであって,同顧問には
労働組合らを無力化又は弱体化しようとする意図又は動機があった
とは認められない。また,Q7によって開示を求められる事実は,
特定の政治家を応援する活動への参加の有無等というものであると
ころ,このような活動は,憲法28条によって保障される団結権等
の行使としての組合活動の中核的なものであるとはいえない上,Q
7においては,具体的な政治家の氏名の回答は要求されておらず,
特定の政治家を応援する活動に誘った人の氏名も任意回答とされて
いて,労働組合の具体的な政治活動の内容の回答を強制するものと
はなっていない。
そうすると,Q7の選択肢は,勧誘者について労働組合と労働組
合以外の者という区分けにより質問をしており,労働組合を特別視
していることを考慮したとしても,Q7が,直ちに労働組合に加入
する職員に動揺を与え,同組合を弱体化させる質問であるとまでは
評価することができない。
(c)したがって,Q7が原告らの労働基本権を侵害するものであった
とはいえない。
dプライバシーの侵害の有無について
(a)Q7は,特定の政治家を応援する活動への参加の有無等を質問す
るものであるところ,被告は,本件アンケートに先立ち,勤務時間
内におけるP19前市長の推薦者紹介カードの配布等が判明してい
たことから,違法又は不適切な政治活動の有無や,それに関する調
査の端緒となる事象の有無を確認する必要があったと主張する。
(b)しかしながら,前記(イ)c(b)で述べたとおり,Q7は過度に
広範なものであったといわざるを得ない。
そして,特定の政治家を応援する活動への参加の有無等という事
実は,職務と関連しない私生活上の事実であって,労働組合に加入
して団体行動をする場合に使用者に対して開示されることが予定さ
れているようなものでもなく,前記アで述べたとおり,本件アンケ
ートが市長による労働組合「適正化」政策の一部を成しており,組
合活動の一環として政治活動を行うことを被告が問題視している状
況においては,組合から誘われて政治活動を行ったとの事実は,具
体的な政治家の氏名の回答を要求していない点を考慮しても,一般
人を基準として,他人に知られることで私生活上の平穏を害するよ
うな情報であると認められる。
なお,Q7においては,特定の政治家を応援する活動に誘った人
の名前は任意回答とされているが,上記で述べたことからすれば,
原告らのプライバシーが侵害されたことには変わりがないというべ
きである。
(c)したがって,Q7は,原告らのプライバシーを侵害するものであ
ったというべきである。
(d)これに対し,被告は,違法行為等の調査の一環として特定の政治
家を応援する活動への参加の有無等を確認しているのであり,職務
と関係のない私的な事項であるとはいえない旨主張する。
しかし,Q7は,違法又は不適切な政治活動とそうではない政治
活動を何ら区別することなく質問することによって,職務と関係の
ない私的な事項についても回答を強制することになっているものと
いわざるを得ないから,被告の上記主張は採用することができない。
e小括
以上によれば,Q7は,原告らのプライバシーを侵害するものであ
ったが,その他の憲法上の権利を侵害するものであったとはいえない。
(エ)Q8について
前提事実(3)によれば,Q8は,職場の関係者からの特定の政治家へ
の投票要請の有無等を質問するものであると認められる。
a思想・良心の自由の侵害の有無について
(a)Q8は,職場の関係者からの特定の政治家への投票要請の有無等
を質問するものであって,回答者の思想・良心そのものを質問する
ものではなく,また,特定の政治家への投票の有無を質問するもの
でもないから,この質問によって,原告らの思想内容が明らかにな
るとはいえない。
なお,原告らは,任意回答の対象である「要請した人」を回答す
る者がいることによって,記載された者の政治的信条を推知するこ
とが可能になると主張するが,当該本人が上記内容の表白を強制さ
れるわけではないことは明らかであるし,上記回答欄に他者が記入
した情報だけから,そのように本件調査チームにおいて確実に断定
することもできないことは明らかであるから,前記結論を左右しな
い。
(b)したがって,Q8については,その余の点について検討するまで
もなく,原告らの思想・良心の自由を侵害するものであったとはい
えない。
b政治活動の自由の侵害の有無について
(a)Q8は,第三者の行為である特定の政治家に対する投票要請の有
無等を質問するものにとどまるから,回答者自身の政治活動を萎縮
させるに足りるものとはいえないし,また,回答者に対し,政治活
動への参加を禁止又は妨害したり,逆に政治活動への参加を強制し
たりするものではないから,原告らの政治活動の自由を侵害するも
のとまでは認められない。
(b)したがって,Q8については,その余の点について検討するまで
もなく,原告らの政治活動の自由を侵害するものであったとはいえ
ない。
c労働基本権の侵害の有無について
(a)Q8は,特定の政治家に対する投票要請の有無やそれが労働組合
からの要請であるかなどを質問するものであるところ,前記(ウ)
c(a)で述べたところと同様,Q8は,上記各事項について質問す
ることによって,労働組合による投票要請それ自体は直ちに違法な
ものではないにもかかわらず,回答者である被告の職員に対し,労
働組合が違法又は不適切な政治活動をしているのではないかとの印
象を与え,組合活動への参加を萎縮させかねないものであったとい
うことができる。
(b)しかしながら,前記(ウ)c(b)で述べたところと同様,本設問
は,上記動機を有する市長の指示等により作成されたものではなく,
P4特別顧問が自らの判断により作成したものであって,同顧問に
は労働組合を無力化又は弱体化しようとする意図又は動機があった
とは認められない。
また,Q8によって開示を求められる事実は,主に労働組合から
の特定の政治家に対する投票要請の有無等というものであるところ,
このような投票要請行動は,憲法28条によって保障される団結権
等の行使としての組合活動の中核的なものであるとはいえない上,
Q8においては,具体的な政治家の氏名の回答は要求されておらず,
特定の政治家への投票要請をした人の氏名も任意回答とされていて,
労働組合の具体的な政治活動の内容の回答を強制するものとはなっ
ていないし,回答の対象も回答者自身の行為ではない。
そうすると,Q8の選択肢は,要請者について労働組合と労働組
合以外の者という区分けにより質問をしており,労働組合を特別視
していることを考慮したとしても,Q8が,直ちに労働組合に加入
する職員に動揺を与え,同組合を弱体化させるものであったり,同
組合に対する支配介入に当たる質問であると評価することはできな
い。
(c)したがって,Q8については,その余の点について検討するまで
もなく,原告らの労働基本権を侵害するものであったとはいえない。
dプライバシーの侵害の有無について
(a)Q8は,回答者が職場の関係者から特定の政治家への投票要請を
されたかどうかなどを質問するものであって,回答者自身の投票の
有無や内容及び投票要請をされた具体的な政治家を回答することは
要求されていないことからすれば,Q8によって,回答者の政治的
信条が明らかになることはなく,また,職場の関係者から投票要請
をされたという事実それ自体が,一般人を基準として,他人に知ら
れることで私生活上の平穏を害するような情報であるとまではいえ
ない。
他者の回答により政治的信条等が推知されるとの原告の主張につ
いては,前記aで述べたとおり,上記結論を左右しない。
(b)したがって,Q8については,その余の点について検討するまで
もなく,原告らのプライバシーを侵害するものであったとはいえな
い。
e小括
以上によれば,Q8が原告らの憲法上の権利を侵害するものであっ
たとはいえない。
(オ)Q9について
前提事実(3)によれば,Q9は,紹介カードの配布を受けた事実の有
無や紹介カードに記入して返却した理由等を質問するものであると認め
られる。
なお,原告は,小問(1)「あなたは,この2年間,『紹介カード』を
配布されたことがありますか」に対する回答に「配布する側だった」と
いう選択肢が設けられ,さらに配布を依頼した人や配布方法の記入欄が
設けられていることを根拠に,紹介カードの配布に関する活動の有無を
回答させるものであったと主張する。しかし,それらは,結局のところ,
紹介カードの配布に関し,回答者の自身の行為を問うというよりも,回
答者に働きかけを行った第三者の行為の内容を問うことに主眼があり,
その点からいうと,他の選択肢と同趣旨のものであって,その後の小問
(2)及び(3)は,専ら配布を受けたことに関するものに終始しているこ
とを併せ考慮しても,Q9が回答者の上記活動の有無やその内容を質問
するものとは評価できない。
a思想・良心の自由の侵害の有無について
(a)Q9は,紹介カードの配布を受けた事実の有無やそれに記入して
返却した理由等を質問するものであって,回答者の思想・良心その
ものを質問するものではなく,また,どの選挙候補者陣営のための
紹介カードであるかを質問するものでもないから,この質問によっ
て,原告らの思想内容が明らかになるとはいえない。
なお,原告らは,回答することによって,市長選挙においてP1
9前市長を応援したことが特定されると主張するが,それはあくま
でも回答結果から本件調査チームが推測する結果にすぎず,上記回
答欄に記入された情報だけから,そのように確実に断定するには足
りないのであるから,前記結論を左右しない。
(b)したがって,Q9については,その余の点について検討するまで
もなく,原告らの思想・良心の自由を侵害するものであったとはい
えない。
b政治活動の自由の侵害の有無について
(a)Q9は,紹介カードの配布を受けた事実の有無やそれに記入して
返却した理由等を質問するものにとどまり,政治活動への参加を禁
止又は妨害したり,逆に政治活動への参加を強制したりするもので
はなく,これらの質問によって職員の政治活動に萎縮効果をもたら
すものともいえないから,原告らの政治活動の自由を侵害するもの
とまでは認められない。
(b)したがって,Q9については,その余の点について検討するまで
もなく,原告らの政治活動の自由を侵害するものであったとはいえ
ない。
c労働基本権の侵害の有無について
(a)Q9は,紹介カードの配布を受けた事実の有無やそれに記入して
返却した理由等を質問するものであるところ,前記(イ)c(b)で
述べたところと同様,調査の具体的必要性が認められる部分を超え
て過度に広範に回答を義務付けているし,この質問は,平成23年
11月の市長選挙において労働組合によりP19前市長の紹介カー
ドが配布されていたという市会交通水道委員会における指摘を前提
とするものであって,前記ア及びウで述べたとおり,本件アンケー
トは,市長による労働組合「適正化」政策の一部を成していて,特
に本設問は市長が同政策を取るようになった動機に直接関わるもの
であるとともに,それには,市長において,労働組合が違法又は不
適切な政治活動や組合活動を行っており,そこには「膿」と表現す
るほどの問題点が存在すると考えていることを示す職員宛て市長メ
ッセージ等が添付されていたものである。
そうすると,回答者において,Q9が市会交通水道委員会におけ
る指摘を前提とするものであることを認識していた場合,Q9は,
上記各事項について質問することによって,労働組合による紹介カ
ードの配布それ自体は直ちに違法なものではないにもかかわらず,
回答者である被告の職員に対し,労働組合が違法又は不適切な政治
活動をしているのではないかとの印象を与え,組合活動への参加を
萎縮させかねないものであったということができる。
(b)しかしながら,前記ア(ウ)で述べたとおり,本設問は,上記動
機を有する市長の指示等により作成されたものではなく,P4特別
顧問が自らの判断により作成したものであって,同顧問には労働組
合を無力化又は弱体化しようとする意図又は動機があったとは認め
られない。また,Q9には労働組合に関する記載がない以上,少な
くとも上記認識を欠いている回答者については,上記萎縮効果を認
めることはできないことに加えて,前記(エ)c(b)で述べたこと
からすれば,紹介カードの配布を受けた事実の有無等の回答を求め
ることが,直ちに労働組合に加入する職員に動揺を与え,同組合を
弱体化させる質問であるとまでは評価することができない。
なお,原告らは,紹介カードは多数派組合が用いたものであり,
多数派組合の行う選挙活動に萎縮効果をもたらすことになる旨主張
するが,原告らは,多数派組合には所属していなかったのであるか
ら,原告らの主張を前提としても,Q9によって原告らの政治活動
の自由が侵害されることにはならないのであり,原告らの上記主張
は失当である。
(c)したがって,Q9が原告らの労働基本権を侵害するものであった
とはいえない。
dプライバシーの侵害の有無について
(a)Q9は,紹介カードの配布を受けた事実の有無やそれに記入して
返却した理由等を質問するものであって,このような事実は,職務
と関連しない私生活上の事実であって,具体的な選挙候補者陣営の
名称の回答を要求していない点を考慮しても,上記アで述べたとお
り,本件アンケートが市長による労働組合「適正化」政策の一部を
成しており,被告が組合による政治活動を問題視しており,かつ,
組合による紹介カードの配布が行われていた事情の下においては,
紹介カードを配布されたり,配布を依頼されたことや,それに記入
して返却した事実は,一般人を基準として,他人に知られることで
私生活上の平穏を害するような情報であると認められるとともに,
前記(イ)c(b)で述べたところと同様,調査の具体的な必要性が
認められる部分に限定せずに過度に広範に回答を義務付けるもので
あった。
そうすると,前記ウで述べたとおり,本件アンケートが強制的な
手法によるものであったことも勘案すると,原告らは,このような
事実の開示を強制されることによってプライバシーを侵害されたも
のということができる。
なお,Q9においては,紹介カードを配布した人等の名前は任意
回答とされているが,上記で述べたことからすれば,Q9がプライ
バシーを侵害するものであることには変わりがないというべきであ
る。
(b)これに対し,被告は,本件アンケートに先立ち,勤務時間内にお
けるP19前市長の推薦者紹介カードの配布等が判明していたこと
などから,これらに関する調査の端緒となる事象の有無を確認する
必要があったことや,違法行為等の調査の一環として紹介カードの
配布の有無等を確認しているのであり,職務と関係のない私的な事
項であるとはいえないと主張するが,これらの主張を採用すること
ができないことは,前記(ウ)d(d)で述べたとおりである。
(c)したがって,Q9は,原告らのプライバシーを侵害するものであ
ったというべきである。
e小括
以上によれば,Q9は,原告らのプライバシーを侵害するものであ
ったが,その他の憲法上の権利を侵害するものであったとはいえない。
(カ)Q10について
前提事実(3)によれば,Q10は,組合幹部が職場で優遇されている
と思うか否か及びこれを指摘しづらい理由について質問するものである
と認められる。
a思想・良心の自由の侵害の有無について
(a)Q10は,組合幹部が職場で優遇されていると思うか否か及びこ
れを指摘しづらい理由について質問するものであって,回答者の思
想・良心そのものを質問するものではないし,この質問によって,
原告らの思想内容が明らかになるともいえない。
(b)したがって,Q10については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らの思想・良心の自由を侵害するものであったとは
いえない。
b労働基本権の侵害の有無について
(a)Q10は,組合幹部が職場で優遇されていると思うか否か及びこ
れを指摘しづらい理由について質問するものであるところ,前記ア
で述べたとおり,本件アンケートは,市長による労働組合「適正化」
政策の一部を成しており,それには,市長において,労働組合が違
法又は不適切な政治活動や組合活動を行っており,そこには「膿」
と表現するほどの問題点が存在すると考えていることを示す職員宛
て市長メッセージ等が添付されていたものである。
そうすると,Q10は,上記各事項について質問することによっ
て,回答者である被告の職員に対し,労働組合の幹部が職場で不当
に優遇されているのではないかとの印象を与え,組合活動への参加
を萎縮させかねないものであったということができる。
(b)しかしながら,職員は公平に取り扱われる必要があり,例えば,
人事異動についてはその能力に応じて配置される必要があるから,
被告が主張するように,組合幹部が労働組合の幹部であることある
いはあったことを理由として職場で優遇されているとすれば,それ
自体が問題であるから,組合幹部に対する優遇の事実を調査する必
要性がなかったとはいえない。
また,Q10の質問内容は抽象的な感想又は意見を尋ねるものに
すぎない。これらの事情を考慮すると,Q10について,これが直
ちに労働組合に加入する職員に動揺を与え,同組合を弱体化させる
質問であるとまでは評価することができない。
(c)したがって,Q10が原告らの労働基本権を侵害するものであっ
たとはいえない。
cプライバシーの侵害の有無について
(a)Q10は,組合幹部が職場で優遇されていると思うか否か及びこ
れを指摘しづらい理由について質問するものであって,他者である
組合幹部について,職務行為そのものではない私的かつ抽象的な感
想又は意見を明らかにさせるものにすぎず,一般人を基準として,
上記感想等を他人に知られることで私生活上の平穏を害するような
ものであるとは認め難い。
また,組合幹部に対する優遇の事実の有無を調査する必要性がな
かったといえないことは前記b(b)のとおりである。
そうすると,原告らが上記のような感想又は意見の開示を求めら
れたからといって,プライバシーを侵害されたとまでいうことはで
きない。
(b)したがって,Q10が原告らのプライバシーを侵害するものであ
ったとはいえない。
d小括
以上によれば,Q10が原告らの憲法上の権利を侵害するものであ
ったとはいえない。
(キ)Q11について
前提事実(3)によれば,Q11は,職員の採用について有利に取り扱
ってもらった者がいるかなどについて質問するものであると認められる。
a思想・良心の自由の侵害の有無について
(a)Q11は,被告の職員の採用について有利に取り扱ってもらった
ものがいるかなどについて質問するものであって,回答者の思想・
良心そのものを質問するものではないし,この質問によって,原告
らの思想内容が明らかになるともいえない。
(b)したがって,Q11については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らの思想・良心の自由を侵害するものであったとは
いえない。
b労働基本権の侵害について
(a)Q11は,職員の採用について有利に取り扱ってもらった者がい
るかなどを質問するものであるところ,その選択肢の中には,「組
合幹部の推薦により,採用で有利に取り扱ってもらった者がいる」
というものが含まれており,前記アで述べたとおり,本件アンケー
トは,市長による労働組合「適正化」政策の一部を成しており,そ
れには,市長において,労働組合が違法又は不適切な政治活動や組
合活動を行っており,そこには「膿」と表現するほどの問題点が存
在すると考えていることを示す職員宛て市長メッセージ等が添付さ
れていたものである。
また,本件アンケートは,労働組合及びその組合活動に関する質
問が多くを占めており,上記の職員宛て市長メッセージ等も添付さ
れていたことからすれば,Q11の選択肢の中に,他の選択肢と並
んで「組合幹部の推薦により,採用で有利に取り扱ってもらった者
がいる」というものが含まれることによって,組合幹部が職員の採
用に当たって不当な人事介入をしているのではないかとの印象を与
えることになったものといえる。
そうすると,Q11は,上記事項について質問することによって,
回答者である被告の職員に対し,組合幹部が職員の採用に当たって
不当な人事介入をしているのではないかとの印象を与え,組合活動
への参加を萎縮させかねないものであったということができる。
(b)しかしながら,職員の採用においては,当該人物の受験成績,人
事評価その他の能力の実証に基づいて行わなければならないとされ
ているところ(地公法15条),被告が主張するように,職員の採
用について不当な介入があるとすれば,それ自体が問題であり,地
公法15条が定める能力に基づく任用に反する事例について回答を
求め,そのような事例を調査する必要性がなかったとはいえないこ
とからすれば,Q11について,直ちに労働組合に加入する職員に
動揺を与え,同組合を弱体化させる質問であるとまでは評価するこ
とができない。
(c)したがって,Q11が原告らの労働基本権を侵害するものであっ
たとはいえない。
cプライバシーの侵害の有無について
(a)原告らは,Q11のうち「自分自身が上記のような者の推薦によ
り,採用で有利に取り扱ってもらった」という選択肢がプライバシ
ー権を侵害するものであると主張する。
しかしながら,被告の職員として採用されるに当たって,政治家
や組合幹部等の推薦により有利に取り扱ってもらったという事実は,
職員としての身分そのものにも関わるものであって,単なる私的な
事実とはいえない。
また,前記b(b)で述べたとおり,上記のような調査を端著とし
て,地公法15条が定める能力に基づく任用に反する事例の有無を
調査する必要性がなかったとまではいえない。
そうすると,このような事実を質問することによって,回答者で
ある原告らのプライバシーが侵害されたとまではいうことができな
い。
(b)したがって,Q11が原告らのプライバシーを侵害するものであ
ったとはいえない。
d小括
以上によれば,Q11が原告らの憲法上の権利を侵害するものであ
ったとはいえない。
(ク)Q12について
前提事実(3)によれば,Q12は,職場において選挙のことが話題に
なったことがあるかなどについて質問するものであると認められる。
a思想・良心の自由の侵害の有無について
(a)Q12は,職場において選挙のことが話題になったことがあるか
などについて質問するものであって,回答者の思想・良心そのもの
を質問するものではなく,また,回答者自身が話題にした内容や選
挙における具体的な投票行動等について質問するものでもないから,
この質問によって,原告らの思想内容が明らかになるとはいえない。
なお,原告らは,休み時間中に仲間同士の雑談の中で話題になっ
たと回答すれば,直近2年間の選挙に関心を寄せていたかどうかを
推知することになり,政治や選挙に関心があるかどうか,職員の政
治的信条を告白させることになる旨主張するが,雑談の中で話題に
なったと回答しても,回答者がどのような政治的信条を有している
かは全く明らかにならないから,原告らの上記主張は採用すること
ができない。
(b)したがって,Q12については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らの思想・良心の自由を侵害するものであったとは
いえない。
b政治活動の自由の侵害の有無について
(a)Q12は,職場において選挙のことが話題になったことがあるか
などについて質問するものにとどまり,回答者自身が話題にした内
容や選挙における具体的な投票行動等について質問するものでもな
く,政治活動への参加を禁止又は妨害したり,逆に政治活動への参
加を強制したりするものでもないから,原告らの政治活動の自由を
侵害するものとまでは認められない。
原告は,Q12は職場において選挙のことを話題にすることを問
題視する質問であり,合法的な政治的意思表明を萎縮させる旨主張
するが,Q12の選択肢が,勤務時間中であるか否か,職務に関連
したものであるか否かについて尋ねていることから明らかなように,
Q12は勤務時間中に政治活動が行われていたか否かを尋ねること
を意図したものであるところ,勤務時間中に政治活動を行うことは
許されないことからすれば,Q12が原告らの合法的な政治的意思
表明を萎縮させるということはできない。
(b)したがって,Q12については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らの政治活動の自由を侵害するものであったとはい
えない。
c労働基本権の侵害の有無について
(a)Q12は,職場において選挙のことが話題になったことがあるか
などについて質問するものであるところ,その選択肢の中には,
「組合の幹部が,勤務時間中に,職務に関連して話題にした」や
「組合の幹部が,勤務時間中に,職務と無関係に話題にした」とい
うものが含まれ,その具体的な内容までも回答を求めており,前記
アで述べたとおり,本件アンケートは,市長による労働組合「適正
化」政策の一部を成していて,特に本設問は市長が同政策を取るよ
うになった動機に直接関わるものであるとともに,それには,市長
において,労働組合が違法又は不適切な政治活動や組合活動を行っ
ており,そこには「膿」と表現するほどの問題点が存在すると考え
ていることを示す職員宛て市長メッセージ等が添付されていたもの
である。
そうすると,Q12は,上記事項について質問することによって,
回答者である被告の職員に対し,労働組合が違法又は不適切な選挙
活動をしているのではないかとの印象を与え,組合活動への参加を
萎縮させかねないものであったということができる。
(b)しかしながら,上記(ウ)c(b)で述べたところと同様,本設問
は,前記動機を有する市長の指示等により作成されたものではなく,
P4特別顧問が自らの判断により作成したものであって,同顧問に
は労働組合らを無力化又は弱体化しようとする意図又は動機があっ
たとは認められない。さらに,本設問では,回答者自身が話題にし
た内容や選挙における具体的な投票行動等についての回答は求めら
れておらず,前記イで述べたとおり,違法又は不適切な政治活動の
事実の有無を調査する必要性がなかったとはいえないし,組合幹部
に関する選択肢は,勤務時間中のものに限定されているから,上記
調査の必要性との関係でも配慮がされているものということができ
る。
そうすると,Q12について,これが直ちに労働組合に加入する
職員に動揺を与え,同組合を弱体化させる質問であるとまでは評価
することができない。
(c)したがって,Q12が原告らの労働基本権を侵害するものであっ
たとはいえない。
dプライバシーの侵害の有無について
(a)Q12は,職場において選挙のことが話題になったことがあるか
や,回答者以外の者が話題にした内容等について質問するものであ
って,回答者自身が話題にした内容や選挙における具体的な投票行
動等についての回答は要求されておらず,職場において選挙のこと
が話題になったという事実それ自体が,一般人を基準として,他人
に知られることで私生活上の平穏を害するような情報であるとまで
はいえない。
また,認定事実(1)オのとおり,組合員である職員が勤務時間中
に市長選の報告集会に参加したり,勤務時間中に推薦カードを配布
するという事案が発生していたことからすれば,勤務時間中におけ
る選挙の話題の有無について回答させることを端著として,違法又
は不適切な政治活動の事実の有無を調査する必要性がなかったとは
いえない。
そうすると,職場において選挙のことが話題になったことがある
かなどを質問することによって,回答者である原告らのプライバシ
ーが侵害されたとまではいうことができない。
(b)したがって,Q12が原告らのプライバシーを侵害するものであ
ったとはいえない。
e小括
以上によれば,Q12が原告らの憲法上の権利を侵害するものであ
ったとはいえない。
(ケ)Q13について
前提事実(3)によれば,Q13は,職場における組合活動及び選挙運
動に関して問題のないと思われる選択肢を選択するよう求める質問であ
ると認められる。
a思想・良心の自由の侵害の有無について
(a)Q13は,職場における組合活動及び選挙運動に関して問題のな
いと思われる選択肢を選択するよう求めるものであって,回答者の
思想・良心そのものを質問するものではなく,また,この質問によ
って,原告らの思想内容が明らかになるともいえない。
(b)したがって,Q13については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らの思想・良心の自由を侵害するものであったとは
いえない。
b政治活動の自由の侵害の有無について
(a)Q13は,職場における組合活動及び選挙運動に関して問題のな
いと思われる選択肢を選択するよう求めるにとどまり,政治活動へ
の参加を禁止又は妨害したり,合法的な政治活動を差し控えさせる
ものではなく,逆に政治活動への参加を強制したりするものではな
いから,原告らの政治活動の自由を侵害するものとまでは認められ
ない。
(b)したがって,Q13については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らの政治活動の自由を侵害するものであったとはい
えない。
c労働基本権の侵害の有無について
(a)Q13は,職場における組合活動及び選挙運動に関して問題のな
いと思われる選択肢を選択するよう求める質問であるところ,前記
アで述べたとおり,本件アンケートは,市長による労働組合「適正
化」政策の一部を成しており,それには,市長において,労働組合
が違法又は不適切な政治活動や組合活動を行っており,そこには
「膿」と表現するほどの問題点が存在すると考えていることを示す
職員宛て市長メッセージ等が添付されていたものである。
そうすると,Q13は,職場における組合活動及び選挙運動に関
する選択肢を示すことによって,その中には,何ら違法又は不適切
ではないものも含まれるにもかかわらず,回答者である被告の職員
に対し,上記の選択肢に示されているような組合活動や選挙運動は
全て違法又は不適切なものではないかとの印象を与え,組合活動へ
の参加を萎縮させかねないものであったということができる。
(b)しかしながら,認定事実(1)オのとおり,組合員である職員が,
勤務時間中に市長選の報告集会に参加したり,勤務時間中に推薦カ
ードを配布するという事案が発生していたことからすれば,職員の
組合活動や選挙活動に関する服務についての意識を調査する必要性
がなかったとはいえないことや,その設問内容は抽象的な知識を問
うものにすぎないことをも考慮すると,Q13について,直ちに労
働組合に加入する職員に動揺を与え,同組合を弱体化させる質問で
あるとまで評価することはできない。
(c)したがって,Q13が原告らの労働基本権を侵害するものであっ
たとはいえない。
dプライバシーの侵害の有無について
(a)Q13は,職場における組合活動及び選挙運動に関して問題のな
いと思われる選択肢を選択するよう求めるものであって,このよう
な質問によって,回答者である原告らのプライバシーが侵害される
とは認められない。
(b)したがって,Q13については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らのプライバシーを侵害するものであったとはいえ
ない。
e小括
以上によれば,Q13が原告らの憲法上の権利を侵害するものであ
ったとはいえない。
(コ)Q14について
前提事実(3)によれば,Q14は,被告の広報活動についてどのよう
に感じているのかなどを質問するものであると認められる。
a思想・良心の自由の侵害の有無について
(a)Q14は,被告の広報活動についてどのように感じているのかな
どを質問するものであって,回答者の思想・良心そのものを質問す
るものではなく,この質問によって,原告らの思想内容が明らかに
なるともいえない。
(b)したがって,Q14については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らの思想・良心の自由を侵害するものであったとは
いえない。
b政治活動の自由の侵害の有無について
(a)Q14は,被告の広報活動についてどのように感じているのかな
どを質問するものであるところ,その質問内容から明らかなとおり,
被告の行為について尋ねるものであって,原告ら個人の行為につい
て尋ねるものではないことからすれば,この質問によって,原告ら
の政治活動への参加が禁止又は妨害されたり,逆に政治活動への参
加が強制されたりするものではないことが明らかであり,原告らの
政治活動の自由を侵害するものとは認められない。
(b)したがって,Q14については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らの政治活動の自由を侵害するものであったとはい
えない。
cプライバシーの侵害の有無について
(a)Q14は,被告の広報活動についてどのように感じているのかな
どを質問するものであって,被告の職員である原告らが,被告の広
報活動に対する感じ方を聞かれることによって,プライバシーが侵
害されるとは認められない。
(b)したがって,Q14については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らのプライバシーを侵害するものであったとはいえ
ない。
d小括
以上によれば,Q14が原告らの憲法上の権利を侵害するものであ
ったとはいえない。
(サ)Q15について
前提事実(3)によれば,Q15は,回答するか否かは任意であること
を明確にした上で,被告における組合活動や選挙活動について自由な回
答を求めるものであると認められる。
a思想・良心の自由の侵害の有無について
(a)原告は,本件アンケートが思想調査であるとの理解を前提とした
上で,Q15が違法行為の告発を期待していたことは明らかであり,
自由記述とはいうものの,回答者に強い萎縮効果を与えており,消
極的表現の自由を侵害する旨主張する。
しかしながら,Q15は,自由回答方式で任意の回答を求めるも
のであって,何ら回答しなくても本件アンケートを終了することが
できたものであるし(前提事実(3)),質問内容も,思想・良心を
明らかにすることを求めていないことが明らかである。
(b)したがって,Q15については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らの思想・良心の自由を侵害するものであったとは
いえない。
b政治活動の自由の侵害の有無について
(a)原告は,本件アンケートが思想調査であるとの理解を前提とした
上で,Q15が違法行為の告発を期待していたことは明らかであり,
自由記述とはいうものの,回答者に強い萎縮効果を与えており,政
治的表現の自由を侵害する旨主張する。
しかしながら,Q15は,自由回答方式で任意の回答を求めるも
のであって,何ら回答しなくても本件アンケートを終了することが
できたものであるし(前提事実(3)),原告らがどのような政治活
動を行っているかを尋ねるものでもないことからすれば,この質問
によって,原告らの政治活動への参加が禁止又は妨害されたり,逆
に政治活動への参加が強制されたりするものではないことが明らか
であり,原告らの政治活動の自由を侵害するものとは認められない。
(b)したがって,Q15については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らの政治活動の自由を侵害するものであったとはい
えない。
c労働基本権の侵害の有無について
(a)原告は,本件アンケートが思想調査であるとの理解を前提とした
上で,Q15が違法行為の告発を期待していたことは明らかであり,
自由記述とはいうものの,回答者に強い萎縮効果を与えており,労
働基本権を侵害する旨主張する。
しかしながら,Q15は,自由回答方式で任意の回答を求めるも
のであって,何ら回答しなくても本件アンケートを終了することが
できたものであるし(前提事実(3)),労働組合に何らかの問題が
あることを前提とする質問でもないことからすれば,直ちに労働組
合に加入する職員に動揺を与え,同組合を弱体化させる質問である
と評価することはできない。
(b)したがって,Q15については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らの労働基本権を侵害するものであったとはいえな
い。
dプライバシーの侵害の有無について
(a)原告らは,名前が挙がった者のセンシティブ情報が被告に収集・
保有されることになり,名前が挙がった者はそのような回答があっ
たことも知らされないなどとして,プライバシー権を侵害する旨主
張する。
しかしながら,Q15は,自由回答方式で任意の回答を求めるも
のであって,何ら回答しなくても本件アンケートを終了することが
できたものであるから(前提事実(3)),回答者自身のプライバシ
ーを侵害するものとはいえない。
確かに,P4特別顧問の陳述書(乙53の2)には,「大阪市に
おける組合活動や選挙運動に関して,自由に回答してください」と
の設問を設けた趣旨について,被告における組合活動や選挙活動に
関する違法行為等の有無を確認するためであった旨の記載が認めら
れるが,上記趣旨につき何ら付記されておらず,任意の回答が求め
られているにすぎない上記設問を読んだ一般的な回答者において,
上記違法行為等について,行為者やその内容を具体的に特定して記
載することが求められていると受け止めるとは到底解することがで
きない。したがって,Q15により原告らのセンシティブ情報が被
告に提供される具体的危険があるとはいえず,このような質問によ
って,原告らのプライバシーが侵害されるとは認められない。
(b)したがって,Q15については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らのプライバシーを侵害するものであったとはいえ
ない。
e小括
以上によれば,Q15が原告らの憲法上の権利を侵害するものであ
ったとはいえない。
(シ)Q16について
前提事実(3)によれば,Q16は,労働組合への加入の有無及び過去
に加入していた事実の有無を質問するものであると認められる。
a思想・良心の自由の侵害の有無について
(a)Q16は,労働組合への加入の有無及び過去に加入していた事実
の有無を質問するものであって,回答者の思想・良心そのものを質
問するものではなく,前記(イ)aで述べたところからすれば,こ
の質問が原告らの思想・良心の自由を侵害するとまではいえない。
(b)したがって,Q16については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らの思想・良心の自由を侵害するものであったとは
いえない。
b労働基本権の侵害の有無について
(a)Q16は,労働組合への加入の有無及び過去に加入していた事実
の有無を質問するものであるところ,上記アで述べたとおり,本件
アンケートは,市長による労働組合「適正化」政策の一部を成して
おり,それには,市長において,労働組合が違法又は不適切な政治
活動や組合活動を行っており,そこには「膿」と表現するほどの問
題点が存在すると考えていることを示す職員宛て市長メッセージ等
が添付されていたものである。
そうすると,Q16は,上記各事項について質問することによっ
て,回答者である被告の職員に対し,労働組合に加入することによ
って不利益を受けるのではないかとの印象を与え,組合活動への参
加を萎縮させる効果を有するというべきである。
また,被告の職員において,Q16で労働組合の加入歴を回答す
るとともに,Q6で組合活動への参加の有無やその活動内容等を回
答した場合,前記ウ(オ)で述べた懲戒処分に言及する記載も相ま
って,何らかの不利益を受けるのではないかと懸念するのもやむを
得ないといえるから,Q16は,職員に動揺を与える内容のもので
あり,労働組合を弱体化させるものであったということができる。
(b)被告は,被告の職員の大多数が労働組合に加入しており,加入し
ていないものの方がイレギュラーであることから,その理由を確認
すれば,何らかの問題点が明らかになる可能性があると考えた,労
働組合に加入していない理由については任意回答としている旨主張
する。
しかしながら,前記(イ)c(b)で述べたとおり,何らの限定を
かけることなく,組合活動の参加の有無や組合活動の内容を調査す
ることが過度に広範に過ぎることからすれば,その前提となる労働
組合への加入の有無を尋ねることもまた過度に広範に過ぎるといわ
ざるを得ない。
また,労働組合に加入していない理由が任意回答とされていたと
しても,労働組合に加入しているか否かという根幹について回答が
義務付けられていることからすれば,Q16が上記萎縮効果を有す
るとともに,職員に動揺を与える内容のものであったことには変わ
りがないというべきである。
(c)したがって,Q16は,原告らの労働基本権を侵害するものであ
ったというべきである。
cプライバシーの侵害の有無について
(a)Q16は,労働組合への加入の有無及び過去に加入していた事実
の有無を質問するものであるところ,上記(イ)d(a)で述べたと
ころからすれば,このような情報については,一般人を基準として,
他人に知られることで私生活上の平穏を害するような情報であると
までは認められない。
(b)したがって,Q16については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らのプライバシーを侵害するものであったとはいえ
ない。
d小括
以上によれば,Q16は,原告らの労働基本権を侵害するものであ
ったが,その他の憲法上の権利を侵害するものであったとはいえない。
(ス)Q17及びQ19について
前提事実(3)によれば,いずれも回答するか否かは任意であることを
明確にした上で,Q17は,労働組合に加入することによるメリットを
どう感じているかについて,Q19は,同組合に加入しないことによる
不利益はどのようなものがあると思うかについて,それぞれ質問するも
のであると認められる。
a思想・良心の自由の侵害の有無について
Q17及びQ19は,任意の回答を求めるものであって,何ら回答
しなくても本件アンケートを終了することができたものである(前提
事実(3))から,Q17及びQ19については,その余の点について
検討するまでもなく,原告らの思想・良心の自由を侵害するものであ
ったとはいえない。
b労働基本権の侵害の有無について
(a)Q17及びQ19は,労働組合に加入すること又は加入しないこ
とによるメリット及びデメリットの両面を質問するのではなく,加
入するメリットと加入しないデメリットを片面的に質問するものと
なっているだけでなく,Q17の選択肢の中には「昇進や異動など
の面で有利である」というものが,Q19の選択肢の中には,「昇
進の道が狭まる恐れがある」,「不本意な場所に異動となる恐れが
ある」というものが,それぞれ含まれている。
そして,前記アで述べたとおり,本件アンケートは,市長による
労働組合「適正化」政策の一部を成しており,それには,市長にお
いて,労働組合が違法又は不適切な政治活動や組合活動を行ってお
り,そこには「膿」と表現するほどの問題点が存在すると考えてい
ることを示す職員宛て市長メッセージ等が添付されていたものであ
る。
そうすると,Q17及びQ19は,上記各事項について質問する
ことによって,回答者である被告の職員に対し,労働組合が不当な
人事介入をしているのではないかとの印象を与え,組合活動への参
加を萎縮させかねないものであったということができる。
(b)しかしながら,Q17及びQ19は,いずれも全体が任意回答と
されているだけでなく,組合活動の内容について直接質問するもの
ではなく,労働組合に加入するメリット及び加入しないデメリット
について抽象的な感想を求めるものにすぎないから,これが直ちに
労働組合に加入する職員に動揺を与え,同組合を弱体化させる質問
であるとまでは評価することができない。
(c)したがって,Q17及びQ19が原告らの労働基本権を侵害する
ものであったとはいえない。
cプライバシーの侵害の有無について
(a)Q17及びQ19は,組合に加入することのメリット,組合に加
入しないことのデメリットの抽象的な感想を求めるものにすぎない
から,このような質問によって,回答者である原告らのプライバシ
ーが侵害されるとは認められない。
(b)したがって,Q17及びQ19については,その余の点について
検討するまでもなく,原告らのプライバシーを侵害するものであっ
たとはいえない。
d小括
以上によれば,Q17及びQ19が原告らの憲法上の権利を侵害す
るものであったとはいえない。
(セ)Q18について
前提事実(3)によれば,Q18は,回答するか否かは任意であること
を明確にした上で,労働組合にどのような力があると思うかについて質
問するものであると認められる。
a思想・良心の自由の侵害の有無について
(a)原告らは,世界観や人格的核心の告白を強要するものであり,沈
黙の自由に反する旨主張する。
しかしながら,Q18は,任意の回答を求めるものであって,何
ら回答しなくても本件アンケートを終了することができたものであ
るし(前提事実(3)),また,回答者の思想・良心そのものを質問
するものでもないから,この質問によって,原告らが思想・良心の
自由を侵害されたとは認められない。
(b)したがって,Q18については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らの思想・良心の自由を侵害するものであったとは
いえない。
b労働基本権の侵害の有無について
(a)Q18は,労働組合にどのような力があると思うかについて質問
するものであり,その選択肢の中には,「組合の幹部推薦があれば,
市の職員として採用されやすい」,「職員の人事(昇進・異動など)
に対して影響力を持っている」というものが含まれているところ,
前記ア及びウで述べたとおり,本件アンケートは,市長による労働
組合「適正化」政策の一部を成しており,それには,市長において,
労働組合が違法又は不適切な政治活動や組合活動を行っており,そ
こには「膿」と表現するほどの問題点が存在すると考えていること
を示す職員宛て市長メッセージ等が添付されていたものである。
そうすると,Q18は,上記事項について質問することによって,
回答者である被告の職員に対し,労働組合が不当な人事介入をして
いるのではないかとの印象を与え,組合活動への参加を萎縮させか
ねないものであったということができる。
(b)しかしながら,Q18は,全体が任意回答とされているだけでな
く,組合活動の内容について直接質問するものではなく,労働組合
にどのような力があるのかについて抽象的な感想又は意見を求める
ものにすぎないから,これが直ちに労働組合に加入する職員に動揺
を与え,同組合を弱体化させる質問であるとまでは評価することが
できない。
(c)したがって,Q18が原告らの労働基本権を侵害するものであっ
たとはいえない。
cプライバシーの侵害の有無について
(a)Q18は,全体が任意回答とされているだけでなく,組合活動の
内容について直接質問するものではなく,労働組合にどのような力
があるのかについて抽象的な感想又は意見を求めるものにすぎない
から,このような質問によって,回答者である原告らのプライバシ
ーが侵害されるとは認められない。
(b)したがって,Q18については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らのプライバシーを侵害するものであったとはいえ
ない。
d小括
以上によれば,Q18が原告らの憲法上の権利を侵害するものであ
ったとはいえない。
(ソ)Q20について
前提事実(3)によれば,Q20は,回答するか否かは任意であること
を明確にした上で,労働組合に待遇等の改善について具体的に相談した
ことがあるか,ある場合の場所,時間帯について質問するものであると
認められる。
a思想・良心の自由の侵害の有無について
(a)Q20は,労働組合に待遇等の改善について相談をしたことの有
無及びその場所,時間帯を質問するものであって,回答者の思想・
良心そのものを質問するものではなく,また,具体的な相談内容に
ついて回答を求めるものではないことからすれば,この質問によっ
て原告らの思想内容が明らかになるものではない。
(b)したがって,Q20については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らの思想・良心の自由を侵害するものであったとは
いえない。
b労働基本権の侵害の有無について
(a)Q20は,労働組合に待遇等の改善について具体的に相談したこ
とがあるか及びその場所,時間帯についてのみ質問するものにとど
まるものであって,労働組合に相談した内容を尋ねるものでないこ
とからすれば,組合活動の内容が明らかになるものではないから,
このような質問をすることで,組合活動への参加を萎縮させる効果
を有していたとは認められない。
原告らは,労働組合の活動時間帯等を把握しようとするものであ
り,労働者の組合活動の自由を侵害する旨主張する。
しかしながら,勤務時間中に組合活動を行うことは許されないと
ころ,認定事実(1)オのとおり,組合員である職員が,勤務時間中
に市長選の報告集会に参加したり,勤務時間中に推薦カードを配布
するという事案が発生していたことからすれば,職員の組合活動に
関する服務についての意識・実態を調査する必要性がなかったとは
いえないことや,上記のとおり,相談内容については尋ねていない
ことからすれば,Q20について,これが直ちに労働組合に加入す
る職員に動揺を与え,同組合を弱体化させる質問であるとまでは評
価することができない。
(b)したがって,Q20については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らの労働基本権を侵害するものであったとはいえな
い。
cプライバシーの侵害の有無について
(a)Q20は,任意の回答を求めるものであって,何ら回答しなくて
も本件アンケートを終了することができたものである(前提事実
(3))から,Q20については,その余の点について検討するまで
もなく,原告らのプライバシーを侵害するものであったとはいえな
い。
(b)したがって,Q20が原告らのプライバシーを侵害するものであ
ったとはいえない。
d小括
以上によれば,Q20が原告らの憲法上の権利を侵害するものであ
ったとはいえない。
(タ)Q21について
前提事実(3)によれば,Q21は,自分が納めた組合費がどのように
使われているか知っているかについて質問するものであると認められる。
a思想・良心の自由の侵害の有無について
(a)Q21は,組合費の使途を認識しているか尋ねるものであり,回
答者の思想・良心そのものを質問するものではないから,この質問
によって,原告らの思想内容が明らかになるともいえない。
原告らは,Q21はどのような組合活動に参加しているのかを回
答させるものである,世界観・人格的核心について告白を迫るもの
である旨主張する。
しかしながら,Q21の質問内容に照らせば,どのような組合活
動に参加しているのかを回答させるものでないことは明らかであり,
また,組合費の使途をどのように認識しているかが,世界観・人格
的核心に関するものでないことも明らかであるから,原告らの上記
主張は失当である。
(b)したがって,Q21については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らの思想・良心の自由を侵害するものであったとは
いえない。
b労働基本権の侵害の有無について
(a)Q21は,自分が納めた組合費がどのように使われているか知っ
ているかについて質問するものであるところ,被告は,本件アンケ
ートに先立ち,本件目安箱への投書及び内部告発者の告発等により
組合費の横領の疑い等があったことから,横領等の不正行為の有無
や,これらに関する調査の端緒となる事象の有無を確認する必要が
あったと主張する。
しかしながら,組合費の使途については,労働組合内部の自治に
委ねられるべきものであって,労働組合において組合費が不適切に
使用されているとしても,そのことで被告の権利が侵害されたり,
被告の業務に支障が生じるわけではないから,そもそも,被告が,
組合費の使途について調査する必要性が存在するとはいえないので
あり,被告の上記主張は採用することができない。
(b)また,前記アで述べたとおり,本件アンケートは,市長による労
働組合「適正化」政策の一部を成しており,それには,市長におい
て,労働組合が違法又は不適切な政治活動や組合活動を行っており,
そこには「膿」と表現するほどの問題点が存在すると考えているこ
とを示す職員宛て市長メッセージ等が添付されていたものである。
(c)以上で述べたところによれば,Q21は,上記事項について質問
することによって,回答者である被告の職員に対し,労働組合によ
る組合費の使途に不明朗な点があるのではないかとの印象を与え,
組合活動への参加を萎縮させかねないものであったということがで
きる。
また,本件アンケートにおいて,労働組合の自治に委ねるべき事
実について強制的に回答を求め,しかも,労働組合による組合費の
使途に不明朗な点があるかのような印象を与えることは,労働組合
に加入している職員に動揺を与え,同組合を弱体化させるものであ
ったというべきである。
(d)したがって,Q21は,原告らの労働基本権を侵害するものであ
ったというべきである。
cプライバシーの侵害の有無について
(a)Q21は,自分が納めた組合費がどのように使われているか知っ
ているかについて質問するものにすぎないから,このような質問に
よって,回答者である原告らのプライバシーが侵害されるとは認め
られない。
(b)したがって,Q21については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らのプライバシーを侵害するものであったとはいえ
ない。
d小括
以上によれば,Q21は,原告らの労働基本権を侵害するものであ
ったが,その他の憲法上の権利を侵害するものであったとはいえない。
(チ)Q22について
前提事実(3)によれば,Q22は,平成17年の職員厚遇問題を受け
て労使関係の適正化が図られたことによる職場の変化についてどのよう
に思うかを質問するものであると認められる。
a思想・良心の自由の侵害の有無について
(a)Q22は,平成17年の職員厚遇問題を受けて労使関係の適正化
が図られたことによる職場の変化についてどのように思うかを質問
するものであって,回答者の思想・良心そのものを質問するもので
はなく,この質問によって,原告らの思想内容が明らかになるとも
いえない。
原告らは,Q22が原告らの世界観・人格的核心について告白を
迫るものである旨主張するが,労使関係の適正化が図られ,職場に
どのような変化が生じたと認識しているかということは,単なる事
実の認識であって,世界観や人格的核心に属するものではない。
(b)したがって,Q22については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らの思想・良心の自由を侵害するものであったとは
いえない。
b政治活動の自由の侵害の有無について
(a)Q22は,平成17年の職員厚遇問題を受けて労使関係の適正化
が図られたことによる職場の変化についてどのように思うかを質
問するものであって,原告らの政治活動について質問するもので
はないから,Q22が原告らの政治活動の自由を侵害するもので
あったとはいえない。
(b)したがって,Q22については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らの政治活動の自由を侵害するものであったとはい
えない。
c労働基本権の侵害の有無について
(a)Q22は,平成17年の職員厚遇問題を受けて労使関係の適正化
が図られたことによる職場の変化についてどのように思うかを質問
するものにとどまるから,組合活動への参加を萎縮させる効果を有
していたとは認められない。
原告らは,Q22は,非組合員及び厚遇問題とは無関係な組合員
からの反発,組合役員への不信感を抱かせ,組合離れを引き起こす
ものである旨主張するが,労使関係の適正化が図られることで組合
離れが引き起こされることはないから(不適切な労使関係でなけれ
ば労働組合に加入しないというのであれば,それは正当な組合活動
に当たらない。),原告らの上記主張は採用できない。
(b)したがって,Q22については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らの労働基本権を侵害するものであったとはいえな
い。
dプライバシーの侵害の有無について
(a)Q22は,平成17年の職員厚遇問題を受けて労使関係の適正化
が図られたことによる職場の変化についてどのように思うかを質問
するものであって,被告の職員である原告らが,被告の職場の変化
についてどのように思うかを聞かれることによって,プライバシー
が侵害されるとは認められない。
(b)したがって,Q22については,その余の点について検討するま
でもなく,原告らのプライバシーを侵害するものであったとはいえ
ない。
e小括
以上によれば,Q22が原告らの憲法上の権利を侵害するものであ
ったとはいえない。
オまとめ
以上を総合すれば,本件アンケートについては,個別の設問のうち,Q
7及びQ9が原告らのプライバシーを侵害し,Q6,Q16及びQ21が
原告らの労働基本権を侵害するものと認められるから,本件アンケートが
実施されたことにより,原告らはプライバシーを侵害され,労働基本権を
侵害されたものというべきである。
(3)本件職務命令の国賠法上の違法性について
ア市長は,その地位に基づき,被告の職員に対し,職務命令を発出する権
限を有しているが,いかなる内容の職務命令であっても発出できるもので
ないことはいうまでもなく,その発出に際し,職員に違法行為をさせたり,
職員の権利を侵害することがないようにする職務上の注意義務を負ってい
るというべきである。そうすると,本件アンケートへの回答を義務付ける
本件職務命令を発出するに際しては,回答させることで職員の権利を違法
に侵害しないようにする必要があり,具体的には,必要に応じて,本件ア
ンケートの内容を修正・変更するための措置を講じる職務上の注意義務を
負っていたものというべきである。
これを本件についてみると,前記(2)のとおり,本件アンケートは,原
告らの憲法上の権利を侵害する設問を含んでいるから,回答を義務付けた
場合には,職員の権利を侵害することになるにもかかわらず,市長は,そ
の内容を確認し,内容を修正・変更するなどの措置を講じることなく漫然
と本件職務命令を発出したものであって,職務上の注意義務を怠ったもの
というべきである。
したがって,市長が本件職務命令を発出した行為は,国賠法上の違法性
を有すると認められる。
イ被告は,万が一,外形的に違法性が肯定されるとしても,本件アンケー
トが実施されるに至った事情,すなわち,被告の不健全な労使関係が露呈
した状況が,正に違法性阻却事由に該当するものといえる旨主張する。
確かに,被告が主張するとおり,市長の就任前後に,被告の職員による
殺人未遂や違法薬物の使用・所持といった刑事事件,労働組合の組合員に
よる勤務時間内の組合活動や実質的ヤミ専従が発覚しており(認定事実
(1)),ほかにも,本件目安箱に,労働組合の組合員が,勤務時間中に選
挙活動や組合活動を実施したこと,人事に不当に介入しているといった情
報が寄せられていたこと(乙8)が認められる。そして,上記の各事情が
許されるものでないことや,労使関係を適切なものにすることが必要であ
ることはいうまでもない。
しかしながら,そうであるからといって,原告らを含む被告の職員の憲
法上の権利を侵害するような質問に対する回答を義務付けることまでもが
許容されることになるものではないから,上記の各事情をもって,違法性
阻却事由があるということはできない。
(4)故意又は過失について
ア前記(3)からすれば,本件職務命令を発出したことにつき,少なくとも
過失があることは明らかである。
イ被告は,①公務員の不祥事調査の専門家であり弁護士であるP4特別顧
問により違法な調査がされるはずがないと考えていたから,本件アンケー
トの内容を確認すべきと考える予見可能性がなかった,②本件アンケート
の内容を確認することは想定されておらず,その物理的時間もなく,P4
特別顧問も事前に確認することを許さなかったため,本件アンケートを一
時停止する結果回避可能性もなかった旨主張する。
しかし,①については,不祥事調査の専門家であり弁護士でもあるP4
特別顧問に調査を依頼したものであったとしても,本件職務命令は,市長
の権限で発出し,その対象者である職員に対して本件アンケートに回答す
るという職務上の義務を課すものである以上,市長としては,本件職務命
令により命じる内容が職員の権利を侵害するなど違法なものでないことを
確認すべき注意義務を免れることはないというべきである。
②については,P4特別顧問が本件アンケートを作成したのは,市長の
委嘱に基づき,本件調査チームによる調査を行ったものであって,市長に
おいて,本件職務命令を発出するに際し,本件アンケートの内容を確認す
ることについて,法令上の制約は何ら存在しなかったし,P4特別顧問と
しても,市長が上記義務を履行するために,本件アンケートを中止したり,
時期を遅らせたりするよう命じれば,これを拒絶する根拠はなかったので
ある。また,職員が正直に回答を行い,本件アンケートを実効性あらしめ
るために,それに対する回答について被告が関知しないという点が重要で
あり,職員宛市長メッセージにも,回答内容は本件調査チームのみが見て,
被告の職員の目に触れることは決してないことが記載されているが,その
ことと,職務命令の発出にによる本件アンケートを実施する以上,それに
先立ち,被告がその項目に問題点がないか確認するかどうかは別問題あり,
その後,職員の回答内容を被告が関知しないという点を徹底すれば,本件
アンケートの実効性を阻害することもない。
以上からすると,被告の主張は採用できない。
(5)まとめ
以上によれば,被告は,国賠法1条1項に基づき,本件アンケートの実施
によって原告らが被った損害を賠償すべき責任を負う。
3争点2(原告らの損害の有無及び額)について
(1)前記2説示のとおり,本件アンケートは原告らの憲法上の権利を侵害する
設問を含むものであったところ,原告らは,本件職務命令により,本件アン
ケートへの回答を義務付けられるとともに,正確な回答をしなければ懲戒処
分の対象となり得ることが明示されたことから,回答するか否かの心理的葛
藤が生じ,回答した者も,回答しなかった者もいずれも精神的苦痛を被った
ことが認められる。
(2)一方,前記2説示のとおり,本件アンケートについては,個別の設問の一
部が原告らの憲法上の権利を侵害するにすぎない。
また,前提事実(6),(7)や弁論の全趣旨によれば,①本件調査チームは,
P11らによる救済及び審査の実効確保の措置の申立てがされたことを受け
て,本件アンケートの開封及び集計作業を凍結するとともに,最終的には本
件アンケートの回答を開封することなく全て廃棄しており,回答内容は誰の
目にも触れていないこと,②原告らの中には,本件アンケートに回答しなか
った者もいるが,そのことによって被告から懲戒処分等の不利益を受けるこ
とはなかったこと,③本件アンケートの実施については,府労委により市長
に文書の交付を命じる内容の本件救済命令が確定したことにより,これが不
当労働行為に該当する旨の公的判断が既に明らかにされるとともに,市長は
上記文書の交付をしていることも認められる。
(3)前記の各事情を総合考慮すると,原告らに生じた精神的苦痛に対する慰謝
料としては各5000円が相当であるというべきである。
また,本件事案の内容,訴訟の経緯,原告らが共通の損害を主張している
こと,上記慰謝料額等に照らすと,被告の違法行為と相当因果関係のある弁
護士費用は各1000円と認めるのが相当である。
第4結論
以上の次第で,原告らの請求は,主文掲記の限度で理由があるからその限度
で認容し,その余は理由がないからいずれも棄却することとし,訴訟費用の負
担につき,民事訴訟法61条,64条本文,65条1項本文を,仮執行の宣言
につき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第5民事部
裁判長裁判官中垣内健治
裁判官中島崇
裁判官佐々木隆憲

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