弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原決定を取り消す
         理    由
 一 執行抗告の趣旨及び理由
 別紙抗告状(写し)記載のとおりであって,その本旨は債務者を免責する決定が
確定したことを理由に債権差押命令を取り消した原決定の措置を不服であるとし
て,原決定の取消しを求めるにある。
 二 当裁判所の判断
 1 一件記録によれば,次のとおり認められる。
 (一) 抗告人は,相手方を被告とする大阪簡易裁判所平成5年(ハ)第640
3号貸金請求事件について,平成5年10月20日,抗告人勝訴の判決を受け,同
判決は,同年11月16日確定した。
 (二) 抗告人は,基本事件について,平成5年11月16日原決定添付差押債
権目録記載の債権を差し押える旨の債権差押命令(以下「本件債権差押命令」とい
う。)を受け,同命令は,同月17日第三債務者に,同月18日債務者にそれぞれ
送達され,同月26日に確定した。
 (三) これに先立ち,相手方は,大阪地方裁判所に破産宣告の申立てをし(同
裁判所平成5年(フ)第1296号)同年6月30日午前10時,破産宣告及び同
時破産廃止の決定を受け,同決定は確定した。
 (四) 相手方は,平成5年7月5日,同裁判所に免責の申立てをし(同裁判所
平成5年(モ)第21516号),同年12月16日,免責の決定を受け,同決定
は,平成6年3月1日に確定した。
 (五) ところが,相手方が上記確定した免責決定の正本を提出したので,原審
は,平成6年4月12日,そのことのみにより「債務者から免責する旨を記載した
裁判の正本の提出があった」との理由で本件債権差押命令を取消す旨の決定(すな
わち原決定)をし,同決定(以下「原決定」という。)は,同月13日,抗告人に
送達された。
 (六) 抗告人は,これに対し,同月15日,本件執行抗告人を申し立てた。
 以上の事実が認められる。
 2 そこで以上の事実関係に基づき,検討する。
 民事執行法40条1項は,同法39条1項1号から6号までに掲げる文書が提出
されたときは,執行裁判所は,既にした執行処分をも取消さなければならない旨を
規定している。ところで,原審は,前記のとおり,本件債権差押命令を取り消した
のであるが,上記免責決定の正本は,上記の各号のいずれの文書にも当たらないも
のというべきであって,このことは上記の各号の文言に照らし,また,同条2項及
び3項が同条1項8号に掲げる文書について特に触れていることとの対比からみて
明らかである。次に,その金額の多寡を問わず,債務者の破産及びこれに次ぐ破産
者の免責は,健全な金銭取引の社会においては,本来少ないことが望ましいが,止
むを得ず例外的に発生することとして大局的見地からは,事情に応じ是認するほか
はないものである。もとよりそれは破産法に定められた場合に限られるから,破産
者に対する免責決定が確定したからといって,直ちにそのゆえに民事執行法の定め
る執行処分の取消しがなされるべきものとする論理的必然性はないのである。した
がって,同条項が,上記免責決定の正本について触れることがないのは,この文書
が同条項の文書に当たらないことを示すものである。と解するほかはなく,同法4
0条2項が,同法12条の規定は,同法40条1項の規定により執行処分を取り消
す場合については適用しない旨を特に定めているのもけだしこの趣旨に基づくもの
とういべきである。このように同法39条1項各号は,いわゆる限定列挙の趣旨に
基づくものであると解されるのであるから,原審が本件債権差押命令を取り消した
のは,同条1項各号の規定するところに基づき又はこれを準用ないしは類推適用す
ることによってこれをしたものではなく、相手方を免責する旨の裁判の確定決定正
本の提出を民事執行法には文明の規定がないにもかかわらず債務者に対する強制執
行の障害事由に当たるものとしたにほかならないものとみられるところである。
 3 しかし,原審のこの措置は,上記に説示し,かつ,以下に述べるところによ
り,これを是認することができない。
 (一) 本件免責決定の主文は,「破産者Aを免責する。」というものである
が,原決定の理由の記載と併せ読んでみても,抗告人の相手方に対する請求債権が
非免責債権でないか否かは明らかでないのみならず,一件記録を精査しても,相手
方が上記請求債権につき免責を受けたものか否か明らかでない。
 (二) 次に,執行裁判所が本件債権差押命令の執行を続行したとしても,その
配当等の受領が不当利得となるか否かは,執行終了後の不当利得等返還請求訴訟に
おいて,相手方と抗告人との間で解決されれば足りるのであって,相手方に対する
免責決定確定正本が提出されたということから,現に執行中の本件債権差押命令を
取り消す必要性があるとは必ずしもいい切れない。
 (三) また,本件債権差押命令の手続が終了する前であっても,相手方は抗告
人に対し,請求異議の訴えを提起したうえ,本件債権差押命令の執行停止の申立て
をすれば,その異議の事由が免責決定の確定にある以上,異議事由の存することの
証明は極めて容易であるから受訴裁判所が,低額の担保を立てさせ,又は担保を立
てさせないで,本件債権差押命令の執行停止を命ずる蓋然性は高いものとみること
ができる。したがって相手方としては,この執行停止決定の正本を民事執行法39
条1項6号の文書として執行裁判所に提出することにより,容易に本件債権差押命
令の執行の停止を求めることができるのである。この点からみても,本件債権差押
命令を取り消す必要性はない。
 <要旨>4 以上要するに,民事執行法39条1項の規定による強制執行
停止は,破産法の規定する破産者に対する免責決定の効果と必然的,直接的,論理
的に連動しているものと解すべき実定法上の根拠を欠き,かつ,このように解して
も必ずしも債務者・債権者間の権衡を失する結果を招くことはないのである。そう
すると,相手方が確定した免責決定の正本を提出したという一事により本件債権差
押押命令を取り消した原決定は,民事執行法39条1項に当たる文書が提出された
場合でないのに,既になされている本件債権差押命令を取り消したものであって違
法というほかないから,同法40条1項,2項の適用をみることはなく,その全部
につき取消しを免れないものである。
 三 結論
 よって,原決定を取り消すこととして主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 仙田富士夫 裁判官 竹原俊一 裁判官 渡邊壮)

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