弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴はいづれも之を棄却する。
         理    由
 検察官羽中田金一及弁護人桜井紀の各控訴の趣意は本件記録に編綴の各控訴趣意
書と題する書面記載の通りであるからとこに之を引用するが之に対する当裁判所の
判断は次の通りである。
 検察官の控訴趣意第一点について
 原判決及起訴状を査閲すると原判決はその事実摘示末尾において論旨摘録の如く
司法警察員Aに対する暴行の手段として「矢庭に手を以て同人の背部を突き云々」
との事実を認定しており、起訴状訴因の部にはその外「同人の頭部を殴打し云々」
の事実を記載しておることが明白である。而して原判決が証拠に引用している証人
Aの原審における供述につき原審第二、第四回公判調書中の同証人の供述記載の内
容を審査するとこの事項につき同証人は「後方から背部を突かれたので振り返ると
手で頭部を殴りかかつて来たが私が身体をかゞめたので頭をかすめた丈である」旨
供述していることが明白であり同証人の第一回第二回の供述を通<要旨>じての何処
の部にも所論の如く頭部を殴打された旨の供述記載はない。尤も手を以て人を殴打
せんとしたところ被害者の機敏な動作による避難の為その頭部をかすめたに
過ぎない場合においても、もとより相手方の自由に対し不正な影響を与え、その自
由行動を阻害する作用を為す以上この種の行為は公務執行妨害罪の構成要件たる暴
行と解し得べきことは論を俟たないところであるが、被告人のこの行為は原判決認
定の暴行と併せて行われたものであることが明かであるから、原判決が右の行為を
罪となるべき事実として認めなかつたとしても所論の通り些も犯罪の成否に影響は
なく又この一事のみを以てしかく刑の量定に影響があるものとは認められないから
原判決には毫も所論の如き判決に影響を及ぼすべき事実誤認があるとは云へないの
でこの論旨は採用しない。
 同上第二点について
 原判決及起訴状を査閲すると本件は司法警察員が現行犯人を逮捕せんとするに際
り被告人がその職務執行を妨害する為暴行を為したと云う公務執行妨害罪につき公
訴を提起され、原審は審理の結果概ねその訴因を認めて所論の如く被告人に対し懲
役六月の刑を科していることが明かであるが記録を精査し、原判決拳示の証拠その
他原裁判所が取調べた証拠の内容を具さに検討しても斯かる犯罪事実に対する量刑
としては原審の科刑は相当であつて之をしかく軽きに過ぎるものと認むべき資料は
存在しない。所論は被告人が根強い思想的政治的意慾に基く反権力闘争の意図を有
し本件が其の極めて危険な意慾に基く計画的犯行であることは被告人の所持品中
「中核自衛隊の組織と戦術」及メモの記裁内容に論旨摘録の如き記載があることに
よつて明白であり被告人は是等B党の指令に基き中核自衛隊を組織し名古屋市内に
おける各種非合法宣伝活動にからみ計画的に暴力による反権闘争を遂行しようとし
ていた事が窺われ、結局被告人の本件犯行はB党の非合法活動指令に基く計画的積
極的犯行であつてその犯情及犯罪後の被告人の態度から見て情状酌量の余地なき悪
質犯であるから須らく検祭官求刑の懲役二年の刑を科すべきでおる旨縷々陳述して
おるけれども論旨に指摘するが如き行為が具体的に刑罰法規に触れる形を以て具現
され之を処罰の対象と為し得る場合は格別本件の如き公務執行妨害の事実のみを捉
えて処罰の対象と為す限り論旨は些か肯綮に値せず本件犯罪の成立要件並その犯情
とは直接関係のない所論の如き事情を量刑の主たる資料とすることは出来ないから
この論旨も亦その理由がない。
 弁護人の控訴趣意について
 記録を精査し原判決拳示の証拠の内容を検討すると原判決拳示の証拠の信憑力を
疑う資料はなく、充分信認し得る是等証拠により原判決認定の事実を肯認するに足
るから原判決には所論の如き事実誤認の違法はないのでこの論旨も理由がない。
 仍て本件各控訴はいづれもその理由がないので各刑事訴訟第三百九十六条により
之を棄却することゝし主文の通り判決する。
 (裁判長裁判官 深井正男 裁判官 小林登一 裁判官 山口正章)

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