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「この判決は、本件事案の性質等から、言い渡された判決内容に一部修正を加えて
いる」。
平成17年(わ)第468号,第577号,第675号強盗強姦未遂,強盗殺人,
銃砲刀剣類所持等取締法違反,強盗強姦被告事件
主文
被告人を死刑に処する。
押収してある包丁1丁(平成17年押第30号の1)を没収する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,
第1通行中の女性を強いて姦淫するとともにその所持金品を強取しようと企て,
平成16年12月12日午後11時40分ころ,福岡県飯塚市大字ab番地の
cにあるA遊園前歩道上を通行中のB(当時18歳)に対し,その背後から左
手で同人の口をふさぎ,その上半身を抱えるなどして同人を同園内に引きずり
込んだ上,同所において,仰向けに倒れた同人の身体に馬乗りになり,同人が
頚部に巻いていたマフラーの首に近い部分を両手で引いてその頚部を強く絞め
,,,付ける暴行を加え同人を気絶させてその反抗を抑圧し強いて同人を姦淫し
引き続き,自己が犯人であることが発覚しないようにするため同人を殺害しよ
うと決意し,前記マフラーの首に近い部分を両手で引いて同人の頚部を強く絞
め付け,よって,そのころ,同所において,同人を絞頚による窒息により死亡
させて殺害したが,通行人等に目撃されることを恐れて逃走したため,金品強
取の目的を遂げなかった
第2通行中の女性からその所持金品を強取しようと企て,同月31日午前7時こ
ろ,北九州市d区ef丁目g番にあるC公園付近路上において,同所を通行中
のD(当時62歳)に対し,殺意をもって,所携の刃体の長さ約20.5セン
チメートルの刺身包丁(平成17年押第30号の1)で同人の胸部及び背部等
を多数回にわたり突き刺し,よって,そのころ,同所において,同人を心臓切
損に基づく失血により死亡させて殺害した上,同人からその所有又は管理の現
金約6000円,財布,健康保険被保険者証,鍵,マフラー,診察券及びテレ
ホンカード等21点在中の手提げバッグ1個(時価合計約5960円相当)を
強取した
第3業務その他正当な理由による場合でないのに,前記第2記載の日時場所にお
いて,同記載の刺身包丁1丁を携帯した
第4通行中の女性を強いて姦淫するとともにその所持金品を強取しようと企て,
平成17年1月18日午前5時30分ころ,福岡市h区ij丁目k番lにある
E公園前歩道上を歩行中のF(当時23歳)に対し,その背後から左手で同人
の口をふさぎ,右手に持った前記第2記載の刺身包丁を同人の顔の前に突き付
けて,同人を同公園内に引きずり込んだ上,同所において,同人の顔面を手拳
で殴打して仰向けに転倒させ,右手で同人の頚部を絞め付けるなどの暴行を加
えてその反抗を抑圧し,同人のスカート内に手を差し入れてパンティ等を剥ぎ
取り,強いて姦淫しようとしたが,通行人等に目撃されることを恐れて犯行を
断念したため姦淫の目的を遂げなかったものの,引き続き,殺意をもって,前
記刺身包丁で同人の背部及び腹部を5回にわたり突き刺し,同人からその所有
又は管理の現金約1000円及び財布等8点在中の手提げバッグ1個(時価合
計約4万5000円相当)を強取し,よって,遅くとも同日午前6時30分過
ぎまでには,同公園内において,同人を胸腹部及び背面の刺切創に基づく失血
により死亡させて殺害した
第5業務その他正当な理由による場合でないのに,同日午前5時30分ころ,前
記第4記載のE公園内において同記載の刺身包丁1丁を携帯した
ものである。
(証拠の標目)
(略)
(事実認定の補足説明)
(略)
(法令の適用)
罰条
第1の行為中
強盗殺人の点平成16年法律第156号附則3条1項により,同
(「」。)法による改正前の刑法以下改正前刑法という
240条後段
(,,強盗強姦の点刑法241条前段有期刑の長期につき刑法6条
10条により改正前刑法12条1項)
第2の行為平成16年法律第156号附則3条1項により,改
正前刑法240条後段
第3及び第5の各行為いずれも平成18年法律第41号による改正前の銃
砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条
第4の行為中
強盗殺人の点刑法240条後段
強盗強姦未遂の点刑法243条,241条前段
科刑上一罪の処理
第1及び第4につきいずれも刑法54条1項前段,10条(いずれも重
い強盗殺人罪の刑で処断)
刑種の選択
第1,第2及び第4の各罪につき
いずれも死刑を選択
第3及び第5の各罪につきいずれも懲役刑を選択
併合罪の処理刑法45条前段,46条1項,10条(犯情の最
も重い判示第1の罪につき死刑に処し,没収以外の
他の刑を科さない)。
没収刑法19条1項2号,2項本文(判示第2及び第
4の各罪の用に供した物で,被告人以外の者に属し
ない)。
(自首の成否について)
(略)
(量刑の理由)
第1事案の概要
本件は,被告人が,①深夜に1人で歩いていた女性に暴行を加えて金品を奪う
とともに姦淫しようと企て,同人に暴行を加えて姦淫し,その際,同人に顔を見
られたと思い,自己の犯行が発覚しないように同人を絞殺したが,通行人等に目
撃されるのを恐れて逃走したため,金品の強取はできなかったという強盗殺人,
強盗強姦の事案(第1,飯塚事件,②早朝に1人で歩いていた女性に暴行を加)
えて金品を奪おうとしたところ,同人から抵抗されたために,同人の抵抗を排除
するために同人を包丁で刺殺し,金品を強取したという強盗殺人の事案(第2,
小倉事件,③早朝に1人で歩いていた女性に暴行を加えて金品を奪うとともに)
姦淫しようと企て,同人に暴行を加えたものの,通行人等に目撃されることを恐
れて逃走したため,金品は強取したものの,姦淫の目的は達成できず,その際,
自己の犯行が発覚しないように被害者を包丁で刺殺したという強盗殺人,強盗強
姦未遂の事案(第4,博多事件,④第2及び第4の各犯行の際に,刺身包丁1)
丁を不法に携帯したという銃砲刀剣類所持等取締法違反2件(第3及び第5)の
事案である。
第2被告人の経歴及び犯行に至る経緯
,,,被告人は昭和44年に2人兄弟の長男として出生し県立高校を卒業した後
自動車整備士の資格を取得するために専門学校の自動車整備科に通い,平成元年
に同校を卒業した。被告人は,その後,実父が経営する自動車整備工場で働きな
がら,2級自動車整備士の資格の取得を目指していた。被告人の仕事ぶりはまじ
めであり,熱心に自動車整備の仕事を行っていたが,2級自動車整備士の資格を
取得することはできなかった。
被告人は,平成11年にG(以下「妻」という)と結婚し,妻と共に被告,。
人の両親宅に住むようになった。平成12年になると,妻と被告人の母親との折
り合いが悪くなった。被告人の長男が誕生した同年12月ころには,妻と被告人
の母親との関係は改善したものの,その後再び妻と被告人の母親との折り合いが
悪くなり,平成13年10月ころ,被告人と妻は,被告人の両親宅から市営住宅
に転居した。その後,被告人は,平成14年に福岡県直方市大字mn番地にある
自宅を購入し,同年10月から同所で生活するようになった。また,同年11月
には被告人の長女が誕生した。
被告人は,妻と被告人の母親との折り合いが悪いことにストレスを感じ,その
ストレスを発散するために,飲酒したり,パチンコをしたりすることが多くなっ
,。,て自分の小遣いが足りなくなると妻に無断で借金を重ねるようになったまた
被告人は,同人の両親と別居するようになってからも,妻が「お金がない」な。
どと生活費に対する不安を口にすることに不満を募らせ,同様に借金を重ねてい
った。平成15年2月ころには,被告人の借金額が約300万円になっていたた
め,被告人は,自宅に抵当権を設定して350万円を借り入れてこれを返済し,
さらに,同年8月にも自宅に抵当権を設定して500万円を借り入れて借り換え
を行った。しかし,被告人は,この借金を自分の小遣いだけで返済することがで
きなかったため,他の金融業者から融資を受けるなどして返済し,その結果,さ
らに借金額が増えた。
平成16年2月ころ,被告人が借金の返済をすることができなくなったため,
被告人の自宅に設定された抵当権が実行される旨の通知が自宅に届き,被告人が
借金を負っていることを妻が知った。この借金については,被告人の父親が返済
し,自宅に設定された抵当権は抹消されたが,被告人が他の金融業者からの借金
,。があることを秘匿したため他の金融業者からの借金は清算しないままとなった
被告人は,平成15年ころからストレスを発散させるために出会い系サイトを
頻繁に利用しており,平成16年ころ,その利用料として約100万円を請求さ
れた。被告人は,この請求を放置すれば,出会い系サイトを利用していたことや
前記の清算しないまま残った借金などが妻などに知れてしまうので,これらを清
算しようと考え,再び自宅を担保として350万円を借り入れた。
その後,被告人は,借金の返済に充てるために知人などから借金を重ね,その
結果,平成16年9月ころには借金の総額は約800万円となり,妻がこの借金
。,,,について知るところとなったその結果妻は被告人に愛想を尽かしそれ以降
被告人は,妻から小遣いをもらうことができず,また,妻と性行為をするどころ
か妻の身体に触ることすらも許してもらえなくなった。また,妻は,日常生活の
中でも,被告人に夫として接することはなくなり,子供の前でも被告人を罵倒し
たりするようになった。
被告人は,平成16年6月に実父が経営する自動車整備工場を辞め,車検代行
業などを経て,平成16年10月から,H株式会社に勤務するようになったが,
自宅に帰っても妻から冷遇されることなどから,午前零時より前に帰宅すること
はほとんどなく,自動車内で寝ることもたびたびあった。このころ,被告人は,
,,妻から小遣いをもらえなかったため生活費や遊興費に極端に窮するようになり
同僚から飲食代をおごってもらうなどして,非常に惨めな思いをしていた。それ
は,被告人の実父の目から見ても哀れな状態であり,同人は,たびたび被告人に
小遣いを与えるなどしていた。また,被告人は,性欲のはけ口が全くなかったた
め,性行為などを想像して悶々とするような性的な欲求不満の状態でもあった。
被告人は,平成16年12月初めころになると,所持金もほとんどない惨めな
生活に耐えきれなくなり,自動車を運転して徘徊し,1人歩きの女性を見て回る
ようになった。しばらくすると,被告人は,1人歩きの女性を人気のない場所に
連れこんで,強姦したり金品を奪ったりしようと考えるようになり,仕事の合間
に,自動車を運転して,強姦したり金品を奪ったりできそうな1人歩きの女性を
探すようになった。
被告人は,平成16年12月12日も,同様に強姦したり,金品を奪ったりで
きそうな1人歩きの女性を探していたところ,飯塚事件の被害者を発見して,同
事件を犯し,その後,立て続けに小倉事件,博多事件を犯した。
第3特に考慮した事情
1犯行の動機
本件各犯行は,被告人が,妻から小遣いをもらうことができず,金銭に困窮
していたことや,妻から性交渉を拒まれた上,風俗店に行く金銭もなかったた
め,性欲のはけ口がなく,性的に欲求不満であったことから敢行したものであ
る。そして,被告人は,自己の金銭欲や性欲の赴くままに犯行を行った上,自
己の犯行であることが発覚することを防ぐなどという余りにも身勝手かつ自己
中心的な理由から,何ら落ち度のない被害者らを殺害したものであって,その
動機に酌量の余地は全くない。
被告人はこの点につき「妻のせいにするつもりはありませんが,妻がもう,
少し優しく接してくれていれば,私は,3人の女性を殺すこともなかったので
はないかと思います(乙23)などと,妻の被告人に対する態度が不適切。」
であったことが本件各犯行の遠因になっている旨述べている。
確かに,被告人が,妻から夫としての扱いを受けなくなったことに絶望感を
抱いたこと自体は,理解できないわけではない。しかしながら,妻が被告人に
対し前記のような冷たい態度をとるようになったのは,被告人自身の自業自得
としか言いようのない生活ぶりにある。すなわち,被告人は,飲酒やパチンコ
に金銭を使うことが多くなって,妻に無断で多額の借金をするようになり,い
ったんは被告人の実父の援助により借金の大半を清算したものの,出会い系サ
イトを利用していたことを妻に知られたくないなどという自分勝手な理由か
ら,滞納していたその利用料の支払いに充てる金を借りたことをきっかけとし
て再び借金を重ねるようになり,被告人の実父が借金の清算をしてから数か月
後には妻に無断で自宅を担保に入れるなどして再び約800万円の借金を負っ
ているのである。これを知った妻が被告人に愛想を尽かし,同人に対し冷たい
態度をとるようになったのも無理はない。そうすると,前記のとおり金銭に困
窮していたことや性的に欲求不満であったことなどは,被告人が自らが招いた
苦境というほかないのであり,妻の被告人に対する態度が不適切で,それが本
件各犯行の遠因であるかのように述べる被告人の態度は余りに身勝手というほ
かない。
2本件各犯行の態様
(1)飯塚事件について
被告人は,強姦したり金品を奪ったりできそうな1人歩きの女性を探して
いた際に,若くて自分好みの女性であった被害者を発見すると,特段ちゅう
ちょすることなく,同人を強姦して金品を奪おうと決意し,その機会をうか
がいながら約500メートルにわたって被害者を追跡するとともに,その間
に自己が犯人であることが発覚しないようにあらかじめ用意していた帽子を
目深にかぶり,軍手をはめるなど周到な準備を行っている。これらの事情に
照らすと,被告人は並々ならぬ決意をもって本件犯行に臨んでいることがう
かがえる。
,,,被告人は公園内で犯行を実行することに決め本件犯行現場に近づくと
被害者の背後からいきなりその口をふさぎ,公園内に引きずり込んだ上,引
き倒された被害者の腹部付近に馬乗りになって,同人を気絶させるために首
に巻いていたマフラーを両手で力一杯引っ張り,その際,被害者が被告人の
胸付近を突き放すような仕草をしたにもかかわらず,それに構うことなくマ
フラーを引っ張り続けて,被害者を気絶させ,姦淫行為に及んでいる。これ
だけでも厳しい処罰に値する凶悪な犯行であるといえるが,これだけにとど
まらず,被告人は,被害者が自己の顔を見ているかもしれないので,被害者
を殺害しなければ犯人が自分であると発覚してしまうと考え,余りにも簡単
に被害者の殺害を決意して,再び被害者の首に巻かれていたマフラーを左右
に強く引っ張り,被害者を窒息死させているのである。犯行態様が凶悪で残
忍極まりないことはもとより,被告人の態度には人間らしい理性や被害者の
人格に対する畏敬の念などが全く感じられない。
(2)小倉事件について
被告人は,手提げバッグを所持して歩行中の被害者を発見するや,これを
脅してでも奪おうと決意し,飯塚事件と同様に帽子を目深にかぶり,軍手を
はめた上,刃体の長さが約20.5センチメートルもある鋭利な本件包丁を
持ち出して,犯行の機会をうかがいながら,被害者を数百メートルにわたり
追跡している。これらの事情に照らすと,飯塚事件と同様,被告人が並々な
らぬ決意をもって本件犯行に臨んでいることをうかがうことができる。
被告人は,本件犯行現場となった公園前に差しかかると,手提げバッグを
ひったくろうとしたものの,被害者の抵抗に遭ったために直ちにひったくる
ことができず,手提げバッグを手早く奪取するために持参した包丁で被害者
を刺している。そして,被害者は,出血したにもかかわらず,何とか被告人
の凶行から免れようと50メートル以上逃走している。被告人は,その被害
者を追跡した上,路上に倒れ,もはや抵抗することもできない同人の背部を
本件包丁で複数回にわたり強く突き刺し,さらに,仰向けになった被害者の
胸部をめがけ本件包丁で強く突き刺し,とどめをさしている。被害者は,本
件被害に遭遇した際,特に派手な服装をしていたわけでもない。早朝に道路
を歩いているそのような女性が,大金を持っていないことくらい容易に分か
ることである。被告人は,わずかな金銭を得るためにかけがえのない被害者
,。の生命を奪う決意をしほとんどためらいもなく実行に移しているのである
犯行態様が残忍で凄惨なものであることは言うに及ばず,その態様に照らす
と,被告人の被害者に対する殺意は非常に強固であったことも明らかであっ
て,被害者を死に至らしめることに執着しているといっても過言ではなく,
被告人に人間らしい理性は全く見出せない。
(3)博多事件について
被告人は,被害者を発見するや,同人から金品を強取するとともに,姦淫
しようと考え,本件包丁を隠し持って,犯行の機会をうかがいながら,被害
者を追跡し,公園内で犯行を実行することに決めた。本件犯行現場付近に差
しかかると,いきなり被害者に対し,その背後から手で口をふさぎ,本件包
丁を顔の前に突き付け,公園内に引きずり込んでいる。そして,被告人は,
被害者に対して暴行を加えて失神させ,わいせつ行為に及んでいる。被害者
に対する暴行の執ようさやわいせつ行為の悪質さなどに照らせば,これだけ
。,,,でも非常に凶悪な犯行といえるしかし被告人はこれだけにとどまらず
飯塚事件と同様,被害者に自分の顔を見られたと思い,被害者を殺害しなけ
れば犯人が自分であると発覚してしまうと考え,何らちゅうちょすることな
く被害者の殺害を決意して,被告人から執ような暴行を受け,既にほとんど
抵抗できない被害者の背部などを本件包丁で5回にわたり突き刺している。
犯行態様が非常に残忍で凄惨なものであることは言うまでもない。前記の犯
行態様のほか,被告人が被害者の身体を貫通してしまうほど強い力で本件包
丁を被害者に突き刺していることも考えると,被告人の被害者に対する殺意
が非常に強固であったことは明白であるばかりか,被害者を死に至らしめる
ことに異常なほどに執着しているといえ,被告人に人間らしい理性や被害者
の人格に対する畏敬の念などは全く感じられない。
3犯行後の情状
被告人は,博多事件を犯した後,同事件の被害者から奪った携帯電話機に安
否を確認する内容の電子メールを送信してきた同人の友人らに対し「俺,K,
といいます。昨日Fちゃんのこと好きで告白したら,俺みたいな男は嫌いだっ
て言われてついかっとなって殺してしまった。とんでもないことしてしまって
今から,俺もFちゃんのところに行きます「家のFば,先日空港近くで殺。」
されました。ニュースを見ませんでしたか」という電子メールを送信してい。
る。被害者の安否を気遣う友人らをからかうその態度が,被告人の手によって
生命を奪われた被害者に対する冒とくであることは言うまでもなく,犯行後の
情状も劣悪である。
4犯行結果
被告人は,わずか1か月余りの間に本件各犯行を重ねて行い,尊い3名の生
命を奪ったものであり,その結果が極めて重大であることは明らかである。以
下,被害者ごとに詳述する。
(1)飯塚事件について
飯塚事件の被害者は,昭和61年に長崎県内の離島で五人きょうだいの三
女として生まれ,地元の小中学校を卒業後,高校に進学するため親元を離れ
たが,その後,難病に罹患していることが判明した。被害者は,前記疾患に
よる体の痛みに耐え続けていたほか,毎日80錠にも及ぶ薬を服用し,その
副作用により顔がはれて人相までも変わってしまうという高校生の少女にと
っては余りにも辛い現実と向き合いながら生活を続けてきたのである。被害
者が,このような辛い闘病生活を乗り切ることができたのは,同人の家族の
被害者に対するたゆまぬ愛情と被害者自身に,声優になるという将来の夢を
実現するため,生き抜こうとする強い意思があったからにほかならない。
平成15年に入ると,次第に被害者の症状は改善し,同年末には薬の副作
用である顔のはれもなくなった。被害者は,声優になりたいという夢を持ち
続けていたものの,現実的な職業選択として歯科技工士になろうと考え,平
,。成16年4月に福岡県飯塚市にある専門学校に進学し一人暮らしを始めた
専門学校では非常にまじめに学業に取り組み,成績も優秀であった。
わずか18歳の若さで余儀なく生命を奪われ,最愛の父,母,姉,妹,弟
などを残し,この世を去らねばならないことはもちろん無念であろうが,特
に,被害者が,声優になるという将来の夢を実現するために,多くの苦難に
打ち克ち,難病を克服したばかりであり,まさにこれから彼女自身の人生が
始まるというときに,被告人の凶行によって余儀なく生命を奪われたことを
,。考えると被害者の無念さがより大きなものであったことは想像に難くない
また,本件被害に遭遇し,突然に後方から口をふさがれて,公園内に引き
ずり込まれていることからすれば,被害者自身,自らにいかなる事態が生じ
。,,ているのかもわからないほど驚愕していたと考えられるその後被害者は
被告人によって転倒させられた際に後頭部を強打し,意識が薄らいでいるも
,,,のの被告人が被害者の首をマフラーで絞めている際には意識を取り戻し
被告人の身体を遠ざけようと抵抗しているのである。被告人によって首をマ
フラーで絞められている際に被害者が感じたであろう肉体的苦痛が大きかっ
たことはもとより,徐々に遠ざかっていく意識の中で同人が感じたであろう
恐怖感や絶望感は筆舌に尽くし難い。
(2)小倉事件
小倉事件の被害者は,昭和47年に夫と結婚し,自らは慎ましい生活を送
りつつ,2人の子供の育成に心血を注いできた。2人の子供が就職するころ
には,生活に余裕もでき,夫と二人で旅行などをして自分の時間を楽しむこ
とができるようになり,2人の子供の結婚や孫の誕生を何よりも楽しみにし
ていた。被害者は,本件被害に遭遇した当時62歳であり,これから人生を
愉しもうとしていた時期に被告人の凶行に遭い,余儀なく生命を奪われたの
である。楽しみにしていた旅行に行くこともできず,孫の顔を見ることもで
きず,最愛の夫や2人の息子を残して,この世を去らなければならなかった
被害者の無念さは察するに余りある。
また,被告人によって本件包丁で刺され,傷つきながら何とか被告人の凶
行から逃れようとしていた際に被害者が感じていたであろう恐怖感や本件包
丁で何度も刺突されたことによる肉体的苦痛が甚大であったことは言うまで
。,,もないそれだけにとどまらず雪が降り積もる冷たい道路に仰向けになり
自分の上に馬乗りになって自分の生命を奪おうと躍起になっている被告人の
形相を見た際の被害者の絶望感は想像を絶するものであるといえる。
(3)博多事件
博多事件の被害者は,昭和56年に出生し,両親の愛情を一身に受けなが
ら成長して,大学在学中には,将来航空会社の客室乗務員になりたいと考え
るようになった。被害者は,大学卒業と同時に客室乗務員になることはでき
なかったものの,航空機の誘導等を業務とする会社に就職し,仕事をしなが
ら,客室乗務員になるための勉強を続けていた。被害者は,本件被害に遭遇
した当時23歳の若さであり,客室乗務員になるという目標を目指し,日夜
努力を続けていたときに被告人の凶行に遭い,余儀なく生命を奪われたので
ある。被害者は,その夢を奪われ,今後の人生において待っていたであろう
愉しみをもすべて奪われ,最愛の父母を残して,この世を去らなければなら
なかったのであり,その無念さは察するに余りある。
また,本件被害に遭遇し,突然に後方から口をふさがれて,いきなり包丁
を突きつけられた際の被害者の恐怖感,被告人から執ように顔面を殴打され
た際の肉体的苦痛は大きかったものと考えられる。さらに,被告人からわい
せつ行為をされるなどした際に被害者が感じたであろう屈辱感も多大なもの
があったと思われる。被害者は,これだけの苦痛を受けたにもかかわらず,
その正義感からだと思われるが,なおも被告人に対し向かっていこうとする
姿勢を示したために,被告人によって殺害される結果となっているのであっ
て,余りに理不尽である。被害者が,被告人から本件包丁で刺突された際に
感じたであろう肉体的苦痛が甚大であることは言うまでもないが,刺突され
た後,絶命するまでの間,被害者が,徐々に遠ざかっていく意識の中で感じ
たであろう絶望感は筆舌に尽くし難い。
5被害者遺族らの処罰感情
,,各被害者の遺族らにとって各被害者はそれぞれ最愛の存在だったのであり
突然の悲報に接し,最愛の存在を失うこととなった各被害者の遺族らの落胆や
悲しみが非常に大きかったことは言うまでもない。
量刑に当たり,各被害者の遺族らの現在の悲しみを考慮すべきことは当然で
ある。しかし,各被害者の遺族らの悲しみは,現在感じているものだけにとど
まるものではない。各被害者の遺族らが今後生きている限り,各被害者がこの
世に存在しないという現実と向き合っていかなければならないのであり,その
現実と向き合うたびに各被害者の遺族らはその悲しみを新たにすることを余儀
なくされるのである。本件各犯行は,各被害者の生命を奪っただけではなく,
各被害者の遺族らの幸福な生活をも奪っているものであり,この点も考慮され
なければならない。
6被告人の反省状況
被告人は,本件各犯行につき,前記のとおりの不自然な弁解をしているにと
どまらず,被告人質問においては捜査官に対する不平不満を述べることに終始
している。そして,このような被告人の態度を踏まえて,反省の態度が見られ
ないと指摘されるや「どんな態度をすればいいのですか」などと述べるに,。
至っている。揚げ句の果てには,本件事件の証拠のあら探しをはじめ「被害,
者,弱者,正義の味方面した検察官と刑事達は許せません」などと記載され。
た文書を作成し,警察署に送付するなどしている。
被告人は,公判廷において,自分の認める限りの事実については反省してい
る旨述べるが,前記のような被告人の態度は,およそ自己の行った行為を見つ
め直し,悔い改めようとするものではなく,被告人自身の内省は全く深まって
。,,いないといわざるを得ないまた被告人の法廷における前記のような態度が
各被害者の遺族らの感情をさらに害する結果となっていることも明らかであ
る。
7各犯行の社会的影響
,,,本件は深夜あるいは早朝に路上を1人歩きしていた女性が突然に襲われ
金品を奪われ,あるいは強姦されるなどして殺害されたという非常に凶悪かつ
残忍な犯行が,1か月余りの間に立て続けに3件敢行された重大事件であり,
殺害方法が残忍であることや福岡県内においてほぼ18日おきによく似た手口
の事件が発生するという猟奇性に注目が集まり,広くマスコミによって報道さ
れたものであって,本件各犯行が,犯行現場の付近住民に不安感を与えたこと
,。が容易に推認されるのみならず社会に強い衝撃を与えたことは明らかである
8被告人の更生可能性
被告人は,1か月余りの間に強盗殺人などという極めて重大な犯罪を3件も
重ねて行っている上,その犯行態様も事件ごとに凄惨さを増している。また,
被告人は,博多事件の後,被害者の様子を確認するために犯行場所である公園
に戻るという大胆な行為をし,また,被害者の安否を気遣う同人の友人らに対
し,同人らをからかう内容の電子メールを送信するなど,飯塚事件や小倉事件
の後には見られなかった行動を取るようになっている。これらは,被告人が,
飯塚事件,小倉事件,博多事件と次から次へと強盗殺人などという重大事件を
起こしたにもかかわらず,直ちに自己が犯人であると発覚しなかったことなど
から,人の生命を奪うことに対し何ら抵抗感を感じなくなっているのではない
かと思わざるを得ない。被告人は,本件各犯行を通じて,その犯罪性向を急激
に深化させているのである。
加えて,公判段階においても,深化した犯罪性向が改善の方向に向かってい
るどころか,前記のとおりの被告人の反省状況に照らすと,自己中心的かつ身
勝手な考え方や行動傾向がさらに根深くなっているというほかなく,被告人の
更生可能性については,悲観的な見方にならざるを得ない。
第4結論
既に述べた本件各犯行の動機,殺害方法の残虐性,犯行後の情状,殺害された
被害者の数,遺族の処罰感情,被告人の反省状況などに照らすと,被告人の刑事
責任が極めて重大であることは明白である。そうすると,被告人の行為が原因で
被害者らを死亡させたという限度では事実を認め,その点については反省してい
ると述べていること,被告人にはこれまで懲役刑の前科がないことなど,本件に
おいて認められる被告人にとって有利な事情を最大限に考慮し,そして,死刑が
人間存在の根源である生命を永遠に奪い去る究極の刑罰で,その適用には特に慎
重を期すべきであり,生命の尊さは被告人にも等しく妥当する普遍の原理である
ことを考慮しても,被告人の行った犯罪の重さとそれに対する刑罰の重さの均衡
の観点からしても,また,被告人の行った犯罪に対する評価を行うことによって
将来の犯罪を抑止するという一般予防の観点からしても,被告人に対してはその
生命をもって償わせるのが相当であり,被告人に対しては死刑をもって臨むほか
ない。
よって,主文のとおり判決する。
(検察官今村智仁,私選弁護人吉村拓各出席)
(求刑死刑,刺身包丁1丁の没収)
平成18年11月13日
福岡地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官鈴木浩美
裁判官小松本卓
裁判官井草健太

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