弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人斉藤展夫ほか七名の上告趣意第一は、事実誤認、単なる法令違反の主張で
あり、同第二は、憲法三七条、八二条違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、
事実誤認の主張であつて、いずれも適法な上告理由にあたらない。
 同第三は、公職選挙法(以下、公選法という。)一三八条二項は憲法二一条に違
反する、というのである。
 しかしながら、いわゆる戸別訪問を禁止する公選法一三八条一項が憲法二一条に
違反するものでないことは、当裁判所の確定した判例(昭和四三年(あ)第二二六
五号同四四年四月二三日大法廷判決・刑集二三巻四号二三五頁、昭和五五年(あ)
第八七四号同五六年六月一五日第二小法廷判決・刑集三五巻四号二〇五頁、昭和五
五年(あ)第一四七二号同五六年七月二一日第三小法廷判決・刑集三五巻五号五六
八頁)であるところ、公選法一三八条二項が、選挙運動のため戸別に特定の候補者
の氏名を言いあるく行為を前項に規定する禁止行為に該当するものとみなすと規定
しているのは、このような行為には、当該候補者を選挙人に強く印象づけ、当該選
挙人から同候補者への投票を得るのに有利に働く効果があるため、それが戸別訪問
の脱法行為として行われるおそれがあるからであつて、戸別訪問を禁止する以上、
かかる脱法行為を禁止することには合理性があり、また、右脱法行為の禁止によつ
てもたらされる表現の自由に対する制約の程度も、戸別訪問禁止の場合と比べ大き
いとはいえない。そうすると、選挙運動のため戸別に特定の候補者の氏名を言いあ
るく行為を戸別訪問行為とみなしてこれを禁止した公選法一三八条二項が憲法二一
条に違反しないことは、当裁判所の前記大法廷判例の趣旨に徴して明らかというべ
きである。所論は理由がない。
 同第四のうち、憲法三一条違反をいう点は、公選法一三八条二項の規定する、選
挙運動のため戸別に特定の候補者の氏名を言いあるく行為の意義が所論のようにあ
いまい不明確であるということはできないから、所論違憲の主張は前提を欠き、そ
の余は、単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、いずれも適法な上告理由にあ
たらない。
 同第五は、憲法一三条違反をいうが、原判決によれば、昭和四九年二月二四日施
行の町田市議会議員選挙に立候補したAの夫である被告人は、近隣住民から、Aが
立候補しても挨拶に来ないとか従来からあまり愛想のいい女ではないなどの誹謗中
傷がされていたことを聞知し、これを気にして、選挙騒音の謝罪挨拶に回つて誹謗
中傷で低下した同女への印象を回復するために、投票日が間近に迫つた同月一七日、
現に選挙騒音を受けていた団地の入居者を戸別に訪れ、多数の選挙人に対し、選挙
騒音の謝罪挨拶をした中で「A」あるいは「Bです。うちの家内が」などといつて
同女の氏名を言いあるいた、というのであるから、右被告人の行為が公選法一三八
条二項にいう選挙運動のため戸別に特定の候補者の氏名を言いあるく行為にあたる
ことは明らかであつて、これと同旨の原判決の判断は正当というべきである。した
がつて、被告人の本件行為が同項所定の行為に該当しないことを前提として違憲を
いう所論は前提を欠き、適法な上告理由にあたらない。
 同第六は、単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
 被告人本人の上告趣意は、憲法一三条違反をいう点を含め、実質は単なる法令違
反、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
 よつて、刑訴法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決す
る。
  昭和五九年一月二〇日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    鹽   野   宜   慶
            裁判官    木   下   忠   良
            裁判官    宮   崎   梧   一
            裁判官    大   橋       進
            裁判官    牧       圭   次

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