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裁判例


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         主    文
     一 原判決中附帯上告人(被上告人)敗訴部分を破棄し、右部分につき
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
     二 本件上告を棄却する。
     三 上告費用は上告人(附帯被上告人)の負担とする。
         理    由
 上告代理人岩本充司、同吉田幸一郎の上告理由第一点について
 記録によれば、原審において上告人(附帯被上告人。以下同じ。)は、上告人の
履行遅滞に関しては、当初約定の履行期がその後延期され、又は期限の定めをなく
す旨の合意がされたとの主張をしたにとどまり、履行期までに工事を完成すること
ができなかつたのは不可抗力によるものであるとの主張までしているとは認められ
ないのみならず(不可抗力の主張は、単に履行遅滞と本件被害の発生との間の因果
関係を否定する趣旨でされているにすぎない。)、原判決は、工期内に工事を完成
することは不可能ではなかつた旨を判示しているのであるから、論旨は結局採用の
限りでない。
 同第二点ないし第四点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審
の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用するこ
とができない。
 附帯上告代理人竹下甫、同小山稔の上告理由について
 一1 原審の確定した事実関係は、(一) 附帯上告人(被上告人。以下同じ。)
は静岡県下において、原判示の養魚池(以下「本件養魚池」という。)を所有して、
養鰻業を営むものであるが、右養魚池の西端の、第一審判決添付別紙図面(以下「
図面」という。)の「2」点から「6」点までの長さ約一〇〇メートルの堤防(以
下「本件堤防」という。)のうち「2」点から「6」点に向かつて(北に向かつて)
約一〇メートルまでの部分が崩壊したので、梅雨期でもあることから、早急に崩壊
部分の修復を行うとともに、本件堤防全部についての補修工事を行うこととし、昭
和四九年六月一二日、土木建設業者である附帯被上告人(上告人。以下同じ。)と
の間で、工事代金額を一四一万六〇〇〇円、工期を同月一三日から同月三〇日まで
とし、工事内容を本件堤防の底部の幅を西側(外側)に約一・二メートル拡げ(こ
れに伴い堤防西側の用水路の幅を約一メートルにする。)、高さを旧堤防とほぼ同
一とする旨の請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結し、附帯被上告人
は同月一三日に着工した、(二) 本件請負契約における工期は、梅雨期でもあるこ
とからなるべく早くという附帯上告人の希望を考慮して附帯被上告人において現地
調査のうえ工事完成の見込みある日として約定に至つたものであり、着工後に降雨
又は高潮の日があつたが、附帯被上告人において約定の工期を守るつもりで施行す
れば右工期内に工事を完成することは不可能ではなく、その後両当事者間において
右工期の変更合意がされたこともなかつた、(三) 附帯被上告人は、着工後、本件
堤防西側の用水路をせき止めてポンプで排水しつつ、図面の「2」点から「6」点
に向け、逐次堤防下段のコンクリート柱、コンクリート柵板を取外して底部の幅を
拡げる位置にこれを移設したうえ盛土をする方法で施行し、なお工事の都合上西側
上段のコンクリート柱、コンクリート柵板は予めほとんど取外しておいたが、約定
の工期である昭和四九年六月三〇日までには工事を完成できず、同年七月七日当時、
本件堤防のうち図面「2」点からA点までの部分の補修工事を完了してほぼ旧堤防
と同じ高さの新堤防を完成させたが、その余の部分は未完成であつた、(四) 昭和
四九年七月七日静岡県地方は、折柄遠州灘から関東沖にかけてほとんど停滞してい
た梅雨前線が日本海を北東進する台風八号に刺激されて異常な豪雨となり、本件養
魚池のあるa町においては三〇〇ミリメートルを超える降雨量となり、同町におけ
る被害は水田の流失、埋没、冠水が約八三一ヘクタール、家屋の床上浸水が六八一
棟、床下浸水が一六七八棟に及び同町を流れるb川の水位は、七日午後一〇時頃に
は警戒水位二・二メートルを一・四メートル超えた三・六メートルに達したため、
各所で堤防が決壊し、相当広範囲にわたつて浸水する洪水となつた、(五) 本件養
魚池に隣接してその南側を流れるc川の水位は、同日午後七時一〇分頃には、養魚
池西方約一五〇メートルにあたるd橋付近で堤防下約三〇センチメートルにまでな
つたため、附帯上告人が同日午後七時三〇分過ぎ頃本件養魚池の西方約三〇〇メー
トルにあるc川と同じくa町を流れるb川との合流点(b川はこの地点から約一三
〇メートル下流でe湖に注いでいる。)付近にある水門を開け、c川の水をb川に
放流したので一時c川の水位は下がつたが、午後九時からは激しい豪雨となつてc
川が増水したばかりでなく、b川からの逆流も加わり、午後一一時過ぎ頃にはd橋
を通る県道f線も冠水し、また本件養魚池に隣接する附帯上告人方の倉庫(図面表
示の原告方倉庫)付近も膝上に達する水が押し寄せた、(六) その後七月八日午前
零時過ぎ頃になつて、本件養魚池の外周にあつた水が図面D点からE点に及ぶ堤防
を決壊して図面(10)養魚池(当時鰻を放流しておらず空池であつた。)に濁流と
なつて流れ込み、次いで本件養魚池全部にわたつて濁流が入り込むに至つた、(七)
 本件堤防の南に接続する図面「1」点から「2」点までのブロツク塀は、地盤高
〇・八三ないし〇・八八メートルで、未完成の堤防部分は右ブロツク塀よりさらに
三〇センチメートル以上高かつたが、養魚池外周の水位は、ブロツク塀の上部が見
える程度でこれを超えるまでには達せず、養魚池に浸水したのは、右決壊部分から
の濁流によるものであつた、(八) 附帯被上告人は、七月六日の工事終了後、新堤
防と未完成部分の境となつた図面A点付近が新堤防部分よりも約三〇センチメート
ル低くなつていたので、長さ三メートル位にわたつて盛土してしめ固め、同所付近
に大きなシートを被せてその上に重しをのせるなどの方法を講じておいたが(翌七
日は工事を休んだ。)、右の措置によつては決壊を防げなかつた、(九) 当時附帯
上告人は本件養魚池において相当量の鰻を養殖していたが、新堤防の決壊による浸
水により本件養魚池において養殖中の鰻が右浸水の流れを遡つて養魚池外に逃げ去
り、損害を被つた、(一〇) 本件堤防の決壊直前本件養魚池に残存していた鰻は成
鰻約七一三一キログラム、原料鰻約二五四六キログラムであり、右決壊後に残存し
ていた鰻は、成鰻約二〇六二キログラムであり、したがつて、本件堤防の決壊によ
る鰻の流出量は、少なくとも成鰻が五〇六九キログラム、原料鰻が二五四六キログ
ラムであつたものと推認でき、これをそれぞれ当時における時価(成鰻一キログラ
ム当たり二三〇〇円、原料鰻一キログラム当たり五四〇〇円)によつて計算した合
計額は二五四〇万七一〇〇円と算出され、結局本件堤防の決壊による鰻の流出によ
つて附帯上告人は右同額の損害を被つた、というものである。
 2 原審は、右認定の事実によると、(一) 本件堤防の図面D点からE点にかけ
ての部分が決壊するに至つたのは、図面「2」点からA点までは既に新堤防が完成
していたが、同図面A点から「6」点までの未完成部分については、上段のコンク
リート柱及びコンクリート柵板が取外されていて脆弱となつていたため、折柄の豪
雨によつて河川が氾濫して洪水となり堤防外側の水位が上昇するのに伴い、D、E
点付近が浸水していた水圧に耐えられず決壊するに至つたものと認められる、(二)
 附帯被上告人は、本件堤防の決壊当時、本件請負契約に定めた工事完成時期につ
き履行遅滞にあつたものと認めるのが相当である、(三) 静岡県地方における昭和
四九年七月七日から同月八日にかけての降雨量は前示認定のとおりのもので、梅雨
末期としても通常一般に予測されるものをはるかに超えるものであつたということ
ができるが、本件堤防のうち工事完了部分に接続する工事未了の旧堤防部分が決壊
して養魚池に浸水するに至つた経過は前示認定のとおりであり、工事完了部分の損
壊については認めうる証拠がなく、本件請負契約に定められた工期どおり工事が完
成していても、養魚池へ浸水して鰻が逃げたであろうと認めさせる証拠はないから、
結局本件請負契約に定められた工期に遅滞したことと附帯上告人の被つた損害との
間には因果関係があるというべきである、(四) 附帯被上告人は、本件請負工事の
履行遅滞中に発生した本件堤防の決壊に伴い、附帯上告人が養殖中の鰻が本件養魚
池外に逃げ去つたことにより被つた損害を賠償する責任があるというべきであると
判断したうえ、さらに、(五) 本件鰻の流出には通常一般に予測されるところをは
るかに超える降雨量とこれによる洪水が寄与していることなど諸事情を参酌すると、
公平の理念に照らして附帯被上告人に負担せしむべき本件債務不履行による損害賠
償の額は、前記附帯上告人の被つた全損害額である二五四〇万七一〇〇円のうち一
七〇〇万円にとどめるのが相当であるとし、結局附帯上告人の本訴請求は、附帯被
上告人に対し、一七〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四九
年九月一三日から完済まで年五分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるも
のとして認容し、その余を棄却するに至つている。
 二 債務者が、約定の期限までにその履行を怠り、履行遅滞に陥つている間に債
権者に損害を被らせた場合には、右履行遅滞が不可抗力ともいうべきやむを得ない
事由によつて生じた場合など特段の事情のない限り、債務者は債権者に対し、右債
務の不履行により通常生ずべき損害及び債務者において予見し又は予見しうべかり
し特別の事情によつて生じた損害の全額につきその賠償をすべき責任を負うもので
ある。
 右の観点から本件をみるのに、原審は、前記一1の確定した事実関係から、前記
一2(一)ないし(四)のとおり、本件工事の債務者たる附帯被上告人は約定の期限に
右工事を完成せず履行遅滞に陥つていたこと、右履行遅滞と本件鰻の流出及びこれ
により附帯上告人の被つた全損害額二五四〇万七一〇〇円との間には因果関係があ
ること、右履行遅滞は不可抗力ともいうべきやむを得ない事由によるものではない
ことを肯定しながら、右鰻の流出には梅雨末期において通常予想されるところを遥
かに超える前示降雨量とこれによる洪水が寄与している等の事情を参酌するときは、
公平の理念に照らし、右全損害額二五四〇万七一〇〇円の六割七分弱にあたる一七
〇〇万円をもつて附帯被上告人が附帯上告人に対して賠償すべき損害額であるとす
るのが相当であると断じている。そして、原審は、右のように、本件においては通
常の予測を超える降雨量とこれによる洪水が本件鰻の流出に寄与したとの事実を摘
示するのみで、それが法律上いかなる意味をもつか、なぜそれが附帯被上告人の損
害賠償責任を減ずる理由となるかについては、なんら特段の説示を施すところがな
く、単に公平の理念を云々するにとどまつている。しかしながら、もし右の判示の
趣旨が、本件における降雨量が梅雨末期において通常予想される程度のものであれ
ば本件堤防の未完成部分の決壊及びこれによる本件鰻の流出ということはなく、か
かる事態が発生したのは右の予想を超える異常な降雨のためであつたというのであ
るとすれば、これによつて附帯上告人が被つた損害につき附帯被上告人が賠償の責
に任ずべきかどうかは、専ら債務者である附帯被上告人において右のような特別の
事情を予想したか、又は予想すべかりしものであつたかによつて決せられるべきも
のであることは、さきに述べたとおりであり、これが肯定される場合における附帯
被上告人の賠償責任の範囲は、右鰻の流出によつて附帯上告人が被つた全損害に及
ぶものであつて、附帯被上告人の履行遅滞又は本件被害の発生につき附帯上告人に
もその責に帰すべき事由が存在するのでない限り、裁判所の裁量的判断によつて右
賠償額を減額しうる根拠はないといわなければならない。しかるに原審が、右の点
についてなんらこれを明らかにすることなく、前記のように単に本件降雨が通常の
予測を超える異常の量に達するものであつたことを判示したのみで、卒然として、
公平の理念に照らし附帯被上告人の賠償すべき損害額を附帯上告人の被つた損害の
一部に限定すべきであると断じたのは、法令の解釈適用を誤り、ひいて審理不尽又
は理由不備の違法を犯したものというほかはない。そして右違法が判決の結論に影
響を及ぼすことが明らかであるから、右の違法をいう論旨は結局理由がある。よつ
て、原判決中附帯上告人敗訴部分を破棄し、右については更に審理を尽くさせる必
要があるからこれを原審に差し戻すのが相当である。
 よつて、民訴法四〇七条一項、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見に
より主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    谷   口   正   孝
            裁判官    和   田   誠   一
            裁判官    角   田   禮 次 郎

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