弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人伊藤修佐の上告理由について。
 抵当権が設定してある家屋を提供してなされた代物弁済が詐害行為となる場合に
は、その取消は家屋の価格から抵当債権額を控除した残額の部分にかぎつて許され
るものと解すべく、この場合に、取消の目的物が一棟の家屋の代物弁済で不可分の
ものと認められるときは、債権者は一部取消の限度で価格の賠償を求めるべきもの
であることは、当裁判所の判例(昭和三〇年(オ)第二六〇号同三六年七月一九日
大法廷判決・民集一五巻七号一八七五頁参照)とするところである。原判決の確定
したところによれば、被上告人B1は訴外Dに対して合計三六万四二一七円の約束
手形金債権、被上告人B2株式会は同訴外人に対して合計一八万七七三九円の約束
手形金債権を、それぞれ有していたところ、右訴外人は昭和二七年四月営業を廃止
するのやむなきに至つたが、当時負債が約二〇〇〇万円であつたのに対して、資産
は本件家屋のみであり、しかも、本件家屋については同年四月一四日訴外東京都E
協同組合に対して債権極度額一五〇万円とする根抵当権設定仮登記を経、同年一一
月四日その本登記手続がなされたが、上告会社が訴外Dの右債務を引き受けたうえ、
同年同月七日右引受債務弁済により同訴外人に対して生ずべき求償金債権を担保す
るため前記抵当権の移転登記を受け、昭和二八年三月六日までに右引受債務七四万
円を完済し、従つて、上告会社は訴外Dに対する七四万円の求償金債権を取得し、
同訴外人は上告会社に対して右求償金債務の弁済に代えて昭和二八年六月二〇日本
件家屋を譲渡したというのである。右確定事実によれば、本件はまさに抵当権を設
定してある一棟の家屋が代物弁済として提供された場合にあたるのであるから、右
譲渡行為が詐害行為になるものというためには、本件家屋の価格および抵当権の被
担保債権額を確定することを要し、前者が後者を超える限度においてのみ詐害行為
の成立を認め、右の限度において取消および価格の賠償を命ずべきものといわなけ
ればならない。しかるに、原審が、この措置に出ることなく、右譲渡契約全部を取
り消したうえ上告会社に対して本件家屋所有権取得登記の抹消登記を命じたのは、
民法四二四条の解釈適用を誤つた違法があるものというべきであるから、論旨は理
由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。しかして、本件は叙上の点に
つき原審においてなお審理を尽くす必要があるものと認められるから、本件を原審
に差し戻すのが相当である。
 よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官奥野健一、同山田作之助の補足意見があ
るほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 裁判官奥野健一、同山田作之助の補足意見は次のとおりである。
 債権者取消権の制度は、詐害行為により逸脱した財産を取り戻して債務者の一般
財産を原状に回復せしめんとするにあるのであつて、逸脱した財産自体の返還を請
求しうる場合には、原則としてこれを請求すべく、特別の事由なきかぎり、その財
産の評価額の返還を請求し得ないのであり、たとえ債務者の行為の一部が詐害行為
となる場合でも、目的物が分割し得ない場合には、その対価の全部において債権者
を害すると一部において害するとを問わず、その行為の全部を取り消すべきものと
解するのが相当であり、この点については昭和三〇年(オ)第二六〇号同三六年七
月一九日大法廷判決(民集一五巻七号一八七五頁)における裁判官奥野健一、同下
飯坂潤夫、同山田作之助の補足意見として述べたところと同様であるから、ここに
これを引用する。しかし、原判決の確定したところによれば、受益者たる上告人は
債務者訴外Dから本件家屋の所有権移転登記を受けた後F信用金庫に対して抵当権
を設定しており、被上告人は、右金庫をも被告として本訴において右抵当権設定登
記の抹消登記手続を求めたが、敗訴して該判決が確定しているのであり、同金庫は
本件所有権移転登記抹消請求について不動産登記法一四六条にいわゆる利害関係あ
る第三者にあたるのであるから、その者の同意のない限り本件所有権移転登記の抹
消はできないのみならず、記録によれば、本件家屋は上告人の抵当権付債権に代物
弁済され、訴外Dの上告人に対する抵当権設定登記はすでに抹消されており、しか
る後に上告人が訴外F信用金庫のため本件家屋につき抵当権設定登記をなしたこと
が窺われるのであるから、右抵当権付債権を復活させ、抹消された右抵当権設定登
記を回復させることは不可能であり、決して原状回復とはなり得ない関係にあると
ともに、また、かりに、本訴が本件家屋について訴外Dへの所有権移転登記を求め
る趣旨であると解しうるとしても、前記抵当権設定登記を回復させることは訴外F
信用金庫に対する関係で不可能というべきであるから、これまた原状回復とはなり
得ない関係にあるのであつて、このような特別の場合においては、財産自体の返還
に代えてその評価額により詐害行為となつた部分に相当する金額の賠償を認めるこ
ともやむを得ないところであり、この趣旨において、多数意見と結論において同様
である。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
 裁判官山田作之助は外国出張につき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    奥   野   健   一

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