弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由について。
 第一審に於て被上告人及び証人Dは「残代金二万五千円は全部、所有権移転登記
申請の前日既に準備して所持し、申請当日之を上告人に交付した」と供述し、原審
は之を採用して本件残代金二万五千円全部が登記に当り被控訴人から控訴人に支払
われた事実を認定している。
 しかるに、上告人は、
 (イ) 被上告人が右申請当日、約定による残金支払場所の司法書士E方に来な
がら、其の支払場所を被上告人方に変更したい旨申入れ、次で被上告人方で「残代
金全額を支払うに足る現金がないから所持の繊維製口(配給統制品)を右支払に代
え受取つて貰いたい」と申入れた事実に徴すると、当日被上告人が右残代金二万五
千円全額を所持して居なかつたことが明白であり
 (ロ) 更に百円札二百五十枚を積重ねたものの厚味が一寸位に過ぎないことは
洵に明かであるに拘らず、之を約四寸と供述した前記Dの証言は右現金不存在の事
実を証して余りあるのであつて(なお右は一面「同証人が金員授受に立会つた」と
の被上告人の供述の虚偽であることの証左ともなると考える)詰局被上告人は前記
登記申請の日には残金全額を支払つたものではなく
 (ハ) 従つて、右支払を前提とし被上告人及び右証人が「上告人から金二万五
千円の領収証を受取つたが、其の後所有権移転登記済証書の交付を受けたので之を
上告人に返戻した」との供述も全然虚偽であつて、以上各供述は凡て信用すべから
ざるものであると主張する。仍て記録を精査すると、前記(イ)の事実中、上告人
及び被上告人が残代金二万五千円の支払期を移転登記の日とする旨の合意を為した
との点については被上告人の供述中に(記録一〇〇丁)又被上告人が右登記申請当
日司法書士方に一旦赴いた後上告人を伴つて被上告人方に帰来し同所で金銭を授受
したとの点については証人Dの証言中(記録一〇五丁以下)に夫々同旨の供述が存
するけれども、右以外の事実就中最も主要なものと認められる残代金支払場所に関
する合意及び代物弁済申出の点に至つては、記録上その事実の存在を推認するに足
る事跡も認められない。又百円札二百五十枚を所論のように積重ねたものの厚味が
四寸に達しないことは所論の通り明かであるが、右が明かな事実である以上原審が
故らに之に反する証人Dの証言(記録一〇五丁)を其の儘採用したものとは到底解
し難いし、更に同証言の故を以て当時被上告人方に二万五千円の現金が存在しなか
つたものとも推断し得ない。却つて、原判決挙示の関係証拠並に争いのない事実を
綜合考覈するときは、右家屋自体の売買代金を始め造作代金等合計二万七千円の残
金二万五千円を全部前記所有権移転登記申請の日上告人に支払つたことを認め得な
いではなく、第一審に於ける上告人の供述(記録一一五丁以下)は甲第一号証(記
録七七丁)等に照して輙く之を措信し難く其の他上告人の提出援用に係る証拠によ
つても未だ以て右認定を覆すに足りない。すると、原審の前記事実認定については
所論の如き経験則違背の違法ありと為し難く、論旨は結局単に原審の裁量に属する
証拠の取捨判断乃至は事実認定を非難するに帰着し、到底之を採用し得ない。
 次に、上告人は、
 (イ)第一審裁判長堀内齊は昭和二三年七月二二日の口頭弁論期日に於て、其の
前回の期日に上告人が申請し裁判官成田薫が証拠決定を為した百円札の札束の厚味
についての検証を必要なしとして施行しない。又原審裁判長藤江忠二郎は陪席裁判
官と共に昭和二四年三月一二日其の法廷に於て右検証を実施しながら、其の旨の調
書を作成しない。
 (ロ)第一審裁判長堀内齊は上告人の督促に拘らす上告人の援用提出に係る乙第
四、第五号証の成立に関する相手方の陳述を求めずして、弁論を終結し、原審裁判
長藤江忠二郎は昭和二四年二月一〇日の口頭弁論期日に於て上告人の右乙第四、第
五号証の援用提出を拒否し却つて同口頭弁論調書に「乙第四、第五号証は提出せず」
と記載し又上告人の督促に拘らず上告人提出の乙第二三号証の成立に関する相手方
の陳述を求めない。
 (ハ)原審裁判長茶谷勇吉は上告人が相手方の証人Jの証言に関する新たな立証
を準備し且前記百円札の札束の厚味について立証せんとしたに拘らず之を無視して、
弁論を終結し、更に上告人の為した弁論再開の申立につき、裁判長中島奨と共に故
意に之を再審の訴と解して却下し又上告人の為した忌避申立に拘らず本件につき昭
和二五年四月一五日に言渡された原判決の作成に関与したものであつて右の違法は
何れも上告人に甚だしい不利益を齎し原判決の内容に影響を及ぼしたことが明らか
であると主張する。
 仍て記録を精査すると
 (イ)所論の昭和二三年七月二二日に本件第一審の口頭弁論が開かれたと認める
べき証左は記録上毫も存しない、唯第一審に於て本件審理が合議体に移される前の
期日に該る同月八日の口頭弁論調書(記録九二丁以下)を始め所論単独裁判官成田
薫の審理担当中の口頭弁論調書に徴すると、同裁判官の審理担当中上告人が其の主
張の如き検証の申請を為し同裁判官が所論の如き証拠決定を為した事実のないこと
を認め得られるから其の後合議体が其の審理に当つて所論の検証を為さなくても之
を違法なりとは為し難く、更に昭和二四年三月一二日の公判廷に於て所論の如き検
証が原審によつて施行されたとの点については之を確認するに足る資料が毫もなく
亦当時原審が右の如き職責を負担して居たと認むべき証左も存しないから、其の旨
の調書の存しないのは当然であつて、此の点につき原審の訴訟手続には何等の違法
も存しない。
 (ロ)上告人が第一審に於て乙第四、第五号証を援用提出したことは昭和二三年
一一月五日の口頭弁論調書(記録一三〇丁以下)に明かであるが右乙第四号証は第
一審に於ける証人Dの訊問調書(記録一〇四丁以下)の一部であり同第五号証は被
上告人提出に係る「請求の趣旨減額の申立」と題する書面(同一二二丁)であつて
何れも本件につき作成され記録の一部をなして居るものであることが前記口頭弁論
調書及び上告人提出の準備書面(同一二三丁以下)の記載等によつて明かであるか
ら第一審裁判所が被上告人の「右は書証として認否するの要なし」と陳述したのを
其の儘とし(同一三二丁)改めて相手方の陳述を求めずして弁論を終結したことを
目して違法なりとは到底謂い難い。又、原審に於ける所論昭和二四年二月一〇日の
口頭弁論期日は控訴(上告)代理人の書面による申請によつて変更されたことが記
録上(一六六丁)明かであるから、所論の如き口頭弁論調書は存しない。唯原審の
同年三月一二日の口頭弁論調書(記録一七一丁以下)によれば上告人が右期日に於
て前記証人Dの証言内容を詳述し更に前記減縮申立に言及して弁論を為した旨記載
されて居り右が前記記録の一部を援用する趣意を以て為されたに過ぎないものであ
ることを認められるから、原審裁判長藤江忠二郎が上告人の右援用を阻止、拒否し
たとの論旨は到底採用し難く、更に上告人提出に係る乙第二三号証(記録二二三丁)
に至つては相手方が昭和二四年一〇月六日の原審口頭弁論期日に其の認否を為して
居ることが同口頭弁論調書(同二六五丁)に明かであつて、以上諸点に関する原審
の訴訟手続にも何等の違法を認め難い。
 (ハ)原審裁判長茶谷勇吉が昭和二四年一〇月六日の口頭弁論期日に於て被上告
人申請に係る証人Jの訊問等を為した後合議の上弁論を終結し、同裁判長が原判決
の作成に関与したことは洵に所論の通りであるが証拠調の限度並びに審理が判決を
為すに熟したか否か及び弁論を再開すべきか否か等に関する判断は何れも原審の載
量に属するところであり、しかも記録を精査しても上告人が前記期日に立証準備等
のため、弁論の続行を求め或は其の後に新たな証拠調の申出等を為して弁論の再開
を申立てたと認め難く且つ原審に審理不尽の点ありと認めるに足る事跡は何等顕わ
れて居ないのみならず、所論の忌避申立事件(名古屋高等裁判所昭和二四年(雑)
第一号事件)は右弁論終結後に申立てられ、原判決言渡期日指定以前既に、其の申
立棄却決定が確定して居たと認められるから、右茶谷勇吉判事の原判決関与は其の
職責上当然であつて勿論違法でなく、更に所論の再審事件(名古屋高等裁判所昭和
二四年(ム)第一号事件)については、同判事が之に所論の如く関与したと認める
べき何等の証左もなく且つ該事件は本件と直接の関係ありと認め難いから、以上諸
点に関する原審の訴訟手続にも何等の違法はない。
 其の他上告理由書記載の論旨は何れも上告適法の理由として採用し得ない。上告
人は右昭和二五年七月二三日附上告理由書の外昭和二七年四月二八日附、同年五月
二一日附、同年六月一八日附、同年七月九日附を以て書面を提出して居るがこれ等
は何れも法定の上告理由提出期間経過後のものであるから、右については判断を示
す限りでない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に則り、裁判官全員一致の意見で主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    入   江   俊   郎

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