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平成11年(行ケ)第312号 特許取消決定取消請求事件(平成13年10月1
日口頭弁論終結)
          判         決
       原      告    三井化学株式会社
       訴訟代理人弁理士    鈴 木 俊一郎
       同           牧 村 浩 次
       同           鈴 木   亨
       訴訟復代理人弁理士   八 本 佳 子
       被      告    特許庁長官 及 川 耕 造
       指定代理人       石 井 あき子
       同           柿 崎 良 男
同森 田 ひとみ
       同           宮 川 久 成
          主         文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   特許庁が平成10年異議第71663号事件について平成11年8月6日に
した決定を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は、名称を「インジェクションブロー成形品」とする特許第26620
70号発明(平成2年2月16日出願(優先権主張 平成元年2月16日・日
本)、平成9年6月13日設定登録、以下、この特許を「本件特許」といい、本件
特許に係る発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
   本件特許につき特許異議の申立てがされ、平成10年異議第71663号事
件として特許庁に係属したところ、原告は、平成10年9月14日に願書に添付し
た明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載を訂正する旨の訂正請求を
し、さらに、平成11年4月16日に訂正請求書の補正をした(以下、同補正後の
訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)。
   特許庁は、同特許異議の申立てにつき審理した上、平成11年8月6日、
「特許第2662070号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定
(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同月30日、原告に送達され
た。
 2 設定登録時の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許
請求の範囲の記載
  【請求項1】下記式[Ⅰ]または下記式[Ⅱ]で表される環状オレフィン成分
とエチレン成分とを付加重合してなる環状オレフィン系樹脂から成形されるインジ
ェクションブロー成形品;
        ・・・[Ⅰ]
 〔上記式[Ⅰ]において、nは、0もしくは正の整数であり、R1
~R12
はそれぞ
れ独立に、水素原子、ハロゲン原子および炭化水素基よりなる群から選ばれる原子
もしくは基を表し、R9
~R12
は互いに結合して単環または多環の基を形成していて
もよく、かつ該単環または多環の基が二重結合を有していてもよく、また、R9
とR
10
とで、またはR11
とR12
とでアルキリデン基を形成していてもよい。〕;
         ・・・[Ⅱ]
 〔上記式[Ⅱ]において、lは0または1以上の整数であり、mおよびnは、
0、1または2であり、R1
~R15
はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、脂肪
族炭化水素基、芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R5
(またはR6
)と
R9
(またはR7
)とは、炭素数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよ
く、また何の基も介さずに直接結合していてもよい。〕。
  【請求項2】インジェクションブロー成形品が、上記環状オレフィン系樹脂
に、炭化水素から誘導される重合体、塩素含有重合体、不飽和酸から誘導される重
合体、不飽和アルコールあるいはアミンから誘導される重合体、エポキシドから誘
導される重合体、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリカーボネート、
ポリスルフォン、尿素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ホルムアミド系
樹脂および天然重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の重合体をブレン
ドした樹脂組成物から形成されていることを特徴とする請求項1記載のインジェク
ションブロー成形品。
 3 本件訂正請求に係る明細書(以下「訂正明細書」という。)の特許請求の範
囲の記載(下線部が訂正箇所である。)
  【請求項1】下記式[Ⅰ]または下記式[Ⅱ]で表される環状オレフィン成分
とエチレン成分とを付加重合してなる環状オレフィン系樹脂から、ブロー成形時の
プリフォーム樹脂温度を前記環状オレフィン系樹脂の軟化温度(TMA)の±10
℃以内としてインジェクションブロー成形して得られたインジェクションブロー成
形品;
       ・・・[Ⅰ]
 〔上記式[Ⅰ]において、nは、0もしくは正の整数であり、R1
~R12
はそれぞ
れ独立に、水素原子、ハロゲン原子および炭化水素基よりなる群から選ばれる原子
もしくは基を表し、R9
~R12
は互いに結合して単環または多環の基を形成していて
もよく、かつ該単環または多環の基が二重結合を有していてもよく、また、R9
とR
10
とで、またはR
11
とR
12
とでアルキリデン基を形成していてもよい。〕;
    ・・・[Ⅱ]
 〔上記式[Ⅱ]において、lは0または1以上の整数であり、mおよびnは、
0、1または2であり、R1
~R15
はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、脂肪
族炭化水素基、芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R5
(またはR6
)と
R9
(またはR7
)とは、炭素数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよ
く、また何の基も介さずに直接結合していてもよい。〕。
  【請求項2】インジェクションブロー成形品が、上記環状オレフィン系樹脂
に、炭化水素から誘導される重合体、塩素含有重合体、不飽和酸から誘導される重
合体、不飽和アルコールあるいはアミンから誘導される重合体、エポキシドから誘
導される重合体、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリカーボネート、
ポリスルフォン、尿素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ホルムアミド系
樹脂および天然重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の重合体をブレン
ドした樹脂組成物から形成されていることを特徴とする請求項1記載のインジェク
ションブロー成形品。
 4 本件訂正請求に係る訂正事項
   本件訂正請求は、下記訂正事項を含むものである。
  (1)本件明細書の特許請求の範囲の請求項1を上記3のとおり訂正する(以下
「訂正事項①」という。)。
  (2)本件明細書の発明の詳細な説明の「プリフォームの温度は、使用樹脂のT
MAの±50℃の範囲になるようにするのが好ましい。」(甲第2号証47欄34
行目~36行目)との記載を、「ブロー成形時のプリフォーム樹脂温度は、使用樹
脂(環状オレフィン系樹脂)のTMAの±10℃以内である。」と訂正する(以下
「訂正事項②」という。)。
 5 本件決定は、別添決定書写し記載のとおり、①訂正請求書の補正の許否につ
き、当該補正は特許法120の4第3項において準用する同法131条2項の規定
に適合するとして、これを認め、②本件訂正請求の許否につき、訂正事項が本件明
細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではないから、平成5年法
律第26号による改正後の特許法126条1項ただし書に規定する要件を満足せ
ず、この訂正請求は認められないとし、③特許異議の申立てにつき、本件発明の要
旨を本件明細書の特許請求の範囲の請求項1、2の記載のとおり認定した上、いず
れの請求項に係る発明も、1985年(昭和60年)12月11日に発行された東
独国経済特許第230828号明細書(DD 230828 A1)に記載された
発明と認められるから、上記各発明についての特許は、特許法29条1項3号の規
定に違反してされたもので、同法113条1項2号に該当し、取り消されるべきも
のであるとした。
第3 原告主張の本件決定取消事由
 1 本件決定の理由中、訂正請求書の補正が特許法120条の4第3項において
準用する同法131条2項の規定に適合するとした判断、本件訂正請求に係る訂正
事項①、②の認定、訂正事項①、②は「ブロー成形時のプリフォーム樹脂温度が、
使用樹脂(環状オレフィン系樹脂)の軟化温度(TMA)の±10℃以内であるこ
とを記載するものである」(決定書4頁10行目~14行目)との認定は認める。
   本件決定は、本件明細書記載の技術事項を誤認して、訂正事項①、②が本件
明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではないとの誤った判断
に基づいて訂正請求が認められないとし、ひいて、本件発明の要旨の認定を誤っ
て、本件発明に係る特許が特許法29条1項3号の規定に反してされたとの誤った
結論に至ったものであるから、本件決定は違法として取り消されるべきである。
 2 取消事由(訂正事項が本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内において
するものではないとした判断の誤り)
  (1)本件決定は、「本件特許明細書第70頁第11行~第74頁表1(注、本
件明細書(甲第2号証)49欄2行目~50欄26行目、25頁~26頁の表1)
には、実施例1~4に関する記載がなされており、各実施例には、使用した環状オ
レフィン系樹脂の軟化温度と、ブロー成型時の樹脂温度が記載されているものの、
両者はそれぞれ別個に記載されており、互いを関連付ける記載はなされていな
い・・・仮に、互いに関連付ける記載があると解釈できるとしても、実施例1~4
における、使用した環状オレフィン系樹脂の軟化温度と、ブロー成型時の樹脂温度
との温度差は、それぞれ、O℃、一8℃、一10℃、一3℃と計算できるのみであ
り、±10℃以内という範囲が実質上記載されているとはいえない」(決定書5頁
4行目~6頁6行目)、「本件特許明細書及び図面を詳細に検討しても、ブロー成
形時のプリフォーム樹脂温度が、使用樹脂(環状オレフィン系樹脂)の軟化温度
(TMA)の±10℃以内であることが記載されているとは認められない」(同6
頁7行目~11行目)として、訂正事項①、②が本件明細書又は図面に記載した事
項の範囲内においてするものではないと判断したものである(以下、プリフォーム
樹脂の温度を単に「プリフォーム温度」といい、樹脂の軟化温度(TMA)を単に
「TMA」という。)。
    しかしながら、本件決定の上記認定判断は、以下のとおり誤りである。
  (2)本件明細書(甲第2号証)には、「射出等によってプリフォームを形成す
る場合の条件は、環状オレフィン系共重合体のTMAあるいはMFRによって相違
するが、一般に樹脂温度150~300℃、金型温度50~150℃、射出圧力;
一次圧600~1500kg/cm2
、二次圧400~1200kg/cm2
の範囲である。プ
リフォームの温度は、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好
ましい。このようなプリフォーム10はブロー成形部へ移行した後、割型で挟んで
エアを吹き込みブロー成形を行う。また、プリフォーム10の延伸倍率は容積比で
2~20倍の範囲が好ましい。」(47欄30行目~40行目)との記載(以下
「記載A」という。)がある。そして、記載A中の「プリフォームの温度は、使用
樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好ましい」との部分は、以下
のとおり、ブロー成形時のプリフォーム温度について記載したものである。
    すなわち、本件特許出願に係る優先権主張日当時、当業者の技術常識にお
いて、「インジェクションブロー成形」は、延伸ブロー成形をも包含する概念であ
った。延伸ブロー成形とは、ブロー成形に延伸機構を付加したものであり、したが
って、当業者は、本件明細書の「インジェクションブロー成形」につき、ブロー成
形時にブローのみを行うものと、ブロー成形時に延伸を行うとともにブローを行う
ものとの2種が含まれていると認識理解するものである。特開昭52-10328
2号公報(甲第13号証)、特開昭54-68869号公報(甲第14号証)、特
開昭54-139967号公報(甲第15号証)、特開昭60-96434号公報
(甲第16号証)、特開昭61-287716号公報(甲第17号証)、特開昭6
2-156923号公報(甲第18号証)、特開昭63-116830号公報(甲
第19号証)、特開昭64-1516号公報(甲第20号証)及び特開平1-27
5122号公報(甲第21号証)には、いずれも、延伸ブロー成形をするものを含
めてインジェクションブロー成形(射出吹込成形)について記載されているとこ
ろ、これらの公報に掲載された明細書は当業者の技術常識を示すものであるから、
本件明細書の「インジェクションブロー成形」が延伸ブロー成形を含むものとし
て、当業者に認識理解されることは明らかである。
    被告は、JIS規格に基づき、インジェクションブロー成形が延伸ブロー
成形を包含する概念であったということはできないと主張するが、必ずしもJIS
規格上の意味が一般に通用しているわけではない。
    ところで、昭和57年10月12日株式会社プラスチックス・エージ発行
の「PLASTICSAGEENCYCLOPEDIA<進歩編>1983」(甲第8号証)に記載されていると
おり、ホットパリソン法は延伸ブロー成形において広く行われている成形法である
から、本件明細書に記載の「インジェクションブロー成形」法としても一般的な方
法であるということができる。
    そして、ホットパリソン法によった場合には、環状オレフィン系共重合体
樹脂は、本件明細書(甲第2号証)の記載Aのとおり、「一般に樹脂温度150~
300℃、金型温度50~150℃、射出圧力;一次圧600~1500kg/cm2

二次圧400~1200kg/cm2
」(47欄32行目~34行目)の範囲で射出成形
(インジェクション成形)されてプリフォーム(パリソン)が形成され、このよう
にして得られたプリフォームは加熱ポジションで温度調節されてブロー成形に適し
た温度(ブロー成形温度)とされた後、延伸ブローポジションに移行し延伸ブロー
成形が行われる。この過程において、射出によるプリフォーム形成温度(射出成形
直後のプリフォーム温度)はプリフォームが成形できる範囲であればどのような値
でもよいのに対し、ブロー成形時のプリフォーム温度はその調節が重要であって、
どのような温度でもよいというわけではない。そうすると、記載A中の「プリフォ
ームの温度は、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好まし
い」との部分は、このようなブロー成形時のプリフォーム温度について好ましい値
の範囲を記載したものと解するのが自然である。
    また、本件明細書(甲第2号証)の実施例1~4に係る成形条件及びイン
ジェクションブロー成形品の物性を示した表(25頁~26頁の表1、以下「表
1」という。)に記載された「プリフォーム温度」がブロー成形時のプリフォーム
温度を意味することは明らかであるところ、本件明細書において、「プリフォーム
の温度」又は「プリフォーム温度」という表現は、上記表1の記載及び記載A中の
上記部分に使用されているだけであって、両者が異なる意味を有すると解するのは
不合理である。
    したがって、記載A中の「プリフォームの温度は、使用樹脂のTMAの±
50℃の範囲になるようにするのが好ましい」との部分は、ブロー成形時のプリフ
ォーム温度について記載したもの、すなわち、ブロー成形時のプリフォーム温度を
使用樹脂のTMAの±50℃の範囲に調節することが好ましいことを記載したもの
と解すべきである。そうとすれば、本件明細書には、ブロー成形時のプリフォーム
温度と使用樹脂のTMAとを互いに関連付けた記載がされているといえる。
  (3)また、本件明細書(甲第2号証)には、実施例1~4として、エチレンと
DMONとの各種のランダム共重合体(環状オレフィン系樹脂)を用いてインジェ
クションブロー成形をした実施例4例についての記載(49欄2行目~50欄26
行目、以下「記載B」という。)並びに実施例1~4に係る成形条件及びインジェ
クションブロー成形品の物性を示した上記表1があり、記載Bには実施例1~4に
係る各ランダム共重合体のTMA値が、表1には実施例1~4に係るブロー条件と
して、ブロー時のプリフォーム温度が、それぞれ次のように記載されている。
    実施例1 TMA値115℃、プリフォーム温度115℃
    実施例2 TMA値148℃、プリフォーム温度140℃
    実施例3 TMA値135℃、プリフォーム温度125℃
    実施例4 TMA値148℃、プリフォーム温度145℃
    このように、記載Aのみならず、記載B及び表1にも、ブロー成形時のプ
リフォーム温度が使用樹脂のTMAと関連付けられることが示されているのであ
り、したがって、本件明細書には、本件発明において、使用樹脂のTMAとブロー
成形時のプリフォーム温度とが互いに関連付けて記載されているというべきであ
る。
  (4)そして、本件明細書の記載B及び表1に記載された実施例1~4に係る使
用樹脂のTMA値とブロー成形時のプリフォーム温度についての上記値から、ブロ
ー成形時のプリフォーム温度の使用樹脂(環状オレフィン系樹脂)のTMAに対す
る関係は、直接的かつ一義的に、TMA~(TMA-10)℃であると算出するこ
とができるから、ブロー成形時のプリフォーム温度が、使用樹脂のTMAの±10
℃以内であることは、本件明細書に十分な根拠を有するものということができる。
    すなわち、明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその発明の実施をする
ことができる程度に明確かつ十分に記載する必要があり、特に化学の分野では、そ
のために請求項に係る発明をどのようにして具体化するかを示す実施例を記載する
ことが好ましいところ、本件明細書では、このような発明の実施の形態を具体的に
示す実施例(実施例1~4)において、使用樹脂のTMA値とブロー条件としての
プリフォーム温度とがそれぞれ上記の値であることが明示されているのであるか
ら、ブロー成形時のプリフォーム温度が使用樹脂のTMAの±10℃以内であるこ
とは、当業者が、本件明細書の記載から、直接的かつ一義的に導き出すことのでき
る事項であって、実質的に本件明細書に記載されていた事項であるともいうことが
できる。
    被告は、本件明細書又は図面には、プリフォーム温度とTMA値との差が
0~-10になるように、ブロー成形時のプリフォーム温度を設定したことは記載
されていないのに対し、訂正事項①及び②には、プリフォーム温度とTMA値との
差に基づいて、ブロー成形時のプリフォーム温度を設定するという新たな技術手段
が表現されているから、訂正事項①及び②が本件明細書又は図面に記載した事項の
範囲を逸脱していると主張する。
    しかしながら、上記のとおり、記載A中に、ブロー成形時のプリフォーム
温度について記載したものと解される「プリフォームの温度は、使用樹脂のTMA
の±50℃の範囲になるようにするのが好ましい」との記載部分があり、また、本
件明細書に記載された各実施例のブロー成形時のプリフォーム温度と使用樹脂のT
MA値とに照らして、ブロー成形時のプリフォーム温度が使用樹脂のTMAの±1
0℃以内であることは、本件明細書上、十分な根拠を有し、新規事項の追加に当た
らないことは客観的に明らかである。したがって、ブロー成形時のプリフォーム温
度が、使用樹脂のTMAの±10℃以内であることを記載する訂正事項①及び②
が、本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正であることは明
白である。
第4 被告の反論
 1 本件決定の認定及び判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
 2 取消事由(訂正事項が本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内において
するものではないとした判断の誤り)について
  (1)本件明細書(甲第2号証)に記載Aがあることは認めるが、記載A中の
「プリフォームの温度は、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするの
が好ましい」との部分は、射出成形直後のプリフォーム温度(射出成形の終了、離
型時のプリフォーム温度)について記載したものであって、ブロー成形時のプリフ
ォーム温度について記載したものではない。
    原告は、本件特許出願に係る優先権主張日当時、当業者の技術常識におい
て「インジェクションブロー成形」が延伸ブロー成形をも包含する概念であったと
主張するが、昭和52年5月10日財団法人日本規格協会発行の「JISハンドブ
ックプラスチック1977」(乙第2号証)及び平成2年4月20日同協会発行
の「JISハンドブックプラスチック」(乙第3号証)に記載されているとおり、
「プラスチック工業において用いる用語、読み方及び意味について規定する」(乙
第2号証13頁本文1行目、乙第3号証19頁本文1行目)JIS規格において、
「インジェクションブロー成形」は、それぞれ、「射出成形により底のあるパリソ
ンを成形し,直ちにこれを吹き込み用金型に移して,その中に空気を吹き込み,中
空の成形品を得る方法をいう」(乙第2号証16頁34番、乙第3号証22頁34
番)ものとされているから、本件特許出願に係る優先権主張日の前後を通じて、イ
ンジェクションブロー成形が延伸ブロー成形を包含する概念であったということは
できない。原告が当業者の技術常識を示すものとして挙げる各特許公報(甲第13
号証~第21号証)は、株式会社吉野工業所(甲第13~第15号証、第20号
証)、日精エー・エス・ビー機械株式会社(甲第17~第19号証、第21号証)
及びA(甲第16号証)の2法人及び1個人の特許出願に係る明細書が掲載された
ものであって、これらによっては、一部の当業者が、場合によっては延伸工程を含
むものをインジェクションブロー成形と称していた事実が認められるにすぎず、延
伸ブロー成形がインジェクションブロー成形の下位概念であることが、当業者の多
くの認識理解するところであったとは到底認めることができない。
    したがって、延伸ブロー成形法であるホットパリソン法は、本件明細書に
記載の「インジェクションブロー成形」法に含まれないから、ホットパリソン法に
おいて、射出成形されたプリフォームが加熱ポジションで温度調節されてブロー成
形に適した温度(ブロー成形温度)とされる旨の原告の主張は、記載A中の「プリ
フォームの温度は、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好ま
しい」との部分が、ブロー成形時のプリフォーム温度について記載したものである
ことの根拠とすることはできないものである。
    他方、インジェクションブロー法について記載された特開昭60-178
020号公報(甲第11号証)に「プリフォームを射出成形し、そのプリフォーム
を成形可能な熱を保有しておる間に上型と下型とから離型して」(1頁左下欄10
行目~13行目)と、昭和45年2月20日株式会社プラスチック・エージ発行の
「プラスチック成形加工講座 ブロー成形」(甲第10号証)に「インジェクショ
ンブローの場合・・・射出成形されたパリソンは次のブロー成形のため,半溶融の
状態でキャビティ型より引き抜かれる」(56頁左欄20行目~24行目)、「イ
ンジェクションブローではキャビティ内に射出された溶融樹脂が半溶融の状態でキ
ャビティ型より離型しなければならない」(57頁右欄11行目~13行目)と、
昭和48年11月1日株式会社工業調査会発行の「プラスチックガイド/成形加工
編」(乙第4号証)に「射出成形されたパリソンが冷却不足であれば,コアーに完
全に密着して離型しにくいため,局部的に脹らみ不良品となる。また冷却しすぎる
と,離型はするが,樹脂は硬化して,ブロー成形が不可能となる」(131頁右欄
下から8行目~5行目)と、それぞれ記載されているとおり、インジェクションブ
ロー成形において、射出成形の終了、離型時のプリフォームは、成形可能な熱を有
し、かつ、離型が可能な温度である必要があり、当該温度は重要な要素であって、
原告主張のように、どのような値でもよいというものではない。
    以上の各点のほか、本件明細書における記載Aの前後の文脈も考慮すれ
ば、記載A中の「プリフォームの温度は、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲にな
るようにするのが好ましい」との部分は、射出成形直後のプリフォーム温度(射出
成形の終了、離型時のプリフォーム温度)について記載したものであることが明ら
かである。
    すなわち、上記記載部分は、ブロー成形時のプリフォーム温度を使用樹脂
のTMAの±50℃の範囲に調節することが好ましいことを記載したものではな
く、この記載によって、本件明細書に、ブロー成形時のプリフォーム温度と使用樹
脂のTMAとを互いに関連付けた記載がされているということはできない。
  (2)また、記載Bに実施例1~4に係る各ランダム共重合体のTMA値が、表
1に実施例1~4に係るブロー成形時のプリフォーム温度が、それぞれ記載されて
おり、その各値が原告主張のとおりであることは認めるが、記載B及び表1にも、
使用樹脂のTMAとブロー成形時のプリフォーム温度とを互いに関連付けた記載は
存在しない。
    原告は、本件明細書の実施例1~4に係る使用樹脂のTMA値とブロー成
形時のプリフォーム温度についての上記値から、ブロー成形時のプリフォーム温度
の使用樹脂のTMAに対する関係が、直接的かつ一義的に、TMA~(TMA-1
0)℃であると算出することができるから、ブロー成形時のプリフォーム温度が、
使用樹脂のTMAの±10℃以内であることは、本件明細書に十分な根拠を有する
と主張する。
    しかしながら、本件明細書には、実施例1~4に係るブロー成形時のプリ
フォーム温度については、単に採用された温度が記載されているのみであって、そ
れが、使用樹脂のTMA値に基づいて設定されたことは記載されていない。まし
て、プリフォーム温度とTMA値との差が0~-10になるように、ブロー成形時
のプリフォーム温度を設定したことは記載されておらず、その上限と下限の境界値
としての技術的意義についても全く記載されていない。記載Bや表1に、原告主張
のとおり、実施例1~4に係る使用樹脂のTMA値とブロー成形時のプリフォーム
温度とが記載されているからといって、ブロー成形時のプリフォーム温度とTMA
値との差値が0~-10であることや、ブロー成形時のプリフォーム温度が使用樹
脂のTMAの±10℃以内であることが記載されていることになるものではない。
    このように、本件明細書又は図面には、ブロー成形時のプリフォーム温度
を設定するための技術手段は記載されていないのに対し、訂正事項①及び②には、
プリフォーム温度とTMA値との差に基づいて、ブロー成形時のプリフォーム温度
を設定するという新たな技術手段が表現されている。
    したがって、訂正事項①及び②が本件明細書又は図面に記載した事項の範
囲を逸脱していることは明らかである。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由(訂正事項が本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内において
するものではないとした判断の誤り)について
  (1)本件明細書に「射出等によってプリフォームを形成する場合の条件は、環
状オレフィン系共重合体のTMAあるいはMFRによって相違するが、一般に樹脂
温度150~300℃、金型温度50~150℃、射出圧力;一次圧600~15
00kg/cm2
、二次圧400~1200kg/cm2
の範囲である。プリフォームの温度
は、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好ましい。このよう
なプリフォーム10はブロー成形部へ移行した後、割型で挟んでエアを吹き込みブ
ロー成形を行う。また、プリフォーム10の延伸倍率は容積比で2~20倍の範囲
が好ましい。」との記載Aがあることは当事者間に争いがない。
    そこで、まず、記載A中の「プリフォームの温度は、使用樹脂のTMAの
±50℃の範囲になるようにするのが好ましい」との部分が、原告主張のように、
ブロー成形時のプリフォーム温度について記載したものであるか、被告主張のよう
に、射出成形直後のプリフォーム温度(射出成形の終了、離型時のプリフォーム温
度)について記載したものであるかについて検討する。
    昭和52年5月10日財団法人日本規格協会発行の「JISハンドブック
プラスチック1977」(乙第2号証)及び平成2年4月20日同協会発行の「J
ISハンドブックプラスチック」(乙第3号証)には、「プラスチック工業におい
て用いる用語、読み方及び意味について規定する」(乙第2号証13頁本文1行
目、乙第3号証19頁本文1行目)JIS規格として、「インジェクションブロー
成形」につき「射出成形により底のあるパリソンを成形し,直ちにこれを吹き込み
用金型に移して,その中に空気を吹き込み,中空の成形品を得る方法をいう」(乙
第2号証16頁34番、乙第3号証22頁34番)との記載があり、また、198
8年(昭和63年)11月25日株式会社朝倉書店初版第1刷発行の「新版高分子
辞典」(乙第5号証)には、「ブロー成形」の項に、「射出ブロー成形(injection
blowmolding)」を含む「ダイレクトブロー成形」と「延伸ブロー成形」とを異な
る成形方式として分類した記載(402頁~403頁)があって、これらの記載に
よれば、パリソン(プリフォーム)を射出成形した後、直ちにブロー成形するイン
ジェクションブロー成形と、射出成形したパリソンを延伸した後ブロー成形する延
伸ブロー成形とは、厳密には、異なる成形方法であると認められる。
    しかしながら、株式会社吉野工業所の特許出願に係る「ポリエチレンテレ
フタレート樹脂製壜とこの壜の成形用金型装置及び成形方法」の発明の明細書が掲
載された公開公報である特開昭52-103282号公報(甲第13号証)に「ポ
リエチレンテレフタレート樹脂による成形品の成形は、上記したポリエチレンテレ
フタレート樹脂のもつ特性からインジェクションブロー成形に限定されるが、この
成形順序を簡単に説明すると、まず射出成形(インジェクション成形)によって1
次成形品としてのピースを成形して、このピースの温度がブロー成形に適合する温
度まで冷却された時点でピースをブロー成形して最終の製品に成形するのである。
そして、このブロー成形操作時に2軸延伸が行われてポリエチレンテレフタレート
樹脂製壜体に所望の機械的強度と高い透明度とを与えるわけである」(2頁右上欄
12行目~左下欄4行目)との記載があるほか、同社の特許出願に係る発明の明細
書が掲載された公開公報である特開昭54-68869号公報(甲第14号証)、
特開昭54-139967号公報(甲第15号証)及び特開昭64-1516号公
報(甲第20号証)には、同様に、インジェクションブロー成形の方法として、射
出成形によって成形した一次成形品を延伸ブロー成形することが記載されており、
また、日精エー・エス・ビー機械株式会社の特許出願に係る「射出吹込成形機」の
発明の明細書が掲載された公開公報である特開昭61-287716号公報(甲第
17号証)に「この発明は合成樹脂の薄肉容器を射出吹込成形する場合に用いられ
る成形機に関するものである・・・射出成形したプリフォームや吹込成形した成形
品を順に移送する成形機は、プリフォームの射出成形から温調及び延伸吹込成形を
連続して行うことができる成形機として広く使用されている」(1頁左下欄19行
目~右上欄12行目)との記載があるほか、同社の特許出願に係る発明の明細書が
掲載された公開公報である特開昭62-156923号公報(甲第18号証)、特
開昭63-116830号公報(甲第19号証)及び特開平1-275122号公
報(甲第21号証)には、同様に、射出吹込(インジェクションブロー)成形の方
法として、プリフォームの射出成形から延伸吹込(延伸ブロー)成形までを連続し
て行うことが記載されている。そうすると、これらの公開公報の記載によれば、少
なくとも、本件発明の属する技術分野における当業者と認められる上記2社は、射
出成形によって成形した成形品を延伸ブロー成形するものも「インジェクションブ
ロー成形」の概念中に含ませていることが認められる。
    そうとすれば、上記のとおり、インジェクションブロー成形と延伸ブロー
成形とは、厳密には異なる成形方法であるとしても、当業者の間においては、延伸
ブロー成形を伴うものをも包含して「インジェクションブロー成形」と称すること
もあり得るとの認識が存在しているものと推認される。
    そして、本件明細書(甲第2号証)には、「発明の技術的背景」として、
「合成樹脂のブロー成形方法としては・・・インジェクションブロー・・・等が知
られており・・・特に、インジェクションブローに基づいて、ポリエステル樹脂等
からなるパリソン(プリフォーム)を軸方向に延伸し、かつ金型内で流体により周
方向に膨張させることにより得られたプラスチック容器では、その容器胴部が二軸
方向に分子配向されており、透明性、ガスバリアー性、耐熱性等が優れた容器とし
て広く使用されている」(3欄48行目~4欄30行目)との、「発明の目的」と
して、「本発明の目的は、このような従来のインジェクションブロー成形品の問題
に鑑み、耐薬品性を備えたインジェクションブロー成形品を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、耐薬品性に優れるだけでなく機械的強度にも優れた
インジェクションブロー成形品を提供することにある」(4欄36行目~41行
目)との各記載があり、これらの記載にかんがみれば、本件明細書においては、プ
リフォームを軸方向に延伸し、かつ、金型内で流体により周方向に膨張させる方
法、すなわち、延伸ブロー成形を従来技術としてのインジェクションブロー成形に
含まれるものとしており、また、本件発明のインジェクションブロー成形品につい
ても、そのような従来技術としてのインジェクションブロー成形を前提としてい
て、延伸ブロー成形により得られるものを、本件発明から除外していないことが明
らかである。
    したがって、本件明細書の記載上、本件発明のインジェクションブロー成
形は延伸ブロー成形も包含しているものであり、かつ、上記のように、当業者の間
では、延伸ブロー成形を伴うものをも包含して「インジェクションブロー成形」と
称することもあり得るとの認識が存在していると認められるから、当業者も、本件
明細書の上記記載から、そのことをたやすく読み取ることができるものというべき
である。
    ところで、昭和57年10月12日株式会社プラスチックス・エージ発行
の「PLASTICSAGEENCYCLOPEDIA<進歩編>1983」(甲第8号証)には、「延伸ブロー
成形」の章に、「二軸延伸配向ブロー成形法」として、「ホットパリソン法」と
「コールドパリソン法」とが一般に広く行われているとした(158頁左欄)上、
ホットパリソン法が、①溶融樹脂を金型内に射出し、急冷すると透明な有底パリソ
ンが成形される、②射出成形された有底パリソンは、ネジ部をリップ金型で保持さ
れたまま加熱ポジションに移され、内外面をヒータにより加熱される、③加熱され
た有底パリソンは、延伸ブローポジションに移され、約2倍に延伸された後、ブロ
ー成形される、④延伸ブロー成形された製品は、次のポジションに移され、ネジ部
割型が開かれ、取り出される、との成形プロセスを経る旨が記載されている(15
9頁図1、図2)。これらの記載によれば、本件発明のインジェクションブロー成
形が包含する延伸ブロー成形において、ホットパリソン法が一般的であるところ、
ホットパリソン法においては、射出成形されたパリソン(プリフォーム)が、延伸
ブローポジションに移される前に、加熱ポジションで加熱されることが認められ
る。そして、その加熱が、プリフォームを延伸ブロー成形に適した温度とするため
に行われるものであることは明白であるから(パリソン(プリフォーム)が射出ポ
ジションから移された後の工程であるから、射出されたパリソン(プリフォーム)
の離型のためであることはあり得ない。)、加熱ポジションにおける工程は、ブロ
ー成形時のプリフォーム温度の調節を目的とするものということができる。
    そうとすれば、上記記載A中の「プリフォームの温度は、使用樹脂のTM
Aの±50℃の範囲になるようにするのが好ましい」との部分は、原告主張のよう
に、ブロー成形時のプリフォーム温度について好ましい値の範囲を記載したものと
解するのが相当である。
    被告は、特開昭60-178020号公報(甲第11号証)、昭和45年
2月20日株式会社プラスチック・エージ発行の「プラスチック成形加工講座 ブ
ロー成形」(甲第10号証)及び昭和48年11月1日株式会社工業調査会発行の
「プラスチックガイド/成形加工編」(乙第4号証)の各記載を引用して、射出成
形の終了、離型時の温度は重要な要素であると主張するが、被告の引用に係る上記
各文献の記載は、主として、射出成形の次の工程であるブロー成形に適したプリフ
ォーム温度を保持するという観点から、離型時の温度について述べたものであっ
て、結局、ブロー成形時のプリフォーム温度の調節について記載しているものとい
うことができるから、上記判断を左右するに足りない。また、被告は、本件明細書
における記載Aの前後の文脈から見て、記載A中の「プリフォームの温度は、使用
樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好ましい」との部分は射出成
形直後のプリフォーム温度について記載したものである旨主張するが、ホットパリ
ソン法において、射出成形されたプリフォームが、延伸ブローポジションに移され
る前に、延伸ブロー成形に適した温度とするため加熱ポジションで加熱されること
を考慮すれば、文脈上も、記載A中の上記記載部分が射出成形工程におけるプリフ
ォーム温度について記載したものであると断定することはできない。
    そして、記載A中の「プリフォームの温度は、使用樹脂のTMAの±50
℃の範囲になるようにするのが好ましい」との部分が、ブロー成形時のプリフォー
ム温度について好ましい値の範囲を記載したものであるとすれば、当該記載は、ブ
ロー成形時のプリフォーム温度と使用樹脂のTMAとを互いに関連付けて記載した
ものということができる。
  (2)本件明細書の記載Bに実施例1~4に係る各ランダム共重合体のTMA値
が、表1に実施例1~4に係るブロー時のプリフォーム温度が、それぞれ記載され
ており、その各値が次のとおりであることは当事者間に争いがない。
    実施例1 TMA値115℃、プリフォーム温度115℃
    実施例2 TMA値148℃、プリフォーム温度140℃
    実施例3 TMA値135℃、プリフォーム温度125℃
    実施例4 TMA値148℃、プリフォーム温度145℃
    ところで、原告は、記載B及び表1に、ブロー成形時のプリフォーム温度
が使用樹脂のTMAと関連付けられることが示されている旨主張するが、本件明細
書(甲第2号証)の記載B及び表1には、上記のとおりのブロー成形時のプリフォ
ーム温度と使用樹脂のTMA値とが、それぞれ個別に記載されているのみであっ
て、各実施例に係る当該プリフォーム温度が当該TMA値と関連付けて定められた
旨の具体的な記載は、記載B及び表1自体はもとより、本件明細書又は図面の全体
を通じて見いだすことができないから、原告の上記主張は採用することができな
い。
  (3)原告は、本件明細書の記載B及び表1に記載された実施例1~4に係る使
用樹脂のTMA値とブロー成形時のプリフォーム温度についての上記値から、ブロ
ー成形時のプリフォーム温度の使用樹脂のTMAに対する関係が、直接的かつ一義
的に、TMA~(TMA-10)℃であると算出することができるから、ブロー成
形時のプリフォーム温度が、使用樹脂のTMAの±10℃以内であることは、本件
明細書に十分な根拠を有するものと主張する。
    そして、記載B及び表1に記載された実施例1~4に係る樹脂のTMA値
とブロー成形時のプリフォーム温度についての上記値に基づき、各実施例ごとに
(プリフォーム温度-TMA値)の値を算出すると、実施例1において0、実施例
2において-8、実施例3において-10、実施例4において-3となることは計
算上明らかである。
    しかしながら、本件明細書(甲第2号証)又は図面には、いずれの実施例
についても、それぞれそのブロー成形時のプリフォーム温度をどのようにして決定
したかについての記載は見当たらず、したがって、各実施例に係るブロー成形時の
プリフォーム温度が、各実施例に係るTMA値から、例えば実施例1については0
を、実施例2については8を、実施例3については10を、実施例4については3
を差し引いた値となるように決定したことはもとより、各実施例に係る樹脂のTM
A値を基礎として定められたことさえも、本件明細書又は図面に記載されていると
いうことはできない。
    もっとも、上記のとおり、記載A中の「プリフォームの温度は、使用樹脂
のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好ましい」との部分が、ブロー成
形時のプリフォーム温度について好ましい値の範囲を記載したものであると解され
るから、各実施例に係るブロー成形時のプリフォーム温度も、使用樹脂のTMAの
±50℃の範囲内では、TMA値と関連付けて定められたものということはできる
が、ブロー成形時のプリフォーム温度が、そのような広範な範囲で使用樹脂のTM
Aと関連付けられているからといって、TMA値から0~10を差し引いた値とす
ることが当業者において当然に導き出せるものでないことは明らかである。ブロー
成形時のプリフォーム温度を、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲内において、1
15℃(実施例1)、140℃(実施例2)、125℃(実施例3)及び145℃
(実施例4)とするに当たっては、何らかの技術的な手段に基づく検討の結果、当
該温度が採用されたものであることは明らかであり、あるいは、その技術的な手段
も使用樹脂のTMA値に根拠を置くものであることも可能性としては考えられる
が、それが本件明細書又は図面に表現されていない以上、記載B及び表1に個別に
記載された実施例1~4に係る使用樹脂のTMA値とブロー成形時のプリフォーム
温度に基づいて、各実施例ごとに(プリフォーム温度-TMA値)を算出した結果
が0~-10の値となるからといって、そのことから直ちに、ブロー成形時のプリ
フォーム温度が使用樹脂のTMAに対する関係で、TMA~(TMA-10)℃に
数値限定されることが、当業者において本件明細書又は図面の記載から直接的かつ
一義的に導き出せるとか、本件明細書又は図面に、ブロー成形時のプリフォーム温
度が、使用樹脂のTMAから(TMA-10)℃の範囲であることの記載がされて
いるとはいえないことが明らかである。
    なお、本件特許異議事件の審理において、取消理由通知に対し、原告が本
件訂正請求に係る請求書と同日付けで特許庁に提出した意見書(乙第1号証)に
は、訂正後の本件発明の新規性又は進歩性に関して、ブロー成形時のプリフォーム
温度を使用樹脂のTMAより15℃又は14℃高く設定した比較実験例(比較実験
例1~4)及びブロー成形時のプリフォーム温度を使用樹脂のTMAより15℃低
く設定した比較実験例(比較実験例5~8)と本件明細書記載の実施例1~4と
の、物性や耐薬品性等を比較した実験の結果並びにブロー成形時のプリフォーム温
度を使用樹脂のTMAより9℃高く設定した実験例(実験例1)とブロー成形時の
プリフォーム温度を使用樹脂のTMAより15℃又は30℃高く設定した比較実験
例(比較実験例9、10)及びブロー成形時のプリフォーム温度を使用樹脂のTM
Aより15℃低く設定した比較実験例(比較実験例11)との、物性や耐薬品性等
を比較した実験の結果が記載されており、さらに、上記各実験の結果を踏まえたブ
ロー成形時のプリフォーム温度を使用樹脂のTMAの±10℃以内とすることの技
術的意義として、「本件特許発明の特定の環状オレフィン系樹脂から成形され、ブ
ロー成形時の樹脂温度が前記環状オレフィン系樹脂の軟化温度(TMA)の±10
℃以内であるインジェクションブロー成形品が、透明性、耐薬品性などの特性に優
れ、特に機械的強度に優れた成形品であることが示されます」(14頁7行目~1
1行目)との記載がある。
    そして、これらの記載及び実験結果によれば、本件訂正請求に係る訂正に
おいて、訂正事項①及び②に係る、使用樹脂のTMA値との比較におけるブロー成
形時のプリフォーム温度の上下限値(+10℃又は-10℃)は、格別な技術的意
義を有するものとされていることが認められるが、本件明細書又は図面に、上記プ
リフォーム温度の上限及び下限の境界値としての技術的意義を読み取ることのでき
る記載は全く見いだすことはできない。
    したがって、ブロー成形時のプリフォーム温度が、使用樹脂(環状オレフ
ィン系樹脂)のTMAの±10℃以内であることを記載する訂正事項①、②には、
プリフォーム温度とTMA値との特定範囲の差に基づいて、ブロー成形時のプリフ
ォーム温度を設定することにより、本件明細書又は図面に記載のない新たな技術手
段が表現されているものといわざるを得ず、訂正事項①、②が本件明細書又は図面
に記載した事項の範囲を逸脱していることは明らかであるというべきである。
  (4)そうすると、本件決定が、「本件特許明細書及び図面を詳細に検討して
も、ブロー成形時のプリフォーム樹脂温度が、使用樹脂(環状オレフィン系樹脂)
の軟化温度(TMA)の±10℃以内であることが記載されているとは認められな
い」(決定謄本6頁7行目~11行目)として、訂正事項①、②が本件明細書又は
図面に記載した事項の範囲内においてするものではないと判断したことに誤りはな
い。
 2 以上のとおりであるから、原告主張の本件決定取消事由は理由がなく、他に
本件決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
   よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴
訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第13民事部
    裁判長裁判官篠  原  勝  美 
    裁判官  石  原  直  樹 
    裁判官  宮  坂  昌  利

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