弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人等を各科料五〇〇円に処する。
     被告人等において、右科料を完納することができないときは、金二五〇
円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。
     原審ならびに当審における訴訟費用中原審証人A、同B、同C、当審証
人Dに支給した分は、被告人等の連帯負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意及びこれに対する答弁は、北見区検察庁検察官事務取扱検事中村
直治作成名義の控訴趣意書及び被告人等が連名で提出した答弁書記載のとおりであ
るから、これを引用する。
 控訴趣意第一点(法令適用の誤り)について。
 本件公訴事実の要旨は、被告人等は、共謀のうえ、所轄警察署長の許可を受けな
いで、昭和三三年三月二三日午後一時三二分頃から、同日午後二時五五分頃までの
間、北見市ab条cd丁目E時計店附近の道路上で、演説をして人寄せをしたもの
であるというにあつて、これに対する適条として、検察官は、道路交通取締法二六
条一項四号、二九条一号、同法施行令六九条一項、昭和二九年一二月二七日北海道
公安委員会規則一三号同法施行細則二六条八号(以下道路交通取締法規と称す
る。)を掲記しているのである。しかるに原審は、右演説会の主催者を、証拠上確
定することは困難であるが、F党G地区委員会またはその下部組織である同党H市
委員会のいずれかの主催にかかるものであることは、動かしがたいところであると
認定したうえ、右委員会のごとき政治団体すなわち法人格のない団体(以下団体と
称する。)主催のもとに、道路上において演説による人寄せ行為(以下街頭演説と
称する。)をする場合には、その団体の業務執行役員が、事前に所轄警察署長の許
可を受けなければならない義務を負うのであるから、無許可実施の場合は、その義
務に違反した団体の業務執行役員が処罰されるべきであつて、単に講師として演説
したにとどまる実行行為者というべき被告人等は、直接処罰の対象にはならないと
して、被告人等に対し、無罪の言渡をしたことは、所論のとおりである。
 <要旨第一>そこで、前記道路交通取締法規の法意を検討して、被告人等の刑責の
有無について考察することとする。思うに、道路交通取締法規は、道路
における危険防止及びその他の交通の安全を図るため、道路において、物品を販売
し、または、演説その他の方法によつて人寄せをしようとするものは、法令の定め
る手続によつて、事前に所轄警察署長の許可を受けなければならない旨を定め、も
し無許可で、物品を販売したり、街頭演説等をしたものがあるときは、そのものを
処罰することを規定したものであつて、たとえ、その演説会が、団体の主催にかか
る場合であつても、無許可実施の情を知りながら、これに参加し、街頭演説を実行
したものは、その刑責を免れないものと解するのが相当である。けだし、道路使用
の許可申請義務者を特に明定し、その義務者以外の実行行為者については、刑責を
問わない趣旨が窺われる明文の存しない道路交通取締法規にあつては、その目的を
達成するためには、何人も法規を遵守しなければならない義務があり、これに違反
するものは、何人と雖も、処罰の対象となるものと解せられるからである。
 されば、原審の見解のごとく、団体の業務執行役員のみが許可申請の義務を負
い、同役員を処罰することによつて、道路交通取締法規の所期する目的は充分に達
せられるから、そのうえ街頭演説を実行したものまで処罰する必要はなく、実行行
為者は、特別の明文がないかぎり、処罰できないものと制限的に解釈するのは、道
路交通取締法規の解釈を誤つたものといわざるを得ない。ところで、後記認定のご
とく、本件街頭演説会は、団体であるF党G地区委員会が主催したものと解せられ
るのであるが、被告人等は、いずれも同地区委員会の業務執行役員であり、同委員
会が、無許可で本件街頭演説会を主催するものであることを熟知のうえ、これに参
加し、街頭演説を行つたのであるから、前記法意に照らし、道路交通取締法規違反
の刑責を免れることはできないものというべきである。そうだとすると、原判決
は、道路交通取締法規の解釈適用を誤つたものというべく、その誤りが判決に影響
を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があり、この点に関する答弁は理由がな
い。
 控訴趣意第二点(事実誤認)について。
 原判決は、本件街頭演説会の主催者が、前記F党G地区委員会またはその下部組
織である同党H市委員会のいずれかであることは動かしがたいところであるが、そ
のいずれであるかは、証拠上確定しがたい旨及び被告人等が、街頭演説会の主催者
たる団体の業務執行役員として、所轄警察署長に対する許可申請をなすべき義務を
負担していることも証明不充分で認めがたい旨判示していることは、所論のとおり
であり、被告人等は、本件街頭演説は、右H市委員会の主催によつて、行われたも
のであつて、同委員会の役員に就任していない被告人等には、許可申請をなすべき
義務はなく、従つて、何ら刑責はない旨主張するのである。
 よつて案ずるに、原審ならびに当審証人A、同Iの各供述、被告人等の原審公判
廷における各供述の一部、原審ならびに当審証人Dの供述の一部を総合考察する
と、被告人等は、いずれも右G地区委員会の委員であり、ことに被告人Jは、同委
員会の責任者であるところ、被告人等は、右市委員会の責任者で、地区委員会の委
員をも兼ねているD等をも加えて、本件街頭演説会の開催に関する計画を協議、決
定したこと及び本件街頭演説会の宣伝用立看板には、右G地区委員会が主催者であ
る旨明記されていたことを認めることができるから、これらの事実に徴すれば、本
件街頭演説会は、右G地区委員会主催のもとに行われたものと認めるのが相当であ
つて、その実施に当つて、右市委員会所属の党員等が、中心となつて活動した事実
があつたとしても、右認定の妨げとなるものではない。右認定に反する被告人等の
原審公判廷における各供述及び原審ならびに当審証人Dの供述は、たやすく信用で
きないし、記録を調べてみても、右認定を覆すに足りる証拠はない。故に原判決
は、この点において、事実を誤認したものというべく、その誤りが判決に影響を及
ぼすことは明らかである。論旨は理由があり、この点に関する答弁は理由がない。
 つぎに被告人等の爾余の答弁につい判断を加える。
 (一) 被告人等は、道路交通取締法規に、道路使用の許可申請の手続が定めら
れていること及び事前に許可を得ないで街頭演説をした場合の罰則の存すること
は、全く知らなかつたのであるから、本件刑責を負ういわれはない旨主張するので
あるが、仮に知らなかつたとしても、右は法の不知に帰するのであつて、法の不知
は、刑法三八条三項によつて、犯意を阻却しないものと解すべきであるから、この
点に関する答弁も理由がない。
 (二) 被告人等は、道路交通取締法規は、警察署長が、交通の安全確保に名を
かりて、街頭演説による表現の自由を、不当に制限する結果を招来することとなる
から、憲法二一条に違反し、無効である旨主張する。憲法二一条の保障する表現の
自由が、基本的人権として、尊重されなければならないことは、所論のとおりいう
までもないところであるが、これとて絶対無制限のものではなく、公共の福祉に反
しない限度においてのみ保障に値するものであることは、憲法一二条同一三条の規
定上、基本的人権の本質に内在する制約であると解すべきである。そして、立法が
公共の福祉に反するや否やを判断するに当つては、前記憲法の条規の示すように、
自由権が立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とせられ、かつ国民の不断の
努力によつて保持されねばならないものであることに鑑み、極めて慎重であらねば
ならないこともまた多言を要しないところである。したがつて、法令において、特
定の行為につき、単なる届出制を定めることは格別、そうでなく一般的に許可制を
定めてこれを事前に抑制することは、前記憲法の規定の趣旨から見れば、原則とし
てこれに反するものとして許<要旨第二>されないと解するのが相当である。しか
し、許可制をとつていても、表現の自由自体の制限を目的とすること
く、公共の秩序を保持し、または公共の福祉が、著しく侵されることを防止するた
め、一般的にこれを制限するのではなく、特定の場所または方法につき、合理的か
つ明確な基準のもとに、これにつき予め行政官庁の許可を受けしめ、またはこれに
届出をなさしめて、公共の安全を脅かす明らかな差迫つた危険が予見される場合に
限り、これを禁止することができる旨の規定を設け、その結果表現の自由が反射的
に或る程度の制約を受ることがあつても、それが合理的であるかぎり、これを以つ
て直ちに憲法の保障する国民の自由を不当に制限するものと解すべきではない。け
だし、国民は、憲法一二条の規定するように、常にその自由及び権利を公共の福祉
のために利用し、これを濫用してはならない責任を負うものであつて、国民は、自
らの権利を主張し、自由を叫ぶに当つては、他の国民の基本的人権を尊重し、これ
に対する不当な影響を最少限度に止むべきことを行動の限界とすべきであるからで
ある。
 今本件につき、これを見るに、近時、道路上における交通事故の激増に伴い、人
的物的の損害著しく、ために、これらの事故を防止し、交通の安全を図るための適
切な対策が、極めて緊要であること及び街頭演説は、時または場所、方法の如何に
よつては、交通上著しい支障となり、公共の福祉を害することは、周知の事実であ
る。道路交通取締法規は、右の事情に鑑み道路における危険防止及びその他の交通
の安全を図ることを目的として制定されたもので、この目的を達成するため、道路
を使用する特定の行為につき、公共の安全を脅かす明白かつ差迫つた危険が予見さ
れる場合に限り、最少限度の制約を加える趣旨のもとに、合理的かつ明確な基準を
示して、道路の使用制限を、警察行政に委ねたものであることは、右諸法規の内容
を通読すれば、極めて明白である。されば、街頭演説のための道路使用を許可制度
とし、無許可で使用した場合を処罰する道路交通取締法規が、直ちに、憲法二一条
に違反する無効の法規であるということはできない。被告人等の答弁は理由がな
い。
 よつて、刑事訴訟法三九七条、三八二条、三八〇条に則つて、原判決を破棄し、
同法四〇〇条但書に従つて、次のとおり判決する。
 (罪となるべき事実)
 被告人等は、共謀のうえ、所轄警察署長の許可を受けないで、昭和三三年三月二
三日午後一時三〇分頃から、同日午後三時頃までの間北見市としては、比較的繁華
である同市ab条cd丁目E時計店附近の道路上において、こもごも時局問題に関
する演説をし、少くとも五〇名を越える聴衆を集めて、人寄せをしたものである。
 (証拠の標目)
 一、 原審ならびに当審証人A、同I、同K、同Lの各供述
 一、 原審証人Bの供述
 一、 被告人等の原審公判廷における右判示日時頃右判示の道路上で、時局問題
に関する演説をしたことは相違ない旨の各供述
 (法令の適用)
 被告人等の判示所為は、各道路交通取締法二六条一項四号、二九条一号、同法施
行令六九条一項、昭和二九年一二月二七日北海道公安委員会規則一三号、同法施行
細則二六条八号、罰金等臨時措置法二条、刑法六〇条に該当するから、所定刑中科
料刑を選択し、その所定金額の範囲内で、被告人等を各科料五〇〇円に処し、被告
人等において、右科料を完納することができないときは、刑法一八条に則り、金二
五〇円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。なお、刑事訴訟法
一八一条一項本文、一八二条に則り、原審ならびに当審における訴訟費用中原審証
人A、同B、同C、当審証人片山富夫に支給した分は、被告人等の連帯負担とす
る。
 よつて、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 豊川博雅 裁判官 雨村是夫 裁判官 中村義正)

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