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平成21年10月9日判決言渡
平成20年(ワ)第1177号損害賠償請求事件
主文
1被告は,原告に対し,1万円及びこれに対する平成19年10月25日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを20分し,その1を被告の,その余を原告の負担とす
る。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,100万円及びこれに対する平成19年10月25日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,A刑務所に収容されている原告が,抗告許可申立書を同封した郵便
書簡を東京高等裁判所に発信するように願い出たが,A刑務所職員が封緘糊付
処理を失念し,あるいはその処理が不完全であったため,同申立書が紛失し,
裁判を受ける権利及び通信の秘密が侵害されたとして,国家賠償法1条1項に
基づき,被告に対し,慰謝料等100万円及びこれに対する不法行為の日の後
である平成19年10月25日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金
の支払を求める事案である。
1前提事実(掲記証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
()原告は,平成14年10月2日,新潟地方裁判所において,懲役17年1
の判決を受け,同判決は平成16年10月5日に確定した。原告は,平成1
7年3月2日に東京拘置所からA刑務所に移送され,以後,同刑務所で収容
されている(弁論の全趣旨。)
()原告は,平成19年10月23日「認書発送願」及び「指印器使用願」2,
と題する願せんをもって,東京高等裁判所あてに,同裁判所平成19年(行
ス)第40号事件に関する「抗告許可申立書」と題する書面(以下「同封文
書」という)を,提出期限である同月25日までに必着するよう,本日中。
に郵便書簡(以下「本件郵便書簡」という)に同封した上で発信してもら。
いたい旨を出願し,A刑務所長は上記発信を許可した(乙1ないし乙3。)
()A刑務所処遇部門書信係は,同年10月24日,本件郵便書簡にかかる3
発信処理を終了して,庁舎前郵便ポストに投函した(乙3,5。)
()同年10月29日,東京高等裁判所から,原告に対し「郵便書簡は封4,
緘されていない状態で裁判所に到達し,同封された文書等もありませんでし
た」という内容の文書が郵送された(乙4。。)
()同年10月30日,A刑務所職員が東京高等裁判所に照会したところ,5
本件郵便書簡は,その上方と横方は糊付けされていたものの,下方は糊付け
されていない状態で同裁判所に届き,同裁判所の職員が中身を確認しても何
も書かれていない状態であった旨の回答があった(乙6。)
()原告が,東京高等裁判所に対し,本件郵便書簡が裁判所に到達した際の6
状態について問い合わせたところ,同年12月4日「10月25日郵便事,
業株式会社から受け取った郵便書簡の写しは,下部が開いた状態でした」。
旨の回答があった(乙8ないし10,13ないし17。)
()また,原告が郵便事業株式会社B支店に問い合わせたところ,平成207
年1月29日「平成19年10月24日お出しになりました郵便物につき,
まして,詳細に調査いたしましたが,該当の品物を発見することができませ
んでした」旨の回答があった(乙18。。)
()原告は,平成19年11月6日,監察官に対し,担当職員が本件郵便書8
簡を適切に封緘しなかったことにより抗告許可申立書が紛失し,そのために
抗告期限が過ぎてしまうなどの不利益を受けたと申し出たが,A刑務所は,
書類の紛失の原因を特定するには至らなかったとして,苦情の申出を採用し
なかった(乙11,12,19。)
2争点
()同封文書の紛失について,A刑務所職員に過失が認められるか。1
(原告の主張)
A刑務所職員が,本件郵便書簡の糊付けを忘れて開封したままの状態で投
,,,函したかあるいは東京高等裁判所に到達するまでの間に開封してしまい
同封文書が抜け落ちてしまうほどに封緘が不完全であったことによって,同
封文書が東京高等裁判所に到達しなかった。
したがって,A刑務所職員が本件郵便書簡の糊付けを失念したか,もしく
は不十分な封緘糊付処理をしたという過失により,同封文書が紛失したもの
である。
(被告の主張)
原告の上記主張を裏付ける客観的証拠はない。また,同刑務所職員に故意
または過失があったことや,本件郵便書簡が開封していた状況についても,
的確な証拠に基づく具体的な主張・立証は全くなされていない。
A刑務所が原告の苦情の申出に基づいて調査をしたが,同封文書が紛失し
た原因を特定することはできなかったのであり,同封文書の紛失について同
刑務所職員に過失は認められない。
()損害の有無及びその額2
(原告の主張)
A刑務所職員の上記過失により,原告は同封文書(抗告許可申立書)を不
変期間内に東京高等裁判所へ提出できなかった上,同封文書が郵便事業株式
会社の調査によっても発見されなかったことから,不特定多数人に見られて
しまう状態に置かれたものであり,それによって,裁判を受ける権利及び通
信の秘密を侵害された。
これによって原告が被った損害及び精神的苦痛に対して100万円の損害
賠償を求める。
(被告の主張)
同封文書が不特定多数の者に見られる状況下に置かれたという可能性は単
なる抽象的な可能性に過ぎず,原告に何らかの損害が発生したとは認められ
ない。
また,原告は,東京高等裁判所から同封文書が到達しなかったことについ
て連絡を受けたのであれば,民事訴訟法97条1項に基づいて訴訟行為の追
完を申し立て,裁判を維持することが可能であったのであるから,同封文書
が東京高等裁判所に到達しなかったことと原告の主張する損害との間に因果
関係がないことは明らかである。
第3当裁判所の判断
1争点()(同封文書の紛失について,A刑務所職員に過失が認められるか)1
について
,,,()原告はA刑務所に収容されている者であるところ刑務所においては1
受刑者自らが信書の封緘糊付処理を行うことや信書を投函することが許され
ていない以上,刑務所で書信事務処理を担当する職員において,信書の封緘
糊付処理や投函など信書の発信に必要な事務を行うについては,相当な注意
を持って確実に行う職務上の義務があるというべきである。
()乙3,5によれば,A刑務所処遇部門書信係は,平成19年10月242
日,同封文書が抗告許可申立書と称する書面2枚であることを確認した上,
書信表及び個人別特別発信記録表に必要事項を記載して,写しを書信表に添
付し,本件郵便書簡の折り目に挟んで折りたたみクリップで止め,書信処理
済みの箱に収納し,書信表を同刑務所第1統括に決裁に出したこと,同日午
後4時過ぎに全ての書信事務処理及び決裁が終了したため,本件郵便書簡を
含めた信書の封緘糊付処理を行い,書信処理件数及び数量を確認後,午後5
時40分ころ庁舎前郵便ポストに投函した事実が認められる。
そうすると,同封文書は,上記書信係が本件郵便書簡の封緘糊付処理を行
う段階までは存在していたものと考えられる。
しかし,前記前提事実のとおり,東京高等裁判所に到達した段階では同封
文書は存在しておらず,本件郵便書簡の上方と横方は糊付けされていたもの
の,下方は糊付けされておらず,下部が開いた状態であったこと(乙6,1
7,上記書信係は本件郵便書簡の封緘糊付処理を確実に行ったという確信)
を抱いていないこと(乙5,封緘糊付処理が行われた後,東京高等裁判所)
に到達するまでの過程で,何者かが本件郵便書簡を開封した可能性は考え難
いこと等からすれば,同封文書が紛失したのは,上記書信係が書信事務処理
の一環として行う封緘糊付処理が不完全であったことが原因と言わざるを得
ない。
したがって,上記A刑務所職員には,職務上通常尽くすべき注意義務を尽
くさなかった過失があるというべきである。
2争点()(損害の有無及びその額)について2
()被告は,抗告許可申立書が東京高等裁判所に郵送されていないことが判1
明した時点で民事訴訟法97条1項に基づき訴訟行為の追完を行うことが可
能であったのに,原告がその手段を講じなかったのであるから,同封文書が
紛失したことと損害との間に因果関係がないと主張する。
しかしながら,A刑務所職員の前記過失により,同封文書が不変期間内に
東京高等裁判所に到達しなかったことが明らかである以上,それだけで原告
の裁判を受ける権利は侵害されたというべきであり,訴訟行為の追完の申立
てが可能であったとしても,追完が認められるかどうかは裁判所の判断によ
ること等に鑑みれば,訴訟追行の余地があったとしても,裁判を受ける権利
が侵害されていないとはいえない。
よって,上記被告の主張は採用できない。
()また,被告は,同封文書が不特定多数の者の目に触れるというのは単な2
る抽象的な可能性に過ぎないから損害は何ら発生していないと主張する。
,,しかし不特定多数の者の目に触れる具体的な可能性が認められなくとも
その抽象的可能性があれば,原告の通信の秘密は侵害されたと解するのが相
当であり,同封文書が裁判上の手続に関するものであって,個人の権利義務
に直接関係する秘匿性の高い情報を記載した書面であること等に鑑みれば,
同封文書が紛失したこと自体により原告は精神的苦痛を被ったものと認めら
れる。
よって,上記被告の主張も採用できない。
,,()そして同封文書の紛失により原告が被った精神的苦痛を慰謝するには3
同封文書の性質,原告は訴訟行為の追完の申立てにより訴訟追行の余地があ
,。ったこと等本件に顕れた一切の事情を勘案し1万円とするのが相当である
その他の損害については,原告は何ら主張,立証しないので認められない。
第4結論
よって,原告の被告に対する請求は,1万円及びこれに対する不法行為の日
の後である平成19年10月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由
がないから棄却することとし,主文のとおり判決する(なお,仮執行宣言につ
いては必要がないから付さない。。)
岐阜地方裁判所民事第1部
裁判官村上未来子

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