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平成26年(行コ)第289号標準報酬改定請求却下決定取消等請求控訴事件
(原審 東京地方裁判所平成25年(行ウ)第114号)
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人が控訴人に対し平成23年3月4日付けでした標準報酬の改定の請
求を却下する旨の処分を取り消す。
3被控訴人は,控訴人とAとの間の原判決別紙3「年金分割のための情報通知
書(厚生年金保険制度)」記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按
分割合を0.45に改定せよ。
第2事案の概要等
1本件は,平成20年▲月▲日に夫であったA(昭和23年▲月▲日生,
平成21年▲月▲日頃死亡)との間で原判決別紙3「年金分割のための情報通
知書(厚生年金保険制度)」記載の情報(以下「本件情報」という。)に係る
年金分割についての請求すべき按分割合を0.45とすることに合意して離婚
した控訴人(昭和29年▲月▲日生)が,平成22年3月5日に厚生労働大
臣に対して厚生年金保険法(以下「厚年法」という。)78条の2第1項の規
定に基づき対象期間に係る被保険者期間の控訴人及びAの標準報酬の改定の請
求(以下「本件標準報酬改定請求」という。)をしたところ,同大臣から事務
の委任を受けた被控訴人から,平成23年3月4日付けで,本件標準報酬改定
請求はAが死亡した日から起算して1月以内にされたものではなく,厚生年金
保険法施行令(以下「厚年法施行令」という。)3条の12の7(平成24年
政令第197号による改正前のもの。以下,単に「厚年法施行令3条の12の
平成26年12月25日判決言渡
7」という。)が定める場合に該当しないとして却下処分(以下「本件処分」
という。)を受けたため,被控訴人に対し,厚年法施行令3条の12の7が上
記改定請求の期間を第1号改定者及び第2号改定者の一方が死亡した日から起
算して1月以内に限定しているのは,厚年法78条の12による委任の範囲を
逸脱した違法なものであるなどと主張して,本件処分の取消し及び本件情報に
係る年金分割についての請求すべき按分割合を0.45に改定すること(以下,
この改定請求に係る部分を「本件義務付けの訴え」という。)を求めている事
案である。
原判決は,上記の控訴人の主張を排斥して本件処分の取消請求を棄却した上,
行政事件訴訟法3条6項2号所定の申請型の義務付けの訴えが許されるのは,
法令に基づく申請を却下し,又は棄却した処分が取り消されるか,無効若しく
は不存在であるときに限られるが(同法37条の3第1項2号),本件処分は
取り消されるべきものではなく,無効若しくは不存在でもないから,本件義務
付けの訴えは不適法なものであるとして却下した。
そこで,これを不服とする控訴人が,原審と同様の主張をして,本件控訴を
しているものである。
2本件における関係法令の定め,前提事実並びに主な争点及びこれに関する当
事者の主張の要旨は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」
の第2の1ないし3(原判決別紙1及び2を含む。)のとおりであるから,こ
れを引用する(ただし,以下,原判決を引用する場合は,「原告」を「控訴人」
と,「被告」を「被控訴人」と,「別紙」を「原判決別紙」と,「あん分割合」
を「按分割合」と,それぞれ読み替える。)。
(原判決の補正)
(1)原判決20頁9行目の「制限したのではなく,」の次に「特例的に按分割
合の合意後(公正証書・私署証書を作成した場合に限る。)又は裁判所に
よる按分割合の決定後に限って,」を加える。
(2)原判決21頁17行目の「同令」を「政令」と改める。
(3)原判決21頁18行目の「同令」を「厚年法施行令」と改める。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の主張は理由がないから,本件処分の取消しを求める請
求は棄却し,本件義務付けの訴えは却下すべきものであると判断する。その理
由は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」の第3のとおり
であるから,これを引用する。
(原判決の補正)
(1)原判決6頁21行目の「趣旨」を「原則」と改める。
(2)原判決6頁22行目の「観念され得ないもの」を「存在しないもの」と改
める。
(3)原判決7頁2行目の「ないことから,」の次に「請求すべき按分割合に関
する合意が成立せず,又は家庭裁判所にその申立てをする以前である場合は
もとより,按分割合に関する公正証書若しくは私署証書作成による合意をし
た後又は裁判所による按分割合の決定後であっても,」を加える。
(4)原判決8頁4行目冒頭から同頁6行目の「前提に,」までを次のとおり改
める。
「ア控訴人は,厚年法78条の2第1項は離婚後2年間という長期間の標準
酬改定請求の期間を設けて標準報酬改定請求の機会を実質的に保障して
るから,2年間の請求期間中でありながら,その請求前に第1号改定者
死亡することもあり得るが,そのような事態が発生した場合に,同法4
条により第2号改定者が標準報酬改定請求をすることができなくなるの
は,同法78条の2第1項によって離婚後2年間の改定請求を保障した
旨が没却されるから,同法78条の12は,標準報酬改定請求の期間中,
準報酬改定請求前の第1号改定者の死亡が第2号改定者の標準報酬改定
求に影響を及ぼさないような規定の制定を厚年法施行令に委任したもの








であるとの理解を前提に,」
(5)原判決8頁23行目から同頁24行目の「標準報酬を観念することができ
ない」を「標準報酬が存在しない」と改める。
(6)原判決9頁23行目末尾に改行の上,次のとおり加える。
「また,控訴人は,上記のとおり,標準報酬改定請求の期間中の標準報酬改
定請求の前に第1号改定者が死亡する事態も当然に考えられるところ,離婚
後の夫婦が互いに連絡を取り続けることはまれであり,第2号改定者が第1
号改定者の死亡を早期に知ることは困難であるといわざるを得ないから,厚
年法施行令3条の12の7が定めるように標準報酬改定請求期間を第1号改
定者の死亡後1月に限定する合理的な理由は見い出せないのであって,第2
号改定者は第1号改定者の死亡を知ることができないまま,標準報酬改定請
求の機会を奪われるに等しいとも主張している。
しかし,本件の控訴人は,夫であったAとの間で請求すべき按分割合につ
いても合意した上で離婚したものであって,直ちに厚生労働大臣に対して標
準報酬改定請求をすることができ,仮にその後にAが死亡したとか,そのこ
とを知らなかったとしても,それらのことには関係なく,標準報酬改定請求
の権利を行使することが可能であったから,控訴人の上記主張は,その前提
において失当というべきものである。ちなみに,厚年法施行規則78条の3
第2項は,離婚等の後2年経過後に裁判等により請求すべき按分割合が定ま
った場合には,標準報酬改定請求の事務手続等のための期間として1月の猶
予期間を認めていることが認められるのであって,改定請求が可能となった
後の猶予期間は,本件で問題となっている厚年法施行令3条の12の7の場
合と同じであるから,この同令の定めが特に不合理なものであるとまではい
えず,控訴人の上記主張も採用することができない。」
(7)原判決10頁2行目の「いえず,」から同頁8行目末尾までを次のとおり
改める。
「いえない。
この点について,控訴人は,控訴人がAの死亡を平成21年▲月▲日頃か
ら1月以内に知ることはできなかったから,そのような控訴人にも厚年法施
行令3条の12の7所定の期間を機械的に適用するのは,不可能を強いるも
のであり,不当であるとも主張している。しかし,仮に控訴人の主張に従っ
て,控訴人がAの死を知った日を上記1か月の猶予期間の起算日とすると,
補正の上引用した前記第2の2(14)のとおり,控訴人は,平成21年7月3
日にはAが死亡したことを知ったものであり,同年8月3日までに本件標準
報酬改定請求をすべきであったということになるが,実際に控訴人が本件標
準報酬改定請求をしたのは平成22年3月5日であって,平成21年8月3
日からでも既に8か月が経過しているから,控訴人の上記主張は,その前提
を欠いていることが明らかである。したがって,控訴人の上記主張を採用す
ることはできない。
なお,控訴人は,離婚時年金分割制度創設以前は,離婚する夫婦が将来支
払われるであろう厚生年金を加味した財産分与に合意しさえすれば,それに
よって財産分与請求権が確定され,離婚後の一方当事者の死亡によって影響
を受けることはなかったのに,離婚時年金分割制度創設後は,離婚する夫婦
の合意に加えて,社会保険庁長官に対して標準報酬改定請求を行うことが要
件とされ,しかも,離婚後に一方当事者が死亡した場合には1か月という短
期間に上記の標準報酬改定請求をしなければ双方の合意を反映した厚生年金
を受給できなくなるというのでは,同制度創設前に比べて第2号改定者の権
利保障が弱められてしまう結果になり,不当であると主張している。
確かに,せっかくの元夫との合意が無になってしまうのは,控訴人にとっ
ては残念な結果であることは十分に理解できるが,しかし,これまでも説示
したように,控訴人については,Aとの離婚に際して請求すべき按分割合に
ついての合意ができており,控訴人は直ちに厚生労働大臣に対して標準報酬
改定請求をすることができたのに,離婚後約1年2か月にわたって標準報酬
改定請求をしないでいたため,結果的にその間に権利を失うに至ったもので
あって,その責任を控訴人が負うのは致し方ないところであるから,控訴人
の上記主張は,その前提において失当であり,そのような控訴人による本件
標準報酬改定請求を却下した本件処分は適法なものである。」
2よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとし
て,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第14民事部
裁判長裁判官須藤典明
裁判官小池晴彦
裁判官小濱浩庸

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