弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴は之を棄却する。
         理    由
 検察官羽中田金一の控訴趣意は同検察官名義の控訴趣意書と題する書面記載の通
りで之に対する弁護人浦部全徳、同広浜嘉雄の答弁は阿弁護人等名義の答弁書と題
する書面記載の通りであるから茲に之を引用する。
 論旨第一点について、
 <要旨第一>被告人両名に対する本件横領の公訴事実が論旨摘録の通りであるこ
と、之に対し原判決は被告人両名が株式会社A及株式会社Bの取締役で
被告人Cは専務取締役として右両会社の庶務会計等一切の経営を監督し会社財産の
保管出納等の業務に従事していたこと、被告人両名が他の取締役等と相談の上起訴
状記載の金員を株主配当金として分配したこと、右両会社は孰れも重役並其家族を
株主とし実質上同族会社であること、株式会社Aにては各出店者から徴収する売上
金歩金中の一部、電気、水道、瓦斯各料金、夜警補助費、株式会社Bにては自転車
預代金、看板掲出料、倉庫賃料など当然利益金として会社の雑収入に入れるべきも
のを別途金として積立て会社正規の帳簿に記載せずして両会社庶務部長D名義にて
預金し同人の覚書に記載するにとゞめていたこと、月一回の重役会を開催して役員
協議の上持株に応じて配当をしていたことを夫々証拠に基いて認定した上被告人等
が利益金の一部を会社正規の帳簿に記載することなく別途金として積立て毎月の重
役会に於て協議の上株主に配当したことは会社の定款の規定に違反し、又法人税法
第四十八条の詐欺其他の不正行為により法人税を免れた場合に該当し、毎月重役会
を開き其の処分を定めたことは会社定款の株主総会招集の手続規定に違背している
こと明かで商法第四百八十九条第三号の法令又は定款の規定に違反して利益の配当
を為したときに該当し一方法人税法第四十八条の詐欺其他不正の行為により法人税
を免れた場合に該当するけれども本件の別途金は会社の利益金で之を重役会即株主
総会を意味する同族会社の重役会の承認を得てその持株に応じて各株主に配当した
ことは株主の共有に属する会社の利益金を株主全員に分配したのであるから刑法第
二百五十三条の業務上横領罪を構成しないとの理由で無罪の言渡を為したことは所
論の通りである。而して原判決挙示の各証拠を精査すれば原判決の前記認定は優に
認め得られる。
 検察官は前記別途金は両会社の利益金でないと主張するけれども原審証人D、
E、F、Gの各証言並被告人Cの検察官に対する各供述調書の記載を綜合すれば本
件別途金は会社事業から生じた収入金であるが税金等の関係から之を会社の正規帳
簿に記載せずして両会者庶務部長であつたD個人名義でH銀行駅前支店に預金して
おいたものであることが認められるから右別途金は右両会社の所有であつて只之を
表面に出さず会社の裏勘定として保管していたものであることが明かである。又株
式会社の利益金は一般に会社の損益計算上当該事業年度に於ける会社の総財産(積
極財産)から資本金を含めて総損金(消極財産)を差引いた残りであつて当該事業
年度に納付すべき税金は右損金に算入しないことは法人税法第九条に依るも明瞭で
ある。而して本件両会社の昭和二十三年九月初から昭和二十五年三月末までの収支
決算を観ると各期共何れも利益金が計上されており、而も右収支中には本件別途金
を包含して居ないことは前記各証言並弁護人提出の右会社の各期決算表の記載に依
り認め得られるから本件別途金が会社の利益金に該当することは疑ないところであ
る。尤も会社に於て右利益金を現実に株主に配当するに当つては商法並会社定款の
規定に従い所定の法定準備金、別途積立金、納税引当金等を控除すべきことは言を
俟たないのであるが兎に角別途金が会社の利益金であつたことは間違いないと謂う
べきである。
 更に本件に於て前記利益金を法定準備金、税金等を控除しないで株主に配当した
ことは洵に所論の通りで商法並会社定款の規定に反すること論なきところであつて
延いて会社財産の健全化を害し会社に損害を及ぼす虞れはあるけれども直ちに会社
に右配当額丈の損害を加えたものと速断し得ないのみならず本件別途金の配分につ
いては毎月会社の重役会を開きその全重役の承認を得て各持株に応じ配分されたこ
とは前記認定の通りである。株式会社に於ては利益金の処分は株主総会の決議に基
かなければならないから之を重役会で決定することは違法であるけれども本件会社
は前記認定の様に同族会社で重役並其家族以外の株主なく重役会即株主総会たる実
質を有するので定款の規定に基く正式の招集手続を経なかつた瑕疵はあるとしても
之を事実上株主総会と同視できないことはない。加之株式会社の様な営利法人にあ
りては之を構成する株主と法人たる会社自体は固より法律上人格を異にするけれど
も法人の目的とする営利は之を構成する株主の利益を図ることを窮極の目的とする
ものである観点からすれば本件別途金を全株主の承認を得て分配したことはその配
分を決定する手続に瑕疵はあつても之がため直ちに株主に利得させる目的で会社に
配当金丈の損害を発生させたと見ることはできない。結局本件に於て被告人両名に
公訴事実記載の如く不法に会社財産を領得せんとする意思があつたこと並被告人等
の所為により会社に損害が発生したことにつきその証明不充分であるから原判決の
認定は相当であつ所論の様な事実誤認はない。論旨は理由がない。
 論旨第二点について
 被告人両名に対する本件起訴に係る所為は一面に於て被告人両名が前記両会社の
取締役として自己等株主を利せんことを図りその任務に背き右会社に財産上の損害
を加えたとの商法第四百八十六条第一項の特別背任罪をも組成し本件公訴事実と同
一性を有すること所論の通りでその訴因罰条を異にする丈であるから之を変更すれ
ば右特別背任罪につき審判を為し得るけれども仮に適法に之を変更したとしても前
記認定の通り横領罪の犯意並損害発生の点につき証明不充分であると同様特別背任
罪についてもその証明不充分と認められるから原判決には所論の様な審理不尽はな
い。
 <要旨第二>更に前記被告人両名の所為は原審に於ける審理の経過に徴すれば商法
第四百八十九条第三号の会社の取締役が法令又は定款の規定に違反して
利益又は利息の配当を為した罪にも該当するかの様であるが右会社財産を危くする
罪と本件公訴に係る業務上横領の罪とは其の犯罪の構成要件を異にし前者は法令又
は定款の規定に違反することを絶対の要件とし従つて之を充足する行為の態容も自
ら後者と異なる場合あるに拘らず本件起訴状に於ては被告人の所為が法令又は定款
の規則に違反したことに付何等言及しておらないから事実の同一性を害することな
くして訴因罰条の変更は許容されないものと云はねばならない。故に原審がこの点
につき訴因の変更を命じなかつたことは当然で毫も所論の様な審理不尽はない。論
旨は理由がない。
 右の次第で本件控訴は理由がないから刑事訴訟法第三百九十六条に則り之を棄却
することゝし主文の通り判決する。
 (裁判長判事 深井正男 判事 石谷三郎 判事 山口正章)

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