弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人奥村文輔の上告趣意第一点について。
 記録によると、第一審では本件メモを他のAの手紙とともに証拠物として取り扱
い、これが証拠調の方法は、このメモを「展示」しその内容を「朗読」しているの
であるから、これらの手続からみれば右メモを「書面の意義が証拠となる証拠物」
として取り扱つていること明らかである。そして、証拠物であつても書面の意義が
証拠となる場合は、書証に準じて証拠能力があるかどうかを判断すべきものである
ことはいうまでもない。原審は、右メモを刑訴三二三条三号の書面に当るものとし
て証拠能力を認めたのであるが、同号の書面は、前二号の書面すなわち戸籍謄本、
商業帳簿等に準ずる書面を意味するのであるから、これらの書面と同程度にその作
成並びに内容の正確性について信頼できる書面をさすものであることは疑ない。し
かるに、本件メモはその形体からみても単に心覚えのため書き留めた手帳であるこ
と明らかであるから、右の趣旨によるも刑訴三二三条三号の書面と認めることはで
きない。してみれば、本件メモに証拠能力があるか否かは、刑訴三二一条一項三号
に定める要件を満すかによつて決まるものといわなければならない。ところで、本
件においては記録により明らかなとおり、Aは逃亡して所在不明であつて公判期日
において供述することができないものであるし、本件メモの内容は被告人Aの犯罪
事実の存否の証明に欠くことがてきない関係にあるものと認められるのであるから、
もし本件メモがAの作成したもので、それが特に信用すべき情況の下にされたもの
であるということができれば、右メモは刑訴三二一条一項三号により証拠能力があ
ることとなる(刑訴三二一条一項三号の供述書には署名押印を要しないことについ
ては、すでに当裁判所昭和二八年(あ)五四四四号同二九年一一月二五日第一小法
廷決定、集八巻一一号一八八八頁に判示されたとおりである)。そこで記録を調べ
てみると、本件メモは専売監視が裁判官の捜索押収令状によつてA方を捜索した際
同家のタンスの中から発見されたものであり、Bの専売監視に対する昭和二六年一
月二七日附犯則事件調査顛末書によると、右メモは夫Aのものだと思うと述べられ
いるので、かかる状況の下においては右メモはAが使用していたものであり、同人
の意思に従つて作成されたものと認めることができる。そして、本件メモが前記の
ような経過によつて発見され、Aの意思に従つて作成されたものと認め得ること及
びその形体、記載の態様に徴すれば、本件メモはAの備忘のため取引の都度記入さ
れたもので、特に信用すべき情況の下に作成されたものと認めるのを相当とする。
 されば原審が本件メモを証拠としたことは結局において適法であるということが
できる。そして、原判決が証拠とした、被告人Cの検察官に対する各供述調書によ
れば、被告人は右メモの記載に応ずる供述をしているので、右メモは被告人の自白
を補強する証拠となるから、原判決は被告人の自白だけで有罪としたものではない
ので、所論違憲の主張はその前提を欠き理由がない。
 同第二点について。
 所論は、たばこ専売法六六条七一条は、日本専売公社のみをその競業者に比し厚
く保護するもので憲法一四条に反すると主張し、原判決が日本専売公社は憲法一四
条にいう「国民」に当らないとして右主張を排斥したことを非難する。しかしなが
ら、たばこ専売法二条によれば「たばこ種子の輸入、葉たばこの一手買取、輸入及
び売渡、製造たばこの製造、輸入及び販売並びに製造たばこ用巻紙の一手買取、輸
入及び販売の権能は国に専属する」と規定していて、たばこの製造販売等は国のみ
が為し得るところで、一般国民は法律の規定により認められた場合を除く外、何人
もこれを為し得ないのである。すなわち国は、たばこの製造販売等の権能を国民中
一定の者に許すのではなく、国民に対してはすべて無差別にこれを禁止しているの
である。ただ、国のみが有する右たばこ製造販売等の権能及びこれに伴う必要な事
項を日本専売公社に行わせているにすぎない(たばこ専売法三条)。すなわち、た
ばこの製造販売等の権能及びこれに伴う必要な事項は、国だけが専売公社に行わせ
ているのであつて、所論のように日本専売公社を営業者として他の競業者に比して
厚く保護するものではない。それ故、かかる事実を前提として日本専売公社の営業
を犯す所犯を厳罰するものとする見地から、たばこ専売法六六条七一条が憲法一四
条に違反すると主張する論旨は、その前提を欠くものである。されば、論旨を排斥
した原判決の説明は適切でないとしても、その結論は結局において正当であるから、
所論は採用することができない。
 同第三点について。
 所論は、量刑不当その他刑訴四一一条所定の事由があることを主張するものであ
つて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして記録を調べても本件につき刑訴
四一一条を適用べき事由を認めることはできない。
 よつて刑訴四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三一年三月二七日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    垂   水   克   己

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