弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人敗訴の部分を破棄し、右破棄部分につき、被上告人らの
控訴をいずれも棄却する。
     前項の部分に関する当審及び控訴審の訴訟費用は、被上告人らの負担と
する。
         理    由
 上告代理人黒澤辰三、同松井孝道の上告理由第二点について
 本件記録に徴すると、被上告人B1の上告人に対する約束手形金請求事件(大阪
地裁昭和四六年(手ワ)第三八九号、同庁同年(ワ)第一〇一二一号手形判決に対
する異議申立事件)及び被上告人B2、同B3の上告人に対する約束手形金請求事
件(神戸地裁尼崎支部昭和四六年(手ワ)第三一号、大阪地裁同年(ワ)第一〇二
五〇号手形判決に対する異議申立事件)並びに上告人の訴外Dに対する詐害行為取
消請求事件(大阪地裁昭和四七年(ワ)第五〇二二号手形裏書の詐害行為取消請求
事件)の以上三件は、第一審において口頭弁論を併合して審理され、全部につき一
個の判決が言い渡された結果、約束手形金請求の訴につき敗訴した被上告人らと詐
害行為取消の訴につき敗訴した訴外Dとが控訴をして右事件の全部が原審に係属し
たものであることが明らかである。
 ところで、上告人は、第一審以来、被上告人らの手形金請求に対し、本件各手形
の受取人である訴外E商事株式会社(以下「E商事」という。)の訴外Dに対する
裏書が詐害行為であるとして取り消されるときは、その法律効果が否定される結果、
右Dから隠れた取立委任裏書を受けた被上告人らも本件各手形の適法な所持人でな
くなり、上告人に対して本件各手形の手形金を請求することができない、との抗弁
を提出してきたところ、右抗弁につき、原審は、詐害行為取消の訴の認容判決の効
力が相対的であることを挙げたうえ、手形上の権利が債務者から受益者に、さらに
受益者から転得者に順次通常の裏書によつて移転した場合において、詐害行為取消
の訴を認容する判決により債務者が受益者に対してした手形の裏書が詐害行為にあ
たるとして取り消されたときは、その裏書は、訴訟の相手方となつた受益者との関
係では無効に帰するけれども、その訴訟に関与しなかつた転得者との関係では、た
とえ転得者が受益者から受けた裏書が隠れた取立委任を目的とするものである場合
でも、依然その効力が維持される、との見解を示し、上告人の訴外Dに対する詐害
行為取消の訴についてはこれを認容すべきものとし、かつ、被上告人らが受けた裏
書が訴外Dによる取立委任を目的としたものであることを確定しながらも、被上告
人らが詐害行為取消請求事件の相手方となつていないことを理由として、上告人の
前記抗弁を排斥すべきものとし、被上告人らの請求を認容した。
 しかしながら、上告人は、その主張にかかる訴外E商事に対する損害賠償債権の
債権者として、本件各手形につきその受取人であるE商事が訴外Dに対してした譲
渡裏書が詐害行為であることを理由にその取消を求める詐害行為取消請求事件の原
告であると同時に、本件各手形の振出人たる手形債務者として、その所持人である
被上告人らの提起した約束手形金請求事件の被告の地位をも併有していて、訴外E
商事の訴外Dに対する裏書が詐害行為取消の訴の認容判決によつて取り消されたこ
とは、手形債務者である上告人にとつては訴外Dに対する人的抗弁事由にあたると
みることができるところ、手形債務者は、隠れた取立委任裏書の被裏書人に対して
は、その裏書人に対して有する人的抗弁事由の存在についての被裏書人の善意・悪
意に関係なく、右抗弁事由をもつて対抗できるものと解すべきである(最高裁昭和
三六年(オ)第一二七〇号同三九年一〇月一六日第二小法廷判決・民集一八巻八号
一七二七頁、大審院昭和八年(オ)第二五六五号同九年二月一三日判決・民集一三
巻一三三頁参照)から、上告人は、訴外Dからの被裏書人である被上告人ら(原審
の確定するところによれば、訴外Dは、本件手形三通をそれぞれ直接被上告人らに
裏書をしたというのではなく、各手形につき第三者に対する裏書をし、右第三者か
らそれぞれ被上告人らに対する裏書を受けたうえ、D自身において被上告人らに対
しいずれも取立委任の目的をもつて本件各手形を交付した、というのであるが、こ
の場合においても、被上告人らの地位は直接の隠れた取立委任裏書の被裏書人の場
合と異なるところがないと解される。)に対しても、その善意・悪意を問わず、訴
外Dに対する人的抗弁を援用して被上告人らの請求を拒みうるものと解するのが相
当である。そうであるとすると、詐害行為取消の訴の認容判決の効力が相対的であ
ることを理由として、上告人の抗弁を排斥した原判決には、隠れた取立委任裏書の
被裏書人の地位についての法令の解釈を誤つた違法があるといわなければならない。
 もつとも、詐害行為取消の効果は当該詐害行為の取消を命ずる判決の確定をまつ
て生ずるものであるから、本件においても上告人の訴外Dに対する詐害行為取消の
訴の認容判決が確定するまでは、訴外E商事の訴外Dに対する本件各手形の裏書が
取り消された効果を生ずるものでないことは明らかである。しかしながら、詐害行
為の成否が手形金請求事件における請求権の存否の判断の先決問題となつており、
しかも、詐害行為取消請求事件の原告と手形金請求事件の被告とが同一人であり、
また、前者の事件の被告と後者の事件の原告とが実質上同一の地位にあるとみられ、
右両事件が同一の裁判所で併合審理された結果、詐害行為取消権が存すると判断さ
れ、そのため、手形金請求権の存在をも否定されるべきことが裁判所に明らかな本
件のような場合には、右手形金請求事件についても原告は請求棄却を免れないもの
と解するのが相当である(最高裁昭和三四年(オ)第九九号同四〇年三月二六日第
二小法廷判決・民集一九巻二号五〇八頁参照)。
 そうであるとすると、上告人の抗弁を排斥し、被上告人らの請求を認容した原判
決の前記違法は、その結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由が
あり、原判決は、その余の論旨につき判断を加えるまでもなく、破棄を免れない。
 そして、原審の確定した事実関係のもとにおいては、前記説示に徴し、被上告人
らの請求は理由がないものというべきであるから、これと同旨に出て被上告人らの
請求を棄却した第一審判決は正当であり、被上告人らの本件控訴はいずれも理由が
ないものとして、これを棄却すべきである。
 よつて、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八四条、九六条、九三条、八九条に
従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    本   林       讓
            裁判官    栗   本   一   夫
 裁判官吉田豊は退官につき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    大   塚   喜 一 郎

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