弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人林田耕臣、同柏木俊彦の上告理由第一及び第二の一、二について
 論旨は、原審が、被上告人らが提起した本件の訴がわが国の裁判権に服しない不
適法な訴であるとして却下した第一審判決を取り消したのは、民訴法四条三項及び
五条の解釈適用を誤つたものでありひいては理由不備の違法を犯したものであると
主張する。
 ところで、本件は、日本人から外国法人に対する損害賠償請求訴訟であるが、被
上告人らの主張によると、Dは、昭和五二年一二月四日マレーシア連邦国内で上告
会社と締結した航空機による旅客運送契約に基づきペナンからクアラ・ルンプール
に向け飛行する上告会社の航空機に搭乗していたが、同日右航空機が同国ジヨホー
ルバル州タンジユクバンに墜落したため死亡した、そこで右Dの妻である被上告人
B1、子である被上告人B2及び同B3の三名は、右航空機の墜落という上告会社
の航空運送契約上の債務不履行により右Dが取得した四〇四五万四四四二円の損害
賠償債権を各三分の一の割合により相続したとして上告会社に対し各自一三三三万
円の損害賠償の支払を求めるというのである。
 思うに、本来国の裁判権はその主権の一作用としてされるものであり、裁判権の
及ぶ範囲は原則として主権の及ぶ範囲と同一であるから、被告が外国に本店を有す
る外国法人である場合はその法人が進んで服する場合のほか日本の裁判権は及ばな
いのが原則である。しかしながら、その例外として、わが国の領土の一部である土
地に関する事件その他被告がわが国となんらかの法的関連を有する事件については、
被告の国籍、所在のいかんを問わず、その者をわが国の裁判権に服させるのを相当
とする場合のあることをも否定し難いところである。そして、この例外的扱いの範
囲については、この点に関する国際裁判管轄を直接規定する法規もなく、また、よ
るべき条約も一般に承認された明確な国際法上の原則もいまだ確立していない現状
のもとにおいては、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により
条理にしたがつて決定するのが相当であり、わが民訴法の国内の土地管轄に関する
規定、たとえば、被告の居所(民訴法二条)、法人その他の団体の事務所又は営業
所(同四条)、義務履行地(同五条)、被告の財産所在地(同八条)、不法行為地
(同一五条)、その他民訴法の規定する裁判籍のいずれかがわが国内にあるときは、
これらに関する訴訟事件につき、被告をわが国の裁判権に服させるのが右条理に適
うものというべきである。
 ところで、原審の適法に確定したところによれば、上告人は、マレーシア連邦会
社法に準拠して設立され、同連邦国内に本店を有する会社であるが、Eを日本にお
ける代表者と定め、東京都港区ab丁目c番d号に営業所を有するというのである
から、たとえ上告人が外国に本店を有する外国法人であつても、上告人をわが国の
裁判権に服させるのが相当である。それゆえ、わが国の裁判所が本件の訴につき裁
判権を有するとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論
の違法はない。論旨は、ひつきよう、右と異なる独自の見解に基づいて原判決を論
難するものにすぎず、採用することができない。
 同第二の三について
 論旨は、原審が、本件を上告人の普通裁判籍のある東京地方裁判所に移送せず、
一審の名古屋地方裁判所に差し戻したのは、民訴法四条三項及び五条の解釈を誤つ
たものであると主張する。
 しかし、上告審においては、当事者は原審が国内の任意管轄に関する規定に違背
することを主張することが許されないから(民訴法三八一条、三九六条、三九五条
一項三号参照)、論旨は、上告適法の理由にあたらず、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    木   下   忠   良
            裁判官    栗   本   一   夫
            裁判官    鹽   野   宜   慶
            裁判官    宮   崎   梧   一

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