弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原決定を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
1本件は,抗告人が,相手方に対し,時間外勤務手当の支払を求めて提起した
訴訟(以下「本案訴訟」という。)において,同手当の計算の基礎となる労働時間
を立証するために,相手方の所持する抗告人のタイムカード(以下「本件文書」と
いう。)が必要であると主張して,本件文書について,文書提出命令の申立て(以
下「本件申立て」という。)をした事案である。原々審は,本件文書の提出を相手
方に命じた。これに対し,相手方が,本件文書を所持している事実を争って即時抗
告をしたところ,原審は,上記事実を認めるに足りないとして,原々決定を取り消
し,本件申立てを却下した。
2抗告代理人牧原秀樹の所論に鑑み,職権をもって検討する。
本件文書は,本案訴訟において,抗告人が労働に従事した事実及び労働時間を証
明する上で極めて重要な書証であり,本件申立てが認められるか否かは,本案訴訟
における当事者の主張立証の方針や裁判所の判断に重大な影響を与える可能性があ
る上,本件申立てに係る手続は,本案訴訟の手続の一部をなすという側面も有す
る。そして,本件においては,相手方が本件文書を所持しているとの事実が認めら
れるか否かは,裁判所が本件文書の提出を命ずるか否かについての判断をほぼ決定
付けるほどの重要性を有するものであるとともに,上記事実の存否の判断は,当事
者の主張やその提出する証拠に依存するところが大きいことにも照らせば,上記事
実の存否に関して当事者に攻撃防御の機会を与える必要性は極めて高い。
しかるに,記録によれば,相手方が提出した即時抗告申立書には,相手方が本件
文書を所持していると認めた原々決定に対する反論が具体的な理由を示して記載さ
れ,かつ,原々決定後にその写しが提出された書証が引用されているにもかかわら
ず,原審は,抗告人に対し,同申立書の写しを送付することも,即時抗告があった
ことを抗告人に知らせる措置を執ることもなく,その結果,抗告人に何らの反論の
機会を与えないまま,上記書証をも用い,本件文書が存在していると認めるに足り
ないとして,原々決定を取り消し,本件申立てを却下しているのである。そして,
記録によっても,抗告人において,相手方が即時抗告をしたことを知っていた事実
や,そのことを知らなかったことにつき,抗告人の責めに帰すべき事由があること
もうかがわれない。
以上の事情の下においては,原審が,即時抗告申立書の写しを抗告人に送付する
などして抗告人に攻撃防御の機会を与えることのないまま,原々決定を取り消し,
本件申立てを却下するという抗告人に不利益な判断をしたことは,明らかに民事訴
訟における手続的正義の要求に反するというべきであり,その審理手続には,裁量
の範囲を逸脱した違法があるといわざるを得ない。そして,この違法は,裁判に影
響を及ぼすことが明らかであるから,その余の点について判断するまでもなく,原
決定は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻
すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官古田佑紀裁判官竹内行夫裁判官須藤正彦裁判官
千葉勝美)

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