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平成28年10月12日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成28年(ワ)第23322号不正競争行為差止等請求事件
口頭弁論終結日平成28年10月5日
判決
原告マイケル・ジョセフ・ジャクソン遺産財団
原告トライアンフインターナショナルイン
コーポレーテッド
上記2名訴訟代理人弁護士呂佳叡
同佐々木奏
同関戸麦
同安部健介
同山元裕子
被告甲
主文
1原告マイケル・ジョセフ・ジャクソン遺産財団と被告との間で,別紙
の契約書が真正に成立したものではないことを確認する。
2被告は,別紙表示目録記載の各表示を,自身の役務若しくはその広告
若しくは取引に用いる書類若しくは通信に表示し,又はその表示をして
役務を提供してはならない。
3訴訟費用は被告の負担とする。
4この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求の趣旨
主文同旨
第2事案の概要
1本件は,世界的に著名なミュージシャンである訴外マイケル・ジャクソン
(以下「マイケル」という。)の遺産を管理する財団である原告マイケル・
ジョセフ・ジャクソン遺産財団(以下「原告遺産財団」という。)が被告に
対しマイケルのアニメの製作等に係る権利を付与する内容の「MinuteOfUnd
erstanding」(覚書。以下「本件MOU」という。)と題する証書が真正に
成立したものであることを前提として,被告が代表者であった分離前の相被
告マイケル・ジャクソン・ジャパン株式会社(以下「MJJ」という。)が,
国内の第三者に対し,マイケルの肖像等の使用許諾をしていることに関して,
①原告遺産財団が,被告に対し,本件MOUにおける原告遺産財団代理人の
署名は偽造であると主張して,民事訴訟法134条に基づき,本件MOUが
真正に成立したものでないことの確認を求め,②マイケルの氏名及び肖像の
使用を第三者に許諾する業務を営んでいる原告トライアンフインターナシ
ョナルインコーポレーテッド(以下「原告トライアンフ」という。)が,
被告に対し,被告がマイケルの肖像等の使用権の許諾を受けていないにもか
かわらず,その旨の許諾を受けている旨を表示して,第三者に対してライセ
ンスを行うことは,不正競争防止法2条1項14号の不正競争に該当すると
主張して,同法3条1項に基づき,上記表示の差止めを求めた事案である。
2請求原因
(1)当事者等
ア原告遺産財団
原告遺産財団は,平成21年(2009年)6月25日に死亡した現在
もなお世界的に著名なミュージシャンであるマイケルの遺産財団である。
原告遺産財団は,アメリカ合衆国カリフォルニア州相続法に基づき成立し
ており,マイケルが死亡時に有していた財産の総称である。
遺産財団は,相続人及び受遺者から独立して存在しており,代表者によ
って管理されるところ,原告遺産財団の代表者は,カリフォルニア州ロサ
ンゼルス郡上級裁判所によって共同執行人に選任されている乙及び丙であ
る。
イ原告トライアンフ
原告トライアンフは,マイケルが自身の商標等を管理することを目的と
して,その生前に設立した米国法人である。
ウMJJ
MJJは,遊戯場並びに遊園地の企画,建設,管理及び経営等を目的と
する株式会社である。
エ被告
被告は,MJJの元代表取締役であり,形式的には代表取締役を退任し
たが,その後も,子をMJJの代表取締役に就任させるなどして,MJJ
の経営を実質的に支配しており,MJJはいわば被告の個人企業である。
(2)原告トライアンフの権利
原告トライアンフは,マイケルの生前から現在に至るまで,マイケルの氏
名を使用した商標登録を行い(日本では,商標登録第3016886号,商
標登録第5484318号などがある。),その氏名及び肖像の使用を第三
者に許諾する業務を営んでいる。
原告トライアンフは,マイケルの死後である平成21年(2009年)1
2月4日に,改めて原告遺産財団との間で「遡及的譲渡証書」(ASSIGNMENT
NUNCPROTUNC)と題する書面により契約を締結し,マイケルに関する商標(将
来の商標を含む。)に係る全世界における全ての権利の譲渡を,マイケルか
ら受けていることを確認した。
(3)被告の行為
ア被告は,原告遺産財団からマイケルの氏名及び肖像の使用権を許諾する
権限が付与されている旨の虚偽の表示をして,MJJをして第三者に対し,
上記使用権を許諾するという違法なライセンス活動を展開し,現時点で原
告らに判明しているだけでも,次の2件の許諾をした。
(ア)被告は,本件MOUを偽造の上,そのコピーを示すなどして,株式会
社ピノ(以下「ピノ」という。)に対し,MJJにマイケルの氏名及び
肖像の使用権を許諾する権限がある旨表示し,平成23年2月2日,M
JJとピノとの間で,マイケルの肖像・姿態を使用したアニメーション
映像を製作利用する権利を許諾する内容の使用許諾契約を締結した。
(イ)被告は,平成25年1月頃,株式会社ライフスタイル総合研究所(以
下「ライフスタイル総研」という。)に対し,MJJがマイケルの氏名
及び肖像の使用等についてのライセンス権を有していると説明をし,M
JJとライフスタイル総研との間で,業務委託契約を締結して,マイケ
ルの氏名及び肖像を使用したカフェ事業を行うことを許諾した。
イ被告は,上記アの際,次のとおり,ピノ及びライフスタイル総研に対し,
「取引に用いる書類」に,「役務」の「質,内容」について「誤認させる
ような表示」をした。
(ア)被告は,ピノとの間の使用許諾契約書の頭書に,「マイケル・ジャク
ソン・ジャパン株式会社(以下「甲」という。)と株式会社ピノ(以下
「乙」という。)は,甲が米国法人マイケル・ジャクソン・エステート
(以下「原権利者」という。)より,地域等の制限なく独占的・排他的
に使用を許諾されている故マイケル・ジャクソン(以下「丙」という。)
の肖像,姿態(以下総称して「本件肖像等」という。)を使用して,ア
ニメーション映像を制作し利用する事業に関し,以下のとおりに契約(以
下「本契約」という。)を締結する。」と記載した。同記載は,取引に
用いる書類である上記使用許諾契約書に,別紙表示目録記載1の表示(以
下「本件表示1」という。)をしたものであり,本件表示1からは,M
JJが,原告遺産財団との契約に基づき適法にマイケルの肖像・姿態の
使用権の許諾を受けており,MJJと契約を締結することにより,ピノ
が,マイケルの肖像・姿態を用いたアニメーション事業を展開すること
ができる趣旨が読み取れる。
しかし,MJJは,マイケルの肖像・姿態について何らの許諾を得て
いないから,ピノは,MJJから許諾を得ても,マイケルの肖像・姿態
の使用権を有することにはならない。
したがって,本件表示1は,マイケルの肖像・姿態の使用権を第三者
に許諾するという「役務」の「質,内容」について「誤認させるような
表示」である。
(イ)被告は,ライフスタイル総研に対し,MJJがマイケルの氏名及び肖
像の使用等についてのライセンス権を有していると説明をしたのである
から,MJJとライフスタイル総研との間の業務委託契約書に,別紙表
示目録記載2の表示(以下「本件表示2」という。)を記載したと考え
られる。本件表示2からはMJJが,マイケル又は原告遺産財団との契
約に基づき適法にマイケルの氏名及び肖像の使用権の許諾を受けており,
MJJと契約を締結することにより,ライフスタイル総研が,マイケル
の氏名を用いたカフェ事業を展開することができる趣旨が読み取れる。
しかし,MJJは,マイケルの氏名及び肖像について何らの許諾を得
ていないから,ライフスタイル総研は,MJJと契約を締結しても,マ
イケルの氏名及び肖像の使用権を有することにはならない。
したがって,本件表示2は,マイケルの氏名及び肖像の使用権を第三
者に許諾するという「役務」の「質,内容」について「誤認させるよう
な表示」である。
(4)本件MOUの成立の不真正
本件MOUは,原告遺産財団が一方当事者とされているが,真正に成立し
たものではない。すなわち,本件MOUの原告遺産財産の署名欄には,原告
遺産財団の法律顧問である丁弁護士(以下「丁弁護士)という。)名義のサ
インが記載されているが,丁弁護士は本件MOUを見たこともなく,サイン
をしたこともない。当該サインは別の文書から丁のサイン部分をコピーして
貼り付けたものと考えられる。
(5)確認の利益
被告は,原告遺産財団からマイケルの肖像・姿態の使用権の許諾を受けて
いる旨の表示(本件表示1)をしてライセンス活動を展開しているが,原告
遺産財団は被告ないしMJJに対し,直接又は間接を問わず,マイケルの肖
像・姿態の使用権を一切許諾していない。本件表示1によって,原告遺産財
団が被告に対しマイケルの肖像・姿態の使用権を許諾したかのような虚偽の
外観が作出され,原告遺産財団の権利又は法律上の地位に危険・不安が生じ
ている。
そして,本件表示1の拠り所は本件MOUであるから,本件MOUが真正
に成立したものでないことが裁判所により確認されれば,本件表示1は意味
を失い,原告遺産財団の権利又は法律上の地位に生じた上記危険・不安は除
去される。
したがって,原告遺産財団には,被告との間で,本件MOUが真正に成立
したものではないことを確認する利益がある。
(6)差止の必要性
原告トライアンフは,原告遺産財団から許諾を受けて,日本を含む全世界
において,第三者に対し,マイケルの氏名及び肖像を使用した商品の製造販
売等を行う権利を許諾している。しかるに,被告による本件表示1及び2は,
被告から許諾を得ることにより,マイケルの氏名及び肖像を使用する権利の
付与を受けられる旨の「誤認させるような表示」であるから,これらの表示
がされることにより,原告トライアンフの営業上の利益が侵害され,又は侵
害されるおそれがある。
加えて,被告及びMJJは,マイケルの氏名及び肖像について,自らが原
告遺産財団から許諾を得ているかのように振舞っており,原告らが被告及び
MJJに対し,ライフスタイル総研による権利侵害行為の停止を求めた際,
被告及びMJJは,原告らには停止させる権利はないとして原告らの要求を
拒否した。したがって,今後,本件表示1及び2のほかにも,マイケルの氏
名及び肖像について,被告がマイケル又は原告遺産財団から何らかの許諾を
受けている旨を表示するおそれがある。それゆえ,原告トライアンフは,別
紙表示目録記載3の表示(以下「本件表示3」という)についても差止めを
求める必要性がある。
第3当裁判所の判断
1被告は,本件口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面を提出しな
いから,原告の主張する請求原因事実について,これを自白したものとみなす。
2ところで,本件MOUは,別紙のとおり,原告遺産財団と「Financial
NavigationLimited」代表者としての被告との間で締結されたという外観を有
しており,原告遺産財団と被告との間で締結されたという外観は有していない。
しかし,前記第2,2(3)のとおり,被告が,第三者に対し,本件MOUを示し,
又は本件MOUが存在することを前提として,MJJに許諾権限がある旨の本
件表示1及び2をしていることが認められ,同各表示は,本件MOUが真正に
成立したものであることを前提として,訴外法人FinancialNavigation
Limitedから,MJJが,再許諾等の正当な権限を付与されたものとして行わ
れているというべきであるから,仮に本件MOUが真正に成立したものである
ならば,原告遺産財団は,本件MOUの存在を前提としてMJJと契約を締結
した第三者に対し,マイケルの氏名及び肖像等の使用を許諾する義務を負うこ
とになる。そして,原告遺産財団と被告との間には,本件MOUの成立の真正
について争いがある。そうすると,本件MOUの成立の真否は,原告遺産財団
の義務に関し,原告遺産財団と被告との間に紛争を生じさせ,原告遺産財団の
法律上の地位を不安定にしているといえる。
したがって,原告遺産財団は,本件MOUが真正に成立したものではないこ
とを確認することで,原告遺産財団と被告との間で争いがある法律上の地位を
安定させることができるといえるから,原告遺産財団には,被告との間で,本
件MOUが真正に成立したものではないことを確認する利益があると認められ
る。
3よって,原告らの請求には全部理由があるから全部認容することとし,主文
のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
東海林保
裁判官
瀬孝
裁判官
勝又来未子
(別紙「契約書」及び「その訳文」は省略)
(別紙)
表示目録
1原告マイケル・ジョセフ・ジャクソン遺産財団との契約に基づき,マイケル・
ジャクソンの肖像・姿態の使用権の許諾を受けている旨の表示
2マイケル・ジャクソン又は原告マイケル・ジョセフ・ジャクソン遺産財団との
契約に基づき,マイケル・ジャクソンの氏名及び肖像の使用権の許諾を受けてい
る旨の表示
3前二項に掲げるほか,マイケル・ジャクソンの氏名,肖像及び姿態の利用につ
いて,マイケル・ジャクソン,原告マイケル・ジョセフ・ジャクソン遺産財団又
は原告トライアンフインターナショナルインコーポレーテッドから何らかの許
諾を受けた旨の表示
以上

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