弁護士法人ITJ法律事務所

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                判    決
                 主    文
   1 被告らは,各自,原告Aに対し金4222万3929円,原告Bに対し金3992万5
267円,及びこれらに対する平成11年4月29日    から各支払済みまで年5分の割
合による金員を支払え。
   2 原告A及び原告Bのその余の各請求をいずれも棄却する。
   3 原告本人兼亡C訴訟承継人Dの被告らに対する各請求をいずれも棄却する。
   4 訴訟費用は,原告A及び原告Bと被告らとの間に生じたものは,これを3分し,
その1を同原告らの負担とし,その余を被告らの負    担とし,原告本人兼亡C訴訟
承継人Dと被告らとの間に生じたものは全部原告本人兼亡C訴訟承継人Dの負担とす
る。
   5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
                 事実及び理由
第1 請求
  被告らは,各自,原告Aに対し6398万9887円,原告Bに対し6296万0771円,
原告D及び亡C訴訟承継人Dに対し各550万円   並びにこれらに対する平成11年4
月29日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
   本件は,中学校内において中学1年生の少年からナイフで刺殺された中学校教諭
の遺族である原告らが,少年の両親である被告ら  に対して,不法行為に基づき,損
害賠  償を求めた事案である。
 1 争いのない事実
  (1) E(以下「E教諭」という。)は,黒磯市立黒磯北中学校(以下「黒磯北中」という。)
の教諭であったが,平成10年1月28日午前11    時40分ころ,黒磯北中の1年生
であったF(昭和××年×月××日生。以下「F」という。)に授業態度等について注意を
したとこ      ろ,Fからバタフライナイフ(以下「本件ナイフ」という。)により左胸や背
中など7か所を刺され,心臓刺切創,左前胸上部刺切創,右    背部刺切創等の傷
害を負い,直ちに黒磯市内の那須野が原菅間病院に搬送されたが,約1時間後,心臓
刺切創による失血により    死亡した(以下「本件事件」という。)。
    なお,本件ナイフは,Fが購入して中学校に持ち込んでいたものである。
  (2)本件事件当時,被告GはFの父として,被告Hは母として,共同して親権を行使す
る立場にあった。被告らは家業として酪農を営ん   でおり,家族構成は,Fの兄2人と
祖母の6人であった。
(3) Fは,小学校のころは,クラブ活動でサッカーをし,成績も優秀であったが,平成
9年4月,黒磯北中に入学後は学習意欲が減退して欠席日数も増加し,学
業成績も伸び悩み,特に英語は苦手となり,また,スポーツの面でも,テニス部に入部し
たものの,成長期    に発病するオスグッド・シュラッター病による膝の痛みに悩まさ
れ,激しい運動ができなくなってしまい,自転車通学ができず,被告ら   に自動
車で送り迎えをしてもらっていたこともあった。Fは,平成9年の2学期ころからは計14回
(そのうち平成10年に入ってからは計6回)保健室に通うようになり,膝を
痛めてから本件事件の直前まで苛立ちが募る状態が持続していた。
(4) 原告AはE教諭の夫であり,原告Bは長男である。
(5) 亡C及び原告DはE教諭の両親である。
亡Cは,平成14年8月23日,死亡し,原告Dが,相続により,亡Cの地位を承継
した。
 2 争点
(1) Fの責任能力の有無
(原告らの主張)
本件事件は,Fが,E教諭に対し,隠し持っていた本件ナイフで胸腹部や背中をめっ
た突きにした上,目をつり上げ,怒り狂ったように内臓が破裂するほどの強い力で足蹴
りを繰り返すという常軌を逸した態様で行われて,E教諭を即死させたものである。ま
た,本件事件はFがE教諭から授業に遅れたことを注意されたことに立腹したという
極めてささいな事柄が発端となっており,動機においても常   軌を逸している。そし
て,Fは,本件事件による家庭裁判所の処分として教護院に入院した後も,心身の不調
や,凶器と化す物を居    室に隠し持つ,職員や他の児童に対して暴力や殺人に結
びつく言動をはばかることなく行うなどの問題行動から個室処遇,強制的措   置寮へ
の入院等の措置を受けた上,最終的には処遇困難として関東医療少年院に送致されて
相当期間の治療を受けることになっ    たこと,教護院入院中の病院での診断におい
ても,Fには,軽度の脳波異常等の生物学的所見を伴った腹部発作及び不機嫌状態を
   伴うてんかんとそれと並んで存在する周期的不機嫌状態がみられ,爆発性精神病
質であって,DSM-Ⅳ分類によれば,問歇性爆    発障害,一般疾患による精神障
害(てんかん性腹部発作及び不機嫌発作)あると診断されていること,Fは,本件事件前
後,物に当    たったり,周囲の人に対しても攻撃的な言動を繰り返すなど,体調不
良にも起因して強い苛立ちを伴った不機嫌状態が持続していた   ところ,これらの状
態は,上記の教護院入院後の言動及び医師の診断による病状とも共通していること等
にかんがみると,Fは本件   事件当時も教護院入院後の診断と同様の精神的疾患に
罹患していたことが認められ,本件事件もこれによって惹起されたことがう    かがわ
れる。以上の諸点を総合すれば,本件事件当時,Fに責任能力がなかったことは明らか
である。
 また,黒磯北中校長はFが責任無能力であるとの前提で被告らから監督を委託
されたものでないから民法714条2項の代理監督   者とはいえないし,代理監督者
に責任がある場合でも法定監督義務者は自ら監督義務を怠らなかったことを立証しな
い限り責任を    免れないというべきである。
(被告らの主張)
本件事件当時,Fは13歳の中学1年生であり,小学校在学中も学業成績は優秀
であったのであるから,殺人行為の是非弁別を識   別できる程度の知能を有してい
たことは明白である。鑑定の結果によっても,Fの犯行時の行動は,心身の不安定性や
衝動性から    来る瞬時的,突発的に発生した行動とされており,Fの責任能力を否
定するものではない。Fの教護院送致後の生活行状の変化は,   Fの生来の精神的
疾患によってもたらされたものではなく,長期の拘禁とこれに反発する思春期特有の攻
撃性から発生したものであ   って,本件犯行がFの精神的疾患に基づくものであって
責任能力がなかったとはいえない。
仮にFの責任能力が認められないとしても,本件事件におけるFの殺人行為は,
黒磯北中校内において発生したのであるから,民法714条2項に定める代理監督
者として黒磯北中校長に責任無能力者の監督は委託されているのであるから,本件事
件の現場にいなかった被告らに不法行為に関する監督義務はなかったもので,
被告に対して民法714条に基づく責任を問うことはできない。
(2) 被告らの不法行為の成否
(原告らの主張)
被告らは,Fが本件ナイフを持って登校していることに気付きこれを止めさせること
はもちろん,いかなる場合であっても人を殺傷してはならないこと,ナイフで刺せ
ば人が死亡することがあり,そのようなことをしてはならないことをFに教示し,これを指
導監督する義務を負っていた。そして,本件事件前後,Fは攻撃的な言動を繰り返
す等上記のような状態にあり,被告らにおいても,少年が常時苛立ったり感情的に
なったりする精神状態にあって,学校に行くことを嫌がったり,保健室等にも行くようにな
ったことや物に当たったりしている様子を把握していたのに,それらの懸念につ
いて特に指導を行っていないことに照らせば,被告らがFに対する指導監督義務
を怠ったことは明らかである。
(被告らの主張)
被告らは,Fに対して,日ごろから他人に迷惑をかけてはならないという基本的な
教育をしていたし,また,本件ナイフを買い与えた事実もなく,人を殺傷してはなら
ないことを指導監督する義務を懈怠したということはできない。
また,仮に被告らにFに対する監督義務の懈怠があったとしても,FによるE教諭
の殺害という結果との間には,相当因果関係は存しない。被告らは,Fが本件ナイ
フを購入したことも,所持していたことも全く知らなかったし,Fには,本件事件以前に第
三者に対して傷害事件等を起こしたといった著しい非行傾向も存しなかったのであ
るから,経験則に照らして特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認
し得る高度の蓋然性としての相当因果関係はないというべきである。また,同様の事情
に照らせば,被告らにおい   ては本件事件に対する予見可能性もないのであるか
ら,過失は認められない。
(3) 原告らの損害額
(原告らの主張)
ア 原告A及び原告Bの損害
① E教諭の損害
 逸失利益8650万2420円
E教諭は,本件事件当時,黒磯北中に勤務する教師であったから,定年まで勤
務した場合のモデル生涯賃金の合計は2億5677万3783円であり,定年退
職時における退職金は2990万7900円である。また,定年後67歳までの年齢別平均
賃金の額は2136万8400円であって,これを基に,生活費控除率を30パーセ
ント,中間利息額を5パーセントとして計算すると,E教諭の逸失利益は8650
万2420円となる。
慰謝料3000万円
本件事件の特殊性,E教諭が本件事件当時26歳であり,1歳になったばかりの
幼児を残して死亡したことなどを考慮すると,E教諭は多大な精神的苦痛を受
けたものであり,その慰謝料は3000万円を下らない。
② 相続
原告AはE教諭の夫であり,原告Bは長男であるから,E教諭の死亡により,上
記原告らは各自法定相続分2分の1の割合でE教諭の上記損害賠償請求権を
相続した。
③原告Aは,本件事件により,E教諭の治療費9万8176円,遺体搬送料5万57
20円,書類費用1万5600円及び葬儀費用120万円の合計136万9496円
の出損をしたが,上記出損のうち74万6046円を地方公務員災害補償基金から支給さ
れた。
原告Aは,上記支給額の差額62万3450円の損害を被った。
④ 原告Bは,遺族補償年金として,平成10年2月から平成11年3月分まで合計
167万5212円の支給を受けた。
⑤ 弁護士費用
原告A及び原告Bは,原告ら訴訟代理人に対し,本件訴訟の遂行を委任した
が,本件事件と相当因果関係のある弁護士費用の損害額は,原告Aが580万
円,原告Bが570万円である。
イ 亡C及び原告Dの損害
 亡C及び原告Dは,E教諭の両親であり,E教諭の上記上記状況,本件事件の
特殊性を考慮すると,両親の精神的苦痛を慰謝す るには各自500万円をもって
するのが相当であり,弁護士費用の損害額については,各自50万円と認めるべきであ
る。
第3 争点に対する判断
1 前記争いのない事実に証拠(甲1ないし8,甲30ないし63,甲64の1,2,甲65,
鑑定の結果)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
(1) ナイフ等の購入・携帯状況等
Fは,平成9年の夏休みころ,釣りなどに使用するために刃の長さ3ないし4セン
チメートルのサバイバルナイフを購入し,同年の2    学期に入ったころから,ナイフを
友人に見せて自慢したりするため,制服の上着のポケットに入れるなどして登校の際に
も常時携帯 していた。また,本件ナイフは,平成10年1月20日午後7時過ぎころ,被
告Hと一緒に買い物に行った際,同被告がスーパーで買 い物をしている間に一
人でゲーム・プラモデル等の販売店「I」において,お年玉の中から約5000円を出捐し
て購入したものであっ     た。
Fが本件ナイフを購入した理由は,「かっこ良かったので半年くらい前から欲しか
った」というものであるが,ナイフを友人らに見せて 自慢したり,あるいは悪ぶって
他人になめられないようにしたいという思いや,何らかのトラブルにあったときにナイフを
出して相手を    脅かそうという護身目的も併存していた。Fは,本件ナイフを購入
後,登校時には制服の上着のポケットに入れ,普段外出する際に    もズボンのポケ
ットやポーチなどに入れて常時携帯を続けており,学校ではトイレや教室内で友達に見
せたりしていた。
(2) ナイフ等に関するF及び被告らの認識
Fは,被告らにナイフの購入について相談等を持ちかけたことはなく,被告らはサ
バイバルナイフを含め,Fがナイフ等を購入して常時携帯していることには全く気
が付いていなかった。
Fには,被告らが危険なナイフ等を持つことを許可してくれるような親ではないとの
認識があったが,正当な目的なく一定以上の刃体の長さの刃物を持ち歩くことが
法律違反になることの認識はなく,教師や被告らからその旨教わったこともなく,ナイフ
等を学校に持    参すべきではないとか,教師や被告らから命の大切さ等に関する
指導を受けた記憶もなかった。
(3) 本件事件までのFの状況等
Fは,本件事件当時まで,前歴等はなく,シンナー等の薬物に手を出したり,万引き
等を行ったこともなかったが,黒磯北中に入学したころから被告Gのたばこを盗
むなどして吸うようになり,平成9年の夏ころからは自分でたばこを購入し,多いときには
1日に十数本のたばこを吸っていた。
Fは,小学校時代に約2回友人らに暴力を振るったことがあり,黒磯北中入学後
は,直接暴力を振るったことはなかったものの,4,5回激高して暴力を振るう寸前
に至ったり,黒板をげんこつで殴ったり,トイレのドアを殴って壊すなどの行動取ったこと
があった。
Fは,本件事件前には,被告らの注意に対しても,気に入らなければ布団を殴りつ
けるなど,苛立ちや怒りを見せることが多くなり,口調なども荒っぽくなっていた。
このように,Fは,黒磯北中入学後は周囲の者に対する暴力的言動や物に当たる
などの行動が出始め,成績の悪化,欠席の増加,保健室への頻繁な出入り等の
状況にあった。被告らはFのこのような状況にある程度気付いていたが,特段の対処は
講じていなかった。
(4) 本件事件直前の状況
Fは,本件事件当日,少し体調が悪かったことと,授業に出たくないという気持ちか
ら,保健室で時間をつぶそうとしたが,養護教諭に授業に出るよう促され,トイレ
に行くなどした後遅れて授業に参加したところ,E教諭から注意されたため嫌な気分にな
った。その後友達から「先生のことむかつく。」等と問いかけられた際,自分は私語
をしていないのに,E教諭から名指しで「うるさい。」などと強い口   調で叱責されたこ
とに怒りと苛立ちを募らせ,「すげーむかつく。」「刺すかもしんねえ。」「ぶっ殺してや
る。」等と口走った。授業終了後,Fは,E教諭に教室の入口付近で呼び止められて
「トイレに行くときは先生に言ってから行くように」などと再度注意を受けたが,終   始
下を向いていたことなどからふてくされている原因を問いただされたのに対し,あいまい
な答えを返したことによりE教諭からその態度を厳しく叱責されたため,くすぶって
いた怒りを激発させ,「なめられてたまるか」という気持ちで制服の上着の右ポケットから
本件ナイフを取り出してE教諭に向けた。Fは,ナイフを突き付けているのに,E教
諭がこれに怯えるそぶりを見せず,自分を馬鹿にしたような目をされたと感じて更
に激高し,手にした本件ナイフで本件事件に及んだ。
(5) 本件事件後のFの状況等
 Fは,本件事件により,平成10年2月24日,教護院に送致されたが,教護院にお
いて,心身の不調や凶器と化す物を居室に隠し持つ,職員や他の少年に対して暴力や
殺人に結びつく言動をはばかることなく行うなどの問題行動から個室処遇,強制的措置
寮への入院等の措置を受けた上,最終的には処遇困難として関東医療少年院
に送致されて相当期間の治療を受けることになった。教護   院入院中の病院におい
ても,Fには,軽度の脳波異常等の生物学的所見を伴った腹部発作及び不機嫌状態を
伴うてんかんとそれに並んで存在する周期的不機嫌状態が見られ,爆発性精神病
質であって,DSM-Ⅳ分類によれば,問歇性爆発障害,一般疾患による精神障
害(てんかん性腹部発作及び不機嫌発作)であると診断された。
 2 Fの責任能力(争点(1))について
   本件事件において,Fは,在籍する中学校の教師であるE教諭に対して,十数か所
にもわたる刺切創等を負わせた上,内臓が破裂   するほどのけりをも事後的に加え
るなどしており,殺害行為の残虐性は顕著である。また,Fは,教護院入院後の診断結
果や処遇意   見書等で,腹部発作及び不機嫌状態を伴うてんかん,これと並んで存
在する周期的不機嫌状態,発作性精神病質などと診断されてお  り,怒りの抑制がき
かなくなる,耳元で音が一過的に聞こえるなどの症状もあり,軽度脳波異常とも判定さ
れていること等に照らせば,  Fの精神状態には生物学的背景もうかがえ,これに本件
事件当時のFの言動を併せ考慮すれば,Fは本件事件当時既に上記のような  精神疾
患に罹患しており,これが本件事件惹起に影響した可能性は十分に存するというべきで
ある。
しかしながら,本件事件における加害行為は,ナイフによる刺殺であって,殺人行為
の是非弁別の判断やそれに伴う法的責任発生  の認識は,既に中学校に入学し満
13歳に達していたFにおいても,基本的には比較的容易なものであったというべきであ
る。
そして,Fは小学校時代は学業の成績は優秀であったのであり,その理解力その他
知的能力に特に問題はうかがえないこと,本件事  件に関する警察官らに対する供述
調書や少年審判においても,その応答や供述内容に特に異常性はうかがえず,激発に
至った動    機・経緯も,極めて短絡的ではあるにせよ,了解そのものは可能で
あって,Fは,他者の殺害行為が悪いことであったとの認識は示し   ていること,Fは,
殺害行為の時点において,てんかん性もうろう状態,その他成人であれば,心神喪失の
条件となるような精神病状態  にあったものではなく,成人であれば,人格障害(精神
病質)の範囲にあるものであって,それに生物学的背景が存在するといった程   度の
状態にあり,年齢の考慮を捨象した場合における刑事的な責任能力はこれを肯定して
よいと考えられること等にかんがみれば,  本件事件当時Fが精神疾患に罹患してい
たとしても,これが同人の是非弁別能力に影響を与える程度の重篤なものであったと認
める  ことはできない。
 そうすると,本件事件当時,Fは責任能力を有していたというべきであるから,こ
の点に関する原告らの主張は失当である。
 3 被告らの不法行為の成否(争点(2))について
上記2のとおり,Fは本件事件当時責任能力を有していたと認められるので,被告ら
に対して民法714条に基づく責任無能力者の監  督者の責任を問うことはできない
というべきである。しかし,未成年者が責任能力を有する場合であっても監督義務者の
義務違反と当  該未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を
認め得るときは,監督義務者につき民法709条に基づく不法行  為が成立すると解す
るのが相当である。
 被告らは,Fに対して指導監督する義務を懈怠したことはないし,仮に監督義務違
反があったとしても,FによるE教諭の殺害という結  果との間に相当因果関係はなく,
結果の予見可能性もないのであって,過失は認められない旨主張する。
 しかし,Fは,本件事件当時,義務教育課程を終えていない13歳になったばかりの
中学1年生の少年であり,上記のとおり,是非弁  別能力等の責任能力は一応認めら
れるにせよ,その程度は相当に低いものであるから,日常生活その他のあらゆる局面
において親  権者等の監督義務者の広い監督,支配に服すべきであるが,その反射
的効果として,このような低い責任能力しか持たない年少少年  の監督義務者の監督
義務としては,広範かつ重大な責任が課せられて然るべきである。
  そこで検討するに,Fは,正当な理由のない刃物等の所持が法律に違反すること
も知らず,学校にナイフを持って行ってはいけない  との指導を受けたことは一度もな
いなどと述べており,同供述から親権者らの日常の監護・教育の中で常識的に身につ
けるべき認識   を欠いた状態にあったことがうかがわれる。このことからは,ナイフ所
持の禁止あるいは人の生命の尊厳やかけがえのなさといった基  本的な事柄につい
て,被告らのFに対するしつけや指導には重大な過誤があったことが推認されるところ,
被告らがこれらの点につき  Fに対して十分な指導教育を行っていた等上記事実に反
する資料はない。また,Fは,本件事件に至るまで特に非行歴はなく,小学校  時代に
は成績も優秀であったものの,中学校入学後は,膝の病気で思うように運動ができない
ことなどから苛立ちが高じて,周囲の人  に対する暴力的言動や物に当たる等の行動
が出始め,成績が悪化して,欠席も増加し,登校しても保健室に度々出入りするような
状  況にあったのであり,思春期特有の反抗行動といえる範囲を超えた明確な変化を
示していた。しかし,精神的疾患の発露とも取れるこ  れらのFの変調の兆しに対し,
被告らはある程度これに気付いていながら,特段の対処を講じていなかった。さらに,本
件事件そのも   のは被告らの直接監督下にない黒磯北中内で発生したものである
が,前記1の(1),(2)のとおり,Fによるナイフ類の購入は本件事件   の約半年前に初
めてなされ,ナイフ等を常時携帯する習癖もそのころから発現していたことに加え,本件
ナイフの購入も被告Hの同伴  時になされており,その後本件事件まで約1週間にわ
たってFが本件ナイフを常時携帯していた等の事実があるにもかかわらず,被告  ら
はこれらに全く気付かず,Fによる家庭から学校への本件ナイフの持ち込みは継続して
いた。これらの諸事情を勘案すれば,被告ら  の外にFに対してナイフの持ち込み等に
ついて指導を行うべき主体が存在し得たことは置くとしても,被告らにおいて,Fに対す
る監督   義務の懈怠があったことは否定できず,その懈怠が殺傷能力十分な本件ナ
イフの校内への常時持ち込みを許すことになった以上,被  告らの監督義務違反とE
教諭の殺害との間の相当因果関係もまた優に首肯し得る。
 また,上記検討した被告らの監督義務違反の内容に照らせば,被告らにおいてF
による殺害行為自体を具体的に予見していなかっ  たとしても,Fが本件事件当時一
般的な他害行為に及ぶ可能性は十分に予見できたのであるから,予見可能性はあった
というべきで   ある。
したがって,被告らは,本件事件,すなわち,FによるE教諭の殺害について,Fに
対する監督義務違反により共同不法行為責任を   負うものというべきである。
 4 原告らの損害額(争点(3))について
(1) 原告A及び原告Bの損害
ア E教諭の損害
① 逸失利益
 E教諭は,本件事件当時,黒磯北中に英語教師として勤務し,給与年収446万
5763円を得ていたので(甲8),同額から生活費    35パーセントを控除した額に死
亡時の年齢26歳から稼働可能期間である67歳までの41年間に対応するライプニッツ
係数17.2 943を乗じると,次の計算式により5020万0959円となり,E教諭
の逸失利益は5020万0959円であると認める。
      4,465,763×(1-0.35)×17.2943=50,200,959
   ② 慰謝料
     E教諭は,職務中に教え子に刺殺されたこと,当時1歳の原告Bを残して死亡し
たこと等本件訴訟に現れた資料を総合すると,     E教諭の死亡による慰謝料は,2
800万円をもって相当と認める。
③ E教諭は,被告らに対して上記①及び②の損害合計7820万0959円を請求
する権利がある。
  イ 原告A及び原告Bは,E教諭の上記損害について各2分1の割合に相当する39
10万0479円を相続により取得した。
  ウ 原告Aは,本件事件により,E教諭の治療費9万8176円,遺体搬送料5万572
0円,書類費用1万5600円及び葬儀費用120万   円の合計136万9496円の出
損をしたことが認められ(甲3,4),上記費用はいずれも本件事件と相当因果関係を有
するところ,同   原告は,上記出損のうち74万6046円を地方公務員災害補償基金
から支給された旨を自認しているので,上記支給額の差額62    万3450円が原告
Aの被った損害である。
    原告Bは,遺族補償年金として,平成10年2月から平成11年3月分まで合計16
7万5212円の支給を受けた旨を自認している。
 エ 弁護士費用
    本件事案の内容等を考慮すると,本件事件と相当因果関係のある弁護士費用の
損害額は,上記原告らについて各250万円と認   めるのが相当である。
 (2)亡C及び原告Dの損害
   亡C及び原告Dは,E教諭の両親であり,我が子を殺害された打撃が大きかったこ
とは推認に難くないけれども,本件事件当時,E教  諭は原告Aと婚姻し,長男原告B
をもうけて独立した家庭を営んでいること,亡C及び原告Dと同居している等の関係もな
く,同原告らの  苦痛を慰謝すべき特段の事情が認められない本件にあっては,同原
告らに固有の慰謝料を認めることには躊躇せざるを得ない。
 5 結語
   以上の次第で,原告A及び原告Bの各請求のうち,被告らに対し,原告Aについて
4222万3929円,原告Bについて3992万5267  円及びこれらに対する不法行為
後である平成11年4月29日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで民法所定年5
分の割合によ  る遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,そ
の余の各請求は理由がないからこれを棄却することとし,亡C   及び原告Dの各請求
は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成16年6月2日)
 宇都宮地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官 羽田 弘
裁判官 今井 攻
裁判官 馬場嘉郎

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◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
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応募方法
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残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
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ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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応募方法
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