弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
被告が原告の昭和四〇年四月一日から昭和四一年三月三一日までの事業年度の法人
税について、昭和四二年六月三〇日付でした更正処分のうち課税所得金額が金三七
六万九七五一円をこえる部分および過少申告加算税賦課決定処分を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の申立
一 原告
 主文と同旨の判決を求めた。
二 被告
 「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」。
との判決を求めた。
第二 当事者の主張
一 原告の主張―請求の原因
(一) 原告はその昭和四〇年四月一日から昭和四一年三月三一日までの事業年度
の法人税について、同年五月三一日課税所得金額を金三七六万九七五一円、税額を
金一〇九万四九二〇円として確定申告したところ、被告は昭和四二年六月三〇日付
をもつて課税所得金額を金一五一〇万八九三三円、税額を金五五四万一七〇〇と更
正する処分をし、かつ、過少申告加算税金二二万二三〇〇円を賦課決定する処分を
した。
(二) 原告はこれを不服として昭和四二年七月二八日東京国税局長に対し審査請
求をした(なお、右更正および加算税賦課決定の各処分は国税通則法(昭和四五年
法律八号による改正前のもの)第二七条に基づいてなされ、同法第七九条第一項第
一号に該当したので、課税庁に対する異議申立てをすることなく、直接審査請求に
及んだものである。)が、昭和四三年四月二七日付でこれを棄却する旨の裁決があ
り、同年五月一四日その送達を受けた。
(三) しかし、右更正処分および加算税賦課決定処分は違法であるから、その取
消しを求める。
二 被告の主張
(一) (請求原因に対する認否)
 原告主張の(一)(二)の各事実は認める。
(二) (抗弁―処分の適法性)
 原告主張の更正処分は以下に記す根拠に基づくものであつて、もとより適法であ
る。したがつて、また、原告主張の加算税賦課決定処分も、それだけの根拠を備
え、適法である。
1 被告が原告の前記確定申告にかかる所得金額についてなした更正は右所得金額
にそれぞれ相当の理由をもつて次表のごとき加算および減算をした結果である。
(1) 加算
(2) 減算
 また、被告が原告の右確定申告にかかる法人税の税額についてなした更正は右更
正による所得金額のうち、三〇〇万円に対する法人税額九三万円(税率一〇〇分の
三一。法人税法第六六条第一項第一号)および三〇〇万円を超える分に対する法人
税額四四七万九九六〇円(税率一〇〇分の三七。同項第二号)の合計五四〇万九九
六〇円について、それぞれ相当の理由をもつて課税留保の所得金額二五一万七〇〇
〇円に対する法人税額二五万一七〇〇円の加算および所得税等一一万九八六一円の
控除をした結果である。
2 そして、右所得金額の更正の理由のうち、売上繰延を否認して二一五〇万円を
加算し(右1、(1)のイ)、また売上分棚卸認定損を認めて一〇〇一万四二四二
円を減算した(右1、(2)のイ)のは次の理由による。すなわち、
(1) 原告は右確定申告にかかる事業年度中たる昭和四一年三月一〇日Aおよび
Bの両名との間において分譲マンシヨンたるビラ○○(以下、本件マンシヨンとも
いう。)を代金二一五〇万円で譲渡する旨の売買契約を締結し、その契約に従い、
右ABらから右代金のうち、四〇〇万円を右同日、一〇〇〇万円を中間金と称して
同月一五日また残金七五〇万円を同年四月三〇日それぞれ受領し、他方、同人らに
対し右中間金受領と同時に右マンシヨンの使用を許諾して、これを引渡し、同人ら
は同年三月中から右マンシヨンを使用し、給湯設備も利用した。
 なお、右マンシヨンの売買契約が締結されたのは右ABらが昭和四〇年三月一二
日その共有の山林三二五四坪を殖産土地相互株式会社に代金三四〇九万円余で売却
し右代金の支払を受けたので、それから一年内の昭和四一年三月一二日までに買替
資産を取得して譲渡所得に伴う課税免除の特例たる租税特別措置法第三五条適用の
必要条件を充すべく、原告に協力を要請し、原告がこれに応じたことによるもので
ある。
 また、右マンシヨン売買における代金分割払の約定は右ABらにおいては右事情
から即時支払の用意があつたのに、原告においても格別即時支払を受ける必要がな
かつたところから、原告の提唱によつて成立したものである。
(2) そして、物件の売却に伴う収益は売買代金債権が確定したと認むべき時に
生じるものというべきである(権利確定主義)が、売買代金債権は特約のない限り
売買契約の効力発生時に確定する。なお、この点に関し、法人税法基本通達二四九
は「資産の売買による損益は所有権移転登記の有無及び代金支払の済否を問わず、
売買契約の効力発生の日の属する事業年度の益金又は損金に算入する。ただし、商
品、製品等の販売については、商品、製品等の引渡の時を含む事業年度の益金又は
損金に算入することができる」と述べているが、それは通常、売買の目的物が特定
され、その所有権移転、引渡、代金支払の各時期および登記手続などの定めがなさ
れる資産の売買においては、原則として契約の効力発生の日に代金債権が生じ、こ
れにより収益が生じるものとみるとともに、そのような契約形態によらないで、継
続的かつ大量に取引され、代金支払の方法が各種にわたる商品、製品等の販売にお
いては、一応、商品、製品等の引渡時に代金債権が発生し収益が実現するものとみ
る趣旨である。
 したがつて、原告とABらとの間になされた本件マンシヨン売買の代金債権は右
売買契約の効力が発生したものとみられる昭和四一年三月一〇日確定し、これによ
り収益が生じたものというべきであるから、原告としては前記事業年度の確定申告
においてこれを益金に算入するとともに右マンシヨンの棚卸の結果を損金に算入す
べきであつた。
 もつとも、本件マンシヨンの売買をもつて原告にとつて前記通達のただし書きに
いう商品の販売に当るとみる向きがあるかもしれないが、右マンシヨンの売買につ
いては、商品のようにその引渡をもつて代金債権確定の認識基準とすべき実体的な
根拠がない。
 かりに、その引渡時に代金債権が確定したと解するとしても、右マンシヨンが原
告からABらに引渡されたのは前記のように昭和四一年三月一五日である。
三 原告の主張―抗弁に対する認否
 被告主張事実中、1の事実は被告主張の売上繰延否認を理由とする所得の加算お
よび同じく売上分棚卸損による減算が相当であることを除き、これを認め右除外の
点は争う。
 同2の(1)の事実は原告とAおよびBとの間において昭和四一年三月一〇日本
件マンシヨンの売買契約が締結されたこと、右ABらが原告に対し、同月一五日中
間金と称して一〇〇〇万円を支払い、同年四月三〇日代金残額を支払つたこと、A
Bらが同年三月中右マンシヨンを使用したことを認めるほか、すべて否認する。原
告は右マンシヨンにつき同年四月三〇日右ABらに対し鍵一式を交付してその引渡
を了するとともに所有権移転登記手続をしたものである。
 同(2)の主張は被告主張の基本通達の存在することを認めるほか、すべて争
う。この点について昭和四四年五月一日付法人税基本通達は解釈を具体化し、資産
の販売等による損益の章の二―一―一において「たな卸資産の販売による収益の額
は、その引渡があつた日の属する事業年度の益金の額に算入する」とし、また二―
一―三において「固定資産の譲渡による収益の額は、その引渡があつた日の属する
事業年度の益金の額に算入する。但し、法人が当該固定資産の譲渡に関する契約の
効力発生の日以後引渡の日までの間における一定の日にその譲渡による収益が生じ
たものとして当該日の属する事業年度の益金の額に算入したときはこれを認める」
としていることに注意すべきである。
第三 証拠関係(省略)
       理   由
一 原告がその昭和四〇年四月一日から昭和四一年三月三一日までの事業年度の法
人税について、同年五月三一日課税所得金額を金三七六万九七五一円、税額を金一
〇九万四九二〇円として確定申告をしたところ、被告が、昭和四二年六月三〇日付
をもつて課税所得金額を金一五一〇万八九三三円、税額を金五五四万一七〇〇円と
更正する処分をし、かつ、過少申告加算税金二二万二三〇〇円を賦課決定する処分
をしたこと、原告が本訴に先立ち適法な審査手続を経たこと、右更正処分が被告主
張の計算に基づくこと、右計算のうち、被告主張の売上繰延否認を理由とする所得
の加算および同じく売上分棚卸損を理由とする減算以外の部分がそれぞれ相当の理
由を具えたものであることは当事者間に争いがない。
二 そこで、右売上繰延否認を理由とする所得の加算および右棚卸損を理由とする
減算の当否を考察して、右更正処分の適否を判断する。
 原告が右確定申告にかかる事業年度中たる昭和四一年三月一〇日AおよびBの両
名との間において本件マンシヨンを譲渡する旨の売買契約を締結し、右ABらから
同月一五日中間金と称して一〇〇〇万円、同年四月三〇日代金残額の各支払を受け
たことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証、証人Cの証言によ
つて真正に成立したものと認める乙第六号証、証人D、A、C、Eの各証言を総合
すれば、原告と右ABらとは右売買契約において代金を二一五〇万円とし、そのう
ち、四〇〇万円を手付として契約時、一〇〇〇万円を中間金として同年三月一五
日、また、残金七五〇万円を同年四月三〇日それぞれ支払う旨を約し、これに従つ
て右手付金を授受したうえ、前記のように中間金および残代金の授受をしたもので
あることが認められるほか、右売買締結前後の事情として、次の事実が認められ
る。
 原告は不動産の売買を目的とする商事会社であつて、転売のため本件マンシヨン
を含む分譲住宅を建設取得しこれを分譲に供し、うのうち本件マンシヨンをABら
に売却し、右代金残額受領と同時に同人らのため右マンシヨンの所有権に関する登
記を了したものである。
 一方、右ABらは昭和四〇年三月一二日他三名と共有山林を殖産土地相互株式会
社に売却したので、その譲渡所得に伴う所得税につき租税特別措置法第三五条のい
わゆる居住用財産の買換えの特例による恩典を受けるため、原告から本件マンシヨ
ンを買い受けたものであつて、右税法上の特典を受けるのに都合が良いようにとの
考慮から契約時に代金の支払を完了すべく、ともかく千葉銀行に預金を準備した
が、原告側から分割払に応じる旨の申出を受けたため、前記の代金支払方法を約し
たものである。そして、右ABらの税務顧問たる税理士Cは右税法上の特典に与る
には右共有山林売却後一年以内に買換え財産の所有権を取得するに止まらず、少な
くともその引渡を受けた体裁を作る必要があるとし、原告と交渉の末、昭和四一年
六月頃にいたり、原告との間において本件マンシヨンの売買契約につき、その引渡
の時期を明示せず、ただその所有権に関する登記の時期を残代金支払い完了時と定
めた旨を記載し、文面だけでは引渡が代金の支払と関係なく行われたとの解釈の余
地を残す体裁の契約書を作成した。しかし、原告は実際には他の事例と同様、少な
くとも同年四月三〇日代金残額の支払を受けるまで本件マンシヨンをABらに引渡
した事実がなく、それまでの間には、ただ同人らが内装の手入れ、模様変えの計画
などのため立入りを求めた際、係員立会のもとに、これを認めた事実があるにすぎ
ないのみならず、むしろ、買受人のうち、Aは本件マンシヨンに入居せず、Bは同
年三月初旬足部を骨折して入院したため、同年六月中旬ようやく右マンシヨンに引
越して入居した。
 以上の事実が認められるのであるが、乙第二号証の一ないし七の各記載は右認定
の妨げとならず、ほかに右認定を覆すに足りる証拠はない。そして、右事実によれ
ば、本件マンシヨンは原告にとり営利目的実現の手段として商行為の容体たる商品
であつたものであり、原告はこれをABらに販売して収益を挙げたものであるが、
その販売による引渡は早くても原告の昭和四一年四月一日を始期とする事業年度に
含まれる同年六月以降になされたものといつて妨げない。なお、右販売に伴う登記
がなされたのも右事業年度に含まれる同年四月三〇日であることはさきに認定のと
おりである。しかるところ、企業会計制度対策調査会(終戦後、大蔵省経済安定本
部に設置)が「企業会計の実務の中に慣習として発達したもののなかから、一般に
公正妥当と認められたところを要約したものであつて、必ずしも法令によつて強調
されないでも、すべての企業がその会計を処理するに当つて従わなければならない
基準である。」(前文二1)として昭和二四年七月公表した「企業会計原則」は一
方において「損益計算書は企業の経営成績を明らかにするため、一会計期間に発生
したすべての収益とこれに対応するすべての費用とを記載し、当期純利益を表示し
なければならない」(第二損益計算書原則の一)として、損益計算書の記載につい
ては原則として収益発生主義(税法上のいわゆる権利確定主義にあたる。)による
べきことを示しながら、他方において「売上高は実現主義の原則に従い、商品の販
売又は役務の給付によつて実現したものに限る。未だ売却済とならない積送品及び
試用販売、割賦販売、予約販売等に関する未実現収益は、原則として、当期の収益
に算入してはならない。但し、長期の未完成請負工事等については、適正に利益を
見積り、これを当期の収益に計上することができる。」(三(営業利益)B)とし
て、商品の販売に関する記帳については収益実現主義によるべきことを示し(それ
は企業会計の目的から生じる要請に応じ実務慣習として成立した公正妥当な会計処
理基準を明確にしたものと考えられる。なお法人税法第二二条は第一項において
「内国法人の各事業年度の所得の金額は当該事業年度の益金の額から当該事業年度
の損金の額を控除した金額とする。」と定め、また第二項において「内国法人の各
事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は別段の
定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提
供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業
年度の収益の額とする。」と定めるほか、第四項において「第二項に規定する当該
事業年度の収益の額……は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計
算されるものとする。」と定めている。もつとも、右第四項の規定は昭和四二年五
月三一日法律第二一号により新設のうえ同年六月一日から施行され(同法附則第一
条)、特定の場合を除き施行日以後に開始する事業年度にかかる法人税に限つて適
用される(同法附則第二条)ものであつて、本件には直接適用されないが、その趣
旨は収支計算に関する当然の基準を注意的に明文化したにすぎないから、実質的に
は本件にも妥当する。)、また、法人税法基本通達二四九が「資産の売買による損
害は所有権移転登記の有無及び代金支払の済否を問わず、売買契約の効力発生の日
の属する事業年度の益金又は損金に算入する。ただし、商品、製品等の販売につい
ては商品、製品等の引渡の時を含む事業年度の益金又は損金に算入することができ
る」としていることは当事者間に争いがない。そして、右通達のただし書きは商
品、製品等が主として動産たることに着眼した立言であつて、不動産が商品として
販売された場合については、これに伴い所有権移転登記または引渡のいずれかがな
された時に販売が実現したとみて、これによる益金をその時点を含む事業年度に算
入すべき趣旨に解するのが合理的である。被告は不動産の売買については、むしろ
右通達の本文により権利確定主義に従うべきである旨を主張するが、右主張が不動
産たる商品の取引の場合にも公正妥当な基準たりうることについては格別の根拠が
ない。
 したがつて、原告は右通達のただし書きにより本件マンシヨンの販売収益を前記
確定申告の翌事業年度の益金に繰延べて算入することができたものといわなければ
ならない。
 してみると、本件更正処分は右売上の繰延を否認して益金に加算する一方、これ
に見合うべき棚卸による損金を認めて減算した点において過誤を犯したものという
べく、結局、課税所得金額が三六二万三一七五円を超える限度で違法であり、した
がつて、また、本件過少申告加算税賦課決定処分はこれに対応する限度で違法であ
る。
三 よつて、右更正処分のうち、課税所得金額が右違法たる範囲内の三七六万九七
五一円を上まわる部分の取消およびこれに対応する過少申告加算税賦課決定処分の
取消を求める原告の本訴請求をすべて正当として認容することとし、訴訟費用の負
担について民訴法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 駒田駿太郎 小木曽競 山下薫)

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