弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人志賀親雄の上告理由について
 一 原審は、原判決理由二の冒頭に挙示した証拠によつて、(一) D産業株式会
社(以下「D産業」という。)は、台湾の会社であるE社外一名に対し、日本産の
うなぎの稚魚であるシラスを代金四万二六〇〇米ドルで輸出することになり、F銀
行発行の取消不能信用状三通(以下「本件信用状」という。)を得たので、同銀行
を支払人とし右代金額を合計金額とする荷為替手形三通(以下「本件荷為替手形」
という。)を振り出した、(二) D産業は、これより先の昭和五一年二月四日銀行
取引停止処分を受けて事実上倒産し、自ら銀行に本件荷為替手形の割引を依頼する
ことができない状況にあつた、(三) D産業の代表取締役である上告人は、かねて
から取引のあつた被上告人に対し、本件荷為替手形を被上告人の取引銀行において
割引いてほしい、その割引代金(買取代金)はD産業の被上告人に対する債務の一
部の弁済にあてるから、これとは別に、上告人が個人として経営している不動産業
のために緊急に必要とする資金七八〇万円を貸してほしい、二日後に返済する、旨
申入れた、(四) 当時、G貿易株式会社との取引に関連してD産業振出の手形又は
小切手を取得し、同社に対し多額の債権を有し、同社の倒産により、その回収に苦
慮していた被上告人は、当時の為替レートによると本件荷為替手形の合計金額は邦
貨にして一二七八万円と換算されたので、右債権の回収をはかるため、上告人の申
出に応ずることにし、上告人に対し、同年三月一一日、弁済期を同月一三日、利息
を市中銀行の貸出利率以上とするとの約定で、金額一二八万円、支払場所株式会社
H銀行I支店、振出地大阪市とする小切手一通(以下「本件小切手」という。)を
振り出して同金額の金員を貸し付け、残余については同じくD産業の債権者であつ
たJ食品株式会社(のちに商号を株式会社Kと変更した。以下「K」という。)に
話をし、その結果、同社が上告人に対し、同日金額合計六四六万円の小切手二通を
振り出して同金額の金員を貸し付けたとし、本訴請求の原因である本件消費貸借契
約の成立を認めている。
 二 記録を検討すると、本件消費貸借契約を直接証明する借用証等の客観的証拠
はなく、原判決が理由二の冒頭に挙示している証拠のうち本件消費貸借契約を直接
証明する証拠としては、被上告人代表者L及び被上告人と同様前示の小切手に関す
る紛争につき上告人に対して訴訟を提起しているKの代表者Mの各供述が存するに
すぎないことが明らかである
 ところで上告人は、本件小切手は本件消費貸借契約のために授受されたものでは
なく、D産業が、被上告人に対し、本件荷為替手形を銀行買取の方法で換金するこ
とを委託し、これを承諾した被上告人と、(一) 被上告人は銀行に本件荷為替手形
を買い取らせることによつて得た金員のうち一一二八万円をD産業に支払うが、そ
のうち五五〇万円はD産業の債権者であるG貿易株式会社が被上告人に対して負担
する債務の弁済に充当するものとして控除し、被上告人はD産業に対し残金五七八
万円を支払う、(二) 銀行の本件荷為替手形の買取代金と右一一二八万円の差額は、
被上告人が手数料として取得する旨の合意をし(以下「本件合意」という。)、こ
の合意に基づき、被上告人がD産業に対し、前記五七八万円の内金一二八万円の支
払のために本件小切手を振り出し、残額四五〇万円についてはK振出の小切手を現
金化して支払つたものであると主張し、その趣旨の供述をしていたものである。し
たがつて本件においては、本件小切手授受の趣旨が重要な争点となつていたといわ
なければならず、この争点に関し動かし難い客観的証拠があれば、これを基礎とし
て各当事者の前示主張・供述の当否を判断すべきであるところ、右争点に関する書
証として甲第三九号証が存する。同号証の内容は、原審の認定するところによると、
(一) D産業がエル・シーの銀行買取を被上告人に委託し、被上告人はその取引銀
行においてエル・シーの買取をさせるものとする、(二) 被上告人は取引銀行のエ
ル・シー買取と同時にD産業に対し銀行買取額を現金にて支払う、(三) D産業は
相手国銀行の買取完了後に委託手数料として一五〇万円を被上告人に支払うという
のであるから、右記載内容は、大綱において上告人主張の本件合意と合致するもの
というべきである。したがつて、甲第三九号証を排斥するに足りる特段の事情のな
いかぎり、本件合意、ひいては本件小切手授受の趣旨についての上告人の主張を認
めるべき筋合である。
 しかるに原判決は、本件荷為替手形の買取代金はすべてD産業が被上告人に対し
て負担していた債務の弁済にあてる約旨であつたが、甲第三九号証は本件荷為替手
形についての取引が通常の商取引であることを示すために形式上作成されたものに
すぎないとして、その証明力を否定している。しかしながら、右説示からは、D産
業と被上告人との間において、何故に、殊更このような書面の作成を必要としたか
の実質的理由は、必らずしも明らかではない。もつとも、原審は、甲第三九号証を
排斥し、ひいては本件小切手授受の趣旨を前示のように認定するについて、D産業
が昭和五一年三月当時被上告人に対し多額の債務を負つていたことを主要な根拠と
しているが、この点について被上告人の主張するところは、被上告人は、D産業振
出にかかる原判決別紙目録記載の約束手形六通手形金合計一八六七万五〇二〇円の
不渡により五二八万七五〇〇円の損害を被つたので、D産業に対し同額の損害賠償
請求権(以下「本件損害賠償請求権」という。)を取得し、また、昭和五〇年一〇
月一五日売却した冷凍むき海老の単価仕切直しによる六一四万六四〇〇円の残代金
債権(以下「本件残代金債権」という。)を有するというのであつて、記録による
と、本件損害賠償請求権は、右約束手形金、その利息又は遅延損害金とは別個のも
のであるが、どのような法律上の事由に基づいて被上告人が右のような多額の損害
賠償請求権を取得しうるのかは全く不明というのほかはなく、また、冷凍むき海老
の取引の当事者が被上告人とG貿易株式会社であるとの記録上明らかな事実(甲第
三五号証の一、二、乙第三号証の一、二参照)に照らすと、何故に、被上告人がD
産業に対し本件残代金債権を取得しうるかも理解し難いといわざるをえない。のみ
ならず、原判決が甲第三九号証を排斥する根拠として付加しているところの、本件
小切手が被上告人から上告人に交付された昭和五一年三月一一日当時本件荷為替手
形の銀行による買取が実現するかどうか予断を許さなかつたとする点も、本件信用
状がいわゆる取消不能信用状であり、その支払が通常確実にされるものであること
にかんがみると、直ちに首肯しうるものとはいえない。
 以上説示したところによれば、他に甲第三九号証の証明力を否定するに足りる特
段の事由がない限り同号証の証明力を否定することは許されないところ、原判決は、
かかる特段の事由を認定することなく同号証を排斥し、本件合意の成立を否定し、
ひいては本件合意と事実上両立し難い関係にある本件消費貸借契約の成立を認定し
たことに帰するから、原判決には審理不尽、採証法則違背、ひいては理由不備の違
法があるものというべきであり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明
らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件につ
いては、D産業の被上告人に対する債務の存否、甲第三九号証の証明力及び本件消
費貸借契約の成否についてさらに審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に
差し戻すこととする。
よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決
する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    木 戸 口   久   治
            裁判官    横   井   大   三
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    安   岡   滿   彦

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