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判決 平成14年2月25日 神戸地方裁判所姫路支部 平成10年(ワ)第509
号 損害賠償請求事件
主文
1 被告は,原告Aに対して金1908万7239円,同B,同C及び同D
に対して各金636万2413円並びにこれらの各金員に対する平成7年10月2
0日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
   被告は,原告Aに対して金1958万7239円,同B,同C及び同Dに対
して各金652万9079円並びにこれらの各金員に対する平成7年10月20日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 1 本件は,商品取引所の取引員である被告との間で商品先物取引の委託契約を
締結した承継前原告亡E(以下「亡E」という。)の遺族が,亡Eの勧誘された本
件取引は,亡Eに出捐させた現金を帳尻損金への充当名下に領得することを意図し
た,構造的な詐欺行為(客殺し)であったと主張して,不法行為(民法709条な
いし715条)に基づき,被告に対し,①出捐額合計3467万4479円,②慰
謝料100万円及び③弁護士費用350万円(①ないし③の合計3917万447
9円)並びにこれらに対する最終出捐日以降の遅延損害金の支払を求めた事案であ
る。
 2 前提となる事実(争いのある事実についてのみ証拠を掲記する。)
  (1) 商品先物取引(以下単に「先物取引」ということがある。)についての前
提的な説明
   ア 先物取引とは
 先物取引とは,将来の一定時点における商品及び対価の授受を約する売
買取引であって,当該売買の目的物となっている商品の転売又は買戻しを行ったと
きは,差金の授受によって決済することができるという手法の取引である。
 ちなみに,売買約定を最終的に決済しなければならない期限の月を「限
月」という。
   イ 商品取引所の仕組み
 商品取引所は,商品又は商品指数について先物取引をするために必要な
市場を開設することを主たる目的として商品取引所法に基づいて設立された者をい
い,取引所の構成員として先物市場での売買に参加できる者を「会員」,会員のう
ち,顧客からの売買注文を執行するための受託業務を営むことのできる者を「商品
取引員」という。商品取引所における売買取引は,その取引所の取引員以外の者が
参加する場合,すべて商品取引員に売買取引を委託する制度となっている。
 商品取引員は,主務大臣から許可を受けた営業所以外の場所で受託業務
を行うことはできない。ただし,営業所外でする受託業務を,当該商品取引員の役
員又は使用人であって,商品取引所の登録を受けた者(これを「外務員」とい
う。)に行わせることができる。
   ウ 商品取引所における取引のきまり
 大量取引を迅速に行うため,商品取引所における売買の条件は,各商品
目ごとに定型化されている。まず,売買に際し値決めの対象となる数量が単位化さ
れ(これを「呼値」という。例えば,1グラムいくら,と値段をつける場合,この
1グラムが「呼値」である。),呼値に対しての値動きの最小単位も決められ(こ
れを「呼値の単位」という。),また,売買と受渡についてもその最小取引単位
(これをそれぞれ「売買単位」,「受渡単位」といい,いずれも「枚」で表示され
る。例えば,白金では,売買単位,受渡単位とも1枚は500グラムとされ,50
0グラム未満の半端な取引は認められない。)が決められている(なお,本件取引
の対象となったゴム・白金・銀・綿糸40について,その「呼値」・「呼値の単
位」・「取引単位」を,別表「商品取引の基本数値一覧表」に示した。)。ちなみ
に,呼値も売買単位も商品の量を表す概念であるが,両者の単位当たりの量は大き
く異なる。例えば,白金では,呼値は1グラムであるのでこれを単位として値決め
が行われるが,売買単位は1枚(500グラム)であり,取引はこれを最低単位と
する。したがって,白金1グラムにつき1円の値動きがあれば,売買単位では50
0円の値動きがあったことになる。
 また,商品取引所では,1日の値動きの幅を一定の範囲に制限している
(これを「値幅制限」という。)。相場の乱高下を防ぐとともに顧客に損失が出た
場合でも委託証拠金の範囲内で賄えるようにするためである。
   エ 委託証拠金(受託契約準則〔甲A2の5〕第3章)
(ア) 商品取引員は,先物市場での売買取引の受託に際し,委託者から,
担保として所定の委託証拠金を徴しなければならない。委託証拠金は,当該建玉に
ついて反対売買(転売もしくは買戻し)による決済(手仕舞い)が行われ,その全
部又は一部につき預託の必要がなくなったとき,委託者に返還される。
(イ) ところで,委託証拠金には,委託本証拠金と委託追証拠金,委託定
時増証拠金,委託臨時増証拠金とがある。
    ① 委託本証拠金は,委託者が新規の買建て又は売建ての委託をすると
きに預託する基本的な証拠金である(略して「本証」という。なお,本件で取引の
対象となったゴム・白金・銀・綿糸40について,その本証の額を,別表「本証拠
金額一覧表」に示した。)。
    ② 委託追証拠金は,既存の委託建玉(取引所において成立した売買約
定で,まだ決済されていないもの)がその後の相場変動により損計算となり,その
損計算額(これを「値洗い損」という。)が既に預託済みの委託本証拠金の半額を
超えたとき,担保不足を補うために商品取引員の指示により委託者が追加して預託
する証拠金である(略して「追証」という。)。徴収される追証の額は,値洗い損
が本証の半額(又はその整数倍)を超えたときに,当該本証の半額(又はその整数
倍)である。
    ③ 委託定時増証拠金は,委託建玉が当月限となったとき,担保補強の
ため預託を求められる証拠金である(略して「定時増」という。)。
    ④ 委託臨時増証拠金は,相場の変動が激しい場合等に,過熱化を抑制
するために徴収される証拠金で,取引所が商品の種類,限月等を指定して額を定
め,取引所が定めた日時までに委託者が商品取引員に預託することになる(略して
「臨時増」という。)。
(ウ) また,商品取引員が委託者から預託された証拠金を管理する「預け
(預り)委託証拠金勘定」は,必要証拠金(本証・追証・臨時増・定時増)と超過
預託金である準備金とに分かれる。準備金は,決済によって建玉が減少・消滅した
場合のほか,預託されている追証や臨時増・定時増が不要になった場合や損益金勘
定から益金の証拠金勘定への振替があった場合などに発生する。準備金は,超過預
託金であるから,委託者から返還請求があった場合には,所定の期間以内(返還請
求のあった日から起算して4営業日以内)に返還することとされている。
   オ 委託手数料
 商品取引員は,先物市場での売買取引の受託に際し,委託者から,所定
の委託手数料を徴収しなければならない。
 委託手数料は,買い又は売りの1枚当たりを基準に1回の委託取引をす
る都度徴収されるので,1回の売買つまり新規とその仕切り(売建て又は買建てと
その買戻し又は転売)では往復分の手数料がかかることになる。
 委託手数料は,委託による売買取引を転売又は買戻しにより決済したと
き(手仕舞い時に),往復分が一括して徴収される。
   カ 手仕舞い(決済)時の清算処理
 既存建玉の全部又は一部が反対売買により決済(手仕舞い)されると,
売買差損益が確定する。この売買差損益は,商品取引員が計算して委託者との間で
受払いする。また,反対売買により当該建玉に係る取引関係が終了したことになる
ので,新規と仕切りにかかる往復分の委託手数料(取引所税・消費税を含む。)が
商品取引員によって徴収され,取引の担保として預託していた委託証拠金が委託者
に返還される。実際には,この売買差損益金の受払と委託手数料の徴収,委託証拠
金の処理は,一括計算の上清算されている(なお,取引継続中に仕切取引の都度行
われる清算処理の結果を「差引損益金」ないし「確定損益金」といい,すべての取
引を手仕舞いした後に行われる清算処理の結果を「帳尻損益金」という。)。した
がって,商品取引員が徴収した委託証拠金は,手仕舞い後に,売買差損金と委託手
数料を控除して,残余があれば委託者に返還されるシステムになっている。
  (2) 当事者
   ア 亡E(昭和5年2月26日生)は,昭和22年7月に兵庫県養父郡大屋
町立西谷中学校の教員として採用された後,平成2年3月31日に同郡八鹿町立青
渓中学校教頭を最後に退職した元教員であって,被告から本件取引の勧誘を受けた
平成6年11月当時,同郡大屋町社会福祉協議会事務局長として勤務する傍ら,同
町デイサービスセンターの施設長及び同町老人福祉センター所長を兼務していた。
亡Eは,被告から本件取引の勧誘を受けるまで,先物取引はおろか株式投資の経験
もなかった(甲B20)。
     本件取引の勧誘を受けた当時,亡Eの保有資産は,不動産として自宅の
土地建物,田畑(2反余り),山林(共有名義)があり,そのほかに教員時代の給
与・退職金を原資とする預貯金が2500万円ほどあった。また,当時の収入は,
前記社会福祉協議会から得る給与(月給15万円)くらいであった(証人G,甲B
20,21)。
   イ 原告Aは,亡Eの妻であり,原告B・同C・同Dは,いずれも亡Eの子
である。なお,亡Eは,平成12年1月22日に死亡した。
   ウ 被告は,商品先物取引の受託取引業務などを目的として,昭和32年1
2月23日に設立された株式会社であり,東京工業品取引所などの商品取引員であ
る。亡Eは,被告の顧客であったが,被告の従業員(外務員)であったF及びGが
亡Eとの取引を担当した。
  (3) 本件取引の経過
   ア 亡Eは,平成6年11月初旬ころ,Fから東京工業品取引所の白金の先
物取引の勧誘を受け,同月18日,被告との間で,先物取引委託契約を締結した。
なお,契約に際して,先物取引の仕組みなどが記載された「商品先物取引委託のガ
イド」(別冊も含めて2冊。乙B1の1・2)が交付された(乙B2)。
   イ 被告は,平成6年11月21日から平成7年7月18日までの間,亡E
の計算において,別表「建玉分析表(全商品)」のとおり,東京工業品取引所での
白金,ゴム,銀,綿糸40の先物取引を行った。これらの取引(本件取引)の結
果,売買差益が5475万7000円,委託手数料(取引所税・消費税を含まな
い。)が合計1億0713万1980円発生したため,差引5582万4479円
の損失(取引所税・消費税を含む。)となった。
     このうち,ゴムの取引内容は,別表「建玉分析表(東工ゴム)」のとお
りであり,平成7年1月11日から同年7月18日にかけて行われたゴムの取引の
場合,売買差益が合計9335万4000円,委託手数料(取引所税・消費税を含
まない。)が合計8055万8780円であるため,差引1018万2361円の
益(取引所税・消費税を含む。)であった。また,白金の取引内容は,別表「建玉
分析表(東工白金)」のとおりであり,平成6年11月21日から平成7年1月1
1日にかけてと,同年5月30日から同年7月18日にかけて行われた白金の取引
の場合,売買差損が合計3522万5000円,委託手数料(取引所税・消費税を
含まない。)が合計809万2000円であるため,差引4357万3928円の
損失(取引所税・消費税を含む。)であった。そして,銀の取引内容は,別表「建
玉分析表(東工銀)」のとおりであり,平成7年3月1日から同月8日にかけて行
われた銀の取引の場合,売買差益が726万6000円,委託手数料(取引所税・
消費税を含まない。)が合計1115万4000円であるため,差引423万45
91円の損失(取引所税・消費税を含む。)であった。さらに,綿糸40の取引内
容は,別表「建玉分析表(東工綿糸40)」のとおりであり,平成7年3月2日か
ら同月8日にかけて行われた綿糸40の取引の場合,売買差損が合計1063万8
000円,委託手数料(取引所税・消費税を含まない。)が合計732万7200
円であるため,差引1819万8321円の損失(取引所税・消費税を含む。)で
あった。
   ウ 亡Eは,本件取引期間中の各建玉をするについては,Gから事前に職場
に電話をもらって一応了解していたが,職場では電話をすること自体がはばかれる
状況であり,また,先物取引の知識経験に乏しく,相場の動きなどについて独自の
情報源を持っていなかったこともあって,Gの意見(相場観)を排して独自の判断
に基づいて建玉を行うことはなかった(甲B20,証人G)。
   エ 亡Eは,本件取引の継続期間中(平成6年11月21日から平成7年7
月18日まで),委託証拠金として,平成6年11月21日に120万円,平成7
年1月24日に217万円,同月31日に760万円,同年3月14日に400万
円,同月23日に820万円,同年5月1日に500万円,同月10日に300万
円,同年6月6日に270万円,同月22日に30万円,同年7月6日に30万円
の合計3447万円を支払い,本件取引終了後に,帳尻損金の充当として,同年8
月16日に10万4479円,同年10月20日に10万円の合計20万4479
円を支払った(出捐金の合計は,3467万4479円である。)。なお,亡Eが
本件取引に関連して被告から金銭の支払を受けたことはない。
   オ 商品取引員が顧客から委託証拠金として預託された現金や,顧客の受託
を受けて執行した取引で確定した相場益金(確定損益金ないし差引損益金)のうち
顧客から払戻請求がなく,引き続き商品取引員に預託されているものは,商品取引
員によって,「証拠金勘定」と「損益金勘定」とに振り分けて保管される(なお,
各勘定の残高が不足するときは,相互に振替処理が行われることがある。すなわ
ち,証拠金勘定に不足があるときに,損益金勘定から証拠金勘定に振替入金した
り,取引で大きな損が発生して損益金勘定残高がマイナスになったときに,証拠金
勘定から損益金勘定に振替出金することがある。)。本件取引の継続期間中につい
て,「証拠金勘定」と「損益金勘定」の変動状況を明らかにしたものが,別表「返
還可能金額の推移一覧表」である。
     ところで,同表に「返還可能金額」として示した数値は,商品取引員が
顧客から預託されている金銭(「証拠金勘定残高」〔同表の(B)欄〕と「損益金
勘定残高」〔同表の(F)欄〕を合計したもの)から「必要証拠金」(担保として
拘束されている証拠金)(同表の(A)欄)を除いたものに一致するが(B+F-
A),要するに,各取引日において,未決済の建玉を仕切らずとも直ちに返還を受
けられる預託金の額を明らかにしたものである(別紙「説明図」参照)。
     また,各取引日において,未決済の建玉をすべて仕切ったとすればいく
らの預託金を返還してもらえるかを計算したものが,別表「帳尻勘定・投機損益分
析表」である。すなわち,同表の「預け委託証拠金(B)」欄(証拠金勘定残高)
と「損益勘定残高(D)」欄(損益金勘定残高)とを合計したものが,各取引日に
おける預託金の総額を表している。そこから各取引日に未決済の建玉を仮に仕切っ
たとしたときの「売買損益金」(同表の「値洗総合計(G)」欄。これを「値洗
い」という。)と委託手数料(同表の「手数料(H)」欄)を考慮して帳尻勘定を
計算すると,同表の「帳尻勘定」欄記載の金額が得られ,これが各取引日において
未決済の建玉をすべて仕切っていれば返還を受けられた預託金の総額である(ただ
し,厳密には,取引所税及び消費税を控除しなければいけないが,ここの計算では
省略している。)。なお,顧客から見たとき,この金額が商品取引員に対して現実
に入金した金額(出捐額累計・現金入金累計)よりも少ないときは,商品取引員に
委託した取引(本件取引)によって実損を被ったことになる(別紙「説明図」参
照)。そこで,「帳尻勘定」が「出捐額累計」を上回ることになるかどうかを計算
したものが,同表の「投機損益」欄の記載である。
 3 争点及び主張
 本件の主たる争点は,本件取引によって発生した損失が,投機家である亡E
の自己責任に帰せしめられるべきものであるか,それとも商品取引員である被告が
手数料稼ぎの目的で故意に発生させたもの(いわゆる「客殺し」によるもの)であ
るから被告の負担に帰せしめられるべきものであるか,という点にある。
 なお,適合性の原則違反,説明義務違反の成否という形で,亡Eについて自
己責任を問う前提条件が充足されていたといえるか否か,という点も問題にされて
いる。
  (1) 原告らの主張
   ア 総説――自己責任原則との関係
 被告は,商品先物取引のような投機的取引には自己責任原則が妥当する
から,本件取引によって亡Eが被った損失は,亡E(すなわち原告ら)に帰せしめ
られるべきであると主張する。
 しかし,亡Eは,株式投資の経験すらなく,商品先物取引に参加する上
での適格性に疑問のある顧客であったし,本件取引を開始するに当たり商品先物取
引にかかる的確な説明を受けていなかったから,亡Eに自己責任を問う前提が欠け
ている上,本件取引は,商品取引員である被告において,顧客である亡Eが自己に
依存している状況を悪用して,いわゆる「客殺し」を行ったものであるから,亡E
の自己責任を問題にすること自体失当である。そもそも,商品取引員である被告
は,商品先物市場が公正な価格形成の場として機能するように配慮する重大な職責
が課せられていたにもかかわらず,その職責を顧慮することなく,職権を濫用して
亡Eに損害を被らせたのであるから,亡Eの自己責任を問題にできる立場にはな
い。
   イ 客殺し
 いわゆる「客殺し」とは,商品取引員が,顧客から委託証拠金などの名
目で預託された金員を自己の手元に置いて費消することを意図して,顧客の意思と
は無関係に,売り又は買いを建て,これを仕切ることによって,売買差損金,委託
手数料などの名目で顧客に損失を発生させ,手仕舞い時に顧客に返還すべき金員
(帳尻益金)がないかのように取り繕うものであるが,本件の取引については,次
のような状況が存在しており,いわゆる「客殺し」が行われていたものと推認する
ことができる。
    (ア) 顧客操縦が可能であったこと
     a 亡Eの投資経験
 亡Eには投資経験がなく,本件取引の勧誘を受けるまで,先物取引
はもとより,現物株取引を含め証券会社との取引経験も全くなく,その他元本の保
証されない金融商品の取引経験も一切なかった。
 なお,亡Eの職歴をみても,昭和22年7月に中学校教員として採
用された後,平成2年3月31日に中学校教頭を最後に退職するまで,教員生活一
筋に生き,事業や商売などの経験も皆無であった。
     b 亡Eの理解・習熟の程度
 亡Eは,本件取引が終了した現在においても,先物取引の基本的な
仕組みである差金決済制度,証拠金・追証拠金制度を理解できていないし,値洗い
損益・帳尻損益の計算を自ら行うのに必要な基本的知識を習得できていなかった。
     c 無断売買ないし事実上の一任売買の取引状況
 本件取引は,土日を除く立会日ほぼ連日にわたって頻繁に建て落ち
を繰り返しているが,亡Eは,このような取引について,逐一事前の了承を求めら
れたことはない。事前に連絡があった場合であっても,委託の際の指示事項(上場
商品の種類,限月,売り・買いの別,新規・仕切の別,売買枚数,(値段におけ
る)指値又は成行の別,指値の場合はその値段及び委託注文の有効期限,成行の場
合は取引を行う日・場・節)の全部又は一部について指示を受けない一任売買の形
態で取引が執行された。本件取引は,実質上一任売買の形態で取引が行われてい
た。
    (イ) 過当取引
     a 取引の絶対量
 玄人筋を除く一般委託者の平均的建玉枚数は,20枚ないし30枚
であると推測される。
 しかるに,本件取引の経過を見ると,取引開始後1か月目(平成6
年12月20日)までは建玉が,白金の20枚だけであるものの,その後,2か月
目の平成7年1月20日の取引終了時点で90枚の建玉が,3か月目の同年2月2
0日の取引終了時点で1050枚の建玉が,4か月目の同年3月20日の取引終了
時点で2000枚の建玉が,5か月目の同年4月20日の取引終了時点で1995
枚の建玉が,6か月目の同年5月20日の取引終了時点で2200枚の建玉が,7
か月目の同年6月20日の取引終了時点で2650枚の建玉が建てられ,全量建玉
を仕切った同年7月18日の直前である同月13日の取引終了時点で2340枚の
建玉が建てられていた。一般委託者としては天文学的ともいうべき巨大建玉であ
る。また,各取引日の立会終了後の建玉枚数が30枚を超えている日数の全取引日
数に占める割合を求めると,96.3パーセントにのぼる(建て落ちのいずれかが
行われた日を1取引日と計算する。)。このように,本件取引の期間中のほぼ全体
にわたって,平均的委託者の建玉枚数を超過した過当建玉が行われている。
 このような無定見で無謀な取引が行われていたこと自体から,商品
取引員による委託手数料稼ぎを目的にした取引が行われていたことを推認できる。
     b 手数料化率(帳尻損益金に占める委託手数料の割合)
 本件取引では,売買損益金(相場によって発生した損益金)は,5
475万7000円の黒字を計上しているにもかかわらず,1億7137万198
0円の委託手数料を徴収される計算になったため,差引損益金(帳尻損益金)が5
582万4489円の赤字になった。顧客の損失(帳尻損益金)に占める委託手数
料の割合(手数料化率)は,損金のすべてを意味する100パーセントを超えて1
92パーセントに達している。ちなみに,外務員の適正な業務遂行を監視するため
に農林水産省が考案した「チェックシステム」は,手数料化率を10パーセント程
度にとどめることが望ましいとしている。
 この事実は,被告の手数料稼ぎによる客殺しの結果を端的に示すも
のにほかならない。
     c 売買回転率
 売買回転率とは,玉を建てて落として1回と計算する取引を,月平
均何回行っているかを表す指標である。本件取引においては,取引を開始した平成
6年11月21日から平成7年7月18日の取引終了までの240日間に,合計9
4回の取引(玉を建てて落として1回と計算)がなされており,これは,1か月当
たり11.7回の売買回転率となる。商品別にみると,ゴムは,189日間に56
回の取引が行われており,1か月当たり8.8回の売買回転率であり,白金は,5
0日間に7回の取引が行われており,1か月当たり4.2回の売買回転率であり,
銀は,8日間に4回の取引が行われており,1か月当たり15回の売買回転率であ
り,綿糸40の取引では,7日間に4回の取引が行われており,1か月当たり1
7.1回の売買回転率である。
 売買の回転を早くすると,顧客の預託金(証拠金)が業者の手数料
に多く転化してしまうことから過当取引の一つの指標として問題にされる。この事
実に着目して,外務員の適正な業務遂行を監視するために農林水産省が考案した
「チェックシステム」は,売買回転率を月3回以内にとどめることが望ましいとし
ている。しかるに,本件の取引では,これを上回る回転率を示しており,商品取引
員において,手数料稼ぎを目的にして取引を行っていたことが推認される。
 ちなみに,本件取引の対象とされた各商品について何回往復売買を
繰り返すと本証拠金が手数料に消えるかをみると,ゴムは6.4回ないし7.9
回,白金は5.5回ないし7.1回,銀は4.1回ないし5.2回,錦糸40は
6.1回ないし6.3回となる。本件取引では,これらの各数値を上回る頻度で取
引を行っていた。このような取引をしているからこそ,顧客の取引益も,顧客の出
捐金も委託手数料で食われてしまうような状態になったのである。これをみても,
本件取引のてん末が,被告の客殺しの結果であることが強く推認される。
     d いわゆる「特定売買」の出現率
 「特定売買」と呼ばれる「直し売買」,「途転」,「日計商い」,
「両建」,「手数料不抜け売買」はいずれも,委託者に手数料の負担を生じさせる
ばかりでその利益につながらない取引の典型である。したがって,委託者が先物取
引について常識的理解を有しておれば,通常,自主的・主体的に指示して行うはず
のない取引である。
 したがって,このような取引が頻繁に行われていることは,商品取
引員において,手数料稼ぎを目的にして取引を行っていたことを推認させる事実で
ある。
 ところで,この事実に着目して,外務員の適正な業務遂行を監視す
るために農林水産省が考案した「チェックシステム」は,「特定売買」の比率を全
体(建てて1回,落として1回と数えたものを分母にする。)の20パーセント以
下にとどめることが望ましいとしている。しかるに,本件取引における特定売買の
湧出状況は,別表「無意味な反復売買分析表(全商品)」記載のとおりである(こ
れをゴムの取引についてまとめたものが別表「無意味な反復売買分析表(東工ゴ
ム)」であり,白金の取引についてまとめたものが別表「無意味な反復売買分析表
(東工白金)」であり,銀の取引についてまとめたものが別表「無意味な反復売買
分析表(東工銀)」であり,綿糸40の取引についてまとめたものが別表「無意味
な反復売買分析表(東工綿糸40)」である。)。すなわち,ゴム取引について
は,売買取引合計134回のうち,特定売買が61回に及んでおり,特定売買比率
は46パーセントになる。また,白金取引については,売買取引合計16回のう
ち,特定売買が6回あり,特定売買比率は38パーセントになる。次に,銀取引に
ついては,売買取引合計8回のうち,特定売買が3回あり,特定売買比率は
38パーセントになる。綿糸40の取引については,特定売買に該当する取引はな
い。さらに,取引全体についての特定売買状況を見ると,合計166回の売買取引
合計延べ回数のうち,特定売買が70回あり,特定売買比率は42パーセントとな
る(ちなみに,本件取引期間中の合計72回の新規建玉のうち特定売買が行われた
延べ回数は合計61回であるから,新規建玉に占める特定売買の比率は85パーセ
ントに及び,同様に合計94回の仕切取引のうち特定売買が行われた延べ回数は合
計50回であるから,仕切取引に占める特定売買の比率は53パーセントに及
ぶ。)。
 なお,「直し売買」は,既存の売り玉(又は買い玉)を仕切るとと
もに,同一日内で新規に売り玉(又は買い玉)を建てることをいう(異限月を含
む。)。このような取引は,既存の建玉をそのまま維持するのと何ら変わりはな
く,徒に取引回数を増やして委託手数料の負担がかさむだけ委託者にとっては有害
無益なものである。
 「途転」は,既存建玉を仕切るとともに,同一日内で新規に反対の
建玉を行うことをいう(異限月を含む。)。途転は,相場が逆に展開することを予
想しているときに行うとされるが,そのような予想外の相場展開の際には,仕切る
べき玉を仕切ってしばらく取引を休むのが常道であり,無定見・頻繁にこのような
取引を行うと,徒に委託手数料の負担を増やすだけに終わる取引である。
 「日計商い」は,新規に建玉し,同一日内で新規に反対の建玉を行
うことをいう。同一日内で,前場は買い方針だったのに,後場は売りに回るなどと
いうことは定見のない取引の典型である。
 「両建」は,既存建玉に対応させて反対建玉を行っていることをい
う(異限月を含む。)。両建は,両建したときに損金が実質的に確定するから,こ
の時点で既存建玉を仕切るのと何ら変わりはなく,新規に反対玉を建てる点で委託
証拠金,委託手数料の負担がかさむだけ委託者にとって有害無益なものである。
 「手数料不抜け売買」は,売買取引により利益が発生したものの,
当該利益が委託手数料より少なく,売買益が手数料で食われて差引損になっている
ものをいう。委託者にとって,手数料の巾を抜けられない限り利益はないのである
から,不抜けた結果をもたらしている取引は,委託者の指示に基づくものでないこ
とが推認される。
    (ウ) 利乗せ満玉
 利乗せ満玉とは,手仕舞いによって発生した確定益金を相場に再投入
してしまうこと(確定益金を委託証拠金に振り替えて新規の建玉をすること)をい
う。利乗せ満玉は,1回の値下がりでそれまでの利益をすべて失ってしまうおそれ
のある危険な取引の典型であるから,先物取引を理解する委託者であれば,通常自
主的・主体的に行うはずのない取引である。一方,商品取引員の側には,本来顧客
に払い戻さなければならない確定益金の払い戻しを回避できる上,新規の建玉(取
引の拡大)により委託手数料を増大させることができるといううま味のある取引で
ある。
 したがって,このような取引経過や状況が見られる場合には,商品取
引員において,手数料稼ぎを狙った取引拡大工作を行っていたことを推認すること
ができる。
    (エ) 顧客総体に対する向かい玉
 向かい玉とは,受託にかかる取引と対当させて自己取引をすることを
いう。
 ところで,商品取引員が,特定の商品について自己玉を,委託玉の売
り・買いのうち枚数の少ない側に,その差を埋めるように建玉する(差玉向かい)
等して,毎日の売買取組高を,委託玉・自己玉合計でほぼ同数にする取引を行うこ
とがある。このような顧客総体に対する向かい玉を行えば,市場取引(相場)によ
り損益が生ずるのを避けられ,商品取引所に対する関係で,顧客から徴収した委託
証拠金を放出することを回避できる。そして,商品取引員と顧客総体との間に構造
的な利害相反の関係が発生し,顧客総体が損をすれば,業者はその損を業者の益に
取り込むことができるという構造が成立する。商品取引員が,ほぼ恒常的に顧客総
体に対する向かい玉の形をとっていることは,その商品取引員に客殺しの体質があ
ることを推認させる事実である。
 しかるに,本件において,少なくともゴムの取引で,被告が顧客総体
に対する向かい玉を行っていたことは明らかである。すなわち,データの得られた
取引期間中,ゴム取引については,各立会日における売買差玉が,売買合計の1パ
ーセント以内の取引,すなわち売り買いがほぼ同数の取引が41パーセント,5パ
ーセント以内の取引,すなわち売り買い数が著しく近似している取引が36パーセ
ント,10パーセント以内の取引,すなわち売り買い数が近似している取引が12
パーセントである。そして,全体として被告の自己玉は1941万円の利益をあげ
つつ,委託玉は3946万円の損を発生させていることがうかがえるのである。
    (オ) まとめ
 以上要するに,被告は,顧客総体に対する向かい玉を常時行ってお
り,客殺しの体質を有している商品取引員であるところ,相場取引に対する亡Eの
無知に乗じて,売買の一任状態を形成し,相場で益金が生じると,それを直ちに取
引に盲目的に再投入して取引を拡大し(利乗せ満玉),売(買)直し,日計,両建
を中心とする無意味な反復売買を繰り返すことにより(過当取引),委託手数料を
増大させ,構造的な手数料稼ぎ(客殺し)を行っていた。本件取引は,客殺しの意
図に貫かれた一連のものであり,一体的に亡Eに対する故意の不法行為を構成す
る。
   ウ 説明義務違反
 商品取引員は,先物取引の経験のない者を勧誘する際,少なくとも,
    ① 勧誘しようとする取引が,預託金を短期間の間にすべて失う危険のあ
る投機行為であることを具体的に理解させ,
    ② 先物取引の基本的仕組み,先物取引の損得(値洗損益)計算の方法,
先物取引の手数料率,証拠金制度の仕組み,証拠金勘定・損益金勘定・値洗勘定・
帳尻勘定という取引の勘定項目とその仕組みを,具体的かつ正確に理解させ,
    ③ 取引開始後顧客が直面するであろう問題の典型的なケースについて,
処理の基本(例えば,追証がかかった時に,いったん手仕舞いを行うべきこと)を
習得させ,
    ④ 具体的な取引商品についての基礎知識を習得させ,
    ⑤ 相場に関する情報の入手獲得方法を,具体的に教示し,理解させる 
ことが必要である。
 しかるに,亡Eは,被告との間で先物取引委託契約を締結するに際し,
先物取引の基本的な仕組みである差金決済制度,証拠金制度などの説明すら受けて
おらず,先物取引が預託金を短期間の間にすべて失う危険のある投機行為であるこ
との認識すら欠いていた(亡Eは,先物取引について,世にいう株の取引と同様の
もの,すなわち元手で株を買い,その値段が上下すればその差額で儲かったり損し
たりするものであろうという程度の認識しかなかった。しかし,先物取引は,本証
拠金として預けてある金員の10倍以上の大きさの取引をするものであり,投機性
の格段に大きな取引である。)。
   エ 適合性の原則(配慮義務)違反
    (ア) 適合性の原則(配慮義務)について
 商品取引員は,一般委託者を商品先物市場に参入させる唯一の窓口で
あるから,先物市場における公正な価格形成を確保するべく特別な責務を負ってい
る。また,商品取引員は,高度の専門性と危険性を有する投機行為である先物取引
に一般委託者を参入させる唯一の窓口であるから,広く顧客となり得る層全般に対
して,誠実・公正原則に基づく特別の注意義務(配慮義務)を負っている。適合性
の原則は,これらから導き出される実質的な原則である。
 すなわち,商品先物取引は,高度の専門性と危険性を有する投機行為
であるから,そこに参入する者には,一定の専門的知識と財産的基礎と,何よりも
積極的な投機意思が必要となる。しかるに,商品先物取引に参加し得る一般大衆の
要件は法定されていない。そこに法によって期待された商品取引員の責務がある。
つまり,商品取引員は,まず,①顧客の取引参加意思,資金力・判断力,過去の取
引経験など商品先物取引市場に参加するについての適格性の存否・程度に関する状
況を熟知しなければならない(顧客熟知義務)。その上で,②取引参加の意思,資
金力・判断力,過去の取引経験などから見て,商品先物市場における参加に適さな
いと判断される者を勧誘してはならない(不適格者勧誘の禁止)。さらには,③委
託者の取引意思,取引経験,資金力・判断力などの先物取引の適格性の程度に応じ
て,委託取引数量を制限するなどの適切な措置を講じなければならない。
(イ) 不適格者への勧誘を断念するべき義務の違反
 亡Eの投資経験は前叙のとおりであり,しかも亡Eが先物取引を行お
うとする場合,その元手は,老後の生活資金となるべき退職金その他の給与を源泉
とする預金しかなかったのであるから,資金面からみても先物取引に参入する適格
性を欠いている者である。また,亡Eは,公金出納取扱者であったから,この面か
ら見ても先物取引に参加させることが許されない者であった。商品取引員の負って
いる前記のような義務からして,亡Eを先物取引に勧誘したこと自体が違法であ
る。
    (ウ) 取引量を制限するなどの適切な措置をとるべき義務の違反
 仮に勧誘すること自体は許されるとしても,亡Eは,先物取引の適格
性に疑問のある顧客であったから,委託取引数量を制限するなどの措置を採る必要
があった。しかるに,本件において,取引の量・内容ともに過当な取引が行われて
いたことは前叙のとおりであるから,被告に受託者の適格性の程度に応じて,受託
取引数量を制限するなどの適切な措置を講ずべき義務に対する違反が認められるこ
とは明らかである。
  (2) 被告の主張
   ア 総説――自己責任原則との関係
 先物取引をはじめとする投機的取引には,自己責任原則が妥当する。す
なわち,投機的取引によって生じた損失は,本来,投機家自身に帰属すべきもので
あり,相場下落等による損失を他に転嫁することは許されないのが原則である。そ
して,亡Eは,先物取引の仕組み,投機性等を説明された上で,本件取引に参加
し,被告の外務員の勧めに応じる形での受動的なものであったにせよ,自らの意思
に基づいて個々の取引を委託し,売買報告書及び残高照合通知書,入出金振替通知
書の送付を受けて,その内容について何ら異議を述べなかったのであるから,本件
取引が亡Eの意思に基づかない取引であったとはいえない。本件取引は,亡Eの意
思に基づいて執行されたものであるから,これによって発生した損失は,亡Eの自
己責任に帰せしめられるべきものである。
   イ 客殺しの主張に対する応答
    (ア) 顧客操縦の事実を否認
 亡Eは,元教員であって先物取引の危険性を理解する能力を有してい
た上,取引開始に当たり先物取引の仕組み,投機性等を説明されていた。そして,
被告の外務員の勧めに応じる形での受動的なものであったにせよ,自らの意思に基
づいて個々の取引を委託し,売買報告書及び残高照合通知書,入出金振替通知書の
送付を受けて,その内容について何ら異議を述べなかったのであるから,本件取引
が亡Eの意思に基づかないものということはできない。すなわち,本件取引を亡E
の意思と無関係に行われた顧客操縦の結果であると見ることはできない。
 このような次第であるから,本件取引が実質上の一任売買の形態で行
われていたとの主張は,否認ないし争う。
    (イ) 「数値論」の不合理性
 原告らは,本件の取引における売買回転率,特定売買比率,手数料化
率,取引の絶対量が過大であるから,本件取引が無意味な反復売買であったと推認
できると主張するが,本件取引の個別具体的な事情を捨象して,これらの数値のみ
から無意味な反復売買が行われたと結論づけることは無理である。
 これを敷衍して説明するに,原告らは,取引の絶対量,売買回転率を
問題にしているが,売買取引を行うか否かは委託者の決することであり,委託者の
意思に基づいて本件取引が行われている以上,取引が終わってから,取引の回数が
多いの少ないのというのは禁反言の法理に反する主張である。そもそも,先物取引
は相場変動に従って行ってゆくものであって予め正しい売買回転率,取引の絶対量
など設定することはできない。
 また,手数料化率を問題にしている点について述べると,差引損益金
(帳尻損益金)は偶然の結果であるから,これに対する委託手数料の割合を問題に
しても意味のないことは明らかである。そもそも,亡Eは賦課される手数料額を知
った上で取引を継続していたものであるから,取引が終了した時点で手数料の大小
を問題にするのは信義に反する主張である。
 さらに,特定売買の比率を問題にしている点について述べると,次項
に述べるとおり,特定売買自体は,相場の状況如何によっては一定の合理性を有す
るものであるところ,先物取引は相場変動に従って行ってゆくものであるから,取
引の状況や相場の値動きなど取引の個別具体的な事情を捨象して,その適否を論ず
ることのできないものである。このような取引の出現率を問題にしてみても,それ
だけでは取引全体が無意味なものであったか否かを判定することはできない。そも
そも,先物取引は相場変動に従って行ってゆくものであって,予め一定の取引(特
定売買)はいけないと規制していたのでは機敏な投機活動はできない。
 ちなみに,原告らのいうチェックシステム自体は,売買回転率などに
ついて基準値を定めているわけではない。売買取引という経済活動を予め一定の数
値で拘束することが極めて不合理であると判断して,結局,原告ら主張のようなチ
ェック方式を採用しなかったのである。したがって,売買回転率などの基準値とし
て原告らが主張する数値は,いずれも根拠のない数値である。
    (ウ) 問題にされている個々の取引自体は,当然に顧客に損失を被らせる
類のものではない。
     a 直し売買
 直し売買は,①値下がりを見越して買建玉を仕切ったところ,さら
に値上がりが見込まれそうな値動きをしているので,あえて同じ値段で再度買建玉
をするときのように,相場の動向を読み間違えたことに起因する場合,②既存建玉
に対する相場が好況であるときに,これをいったん仕切って得た益金を従来の証拠
金に合わせてより多い建玉をすることで,既存建玉を維持するより大きな利益を得
る可能性がある場合,③既存建玉よりも限月が長く有利な商品に乗り換えることが
できる場合などに行われることがある取引手法であり,かかる場合における直し売
買はそれなりに合理性を有するものであるから,直し売買の存在をもって直ちに手
数料稼ぎと推認することはできない。
     b 途転
 相場が突然値上がり又は値下がりに転じることは十分にあり得るこ
とであって,途転がかかる相場予測のもとに行われる場合には,あながち合理性を
欠くものではないから,途転の存在をもって直ちに手数料稼ぎと推認することはで
きない。
     c 日計商い
 建玉をしたその日のうちに,相場が大きく動くことも十分にあり得
ることであって,かかる場合にこの建玉を仕切ることも,あながち合理性を欠くも
のではないから,日計商いの存在をもって直ちに手数料稼ぎと推認することはでき
ない。
     d 両建
 両建は,既存建玉に値洗い損が生じている場合において,①当該建
玉を仕切るか,相場の好転を期待して建玉をそのまま維持するかどうかの判断に迷
うときに,損害を固定しておいてしばらく相場の動向を見守ったり,②損失の発生
を後日に繰延べたりするために行われることがある取引方法であり,かかる目的で
行われる両建はそれなりに合理性を有するものであるから,両建の存在をもって直
ちに手数料稼ぎと推認することはできない。
     e 手数料不抜け売買
 買い玉を持つ投機家がある相場情報に接して先行相場が下がると判
断すれば,この建玉を手仕舞いするのは当然のことである。手数料不抜け売買の存
在をもって直ちに手数料稼ぎと推認することはできない。そして,いかなる意図を
もって手数料不抜け売買を行ったのかは,その時点における投機家の相場判断にか
かわることなので,商品取引員のあずかり知らない問題である。
     f 利乗せ満玉
 「利乗せ」は,少額の資金で大きな利益を得ようとする商品取引の
本質に由来する取引手法で合理的なものである。そして,確定損益金の委託証拠金
への振替,あるいは委託証拠金の確定損益金への振替は,その都度,亡Eの同意の
もとに行われており,かつ書面でも通知している。そもそも,委託者の全資金のう
ち,どの程度までを投機に用いることが適当かは委託者本人が決めることである。
確定損益金を証拠金に振り替えて取引を継続するか否か,商品取引員に預託した証
拠金の限度いっぱいまで建玉するか否かは,投機家本人が決めるべき問題であっ
て,商品取引員の容喙するべき問題ではない。投機家の意思に基づいて,利乗せ満
玉の取引が行われている以上,このような取引の存在をもって直ちに手数料稼ぎと
推認することはできない。
     g 顧客総体に対する向かい玉
 顧客総体に対する向かい玉を建てても,委託玉に損を被らせること
ができなければ,自己玉に利益を出すことはできない。しかるに,確実な相場予測
も確実な相場操縦もできないのであるから,顧客総体に対する向かい玉を建てれば
「客殺し」を行うことができるという論理は誤っている。
 そして,商品取引員が顧客総体に対する向かい玉を行う理由は,商
品取引員の倒産防止にある。すなわち,顧客総体に対する向かい玉を行い,商品取
引所との間に両建を維持しておけば,市場取引(相場)により損益が生ずることを
回避でき,商品取引所に対する関係で,値洗い損の清算をしなくてすむ。したがっ
て,相場変動に起因する損失により,商品取引員が倒産する事態を防止できるので
ある。
 このように,顧客総体に対する向かい玉は,顧客に損失を被らせる
ものではないから,これが行われているからといって,当該商品取引員に「客殺
し」の体質があるなどということはできない。
(エ) 本件の取引経過は,次のようなものである。すなわち,亡Eは,取
引の当初,少数枚で慎重に取引していたところ,ゴム取引で利益が出たため,取引
に積極的になり,平成7年2月には大きな利益を出すに至った。同年3月に綿糸4
0及び銀の取引で2200万円もの損を出して,先物取引の投機性を十分に実感し
たはずであり,またその後も取引を終了しようと考えれば投機益を残して取引を終
了し得る状況が続いたのに取引を続け,同月中旬にも合計1220万円もの金を入
金した。亡Eは,先物取引の危険性を十分に認識しながら積極的に取引を続けたの
である。しかし,同年5月に建てた白金で4100万円もの大きな損を出した結
果,それまでの利益を食われて投機損に陥った。結局,亡Eの本件損害は,白金の
損にそれまでの利益を食われた単純な投機損であるといえるから,亡Eの自己責任
に帰するというべきである。
   ウ 説明義務違反の主張に対する応答
 平成6年11月16日,被告の外務員(F)が,亡Eの勤務先に電話を
かけて先物取引を勧誘した。そして,面会を申し込んだところ承諾の返事をもらっ
たので,翌17日,亡Eを訪問して先物取引の説明をした。その説明の内容は,
     ① 取引方法について
     ・ 買いから入って売りで終わる方法と売りから入って買いで終わる
方法とがあること
     ・ 損益計算方法(値段差×倍率×取引枚数)
     ・ 取引には証拠金を要し,その半分を超える損金が発生した場合に
は増担保が必要なこと(追証)
     ・ 増担保を入れなければ取引が終了すること
     ② 商品について
     ・ 白金について証拠金,倍率,相場変動要因,当時の値動き
といったものであった。しかし,17日当日は,亡Eは取引するともしな
いとも言わなかった。そこで,その翌18日の午前中,被告の外務員(F)が亡E
に電話して,取引はどうですか,100万円位ならどうですかと勧めたところ,亡
Eが100万円位なら始めてみようかと言ったので,外務員が再度訪問したいと言
ったところ,亡Eの承諾が出た。そこで,18日の午後4時頃,亡Eを訪問し,再
び,先物取引の方法・危険性について,商品取引ガイドを開いて頁を示しながら,
損金が発生した場合の対処方法等を説明し,あわせて,白金について,相場要因,
当時の値動き,証拠金,追証幅,手数料,値幅制限,限月等を説明した。そして,
亡Eは,この説明を受けて取引をする旨の意思表示をし,委託契約を締結した。外
務員は,商品取引ガイド,損金対処説明図を交付してよく読んでおくように念押し
して帰った。実際の取引は,熟慮期間をおいて11月21日から開始された。その
後も新たな種類の商品取引を開始するときは,その都度,当該商品の手数料等につ
いて説明している。
 以上の次第であるから,被告に説明義務違反があったとの主張は,否認
ないし争う。
   エ 配慮義務違反の主張に対する応答
    (ア) 先物取引に必要な知識・経験について
 先物取引の仕組み,対象商品の相場要因を知るのに,特別な知識は必
要ない。一般常識の範囲を出ないものであるから,元教員であった亡Eに,先物取
引に必要な知識・経験がなかったということはできない。亡Eを先物取引に勧誘し
たこと自体が違法である旨をいう原告らの主張は理由がない。
    (イ) 取引数量を制限することの不合理性
 原告らは,商品取引員には,受託取引数量を制限する義務があると主
張する。しかし,売買取引を行うか否かは委託者の決することであるし,そもそ
も,先物取引は相場変動に従って行ってゆくものであって予め適正な取引量を設定
することはできない。したがって,原告らの主張は,失当である。
第3 当裁判所の判断
1 不法行為の成否
(1) 問題点
ア 前示のとおり,亡Eは,本件取引期間中の各建玉をするについては,G
から事前に連絡をもらって一応了解していたが,先物取引の知識経験に乏しく,相
場の動きなどについて独自の情報源を持っていなかったこともあって,Gの意見
(相場観)を排して独自の判断に基づいて建玉を行うことはなかった。Gは,顧客
である亡Eの了解を取り付けていたとはいうものの,その実質は「了解」というに
値しないもので,顧客(亡E)を意のままに操縦していたというのが正確である。
イ 原告らは,上記のような取引状況を前提に,本件取引において構造的な
詐欺行為(いわゆる客殺し)が行われていたと主張している。ここにいわゆる「客
殺し」とは,商品取引員が,顧客から委託証拠金などの名目で預託された金員を自
己の手元に置いて費消することを意図して,顧客を意のままに操縦して,売り又は
買いを建て,これを仕切ることによって,売買差損金,委託手数料などの名目で顧
客に損失を発生させ,手仕舞い時に顧客に返還すべき金員(帳尻益金)がないかの
ように取り繕うものである。原告らは,本件取引に現れた様々の状況を総合すれ
ば,本件取引において「客殺し」が行われていたと推認できるというのである。し
かし,仮に顧客の操縦が可能であるとしても,本件取引は予想困難な「相場」を対
象とするものであるから,いうところの「客殺し」の手法を用いれば,相場の動き
を利用して意図的に顧客に損失(売買差損金)を発生させることができるというの
でなければ,原告らの立論は根底から覆ることになる(相場の動きを利用して意図
的に顧客に損失を発生させることなどおよそ不可能ということになれば,本件で発
生した帳尻損金は,予想困難な相場を読み誤ったことによって偶然に発生したもの
であるとの評価を免れず,いわゆる「客殺し」は,「幻の問題」であったというこ
とになる。)。そこで,そもそも「客殺し」は可能なのかどうかを検討しなければ
ならない。
(2) そもそも「客殺し」は可能か。
ア 向かい玉について
 向かい玉は,商品取引員が顧客の委託玉に対当させて顧客と反対の売り
買いの玉(自己玉)を建てることをいうところ,それ自体は,顧客の委託玉に損失
をもたらすものでないことはいうまでもない。しかし,商品取引員が特定の商品に
ついての自己玉を,委託玉の売り・買いのうち枚数の少ない方にその差を埋めるよ
うに建玉し(差玉向かい),毎日の売買取組高を自己玉・委託玉合計でほぼ同数に
する取引を行えば,その商品の相場がどう動こうと差損は生じないことになる。し
たがって,向かい玉が,被告の主張する如く,相場変動に起因する損失により商品
取引員が倒産する事態を防止する機能を有していることは否定できないが,他方
で,商品取引所に対する関係で,商品取引員が顧客から徴収した委託証拠金を放出
することを回避する機能を果たし得ることも否定できない。後者の面に着目したと
き,商品取引員が顧客から預託された委託証拠金を自己の内部に留保する手段とし
て,向かい玉を利用し得ること自体は,これを否定することができない。
 なお,商品取引員が日々の売買取組高をほぼ同数にするように向かい玉
を建てていると,相場がどう動こうと相場で損をすることもない代わりに相場で利
益を得ることもない。したがって,顧客に相場で儲けてもらい商品取引所からその
売買差益を受け取り,その内から委託手数料を受け取るということはできない。す
なわち,当該商品取引員は,収入を外部から得ることはできず,顧客から委託証拠
金名下に預託された金銭等のみを収入として,そこから従業員の報酬などの諸経費
を払わなければならない。このような状態で,仮にある顧客に利益が生じた場合,
市場から益金相当額が入金になるわけではないから,この益金の払い戻しも上記の
顧客から預託された金銭をもって賄わざるを得ないことになる。かかる仕組みのも
とでは,商品取引員において,顧客にできるだけ利益が上がらないように仕向け,
さらに進んで顧客に損が生じるように導き,委託証拠金名下に預託された金員の返
還をしないですまそう,との発想に至ることは当然ともいえる。かかる意味で,商
品取引員が顧客総体に対する向かい玉(差玉向かい)をしている事実は,「客殺
し」が可能であると仮定した場合に,当該商品取引員に「客殺し」の体質があるこ
とを推認させる事実といってよい。
イ 利乗せ満玉について
 利乗せ満玉とは,取引によって発生した確定益金を計算上委託証拠金に
振り替え,その増加した委託証拠金で建玉可能な限度いっぱいの取引を継続するこ
とをいうところ,その結果としての顧客の損益は相場の動向によって決せられるの
であるから,これ自体は顧客に損失を被らせるものではないと見られなくもない。
しかし,取引によって発生した確定益金を顧客に払い戻さないで委託証拠金に振り
替えながら利乗せ満玉を繰り返していくと,取引の規模が急速に拡大されていくた
め,それまでの取引で相当程度の利益を得ていたとしても,ひとたび相場で損を出
せば,一挙に莫大な額の確定損金が発生し,それまでの利益を失う結果となる。相
場の予想は困難で,すべての取引において例外なく利益を上げ続けることが困難で
ある以上,利乗せ満玉を継続しておれば,いずれ確実に顧客に損失を生じさせるこ
とができる(顧客に利益が出ても益金を払い戻さずに新たに委託証拠金として預託
させ,最終的に顧客の損失が決定的となるまで取引を継続させるならば,顧客を確
実に損失に導くことができる。)。かかる意味で,利乗せ満玉は,商品取引員にお
いて顧客を操縦することができるならば,「客殺し」の基本的な手段となり得ると
いわなければならない。
 なお,利乗せ満玉は,本来顧客に払い戻さなければならない確定益金の
払い戻しを回避できる上,新規の建玉(取引の拡大)により委託手数料を増大させ
ることができるので,かかる観点からも,「客殺し」の基本的な手段と位置づけ得
る。
ウ 無意味な反復売買について
 無意味な反復売買は,商品取引員が委託手数料の取得を目的として,顧
客に不必要な取引を頻繁に行わせることをいうが,委託手数料が増大すれば,顧客
に生じた利益(確定益金)を委託手数料で吸収することが可能になるから,これも
「客殺し」の基本的な手段となり得るといわなければならない。
エ 小括
 以上要するに,「客殺し」を構成するとされる各取引手法は,その一つ
一つがすべて独自で,顧客を確実に損失に導くわけではないにしても,商品取引員
が顧客に損失を生じさせようという意図のもとに,これらを組み合わせて用いるこ
とによって,相当の確実さをもって顧客に損失を生じさせ得るものであることが明
らかである。前叙の問題点に則していえば,相場の予想は困難であり,相場の変動
を利用して直ちに顧客に損失を被らせることが困難であるとしても,向かい玉によ
って顧客から預託された委託証拠金を手元に留保した商品取引員が,この委託証拠
金の返還を免れる意図のもとに,「客殺し」を構成するとされる各取引手法(利乗
せ満玉,無意味な反復売買)を組み合わせて用いれば,手仕舞い時に,計算上の損
失に藉口して顧客に返還すべき金員がないかのように取り繕うこと(客殺し)は十
分に可能といわなければならない。
(3) いわゆる「客殺し」が行われたと認められるか。
ア 向かい玉について
(ア) 証拠(甲B24ないし30)及び弁論の全趣旨によれば,東京工業
品取引所における,被告のゴム取引の売買取組高は,別表「取引高表(東工ゴム)
(95年5月限月ないし同9月限月及び同11月限月並びに全体総合)」のとおり
と認められる。
(イ) これによれば,東京工業品取引所における被告のゴム取引につい
て,各立会日における売買差玉の取引高全体に占める割合が1パーセント以内の取
引すなわち売り買いがほぼ同数の取引が41パーセント,5パーセント以内の取引
すなわち売り買い数が著しく近似している取引が36パーセント,10パーセント
以内の取引すなわち売り買い数が近似している取引が12パーセントである。ラン
ダムに取引しているはずの被告の顧客の委託玉が,自然に任せて売り買い同数にな
ることやその状況が続くことは考えられないものであるから,上記の状況から,被
告において,恒常的に委託玉に対当させて自己玉(向かい玉)を建てて,毎日の取
組高が売り買いほぼ同数になるように調整していたと推認することができる。
(ウ) 被告が恒常的に向かい玉を建てている事実は,被告にいわゆる「客
殺し」の体質があることを推認させる事情であることは否定できない。
イ 取引経過の分析
(ア) 平成7年3月8日までの取引経過
 別表「建玉分析表(全商品,東工ゴム,東工白金,東工銀及び東工綿
糸40)」,同「返還可能金額の推移一覧表」及び同「帳尻勘定・投機損益分析
表」によれば,
① 本件取引が開始された平成6年11月21日以降,平成7年3月8
日まで,取引によって確定益金が発生する度に,その益金を顧客(亡E)に払い戻
さずに,計算上委託証拠金に振り替え,その増加した委託証拠金で建玉可能な限度
いっぱいの建玉を新たに建てて取引を急速に拡大していったこと(利乗せ満玉。な
お,取引開始後1か月目の平成6年12月20日までは,建玉が白金の20枚だけ
であったものが,2か月目の平成7年1月20日の取引終了時点で90枚の建玉
が,3か月目の同年2月20日の取引終了時点で1050枚の建玉が,同年3月8
日の取引終了時点で2000枚の建玉が建てられ,特に,同年2月20日から同年
3月8日までの間は,最高で2670枚の建玉が建てられていた。),
② 同年3月1日から同月8日までの間に行われた銀の取引で,売買差
益を合計726万6000円上げたものの,委託手数料(取引所税・消費税を含ま
ない。)が合計1115万4000円であったため,差引423万4591円の損
失(取引所税・消費税を含む。)が確定したこと,
③ 同年3月2日から同月8日までの間に行われた綿糸40の取引で,
売買差損が合計1063万8000円,委託手数料(取引所税・消費税を含まな
い。)が合計732万7200円であったため,差引1819万8321円の損失
(取引所税・消費税を含む。)が確定したこと,
④ ゴムの相場は,同年3月3日をピークにして値下がり傾向を見せ始
めたため(乙B15),同年3月8日の取引終了時点で,同年3月2日に建てた買
建玉1000枚(取引番号61番・62番)が7700万円ほどの損(値洗い損)
を出しながら仕切れずに残っていたところ,同日に売建玉を1000枚に増やして
完全両建の状態にした結果,ゴムの取引で約7700万円の相場損(値洗い損)が
固定され(以後,全量建玉を仕切る平成7年7月18日まで常時,完全両建の状態
が維持されている。ただし,異限月の両建が含まれているため,値洗い損が若干好
転することもあった。),さらにこれらの建玉を仕切る時点でいずれ1324万円
の手数料損(1枚当たり片道3310円として計算し,取引所税・消費税は考慮し
ていない。)が発生することが確定したこと,
⑤ 上記の②ないし④の取引(3月1日から同月8日までの間に行われ
た銀・綿糸40・ゴムの取引)の結果,3月8日の取引開始段階で得ていた確定益
累計1億2457万0144円をあらかた失い,約700万円の利益を残すのみと
なったこと(すなわち,3月8日の取引で,銀・綿糸40で合計1459万800
0円の相場損,合計1238万5692円の手数料損〔取引所税・消費税を含
む。〕が現実化し,ゴムで約7700万円の相場損が固定され,合計1324万円
の手数料損〔取引所税・消費税は考慮していない。〕の発生が確定した。なお,平
成7年3月9日以降に新規の建玉がなければ,最終的にこの約700万円が亡Eの
投機益となるはずであった〔別表「帳尻勘定・投機損益分析表」の平成7年3月8
日の「投機損益」欄及び別紙「説明図」を参照〕),
⑥ この間の特定売買の湧出状況は,別表「特定売買認定表(全商
品)」のとおりであること(なお,「日計」というには,新規の建玉が同じ日のう
ちに仕切られていることが必要であるところ,取引番号17番の取引〔2月8日約
定の東工ゴムの仕切取引〕は,2日前に建てられた玉の仕切取引であるから,これ
が「日計」に当たるとは認められない。また,「直し」ないし「途転」に当たるか
を見るについて,同日中に数度にわたる新規取引があるときは,取引の早い順か
ら,対応する仕切取引の枚数を超えることとなるまで,「直し」ないし「途転」と
して取り扱うこととするのが相当であるから,取引番号23番の取引〔2月13日
約定の東工ゴムの新規取引〕,同34番の取引〔2月20日約定の東工ゴムの新規
取引〕及び同60番の取引〔3月2日約定の東工銀の新規取引〕は,「直し」とは
認めがたく,取引番号27番の取引〔2月15日約定の東工ゴムの新規取引〕は,
「途転」とは認めがたい。),
以上の事実が認められる。
(イ) 平成7年3月8日以降の取引経過
 別表「建玉分析表(全商品,東工ゴム,東工白金,東工銀及び東工綿
糸40)」,同「返還可能金額の推移一覧表」及び同「帳尻勘定・投機損益分析
表」によれば,
① 前記の平成7年3月1日から同月8日までの間に行われた銀・綿糸
40の取引による損失の結果,同月8日に確定損益金勘定残高が2570万854
8円の大幅な赤字を計上し,この穴を埋めるため,同月10日に,証拠金勘定(そ
れも,2323万5000円の必要証拠金不足〔薄敷〕が生じていた証拠金勘定)
から,この赤字を埋めるだけの資金を取り崩して,この赤字を補てんし,その結
果,この時点で証拠金勘定が,4894万3848円の大幅な証拠金不足(薄敷)
となり,さらに,前示のとおり,ゴムの取引で約7700万円の相場損(値洗い
損)が固定されたことの関係で,平成7年3月8日以降,常時,5250万円から
1億3091万2500円の追証がかかった状態で推移することになり,亡Eは,
追証を請求されて,同年3月14日に400万円,同月23日に820万円,同年
5月1日に500万円,同月10日に300万円,同年6月6日に270万円,同
月22日に30万円,同年7月6日に30万円の現金を入金したが,全量建玉を仕
切る同年7月18日まで,証拠金不足が解消されることはなかったこと,
② 平成7年3月8日以降,ゴムの取引では,利益の乗った売建玉のみ
を時に仕切りつつ,直ちに同数の売直しが行われ(直し取引),結局,全量建玉を
仕切る同年7月18日まで,常時,完全両建の状態が維持されていること(因果玉
の放置,常時両建。ちなみに,同月9日以降に新規に建玉されたゴムの枚数は,全
部で3355枚であるところ,これらを仕切った時点で2221万0100円の手
数料損〔1枚当たり片道3310円として計算し,取引所税・消費税は考慮してい
ない。〕が発生する計算になる。),
③ また,平成7年5月30日に建てた,白金の売建玉1000枚は,
その後相場が上昇傾向にあったので,損を拡大しながら仕切れないまま,全量手仕
舞いをした同年7月18日を迎え,結局,4100万円の売買差損を出したこと
(ただし,この間,50枚から170枚の範囲で買建玉をしており〔両建〕,この
買建玉で580万5000円の売買差益を得,委託手数料〔消費税・取引所税は考
慮していない。〕が合計795万6000円発生したため,差引4340万358
6円の損失〔消費税・取引所税を含む。〕となった。),
④ 上記②及び③の取引の結果,白金の売買差損金とゴム・白金の委託
手数料が,平成7年3月8日の時点で予定された約700万円の投機益(ただし,
異限月の両建が含まれているため,両建中の値洗い損に若干の動きがあるため,こ
の700万円は厳密な数字ではない。)を吸収し,さらには,同年7月18日まで
に入金した現金累計3447万円をも吸収して,あまつさえ,2000万円を越え
る帳尻損金を発生させることになった(帳尻勘定が2000万円強のマイナスにな
った)こと〔別表「帳尻勘定・投機損益分析表」の平成7年7月18日の「帳尻勘
定」欄及び別紙「説明図」を参照〕),
⑤ 被告(G)は,全建玉を手仕舞いした後,帳尻損金の充当名下に,
平成7年8月16日に10万4479円,同年10月20日に10万円の合計20
万4479円を亡Eに支払わせたこと,
⑥ この間の特定売買の湧出状況は,別表「特定売買認定表(全商
品)」のとおりであること(なお,既に説示したのと同様の理由により,取引番号
116ないし118番の取引〔5月30日約定の東工ゴムの仕切取引〕及び取引番
号131番の取引〔6月27日の東工ゴムの仕切取引〕は,「日計」に当たるとは
認められず,取引番号106番の取引〔5月22日約定の東工ゴムの新規取引〕及
び取引番号110番の取引〔5月23日約定の東工ゴムの新規取引〕は,「直し」
とは認めがたい。)
以上の事実が認められる。
(ウ) 小括
 以上のような本件取引の経過を通覧すれば,被告従業員ら(F及び
G)は,平成7年3月8日まで無意味な反復売買を繰り返して手数料損を増大させ
つつ,利乗せ満玉を繰り返して,相場で大きな損が出るのを待ち,3月8日に顧客
に決定的な損が出た時点で,損を出している建玉の一部を仕切って,損を現実化さ
せる一方で,ほかの損を出している建玉について完全両建をはめて相場損(値洗い
損)を固定し,さらに,3月9日以降,無意味な反復売買によって手数料を稼ぎな
がら,亡Eに出ている投機益の吸収を図っていたと推認することができる。
ウ まとめ
(ア) 以上の事実によれば,被告従業員ら(F及びG)は,本件取引の当
初から,亡Eから預託を受けた金銭の返還を免れることを志向しつつ様々な工夫を
こらしていたもの(客殺し)と推認される。
(イ) なお,亡Eが被告従業員(G)を信頼して,その推奨ないし助言に
従って取引の注文を出していたことは既に説示したとおりである。実質的に見れ
ば,被告従業員(G)は,亡Eの資産の管理を任されていたといえるから,亡Eの
資産を適切に運用すべき信義則上の注意義務(配慮義務・信認義務)を負っていた
ものと解するのが相当である。しかるとき,前示の本件取引の経過にかんがみれ
ば,Gに上記義務(配慮義務・信認義務)に対する違反が認められることは明らか
である。
(ウ) したがって,本件取引を主導した被告従業員らの行為は,一体とし
て亡Eに対する不法行為を構成するものと解される。そして,被告従業員らの行為
が被告の事業の執行につきなされたものであることは明らかであるから,被告は,
その使用者として亡Eの被った損害を賠償する義務があるというべきである。
2 損害の有無,数額
(1) 亡Eの出捐した現金
 亡Eが被告に交付した現金合計3467万4479円については,その全
額を損害と認める。
(2) 慰謝料
 前記認定事実,本件取引の開始や損害の拡大については亡Eにも慎重さを
欠く点があったと考えられること及び過失相殺を行わないことからすれば,本件に
おいては,慰謝料の請求を認容するまでの事情は認められない。
(3) 弁護士費用
 本件事案の内容,損害認定額など諸般の事情を考慮すると,本件不法行為
と相当因果関係のある弁護士費用分の損害は,350万円と認めるのが相当であ
る。
(4) まとめ
 以上により,亡Eは,被告に対して金3817万4479円の不法行為に
基づく損害賠償請求権を有していたことになる。そして,原告らは,亡Eの遺族で
あるところ,各自法定相続分に従って,亡Eの被告に対する損害賠償請求権を相続
した。したがって,被告は,原告Aに対して金1908万7239円(円未満切捨
て),同B,同C及び同Dに対して各金636万2413円(円未満切捨て)並び
にこれらの各金員に対する本件不法行為後の日である平成7年10月20日(最終
出捐日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うべき
である。
3 結論
 よって,原告らの請求は,主文掲記の限度で理由があるから,その限度でこ
れを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について
民事訴訟法61条,64条ただし書を,仮執行宣言について同法259条1項を,
それぞれ適用して,主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所姫路支部
裁判長裁判官    島 田 清次郎
   裁判官    正 木 きよみ
   裁判官    柴 田   誠

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