弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金二千円に処する。
     右罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間
被告人を労役場に留置する。
     但し、本裁判確定の日から一年周右刑の執行を猶予する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、末尾に添えた横浜地方検察庁横須賀支部検察官検事大津広吉
名義の控訴趣意書と題する書面記載のとおりであり、これに対する答弁は、弁護人
堀内左馬太名義の答弁書と題する書面記載のとおりであつて、これに対し、当裁判
所は、検事の請求により、昭和三十五年六月十四日付被告人に対する法務省入国管
理局登録課作成の外国人登録調査書(外国入登録写票添付)、同日付被告人の夫A
に対する同省同局同課作成の外国人登録調査書(登録申請書及び外国人登録写票添
付)、昭和二十七年四月十九日付民事甲第四三八号各法務局長及び地方法務局長宛
民事局長通達写、昭和三十五年六月二十五日付前橋地方検察庁桐生支部検察事務官
の同支部長検事宛の報告書、同年七月四日付同支部検事から東京高等検察庁検事平
山長に宛てた「主要食糧配給並保有人口申告書等の認証書類送付について」と題す
る書面、同年六月二十九日付Bの検察事務官に対する供述調書、同年七月十四日付
横浜地方検察庁横須賀支部支部長検事大津広吉から東京高等検察庁検察官検事平山
長に宛てた「外国人登録法違反被告事件の参考判決の送付について」と題する書面
及び証人C、回A、同Dを取り調べ、弁護人の請求により、被告人が現に所持して
いる外国人登録証明書の写真及びAが現に所持している外国人登録証明書の写真を
取り調べた上、次のとおり判断する。
 本件起訴状によれば、本件公訴事実は、「被告人は、昭和二十六年六月八日朝鮮
人EことAと結婚し、同日より外国人となつたものであるから、右同日から三十日
以内に当時の住居地の市長桐生市長に対し、外国人登録の申請をしなければならな
いのに之を怠り、昭和三十二年二月九日迄不法に本邦に在留したものである。」と
いうのであり、その罪名並びに罰条は、「外国人登録法違反、同法第三条第一項、
第十八条第一項第一号」であることが明らかである。また、原判決によれば「被告
人が昭和六年三月二十日群馬県桐生市a町b丁目c番地に本籍を有する日本人Fを
父として出生した日本人であるが、昭和二十六年六月八日朝鮮慶尚北道清道郡de
番地に本籍を有する朝鮮人EことAと本邦(桐生市)において婚姻をし、その妻と
なり、その後今日に至るまで、本邦に在留しているものであることは、群馬県桐生
市長G作成の被告人に対する戸籍(除籍)抄本、証人EことA、H、Iに対する各
尋問調書、右Aの司法巡査に対する供述調書、証人Jの当公廷における供述、被告
人の当公廷における陳述及び司法巡査に対する供述調書並びに共通法第二条第二
項、第三条第一項、法例第十三条第一項、民法第七百三十九条等の規定によつて明
らかである。」という事実関係を認定し、被告人が昭和二十六年六月八日前記朝鮮
人EことAと婚姻をし、その妻となつたことから、はたして日本の国籍を失い、外
国人登録法第二条第二項所定の「外国人」となつたものであるかどうかの点につい
て検討することとするとし、三、朝鮮の独立、四、平和条約第二条(a)項の解釈
((1)解釈の方法(2)同条項の由来及び規定の精神、(3)戦争終結の結果領
土の一部独立の場合の国際法上の原則、(4)同項によつて日本国籍を喪失した者
の範囲、(5)朝鮮に定住しない《朝鮮人の妻、養子となつた》日本人の国籍、
(6)朝鮮に定住していた《朝鮮人の妻、養子でない》日本人の国籍)、五、韓国
の国籍及び日本の国籍の得喪、六、国籍の牴触、七、東京高等裁判所の見解(解
釈)を採らない理由の各項目の下に、極めて詳細に論じた上、結論として、被告人
は、「昭和二十七年四月二十八日右平和条約の発効と同時に、韓国の国籍を取得し
た者ではあるが、なお、日本の国籍を保有する者であるから、いまだ外国人登録法
所定の「外国人」とはいえない。」とし、本件公訴事実は犯罪の証明がないから、
刑事訴訟法第三百三十六条に則り、被告人に対して無罪の言渡をしなければならな
いとしていることが明らかである。
 そして、原判決が右のような結論に到達した筋道が所論採用のとおりであつて、
その骨子は、昭和二十六年九月八日成立し、昭和二十七年四月二十八日その効力を
生じた日本国と連合国との間の平和条約第二条(a)項により、わが日本の国籍を
喪失した者、即ち朝鮮の住民とは、「(一)原則として、古来朝鮮の地域に定住し
生存してきた同地域と特殊な地縁関係のある朝鮮民族に属する、その血統にある、
いわゆる「朝鮮人」を指すものでめる。そして、ここにいわゆる「朝鮮人」とは、
右朝鮮民族の血統にある朝鮮に本籍のある者をいい、朝鮮民族の血統にある者で
も、本来の日本人(狭義の日本八)の妻(または養子、入夫)となつた者は、『本
来の日本人』に準じた日本人であつて、これに包含されない。そして、右『朝鮮
人』は、同条約の右条項の規定の精神に従い、その右条約発効当時、朝鮮の地域に
定住していたと否とにかかわらず同条約の発効と同時に、わが日本の国籍を喪矢し
たものである。が、なお、(二)右原則に対する例外として、右平和条約発効当時
同地域に定住し、『朝鮮人』の妻(または養子)となつていた本来の日本人(狭義
の日本人)も、前記国際法上の原則に従い右『朝鮮人」に準じて、右朝鮮の『住
民』の中に包含され、同条約の発効と同時に、わが日本の国籍を喪失したものであ
る。すなわち、右平和条約の発効により、わが国法上、(一)原則として、朝鮮人
(広義の日本人)は日本の国籍を喪失し、本来の日本人(狭義の日本八)は国籍の
変更を釆さない。ただし、この原則に対する(二)例外として、(1)朝鮮人で
も、本来の日本人(狭義の日本人)の妻、養子、入夫となつた者は、国籍の変更を
来さず、また(2)本来の日本人でも、朝鮮人(広義の日本人)の妻、養子とな
り、右平和条約発効当時朝鮮の地域に定住していた者は、日本の国籍を喪夫したも
のであると解するのが相当と考えられるのである。」、「平和条約発効当時「朝鮮
人』の妻(または養子)となつていた本来の日本人(狭義の日本人)は、同条約発
効の当時、朝鮮の地域に定住していた者でなければ、右条約の発効によつて、日本
の国籍を喪失したものではない。」とし、この前提の下に、被告人とその夫Aの婚
姻関係及び被告人の国籍に関し、「韓国の戸籍吏に届出がないため、同国の国法上
婚姻の効力を生ぜず、被告人は、Aの事実上の妻であるに過ぎなかつたのである
が、夫(わが国法上夫)Aが右平和条約発効と同時に日本の国籍を喪失したため、
右平和条約発効と同時に、韓国人Aの妻となつて、韓国の右国籍法第三条の適用を
受け、当然韓国の国籍を取有するに至つたものであると解せられる。」、「被告人
は、前記日韓併合とは句らの関係もない本末の日木人を父として出生し、旧国籍法
第一条の規定により日本の国籍を取得した、朝鮮民族にあらざる、日本民族に属す
る本来の日本人であつて、被告人が右平和条約発効当時、朝鮮の地域に定住してい
た者でないことは、本件各証拠によつて明らかであるから、被告人は、右条約の発
効により日本の国籍を喪失したものではない。」「被告八は、一万において韓国の
国籍を有し、また他方においては日本国の国籍を有するものである。」と論結して
いることも、所論のとおり、原判決によつて明らかである。
 よつて、所論のように、原判決に法令の解釈適用の誤があるかについて検討すれ
ば次のとおりである。
 前記のとおり、本件公訴事実は、被告人が昭和二十六年六月八日朝鮮人男子Eこ
とAと婚姻し、同日から外国人となつたものであるところ、右の日から三十日以内
に当時の住居地の市長である桐生市長に対し、外国人登録の申請をしなければなら
ないのにこれを怠り、昭和三十二年二月九日まで不法に在留したものであるという
のであつて、その罪名及び罰条には、単に外国人登録法第三条第一項、第十八条第
一項第一号が掲げられているに過ぎないが、外国人登録法は、昭和二十七年四月二
十八日法律第百二十五号として、同法附則第一項によつて、日本国との平和条約の
最初の効力発生の日(昭和二十七年条約第五号日本国との平和条約は、昭和二十六
年九月八日締結せられ、昭和二十七年四月二十八日発効)たる昭和二十七年四月二
十八日から施行せられ(但し、同法第十四条及び第十八条第一項第八号の規定を除
く)、それまでは、同法附則第一項によつて廃止された昭和二十二年勅令第二百七
号外国人登録令がなお有効に存続しており、同法附則第三項によつて、同法施行前
にした行為に対する罰則の適用については、なお、従前の例によることとなつてい
るので、罰則の関係では、右外国人登録令(以下旧令と略称する)は、同法施行後
も、なお、有効に存続しているものといわなければならないから、右公訴事実のよ
うに、旧令と現行外国人登録法(以下単に現行法と略称する)との両者にまたがる
ような場合には、旧令の期間と現行法の期間とを区別し、各別にその法令の解釈適
用を論ずるのが相当であると考えられるのである。
 <要旨>先ず、旧令の期間、即ち、日本人女子たる被告人と朝鮮人男子たるEこと
Aが昭和二十六年六月八日婚姻してから右平和条約が発効した日である昭和
二十七年四月二十八日の前日たる同月二十七日までの期間における旧令の解釈適用
について考えてみることとする。
 右平和条約が発効するまでは、朝鮮人は、なお日本の国籍を有していたのである
が、旧令の関係では、その第十一条第一項において、「台湾人のうち外務大臣の定
めるもの及び朝鮮人は、この勅令の適用については、当分の間、これを外国人とみ
なす」と規定され、旧令第四条その他の規定に基き外国人登録申請の義務を課せら
れていたのである。
 そこで、日本人女子たる被告人が右のように朝鮮人男子と婚姻したことによつ
て、右旧令第十一条第一項により外国人とみなされる朝鮮人となり、旧令第四条第
一項の規定に基き外国人登録申請の義務が生したかどうかについて考察してみる
と、朝鮮人については、日本国が、明冶四十三年「韓国併合二関スル条約たよつて
朝鮮を併合して、これを統治するに至つた関係で朝鮮人も広義の日本人とはなつた
のではあるが、朝鮮に施行すべき法令は、いわゆる内地のものと同じものとはせ
ず、それぞれ、「朝鮮ニ施行スヘキ法令ニ関スル法律」(明冶四十四年法律第三十
号)に基き、各分野毎に内地のものに必要な変更を加える等の万法により、特別な
法令を施行し、朝鮮を内地とは別の法域とし、朝鮮人は、その婚姻に関しては、朝
鮮民事令(明治四十五年制令第七号)の適用を受け、その戸籍に関しては、朝鮮戸
籍令(大正十一年総督府令第百五十四号)によつて、内地の戸籍とは異なる朝鮮の
戸籍が編成されていたのであるから、朝鮮人の狭義の日本人との区別は、右適用法
令の区別により、朝鮮民事令の適用を受け、その身分関係につき朝鮮の戸籍に登載
せらるべき者(現実には届出の懈怠その他の事由により同戸籍に登載せらるべき者
であるのにその登載のない者もあり得るので、これらの者を含む意味である)であ
るか、日本民法の適用を受け、内地の戸籍に登載せられるべき者であるかという区
別によつて決せられるべきものであつて、日本人女子たる被告人と朝鮮人男子たる
Aの婚姻の要件に関しては、共通法(大正七年法律第三十九号)第二条第二項及び
法例第十三条第一項に基き、被告人については日本民法を適用し、Aについては朝
鮮民事令を適用し、その婚姻の方式は、右共通法第二条第二項、法例第十三条第一
項但書によつて婚姻挙行地の法令たる日本民法に従うべく、その戸籍上の取扱は、
被告人の分は、婚姻の届出により戸籍法に従い内地の戸籍の記載を抹消して除籍
し、被告人の夫たるAの朝鮮の戸籍に妻として入籍すべきものであり、Aの分は、
同人の戸籍に、被告人と婚姻した旨登載せらるべきものである(昭和二十三年一月
現行戸籍法の施行に伴い旧戸籍法《大正三年法律第二六号》上認められていた入籍
通知の制度が廃止されたばかりでなく、終戦後日本内地と朝鮮との間に、正常な通
信、交通が杜絶していたことは当裁判所に顕著な事実であるから、被告人とAの本
件婚姻について自由に朝鮮の戸籍に登載する手続を履践し得なかつたものと考えら
れるのであるが、現実に朝鮮の戸籍に登載されていなくても、被告人については、
後記判断のとおり、婚姻の届出により、被告人の内地の戸籍は除籍されているので
あるから、Aとの婚姻は有効に成立しているものと解せられ、その夫たるAの朝鮮
の戸籍に入籍してこれに登載せらるべき事由が生しているものと解し得るのであ
る。)から、被告人は、右婚姻により朝鮮人となつたものというべきであり、旧令
第十一条第一項によつて、外国人とみなされ、旧令第四条によつて、十四日以内に
所定の外国人登録の申請をすべき義務が生じたものといわなければならない。(前
記のとおり、公訴事実では、右婚姻により被告人が直ちに外国人となつたものとさ
れているが、右のように、朝鮮人となつたことによつて外国人とみなされるのであ
る。)そして、この登録申請義務は、のちに被告人が平和条約の発効によつて日本
の国籍を喪失したか否かによつて影響を受けることはないものといわなければなら
ない。即ち、被告人は、右婚姻によつて朝鮮人となつた昭和二十六年六月八日から
昭和二十七年四月二十七日までの間、即ち、旧令の有効に存続していた期間内にお
いて、右登録申請義務を懈怠したことになるのである。
 次に、現行法の期間、即ち、平和条約発効の日たる昭和二十七年四月二十八日か
ら昭和三十二年二月九日(この日は、本件記録中、被告人の外国人登録申請書写
《記録八丁》及び外国人登録証明書写真《当審における弁護人の答弁書添付のも
の》によれば、被告人が、当時の居住地の市長である神奈川県逗子市長に対し、外
国人登録申請をして受理された日である。)における現行法の解釈適用について検
討する。
 現行法は、前記のとおり、旧令を廃止し、その第二条第二項で、この法律におい
て「外国人」とは、一定の除外例にあたる者以外の日本の国籍を有しないものをい
うと定義しているが、被告人はこの除外例にあたる者でないことは記録上明らかで
ある。そこで、同法第三条に基き被告人が外国人登録申請義務を負うに至つたか否
かは、現行法の解釈において、平和条約によつて被告人が日本の国籍を失つて外国
人となつたか否かにかかつているのである。原判沢のいうように二重国籍を生じ、
日本の国籍を失つていなければ、現行法の外国人登録申請義務はないものと思われ
るのであるが、その理由を考えてみると、この点についても、戸籍法による戸籍に
密接な関連があるものと考えられるのである。即ち、外国人には戸籍法や住民登録
法の適用がなく、戸籍や住民登録によつて、その身分関係を明らかにすることがで
きないので、現行法第一条は、本法に在留する外国人の登録を実施することによつ
て外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もつて在留外国人の公正な管理
に資することを目的とするとしているものと考えられるし、戸籍法は、すべての日
本国民の身分関係は、戸籍簿に記載されることを立前とし、住民登録法は、すべて
の日本国民に住民登録をさせる立前となつており、これは日本国籍のほかに他の国
籍を有するいわゆる二重国籍人である揚台でもそうであると解せられ、二重国籍を
有する者には、戸籍や住民登録があれば、これによつて、身分関係及び居住関係を
明らかにすることができるので、更に外国人登録をさせるまでの必要がないと解せ
りれるからである。(戸籍法第二十三条は国籍の喪失を除籍の事由とし、第十四節
第百二条乃至第百五条に国籍の得喪についての届出等につき現定を設け、国籍と戸
籍との密接な関連を明らかにしている。)平和条約の発初によつて、朝鮮が独立す
ることとなつたため、朝鮮人の国籍がどうなつたかという問題をわが国内法の立場
において、解決するについては、同条約第二条(a)項に、日本国は、朝鮮の独立
を承認して、……朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄するとあるだ
けで、明文がなく、また、特別の条約などもないので、一般論として、この問題を
解決することは、極めて困難なものがある。本来、この種の国籍の問題は、日本国
と日本国が平和条約によつてその独立を承認した旧朝鮮即ち韓国との間の国際条約
によつて正式に決定さるべき問題で、その正式決定のあるまでは、わが国内法にお
いては、右平和条約の条項と国際法上の領土割譲その他の原因による国家の独立の
際におけるその独立した国家の国民となるべき者の範囲、即ち、新国籍の決定、こ
れと従前その地域が属していた国の国籍喪失の問題とに関する国際法上の慣例によ
つてこれを決するほかはない。けだし、わが国内法においてこの問題を一般的に解
決するための法令は現在存在しないのであつて、旧国籍法はもとより、新国籍法
も、朝鮮独立に関して生すべき国籍の喪失については規定していないものと考えら
れるからである。そこで、この問題について考えてみると、朝鮮は、前記平和条約
によつて、わが国が独立を承認したのであるから、国際法上の慣例に従つて、従前
の日韓併合の経緯に加うるに、日本が受諾したポツダム宣言及びこれに包含せられ
るカイロ宣言の趣旨を参酌し、韓国の国籍を取得し、日本国籍を喪失するに至るべ
き者は(朝鮮の独立のように、わが国がその領土を割譲し、その独立を承認する場
合には、二重国籍を認めるべきものではなく、新たに韓国の国籍を取得するか、日
本国籍を保有して、韓国の国籍を取得しないものとするかいずれかに解決すべきも
のと考えられるのである。)、所論援用の東京高等裁判所昭和三十四年八月八日の
二つの判例(同年(う)第一七七三号高等裁判所判例集第一二巻七号六九二頁及び
同年(う)第二三五〇号)の判示するように、朝鮮人として、日韓併合当時におい
て韓国籍を有していた者及び日韓併合なかりせば、当然韓国籍を得たであろう者の
すべてを包含するものと解するを相当とすべく、また、日韓併合なかりせば当然韓
国籍を得たであろう者のうちには、日韓併合後朝鮮の戸籍に登載された者及び朝鮮
の戸籍に登載せられるべき事由の生じた者を包含するものと解するのを相当とする
のである。右は一般論であつて、正式の条約により別異の定めをすることができる
ことはいうでもない。またわが国内法の特別の分野において、正式の条約が成立す
るに至るまで朝鮮人の国籍について特別の規定を置くことを妨げるものでもない。
前記外国人登録法の現行法については、同法の前記目的に従つて、朝鮮人の国籍に
ついて、一般論とは別に、現行法独自の解釈適用をすることができるのであり、現
行法の外国人は、一般論の原則を参考としつつも、同法に即した解釈適用をするこ
とができるのであり、むしろ、同法に即した解釈適用をするのが正当な解釈の態度
であると考えられるのである。現行法の外国人の範囲は、前記のとおり、外国人と
は原則としてわが国の国籍を有しない者であると定義しているに止まるのであり、
(除外例にあたる者も一般論としては外国人であるが、これを除外している点で特
別の規定であるといえないわけではない。)朝鮮人が外国人となるか否かについて
明文を置いていないのであるが、前記一般論としての朝鮮人の国籍に関する原則と
前記戸籍法、住民登録法の精神を参酌して規定したと認められる現行法の第一条の
目的に照らせば、現行法の外国人の範囲も、将来条約についてこの問題が解決され
るまでは、前記の一般論の場合と同様に、朝鮮人として、日韓併合当時において韓
国籍を有していた者及び日韓併合なかりせば、当然韓国籍を取得したであろう者の
すべてを包含するものと解すべく、日韓併合なかりせば当然韓国籍を取得したであ
ろう者のうちには、日韓併合後朝鮮の戸籍に登載された者及び朝鮮の戸籍に登載せ
らるべき事由の生じた者を包含するものと解すべく、これらの者は、現行法の外国
人となつたものと解するのを相当とする。被告人は、前記判断のとおり、朝鮮人男
子たるAと昭和二十六年六月八日有効な婚姻をしたことにより、前記日韓併合後朝
鮮の戸籍に登載せらるべき事由を生じた者であり、わが戸籍法上は、右婚姻を原因
として、わが国の戸籍から除籍されたものであるから、平和条約の発効によつて現
行法の外国人となつたものと解すべきである。従つて、被告人は、平和条約発効に
よつて外国人となつたものとして、現行法第三条第一項の規定によつて、平和条約
発効の日たる昭和二十七年四月二十八日から三十日以内に所定の外国人登録を申請
すべき義務があるものとしなければならない。
 なお、旧令及び現行法の期間を通じ、被告人が外国人登録申請義務を履行してい
ないことは、本件記録にあらわれた証拠上明白なところであり、これに対する被告
人及びAの警察や原審における各供述はこれを措信することができない。
 以上判断のとおりであるから、検察官の所論、即ち、平和条約により朝鮮が独立
したことに伴う国籍の変動は単に同地域の住民のみを基準とすべきではなく、日韓
併合当時において韓国籍を有していた者及び日韓併合がなかつたならば当然韓国籍
を得た者は、すべて朝鮮国を形成する国民として朝鮮国籍を取得し、日本国籍を離
脱したものと解すべきである。日韓併合時における朝鮮には、民籍法が施行されて
おり、韓国人たる身分を有する者は、血統主義、家族主義を採用した同法に基く民
籍に登載すべきものとされており、また、日韓併合後は、これに代るものとして、
朝鮮戸籍令が施行されており、内地との連絡について共通法が働いていた。従来等
しく日本国籍を有するといつても、内地人、朝鮮人の身分上の区別があり、朝鮮人
は朝鮮に本籍を持ち、内地に本籍を有することがなく、内地に転籍することが許さ
れず、内地人は内地に本籍を持ち、朝鮮に転籍することは許されなかつたのであ
る。この身分関係を前提として、外国人登録等の行政措置が取られていたのである
から、平和条約の発効によつて日本国籍を喪失する朝鮮人は前記のように解するの
が相当であるとする所論は正当である。
 右の判断に照らせば、前記説明の原判人の法令の解釈適用には、旧令及び現行法
を通じ、誤があるものと解せられ、この誤は判決に影響を及ぼすことが明らかであ
るから、論旨は理由がある。
 なお、付言すれば、被告人が日本の国籍を喪失して外国人となつたのは、朝鮮の
独立に伴う帰結であつて、憲法が国民に保障する国籍の保有及び離脱の自由を侵害
するものではなく、また、被告人とAとの前記婚姻が行われた昭和二十六年六月八
日当時には、現行国籍法があり、同法第八条によれば、日本人女子が外国人と婚姻
しても当然には日本の国籍を失うものではないと解せられるが、右婚姻は平和条約
発行前であつて、朝鮮人も広義の日本人として日本の国籍を持つていた間に行われ
たものであるから、右国籍法上の外国人との婚姻にあたらず、同法第八条の適用の
余地はないものといわなければならない。
 よつて、刑事訴訟法第三百九十七条第一項、第三百八十条によつて原判決を破棄
するが、当裁判所は、訴訟記録並びに原審及び当審において取り調べた証拠によつ
て直ちに判決することができるものと認めるので、同法第四百条但書によつて、本
件について更に判決することとする。
 当裁判所が認定した犯罪事実は、次のとおりである。
 被告人は、昭和六年三月二十日群馬県桐生市a町c番地に本籍を有する日本人F
を父として出生した日本人であつたが、昭和二十六年六月八日朝鮮慶尚北道盾道郡
de番地に本籍を有する朝鮮人EことAと本邦内の群馬県桐生市において日本民法
による婚姻届をして婚姻したことによつてその妻となり、日本の戸籍から除籍さ
れ、その夫たるAの右朝鮮の戸籍に入籍登載さるべき事由が生じたものとして、旧
令第十一条第一項の規定による外国人とみなされ、次いで、昭和二十七年四月二十
八日平和条約の発効により、右朝鮮の戸籍に入籍登載さるべきものとして、韓国の
国籍を取得し、日本の国籍を喪失し、現行法第二条第二項の外国人となつたもので
あるから、旧令第四条第一項及び現行法第三条第一項により、それぞれ、所定の外
国人登録申請をすべき義務があるのに、旧令については、右婚姻の日たる昭和二十
六年六月八日から十四日以内に、現行法については、右平和条約発効の日たる昭和
二十七年四月二十八日から三十日以内に、いずれも、当時の居住地の市長たる群馬
県桐生市長に対し所定の外国人登録申請をすることを怠り、昭和三十二年二月九日
まで不法に本邦に在留したものである。
 (証拠説明省略)
 被告人の右所為に対して法令を適用すると、前記判断のとおり、被告人がAと婚
姻した昭和二十六年六月八日から昭和二十七年四月二十七日までの外国人登録不申
請の点は、現行法附則第三項旧令第四条第一項、第十三条第一号、罰金等臨時措置
法第二条、第四条に、平和条約発効の日である昭和二十七年四月二十八日から昭和
三十二年二月九日までの外国人登録不申請の点は、現行法第三条第一項、第十八条
第一項第一号、罰金等臨時措置法第二条、第四条に該当するが、右旧令の不申請罪
と現行法の不申請罪とは、前後継続し、その構成要件においてほとんど異なるとこ
ろがなく、その性質、目的を同じくするものであるから、被告人の右旧令及び現行
法にまたがる不申請罪は、これを包括して一個の不申請罪と解すべく、これに対し
ては旧令と現行法との間に条数や刑罰の多少の変更があつても、刑法第六条によつ
て新旧比照をしないで、現行法のみを適用して処断するのを相当とするから、現行
法を適用し、所定刑中罰金刑を選択し、その金額の範囲内で、被告人を罰金二千円
に処し、刑法第十八条によつて、右罰金を完納することができないときは、金二百
円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、本件不申請罪は、被告人やその
夫Aの法律知識の不充分から出たものであつて、その情状には、同情の余地が充分
あるものと考えられるので、刑法第二十五条第一項によつて、本裁判確定の日から
一年間右刑の執行を猶予することとし、なお、刑事訴訟法第百八十一条第一項但書
によつて、訴訟費用(原審の分はなく当審のみ)は、被告人に負担させないことと
し、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 下村三郎 判事 高野重秋 判事 真野英一)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛