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平成17年(ワ)第14346号侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成18年4月24日
判決
原告A
訴訟代理人弁護士川島和男
同芝英則
訴訟代理人弁理士中嶋恭久
補佐人弁理士恩田博宣
同恩田誠
同小林徳夫
被告株式会社ビーシーフオー
訴訟代理人弁護士釜田佳孝
同櫛田和代
同高橋徹
補佐人弁理士西森正博
主文
1被告は,別紙被告製品目録1ないし3記載の製品を製造し,販売し,販売の
申し出をしてはならない。
2被告は,その占有に係る別紙被告製品目録1ないし3記載の製品,半製品
(同目録1ないし3の構造を具備しているが製品として完成するに至らないもの)
及びその製造のための金型を廃棄せよ。
3訴訟費用は被告の負担とする。
4この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
本件は,被告による被告製品の製造・販売等が原告の有する実用新案権及び特許
権を侵害するとして,原告が被告に対し,その製造・販売等の差止め及び製品等の
廃棄を求めたのに対し,被告が,構成要件の非充足及び新規性又は進歩性欠如によ
る無効を主張して争った事案である。
1前提事実
(1)本件実用新案権
ア原告は,以下の実用新案権を有している(以下,この実用新案権のうち請
求項1に係る実用新案権を「本件実用新案権1」と,その考案を「本件考案1」といい,
請求項4に係る実用新案権を「本件実用新案権2」と,その考案を「本件考案2」とい
い,本件実用新案権1及び2を併せて「本件実用新案権」と,それらの考案を併せて
「本件考案」といい,別紙実用新案登録公報掲載の明細書及び図面を「本件実用新
案明細書」という。)。
実用新案登録番号第2546839号
考案の名称天端出し補助具
出願日平成5年7月27日
登録日平成9年5月16日
実用新案登録請求の範囲
【請求項1】
長手棒状の補助具本体1に,補助具本体1に対し直角方向且つ水平に延びる上羽
根部2が上部に具備され,補助具本体1の上端部に開口する受ネジ穴3に進退可能
に調整ネジ体4が螺合され,且つ補助具本体1の下部に,補助具本体1に対し直角
方向且つ垂直に延びる下羽根部7が具備されてなる天端出し補助具。
【請求項4】
調整ネジ体4の上面にドライバー等の治具の係合凹溝6が具備されてなる請求項
1の天端出し補助具。
イ構成要件の分説
(ア)本件考案1
本件考案1を構成要件に分説すると,以下のとおりである(以下,各構成要件を
「構成要件A1」のように表記する。)。
A1長手棒状の補助具本体1に,
B1補助具本体1に対し直角方向且つ水平に延びる上羽根部2が上部に具備され,
C1補助具本体1の上端部に開口する受ネジ穴3に進退可能に調整ネジ体4が螺
合され,
D1且つ補助具本体1の下部に,補助具本体1に対し直角方向且つ垂直に延びる
下羽根部7が具備されてなる
E1天端出し補助具。
(イ)本件考案2
本件考案2を構成要件に分説すると,以下のとおりである。
F1調整ネジ体4の上面にドライバー等の治具の係合凹溝6が具備されてなる
G1請求項1の天端出し補助具。
(以上,争いのない事実)
(2)本件特許権
ア原告は,以下の特許権を有している(以下,この特許権のうち請求項1に
係る特許権を「本件特許権1」と,その発明を「本件発明1」といい,請求項6に係る
特許権を「本件特許権2」と,その発明を「本件発明2」といい,請求項8に係る特許
権を「本件特許権3」と,その発明を「本件発明3」といい,本件特許権1ないし3を
併せて「本件特許権」と,それらの発明を併せて「本件発明」といい,別紙特許公報
掲載の明細書及び図面を「本件特許明細書」という。)。
特許番号第2649483号
発明の名称天端出し補助具およびそれを用いた天端出し補助装置
出願日平成5年12月25日
登録日平成9年5月16日
特許請求の範囲
【請求項1】
長手棒状の補助具本体1の上端部に開口する受ネジ穴4に進退可能に調整ネジ体
5が螺合され,且つ補助具本体1の上部に,補助具本体1に対し直角方向且つ水平
に延びる上羽根部2が固着され,下部に,補助具本体1に対し直角方向且つ垂直に
延び,下向きに先鋭に設けられた下羽根部3が固着されてなる天端出し補助具。
【請求項6】
板状部でなる上羽根部2Bの平面から見た外形が円形である請求項1の天端出し
補助具。
【請求項8】
補助具総体がプラスチツク材でなり,上羽根部2および下羽根部3が補助具本体
1と同時成形されてなる請求項1の天端出し補助具。
イ構成要件の分説
(ア)本件発明1
本件発明1を構成要件に分説すると,以下のとおりである。
A2長手棒状の補助具本体1の上端部に開口する受ネジ穴4に進退可能に調整ネ
ジ体5が螺合され,
B2且つ補助具本体1の上部に,補助具本体1に対し直角方向且つ水平に延びる
上羽根部2が固着され,
(C2欠番)
D2-1下部に,補助具本体1に対し直角方向且つ垂直に延び,
D2-2下向きに先鋭に設けられた
D2-3下羽根部3が固着されてなる
E2天端出し補助具。
(イ)本件発明2
本件発明2を構成要件に分説すると,以下のとおりである。
(F2,G2欠番)
H2板状部でなる上羽根部2Bの平面から見た外形が円形である
I2請求項1の天端出し補助具。
(ウ)本件発明3
本件発明3を構成要件に分説すると,以下のとおりである。
J2補助具総体がプラスチツク材でなり,
K2上羽根部2および下羽根部3が補助具本体1と同時成形されてなる
L2請求項1の天端出し補助具。
(以上,争いのない事実)
(3)被告各製品
ア被告各製品の製造・販売
(ア)被告は,遅くとも平成10年8月ころから,業として,別紙被告製品目
録1及び2記載の製品(以下それぞれ「被告製品1「被告製品2」という)を,」,。
それらの製造用金型を用いて製造し,販売及び販売の申出を行っている。
(イ)被告は,遅くとも平成16年10月ころから,業として,別紙被告製品
目録3記載の製品(以下「被告製品3」といい,被告製品1,2と併せて「被告各
製品」という)を,その製造用金型を用いて製造し,販売及び販売の申出を行っ。
ている。
(争いのない事実,弁論の全趣旨)
イ被告各製品の構成要件充足性
(ア)本件考案1
被告各製品は,いずれも,本件考案1の構成要件A1,C1及びE1を充足する。
(イ)本件考案2
被告各製品は,いずれも,本件考案2の構成要件F1を充足する。
したがって,被告各製品が本件考案1の構成要件をすべて充足すれば,本件考案
2の構成要件をすべて充足することになる。
(ウ)本件発明1
被告各製品は,いずれも,本件発明1の構成要件A2及びE2を充足する。また,被
告製品1は,構成要件D2-2(先鋭)を充足する。
(エ)本件発明2
被告各製品は,いずれも,本件発明2の構成要件H2を充足する。
したがって,被告各製品が本件発明1の構成要件をすべて充足すれば,本件発明
2の構成要件をすべて充足することになる。
(オ)本件発明3
被告各製品は,いずれも,本件発明3の構成要件J2及びK2を充足する。
したがって,被告各製品が本件発明1の構成要件をすべて充足すれば,本件発明
3の構成要件をすべて充足することになる。
(以上,争いのない事実)
2争点
(1)本件考案1及び2の構成要件充足性
ア被告各製品は構成要件B1を充足するか。
イ被告各製品は構成要件D1を充足するか。
(2)本件発明1ないし3の構成要件充足性
ア被告各製品は構成要件B2を充足するか。
イ被告各製品は構成要件D2を充足するか。
(3)本件実用新案権及び本件特許権は新規性又は進歩性欠如により無効か。
3争点に関する当事者の主張
(1)本件考案1及び2の構成要件充足性
ア原告の主張
(ア)構成要件B1
a充足
被告各製品は,いずれも,天端調整ビス本体1の上部に,天端調整ビス本体1に
対し直角方向かつ水平に延びるツバ2が固着される構成を有しているから,構成要
件B1を充足する。
b一体の点
被告各製品のツバ2と羽根7が接合され一体となっていることは,付加的な構成
にすぎず,構成要件B1を充足することに変わりはない。
作用効果の点においても,本件考案1の上羽根部2,被告各製品のツバ2とも沈
下・傾き抑止という同一の作用効果を有しており,仮に,被告各製品のツバ2と羽
根7が接合され一体となることにより被告主張の新たな作用効果が生ずるとしても,
構成要件B1を充足することに変わりはない。
(イ)構成要件D1
a充足
被告各製品は,いずれも,天端調整ビス本体1のツバ2の下部に,天端調整ビス
本体1に対し直角方向かつ垂直に延びる羽根7が固着されている構成を有している
から,構成要件D1を充足する。
b一体の点
被告各製品のツバ2と羽根7が接合され一体となっている点は,上記(ア)bと同
様,付加的な構成にすぎず,構成要件D1を充足することに変わりはない。
c下部の点
(a)「下部」とは,日常用語においても,建築業界,さらには基礎工事の
施工現場においても「上部アーム」に対する「下部アーム「上部構造」に対す,」,
る「下部構造」等「上部」に対する相対的な概念として用いられている。,
この点は,本件考案1においても同様であり,構成要件D1にいう「補助具本体1
の下部」とは,上羽根部2が配置された「上部」に対する相対的な概念であり,上
羽根部2の下方であって,天端出し補助具がコンクリートに差し込まれた状態でコ
ンクリート中に埋没する部分を意味する。
,(b)この点は,本件実用新案明細書の記載からも明らかである。すなわち
本件考案1の目的は「打込んだコンクリートに対し,頭部を容易に所定のレベル,
に正確に位置させ得,基礎の所定の高さを得ると共に表面を高度に水平化して美麗
にするに,有効に寄与し得る天端出し補助具を提供することにあ(り)(本件実用」
新案明細書【0005,本件考案1の作用効果は「天端出し補助具において補】),
助具本体1の上端部において調節ネジ体4が進退可能に設けられているから,天端
出し補助具の頭部の高さ位置を自在に調整でき,…補助具本体1の上部に補助具本
体1に対し直角方向且つ水平に延びる上羽根部2を,下部に補助具本体1に対し直
角方向且つ垂直に延びる下羽根部7を具備するから,天端出し補助具の沈下,傾き
を抑止できる(同【0007【0008)というものであるところ,このよう」】】
な本件考案1の作用効果は,下羽根部7が上羽根部2の下にあり,天端出し補助具
がコンクリートに差し込まれた状態でコンクリート中に埋没する位置に形成されて
いれば発揮し得る。
d均等による侵害
被告各製品の羽根7は,天端調整ビス本体1の「下部」にないと解されたとして
も,均等により,構成要件D1を充足する。
(a)本質的部分
本件考案1の本質的部分は,補助具本体1に対し直角方向かつ水平に延びる上羽
根部2と,補助具本体1に対し直角方向かつ垂直に延びる下羽根部7と2つの方向
の異なる羽根部を設け,これら2つの部分の機能により補助具本体1の沈下と傾き
を防止するところにある。
下羽根部7は,上羽根部2より下方の打設コンクリート中に埋設される限り,補
助具本体1のいずれにあっても,この下羽根部7の面と垂直な方向への移動を阻止
する働きは変わらない。
被告各製品に即していえば,羽根7の取付位置が,ツバ2の下方のコンクリート
内に埋設される限り,天端調整ビス本体1の鉛直軸回りの微小な回転や水平軸回り
の微小な回転を防止できるから,上記の相違部分は,本件考案1特有の作用効果を
生じさせる技術的思想の中核をなす本質的部分ではない。
(b)置換可能性
被告各製品は,天端出し補助具の沈下,傾きを抑止するという本件考案1と同一
の作用効果を奏し「打込んだコンクリートに対し,頭部を容易に所定のレベルに,
正確に位置させ得,基礎の所定の高さを得ると共に表面を高度に水平化して美麗に
するに,有効に寄与し得る天端出し補助具を提供する」という本件考案1の目的を
達することができる。
(c)置換容易性
下羽根部7を上羽根部2の下方のいずれの位置に配置し,どのような形状とする
かは,天端出し補助具が使用される環境,プラスチック成型の容易さ等から決定さ
れる単なる設計上の事項であり,被告各製品のような形に置き換えることは,当業
者であれば,容易に想到することができたものである。
(d)容易推考性
後記被告の主張(イ)d(d)は否認する。
(e)意識的除外
同(イ)d(e)は否認する。
イ被告の主張
(ア)構成要件B1
a認否
原告の主張(ア)は否認する。被告各製品は,いずれもツバ2が羽根7と接合され
て一体となっており,構成要件B1を充足しない。
b技術思想の相違
(a)本件考案1においては,補助具本体1の沈下や傾斜抑止の効果を得る
ため,上部に水平な上羽根部2を具備することによって沈下を抑止し,下部に垂直
な下羽根部7を具備することによって傾斜の抑止を図っている。すなわち,補助具
本体1の上端に対しこれを傾斜させようとする力が作用し,上羽根部2を支点とし
て傾斜する動きが生じた場合,これを下羽根部7により抑止している。これを上部
に設けると十分な抑止力を得られないから,下羽根部は下部,それもできるだけ下
端部に設けることによってその目的を達成できる。
これらの抑止力は,主として上羽根部2,下羽根部7とコンクリート材との接触
ないし密着による付着力によって生じるものと解される。
(b)これに対し,被告各製品は,天端調整ビス本体1の上部に一体に設け
られたツバ2と羽根7によって,本体の沈下・傾斜を抑止しようとするものである。
すなわち,ツバ2と羽根7により,横から見て逆L字形の凹部が形成され,この凹
部に作用するコンクリート材の流動抵抗によって,強力な傾斜抑止力を得る。
そして,被告各製品のこのような流動抵抗に起因する傾斜抑止力は,本件考案1
のコンクリート材の付着力よりもはるかに大きな抑止力が得られる。
(c)したがって,本件考案1と被告各製品とは,傾斜抑止力を得るための
構造と作用の点で異なり,技術思想に明確な相違がある。
(イ)構成要件D1
a充足
同(イ)aは否認する。
b一体の点
同bは否認する。被告各製品の羽根7は,ツバ2と接合されて一体となっており,
上記(ア)と同じ理由から,構成要件D1を充足しない。
c下部の点
(a)同c(a)は否認する。原告の主張によっても,工業用語はもちろんのこ
と,建築・建設に用いられる治具,用具,工具,機材等においても定まった用例は
ないのであるから「上部「下部」の語義は,本件実用新案明細書の構成要件や,」,
詳細な説明の記述内容を前提に,考案の目的,解決すべき課題,作用効果を勘案し
て解釈すべきである。
。(b)同c(b)のうち,本件実用新案明細書の記載は認め,その余は否認する
本件考案1の作用効果からは,下羽根部を設ける「下部」は本体の下端部に近い
箇所となる。
また,本件考案1と同じ「天端出し補助具」に関する本件特許公報では,請求項
7,段落【0009【0012】及び図1ないし3において,上羽根部2の下に】
位置する補助具本体1の大径部1Cが「上部」と表現され,補助具本体1の下端部に
近い部分が「下部」と表現されている。
したがって「下部」とは補助具本体1の下端部に近い箇所を指すものであり,,
補助具本体1におけるそれより上の部分は「上部」となると解される。
これに対し,被告各製品の羽根7は,天端調整ビス本体1の「下部」ではなく
「上部」に具備されているから,構成要件D1を充足しない。
d均等による侵害
(a)本質的部分
同d(a)は否認する。
(b)置換可能性
同d(b)は否認する。
本件考案1における傾斜抑止の作用効果は,下羽根部7を補助具本体1の下端部
に近い箇所に設けることによってその効果を得ようとするものであるのに対し,被
告各製品における傾斜抑止効果は,天端調整ビス本体1の上端部近くに水平支持部
材であるツバ2と垂直支持部材である羽根7を一体に接合させて逆L字形に保持さ
せ,かかる逆L字部分で表面部分の打設コンクリートを保持させることでその作用
を得ようとするものである。
(c)置換容易性
同d(c)は否認する。
(d)容易推考性
被告各商品のツバ2と羽根7の構造は,本件実用新案権及び本件特許権の各出願
前において公知又は容易推考な技術であったから(乙10~18,被告各製品は)
本件実用新案権及び本件特許権の各出願時における公知技術と同一又は当業者が容
易に推考できたものである。
(e)意識的除外
原告は,下羽根部7の位置を「下部」に限定しており,被告各製品のように上端
部に近い箇所にツバ2と一体的に接合された構成を除外しているから,被告各製品
の構成は,本件実用新案権及び本件特許権の出願手続において各請求の範囲から意
識的に除外されたものに当たる特段の事情がある。
(2)本件発明1ないし3の構成要件充足性
ア原告の主張
(ア)構成要件B2
a充足
被告各製品は,いずれも,天端調整ビス本体1の上部に,天端調整ビス本体1に
対し直角方向かつ水平に延びるツバ2が固着される構成を有しているから,構成要
件B2を充足する。
b一体の点
被告各製品のツバ2と羽根7が接合され一体となっていることは,構成要件B1
の場合(上記(1)ア(ア)b)と同様,付加的な構成にすぎず,構成要件B2を充足する
ことに変わりはない。
(イ)構成要件D2
a充足
被告各製品は,いずれも,天端調整ビス本体1のツバ2の下部に,天端調整ビス
本体1に対し直角方向かつ垂直に延びる羽根7が固着されている構成を有している
から,構成要件D2を充足する。
b一体の点
被告各製品のツバ2と羽根7が接合され一体となっている点は,構成要件D1の場
合(上記(1)ア(イ)b)と同様,付加的な構成にすぎず,構成要件D2を充足することに
変わりはない。
c下部の点
(a)構成要件D2にいう「下部」とは,上羽根部2が配置された「上部」に
対する相対的な概念であり,上羽根部2の下方であって,天端出し補助具がコンク
リートに差し込まれた状態でコンクリート中に埋没する部分を意味することは,構
成要件D1の場合(上記(1)ア(イ)c(a))と同様である。
(b)作用効果の点からも,本件発明1の作用効果は本件考案1の作用効果
と同様であるから,上記(1)ア(イ)c(b)と同様,下羽根部7は,天端出し補助具が
コンクリートに差し込まれた状態でコンクリート中に埋没する位置に形成されてい
れば,その作用効果を発揮し得る。
d均等による侵害
被告各製品の羽根7は,天端調整ビス本体1の「下部」にないと解されたとして
も,均等により,構成要件D2を充足する。
(a)本質的部分
本件発明1の本質的部分は,本件考案1と同じであるから,上記(1)ア(イ)d(a)
と同様,羽根7の取付位置の相違部分は,本件発明1特有の作用効果を生じさせる
技術的思想の中核をなす本質的部分ではない。
(b)置換可能性
被告各製品は,天端出し補助具の沈下,傾きを抑止するという本件発明1と同一
の作用効果を奏し「打込んだコンクリートに対し,頭部を容易に所定のレベルに,
正確に位置させ得,基礎の所定の高さを得ると共に表面を高度に水平化して美麗に
するに,有効に寄与し得る天端出し補助具を提供する」という本件発明1の目的を
達することができる。
(c)置換容易性
上記(1)ア(イ)d(c)に同じ
(d)容易推考性
後記被告の主張イ(イ)d(d)は否認する。
(e)意識的除外
同イ(イ)d(e)は否認する。
e「下向きに先鋭」の文言侵害
(a)本件発明1の本質は「下羽根部3が下向きに先鋭に設けられている,
から,打込んだコンクリート,モルタルに天端出し補助具を埋設し位置決めするこ
とが極めて容易に遂行され得る(本件特許明細書【0007)点にあるから,」】
幅,厚みのいずれかにおいて,コンクリート,モルタルに含まれる骨材(砂,砂利
など)に引っ掛かりにくくなり,容易に所望の深さまで天端出し補助具を埋設し位
置決めすることができる形状であれば「下向きに先鋭」に設けられたものといえ,
る。
(b)被告製品2及び3の羽根7は,厚みにおいて,基端部から下端部に行
くほど薄くなっており,幅において,両側端部が下端部に行くほどわずかであるが
狭くなっている上,両側端部の下部の角がアール状に削られているから「下向き,
に先鋭」との構成要件を満たす。
f均等による侵害
被告製品2及び3は,本件発明1を文言上侵害しないとしても,均等により,構
成要件D2を充足する。
(a)本質的部分
「下向きに先鋭」という構成は「下羽根部3が下向きに先鋭に設けられている,
から,打込んだコンクリート,モルタルに天端出し補助具を埋設し位置決めするこ
とが極めて容易に遂行され得る(本件特許明細書【0007)という効果を奏。」】
するものであり,本件発明1の本質的部分は,下羽根部に「打込んだコンクリート,
モルタルに天端出し補助具を埋設し位置決めすることが極めて容易に遂行され得
る」形状ににある。
被告各製品の「アール状」羽根7の下部の両角部は,円滑に埋設させる形状であ
るから,この形状の差は,本件発明1の本質的な部分ではないことは明らかである。
(b)置換可能性
上記(a)のとおり,羽根7は,下部の両角部がアール状に形成されているから,
打込んだコンクリート,モルタルに天端出し補助具を埋設し位置決めすることが極
めて容易に遂行され得るという,本件発明1と同一の作用効果を発揮し,その目的
を達することができる。
(c)置換容易性
羽根7を,本件発明1の実施形態のように下部の両角部を直線状として三角形と
するか(本件特許明細書図6,被告各製品の垂直支持部材7のように曲線状にし)
てアール形状とするかは,当業者の設計事項である。
イ被告の主張
(ア)構成要件B2
原告の主張(ア)は否認する。被告各製品は,いずれもツバ2が羽根7と接合され
て一体となっており,構成要件B2を充足しない。
(イ)構成要件D2
a充足
同(イ)aは否認する。
b一体の点
同bは否認する。被告各製品の羽根7は,ツバ2と接合されて一体となっており,
上記(ア)と同じ理由から,構成要件D2を充足しない。
c下部の点
同cは否認する。下羽根部を設ける「下部」は本体の下端部に近い箇所と解する
べきであることは,本件考案1の構成要件D1についての被告の主張(上記(1)イ(イ)
c)と同様である。
d均等による侵害
(a)本質的部分
同d(a)は否認する。
(b)置換可能性
同d(b)は否認する。本件発明1と被告各製品とが異なる構成により傾斜抑止を
行っていることは,本件考案1の構成要件D1についての被告の主張(上記(1)イ(イ)
d(b))と同様である。
(c)置換容易性
同d(c)は否認する。
(d)容易推考性
上記(1)イ(イ)d(d)に同じ
(e)意識的除外
上記(1)イ(イ)d(e)に同じ
e「下向きに先鋭」の文言侵害
(a)同eは否認する。
(b)「先鋭」とは「先がとがっていること」を意味する。目的・作用効,
果の面から見ても,本件特許権の実施例のように「先鋭」なものはコンクリートへ
の挿入が極めて容易にされる。
これに対し,被告製品2及び3の羽根7は,先端部分が鋭角でなく,両角部分が
アール状に丸く形成されており「下向きに先鋭に」設けられていない。また,被,
告製品2及び3の構成では,上記本件特許権の効果は得られない。
f均等による侵害
原告の主張は否認する。
(3)新規性・進歩性欠如の無効理由(特許法104条の3)の有無
ア被告の主張
(ア)公知技術
次の技術は,本件実用新案権及び本件特許権の出願前に公知であった。
①意匠登録第661850号公報(昭和60年9月30日発行。乙1)
「コンクリート打設用天端表示具」として,土間コンクリートスラブを施工する
場合に使用する天端表示具の支持杵の上方に,該支持杵と接合された水平部分と垂
直部分とから成る部材が一体化された構成が開示されている(以下,各公報等に開
示された技術を「公知技術①」のように表示する。)。
②意匠登録第793168号公報(平成2年8月7日発行。乙2)
「建築用土間目地受金具」につき,支柱の上方に,該支柱と接合された水平部分
と垂直部分とから成る部材が一体化された構成が開示されている。
③実開平3-36026号公報(平成3年4月9日公開。乙3)
「割り栗石,捨テコンクリートの高さ,天端だし用の杭」につき,杭の上方に,
該杭と接合された水平のプレートとネジが一体化された構成が開示されている。
④実開昭59-121509号のマイクロフィルム(昭和59年8月16
日公開。乙4)
「締着用部材」として,コンクリート壁,床等に被取付物を取り付けるのに用い
られる巾着用部材であるが,締着本体1の円筒主部2の上方に圧入部3と鍔状部3
1が一体化された構成が開示されている。
⑤実開昭64-634号のマイクロフィルム(昭和64年1月5日公開。
乙5)
鋼管杭等の「基礎杭」につき,杭体1に接合された翼状板2は,基礎杭の打ち込
み・押し込み時に地盤中における直進性を増し,所定の方向及び位置に杭体を導く
作用を有するものであり,本件考案及び本件発明における下羽根部の技術思想が開
示されている。
⑥実開昭63-27551号のマイクロフィルム(昭和63年2月23日
公開。乙6)
地中に埋設される「基礎杭」の水平耐力を増強するため,杭3の上方に接合され
た鋼製リング1に鋼製フィン2を取り付けた構成が開示されている。
⑦実開平2-100442号のマイクロフィルム(平成2年8月9日公開。
乙7)
「作物栽培用支柱杭の類」につき,杭本体11の下端部に3枚以上の複数枚から
成る放射線状に張り出した安定板15が設けられている。これは支柱杭の倒れを防
ぐために倒伏抵抗を発揮するものと想定されており,本件考案及び本件発明の下羽
根部の構成と同じであり,その目的・作用効果も同じである。
⑧実開昭63-71357号のマイクロフィルム(昭和63年5月13日。
乙8)
土間コンクリート打設の際のコンクリート厚み及び水平を確保する「コンクリー
ト打設用ポイント杭」に関し,実施例として示されている第4図では,地盤が緩や
かで安定しづらい土間に杭を打設する際にその杭の安定性を保持するため杭1の上
方に突出縁9を周設する構成が開示されており,本件考案及び本件発明における上
羽根部の技術が開示されている。
⑨実開平2-72747号のマイクロフィルム(平成2年6月4日公開。
乙9)
床コンクリート打設時に床コンクリート表面を水平にし,又は所定の傾斜を設け
る場合等に使用される「コンクリート打設補助器具」に関するものであるが,その
請求項3及び第4図・第5図において,打設補助器具の上方に停止基盤35がスッ
トパとして設けてあり,その目的・作用効果は,コンクリート床へ打設補助器具の
沈下抑止にある。これは,本件考案及び本件発明における上羽根部の技術と同じで
ある。
⑩実開平3-105664号のマイクロフィルム(平成3年11月1日公
開。乙10)
基礎工事又は建築工事の土間のように地盤又は栗石の上にコンクリートを打設す
る際のコンクリート天端を表示する金具に関するものであるが,本体の上部に本体
に固着された止め部を具備しており「本体の沈みや転げを防止でき,天端合わせ,
後や,コンクリート打設中に再度合わせるなどの二重の手間が無くな(る)(6頁」
16~18行)との効果を有する。また,第3実施例(第5図)においては,止め
部34と本体31が一体をなし,本体部分は上端から下端まで平板状で横断面はL
字型になっているから,傾斜抑止の作用も傾転抑止の作用をも有する。止め部34
は本件考案及び本件発明の上羽根部に相当し,第3実施例には,本件考案及び本件
発明の,上方に上羽根があり,下方に下羽根がある構成が開示されている。
⑪意匠登録第858899号公報(平成5年1月22日発行。乙11)
「コンクリート打設用の天端表示具」として,上記⑩の考案の第3実施例に類似
する意匠が開示されている。
⑫実開昭57-75033号のマイクロフィルム(乙12の1,実公昭)
58-47077号公報(昭和58年10月27日公告。乙12の2)
落石防止用の網体などを係止する「打込み式アンカー」に関するものであるが,
杭本体の後端(上方)の外周に羽根状の抵抗板を設けて杭本体を抵抗板とともに傾
斜面に打ち込む技術が紹介されている。また,杭本体2にはその上端部近くに補強
板8が,上方に抵抗板7が固着され,補強板と抵抗板は一体となっており,補強板
は土中への沈下防止の作用も有するもので,抵抗板は傾斜抑止の作用を有するもの
であることからすれば,被告各商品におけるツバ2と羽根7を一体化した構成と,
それによる沈下防止,傾斜抑止作用が開示されている。
また,抵抗板の下端部は斜めに傾斜した構造となっており,本件発明1の「先
鋭」との構成も開示されている。
⑬意匠登録第485043号公報(昭和53年10月6日発行。乙13)
上記⑫の考案と同様の「落石防止網用アンカー」の意匠であり,アンカーの上端
近くに,水平部と垂直部が一体となったものがアンカー本体に接合されており,そ
れらが沈下抑止,傾斜抑止の作用を有するものであることは容易に想定できる。し
たがって,被告各商品における水平支持部材と垂直支持部材を一体化した構成と,
それによる沈下防止,傾斜抑止作用が開示されている。
また,垂直部の下端の構成も斜めに傾斜した構造となっており,本件発明1の
「先鋭」との構成も開示されている。
⑭意匠登録第493297号公報(昭和54年1月23日発行。乙14)
上記⑫の考案と同様の「落石防止網用アンカー」の意匠であり,上記⑬と同様で
ある。
⑮意匠登録第577355号公報(昭和57年5月24日発行。乙15)
上記⑫の考案の実施例の意匠であり,上記⑫と同様である。
⑯意匠登録第577355号の類似2公報(昭和57年9月27日発行。
乙16)
上記⑫と同様である。
⑰意匠登録第577356号公報(昭和57年5月24日発行。乙17)
上記⑫と同様である。
⑱意匠登録第796726号公報(平成2年10月5日発行。乙18)
上記⑫と同様である。
(イ)新規性の欠如
仮に,本件考案及び本件発明が補助具本体の上方に下羽根部が設置された構成を
含むのであれば,本件考案及び本件発明は,公知技術①ないし⑱により,新規性を
欠如し,無効とされるべきものである。
(ウ)進歩性の欠如
仮に,本件考案又は本件発明が出願前において全部公知でないとしても,上羽根
部の構成は公知技術⑧ないし⑪に,下羽根部の構成は公知技術⑫ないし⑱に開示さ
れており,これらを組み合わせて本件考案又は本件発明のように構成することは,
当業者が容易に想到できたことである。
したがって,本件考案及び本件発明は,進歩性欠如により,無効とされるべきも
のである。
イ原告の主張
(ア)公知技術
,被告の主張(ア)のうち,被告主張の各公知技術が開示されていることは認めるが
被告の評価部分は争う。
(イ)新規性の欠如
同(イ)は否認する。
(ウ)進歩性の欠如
同(ウ)は否認する。
公知技術①ないし⑱は,使用される場所が土間地中(公知技術①,②,割り栗)
石(同③,コンクリート壁(同④,地盤(同⑤,地中(同⑥,土中(同⑦,)))))
土間(同⑧,施工部の床部(同⑨,地盤又は栗石(同⑩,⑪,岩壁傾斜面・岩)))
盤質中(同⑫,落石防止網用アンカーの設置面(同⑬~⑰,土中アンカーの設))
置面(同⑱)とあるように,いずれも硬質の取付面に杭やアンカーとして強打して
打ち込み,強固に取り付けるものであり,流動性のあるコンクリートに用いる本件
考案及び本件発明とは,技術分野が全く異なり,前提となる課題も異なる。
よって,公知技術①ないし⑱には,本件考案及び本件発明についての開示や示唆
がない。
第3当裁判所の判断
1本件考案1及び2の構成要件充足性
(1)構成要件B1
前提事実のとおり,構成要件B1は「補助具本体1に対し直角方向且つ水平に延,
びる上羽根部2が上部に具備され」というものであるところ,被告各製品はいずれ
も「天端調整ビス本体1の上部に,天端調整ビス本体1に対し直角方向かつ水平に
延びるツバ2が固着されている」との構成を有しているから,構成要件B1を充足す
ると認められる。
(2)構成要件D1
前提事実のとおり,構成要件D1は「補助具本体1の下部に,補助具本体1に対,
し直角方向且つ垂直に延びる下羽根部7が具備されてなる」というものであるとこ
ろ,被告各製品はいずれも「天端調整ビス本体1のツバ2の下部に,天端調整ビス
本体1に対し直角方向かつ垂直に延びる羽根7が,ツバ2と一体となって固着され
ている」との構成を有しているから,構成要件D1を充足すると認められる。
(3)被告の主張に対する判断
ア一体の点
(ア)被告は,被告各製品はいずれもツバ2が羽根7と接合されて一体となっ
ているから,構成要件B1及びD1を充足しない旨主張する。
しかしながら,前提事実のとおり,本件考案の構成要件B1は「補助具本体1に対
し直角方向且つ水平に延びる上羽根部2が上部に具備され,構成要件D1は「且つ」
補助具本体1の下部に,補助具本体1に対し直角方向且つ垂直に延びる下羽根部7
が具備されてなる」というものであり,下羽根部7が上羽根部2の直下で上羽根部
2と一体となったものを排除する記載となっていないから,被告の上記主張は採用
することができない。
(イ)さらに,被告は,被告各製品は逆L字形の凹部が形成されて,その凹部
のコンクリートの流動抵抗によって傾斜抑止力を得るのに対し,本件考案1は主と
して上羽根部2,下羽根部7とコンクリート材との接触ないし密着による付着力に
よって生じる抑止力を利用しており,技術思想が異なる旨主張する。
しかしながら,上羽根部2と下羽根部7とが一体となっているか否かによって被
告主張の抑止力が生ずる機序が異なることを認めるに足りる証拠はないから,被告
の上記主張は理由がない。
イ下部の点
被告は,本件考案1における下羽根部を設ける「下部」は本体の下端部に近い箇
所となる旨主張する。
しかしながら,本件考案1の実用新案登録請求の範囲請求項1には「補助具本,
体1の下部に」と記載されているだけで,それ以上の限定はない。しかも,本件考
案1は「…基礎工事において打込んだコンクリートに単なる釘を多数打込むよう,
な構成では,釘の夫々の頭部を所定のレベルに位置させることが至難である。また
仮に所定のレベルに位置させても釘の沈下あるいは傾斜が生じて所定のレベルを正
確に示し得ない(本件実用新案明細書【0004)との課題を解決するため,」】
「…打込んだコンクリートに対し,頭部を容易に所定のレベルに正確に位置させ得,
基礎の所定の高さを得ると共に表面を高度に水平化して美麗にするに,有効に寄与
し得る天端出し補助具を提供すること(同【0005)を目的として「…補助」】,
具本体1の上部に補助具本体1に対し直角方向且つ水平に延びる上羽根部2を,下
部に補助具本体1に対し直角方向且つ垂直に延びる下羽根部7を具備するから,天
端出し補助具の沈下,傾きを抑止できる(同【0008)との作用効果を奏す」】
るものである。以上のことからすると,本件考案1においては,下羽根部7が上羽
根部2の下にあり,天端出し補助具がコンクリートに差し込まれた状態でコンクリ
ート中に埋没する位置に形成されていれば足りると考えられる。
また,被告が指摘する本件特許公報中の記載も,上記認定を左右するに足りるも
のではない。
したがって,被告の上記主張は,本件考案1の技術的範囲をその実施例又はベス
トモードに限定しようとするものであり,到底採用することができない。
(4)まとめ
したがって,被告各製品は,いずれも,本件考案1及び2の構成要件をすべて充
足し,その技術的範囲に属する。
2本件発明1ないし3の構成要件充足性
(1)構成要件B2
前提事実のとおり,構成要件B2は「補助具本体1の上部に,補助具本体1に対,
し直角方向且つ水平に延びる上羽根部2が固着され」というものであるところ,被
告各製品はいずれも「天端調整ビス本体1の上部に,天端調整ビス本体1に対し直
角方向かつ水平に延びるツバ2が固着されている」との構成を有しているから,構
成要件B2を充足すると認められる。
(2)構成要件D2
前提事実のとおり,構成要件D2は「D2-1下部に,補助具本体1に対し直角方,
向且つ垂直に延び「D2-2下向きに先鋭に設けられた「D2-3下羽根部3が固」」
着されてなる」というものであるところ,被告各製品はいずれも「天端調整ビス本
体1のツバ2の下部に,天端調整ビス本体1に対し直角方向かつ垂直に延びる羽根
7が,ツバ2と一体となって固着されている」との構成を有し,被告製品2及び3
は,羽根7は,厚みにおいて,基端部から下端部に行くほど薄くなっており(被告
製品2において基端部で約1.4㎜,下端部で約0.6㎜,被告製品3において基
端部で約1.4㎜,下端部で約0.8㎜),幅において,両側端部が下端部に行く
ほどわずかであるが狭くなっている上,両側端部の下部の角がアール状に削られて
いるとの構成を有しているから,構成要件D2を充足すると認められる(被告製品1
が構成要件D2-2(先鋭)を充足することは,当事者間に争いがない。)。
(3)被告の主張に対する判断
ア一体の点
(ア)被告は,被告各製品はいずれもツバ2が羽根7と接合されて一体となっ
ているから,構成要件B2及びD2を充足しない旨主張する。
しかしながら,前提事実のとおり,本件発明1の構成要件B2は「補助具本体1,
の上部に,補助具本体1に対し直角方向且つ水平に延びる上羽根部2が固着され」
というものであり,構成要件D2は「下部に,補助具本体1に対し直角方向且つ垂,
直に延び(る)…下羽根部3が固着されてなる」というものであり,下羽根部7が上
羽根部2の直下で上羽根部2と一体となったものを排除する記載となっていないか
ら,被告の上記主張は採用することができない。
(イ)さらに,被告は,被告各製品は逆L字形の凹部が形成されて,その凹部
のコンクリートの流動抵抗によって傾斜抑止力を得るのに対し,本件発明1は主と
して上羽根部2,下羽根部7とコンクリート材との接触ないし密着による付着力に
よって生じる抑止力を利用しており,技術思想が異なる旨主張する。
しかしながら,上羽根部2と下羽根部7とが一体となっているか否かによって被
告主張の抑止力が生ずる機序が異なることを認めるに足りる証拠はないから,被告
の上記主張は理由がない。
イ下部の点
被告は,本件発明1における下羽根部を設ける「下部」は本体の下端部に近い箇
所となる旨主張する。
しかしながら,本件発明1の構成要件D2には「下部に,補助具本体1に対し直,
角方向且つ垂直に延び(る)…下羽根部3が固着されてなる」と記載されているだけ
で,それ以上の限定はない。しかも,本件発明1は「…基礎工事においてコンク,
リート,モルタルの打込みに伴い単に釘を多数埋設する構成では,釘の夫々の頭部
を所定のレベルに位置させることが至難である。また釘の埋設時に当初仮に所定の
レベルに位置させても,経時には釘の沈下あるいは傾きが生じて所定のレベルを正
確に示し得ない(本件特許明細書【0004)との課題を解決するため「…打」】,
込んだコンクリートないしモルタルに対し,極めて円滑に所定位置まで埋入させ得,
頭部を所定のレベルに正確に位置させると共に,コンクリート,モルタルと緊密に
結合させ,基礎の所定の高さを得ることができ,表面を高度に水平化して美麗にす
るに,有効に寄与し得る天端出し補助具…を提供すること(同【0005)を」】
目的として「…補助具本体1の上部に,補助具本体1に対し直角方向且つ水平に,
延びる上羽根部2が固着され,下部に,補助具本体1に対し直角方向且つ垂直に延
び,下向きに先鋭に設けられた下羽根部3が固着されてなる天端出し補助具によつ
て「…水平に延びる上羽根部2並びに垂直に延びる下羽根部3によつてコンクリ」
ート,モルタル地内での沈下,傾斜を抑止でき,更に下羽根部3が下向きに先鋭に
設けられているから,打込んだコンクリート,モルタルに天端出し補助具を埋設し
位置決めすることが極めて容易に推考され得る(同【0006【0007)と」】】
の作用効果を奏するものである。以上のことからすると,本件発明1においては,
下羽根部7が上羽根部2の下にあり,天端出し補助具がコンクリートに差し込まれ
た状態でコンクリート中に埋没する位置に形成されていれば足りると考えられる。
また,被告が指摘する本件特許公報中の記載も,上記認定を左右するに足りるも
のではない。
したがって,被告の上記主張は,本件発明1の技術的範囲をその実施例又はベス
トモードに限定しようとするものであり,到底採用することができない。
ウ下向きに先鋭の点
被告は「先鋭」とは「先がとがっていること」を意味するところ,被告製品2,
及び3の羽根7は,両角部分がアール状に丸く形成されており「下向きに先鋭,
に」設けられていないし,目的・作用効果の面から見ても,被告製品2及び3の構
成ではコンクリートへの挿入が極めて容易にされるとの効果は得られない旨主張す
る。
しかしながら,前提事実のとおり,被告製品2及び3の羽根7は,厚みにおいて,
基端部から下端部に行くほど薄くなっているから「下向きに先鋭」との構成要件,
を満たしている。幅においても,羽根7は,両側端部の下部の両角部がアール状に
削られているため,両側端部が先細りの形状をしており,アール状に削られていな
い場合に比しコンクリートへの挿入が容易となる効果を奏することは明らかである
から「下向きに先鋭に」との構成要件を満たしている。よって,被告の上記主張,
は採用することができない。
(4)まとめ
したがって,被告各製品は,いずれも,本件発明1ないし3の構成要件をすべて
充足し,その技術的範囲に属する。
3新規性又は進歩性欠如
(1)新規性について
ア公知技術①ないし⑱は,いずれも本件考案又は本件発明の構成要件のすべ
てを具備したものではない。
イしたがって,本件考案及び本件発明が新規性を欠くとはいえない。
(2)進歩性について
本件考案及び本件発明は,建築物などの基礎台,基礎柱等の基礎工事において,
鉄製型枠内に打ち込んだコンクリート等の天端ならし,すなわち基礎の所定の高さ
を得るとともに表面を水平にならす際に,打ち込んだコンクリートの上に天端なら
し材の流し込みをするレベルを示すための「天端出し補助具」に関するものであり
(本件実用新案明細書【0002,本件特許明細書【0002】),流動性のある】
コンクリートに対して用いられるものであるところ,公知技術①ないし⑱は,コン
クリート壁,地中等の硬質の取付面に打ち込まれる杭やアンカーに関するものであ
り(当事者間に争いのない事実),そもそも流動性のあるコンクリートに対して用い
られる天端出し補助具に関するものはない。
したがって,公知技術①ないし⑱中には,進歩性の判断において第1引用例とな
るべきものがないから,本件考案及び本件発明が進歩性を欠く旨の被告の主張は,
その余の点について判断するまでもなく理由がない。
4結論
以上によれば,原告の請求は,いずれも理由があるから認容することとし,仮執
行宣言についてはこれを相当と認め,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
市川正巳裁判長裁判官
大竹優子裁判官
頼晋一裁判官
(別紙)
被告製品目録1
1.商品名
「天端釘寒冷地用(大)全長104mm」又は「天端調整ビス《大」》
2.構成
a1長手棒状の天端調整ビス本体1を有している。
b1天端調整ビス本体1の上部に,天端調整ビス本体1に対し直角方向かつ水平
に延びるツバ2が固着されている。
c1天端調整ビス本体1の上端部に開口するネジ穴3に進退可能に調整ネジ4が
螺合されている。
d1-1天端調整ビス本体1のツバ2の下部に,天端調整ビス本体1に対し直角方
向かつ垂直に延びる羽根7が,ツバ2と一体となって固着されている。
d1-2羽根7は,厚みにおいて,基端部から下端部に行くほど薄くなり(基端部
で約1.4㎜,下端部で約0.9㎜),かつ,下縁部7aの先端が鋭角である。
また,羽根7は,幅において,両側端部が下端部に行くほどわずかであるが狭く
なっている。
e1天端調整ビスである。
f1調整ネジ4の上面に調整ドライバーを係合させるための十字穴6が設けられ
ている。
h1ツバ2は板状であり,正面図の上から見た外形が円形である。
j1天端調整ビス全体がプラスチック材で成る。
k1ツバ2及び羽根7が天端調整ビス本体1と同時成形されている。
3.図面の説明
第1図側面図
第2図正面図
第3図断面図(第1図のA-A線断面図)
第4図斜視図
符号の説明
1…天端調整ビス本体
2…ツバ
3…ネジ穴
4…調整ネジ
5…上端部
6…十字穴
7…羽根
7a…下縁部
以上
(別紙)
被告製品目録2
1.商品名
「天端釘一般用(小)全長88mm」又は「天端調整ビス《小」》
2.構成
a2長手棒状の天端調整ビス本体1を有している。
b2天端調整ビス本体1の上部に,天端調整ビス本体1に対し直角方向かつ水平
に延びるツバ2が固着されている。
c2天端調整ビス本体1の上端部に開口するネジ穴3に進退可能に調整ネジ4が
螺合されている。
d2-1天端調整ビス本体1のツバ2の下部に,天端調整ビス本体1に対し直角方
向かつ垂直に延びる羽根7が,ツバ2と一体となって固着されている。
d2-2羽根7は,厚みにおいて,基端部から下端部に行くほど薄くなっている
(基端部で約1.4㎜,下端部で約0.6㎜)。
また,羽根7は,幅において,両側端部が下端部に行くほどわずかであるが狭く
なっている上,両側端部の下部の角がアール状に削られている。
e2天端調整ビスである。
f2調整ネジ4の上面に調整ドライバーを係合させるための十字穴6が設けられ
ている。
h2ツバ2は板状であり,正面図の上から見た外形が円形である。
j2天端調整ビス全体がプラスチック材で成る。
k2ツバ2及び羽根7が天端調整ビス本体1と同時成形されている。
3.図面の説明
第1図側面図
第2図正面図
第3図断面図(第1図のA-A線断面図)
第4図斜視図
符号の説明
1…天端調整ビス本体
2…ツバ
3…ネジ穴
4…調整ネジ
5…上端部
6…十字穴
7…羽根
以上
(別紙)
被告製品目録3
1.商品名
「天端調整ビス(小-60」)
2.構成
a3長手棒状の天端調整ビス本体1を有している。
b3天端調整ビス本体1の上部に,天端調整ビス本体1に対し直角方向かつ水平
に延びるツバ2が固着されている。
c3天端調整ビス本体1の上端部に開口するネジ穴3に進退可能に調整ネジ4が
螺合されている。
d3-1天端調整ビス本体1のツバ2の下部に,天端調整ビス本体1に対し直角方
向かつ垂直に延びる羽根7が,ツバ2と一体となって固着されている。
d3-2羽根7は,厚みにおいて,基端部から下端部に行くほど薄くなっている
(基端部で約1.4㎜,下端部で約0.8㎜)。
また,羽根7は,幅において,両側端部が下端部に行くほどわずかであるが狭く
なっている上,両側端部の下部の両角部がアール状に削られている。
e3天端調整ビスである。
f3調整ネジ4の上面に調整ドライバーを係合させるための十字穴6が設けられ
ている。
h3ツバ2は板状であり,正面図の上から見た外形が円形である。
j3天端調整ビス全体がプラスチック材で成る。
k3ツバ2及び羽根7が天端調整ビス本体1と同時成形されている。
3.図面の説明
第1図側面図
第2図正面図
第3図断面図(第1図のA-A線断面図)
第4図斜視図
符号の説明
1…天端調整ビス本体
2…ツバ
3…ネジ穴
4…調整ネジ
5…上端部
6…十字穴
7…羽根
以上

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