弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
被告人を懲役5年及び罰金200万円に処する。
未決勾留日数中140日をその懲役刑に算入する。
その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期
間被告人を労役場に留置する。5
別紙記載の金銭債権並びに札幌地方検察庁で保管中の大麻及び麻薬を没収
する。
被告人から金1590万5535円を追徴する。
理由
(罪となるべき事実)10
被告人は,
第1Aと共謀の上,営利の目的で,みだりに,令和2年3月9日頃,札幌市a区
内から,Bに対し,大麻を含有する植物片約30グラムを,代金9万円で,北
海道旭川市(以下,住所省略)C方宛てにレターパックで発送し,同月11日,
情を知らない配達員に同所に配達させて前記Bの依頼を受けていた前記Cに受15
領させ,もって大麻を譲り渡したほか,大麻をみだりに譲り渡す意思をもって,
令和元年11月25日頃から令和2年6月12日までの間,多数回にわたり,
同区内又はその周辺から,多数人に対し,大麻様のものを大麻として,レター
パックで発送して受領させる方法により有償で譲り渡し,もって大麻を譲り渡
す行為と薬物犯罪を犯す意思をもって薬物その他の物品を規制薬物として譲り20
渡す行為を併せてすることを業とし
第2大麻をみだりに譲り受ける意思をもって,別表記載のとおり,令和元年11
月25日頃から令和2年6月11日頃までの間,14回にわたり,前記Aに,
同区内又はその周辺から,大麻様のもの合計約300グラムを,代金合計68
万円で,大阪府寝屋川市(以下,住所省略)被告人方ほか2か所にレターパッ25
クで発送させ,令和元年11月27日頃から令和2年6月12日までの間,大
阪府内において,情を知らない郵便局員らから前記レターパックを受領し,も
って大麻様のものを大麻として譲り受け
第3みだりに,同年7月20日,前記被告人方において,大麻を含有する樹脂状
固形物約709グラム(札幌地方検察庁令和2年領第833号符号1-1及び
同号符号1-2はその鑑定残量)及び麻薬であるリゼルギン酸ジエチルアミド5
(通称LSD)を含有する紙片1片(札幌地方検察庁令和2年領第833号符
号2-1はこれを分断したもの)を所持し
たものである。
(法令の適用)
罰条10
判示第1の所為刑法60条,麻薬特例法5条2号(大麻取締法24条の
2第2項,1項,麻薬特例法8条2項)
判示第2の所為包括して麻薬特例法8条2項
判示第3の所為
大麻樹脂を所持した点大麻取締法24条の2第1項15
LSDを所持した点麻薬及び向精神薬取締法66条1項
科刑上一罪の処理判示第3の罪について,刑法54条1項前段,10条
(1つの行為が2つの罪名に該当する場合であるから,1
罪として重い麻薬及び向精神薬取締法違反の罪の刑で処断
する。)20
刑種の選択判示第1の罪について,有期懲役刑及び罰金刑を選択す
る。
判示第2の罪について,懲役刑を選択する。
併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(判示第1ないし
第3の罪は併合罪であるから,懲役刑については,最も重25
い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定
の加重をする。)
未決勾留日数算入刑法21条
労役場留置刑法18条1項,4項(金1万円を1日に換算する。)
没収
別紙番号3・4記載の金銭債権麻薬特例法11条1項1号,2号(いずれも判示第1の5
罪により得た薬物犯罪収益及び薬物犯罪収益に由来する財
産である。)
別紙番号1記載の大麻大麻取締法24条の5第1項本文(判示第3の大麻取締
法違反の罪に係る大麻で,被告人の所有するものである。)
別紙番号2記載の麻薬麻薬及び向精神薬取締法69条の3第1項本文(判示第10
3の麻薬及び向精神薬取締法違反の罪に係る麻薬で,被告
人の所有するものである。)
追徴麻薬特例法13条1項前段(判示第1の犯行により犯人
が得た金1590万6000円は,同法11条1項1号の
薬物犯罪収益に該当するが,そのうち金1590万55315
5円は既に費消して没収することができないので,その価
額を被告人から追徴する。)
訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1本件の量刑の中心となるのは,判示第1の麻薬特例法違反の事実である。20
2⑴被告人は,Aと共謀の上,166回にわたり,SNSを通じて募った約10
8人の客に対して大麻等合計約4942グラムを合計1590万6000円で
譲渡した。これらが約6か月という期間で行われたことからすると,被告人ら
の犯行の規模は大きい。また,若年者を含む幅広い世代が使用するSNSを使
用したことは,客が大麻を購入するハードルを下げるものであり,被告人の行25
為は大麻を社会に広めるものであった。一方で,組織的な背景は認められず,
送金手段に自己名義の口座を使用するなど,周到に計画された犯行とまではい
えない。
⑵次に,被告人は,大麻を栽培していたAからその収穫量の連絡を受け,客と
の間で大麻の量及び売買金額等を決め,客から代金の支払いを受けた後,Aの
取り分を送金し,大麻の送付先をAに知らせる,という役割を果たしていた。5
被告人は,自らの判断で売買代金を相場より安く設定するなどして効率的に集
客を図り,その結果前述のような規模の大きい犯行となるに至っている。また,
Aと被告人は,相互に協力し合って,短期間のうちに多量の大麻等を譲渡し,
多額の利益を得たのであるから,大麻等の譲渡について被告人が果たした役割
は,Aと同等と見るべきである。Aは,被告人と知り合うまでは栽培した大麻10
の密売がうまくいっていなかったのであり,Aにとって,約6か月の間に共に
多量の大麻等を密売した被告人は,決して代替可能な存在ではなかったといえ
る。そして,被告人の取り分がそのうち474万8500円だったとしても,
被告人が得た利益は少ないとはいえない。もっとも,被告人は大麻の栽培はし
ておらず,この点については処罰の対象ともなっていないことから,栽培にも15
関与していた場合に比べれば,その刑事責任を重く見過ぎることはできない。
さらに,被告人は,19歳頃に大麻を初めて使用した後,少なくともAと共
に大麻等の密売をしていた約6か月の間,14回にもわたって,合計約300
グラムの大麻様のものを大麻としてAから譲り受けている。しかも,被告人は
家族の生活費を稼ぐ必要があったと供述していながら,この大麻の購入に合計20
68万円も支出しており,このこと自体だけでも,被告人の大麻に対する親和
性が強いことを表している。その上,被告人は,大麻樹脂やLSDも購入して
所持している。
本件犯行の動機について,被告人は,当時交際していた妻の妊娠が分かり,
結婚を決意したため,引越費用や新生活にかかる費用を稼ぐ必要があり,家族25
のため,大麻の密売に手を出した,途中,新型コロナウイルス感染症の影響も
あって失職するなどし,密売が唯一の収入源となってしまい,やめるにやめら
れなかったなどと供述する。しかし,家族のため生活費用等を稼ぐ必要がある
としても,他の方法によらずに犯罪で収入を得るというのは短絡的であり,量
刑上有利に酌むことはできない。
以上に照らせば,本件は,同種事案の中で最も重い事案とまではいえないが,5
被告人の刑事責任は相応に重い位置づけになるといわざるを得ず,弁護人が主
張するように,「犯罪の情状に酌量すべきものがある」として酌量減軽をする
のは相当でない。
3以上で検討した事情を踏まえ,大麻等の譲渡を業として行った場合における量
刑傾向を参考に,被告人に前科前歴がないこと,被告人が有利不利問わず事実を10
素直に話していること,被告人の更生を支える母や妻,3人の子らがいて,被告
人に帰る場所があることなど,弁護人の主張する被告人に有利に酌むべき事情も
考慮し,被告人に対しては,前記位置づけの中で主文のとおりの刑をもって臨む
のが相当であると判断した。
(求刑-懲役7年及び罰金200万円,主文同旨の没収,追徴)15
令和3年3月11日
札幌地方裁判所刑事第2部
裁判長裁判官中川正隆
裁判官宇野遥子
裁判官田中大地20
(別紙及び別表省略)

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