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裁判例


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         主    文
     原判決及び第一審判決を次のとおり変更する。
     1 被上告人が昭和四一年六月二九日付で上告人の昭和三八年九月一日
から昭和三九年八月三一日までの事業年度分の法人税についてした更正及び過少申
告加算税賦課決定は、課税所得金額一六九万〇七二九円を基礎として算出される税
額を超える部分を取り消す。
     2 被上告人が昭和四一年六月二九日付で上告人の昭和三九年九月一日
から昭和四〇年八月三一日までの事業年度分の法人税についてした更正及び過少申
告加算税賦課決定は、課税所得金額三七万三四五一円を基礎として算出される税額
を超える部分を取り消す。
     3 上告人のその余の請求を棄却する。
     訴訟の総費用はこれを一〇分し、その一を上告人の、その余を被上告人
の各負担とする。
         理    由
 上告代理人根岸隆の上告理由第一点について
 昭和四〇年法律第三四号による全面改正前の法人税法三二条及び右全面改正後の
法人税法一三〇条二項は、青色申告にかかる法人税について更正をする場合には、
更正通知書に更正の理由を附記すべき旨を定めているが、右のように法が更正通知
書に更正の理由を附記すべきものとしているのは、法が青色申告制度を採用して、
青色申告にかかる所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載
に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを
納税者に保障した趣旨にかんがみ、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してそ
の恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与
える趣旨に出たものというべきであり、したがつて、帳簿書類の記載を否認して更
正をする場合において更正通知書に附記すべき理由としては、単に更正にかかる勘
定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上
に信憑力のある資料を摘示することによつて具体的に明示することを要するもので
あることは、当裁判所の判例とするところである(当裁判所昭和三六年(オ)第八
四号同三八年五月三一日第二小法廷判決・民集一七巻四号六一七頁、同昭和三七年
(オ)第一〇一五号同三八年一二月二七日第二小法廷判決・民集一七巻一二号一八
七一頁、同昭和四〇年(行ツ)第五号同四七年三月三一日第二小法廷判決・民集二
六巻二号三一九頁、同昭和四三年(行ツ)第六一号同四七年一二月五日第三小法廷
判決・民集二六巻一〇号一七九五頁、同昭和四七年(行ツ)第八八号同五一年三月
八日第二小法廷判決・民集三〇巻二号六四頁参照)。そして、このことは、ある勘
定科目にかかる計上金額について当該金額以上の収益又は費用若しくは損失の存在
が認められるとして更正をする場合であると、当該金額の収益又は費用若しくは損
失の存在が認められないとして更正をする場合であるとによつて、異なるところは
ない。
 そこで本件をみるのに、原審の適法に確定するところによれば、被上告人は、(
A)青色申告法人である上告会社の昭和三八年九月一日から昭和三九年八月三一日
までの事業年度分(以下「昭和三九年度分」という。)法人税の更正において、上
告会社が確定申告において損金に計上していた上告会社のD支店関係取引による欠
損金二八〇万九三五九円のうち訴外E食品工業株式会社(以下「E食品」という。)
関係の支払利息一五五万八七七五円の損金算入を否認しながら、更正通知書にはそ
の理由として「(1)主要取引銀行であるF銀行G支店の取引は、E食品の借入金に
よるH個人名義により取引されていること。(2)D支店は昭和三九年一月E食品の
倒産時に設置されており、取引内容も債務整理関係のみで貴社の支店とは認められ
ないこと。」と記載したにとどまり、また、(B)上告会社の昭和三九年九月一日
から昭和四〇年八月三一日までの事業年度分(以下「昭和四〇年度分」という。)
法人税の更正においては、上告会社が確定申告において損金に計上していた(イ)
E食品関係の支払利息三〇九万七〇〇〇円及び(ロ)E食品に対する支払家賃五〇
万円の損金算入を否認しながら、更正通知書には、その理由として、前者について
は、「E食品貸付金勘定より期末一括して支払利息に振り替えた下記のものについ
てはE食品の負債整理のためのもので会社の損金と認められません。」と記載し、
支払相手別に支払金額を示したにとどまり、後者についても、「E食品に対する未
払家賃は債務未確定のため」と記載したにとどまつた、というのである。被上告人
は、右(A)及び(B)(イ)の各支払利息は、いずれもE食品の負債整理のため
のものであり、上告会社がこれを負担すべき合理的理由がないと判断してこれを否
認したものであり、前記各更正理由の記載は、いずれも右の趣旨を明らかにしたも
のである旨を主張するが、右更正理由の記載からは、右各支払利息が何ゆえにE食
品の負債整理のためのものであるとされるのか、また、E食品の負債整理のための
ものであると何ゆえに上告会社が現実に支払つた利息を損金として計上することが
許されないのかについてその具体的根拠を全く知ることができないうえ、右各支払
利息をE食品の負債整理のためのものと認定した資料の摘示もないのであるから、
右の程度の記載では、理由の附記としてはなお不十分であつて、法の要求する更正
理由の附記があつたものということはできない。なお、仮に右(A)の支払利息の
損金算入否認が、上告会社のD支店なるものが上告会社の支店たる実体を有するも
のとは認められないので右D支店関係の取引全体が上告会社の営業取引とは認めら
れないとしてされたものであるとしても、前記更正理由の記載のみでは、いまだ何
ゆえに右D支店が上告会社の支店と認められないのかについてその具体的根拠を明
らかにしているとはいえないうえ、そのように認定する資料の摘示もないのである
から、法の要求する更正理由の附記があつたものとすることはできない。次に、前
記(B)(ロ)の支払家賃五〇万円について、被上告人は、右は、上告会社とE食
品との間には賃貸借契約が締結されておらず、また、上告会社は賃料の支払いもし
ていないから、使用貸借であつて、債務として確定していないと判断してこれを否
認したものであり、前記更正理由の記載はその趣旨を記載したものであると主張す
る。右の記載を善解すれば、被上告人主張の趣旨を記載したものと解することがで
きないでもないが、被上告人が右のような認定をするに至つた資料についてはその
摘示が全くないのであるから、右更正理由の記載もまた、法の要求する更正理由の
附記としてはなお不十分なものであるといわざるをえない。原審が前記の程度の更
正理由の記載をもつて法の要求する更正理由の附記として欠けるところがないと判
断したのは、法律の解釈適用を誤つたものであるといわざるをえず、これをいう論
旨は理由がある。
 それゆえ、本件上告はこの点において理由があり、その他の論旨について判断を
加えるまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、右に説示したところによれ
ば、上告会社の昭和三九年度分法人税の更正及び過少申告加算税賦課決定のうち、
審査裁決によつて維持された課税所得金額四二一万五三八〇円から、第一審判決に
おいて理由附記不備の違法があるとされたHに対する支払利息九六万五八七六円の
ほか、前記E食品関係の支払利息一五五万八七七五円を控除した一六九万〇七二九
円を基礎として算出される税額を超える部分は、違法として取消しを免れず、また、
上告会社の昭和四〇年度分法人税の更正及び過少申告加算税賦課決定のうち、審査
裁決によつて維持された課税所得金額五七一万〇〇八〇円から、第一審判決におい
て理由附記不備の違法があるとされたHに対する支払利息九七万五五九九円及びI
信用金庫に対する支払利息九八万一五〇〇円のほか、前記E食品関係の支払利息三
〇九万七〇〇〇円及びE食品に対する支払家賃五〇万円を控除したうえ、右昭和三
九年度分法人税の更正の一部取消しに伴う事業税額の減額分二一万七四七〇円(被
上告人は、昭和四〇年度分法人税の更正及び過少申告加算税賦課決定において、損
金に算入すべき事業税額を右一部取消し前の昭和三九年度分法人税の更正における
課税所得金額四二一万五三八〇円を基礎として三二万四六三〇円と計算していたが、
前示のように右昭和三九年度分法人税の更正を一部取り消しその課税所得金額を一
六九万〇七二九円とした場合、これを基礎として算出される前記事業税額は一〇万
七一六〇円となるから((昭和四九年法律第一九号による改正前の地方税法七二条の
二二第一項二号参照))、その差額二一万七四七〇円は損金計算上減額すべきもので
ある。)を加算した三七万三四五一円を基礎として算出される税額を超える部分は、
違法として取消しを免れないことが明らかであるから、原判決及び第一審判決は主
文第一項のとおり変更すべきものである。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八六条、三八
四条、九六条、九二条、八九条に従い、裁判官中村治朗の反対意見があるほか、裁
判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官中村治朗の反対意見は、次のとおりである。
 私は、本件各更正処分中訴外E食品工業株式会社(以下「E食品」という。)関
係の支払利息の損金算入を否認した部分については、各更正理由の記載が法の要求
するところに合致しない違法があるとする多数意見と同意見であるが、昭和四〇年
度分の更正処分中E食品に対する支払家賃五〇万円の損金算入を否認した部分につ
いても同様の違法があるとする点に関しては、多数意見に同調することができない。
 右の家賃部分の損金算入を否認する理由として更正処分が掲げるところは、「E
食品に対する未払家賃は債務未確定のため」という極めて簡単なものであり、確か
にこれだけでは、上告人も主張するように、債務未確定の場合として考えられるさ
まざまの場合のうちのいずれを指すのかが明確にされているとはいえないとの批判
が生ずるのもやむをえないかもしれない。しかしながら、原審の認定するところに
よれば、上告会社は昭和三九年一月E食品からその工場、設備一切を賃料月額四〇
万円で賃借したが、同年三月末日右賃貸借契約は合意解約され、その後訴外J産業
株式会社(以下「J産業」という。)が右工場等を賃借し、上告会社はJ産業の了
解のもとに右工場の一部分を使用していたが、昭和四〇年五月ころJ産業が事業に
失敗して右工場から退去したため、その後借り手のないままに、上告会社が徐々に
その使用面積を拡げて行き、後には右工場敷地の約半分を使用するに至つたが、右
使用に関しては上告会社とE食品の間に賃料支払の合意があつたと認められないこ
とはもちろん、E食品が賃料の支払を前提として上告会社による使用を容認してい
たとも認められないというのである。このように、上告会社による賃料の現実の支
払もなく、また、賃料債務発生の原因となる事実の存在も認められない場合におい
ては、課税庁として上告会社が損金として計上した家賃支払を否認するにあたつて
は、その理由として右の両事実を指摘すれば足りるものというべきところ、前記更
正理由中「未払」家賃と記載しているのは家賃の現実の支払がなされていないこと
を、また「債務未確定」と記載しているのは確定金額の賃料債務発生の原因である
事実の存在しないことをそれぞれ表示したものと解しえられないではなく、更正の
具体的理由の表示につき法の要求するところを最小限度みたしたものとみて差支え
なく、多数意見もこの点に関する限りはこれと同一の見解をとつている。私見が多
数意見とわかれるのは、多数意見が、更正の理由として単に右のような点を指摘す
るだけでは足りず、課税庁がそのような認定判断をする根拠となつた資料で上告会
社の帳簿記載以上に信憑力のあるものを提示する必要があるのに、本件の場合には
その提示がないから、結局更正につき法の要求する理由の記載を欠くこととなると
している点についてである。
 多数意見の引用する当裁判所の従来の判例は、青色申告の場合における更正理由
の記載においては、右のような資料の提示が必要であると解しており、私も、一般
論としてはこの解釈は正当であると考える。しかし、課税庁が更正を行う場合及び
その理由は多岐多様にわたり、右の一般論をもつては律し切れない場合又はこれを
適当としない場合もありうるのであつて、上記各判例は、このような場合について
も上記のような資料の提示を要求する趣旨ではないと思う。本件の場合についてみ
ると、上告会社は五〇万円の家賃支払を経費として計上しているが、記録及びこれ
を通じて看取される弁論の全趣旨に徴すると、右賃貸借については、賃貸借契約書
や賃料の支払に関する帳簿書類はなく、また、賃料債務の発生を示すものも存在し
ないことがうかがわれるし、他方工場等の使用に関する実際の事実関係は上記のご
ときものであつたのである。もとよりこのような場合においても、更正処分をする
課税庁としては、あるいは債権者であるE食品から自己の認定を裏づける資料を取
得し、あるいはその行つた反面調査の結果を書面資料として用意するなどしたうえ、
これらを提示して上記損金算入否認の理由を説明するのが万全の措置というべきで
あろうが、私には、課税庁に対してそこまでを法律上の義務として要求するのは妥
当とは思えない。それ故、被上告人がその調査の結果前記のような認定判断に到達
した旨を更正理由に記載しただけで、それ以上にこのような認定判断の根拠資料を
具体的に提示するところがなかつたとしても、そのことの故をもつて更正の理由の
記載につき法の要求するところに欠けるものがあるとしてこれを違法とすることに
はちゆうちよするものを感ぜざるをえないのである。
 右の次第で、私は、上告理由第一点中前記五〇万円の家賃の損金算入についての
更正処分に関する部分は理由なきものとしてこれを排斥すべきものと考えるもので
ある。なお、右の部分に関するその他の上告理由は、いずれも原審の事実の認定判
断の不当をいうに帰するものであるところ、この点に関する原審の認定判断は原判
決挙示の証拠に照らし正当として是認することができるから、すべて採用すること
ができない。そうすると、原判決は右の部分に関しては正当として維持すべきもの
であるから、本件の処理としては、本件更正処分中冒頭掲記の支払利息に関する部
分についての上告はこれを認容し、第一審判決及び原判決はいずれも右の限度にお
いてこれを変更し、その余の上告は失当としてこれを棄却する趣旨の判決をすべき
ものと思う。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    本   山       亨
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    戸   田       弘
            裁判官    中   村   治   朗

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