弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人等三名の弁護人坂本泉太上告趣意第一点について。
 旧刑訴第三六〇条第一項に依れば、所論のごとく、有罪の言渡を為すには、判決
書において罪となるべき事実を判示することを要する。蓋し、その趣旨とするとこ
ろは、法令を適用する事実上の根拠を明白ならしめるためである。
 そして罪となるべき事実とは、刑罰法令各本条における犯罪の構成要件に該当す
る具体的事実をいうものであるから、該事実を判決書に判示するには、その各本条
の構成要件に該当すべき具体的事実を該構成要件に該当するか否かを判定するに足
る程度に具体的に明白にし、かくしてその各本条を適用する事実上の根拠を確認し
得られるようにするを以て足るものというべく、必ずしもそれ以上更にその構成要
件の内容を一層精密に説示しなければならぬものではないといわねばならぬ。
 そして、刑法第一八五条所定の賭博罪並びに身分に因るその加重犯たる同法第一
八六条第一項所定の常習賭博罪における各賭博の犯罪構成要件は「偶然の勝敗に関
し財物を以て博戲又は賭事を為す」のであるから、これに該当する具体的事実を判
示するには、当該所為が右構成要件に該当するか否かを判定するに足る程度に具体
的であり、従つて同条を適用する事実上の根拠を確認し得れば、差支えないものと
いわねばならぬ。そして、原判決は、論旨摘録のように「被告人等は外数名と共に
花札を使用し、金銭を賭け俗にコイ々々又は後先と称する賭博を為したものである。」
と判示したのであるから、その判示は、当該行為が同罪の構成要素たる「財物」に
該当する金銭であること並びに他の構成要素たる「偶然の勝敗を決すべき博戲」に
該当する俗にコイ々々又は後先と称する数名の当事者が花札を使用して勝敗を争う
博戲であることを明白にしているものと言うべく、従つてその判示を以て前示法条
を適用する事実上の根拠を確認せしめるに足るものとするに妨げない。されば、そ
れ以上更に財物たる金銭の種類、数額若しくは所論のように、その博戲の手段方法
等を一層精密に判示しなかつたからと言つて賭博の判示の理由に不備の違法はない
ものといわねばならぬ。但し旧刑訴第三六〇条第一項は、同第四九条第一項所定の
裁判の理由を有罪判決の理由において具体的に示すべき最小限度の要件を規定した
もので、裁判の理由とは、主文の因て生ずる理由に外ならないから、有罪判決の理
由には、罪となるべき事実の外主文の因て生ずる量刑の事由をも示すを妥当とすべ
きこと勿論である。されば、有罪判決の理由には罪となるべき事実の外犯罪の原因、
動機、手段の特殊性、結果の軽重等をも判示するを相当とすべく、本件のごとき賭
博罪にあつては時として、財物の種類、数額、賭博方法の詳細、勝敗の回数、結果
等をも判示するを適当とすることがある。殊に常習賭博においては、賭金の数額、
手段方法の如何、勝負の回数結果等によつて常習を認定判示し得べき場合あること
を忘れてはならない。しかし、これらの判示方法はいずれも妥当の問題であつて違
法の問題ではない。それ故論旨はその理由がない。
 同第二点について。
 しかし、公判期日における訴訟手続は、公判調書のみによつて証明することを得
るものであり、そして所論原審第二回公判調書によれば、原判決の基礎となつた公
判手続は、適式に更新せられているから、此の点に対する所論攻撃は採るを得ない。
また、同公判調書並びにこれに引用されている同第一回公判調書によれば、所論各
前科調書については適式に証拠調の手続を施行されたこと明白であるから此の点に
対する所論も当らない。論旨は、すべてその理由がない。
 よつて旧刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 安平政吉関与
  昭和二四年二月一〇日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    岩   松   三   郎

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