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判決 平成14年2月22日判決言渡 平成13年(ワ)第1973号 帳簿閲覧請
求事件
          主         文
 1 被告は,原告に対し,別紙目録記載の帳簿及び書類を閲覧させよ。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。
          事 実 及 び 理 由
第1 請求
   主文同旨
第2 事案の概要
 株式会社である被告の発行済株式総数の100分の3以上の株式を有する株
主であると主張する原告が,商法293条の6に基づき被告の帳簿等の閲覧を請求
した事案
 1 前提事実
  (1) 被告は,昭和37年7月28日に設立した株式会社であって,設立以降,
株券を発行したことはなかった(設立日については甲1)。
(2) 訴外Aは,平成11年11月1日,被告の発行済株式のうち半分を有して
いた。
  (3) Aは,訴外セクト株式会社(以下,「セクト」という。)に対し,平成1
1年11月1日,Aの有する被告株式すべてを譲渡した。
(4) Aは,平成13年2月6日,被告に対し,上記譲渡を通知した(甲2の
1,2)。
(5) 原告は,平成13年3月2日頃,被告に対し,セクトが,平成12年7月
1日,原告に対し,セクトの有する被告株式すべてを原告に譲渡したことを証する
セクト名義の証書を同封して,その譲受を通知した(甲4,乙3)。なお,セクト
は,その旨,被告に通知していない。
  (6) 原告は,被告に対し,平成13年6月13日,以下の理由を記載した内容
証明郵便をもって,別紙目録記載の帳簿及び書類(以下,「本件帳簿等」とい
う。)を含む過去5年分の株主総会議事録並びに会計の帳簿及び書類につき閲覧・
謄写を求めた(甲3の1,2)。
    理由 被告代表取締役Bによる会社経営に公私混同・放漫経営の疑いがあ
ること。
 2 争点
  (1) 平成11年11月1日の被告の発行済株式数及びAの有した株式数
  (原告の主張)
    被告の発行済株式数は2万株で,Aの有した株式数は1万株である。
  (被告の主張)
    被告の発行済株式数は1万6000株で,Aの有した株式数は8000株
である。 
  (2) セクトの原告に対する被告株式の譲渡の有無
  (原告の主張)
    セクトは,平成12年7月1日,原告に対し,被告株式1万株を譲り渡し
た。
  (被告の主張)
    不知
  (3) 上記譲渡の被告への対抗の可否
  (原告の主張)
ア 被告は,設立以来,今日に至るまで株券を発行しておらず,株券不所持を
理由として,株式譲渡や株主名簿の名簿の名義書換を拒むことは許されない。
 また,原告は,平成13年3月2日付け通知によって,被告に対して,上
記の方法で株式譲受を通知しており,この通知には当然名義書換を求める趣旨を含
むものであって,原告が正当な譲受人であることは明らかであり,そのことは被告
も当然に認識しうる。
 したがって,被告が名義書換未了を理由として,原告の帳簿閲覧を拒むこ
とは信義則上許されない。
イ 仮に,上記主張が認められないとしても,被告は,原告が実質上の株主で
あることを知っていたのであって,しかも,原告が名義書換請求をしたとしても,
被告がこれを拒絶したであろうことは明らかである。何故ならば,被告は,かっ
て,Aの名義書換請求に対し,何らの通知も返答もなく名義書換を拒んだからであ
る。
ウ 被告は,株式とは株主の地位で,単なる債権とは異なり,その譲渡性が強
く保障され,本来は株券が発行されることによって債権譲渡とは全く異なる株券の
交付によって譲渡ができ,株券の占有者は適法の所持人と推定する旨定めているの
であり(商法205条),ここでは譲渡人からの通知や何らの意思表明も必要とは
されていない。
 株券を発行していないのは,被告の責任であり,株券を発行していないこ
とを理由にその株式譲渡に特別な規制を加えることが許されるべきではない。
(被告の主張)
 株式も債権であり,株券を発行していない会社においては株式譲渡を対抗
するには債権譲渡の通知等が必要と解すべきである。したがって,その通知等がな
い以上,原告は,その譲受を被告に対抗できない。
第3 当裁判所の判断
1 平成11年11月1日の被告の発行済株式数及びAの有した株式数
 甲1,乙1によると,被告の発行済株式数は,平成11年11月1日当時,
1万6000株であって,Aは,当時,8000株を有していたとの事実が認めら
れる。なお,甲1によると,額面株式1株の金額が500円で,平成7年9月30
日に資本の額が1000万円に増額されたと認められるが,増資は,準備金等の資
本組入等によってもすることができるから,その増資の事実から株式総数が2万株
となったと認めることはできない。
2 セクトの原告に対する被告株式の譲渡の有無
 甲4,乙3によると,セクトは,平成12年7月1日,原告に対し,被告株
式8000株を譲り渡したと認められる。
3 上記譲渡の被告への対抗の可否
(1) 商法204条2項は,株券発行前の株式譲渡につき株式会社に対して効力
を生じない旨規定するが,これは,会社が株券を遅滞なく発行することを前提とし
ており,この前提の下,円滑かつ正確な株券発行事務が行われるようにするため,
会社に対する関係において株券発行前における株式譲渡の効力を否定する趣旨であ
る。そうすると,会社が遅滞なく株券を発行するという前提を欠くような場合につ
いてまで,会社との関係で株式譲渡の効力を否定することは許されない。したがっ
て,会社がこのような趣旨に反して株券の発行を不当に遅滞し,信義則に照らして
も株式譲渡の効力を否定すべきではないと認められる場合には,会社は,株式譲渡
の効力を否定できず,譲受人を株主として取り扱わなければならないと解するのが
相当である。
 そこで,被告に上記株券の発行を不当に遅滞したとの事情が認められるか
であるが,本件においては,前記のとおり被告は昭和37年7月28日に設立され
てから40年近くもの間,株券を発行していないから,株券の発行を不当に遅滞し
ていることは明らかであり,信義則に照らし,株券不発行を理由に,セクト・原告
間の株式譲渡の効力を否定すべきではないと認められる。
(2) そこで,次に,株式会社が株券の発行を不当に遅滞した場合に株式譲渡を
会社に対抗するためには,指名債権譲渡の方法によることを要するかが問題とな
る。
 株式は株主の地位であって,株主権は株主の会社に対する包括的な権利で
あるから,特定人に対する債権である指名債権とはその性格を異にする以上,株式
譲渡と指名債権譲渡とを同列に論じることはできない。また,株主は株式を自由に
譲渡できるのが原則であり,会社は遅滞なく株券を発行すべきところ,会社が株券
発行をしていない場合,会社に株券発行の遅滞という帰責性が認められるにもかか
わらず,株式を譲渡しようとする株主に指名債権譲渡と同様の対抗要件具備を要求
するとすれば,株主に対し,自由に株式を譲渡することができなくなるとの不利益
を強いることになってしまい妥当でない。
 したがって,会社が株券の発行を不当に遅滞し,信義則上株券不発行を理
由に,会社に株式譲渡の効力を対抗できる場合には,指名債権譲渡の方法による対
抗要件の取得は不要と解すべきである。
 なお,株式会社は画一的処理,したがって,法律関係の明確化の要請が高
く,その要請は本件のように株式が転々譲渡された場合に特に顕著であること,有
価証券以外の財産の譲渡についても我が国現行法が対抗要件主義を採用しているこ
ととの均衡を図るべきことから,指名債権の方法による対抗要件の取得を必要とす
る見解も十分検討に値するが,上記で指摘する会社の帰責性からすると,そのこと
による不都合は全面的に会社が負担すべきであるから,この見解は採用しない。
(3) なお,名義書換が未了である点については,本件は,株券が発行されてい
ない場合であっても株式譲渡の効力を会社に対抗できる事案であるところ,このよ
うな事案においては,会社は株式譲受人を株主として取り扱うべきである。したが
って,株主名簿の書き換えがなされていなくても,株式譲受人は株主として会社に
対抗できると解するのが相当である。
第4 結語
以上によれば,原告の本訴請求は理由がある。
神戸地方裁判所第6民事部
     裁 判 官   水   野   有   子

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