弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
         理    由
 被告人株式会社A(以下「被告会社」という。)の控訴の趣意は、弁護人佐藤義
行名義の控訴趣意書(一)及び「答弁書に対する反論書」と題する書面並びに弁護
人神宮壽雄、同勝尾鐐三連名の控訴趣意書に、被告人Bの控訴の趣意は、弁護人神
宮壽雄、同勝尾鐐三連名の控訴趣意書に、被告人Cの控訴の趣意は、弁護人佐藤義
行名義の控訴趣意書(二)及び「答弁書に対する反論書」と題する書面に、これら
に対する答弁は、検察官樋田誠名義の答弁書に、それぞれ記載のとおりであるか
ら、これらを引用する。
 第一 被告会社関係
 各論旨は、いずれも、要するに、被告会社に対する原判決の量刑は重過ぎて不当
である、というのである。
 そこで、原審の記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果を加え
て検討するに、本件は、D銀行株式会社本店の不動産営業部次長の地位にあり、か
つ、被告会社の実際上の経営者としてその業務全般を統括していた被告人B、被告
会社の代表取締役としてその業務全般を総括していた原審相被告人E及び被告会社
の取締役としてその経理事務を扱っていた被告人Cが、共謀の上、被告会社の業務
に関して法人税を免れようと企て、支払手数料、仕入高、雑損失等を架空計上する
などの方法により、被告会社の所得金額を秘匿した上、昭和六〇年九月期及び同六
一年九月期の二事業年度の実際所得金額の合計が四億九七〇三万五五〇〇円であっ
たのに、右二事業年度の所得金額の合計が二億一〇六六万七〇二〇円で、これに対
する法人税額の合計が八九八四万二三〇〇円である旨虚偽過少の確定申告書をそれ
ぞれ提出して各納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社に対する
正規の法人税額合計二億一三〇九万〇三〇〇円との差額合計一億二三二四万八〇〇
〇円を免れた、という事案であって、逋脱金額が多額であり、平均約五七・八パー
セントという逋脱率も決して低いものではない上、被告人Bの個人資産の蓄積に協
力した犯行と認められ、動機に酌むべきものがあるとは考えられず、犯行の手口、
態様が悪質である点などを併せ考慮すると、被告会社の刑責は、たやすく軽視する
ことができない。
 弁護人佐藤義行の所論は、被告会社は、昭和六〇年九月期、同六一年九月期にE
に対して簿外で支払った合計四五〇〇万円が役員賞与と認定されたため、Eから徴
収しないまま、当該金員に係る源泉徴収税額(合計二一六一万五〇九六円)を平成
二年一月三〇日所轄税務署長に納付したところ、東京国税局査察部の担当者が、E
に対して確定申告書提出の必要はない旨課税の公平を害するような指導・助言をし
たことから、同人は、昭和六〇年分、同六一年分の所得につき確定申告をなさず、
これによって、被告会社は、Eから右源泉徴収税額相当額を回収することが事実上
不可能となった上、これを損金に計上する時期をも失ったのであり、かかる経緯に
鑑みると、被告会社に対する罰金刑の量刑においては、右源泉徴収税額相当額を減
額すべきものであり、これをしていない原判決の量刑は不当に重い、というのであ
る。
 しかし、所論「指導・助言」の存否の点は暫くおくとしても、Eが確定申告書を
提出しなかつたことと源泉徴収税額相当額の回収不能との間に因果関係があるとは
到底認められない上、被告会社は、Eに対する源泉徴収税額相当額の求債権を有
し、これにつき債権放棄の手続をとっていないのであるから、損金計上をするに由
なく、所論は、前提において失当というほかない。
 してみると、被告会社においては、原判示二事業年度だけでなく、起訴対象外で
ある昭和五九年九月期の所得についても修正申告をした上、すでに本税及び附帯税
等を完納していること、経営体制を刷新し税務処理の適正化を図っていること、そ
の他被告会社に有利な諸般の情状を考慮しても、被告会社を罰金三〇〇〇万円(逋
脱額の約二四パーセントに相当する。)に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であ
るとは認められない。
 各論旨はいずれも理由がない。
 第二 職権による調査(被告人B・被告人C関係)
 被告人Cの弁護人佐藤義行は、「答弁書に対する反論書」と題する書面におい
て、被告人Cが共同正犯の責を問われている被告人Bの所得税法違反の犯行につ
き、同被告人が不動産業者から取得した利益分配金(以下「本件分配金」とい
う。)は、原判示のように「雑所得」ではなく、「一時所得」と解すべきものと思
料されるから、この点につき裁判所の職権調査を求める旨申し立て、被告人Bの弁
護人神宮壽雄は、平成三年九月二四日付上申書を以て、同被告人の関係において
も、右の点についての職権調査を求める旨申し立てているので、当裁判所は、被告
人両名につき職権を以て調査の上、次のとおり判断する。
 関係証拠によれば、被告人Bは、昭和五七年六月以降、D本店の不動産営業部次
長の地位にあって、同本店における不動産取引の業務に従事していたものであると
ころ、昭和六〇年、同六一年において、自己がDの業務として行う不動産売買取引
に関連して、自己の息が掛かった不動産業者四社に対して右取引についての情報を
提供し、右四社を仲介業者として右取引に関与させて利益を取得させ、その見返り
に、右利益の一部を本件分配金として還流(キックバック)させていたことが認め
られ、その総額は、右両年で、合計一五億一四〇〇万円に達している。
 <要旨第一>ところで、所得税法三五条一項は、「雑所得とは、利子所得、配当所
得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得
及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。」と規定しているところ、本件
分配金収入が、右に列挙された利子所得から譲渡所得までの八種類の所得(以下
「八種類の所得」という。)のいずれにも該当しないことは明らかである。
 そこで、本件分配金収入が一時所得に該当するか否かについて検討するに、同法
三四条一項は、「一時所得」とは、八種類の所得以外の所得のうち、「営利を目的
とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の
譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。」と規定している。すなわち、
「一時所得」といえるためには、当該所得が、八種類の所得以外の所得であること
を当然の前提として、更に、それが、「1」営利を目的とする継続的行為から生じ
た所得以外の一時の所得であること及び「2」労務その他の役務又は資産の譲渡の
対価としての性質を有しないものであることの二つの要件を具備することが必要で
あり、そのいずれかの要件を欠く場合には、当該所得は「雑所得」に当たることと
なるのである。
 これを本件についてみるに、本件分配金収入は、被告人Bにおいて、自己がDの
業務として行う不動産売買取引についての情報を前示不動産業者四社に提供し、右
四社を仲介業者として右取引に関与させて利益を取得させ、その見返りとして右利
益の一部を自己に還流させていたものであるから、情報提供及び取引関与の便宜提
供という役務の対価としての性質を有するものであり、前示「2」の要件を欠くこ
とが明らかであって、一時所得には該当せず、雑所得に属するものと解するのが相
当である。したがって、これを、所得税法基本通達(以下「基通」という。)が一
時所得の例示として三四―一の「5」に掲げる「法人からの贈与により取得する金
品」に該当するという弁護人佐藤義行の見解には、同調するを得ない。
 また、同弁護人は、「雑所得」につき損益通算が認められていないのは(所得税
法六九条一項)、その典型的なものとして、「1」法人の役員等の勤務先預け金の
利子で利子所得とされないもの、「2」いわゆる学校債、組合債等の利子、「3」
公社債の償還差益又は発行差金(基通三五―一の「1」ないし「3」)などが考え
られているように、その多くは余剰資産の運用によって得られる果実に当たるため
であるところ、本件分配金収入には、資産の運用による果実の性質が含まれていな
いことに照らしても、これを雑所得とみることはできない、と主張する。
 しかし、雑所得の中に資産運用の果実とみられるものが含まれていることは所論
のとおりとしても、雑所得の概念は、これに尽きるものではなく、これを含んで更
に多様な広がりを持つ包括的かつ広汎なものである。そのことは、同法三四条一項
の文理に即してみても、「1」営利を目的とする継続的行為から生じた所得であっ
て事業所得等以外のもの、「2」労務その他の役務の対価としての性質を有する所
得であって給与所得等以外のもの、「3」資産の譲渡の対価としての性質を有する
所得であって譲渡所得等以外のものなどは総て一時所得に当たらず、雑所得に当た
ると解されることからも明白である。してみれば、資産の運用の果実たる性質が含
まれていないからといって、本件分配金収入が雑所得に当たらないということはで
きない道理であり、所論は理由がない。
 更に、同弁護人は、「所得」について明確な概念規定を持たない所得税法の下に
おいて、八種類の所得及び一時所得に当たらないその他の所得一切を「雑所得」と
いう包括条項に含ませることとしても、その範囲は不明確であって租税法律主義に
反する疑いがあるから、雑所得の範囲は極めて厳格に解すべきであり、一時所得と
解すべき余地のある本件分配金収入まで雑所得に含める解釈は租税法律主義に反す
るものといわざるを得ない、と主張する。
 所得税法が「所得」を定義する規定を設けておらず、また、講学上「所得」概念
について諸説の対立のあることは確かである。しかし、だからといって、所論のよ
うに「雑所得」の範囲を厳格かつ制限的に解釈すべきであるということにはならな
いのであって、明確にする必要があるのはむしろ「所得」の概念そのものであり、
これが明確である限り、八種類の所得及び一時所得以外の所得一切を「雑所得」に
含めることは何ら概念の不明確を招くものではない。そして、所得概念について如
何なる説を採ろうとも、本件分配金収入が被告人Bの「所得」に当たることは明ら
かであるから、前示のとおりこれが八種類の所得及び一時所得に当たらないと解さ
れる以上、これを「雑所得」に当たると解することは何ら租税法律主義に反しない
ものというべきである。
 以上に検討したとおり、被告人Bの本件分配金収入は一時所得ではなく、雑所得
に当たるものと解するのが相当である。
 第三 被告人B関係
 論旨は、要するに、原判決の被告人Bに対する量刑は、重過ぎて不当である、と
いうのである。
 そこで、原審の記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果を加え
て検討するに、本件は、D本店の不動産営業部次長の地位にあって、同本店におけ
る不動産取引の業務に従事すると共に被告会社の実際上の経営者としてその業務全
般を統括していた被告人Bが、(1)前記第一のとおり、被告人C及びEと共謀し
て、二事業年度に亘り、被告会社の所得金額を秘匿した上、虚偽過少の申告を行っ
て、不正の行為により、被告会社に対する法人税額合計一億二三二四万八〇〇〇円
を免れ、(2)被告人Cと共謀の上、被告人Bの所得税を免れようと企て、不動産
業者らから獲得した本件分配金を仮名で預金したり、これを原資として、割引債券
を購入して第三者名義の貸金庫などに保管したり、外国に設立した現地法人の名義
で外国の不動産を取得するなどの方法により、同被告人の所得金額を秘匿して、昭
和六〇年分及び同六一年分の実際総所得金額の合計が一五億三二九四万四二九三円
であったのに、各納期限までに各所得税確定申告書を提出しないで、それぞれ右期
限を徒過させ、もって、不正の行為により、各源泉徴収税額を控除した二年分の正
規の所得税額合計一〇億四三五〇万〇九〇〇円を免れた、という事案である。
 右に明らかなように、本件逋脱額は極めて巨額であり、殊にその大半を占める所
得税法違反の点は、悪質な所得秘匿工作を伴う不申告事犯である。被告人Bには、
Dにおける地位と職責上、不動産取引に伴う種々のリスクに備えて資金を準備する
必要がなかったとはいえないとしても、各犯行の主たる動機が、同被告人の個人資
産の蓄積にあったことは、余りにも明らかであって、もとより酌むべきものとは考
えられない上、同被告人は、一連の所得秘匿工作の主導者であり、その手口、態様
が、巧妙、かつ、大胆なことに加えて、同被告人は、本件に関する税務調査の開始
後も、単なる否認に止まらず多数の関係者を巻き込んだ積極的な罪証湮滅工作に及
んでいること、原判決指摘の如く、本件における被告会社や被告人Bの所得の大部
分は、同被告人がDの利益を図るためと称しながら土地の転売を繰り返し、その都
度不動産業者を介在させるなどの方法で獲得したものであって、かかる所得の獲得
方法そのものが強い非難に値する点も看過できないことなどに鑑みると、同被告人
の刑責は、かなり重大というほかなく、本件が懲役刑の執行を猶予すべき事案でな
いことは勿論、所得税法違反の罪については、相当額の罰金併科を免れないもので
ある。
 所論は、同被告人は、「1」昭和六〇年に約八三〇〇万円、同六一年に約一億〇
七〇〇万円を取引関係者らとの飲食代やタクシー代等として支出したほか、「2」
昭和六〇年一二月一〇日Eに対して三〇〇〇万円を支出したのであって、本件分配
金収入が「雑所得」とされたためにかかる間接的な支出が経費として認められてい
ない点を、情状として考慮すべきである、と主張する。
 しかし、(1)所論指摘「1」については、同被告人の供述するような支出の存
在自体が甚だ疑問である上、仮に支出したとしても、内容的に余りに具体性を欠
き、到底、所得税法三七条一項の「必要経費」とは認め難いところであり、(2)
所論指摘「2」の支出についても、相手方のEは、右金員受領の事実を否定してい
る状況であって、その存在に疑問がない訳ではない上、仮に支出したとしても、被
告人B自身も、個人的なプレゼントである旨供述しているに過ぎないから、「1」
の場合と同様、必要経費とは認められず、それ故、これらの支出を情状面で被告人
Bに有利に斟酌すべきものとする所論には賛成できない。
 また、所論は、本件犯行によって留保された被告人Bの資産のうち、「1」Fに
名義を移した約九億五〇〇〇万円相当の海外資産、「2」Gに交付した約三億円の
金員、「3」Hらに交付した約一億円の金員は、いずれも回収が困難な状態にあ
り、これらの資産が流出してしまった点を情状面で考慮すべきである、と主張す
る。
 しかし、仮に所論「流出」が認められるとしても、税務当局に対する工作資金の
名目で詐取されたという「3」の場合は、もとより、「1」、「2」の場合におい
ても、資産の流出は、被告人Bらが、本件各逋脱事犯の発覚を惧れ、これに備えて
様々な対策をとったことから生じた事態であって、かかる流出について、これを被
告人Bに特に有利な情状とみることは、必ずしも相当でなく、この所論も採用でき
ない。
 してみると、被告人Bは、所得税法違反につき逋脱本税、附帯税等を完納済であ
るほか、被告会社の法人税法違反についても、その完納のために尽力したこと、検
察庁による強制捜査の開始後は、捜査公判を通じ一貫して事実関係を認め、事犯に
対する反省の態度を示していること、本件の発覚により永年勤務し、それなりに貢
献してきた職場であるDからの退職を余儀なくされたこと、すでに相当の社会的制
裁を受けたとみられること、前科前歴がないこと、その家庭の事情など所論指摘の
首肯できる諸点を被告人Bのために十分に考慮しても、被告人Bを懲役二年一〇月
及び罰金二億五〇〇〇万円に処した原判決の量刑は、併科した罰金の額(所得税法
違反による逋脱額の約二三・七パーセントに相当する。)や未決勾留日数の算入
(八二日中、三〇日を算入)の点を含めて、まことにやむを得ないところであり、
重過ぎて不当であるとは認められない。論旨は理由がない。
 第四 被告人C関係
 一 控訴趣意第一点、同第二点、(事実誤認、法令適用の誤りの主張)について
 論旨は、要するに、原判決は、原判示第二の一、二の各事実につき、被告人Cを
被告人Bの共同正犯と認定し、刑法六〇条等を適用しているが、被告人Cは、右各
犯行に「自己の犯罪」として加担したものではなく、また、同被告人が関与したと
される所得秘匿工作は不申告逋脱犯の実行行為に当たらないから、その刑責は幇助
犯を以て論ずべきものであって、原判決には前提事実を誤認し、かつ、法令の解
釈、適用を誤った違法があり、破棄を免れない、というのである。
 しかし、原審の記録及び証拠物を調査して検討しても、原判決に所論の事実誤
認、法令適用の誤りがあるものとは認められない。所論に鑑み、以下に補足説明す
る。
 原判決挙示の関係証拠によれば、次の各事実が認められる。すなわち
 (1) 被告人Cは、被告人Bの実弟であり、昭和五三年九月に株式会社I商会
を設立し、宅地建物取引主任の資格を取得して同社を経営すると共に、銀行員であ
るために他社の役員になることができなかった被告人Bの指示によって、同五六年
一〇月の被告会社の設立当初から、被告会社の取締役として、その経理事務を担当
してきたものであるが、I商会の資本金の大半は被告人Bが出資したものであり、
同社には被告人Cのほかに実働社員がおらず、資本金等で購入したビルの賃料収入
のほかにはさしたる収入がなくて、被告人BからDの業務として行う不動産取引に
関与したという名目で利益を落として貰っていた状態であって、被告人Cには、こ
のようなI商会及び被告会社からの役員報酬以外に安定した収入がなかった。
 (2) 被告人Cは、昭和五七年ころ被告人Bから、同被告人が不動産業者から
受領した本件分配金を仮名預金とするように依頼され、当初は、仮名預金設定の都
度、通帳、印鑑を同被告人に返還していたが、その後、本件分配金の金額が急激に
増加したことから、同被告人の依頼によって、その管理を委ねられるようになり、
同被告人の指示により、時には、自己の判断で、仮名預金を設定してその預金証書
を保管したり、無記名債券を購入してこれを第三者名義の貸金庫に保管したり、更
に外国における不動産の購入のための資金の送付等を行って、昭和六〇年、同六一
年の被告人Bの本件分配金(約一五億円)のうち、約九億円の秘匿に何らかの形で
関与し、同被告人に対する税務調査が開始された後は、同被告人の指示で、又は、
自己の判断で、罪証湮滅工作を行った。
 (3) 被告人Cは、被告人Bから受け取る金員が、不動産取引に絡む裏金であ
り、同被告人が右所得を秘匿する意思であって、所得税納付の意思がないことを熟
知していたが、実兄であり、自己の生活については、ほとんど全面的に同被告人に
依存している状況であったことから、同被告人の依頼を引き受けて、その所得の秘
匿、管理に当たっていたものである。
 (4) 被告人Bは、Dにおける日常の業務が繁忙を極め、本件分配金や被告会
社の裏金を自ら管理することが困難であったことから、身内であって最も信頼でき
る被告人Cにその管理を委ねたものであり、被告会社の裏金の管理の報酬として、
被告人Cに対し合計約一〇〇〇万円を与え、また、本件分配金の管理に関しては、
前示(1)のとおり、I商会に対しDの業務として行う不動産取引に関与したとの
名目で、昭和六〇年に約五〇〇〇万円の利益を供与している。
 以上(1)ないし(4)の事実関係に徴すれば、原判決が、「弁護人の主張に対
する判断」の項において、被告人Cが被告人Bの裏金を管理していたのは「被告人
Cの生活が被告人Bの存在の上に成り立っていたためである」旨認定、判示してい
る点は、正当として是認できる。
 これに対し、所論は、被告人Cは、本件所得秘匿行為によって何らの対価、報酬
を得ることなく、毎月定期、定額で入る不動産所得として、「1」中央区ab丁目
cビルにあるスナックの賃貸収入月額一五万円、「2」同区ad丁目eビルにある
スナックの賃貸収入月額二〇万円、「3」高崎市内にあるマンションの賃貸収入月
額九万円の合計月額四四万円の収入を得ていたのである(同被告人の検察官に対す
る平成元年九月二七日付供述調書)から、原判決の右認定は事実を誤認したもので
あるという。
 しかし、右「1」「2」の各スナックは、いずれも、被告人Bが自己の裏金を投
じて購入し、他に賃貸していたものの、同被告人が銀行員で表面に名前を出せない
ため、被告人Cの名義や銀行口座を借用していたものであって、月額合計三五万円
の賃貸料収入は被告人Bに帰属し、同被告人に処分権があったものと認められ(被
告人Cの検察官に対する平成元年一〇月二八日付供述調書)、また、右「3」のマ
ンションは、これを購入したのが昭和六三年前半になってからであることが明らか
であるから(被告人Cの検察官に対する同年九月二七日付供述調書)、本件各犯行
当時には、未だ所論賃貸料収入は発生していないのである。それ故、原判決の右説
示に所論の誤認は認められない。
 また、所論は、原判決が同じ項において、「被告人Cは、被告会社の法人税を免
れたいわゆる裏金についても、被告人Bのために秘匿、管理していた」云々と説示
している点を把えて、被告会社の法人税法違反が既遂となった後の秘匿、管理は共
同正犯の成立と全く無関係であると論難するが、原判決は、法人税法違反の共同正
犯の成立について説示しているのではなく、被告人Cが、被告人Bの所得税法違反
の共同正犯と認められる理由の一つとして、被告会社の裏金の秘匿、管理という背
景事情を挙げているに過ぎないから、所論の批判は当たらない。
 以上のような本件の事実関係、殊に、被告人Cは、被告人Bの実弟であり、同被
告人が実質的な経営者である被告会社の取締役の地位にあるほか、同被告人から出
資の援助を受けて自ら経営するI商会にはみるべき収入とてなく、その生活につい
ては殆ど全面的に同被告人に依存している状況であったことからすれば、同被告人
の巨額に上る所得を秘匿し、課税を免れることは、同時に被告人Cの生活基盤を安
定させることに通じるものであり、更に、被告人Cが、被告人Bの依頼により、裏
金の大半の秘匿、管理に関与し、時には自己の判断でこれを処理するなどの行為に
出ていることに照らせば、所論にもかかわらず、被告人Cは、本件各犯行を「自己
の犯罪」としてこれに加功したものと認めるのが相当である。
 <要旨第二>ところで、いわゆる虚偽不申告逋脱犯の事案に関しては、周知のとお
り、租税逋脱犯における「偽りその他不正の行為」に当たるのは「所得
秘匿工作を伴う不申告の行為」であるとする最高裁判所昭和六三年九月二日第三小
法廷決定(刑集四二巻七号九七五頁)がある。したがって、虚偽不申告逋脱犯の実
行行為は、不申告という不作為であることになるが、問題は、「所得秘匿工作を伴
う」ということの意味及びこれに関与した者の刑責の評価である。
 過少申告逋脱犯の場合にあっては、所得秘匿工作の有無にかかわらず、過少申告
行為そのものが実行行為とされるから(最高裁判所昭和四八年三月二〇日第三小法
廷判決・刑集二七巻二号一三八頁等)、事前の所得秘匿工作があった場合でも、そ
れは犯罪の準備ないし予備であるに過ぎないものと解される。これに対し、虚偽不
申告逋脱犯の場合にあっては、単に申告をしないという不作為だけでは、単純不申
告犯の実行行為と何ら選ぶところがない。当該不申告行為が「所得秘匿工作を伴
う」という状況の下においてのみ、当該不申告行為が逋脱犯の実行行為としての定
型性を帯びるのである。したがって、所得秘匿工作の存在は、構成要件的状況(例
えば、刑法一一四条の罪における「火災ノ際」、同法一七四条の罪における「公
然」、盗犯等の防止及び処分に関する法律二条四号の罪における「夜間」等)とし
て、逋脱犯の構成要件をなすものというべきである。そこで、構成要件的状況が人
の行為によって作出されるものである場合、その作出に関与した者の刑責をどのよ
うに評価すべきかの問題を生ずることとなる。
 思うに、構成要件的状況の存在を要件とする犯罪にあっては、当該状況が存在し
ない場合には、実行行為は当該犯罪の実行行為としての定型性を持ち得ないのであ
るから、構成要件的状況を作出する行為は、実行行為に当該犯罪の実行行為として
の定型性を帯びさせる重要な行為であって、実行行為と相俟って構成要件を実現す
る行為であるといい得るのである。もとより実行行為そのものではないから、かか
る状況を作出したたけでは犯罪の着手があったものということはできないが、共同
して構成要件を実現するという面においては、実行行為と何ら選ぶところはない。
したがって、共同正犯の成否を論ずるに当たっては、構成要件的状況の作出に加功
した者は、実行行為そのものに加担した者と同一ないしこれに準ずる評価を受ける
べきものと解するのが相当である(刑法一七四条につき同旨の結論のみを示すもの
として、東京高等裁判所昭和三二年四月一二日判決・東京高裁時報八巻四号八七頁
参照。)。
 これを本件についてみるに、被告人Cは、被告人Bの虚偽不申告による所得税法
違反に関し、同被告人と暗黙のうちに意思連絡の上、事前の所得秘匿工作を行い、
構成要件的状況の作出に関与しているのであるから、所論幇助犯に止まらず、共同
正犯に当たるものというべきである。
 以上説示のとおり、原判決が原判示第二の一、二の各事実につき、被告人Cを共
同正犯と認定し、刑法六五条一項、六〇条、所得税法二三八条一項を適用したこと
に所論事実誤認、法令適用の誤りはない。論旨はいずれも理由がない。
 二 控訴趣意第三点(量刑不当の主張)について
 論旨は、要するに原判決の被告人Cに対する量刑は重過ぎて不当である、という
のである。
 しかし、所論にもかかわらず、前示のとおり、被告人Bの本件分配金収入は、一
時所得ではなく雑所得と認められる上、雑所得の性質に関する縷々の所論を考慮し
ても、量刑上雑所得の逋脱につき他の所得と異なる有利な取扱いをすべき理由は見
出せない。
 そうすると、被告人B及びEと共謀の上、被告会社の二事業年度の法人税合計一
億二三二四万八〇〇〇円を逋脱すると共に、被告人Bと共謀の上、同被告人の二年
分の所得税合計一〇億四三五〇万〇九〇〇円を逋脱した被告人Cの刑責は、到底軽
視することができないところであって、被告人BがDを退職した以上、同被告人及
び被告人Cには再犯の虞がないこと、その他原審の記録及び証拠物に現れた被告人
Cに有利な諸般の事情を十分に斟酌しても、同被告人を懲役一年六月に処した上、
三年間右刑の執行を猶予した原判決の量刑は相当というべく、これが重過ぎて不当
であるとは考えられない。論旨は理由がない。
 第五 結語
 以上、第一ないし第四のとおりであって、本件各控訴はいずれもその理由がない
から、刑訴法三九六条によりこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 半谷恭一 裁判官 堀内信明 裁判官 新田誠志)

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我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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