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平成21年12月10日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(行ケ)第10183号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年11月19日
判決
原告株式会社インディアンモト
サイクルカンパニージャパン
同訴訟代理人弁護士佐藤雅巳
古木睦美
被告東洋エンタープライズ株式会社
同訴訟代理人弁理士野原利雄
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が取消2008−300664号事件について平成21年5月26日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1の被告の本件商標に係る商標登録について,商標法51
条1項該当を理由とする当該登録の取消しを求める原告の下記2の本件審判請求が
成り立たないとした特許庁の別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下
記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを
求める事案である。
1本件商標
被告は,平成18年5月1日,「INDIANARROW」の文字を横書きし
てなり,指定商品を第14類「貴金属,キーホルダー,貴金属製食器類,貴金属製
のくるみ割り器・こしょう入れ・砂糖入れ・塩振出し容器・卵立て・ナプキンホル
ダー・ナプキンリング・盆及びようじ入れ,貴金属製針箱,貴金属製のろうそく消
し及びろうそく立て,貴金属製宝石箱,貴金属製の花瓶及び水盤,記念カップ,記
念たて,身飾品,貴金属製のがま口及び財布,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造
品,貴金属製コンパクト,貴金属製靴飾り,時計,貴金属製喫煙用具」及び第18
類「かばん金具,がま口口金,皮革製包装用容器,愛玩動物用被服類,かばん類,
袋物,携帯用化粧道具入れ,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,乗馬用具,
皮革」とする商標(以下「本件商標」という。)を登録出願し,同年12月15日
に設定登録(登録第5011646号)を受けた(甲450)。
2特許庁における手続の経緯
原告は,被告が本件商標と類似する別紙使用商標A及びB記載の商標(以下「使
用商標A」「使用商標B」という。)を本件商標の指定商品に属する商品である
「トートバッグ」に使用する行為が,商標法51条1項に該当すると主張して,本
件商標の登録を取り消すとの審決を求めた。特許庁は,平成21年5月26日に
「本件審判の請求は,成り立たない。」とする本件審決をし,同年6月5日,その
謄本は原告に送達された。
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,要するに,本件商標と類似する使用商標A及びBは,
下記(2)のアないしウ記載の商標(以下,順に「引用商標1」などという。)とは
類似せず,混同を生ずるおそれもないから,被告が使用商標A及びBを本件商標の
指定商品に属する商品である「トートバッグ」に使用する行為は,商標法51条1
項の要件を満たすものではない,というものである。
(2)引用商標1及び2(以下,引用商標1及び2を併せて「Indian/M
otocycle商標」ともいう。)は,原告が有する以下の登録商標であり,引
用商標3(以下「Indianロゴ」ともいう。)は,原告がバッグに使用する以
下の未登録商標である。
ア引用商標1(甲443の1・2)
登録番号:第2720681号
商標:別紙引用商標1のとおり
登録出願:平成4年2月6日
指定商品:第21類「装身具,ボタン類,かばん類,袋物,宝玉およびその模造
品,造花,化粧用具」
設定登録:平成9年4月25日
商標権の存続期間の更新登録:平成18年11月21日
書換登録:平成19年3月14日(指定商品:第3類「つけづめ,つけまつ毛」,
第6類「金属製のバックル」,第8類「ひげそり用具入れ,ペディキュアセット,
まつ毛カール器,マニキュアセット」,第10類「耳かき」,第14類「身飾品
(「カフスボタン」を除く。),カフスボタン,貴金属製のがま口及び財布,宝玉
及びその模造品,貴金属製コンパクト」,第18類「かばん類,袋物,携帯用化粧
用具入れ」,第21類「化粧用具(電気式歯ブラシを除く。)」,第25類「ガー
ター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト」,第26類「腕止め,衣服用き章
(貴金属製のものを除く。),衣類用バッジ(貴金属製のものを除く。),衣服用
バックル,衣服用ブローチ,帯留,ボンネットピン(貴金属製のものを除く。),
ワッペン,腕章,頭飾品,ボタン類,造花(「造花の花輪」を除く。),つけあご
ひげ,つけ口ひげ,ヘアカーラー(電気式のものを除く。)」)
イ引用商標2(甲443の3・4)
登録番号:第3199708号
商標:別紙引用商標2のとおり(引用商標1と同一の構成)
登録出願:平成5年3月29日
指定商品:第18類「皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧用具入れ,かばん金具,
がま口口金,傘」
設定登録:平成8年9月30日
商標権の存続期間の更新登録:平成18年4月25日
ウ引用商標3
構成:別紙引用商標3記載のとおり
4取消事由
被告の行為が商標法51条1項に当たらないとした判断の誤り
(1)混同の有無(取消事由1)
(2)故意の有無(取消事由2)
第3当事者の主張
1取消事由1(混同の有無)について
〔原告の主張〕
使用商標A及びBと引用商標1ないし3とは類似し,引用商標1ないし3は周知
であるから,使用商標A及びBのトートバッグへの使用は,混同を生じさせるもの
である。
(1)使用商標A及びBと引用商標1ないし3との類似性
ア使用商標A及びBの要部
使用商標Aは,筆記体の「Indian」とこれと同一書体の「Arrow」と
を上下2段に配し,両者の間に矢の図形を配したものであり,構成上,「Indi
an」と「Arrow」とは明確に可分である。これを一体としてのみ把握すべき
ものであるとする理由は存しない。
使用商標Bは,筆記体の「Indian」と同一書体の「Arrow」との間に
余白を置いて横1列に配し,その下に矢印の図形を配したものであるが,構成上,
「Indian」と「Arrow」とは,明白に可分である。これを一体としての
み把握すべき理由は存しない。
よって,使用商標A及びBにおいて,「Indian」は要部であり,使用商標
A及びBからは「Indian」に対応して,「インディアン」の称呼と「北米原
住民」の観念が生じる。
イ結合商標の類否判断の基準
結合商標の類否判断においては,商標の各構成部分がそれを分離して観察するこ
とが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していなければ,1個の商
標から2つ以上の称呼,観念が生ずるのであり,そのいずれかの称呼,観念が他人
の商標の称呼,観念と類似するときは,両商標は類似する(最高裁昭和37年
(オ)第953号昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号162
1頁)。
ウ使用商標A及びBと引用商標3との類似性
使用商標A及びBにおける「Indian」は,「Indianロゴ」の外観に
おいて酷似する。使用商標A及びB中の「Indian」と「Indianロゴ」
とは称呼(インディアン)及び観念(北米原住民)において「Indianロゴ」
に類似する。
よって,使用商標A及びBは,引用商標3と類似する。
エ使用商標A及びBと引用商標1及び2との類似性
引用商標1及び2において,「Indianロゴ」は要部である。
使用商標A及びB中の「Indian」と引用商標1及び2の「Indianロ
ゴ」とは,上記ウのとおり,類似する。よって,使用商標A及びBは,引用商標1
及び2と類似する。
オ本件審決の類否判断の誤り
本件審決は,使用商標A及びBにおいて「Indian」「Arrow」は一体
としてのみ把握すべきものであると誤って判断し,かかる誤った判断を前提として
使用商標A及びBは引用商標1ないし3と類似しないと判断したが,その判断の誤
りは明白である。
「Indian」「Arrow」は,構成上2語であり,外観上「India
n」と「Arrow」とは分離しており,これを一体としてのみ把握すべき理由は
ないし,また,「北米原住民の矢」などという熟語があるわけでもなく,観念の上
からも一体としてのみ把握しなければならない理由は存しない。
カ以上のとおり,使用商標A及びBは,引用商標1及び2(「Indian/
Motocycle商標」)並びに引用商標3(「Indianロゴ」)と類似す
る。
(2)引用商標1ないし3の周知性
ア引用商標1ないし3は,被告による使用商標A及びBの使用の時点で,原告
及びそのライセンシーが衣類に使用するヴィンテージバイカー系のアメリカンカジ
ュアルのブランドの商標として,我が国において周知であり,その結果,バッグに
ついても周知であった。
イ「Indianロゴ」及び「Indian/Motocycle商標」は,
いずれも,原告が,マーチャンダイジングブランドの核となる商標として採択し,
日本市場に適正に導入し,企業努力を傾注して適正に周知ならしめたものであり,
1901年創立の米国のオートバイメーカー「」(以下IndianMotocycleCompany
「旧インディアン社」という。)の使用していた商標の周知性と全く関係がない。
なお,旧インディアン社の使用していた商標は,オートバイの商標としてかつて我
が国においてもオートバイの取引者需要者の間で周知であったことはあるが,アパ
レルやアクセサリーの商標として周知であったことはない。
ウ平成元年6月設立の米国法人インディアンモトサイクルカンパニーインク
(.,.以下「新インディアン社」という。)は,旧インディIndianMotocycleCoInc
アン社がオートバイに使用していた「Indianロゴ」や「ヘッドドレスロゴ」
の商標を,オートバイ及びアパレルマーチャンダイジングの核となる商標として採
択し,オートバイの復刻生産並びにアパレルアクセサリーの製造販売及びライセン
スを始め,告知宣伝をした。
スコット・カジヤはその将来性に着目し,インディアンブランドを適切に日本市
場に導入すれば,成功するであろうと考え,ヴィンテージバイカー系のアメリカン
カジュアルのブランドとしての性格付けをし,日本市場に導入することとした。そ
して,そのため,新インディアン社から日本におけるインディアンブランドビジネ
スを行う権利を買い取り,日本に導入し,その権利を原告に譲渡したのである。
そして,原告は,かかる事実に基づき,「新インディアン社がインディアンを復
活した」と真実を一貫して広告したのであり,「新インディアン社が旧インディア
ン社の正当な承継人である」などと広告したことは一度もない。
エ新インディアン社は,オートバイ,アパレルアクセサリーのマーチャンダイ
ジングの核となるキャラクターとしてのIndian商標の正当な出所として社会
的に承認され,旧インディアン社がオートバイに使用していた商標に新たに価値を
付与したのである。旧インディアン社から承継したのでは全くない。旧インディア
ン社は消滅していたし,その商標権も消滅していた。
このような場合,日本においてIndian商標を使用してアパレルアクセサリ
ーのマーチャンダイジングを行おうとする者は,新インディアン社から日本におけ
る権利を取得して行うのがビジネスの常道であり,スコット・カジヤはこの常道を
遵守したのである。原告はスコット・カジヤの正当な承継人であり,日本において
Indianブランドを用いてアパレルアクセサリーのマーチャンダイジングビジ
ネスを適正に行うもので,Indian商標の正当な権利者として承認されたので
ある。そうであるからこそ,三菱商事の100%子会社等が原告からライセンスを
受けて事業を行っているのであり,また,オリエンタルランドの子会社が原告と提
携したのである。
(3)混同
使用商標A及びBは,引用商標1ないし3と類似する。そして,引用商標1ない
し3は,原告が,バッグに使用する商標として周知である。
よって,被告によるトートバッグへの使用商標A及びBの使用は,混同を生ずる
ものである。
〔被告の主張〕
商標法51条1項は,商標権者が,故意に指定商品若しくは指定役務について登
録商標に類似する商標を使用した場合であって,他人の業務に係る商品又は役務と
混同を生ずるものをしたときに適用される。そして,同項に該当する使用があった
か否かは,商標権者が使用する商標と引用する他人の商標との類似の程度,当該他
人の商標の周知著名の程度,その他,使用する商品の類似性や取引の実情等を考慮
し,取引者及び需要者の通常の注意力をもって総合的に判断されなければならない。
(1)使用商標A及びBと引用商標1ないし3との類似性
使用商標A及びBと引用商標1ないし3とは,いずれも非類似の商標である。
ア使用商標A及びBからは,「インディアンアロー」との一連の称呼のみが生
じ,「北米原住民(アメリカインディアン)の矢」との観念が生じる。
使用商標Aの構成態様は,欧文字「Indian」と「Arrow」とが2行表
記となっているが,全体が方形の飾り枠内にまとまりよく収まり,また,いずれの
文字も同書同大からなり,加えて,その行間に位置するライン状の矢図はその一部
分が切り離され,この切り離された部分の間隙に「Arrow」の「A」の頭部が
突出する態様となっていて上下行の文字の一体性をより一層高めている。このよう
な構成態様からなる使用商標Aは,上下行の文字が一体不可分となった一の商標と
認識されるし,使用商標Bも一体として認識されるもので,「Indian」と
「Arrow」の文字を敢えて分離し,それぞれの部分からそれぞれの称呼及び観
念が生じることはない。
イ一方,引用商標3の構成態様は,欧文字筆記体「Indian」のみからな
る商標であり,引用商標1及び2は,羽根飾りを付けた右向きインディアン図の中
央に欧文字筆記体「Indian」の文字を大書し,その下方に欧文字筆記体
「.,.」の文字を小書してなる商標である。IndianMotocycleCoInc
引用商標1及び2からは,「インディアン」及び「インディアンモトサイクルコ
ーインク」の称呼が生じ,「アメリカインディアン(北米原住民)」及び「アメリ
カインディアン(北米原住民)のオートバイ会社」の観念が生じる。
ウよって,使用商標A及びBと引用商標1ないし3とは,称呼及び観念におい
て非類似であることは明らかであり,両者が同一又は類似する商品に使用されたと
しても,それぞれの商品出所につき誤認混同されるおそれはなく,非類似の商標と
した本件審決の判断に何ら誤りはない。
(2)引用商標1ないし3の周知性
原告は,引用商標の周知性を主張するが,いかなる商標が,いかなる商品につい
て,いつ,何人の,どのような使用実績によって周知又は著名となったのか,具体
的な事実の立証は何らされていない。
ア旧インディアン社の商標は,同社が昭和28年(1953年)に消滅して以
来,関係者を含め一切の事業活動を行っておらず,その周知性は維持されていない
(乙1∼8)。そもそも,原告と旧インディアン社とはいかなる関係も関連もない。
仮に,旧インディアン社の商標の周知性が今も維持されているとするなら,同社
とは全く関係も関連もない原告が,同社の商標と全く同一の態様からなる商標につ
いて登録を受けられる道理はない。
イザンギ又はその経営するザンギインディアン社は,周知著名に至るような使
用実績を何ら残していないことはもとより,事業活動そのものの存在すらなかった
から,その使用による引用商標の周知性も認められない。
ウ原告及びライセンシーの使用によって周知著名になったというならば,具体
的にどの程度の販売実績があったかを,使用者,使用商標の態様,使用した商品,
使用時期と期間等と対応させて立証すべきであるにもかかわらず,原告は,このよ
うな販売実績等の具体的立証は一切していない。
原告のライセンス事業の主力商品は,革製ジャンパー,ブーツ,バックなどの衣
服や身回品であるが,それらのライセンシーであったマルヨシ,西澤,ギャロップ
あるいはオーエイチプランニング社が比較的短期間のうちにライセンス事業から撤
退していることは,原告らによるライセンス事業の販売実績がさしたるものではな
かったことの証拠である(乙8)。
エ原告は,周知性の立証に当たり,衣料品についての使用事実を示す証拠を提
出しているが,原告は,衣料品に関していかなるインディアン関連商標も所有して
おらず,原告による商標使用行為の多くは,被告の有する商標権のいずれかを侵害
するものであり,当該違法行為をもって引用商標の周知性の根拠とすることは許さ
れない。
オ引用商標1ないし3の周知性に関する原告の主張は,多くの関連事件での審
決及び判決においてことごとく否定されているから,その判断は,本件においても
尊重されなければならない(乙3,6,8,94)。
カインディアン関連商標について,被告の商標の方が原告の引用商標より周知
であったことは確かであり,今に至っては,被告の商標は著名であり(乙62),
その認知度の差は歴然としている。
(3)混同
本件商標にかかる指定商品は,第14類及び第18類に属する商品であり,本件
審判で原告が指摘する被告の商品は,第18類に属する「トートバッグ」である。
原告が周知性を立証しようとしている商品「衣料等」と「トートバック」とは類
似関係にない。
類似関係にない商品間において,出所の混同を生じさせるといえるためには,商
標がより周知度の高い著名商標でなければならないが,引用商標1ないし3は,い
ずれも周知性すら認められていないのであるから著名でないことは明らかである。
まして,使用商標A及びBと引用商標1ないし3とは非類似の商標であることから
すれば,被告が,使用商標A及びBを,商品「トートバック」に使用したとしても,
原告との間で出所の混同を生じさせることなどはあり得ない。
(4)その他の事情
ア原告と被告の両者が販売している商品「トートバック」についての素材及び
その柄(モチーフ)は,「チマヨブランケット」の名で世界的に広く知られ用いら
れている素材及び柄であって(乙72∼76),原告が独自に開発した素材でもデ
ザインした柄でもない。
イ使用商標A及びBで採用されている書体は,旧インディアン社のバイク商標
に由来するものであるが,既に公知のスクリプトと称せられるタイプフェースの一
種で,これを若干アレンジしたものにすぎず特別新規な書体ではない。また,引用
商標1ないし3の書体についても,原告らが自ら創作し又は発案したものではなく,
旧インディアン社の社章又はオートバイ商標で(乙27∼29),原告がこれを単
にデッドコピーしたにすぎない。
2取消事由2(故意の有無)について
〔原告の主張〕
被告は,故意に引用商標1ないし3と混同を生ずる使用を行ったものであるから,
商標法51条1項に当たる。
(1)被告の故意
被告は,使用商標A及びBをトートバッグに使用することにより,原告及びその
ライセンシーの製造販売するバッグと混同が生ずることを認識して行ったのみなら
ず,意図したのである。このことは,平成7年以降,被告が繰り返し,「Indi
anロゴ」や「Indianロゴ」に類似する商標をウェアやジャケット等に使用
して,原告の企業努力の成果の収奪を行ってきたことからも,明らかである。
被告が本件商標等を採択した動機は,原告の企業努力の成果を収奪し,原告の業
務を妨害するためである。
本件商標は,ありふれた活字体の「INDIANARROW」である。あえて,
「Indianロゴ」と酷似した筆記体の「Indian」を使用することは,原
告の企業努力の成果の収奪の目的に出るものであることは明白であり,故意は明白
である。
(2)本件審決の誤り
本件審決の認定判断は,既に商標権者も消滅し,商標権も消滅していた「インデ
ィアン商標」にマーチャンダイジングビジネスの核となるキャラクターとしての価
値を見出し,日本市場に適正に導入し,適正に性格付けをし,適正に告知し市場に
浸透させたスコット・カジヤ,原告の企業努力とその成果を保護せず,被告におい
て好き勝手に収奪し踏みにじって良いという判断であり,全く暴論である。
〔被告の主張〕
故意がないとした本件審決の判断に,誤りはない。
(1)故意の意義
商標法51条1項でいう故意とは,出所の混同を生じるであろう商標の存在を知
りつつ,あえて,登録商標に付記・変更を加えた商標を使用した場合に成立する。
(2)被告の故意の有無
被告がインディアン関連商標を衣料品等の商標として採択した動機は,旧インデ
ィアン社のバイクイメージや1900年初期の米国の華やかな時代イメージを衣料
等に再現しようとしたところにある。使用商標A及びBも,旧インディアン社のオ
ートバイの一車種名で,その書体も同オートバイ商標に依拠するものであって,引
用商標1ないし3の存在を意識しつつ,あえて採用したものでもない。
しかも,使用商標A及びBと引用商標1ないし3とは,称呼,観念及び外観のい
ずれの要素においても相違する非類似の商標であり,また,引用商標1ないし3は
周知商標でもない。そうとすると,被告が商品「トートバッグ」に使用商標A又は
Bを使用した場合,これに接する需要者や取引者が,引用商標1ないし3を連想,
想起し出所の混同を生じるおそれがあると予測することなどは,到底できないこと
である。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(混同の有無)について
(1)商標法51条1項の趣旨
商標法51条1項は,「商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての
登録商標に類似する商標の使用…であって…他人の業務に係る商品若しくは役務と
混同を生ずるものをしたときは,何人も,その商標登録を取り消すことについて審
判を請求することができる。」と規定し,同条2項は,「商標権者であった者は,
前項の規定により商標登録を取り消すべき旨の審決が確定した日から5年を経過し
た後でなければ,その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似
する商品若しくは役務について,その登録商標又はこれに類似する商標についての
商標登録を受けることができない。」と規定している。
同条1項の規定は,商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害されるような
事態を防止し,そのような場合に当該商標権者に制裁を課す趣旨のものであり,需
要者一般を保護するという公益的性格を有するものである(最高裁昭和58年(行
ケ)第31号昭和61年4月22日第三小法廷判決・裁判集民事147号587頁
参照)。
このような商標法の趣旨に照らせば,同項にいう「商標の使用であって…他人の
業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」に当たるためには,使用に係る
商標の具体的表示態様が他人の業務に係る商品等との間で具体的に混同を生ずるお
それを有するものであることが必要というべきであり,そして,その混同を生ずる
おそれの有無については,商標権者が使用する商標と引用する他人の商標との類似
性の程度,当該他人の商標の周知著名性及び独創性の程度,商標権者が使用する商
品等と当該他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の
程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当
該商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的
に判断されるべきものである。
以上のような観点から,①使用商標A及びBと引用商標1ないし3との類似性の
程度,②引用商標1ないし3の周知著名性及び独創性の程度,③使用商標A及びB
が付された商品(トートバッグ)と原告の業務に係る商品等との間の性質,用途又
は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引
の実情を総合して,混同を生ずるおそれの有無について,以下検討する。
(2)使用商標A及びBと引用商標1ないし3との類似性の程度
ア使用商標及び引用商標の構成等
使用商標Aは,別紙使用商標Aのとおり,方形の飾り枠内に筆記体による「In
dian」及び「Arrow」の文字を矢の図形を介して上下に配し,その下に小
さな文字で「」及び「」と記載TRADEMARKREGISTEREDFINESTQUALITY
した構成からなるものである。そして,「Indian」と「Arrow」との行
間に位置するライン状の矢に「Arrow」の「A」の頭部が突出する態様となっ
ている(甲452)。
また,使用商標Bは,別紙使用商標Bのとおり,筆記体による「Indian
Arrow」の文字を横書きし,矢の図形を配し,その下に小さな文字で
「」及び「」と記載した構成かTRADEMARKREGISTEREDFINESTQUALITY
らなるものである。そして,「IndianArrow」の下の矢が2つの語に
一連に引かれている(甲452)。
他方,引用商標1及び2は,別紙引用商標1及び2のとおり,羽根飾りを付けた
右向きインディアン図の中央に欧文字筆記体「Indian」の文字を大書し,そ
の下に「.,.」の文字が表記されている。IndianMotocycleCoInc
また,引用商標3は,別紙引用商標3のとおり,筆記体で「Indian」と®
表記されている。
イ結合商標の類否判断
(ア)複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分が
それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合
しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分
だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許
されない。他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出
所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の
部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,
商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断する
ことも,許されるものである(最高裁昭和37年(オ)第953号昭和38年12
月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第
103号平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁
平成19年(行ヒ)第223号平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事2
28号561頁参照)。
(イ)これを本件についてみるに,使用商標Aは「Indian」及び「Arr
ow」の文字が方形の飾り枠内にあり,他の表記に比較して大きな文字で記載され
ていることから,「Indian」及び「Arrow」の部分が全体として統一感
のあるものであって,「Indian」と「Arrow」とが2行表記となってい
るが,全体が方形の飾り枠内にまとまりよく収まり,また,いずれの文字も同書同
大からなり,加えて,その行間に位置するライン状の矢に「Arrow」の「A」
の頭部が突出する態様となって上下行の文字の一体性をより一層高めているから,
上記部分をもって一体のものとして看取されるものである。よって,使用商標Aか
らは,「インディアンアロー」の一連の称呼を生ずるものというべきであり,上記
文字及び矢の図形とあいまって「アメリカインディアン(北米原住民)の矢」の観
念を生ずるものである。
使用商標Bは,「IndianArrow」の下の矢が2つの語に一連に引か
れており,全体として「インディアンアロー」の一連の称呼及び「アメリカインデ
ィアン(北米原住民)の矢」の観念を生ずるものである。
他方,引用商標1及び2は,羽根飾りを付けた右向きインディアン図の中央に欧
文字筆記体「Indian」の文字を大書し,その下に「.,IndianMotocycleCo
.」の文字が表記されているから,「インディアン」の称呼及び「アメリカインInc
ディアン(北米原住民)」の観念のほか,「インディアンモトサイクルコーイン
ク」の称呼及び「アメリカンインディアン(北米原住民)オートバイ会社」の観念
という,2つの称呼・観念を生ずるものといえる。
引用商標3は,「インディアン」の称呼及び「アメリカインディアン(北米原住
民)」の観念を生ずるものである。
(ウ)原告は,結合商標の類否判断においては,商標の各構成部分がそれを分離
して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していなけ
れば,1個の商標から2つ以上の称呼,観念が生ずるのであり,使用商標A及びB
からは「Indian」の称呼,観念も生ずると主張する。
しかし,引用商標1ないし3に周知性があるといえないことは後記(3)認定のと
おりであるから,使用商標A及びBの「Indian」の部分が取引者,需要者に
対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められ
る場合には当たらない。また,使用商標A及びBのそれ以外の部分から出所識別標
識としての称呼,観念が生じないと認められる場合にも当たらない。よって,原告
の主張は採用することができない。
ウ使用商標A及びBと引用商標1ないし3との類否
(ア)使用商標A及びBから生じる「インディアンアロー」の称呼と引用商標1
及び2から生ずる「インディアン」又は「インディアンモトサイクルコーインク」
の称呼とは,音の差異により,明らかに区別することができるものである。また,
使用商標A及びBから生じる観念は,「アメリカインディアン(北米原住民)の
矢」であり,引用商標1及び2から生じる観念は「アメリカインディアン(北米原
住民)」又は「アメリカンインディアン(北米原住民)オートバイ会社」であり,
両者は観念においても相紛れるおそれはない。さらに,使用商標A及びBは「In
dianArrow」の文字と矢及びその他の表記からなるもので,羽根飾りを
付けた右向きインディアン図と「.,.」の文字の表記からなIndianMotocycleCoInc
る引用商標1及び2の外観とは,明らかに相違する。よって,使用商標A及びBと
引用商標1及び2とは,称呼,観念及び外観のいずれの点からみても,類似すると
はいえない。
(イ)また,使用商標A及びBから生じる「インディアンアロー」の称呼と引用
商標3から生ずる「インディアン」の称呼とは,音数の差異等により,区別するこ
とができるものである。また,使用商標A及びBから生じる観念は,「アメリカイ
ンディアン(北米原住民)の矢」であり,引用商標3から生じる観念は「アメリカ
インディアン(北米原住民)」であり,両者は観念においても直ちに相紛れるおそ
れはない。さらに,使用商標A及びBは「IndianArrow」の文字と矢
及びその他の表記からなるもので,「Indian」の文字のみからなる引用商標
3の外観とは,相違する。よって,使用商標A及びBと引用商標3とは,称呼,観
念及び外観のいずれの点からみても,類似するとはいえない。
エ小括
以上のとおり,使用商標A及びBと,引用商標1ないし3とは,いずれも互いに
類似するとはいえない。
(3)引用商標1ないし3の周知著名性及び独創性の程度
ア原告は,引用商標1ないし3は,被告による使用商標A及びBの使用の時点
で,原告及びそのライセンシーが衣類に使用するヴィンテージバイカー系のアメリ
カンカジュアルのブランドの商標として,我が国において周知であり,その結果,
バッグについても周知であったと主張する。
そして,原告は,引用商標1ないし3の周知性を立証趣旨とする証拠として,膨
大な証拠(甲48∼57,84∼201,268∼339,360∼379,38
9∼393,411∼412)を提出する。
イしかしながら,上記証拠によっても,以下のとおり,使用商標A及びBの使
用時点である平成20年5月当時,引用商標1ないし3が,原告の出所を表示する
ものとして,周知であったということはできない。
(ア)すなわち,まず,上記証拠のほとんどは,雑誌等の記事や広告であるとこ
ろ,そこには,引用商標1ないし3の表示が認識できず,又はそもそも引用商標1
ないし3との関連性すら不明な証拠がある(例えば,甲57,88,98,111,
118,120,123,124,126,128,131,132,139,1
40,144,146,148,151,156∼160,162,164,16
6∼168,173,175,176,180,181,185,187,190
∼192,194∼196,268,272,280,283,287∼289,
292,295,297,298,300,302,317,328,334,3
38,366)。また,引用商標1ないし3の構成のままではなく書体や模様が異
なっているもの,引用商標1ないし3と他の表示とを組み合わせたもの,引用商標
1及び2のうちの羽根飾りを付けた右向きインディアン図の部分のみ又はそれと他
の表示を組み合わせた商標を使用したり,社名や店舗名又はメーカー等を表す表示
としてのみ使用するにすぎないなど,引用商標1ないし3そのものの商標の使用と
はいえない証拠も数多く含まれている(例えば,甲48∼56,95∼97,99,
109,119,121,125,127,129,130,133∼135,1
37,138,141,143,145,150,152∼155,163,16
5,169,170,172,174,177,182,184,193,269,
270,273,274,277,278,282,285,286,290,2
93,294,296,299,303∼308,310,313∼315,31
8,320,321,325,326,329,330,332,336,333,
335,339,360,364,365,369∼374,376)。
(イ)また,商品とのつながりのない広告(甲106,136)や,引用商標1
ないし3に係る商品(バッグ等)とは商品分野が全く異なるオートバイや自転車等
に関する使用と見られる証拠もある(甲101,103,104,112,147,
389∼393,411,412)。他に,商品がバッグとは類似しないが関連性
がないとはいえない靴(甲316,361∼363),腕時計(甲179,183,
186,322∼324,327)等について引用商標1ないし3を使用したこと
を示す雑誌の広告等が提出されているが,その数は多いとはいえない。
(ウ)さらに,被服や帽子,ベルトについて引用商標1ないし3を使用したこと
を示す雑誌の広告等が提出されている(甲84∼87,90∼94,100,10
5,107,108,116,117,122,142,149,161,171,
178,188,189,271,275,276,279,281,291,3
09,311,312,319,331,337,367,368,375,37
7∼379)。しかし,前記第2の3(2)のとおり,引用商標1の書換登録後の指
定商品は,第18類「かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ」,第25類「ガータ
ー,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト」等であり,引用商標2の指定商品は,
第18類「皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧用具入れ,かばん金具,がま口口金,
傘」であり(甲443の1∼4),引用商標3はバッグに使用されている商標とし
て,原告が取消審判請求の理由としているものであるところ,引用商標が登録され
ている必要はないとしても,原告が有していた以下の商標権については既に無効審
決が確定しており(甲82,83,乙6,7,11),上記各証拠は,既に無効と
された商標権に係る指定商品に関する使用ということになり,そのような使用をも
って,その周知性の基礎とすることは相当とはいえない。
a商標登録第2710099号:引用商標1及び2と同一の構成からなり,指
定商品を第17類「被服(運動用特殊被服を除く。),布製身回品(他の類に属す
るものを除く。),寝具類(寝台を除く。)」とする商標権
b商標登録第4022987号:引用商標3と同一の構成からなり,指定商品
を第25類「被服,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト」と
する商標権
(エ)他方,原告のライセンシー及び取扱店舗等を示すリスト(甲115,19
7∼200),ライセンシーの陳述書(甲355∼357)や原告代表者の陳述書
(甲20,60,81,469の2)をもってしても,引用商標1ないし3を付し
た商品の販売額等は明らかでないし,これが平成20年5月当時のライセンスや小
売の状況を明らかにするものでもない。
また,原告取締役菅野喜夫の陳述書(甲201。平成14年7月31日付け)に
は,「インディアンの売上規模は小売値ベースで15億円」,原告代表者の陳述書
(甲433。平成17年11月4日付け)には,「Indianブランドの売上げ
は年20億超である」との記載があるが,その中には,引用商標1ないし3以外の,
Indianに関連する標章が使用されたものも含まれていると推認され,また,
引用商標1ないし3を付したバッグの売上げについての記載がない上,客観的にこ
れを裏付ける証拠もなく,使用商標A及びBが使用された平成20年5月前後の売
上げを証する証拠がないことに照らし,上記記載のみによって,引用商標1ないし
3に係る商品の売上げを認定することはできない。
(オ)上記(ウ)のとおり,被服や帽子等について引用商標1ないし3を付した雑
誌の記事や広告が提出されているものの,既に無効とされた商標権に係る指定商品
に関する使用と評価されるものである上,上記(エ)のとおり,引用商標1ないし3
に係る商品の売上げを証する客観的な証拠もないことに照らし,平成20年5月当
時,引用商標1ないし3が,被服や帽子等について原告の出所を表示するものとし
て,周知であったということはできない。
ウまた,バッグについて検討しても,以下のとおり,引用商標1ないし3が原
告の出所を表示するものとして,平成20年5月当時,周知であったということは
できない。
(ア)すなわち,バッグに関する証拠のうち,甲33,164,188には,引
用商標1ないし3が使用されておらず,甲32,130,277のバッグに付され
た標章が引用商標1ないし3と同一のものであるか否かは不明であって,結局,引
用商標1ないし3がバッグに付され又はバッグに関する広告に使用されていること
を示す証拠としては,甲29ないし31,114,284,301,444ないし
448があるにすぎない。しかし,そのうち,甲29ないし31によれば,原告が
バッグについてマルヨシにライセンスを行い,引用商標3を使用させたことが認め
られるものの,これは平成6年当時のものであり,既にライセンス契約を終了した
ことは,原告代表者が甲433において自認するところである。また,甲114
(平成12年の原告のパンフレット),446ないし448(平成20年の原告の
カタログ等)にバッグが掲載されているが,バッグそのものに引用商標1ないし3
のいずれかが付されているか否かは明らかではない。残る甲284,301,44
4,445によれば,原告が,平成14,15年ころ及び平成20年ころ,引用商
標1ないし3をバッグに付して使用した事実は認められるものの,その販売数量や
売上高等は明らかではない。
(イ)以上の事実に,上記イ(エ)のとおり,引用商標1ないし3に係るバッグの
売上げを証する客観的な証拠もないことを総合すると,平成20年5月当時,引用
商標1ないし3が,バッグについて原告の出所を表示するものとして,周知であっ
たということはできない。
エなお,付言するに,原告と被告との間には,過去多くの紛争があり,以下の
ような判決が確定していることに照らすと,原告が,新たな証拠を追加することな
く,漫然と従前の訴訟において使用した証拠を提出することにより,引用商標1な
いし3について被服や帽子等の分野で原告を表示するものとして周知であることを
主張すること自体,訴訟上の信義則に反する行為であると非難されてもやむを得な
いものがあるといわざるを得ない。
(ア)東京高裁平成14年12月27日判決(平成14年(行ケ)第140号。
乙6)
引用商標1及び2と同一の構成に係る原告の第2710099号商標の無効審決
の取消訴訟において,平成7年3月30日の時点で,引用商標1及び2が原告に係
る被服等を表示するものとして周知であったとまでは認めることはできないと判断
された。
(イ)東京高裁平成15年11月28日判決(平成15年(行ケ)第181号。
乙3)
「インディアンモーターサイクル」に係る被告の第2634277号商標の取消
審決取消訴訟において,平成6年3月及び平成7年5月の時点で,引用商標1ない
し3が,原告らないしそのライセンシーの商品を表示するものとして取引者及び需
要者の間に広く知られ,周知性を獲得するに至っていたものということはできない
と判断された。
(ウ)東京高裁平成16年12月21日判決(平成16年(ネ)第745号。乙
8)
原告の引用商標1ないし3が周知商品表示であるとして,不正競争防止法2条1
項1号に基づく差止め及び損害賠償を求める訴訟において,原告及びそのライセン
スグループが使用する引用商標1ないし3の表示は,原告及びそのライセンスグル
ープの商品等表示として取引者・需要者間に広く認識されているものと認めること
はできないと判断された。なお,上記差止請求の基準時すなわち周知性の判断の基
準時となる口頭弁論終結の日は,平成16年10月14日である。
(エ)知財高裁平成21年2月25日判決(平成19年(行ケ)第10342号。
乙94)
被告の第4751422号商標の無効審判不成立審決取消訴訟において,出願時
(平成6年9月21日)及び登録時(平成16年2月27日)の時点で,引用商標
1ないし3を含む原告の表示が原告の略称として,ないしはその被服等の商品の出
所が原告であることを示すものとして,取引者,需要者間に,相当程度知られてい
たということはできないと判断された。なお,上記判決と同様の訴訟が9件あり,
これらの判決は,上告不受理決定により確定した(乙95,弁論の全趣旨)。
オ以上のとおり,被告が使用商標A及びBをトートバッグに使用した平成20
年5月当時において,引用商標1ないし3が原告を表示するものとして周知である
ことを認めるに足りない。
カまた,引用商標3から生ずる「インディアン」の称呼,引用商標1及び2か
ら生ずる称呼の1つである「インディアン」は,「アメリカインディアン(北米原
住民)」の観念を生じる普通名詞であって,現に,「インディアン」に関連する多
数の商標が,被告を始め多数の者によって登録されていること(乙10,32)に
照らしても,その独創性は低い。
(4)取引の実情
ア使用商標A及びBは,トートバッグに使用されているものである。
引用商標1及び2の指定商品には,かばん類が含まれ,引用商標3はバッグに使
用されている。
よって,上記の両商品は,同一であり,取引者及び需要者は共通する。
イなお,引用商標1ないし3について,バッグ以外の被服や帽子等を問題にす
るのであれば,既に無効審決の確定した商標についてのものであり,商品に関連性
はあるものの,類似はしない。
(5)出所の混同
上記(2)ないし(4)認定のとおり,使用商標A及びBが付されたトートバッグと原
告の業務に係るバッグが商品として同一であるとしても,使用商標A及びBと引用
商標1ないし3とが類似するとはいえないこと,引用商標1ないし3が原告の業務
を表示するものとして周知著名とはいえず,独創性も低いことを総合すると,被告
が使用商標A及びBをトートバッグに使用した行為によって,原告の引用商標1な
いし3と出所の混同を生じるとはいい難い。
(6)小括
原告は,その他るる主張するが,いずれも採用することはできず,原告主張の取
消事由1は理由がない。
3結論
以上の次第であるから,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は
棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官高部眞規子
裁判官本多知成
別紙
使用商標A
使用商標B
引用商標1及び2
引用商標3

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