弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     第一審判決中概算額増額変更処分取消請求に関する部分を取り消し、右
請求に係る訴えを却下する。
     第一審判決中損害賠償請求を棄却した部分に関する被上告人らの控訴を
棄却する。
     訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人奥村孝、同石丸鉄太郎、同鎌田哲夫の上告理由第一について
 公共施設の整備に関連する市街地の改造に関する法律(以下「法」という。)二
一条一項、二三条、二七条、二九条、三一条一項、三五条、四一条一項、四六条一
項及び四七条の規定によれば、市街地改造事業を施行する土地の区域内の土地の所
有者、その土地について借地権を有する者又は権原によりその土地に建築物を所有
する者が右事業の施行者から払渡しを受けることとなる当該土地、借地権又は建築
物の対償と、この対償に代えて譲り受ける施設建築物の一部(施設建築物の共用部
分の共有持分を含む。)及び施設建築敷地の共有持分(以下「建築施設の部分」と
総称する。)の価額との清算は、法四六条一項の規定の定めるところにより確定さ
れる建築施設の部分の価額(以下「確定額」という。)によるものであり、法二二
条の管理処分計画において定められる建築施設の部分の価額の概算額(以下「概算
額」という。)をその基準とするものではないこと、概算額は、当該建築施設の部
分の譲受け予定者が将来取得することになる右建築施設の部分の価額のおおよその
見込額にすぎず、このような概算額を管理処分計画において定めることとしている
のは、建築施設の部分の譲受け希望の申出をした者に対し、当該建築施設の部分の
価額の見込額をあらかじめ知らせるとともに、当該譲受け希望の申出を撤回するか
どうか、あるいは管理処分計画に対して不服の申立てをするかどうかを判断する資
料に供するなどのためであることが明らかである。また、概算額の決定方法につい
ての法二七条及び公共施設の整備に関連する市街地の改造に関する法律施行令九条
の規定と価額の確定についての法四六条及び同施行令一五条一項の規定とを対比す
れば、確定額が、概算額に依存して定められるとか、あるいは、概算額を基礎とし
て定められるとかいうものではないことも明らかである。そうすると、このような
性質を有するにすぎない概算額が変更されたからといつて、そのこと自体によつて
は当該建築施設の部分の譲受け予定者はなんら法律上の不利益を受けるものではな
いといわなければならない。
 もつとも、法三一条一項及び二項、三三条、三六条、四一条二項並びに四七条一
項の規定によれば、建築施設の部分の譲受け予定者の土地、借地権又は建築物の取
得又は消滅につき施行者が払い渡すべき対償の額のうち当該建築施設の部分の価額
に相当する部分については代物弁済として当該建築施設の部分が給付されることに
なるので、法は、施行者において、右対償の額のうち概算額に相当する部分は払渡
しをせずにこれを留保し、対償の額が概算額を超えるときは最終的清算に先立つて
その差額に相当する金額を譲受け予定者に払い渡すことを予定しているものと解さ
れる。したがつて、概算額のいかんによつて清算に先立つて払い渡すべき対償の額
が左右されることになる。しかし、原審の適法に確定したところによれば、本件に
おいては、施行者である上告人が被上告人らの被相続人D(以下「D」という。)
に払い渡すべき対償の額は七一九万四四八九円であるのに対し、Dが譲り受ける建
築施設の部分の価額の概算額は当初管理処分計画においては一七五六万八〇〇〇円、
上告人が昭和四九年一〇月一日付で右概算額を増額変更した処分(以下「本件変更
処分」という。)による増額後においては二四七七万四〇〇〇円であるというので
あるから、対償の額はいずれにしても概算額を超えるものではなく、清算に先立つ
て上告人がDに対償の払渡しをするという事態は当初から発生していない。それゆ
え、この点においても本件変更処分はDに法律上の不利益を及ぼすものではない。
 その他、本件変更処分がDになんらかの法律上の不利益をもたらす事由は、これ
を見いだすことができない。
 そうすると、Dは本件変更処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するも
のではなく、被上告人らが相続により右利益を承継するいわれはないといわざるを
えず、本件変更処分取消しの訴えを適法とし本案につき判断した原判決には法令の
解釈を誤つた違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、
論旨は結局理由がある。原判決中本件変更処分の取消請求に関する部分は破棄を免
れず、第一審判決中右請求に関する部分を取り消し、右請求に係る訴えを却下すべ
きである。
 本件損害賠償請求について
 被上告人らの本件損害賠償請求の当否について職権をもつて調査するに、Dは、
本件変更処分の取消しを求めるため本件訴訟の追行を弁護士に委任するのやむなき
に至つたもので、上告人の本件変更処分により右弁護士に支払うべき着手金及び報
酬金相当額の損害を被つたとして、本件損害賠償請求の訴えを提起し、被上告人ら
がこれを承継したものであるところ、右のとおり本件変更処分の取消しを求める訴
えが不適法なものである以上、右損害は本件変更処分と相当因果関係に立つもので
はないことが明らかであり、本件損害賠償請求は既にこの点において理由がない。
 そうすると、右損害賠償請求を認容した原判決には法令の解釈適用を誤つた違法
があるといわなければならず、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
原判決中損害賠償請求に関する部分はその余の上告理由について判断するまでもな
く破棄を免れず、第一審判決中右損害賠償請求を棄却した部分に関する被上告人ら
の控訴を棄却すべきである。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八四条、
九六条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    横   井   大   三
            裁判官    木 戸 口   久   治
            裁判官    安   岡   滿   彦

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