弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2訴外Aと被控訴人との間において平成23年10月26日締結された,訴外
Aが被控訴人に対し,株式会社B(商号は「有限会社B」)の株式1240株
を贈与する旨の贈与契約を取り消す。
3訴外Cと被控訴人との間において平成23年10月26日締結された,訴外
Cが被控訴人に対し,株式会社B(商号は「有限会社B」)の株式235株を
贈与する旨の贈与契約を取り消す。
4訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
本件は,特例有限会社である有限会社B(以下「本件会社」という。)の株
主である控訴人が,本件会社の取締役であった訴外A(以下「A」という。)
及び同C(以下「C」という。)から本件会社の株式を贈与された被控訴人に
対し,訴外人らは,本件会社を害することを知りながら,本件会社の株式を被
控訴人に贈与したことによって,訴外人らが本件会社に対して負う損害賠償債
務の弁済に必要な資力を失った旨主張して,株式会社における責任追及等の訴
え(以下「責任追及等の訴え」という。)に関する規定(会社法847条3項)
に基づき,本件会社のために詐害行為取消の訴え(民法424条1項)を提起
し,上記各贈与の取消しを求めた事案である。
原審が,本件詐害行為取消の訴えは会社法847条3項の予定する訴訟には
当たらないとして,控訴人の本件訴えを却下したところ,控訴人は,これを不
服として控訴した。
そのほかの事案の概要は,原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概
要」の1から3(原判決2頁11行目から6頁18行目まで)に記載のとおり
であるから,これを引用する(なお,原判決中,「原告」とあるのは「控訴人」
と,「被告」とあるのは「被控訴人」とそれぞれ読み替えられることになる。
以下同じ。)。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の本件訴えは不適法であるから却下すべきものと判断す
る。その理由は,以下のとおりである。
2(1)会社法847条3項は広く株主に責任追及等の訴えを提起することを認
めているが,これは,株式会社の代表機関と役員等との関係に鑑み,株式会
社が役員等に対する責任追及を怠る場合に,株主に対して株式会社のために
責任を追及する訴えを提起することを認めることにより,株式会社ひいては
株主の利益を保護しようとする趣旨に出たものと解される。
(2)ところで,会社法は,株式会社の所有と経営とを分離し,株式会社の業務
執行については,原則として取締役や代表取締役等の執行機関にこれを委ね
ている(会社法348条,349条)。他方,株主については,株主総会に
おける議決権行使や議題の提案を通じて取締役の選解任や報酬の決定を行う
ことを基本的な権利として認め(同法295条1項,303条,308条な
いし313条,329条,339条,371条等),更に一定数等の株式保
有要件を充たした株主には,株主総会招集請求権(同法297条),株主総
会検査役の選任請求権(同法306条)や,業務の執行に関する検査役の選
任権(同法358条),取締役の違法行為差止請求権(同法360条)及び
取締役の解任の訴えの提起権(同法854条)等を認めるにとどめている。
こうした株式会社の業務執行に関する会社法の基本構造の下で,会社法が,
株主に対して責任追及等の訴えを提起することを特に認めていることからす
ると,それは,株式会社が役員等に対して役員等の地位に基づく債務又は役
員等の株式会社との取引に基づく債務の履行の請求を怠っている場合などに,
例外的に,株主に対し,株式会社のために,その役員等を相手方とする訴訟
を提起,追行することを認めたものというべきであって,およそ役員等の責
任追及等のために必要でありさえすれば,誰に対してでもどのような訴訟で
も提起することを認めたものと解することはできない。
(3)そこで,責任追及等の訴えについての会社法の規定をみるに,会社法84
7条1項は,責任追及等の訴えを「発起人,設立時取締役,設立時監査役,
役員等(第423条第1項に規定する役員等をいう。以下この条において同
じ。)若しくは清算人の責任を追及する訴え,第120条第3項の利益の返
還を求める訴え又は第212条第1項若しくは第285条第1項の規定によ
る支払を求める訴え」と定義している。そして,会社法が第7編第2章に規
定する各種訴訟について被告適格に関する具体的な規定を設けている(同法
834条,855条,858条2項,861条,864条,866条)のに
対し,責任追及等の訴えについては被告適格に関する規定を特に設けてはい
ないが,これは,責任追及等の訴えについては,文理上被告となるべき者が
明らかであることによるものと解される。すなわち,会社法847条1項の
うち前段の役員等の責任を追及する訴えは,その「責任を追及する」との文
理上,責任追及の対象となる役員等(その趣旨に照らし,役員等であった者
及びそれらの一般承継人を含むものと解される。以下同じ。)が被告となる
ことを当然に予定しているものというべきであり,また,同条同項のうち後
段の訴えは,第三者である株主権の行使に関して利益の供与を受けた者,著
しく不公正な払込金額で株式を引き受けた者又は著しく不公正な条件で新株
予約権を引き受けてこれを行使した者(その趣旨に照らし,それらの一般承
継人を含むものと解される。以下同じ。)が被告となるもので,こうした訴
えを限定的に列挙したものと解される。こうした会社法の規定する各種の訴
えに係る被告とすべき者に関する規定の文言やその内容に照らすと,それら
の被告とすべき者については,これを限定的に定めたものと解するのが相当
である。なお,会社法847条3項の規定する責任追及等の訴えの制度のも
ととなったと考えられる昭和25年法律第167号により導入された株主代
表訴訟制度についても,その累次の改正過程を通じて,その被告とすべき者
については,取締役等の役員等のほかは,特に限定的に列挙した者を規定す
るにとどめているのであって,制度の趣旨を全うするため被告とすべき者の
範囲を拡張し,たとえば取引の相手方などにも押し及ぼそうとすることが検
討されたような形跡はみられないが,こうした点も,上記の解釈と整合性を
有するものと思われる。
(4)以上に検討したところによれば,会社法847条3項が規定する責任追及
等の訴えにおいて,その被告とすべき者(被告適格を有する者)は,同条が
明示的に規定する者,すなわち,責任追及の対象である役員等のほかは,株
主権の行使に関して利益の供与を受けた者,著しく不公正な払込金額で株式
を引き受けた者又は著しく不公正な条件で新株予約権を引き受けてこれを行
使した者のみに限られているものと解するのが相当であって,制度の趣旨を
より拡充するという名の下にこれを拡張して解釈することは許されないもの
というべきである。
(5)これに対し,控訴人は,会社法847条3項による役員等に対する損害賠
償請求権の行使が認められても,それを実現するための強制執行,保全手続
とともに詐害行為取消権の行使が許容されなければ,本件のような場合に役
員等の責任財産が散逸されることを防止できないから,責任追及等の訴えを
認めた趣旨が没却される旨主張する。
なるほど,詐害行為取消の訴えには,債務者の責任財産を保全することを
目的とする点で保全手続に通じる機能があり,この訴えを責任追及等の訴え
に関する規定に基づいて提起することが認められれば,責任追及等の訴えの
実効性がより高まるであろうことは否定し難いところである。
けれども,上記のような会社法の基本構造及び会社法の関係条文の文理に
照らすと,責任追及等の訴えに関する規定に基づいて役員等に対する損害賠
償請求権を本案とする保全あるいは強制執行の手続を執ることが認められる
場合があるとしても,その相手方とすべき当事者は前同様に会社法の定める
上記の者に限られるというべきであるから,それ以外の者を相手方とする詐
害行為取消の訴えを許容することはできず,控訴人の上記主張は採用できな
い。
(6)以上によれば,控訴人の本件訴えは,責任追及等の訴えにおける被告とす
べき役員等ではなく,その取引の相手方を被告とするものであって,被告適
格を欠く者を当事者とする訴えであるから,不適法というべきである。
3よって,本件訴えを却下した原判決は正当であって,本件控訴は理由がない
から棄却することとし,主文のとおり判決する。
仙台高等裁判所第2民事部
裁判長裁判官佐藤陽一
裁判官鈴木陽一
裁判官小川直人

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