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       主   文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告は、原告に対し、金三、四二四、〇〇〇円及びこれに対する昭和五八年一
二月二六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 被告
 主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 被告は土木建築請負業を営む会社である。
2 原告は、昭和三五年五月二一日から昭和五八年一一月二五日まで、被告の従業
員として勤務していたが、「事業縮小のため」との理由により、同日付で解雇さ
れ、退職した。
3 被告の退職金給付規定には、以下のような条項が存する。
第三条 勤続三年以上の各号の一に該当する場合は退職時の本俸(基本給、職能
給)総額に別表の停年退職支給率を乗じた額を支給する。
(3) 会社都合による解雇
第六条 退職金計算は退職時の本俸(基本給、職能給)月額とする。
第七条 ①勤続年数は本人入社日(臨時従業員より引継ぎ正式に採用された場合は
臨時従業員の期間は算入しない。)より起算し、退社の日までとする。
②休職期間は勤続年数に算入しない。
③一年未満の端数は月割計算し、一か月未満の日数は一五捨一六入とする。
第九条 退職金額に一〇〇〇円未満の端数のあるときは、一〇〇〇円に切り上げて
支給する。
4 原告は、昭和五八年三月一六日から同年一一月二五日まで休職しており、その
勤続年数(休職期間を除いたもの)は二二年一〇月となる。また、原告の退職時に
おける本俸(基本給、職能給)は月額二〇〇、〇〇〇円であつた。
5 被告のした解雇は、会社都合による解雇であるから、前項の数値に基づき、原
告の退職金額を算定すると、以下のとおり三、四二四、〇〇〇円となる。
停年退職支給率
 勤続年数二二年の場合 一六・二・・・①
 勤続年数二三年の場合 一七・三・・・②
 原告の支給率(①+(②-①)×10月÷12月)●約17.11666
6・・・③
 退職金額(200,000円×③)●約3,423,333円
 (一、〇〇〇円未満切上げ)三、四二四、〇〇〇円
6 退職金給付規定第一〇条には、「退職金は退職者が退職手続を完了した日から
原則として一か月以内に本人又は権利継承者に支給する。」とされている。
 よつて、原告は被告に対し、右退職金三、四二四、〇〇〇円及びこれに対する弁
済期の翌日である昭和五八年一二月二六日から支払済みまで商事法定利率年六分の
割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は認める。ただし、原告の解雇理由を「事業縮小のため」としたの
は形式上のことであつて、その実質は後記のとおり懲戒解雇である。
3 同4の事実中、前段は否認し、後段は認める。原告は、昭和三五年五月二一日
から昭和四一年五月一二日までは臨時従業員であり、また昭和五八年三月八日から
休職している。
4 同5の事実は否認する。
5 同6の事実は認める。
三 抗弁
1 被告は、昭和五八年四月一九日、国税当局による税務調査を受けたが、その
際、被告の株式会社吉方組(以下「吉方組」という。)に対する三〇七、六六四円
の請求書及び吉方組発行の同額の領収証について説明を求められた。そこで被告が
これを調査したところ、吉方組は間違いなく右金員を支払済みであるのに、被告に
おいては入金がなされておらず、右書類は訴外A(以下「訴外A」という。)が原
告に依頼し、原告が不正に作成したものであり、その際原告は一〇〇、〇〇〇円を
不正に取得していたことが判明した。
2 そこで、被告は、原告に就業規則第五六条(諭旨解雇、懲戒解雇)(ル)(職
務を利用して利益を計りあるいは業務に関して不当な金品その他を受けたとき)及
び第五七条(本人に準じて懲戒する場合・懲戒該当行為についての未遂及び他の従
業員を扇動、ほう助、教唆もしくは共謀した従業員も懲戒にすることがある。)の
各規定に該当する行状があると認め、昭和五八年一一月二五日付で、原告を解雇し
たものである。ただし形式上は、原告の再就職の配慮等から、「事業縮小のため」
との理由による解雇としたが、その実質は懲戒解雇である。
 被告の退職金給付規定には、その第五条に「就業規則の規定により懲戒解雇した
場合には退職金は支給しない。手続上依願退職の形式により退職された者も含
む。」との規定があるから、退職金の支払義務は存しない。
3 仮にそうでないとしても、同年一二月一五日、右不正行為について原、被告間
で話し合いの末、原告が右請求書及び領収証を不正に作成したことを認めたため、
被告は原告の現在までの勤務状態、病気の点及び再就職がスムーズに行えるように
との配慮から、外形上は右のとおり事業縮小のためという理由で退職させたことと
し、退職金についても被告が加入していた中小企業退職金を支給する代わりに、原
告は他の退職金について放棄するということで、原、被告間に合意が成立した。
4 仮にそうでないとしても、同年一二月二七日、原、被告間において、被告が原
告に有していた五二四、五八四円の仮払金等の債権について、原告が月々五、〇〇
〇円の支払いをする旨の合意が成立したが、その際原、被告間において、中小企業
退職金以外の退職金は支給しない旨の合意が成立した。
5 仮にそうでないとしても、被告は昭和五九年一月一七日、原告を昭和五八年一
一月二五日付で懲戒解雇処分する旨通知した。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実中、各書類は、訴外Aが原告に依頼し、原告がこれを作成したも
のであることは認めるが、原告が不正に作成し、その際一〇〇、〇〇〇円を不正に
取得したことは否認し、その余は知らない。
2 同2及び3の事実はいずれも否認する。
3 同4の事実中、月々五、〇〇〇円の支払で合意したこと及び支払の念書を差し
入れたことは認め、その余は否認する。
4 同5の事実は不知。
五 再抗弁
 仮に、原告の行為が懲戒解雇事由にあたるとしても、被告はその後間もなく原告
に対してその行為を不問に付し、原告に対する懲戒解雇権を放棄した。
六 再抗弁に対する認否
 再抗弁の事実は否認する。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがなく、同3の事実は、被告におい
て明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。
二 被告は、原告の解雇理由を「事業縮小のため」としたのは形式上のことであつ
て、実質は懲戒解雇であると主張するので、右解雇の経緯につき検討すると、成立
に争いのない乙第二、第六、第七、第一三、第一五及び第一六号証、証人B及び同
Aの各証言、原告本人尋問の結果(後記採用しない部分を除く。)並びに被告代表
者尋問の結果によれば、以下の事実が認められる。
1 被告は、昭和五八年四月、国税当局の税務調査を受けたが、その際、吉方組か
ら被告に入金になつているはずの三〇七、六四四円の昭和五四年一一月付請求書
(乙第一五号証)及び同額の同年一二月一八日付領収証(乙第一六号証)を示さ
れ、その説明を求められた。
2 右請求書は、その入金指定先の取引銀行「北洋相互銀行西野支店」の記載が抹
消され、被告に入金にならぬよう工作された形跡があり、調査の結果、右取引につ
いては請求書控、領収証控もなく、帳簿等にも記載が存しないうえ、入金もなされ
ていないこと、右書類の筆跡は原告のものであり、金員を受領したのは訴外Aであ
ることが判明した。
3 この点につき、訴外Aも、被告代表者に対して、自分が、国立札幌病院の解体
工事に関し、被告の労務者を使つて、勝手に被告の名前で仕事をしながら、その代
金を被告には納入せず、着服しようと企て、原告に請求書、領収証を書いてもらつ
たものであり、この件に関して、原告に対し一〇〇、〇〇〇円を渡した旨話してい
た。
4 そこで、当時被告の専務であつた訴外B(以下「訴外B」という。)が、昭和
五八年一二月一五日、原告に対し事情を尋ねたところ、原告は右請求書と領収証は
自分が書いたものであること、振込先は会社に入金にならぬように抹消したもので
あることを認め、訴外Aからの一〇〇、〇〇〇円の受領についても特に否定しなか
つた。
5 そこで訴外Bは、訴外Aの説明が真実であつたと考え、原告に就業規則第五六
条及び第五七条に該当する懲戒解雇事由があると認めたが、原告が昭和五七年一一
月に脳梗塞で倒れて以来、会社を休んでいたこと、懲戒解雇にした場合の本人の将
来への影響等を考えて、形式上は「事業縮小のため」との理由とし、中小企業退職
金は出すが、その余の退職金は支払わない旨提案し、原告もこれを了承したため、
同年一一月二五日付をもつて、右の理由で解雇した。
6 更に、訴外Bは、原告に対し、被告の原告に対する仮払金、貸金が合計五二
四、五八四円存する旨を告げ、その返還方を求めたところ、原告は昭和五八年一二
月二七日、被告宛に、「五二四、五八四円については、昭和五九年二月末日から毎
月五、〇〇〇円ずつの割賦弁済をする。」旨の誓約書(乙第六号証)を差し入れ
た。
7 しかるに、その後原告から、退職金の請求をされたため、被告は、昭和五九年
一月一七日、あらためて昭和五八年一一月二五日付で原告を懲戒解雇にする旨通知
した。
以上の事実が認められる。
 原告はこの点につき、「訴外Aから日報が回つてきたので、頼まれるままに書い
た。請求書の取引銀行の記載を抹消したのは、当時、北洋相互銀行手宮支店も同銀
行西野支店も取引銀行ではなかつたからである。一〇〇、〇〇〇円を受け取つた事
実はないし、会社に対し、入金にならないように工作したと話したこともない。昭
和五八年一二月一五日に、退職金を放棄するという話は出ていないし、同月二七日
に乙第六号証を差し入れたのも、退職金が出ないと考えてのことではない。」と供
述する。しかし、成立に争いのない乙第一〇号証、第一一号証の3、証人Bの証言
により真正に成立したものと認められる乙第一一号証の1、2及び証人Bの証言に
よれば、前記乙第一五号証の請求書の書かれた直後である昭和五四年一二月一日か
ら昭和五五年一月三一日の間においても、北洋相互銀行西野支店は被告の主要取引
銀行であり、また、請求書に表示されていた取引銀行も、当時同銀行手宮支店の記
載のみを抹消して使用していたことが認められ、これに反する証拠はないから、取
引銀行の記載抹消について、右の事実と矛盾した説明をする原告の供述は措信しが
たい。また、証人Bの証言によれば、通常、請求書、領収証は、その控えを保管す
る扱いになつているところ、右手続きが踏まれていないと認められ、原告がこのよ
うに日ごろと違つた扱いをしていることに鑑みれば、原告は、不正行為と知りつ
つ、これらの書類を作成し、そのほう助行為に及んだと推認せざるをえない。した
がつて、原告の前記供述は採用できず、右供述によつて、前記認定を覆すことはで
きないし、前記認定に反する甲第一三号証(原告作成の陳述書)の記載も同様に採
用できず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。
 以上によれば、原告は、昭和五八年一一月二五日付で、形式的には「事業縮小の
ため」という会社都合を理由として解雇されたものの、その実質は懲戒解雇であ
り、原告も右の事実を承知していたと言うべきである。
 成立に争いのない甲第一号証によれば、被告の退職金給付規定には、第五条に
「就業規則の規定により懲戒解雇した場合には、退職金は支給しない。手続上依頼
退職の形式により退職させた者も含む。」との定めがあることが認められるとこ
ろ、右後段の規定の趣旨は、実質は懲戒解雇であるが、会社が該従業員の将来を考
えて、懲戒解雇とはせず、別の形式をとつて退職させ、該従業員もそのことを了解
している場合は、退職金は支給しないというにあると解されるから、その形式とし
ては必ずしも依願退職の形式がとられた場合に限られず、これと同視しうる場合も
含まれるものと言うべきである。本件の場合、右に認定した事実によれば、被告の
担当者訴外Bが原告に対し、懲戒事由の存在を説明し、原告においても特にこれを
否定せず、形式上「事業縮小による解雇」とすることを了承していたのであるか
ら、依願退職の形式によつて退職させられたのと同視しうる場合として、右後段に
該当するものと解するのが相当である。
 原告は、被告が原告の行為を不問に付し、原告に対する懲戒解雇権を放棄したと
主張する。しかしながら、被告が右に認定した原告の不正行為の事実関係を知りな
がら、原告に対しこれを不問に付し、懲戒解雇権を放棄したとの事実を認めるに足
りる的確な証拠はない。したがつて、原告の右主張は理由がない。
 以上のとおりであるから、原告の退職金は、退職金給付規定第五条後段により、
発生しない。
三 そうすると、本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当であるか
ら、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文の
とおり判決する。
(裁判官 原健三郎 北澤晶 秋吉仁美)
別表 退職金支給係数 省略

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