弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、控訴人敗訴の部分を取り消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 第一 当事者の求めた裁判
 一 控訴人
 主文と同旨
 二 被控訴人
 1 本件控訴を棄却する。
 2 訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。
 第二 当事者の主張
 一 請求原因
 1 被控訴人の妻訴外亡Aは、控訴人との間で、昭和六一年七月一日、次の内容
の積立女性保険契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
 (1) 保険契約者    A
 (2) 保険者      控訴人
 (3) 被保険者     A
 (4) 死亡保険金受取人 Aの法定相続人
 (5) 保険金      事故による死亡の場合は一〇〇〇万円
 (6) 保険期間     昭和六一年七月一日午後四時から同六六年七月一日
午後四時まで
 2 Aは、昭和六三年九月二八日、事故のため死亡した。
 3 Aの相続人は、原判決別紙身分関係図記載のとおり、配偶者である被控訴人
と兄弟姉妹(代襲相続人も含む。)の合計一〇名であり、被控訴人の法定相続分
は、四分の三である。
 4 保険契約者であるAは、口頭により死亡保険金受取人を法定相続人と指定し
た。そして、保険契約者が受取人を法定相続人と指定した場合には、保険金請求権
はその発生時の法定相続人に、その時点における法定相続分に従って帰属すると解
するのが、契約者の推認される合理的意思に適合するものであり、ことに、Aは、
兄弟姉妹とのつきあいがなく、夫である被控訴人に保険金の多くを帰属させる意思
を有していたと推測されるから、被控訴人に帰属した保険金請求権の額は、その法
定相続分に従い、七五〇万円である。
 仮に、Aが死亡保険金受取人を指定しなかったとしても、受取人は、本件契約に
適用される保険約款により被保険者である同人の法定相続人となり、この場合にお
ける契約当事者の推認される意思は、右の場合と同様であるというべきであるか
ら、被控訴人に帰属した保険金請求権の額は、右同様に七五〇万円である。
 5 控訴人は、被控訴人を含むAの相続人全員から保険金の請求を受けたが、そ
の権利が各相続人に均等に帰属するとの考えに従って、平成二年三月三〇日、被控
訴人に金一〇〇万円を支払ったのみで、被控訴人の受領すべき保険金の残額六五〇
万円については、その支払いを拒絶した。
 6 このため、被控訴人は、被控訴人代理人に本訴の提起を委任し、着手金及び
成功報酬を支払うことを約束したが、このうち、右六五〇万円の一割に当たる六五
万円は、この履行遅滞による被控訴人の損害に該当する。
 よって、被控訴人は、控訴人に対し、保険金請求権の残額六五〇万円と控訴人の
履行遅滞による損害賠償金六五万円の合計七一五万円及びこれに対する履行期後で
ある平成二年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払い
を求める。
 二 請求原因に対する認否
 1 請求原因1の事実は認める。もっとも、このうち(4)の死亡保険金受取人
については、後記4のとおり、Aが指定をしなかったため、被保険者の法定相続人
を受取人とする本件契約に関する保険約款の定めによることとなったものである。
 2 請求原因2の事実は認める。
 3 請求原因3の事実は認める。
 4 請求原因4の事実のうちAが死亡保険金受取人を法定相続人と指定したこと
を否認する。その余の点は争う。本件契約においては、受取人の指定がされなかっ
たので、本件契約に関する保険約款により、保険金は被保険者の法定相続人に支払
うべきものであった。そして、この場合には、当該相続人は、保険金請求権を原始
的に取得し、被保険者から相続により取得するものではないから、その取得額は、
法定相続分によるのではなく、民法四二七条の規定に基づき、各自平等の割合によ
ることとなる。
 仮に、Aが受取人を法定相続人と指定したとしても、このことにより、その取得
割合についても、これを法定相続分とする指定をしたものということはできないか
ら、これをもって民法四二七条にいう別段の意思表示があったと認めることはでき
ない。したがって、この場合においても、相続人は、右同様に各自平等の割合によ
り保険金請求権を取得するものである。
 5 請求原因5のうち、控訴人が被控訴人に対し保険金として一〇〇万円を支払
ったことを認めるが、その余は争う。
 6 請求原因6の事実は知らない。なお、履行遅滞による損害の点は争う。
 三 抗弁
 仮に、保険金請求権が法定相続分の割合によって各相続人に帰属し、その結果、
被控訴人を除く被保険者Aの相続人九名に対して支払うべき保険金の合計額が、そ
の法定相続分の合計の割合に基づく二五〇万円であるとしても、控訴人は、本件契
約に基づく保険金を、被控訴人を含む被保険者の相続人一〇名に対し、平等に分割
して一〇〇万円ずつ支払った。そして、被控訴人を除くAの相続人九名に対して現
実に支払った九〇〇万円から右二五〇万円を控除した六五〇万円については、本来
の債権者に対する弁済ではなかったとしても、控訴人は、本件のように死亡保険金
受取人の指定のない場合について、被保険者の法定相続人に、法定相続分に応じて
保険金請求権が帰属することを否定した判例があり、また、他の保険会社のほとん
どが均等の支払いをしている実情に鑑み、各債権者に対するその債権額に応じた弁
済と考えて支払ったものであり、また、右事実によれば、控訴人はその支払いに当
たり、善意、無過失であったというべきであるから、被控訴人の請求する保険金の
残額である六五〇万円は、民法四七八条にいう債権の準占有者に対する弁済により
消滅した。
 四 抗弁に対する認否
 控訴人主張の支払いがあったことは認め、その余は争う。死亡保険金受取人の指
定のない場合について、法定相続分に応じて保険金請求権が帰属するとの判例もあ
り、また、そのように対応している保険会社もあるから、控訴人が善意、無過失と
いうことはできない。
 第三 証拠(省略)
         理    由
 一 請求原因1ないし3の事実(ただし、Aが死亡保険金受取人を指定したかど
うかの点を除く。)及び、本件契約に適用される保険約款によれば、死亡保険金受
取人の指定のないときは、被保険者の死亡時の法定相続人が受取人となることは、
いずれも当事者間に争いがない。
 被控訴人は、Aが控訴人の担当者に対し口頭で保険金受取人を指定したと主張
し、成立に争いのない甲第一号証によれば、本件契約に関する保険証券の死亡保険
金受取人欄には「法定相続人」と記載されていることが認められる。しかしなが
ら、本件契約の申込書(成立に争いのない乙第一号証)の死亡保険金受取人欄は空
白(不記載)となっており、弁論の全趣旨によれば、保険契約申込書の死亡保険金
受取人欄が空白となっている場合には、控訴人は、保険約款に基づき被保険者の法
定相続人が受取人となることから、改竄防止等のため保険証券の死亡保険金受取人
欄に「法定相続人」と記載していることが認められ、このことを考慮すると、前示
甲第一号証によっては被控訴人の右主張を認めることができず、他にこれを認める
に足りる証拠はない。
 <要旨>そして、保険約款に基づき被保険者の法定相続人が受取人となる場合に
は、被保険者の死亡時の被保険者の法定相続人が受取人となると解されるか
ら(最高裁判所昭和四八年六月二九日第二小法廷判決、民集二七巻六号七三七頁参
照)、本件契約に基づく死亡保険金は、これに適用される保険約款によってAの死
亡時の法定相続人に帰属することとなる。
 二 被控訴人は、Aの法定相続人が相続分に応じて保険金請求権を取得したと主
張する。しかし、死亡保険金は、相続財産ではなく、相続人の固有財産であって
(最高裁判所昭和四〇年二月二日第三小法廷判決、民集一九巻一号一頁参照)、一
旦保険契約者に帰属したうえで、相続によってその法定相続人に移転するものでは
ないから、受取人である法定相続人が複数である場合には、民法四二七条により各
相続人が均等の割合によってこれを取得すると解するのが相当である。そして、本
件における保険約款の定めは、受取人に関する契約者の意思が明らかではない場合
についての対応として設けられたものであることがその文言上明らかであって、相
続人が法定相続分に応じて死亡保険金を受けることまでも定めたものではないとい
うべきであるから、保険約款に右の定めがあることから、民法四二七条にいう「別
段ノ意思表示」があるものと認めることはできない。
 このように解するときは、保険金の帰属が契約者の生前の生活関係には必ずしも
そぐわない結果となる場合を生ずる(本件も、被保険者の法定相続人が、配偶者の
ほかは、生活上のかかわりが薄かった多人数の兄弟姉妹やその代襲相続人であっ
て、その感がないではない。)ことも予想されないではない。しかしながら、保険
金債権が法定相続人に均等に帰属すること自体が一般的に合理性を欠くものという
ことはできないうえに、相続財産ではない権利が特段の意思表示がないのに相続分
の割合によって各権利者に帰属することの根拠は見当たらないから、右のような場
合を生ずるからといって、これをもって被控訴人の右主張を採用する根拠とするこ
とはできない。
 三 前示乙第一号証によれば、本件契約の申込書の死亡保険金受取人欄には、
「相続人となる場合は記入不要です」との注記がされていることが認められ、この
事実からAが死亡保険金の受取人を自己の相続人とする意図のもとに、ことさら同
欄を空白としたものと推認する余地がないではない。しかし、仮にそのように推認
するとしても、受取人の指定をしたことが直ちに保険金請求権の帰属割合の指定を
したことを意味するものではないから、右事実によっては、受取人の指定があった
と解する余地があるに止まり、保険金請求権の帰属を法定相続分の割合とすること
まで指定したものと認めることは困難である。
 被控訴人は、Aと兄弟姉妹との仲が良くなかったので、Aは法定相続分によると
する意思を有していたものと推認すべきであると主張するが、右のような不仲の事
実から直ちにAの意思を推認することは困難であるばかりではなく、商法六七七条
一項において、保険契約者が死亡保険金の受取人の指定を保険者に通知しなければ
これを保険者に対抗することができないと定めていることや、一般に、保険契約の
期間が長期にわたり、かつ、保険者において大量の保険事務を処理しなければなら
ないことに鑑みると、保険金の帰属割合に関する指定は、被保険者が死亡するまで
に、保険者が確実に認識することができる方法によって行われることを要すると解
すべきところ、本件に表れた証拠によっては、控訴人の担当者がAの死亡までに右
の事情を知ることができたものと認めることはできず、この点に関して指定という
に足りる行為があったということはできないから、被控訴人の右主張は理由がな
い。
 四 以上の認定及び判断によれば、被控訴人が本件契約により控訴人に対して請
求することのできる保険金の額は、保険金総額一〇〇〇万円をAの法定相続人の員
数である一〇で除した一〇〇万円となることが明らかであるところ、被控訴人は控
訴人から本件契約による保険金として一〇〇万円を受領したことは当事者間に争い
がない。
 五 してみれば、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は、その余の点を判断する
までもなく、いずれも失当として棄却すべきであるところ、これを一部認容した原
判決は不当であり、本件控訴は理由がある。
 よって、原判決中、控訴人敗訴の部分を取り消したうえ、被控訴人の本訴請求を
棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文
のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 橘勝治 裁判官 小川克介 裁判官 南敏文)

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