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平成18年4月13日宣告裁判所書記官
平成17年(わ)第185号強制わいせつ致傷被告事件
判決
主文
被告人を懲役3年に処する。
未決勾留日数中240日をその刑に算入する。
理由
【犯罪事実】
被告人は,帰宅途中のA(当時21歳)を認めるや,付近の暗がりにおいて,強
いて同女にわいせつな行為をしようと企て,平成17年1月15日午後11時30
分ころ,松山市甲a丁目b番c号B株式会社C営業所北側路上において,同女に対
し「おまえ,にらまんかったか」などと因縁をつけ,右手で同女の頭部を押さ,。
えつけた上,果物ナイフ様の凶器を示し「俺を抱きしめろや「俺ナイフ持っと,。」
んぞ,言うこと聞いたら何もせんけん。いいけんこっちにこいや」などと申し向。
け,同女の左手首をつかんで同市甲a丁目b番d号D株式会社Eセンター敷地内の
方向へ引っ張り,さらに,同Eセンター北側路上において,同女に対し「大きな,
声を出したら刺すけんの。何もせんけん,言うことだけ聞いとったらええけん」。
などと申し向け,その顔面を手拳で2回殴打するなどの暴行,脅迫を加え,強いて
,,同女にわいせつな行為をしようとしたが同女に抵抗されたためその目的を遂げず
その際,上記暴行により,同女に加療約4週間を要する鼻骨骨折等の傷害を負わせ
たものである。
【証拠の標目】
省略
【事実認定上の補足説明】
第1被告人と犯人との同一性について
弁護人は,被告人は判示記載の日時に犯行現場に行ったことがなく,被告人は犯
人でない旨主張し,被告人も同旨の供述をする。そこで,以下検討する。
1だ液様のものの採取・保管状況及び鑑定結果等について
()関係各証拠によれば,以下の事実が認められる(以下年号は特に断りがな1
い限り平成17年。)
ア被害者は,1月15日午後11時30分ころ,犯人から判示記載の暴行等を
受けた後,通行人に発見され,同人方に保護された。
イ捜査官は,1月16日午前3時40分ころから同日午前3時45分ころまで
の間に,F警察署(以下「警察署」という)において,新しい滅菌されたガーゼ。
片に水をしみこませたもので被害者の頭髪に付着していただ液様のもの以下だ,(「
液様のもの」という)を採取し,鑑識係に引き継いだ。。
,(「」。)ウ1月17日愛媛県警察本部刑事部科学捜査研究所以下研究所という
に対し,だ液様のものにつきだ液かどうか,だ液であれば血液型の鑑定嘱託がなさ
れ,同時に鑑定資料として,だ液様のものが研究所に送付された。
エ研究所における鑑定により,1月27日,だ液様のものがだ液であり,その
血液型がB型であるとの回答がなされた。
オだ液様のものの鑑定残量は,上記エの回答とともに研究所から警察署に返送
され,DNA鑑定に備えて警察署鑑識室の鑑定資料保管用冷蔵庫に一時保管された
後,2月1日,警察署から研究所に保管申請がなされ,同所の超低温槽において保
管されるに至った。
カ3月14日,研究所に対し,上記オのとおり研究所において保管されていた
だ液様のものにつき,そのDNA型の鑑定嘱託がなされた。
キ3月14日,捜査官が,被告人に綿棒にガーゼを巻き付けたものを使用させ
て採取した被告人の口腔内細胞を領置し,鑑識係に引き継いだ後,研究所に対し,
上記口腔内細胞の血液型及びDNA型につき鑑定嘱託を行い,同時に,乾燥させた
上記口腔内細胞を研究所に送付した。
ク研究所による鑑定により,3月25日,だ液様のものと口腔内細胞の血液型
及びDNA型が一致したとの中間回答があった(だ液様のもののDNAは5月7日
付けで正式な鑑定書,上記口腔内細胞の血液型及びDNAは6月29日付けで正式
な鑑定書。)
ケ4月5日,被告人の血液を採取し,鑑定嘱託したところ,上記だ液様のもの
と同じ血液型及びDNA型であった(5月25日付けで正式な鑑定書。)
コだ液様のものと同一の血液型及びDNA型の出現頻度は,理論上,約940
0億人に1人である。
()上記認定によれば,被害者の頭髪に付着していただ液様のものは被告人の2
だ液であると認められる。この点,弁護人は,DNA鑑定に用いられただ液様のも
のは,被告人が1月16日に職務質問を受けた際,または,3月14日に任意同行
された際,被告人が吸っていた煙草の吸い殻から採取されただ液とすり替えられた
ものである疑いがある旨主張する。しかしながら,1月16日に被告人に対し職務
質問を実施した警察官は,一般的な職務質問を行ったのみで,被告人に対して特段
の嫌疑を抱いていなかったことからすれば,かかる警察官が正規の手続きを執るこ
ともなく被告人の煙草の吸い殻を捜査資料として持ち帰ったとはおよそ考えられな
いし,また,3月14日の任意同行の際には,上記だ液様のものは既に研究所の超
低温槽において保管されており,警察署には存在していなかったのであるから(上
記()オ,捜査官が煙草の吸い殻に付着した被告人のだ液とだ液様のものとをす1)
り替えることは不可能であり,また,加えて,本件捜査に直接関与していない研究
所の研究員が鑑定資料として保管しているだ液様のものを他のものにすり替えて鑑
定する必要性も合理的な理由もない。以上に照らせば,弁護人の主張は,不合理な
ものであり採用できない。
2だ液様のものの付着経緯等について
被害者は,公判廷において「西の方に歩いていると右後ろ当たりに人の気配を,
感じ,それと同時にプッ,ペッという感じのつばを吐くような音がして,右後頭部
の頭髪と頭皮に暖かい液体のような感触があった。そして,その直後に犯人が私の
横に来て『おまえ,やっぱりにらまんかったか』と言われた。周りには犯人以,。
外誰もいなかった。この事件以外で他の人から髪につばを吐きかけられたことはな
い」旨供述する。その供述内容は,非日常的な体験に基づいた具体的で迫真性に。
富むものであって十分信用できるというべきである。以上によれば,だ液様のもの
は本件犯行の犯人が付着させたものであると認められる。この点,弁護人は,少量
の,しかも粘着性のあるだ液が頭髪を通って頭皮にまで達するはずがないこと及び
仮にだ液が頭皮に達したとしても,真冬の夜であることからすればだ液は冷えてい
るはずであり被害者が温かみを感じることはない旨主張し,上記被害者供述の不自
然さを指摘する。しかし,かかる主張は単なる推測の域を超えないのであって,上
記認定の被害者供述の信用性に影響を及ぼすものではない。よって,弁護人の主張
は採用できない。
3結論
上記1,2の認定を総合すれば,だ液様のものは,被告人のだ液であり,被告人
が,本件犯行当時に被害者の頭髪に吐きつけて付着させたものと認められる。よっ
て,被告人と犯人の同一性についての被害者供述の信用性について検討するまでも
なく,被告人が本件犯行の犯人であると認められる。
4アリバイについて
弁護人は,被告人が本件犯行当時,友人と待ち合わるため古本屋において立ち読
みをしており,本件犯行現場にはいなかった旨の主張をし,被告人も捜査段階から
一貫して同旨の供述をする。しかし,かかる被告人の供述は,DNA型鑑定等の客
観的証拠により認定される被告人と犯人との同一性に反するばかりか,その供述内
容も友人の名前すら明らかでないなど具体性がないものであって,到底信用できな
い。よって,弁護人の主張は採用できない。
第2わいせつ目的について
1犯行状況に関する被害者供述の信用性について
被害者は,本件犯行状況につき,犯罪事実記載のとおりの供述をするところ,か
かる被害者供述は,捜査・公判を通じて概ね一貫していること,その内容も下記2
()ないし()のとおり具体的で迫真性に富んでいることからすれば,信用できると26
いうべきである。この点,弁護人は,被害者は当初「俺を抱きしめろやという感じ
のことを言ってきた」と供述していたのに対し,その後「俺を抱きしめろや』,『
と言いました」と断定的なものにその供述を変遷させているうえ,通常男性が女性
に「抱きしめろや」などと申し向けることはないのであるから,被害者の供述内容
は不自然である旨主張する。しかし,供述の変遷の点については「俺を抱きしめ,
ろや」という供述の核心部分は捜査・公判を通じて一貫しており,また,その供述
内容自体の不自然さについても,弁護人の主張するところは単なる一般論にすぎな
いのであって,いずれの主張も上記認定の被害者供述の信用性に影響を及ぼすもの
でない。よって,弁護人の主張はいずれも採用できない。
2上記信用できる被害者供述及びその他の関係各証拠によれば,以下の事実が
認められる。
()被害者は,被告人と面識のない女性である。1
()被告人は,被害者に対して「おまえ,にらまんかったか」などと因縁を2,
つけた後,松山市甲a丁目b番c号B株式会社C営業所北側路上(以下「営業所北
側路上」という)において「俺を抱きしめろや」と言いつつ,右手で被害者の。,
頭に手を回し引き寄せた。
()その後,被告人は,同所において,被害者に対し,ビニール袋に入れた果3
物ナイフ様の凶器を示し「俺ナイフ持っとんぞ,言うこと聞いたら何もせんけん」
と申し向けた。
()更に,被告人は,被害者の左手首をつかみ「いいけんこっちにこいや」と4
言いつつ被害者を同所から同市甲a丁目b番d号D株式会社Eセンター以下E,(「
センター」という)敷地に引き込もうとした。。
()被告人は,被害者が足を踏ん張り抵抗したことから,同人をEセンター北5
側路上に引きずっていった。
()被告人は,同所において,被害者に対し「何もせんけん,言うことだけ6,
」,「」きいとったらええけんなどと申し向け被害者が少し大きな声で本当にやめて
と言った後,顔面を手拳で2回殴るなどの暴行に及び,直後に犯行現場から逃走し
た。
・営業所北側路上,Eセンター北側路上及びEセンター西側路地の明るさは,
顔立ちがはっきりしないほど暗いか,防犯灯により人が対峙して顔が見える程度で
ある。
3以上の被告人の言動,犯行場所の状況などに照らせば,わいせつ目的は優に認
定できる。
【法令の適用】
省略
【量刑の理由】
本件は,被告人が,深夜1人で通行中の女性に対し,強いてわいせつな行為をす
る目的で判示暴行を加え,わいせつ目的を達するには至らなかったものの,その暴
行により被害者に判示の傷害を負わせたという強制わいせつ致傷の事案である。
被告人は,本件犯行により被害者に対し,約4週間の治療を要する鼻骨骨折,顔
面挫創等の傷害を負わせておりその結果は重大である。犯行態様は判示のとおりで
あるが,上記傷害のほか被害者の前歯が欠けたことも考慮すると,強度の暴行を加
えたものと認められ危険かつ悪質である。かかる犯行により,被害者は何ら落ち度
がないにもかかわらず上記傷害を負わされて約1か月間の休職を余儀なくされ,現
在でもその痕跡が残り,鼻に違和感を感じるなどの身体的苦痛を被っているのみな
らず,精神的苦痛も被っており,被告人による慰謝の措置が何ら講じられていない
ことも鑑みれば,その処罰感情が厳しいのも当然である。これに対して被告人は,
捜査・公判を通じて不合理な弁解に終始し全く反省していない。以上からすれば,
被告人の刑事責任は重い。
他方,幸いにもわいせつ行為自体は未遂にとどまったことなど被告人に有利な事
情も認められる。
そこで,上記諸事情を総合考慮の上,被告人に対し主文の刑を科すのが相当であ
ると判断した。
(求刑懲役3年6月)
平成18年4月13日
松山地方裁判所刑事部
裁判長裁判官前田昌宏
裁判官武田義德
裁判官酒井英臣

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