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平成19年8月21日判決言渡
平成13年(行ウ)第17号産業廃棄物処理施設設置許可処分取消請求事件
判決
主文
1本件訴えのうち原告A,同B,同C及び同Dに係る部分を却下する。
2被告が,平成13年3月1日付けで株式会社エコテックに対して許可番号1
2−ハ−設−1号をもってした産業廃棄物処理施設の設置に係る許可を取り消
す。
3訴訟費用は,原告A,同B,同D及び同Cに生じた費用と被告に生じた費用
の2分の1とを原告A,同B,同C及び同Dの負担とし,原告E及び同Fに生
じた費用と被告に生じたその余の費用を被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文第2項同旨
第2事案の概要
本件は,被告が株式会社エコテック(以下「エコテック」という)に対し。
て,産業廃棄物処理施設の設置許可処分(以下「本件許可処分」という)を。
したところ,別紙1「設置場所目録」記載の前記施設の建設予定地(以下「本
件予定地」という)の周辺に居住する原告らが,本件許可処分は,廃棄物の。
処理及び清掃に関する法律(以下「法」という)15条1項等に規定された。
設置許可に係る要件を欠き違法であると主張して,本件許可処分の取消しを求
めている事案である。
1法令の定め
別紙2「法令の定め」のとおりである。ただし,平成9年法律第85号
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を以下「平成9年改正法,同法による改正前の法を以下「平成7年法,」」
平成12年法律第105号を以下「平成12年改正法,同法による改正前」
の法を平成9年法平成13年法律第66号による改正前の法を以下平「」,「
成12年法,廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令を以下「施行令,」」
廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則を以下「規則,一般廃棄物の」
最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める命令
(昭和52年総理府令,厚生省令第1号)を以下「共同命令,平成10年」
総理府・厚生省令第2号を以下「平成10年改正命令,同命令による改正」
前の共同命令を以下「平成5年共同命令,平成12年総理府・厚生省令第」
1号を以下「平成12年改正命令,同命令による改正前の共同命令を以下」
「平成10年共同命令,平成13年環境省令第10号による改正前の共同」
命令を以下「平成12年共同命令」とそれぞれ略称する。
2前提事実(末尾に証拠等の記載のない事実は,当事者間に争いがないか,明
らかに争わない事実である)。
(1)原告らは,本件予定地と別紙3「原告ら位置関係図」のとおりの位置
関係にある肩書き住所地に居住する者らである。
エコテック(旧商号株式会社伸葉都市開発。平成12年6月20日エコテ
ックに商号変更)は,昭和63年3月14日設立の一般廃棄物及び産業廃棄
物の処理,運搬収集等の事業等を目的とする資本金2000万円の株式会社
である。
(2)アエコテックは,平成9年改正法2条及び附則5条の施行日(平成1
。「」。),0年6月17日以下平成9年改正法施行日という前の同月8日
被告に対し,本件予定地に,施行令7条14号ハ所定の産業廃棄物の最終
処分場(いわゆる管理型最終処分場。以下「本件処分場」という)の設。
置許可申請(以下「本件許可申請」という)をした。。
イ被告は,平成11年4月27日,エコテックに対し,本件処分場の設置
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を許可しない旨の処分をした。
ウエコテックは,前記不許可処分について,厚生大臣(当時)に対し,行
政不服審査請求を行い,厚生大臣は,平成12年3月30日付けで,前記
不許可処分を取り消す旨の裁決をした。
エ被告は,平成12年改正法施行日(平成12年10月1日)後の平成1
3年3月1日付けで,エコテックに対し,本件許可処分をした。
(3)本件処分場の設置計画の概要
別紙4「本件処分場概要」のとおり。
3争点
(1)ア本件許可処分に当たり適用すべき法の規定
イ各原告の原告適格の有無
(2)ア本件処分場の平成12年法15条の2第1項1号の技術上の基準適
合性について
(ア)平成12年共同命令2条1項4号,1条1項4号イ違反の有無
(イ)平成12年共同命令2条1項4号,1条1項5号について
a(a)同号イ(1)違反の有無
(b)同号イ(2)違反の有無
(c)同号イ(3)違反の有無
b同号ハ違反の有無
c同号ニ違反の有無
d同号ホ違反の有無
e同号へ違反の有無
イ平成12年法15条の2第1項2号(周辺地域の生活環境保全について
の適正な配慮に係る部分)違反の有無
ウ平成12年法15条の2第1項3号,平成12年規則12条の2の3第
2号(産業廃棄物処理施設を設置及び維持管理する経理的基礎)違反の有
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エ平成12年法15条の2第1項4号,14条3項2号イ,7条3項4号
ホ(業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足り
る相当の理由がある者)違反の有無
オ平成12年法15条3項ないし6項に規定する手続の要否
4争点に関する当事者の主張
別紙5「当事者の主張」のとおり。
第3当裁判所の判断
1争点(1)ア(適用法規)について
(1)本件では各争点において本件許可処分に当たり適用すべき法の規定に
ついて争いがあるため,まずこれを検討する。
(2)前記第2の1の法令の定め及び前記第2の2(2)の事実によれば,
,,原告らは平成9年改正法施行日前に本件許可処分を申請したところその後
平成9年改正法の施行を経て,平成12年改正法が施行された後に,被告が
本件許可処分をしたことが認められる。
平成9年改正法附則5条1項は,附則1条1号に掲げる規定(平成7年法
を改正する平成9年改正法2条の規定及び附則5条を含む)の施行日(平。
成10年6月17日)前に,平成7年法15条1項の規定によりされた許可
の申請であって,同号に掲げる規定の施行の際,許可又は不許可の処分がさ
れていないものについての許可又は不許可の処分については,なお従前の例
によると規定している。
そうすると,平成9年改正法附則5条1項の規定する経過措置によると,
前記第2の2(2)の事実のとおり,本件許可処分の申請は,平成10年6
月8日に平成7年法15条1項の規定によりされた許可の申請であって,平
成9年改正法附則1条1号に掲げる規定の施行の際,許可又は不許可の処分
がされていないものであるから,その許可又は不許可の処分を行うに当たっ
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ては,平成7年法が適用される。
一方,平成12年改正法は,附則4条で,同法施行前に平成9年法15条
1項又は15条の2第1項の規定によりされた許可の申請であって,この法
律の施行の際許可又は不許可の処分がされていないものについての許可又は
不許可の処分については,平成12年法15条の2第2項の規定は適用しな
い旨を規定し,平成12年改正法附則6条でその他の経過措置は政令で定め
る旨を規定しているが,同条の委任を受けた施行令においては,産業廃棄物
処理施設の設置許可に係る経過措置は規定されていない。これは,平成12
年改正法は,廃棄物を適正に処理するために必要な施設の整備が進まず,悪
質な不法投棄等の不適正処分が増大するなどの深刻な状況を踏まえて,廃棄
物について適正な処理体制を整備し,不適正な処分を防止するための改正を
するものであるから,平成12年改正法附則は,廃棄物の不適正な処分を防
止するために規制を強化するものについては,政策上経過規定を設けなかっ
たものと解される。
したがって,平成12年改正法によって平成9年法を実質的に改正した平
成12年法の規定については,原則どおり,平成12年改正法施行の際,許
可又は不許可の処分がされていない産業廃棄物処理施設設置許可の申請につ
いての許可又は不許可の処分であっても,平成12年改正法附則4条の場合
を除き,平成12年法の規定が適用される。
もっとも,平成12年改正法は,平成9年改正法附則5条1項に規定した
経過措置を改正する旨の規定を設けていない。そうすると,一部改正法令の
施行後も,一部改正法令の附則において定められた改正された法令に係る経
過措置については,もとの法令自体が廃止又は全部改正されるか若しくは経
過措置を定めた附則の規定自体が改正されない限り,その効力を失わないと
解されるから,平成9年改正法附則5条1項に規定された経過措置は,平成
12年改正法の施行にかかわらず,いまだ効力を失っていないというべきで
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ある。
(3)以上によれば,本件許可処分に当たっては,産業廃棄物処理施設の設
置許可に関する規定のうち,1平成9年改正法附則5条1項に規定された
(「」経過措置により平成7年法が適用される規定及び規定の一部以下規定等
という)については,平成12年改正法の規定にかかわらず平成7年法の。
規定等が適用され,平成9年改正法及び平成12年改正法に係る規定は適用
されない。2平成12年改正法に係る規定のうち,附則4条により平成1
2年法15条の2第2項の規定は適用されず,3これらを除く平成9年法
を実質的に改正した平成12年法の規定等が適用されることになるというべ
きである。
以下の争点については,これを前提に検討する。
2争点(1)イ(原告適格)について
(1)行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同
条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」
,,とは当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され
又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた
行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消さ
せるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護す
べきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにい
う法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然
的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を
有するものというべきである。そして,処分の相手方以外の者について前記
の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠と
なる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに
当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合に
おいて,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的
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を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益
の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に
違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが
害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照(最高裁)
平成16年(行ヒ)第114号同17年12月7日大法廷判決・民集59巻
10号2645頁参照。)
平成7年法15条2項2号は,産業廃棄物処理施設である最終処分場の設
置により周辺地域に災害が発生することを未然に防止するため,都道府県知
事が産業廃棄物処理施設設置許可処分を行うについて,産業廃棄物処理施設
が「産業廃棄物の最終処分場である場合にあっては,厚生省令で定めるとこ
ろにより,災害防止のための計画が定められているものであること」を要件
として規定しており,同号を受けた規則(平成10年厚生省令第31号によ
る改正前のもの)12条の3は,災害防止のための計画において定めるべき
事項を規定している。また,平成7年法15条2項1号は,産業廃棄物処理
施設の設置許可につき,申請に係る産業廃棄物処理施設が「厚生省令(産業
廃棄物の最終処分場については,総理府令,厚生省令)で定める技術上の基
準に適合していること」を要件としているが,この規定は,同項2号の規定
と併せ読めば,周辺地域に災害が発生することを未然に防止するという観点
からも前記の技術上の基準に適合するかどうかの審査を行うことを定めてい
るものと解するのが相当である。そして,人体に有害な物質を含む産業廃棄
物の処理施設である管理型最終処分場については,設置許可処分における審
査に過誤,欠落があり有害な物質が許容限度を超えて排出された場合には,
その周辺に居住等する者の生命,身体に重大な危害を及ぼすなどの災害を引
き起こすことがあり得る。前記のような法の規定の趣旨・目的及び前記の災
害による被害の内容・性質等を考慮すると,法は,管理型最終処分場につい
て,その周辺に居住等し,当該施設から有害な物質が排出された場合に直接
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的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命,身体の安全
等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解する
のが相当である。
したがって,管理型最終処分場の周辺に居住等する住民のうち,当該施設
から有害な物質が排出されることにより生命又は身体等に係る重大な被害を
直接に受けるおそれのある者は,当該施設設置許可の取消しを求めるにつき
法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有するも
のというべきである。
そして,原告らの居住等する地域が前記被害が想定される範囲か否かは,
本件処分場の種類,規模,本件予定地周辺の地形,予想される災害の規模,
範囲,原告らの居住等する地域の状況,原告らの生活状況,本件処分場との
位置関係等の具体的な諸条件を考慮に入れた上で,社会通念に照らして合理
的に判断すべきである。もっとも原告適格の有無は訴訟要件であり,訴訟の
入り口の段階で行われるべきものであることからすれば,その判断は社会通
念による概括的な程度で足りるものと解するべきである。
(2)証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。
ア本件処分場で処分される産業廃棄物により排出されると予想される有害
物質の種類は,別紙6の1「処理工程と処理水目標値及び処理水の水質」
「()」の埋立廃棄物焼却灰及びばいじん主体よりの浸出水に含まれる状態
欄で含まれる旨の記載のある同別紙の「項目」欄の有害物質のとおりであ
る。これらは,一般に人体に摂取すると急性又は慢性の各種中毒症状を引
き起こすほか,発ガン性,生殖毒性等を有するものと考えられている。な
お,ダイオキシン類が多量に含まれる飛煤については,本件処分場の受入
品目から除外されている。
イ(ア)本件予定地付近の地層構成は,別紙7「地層構成図」のとおりで
あり,第1砂質土(Ds1)層は標高約32メートルから約51メート
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ル前後に分布している透水層で,地下水を豊富に含んでおり,その水位
は本件予定地の台地部で約38メートルないし39メートル,本件予定
地の谷部で約35メートルから37メートルである。
(イ)本件予定地は,飯岡台地と呼ばれる洪積台地内の忍川によって開
析された沖積低地に向かう谷の部分にある。飯岡台地は周囲を急崖に囲
,,,まれ台地面の高度は全体として南側から北西側に傾いており標高は
最高56メートルであり,北東に向かって緩く傾斜している。おおむね
別紙3「原告ら位置関係図」の赤線囲み枠内が飯岡台地である。
飯岡台地全体の平均的な地層構成は,前記(ア)の本件予定地付近の
地質とおおむね同様である。
ウ本件処分場に搬入される焼却煤その他の産業廃棄物については,あらか
じめ加湿若しくは固化した上で有蓋車両を使用させること,又は,荷台を
シートで覆って運搬させて,運搬中の産業廃棄物の落下や飛散の防止対策
を講じること,加湿に当たり水分過剰により汚水が漏水しないように配慮
すること,埋立作業中に適宜散水して産業廃棄物の乾燥及び飛散を防止す
ること,産業廃棄物を本件処分場内に投入した当日に覆土すること等の対
策を採る計画となっている。
(3)ア前記第2の2(3)の事実及び前記(2)認定の事実によれば,本
件許可処分における審査に過誤,欠落があり,本件処分場の水処理施設や
遮水工が十分に機能せず,本件処分場の浸出水が,本件処分場外に漏れ出
す災害が発生した場合,本件予定地周囲の地下水が浸出水により汚染され
るところ,本件予定地周辺の地下水を保有するDs1層は,別紙3「原告
ら位置関係図」の赤線囲み枠内の飯岡台地においておおむね同一の地層を
形成しており,本件予定地周囲の地下水は,同別紙の赤線囲み枠内の飯岡
台地全体に流入している可能性を否定できない。そうすると,飯岡台地内
に居住等し,地下水を生活用水や農業用水等に直接利用している者につい
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ては,本件処分場から人体に有害な物質を含有する浸出水が許容限度を超
えて排出された場合に,生命又は身体等に係る重大な被害を直接に受ける
おそれがあるから,本件許可処分の取消しを求める原告適格を有するとい
うべきである。
イまた,前記第2の2の事実及び前記(2)認定の事実によれば,有害物
質を含んだ焼却灰が大気中に飛散した場合には,本件処分場と隣接した一
,,定の地域に居住し又は農業に従事するなどしそのような大気を一定程度
継続的に吸引する環境にある者については,生命又は身体等に係る重大な
被害を直接に受けるおそれがあるから,本件許可処分の取消しを求める原
告適格を有するというべきである。
ウ一方,原告らは,1本件処分場へ通行する大型車両との交通事故があ
,,った場合2本件予定地付近を水源とする忍川を将来上水道の水源とし
この水を飲用する場合,3浸出水により汚染された地下水を農業用水と
して生育した農作物を摂取した場合などにも,生命又は身体等に係る重大
な被害を直接に受けるおそれがある旨を主張する。しかしながら,大型車
両の通行自体が直ちに原告らの生命身体に直接に危険を及ぼす性質のもの
ということはできないこと,忍川は本件許可処分当時から現在に至るまで
上水道の水源となっているものではないこと,管理型最終処分場の浸出水
により汚染された地下水を農業用水として生育した農作物を摂取した場合
に,人体にいかなる影響があるのか本件証拠上明らかでないことなどから
すれば,前記1ないし3の場合に,原告らが生命又は身体等に係る重大な
被害を直接に受けるおそれがあるとまでいうことできない。
(4)ア前記第2の2(1)の事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告
Eは,別紙3「原告ら位置関係図」の赤線囲み枠内の飯岡台地の肩書き住
所地に居住して,そこでカーネーションの栽培を行っており,井戸からく
み上げた地下水を生活用水及び農業用水として利用していること,原告F
−11−
は同別紙の赤線囲み枠内の飯岡台地上の肩書き住所地に居住して,本件予
定地付近で水田の耕作を行っているところ,そのために水田近くの湧水を
配水管で水田に送水し利用していることが認められ,この湧水は飯岡台地
の地下水が湧水したものである蓋然性が高いというべきであるから,本件
処分場から有害な浸出水が排出された場合に,生命又は身体等に係る重大
な被害を直接に受けるおそれがあるし,前掲証拠によれば,原告Fは,本
件処分場から約600メートルの地域に居住し,本件処分場から約200
メートルの地域で畑を耕作していることが認められることからすれば,焼
却灰を含んだ大気を一定程度,継続的に吸引した場合については,生命又
は身体等に係る重大な被害を直接に受けるおそれがあるというべきであ
る。
したがって,原告E及び同F(以下「原告Eら」という)については。
本件許可処分の取消しを求める原告適格を有するというべきである。
イ他方,証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告A,同B及び同Cは,飯岡
台地内に居住しているものの,地下水を生活用水又は農業用水に利用して
いないことが認められ,また,原告Dについては飯岡台地内に居住せず,
飯岡台地内の地下水を生活用水又は農業用水に利用していないことが認め
られるから,本件処分場から有害な浸出水が排出された場合に,生命又は
身体等に係る重大な被害を直接に受けるおそれがあると認めることはでき
ない。
また,焼却灰の飛散に対しても,前記(2)ア及びウのとおり,本件処
分場の焼却灰には多量のダイオキシン類は含まれない計画であること,本
件処分場においては焼却灰の飛散対策が相当程度採られる計画となってい
ることなどからすれば,本件処分場と原告A,同B,同C及び同Dの居住
場所との位置関係からして,これらの者について,焼却灰の飛散により,
生命又は身体等に係る重大な被害を直接に受けるおそれがあるとまで認め
−12−
ることはできない。
したがって,原告A,同B,同C及び同Dについては,本件許可処分の
取消しを求める原告適格を有さないというべきである。
3本件許可処分に当たり適用すべき共同命令(別紙2「法令の定め」8枚目参
照)の規定及び審査すべき技術上の基準適合性について(争点(2)ア共通)
(1)本件許可処分に当たり適用すべき共同命令の規定について
争点(2)アの各争点について本件許可処分に当たり適用される共同命令
の規定について争いがあるので,まずこれを検討する。
ア平成7年法15条2項1号は「厚生省令(産業廃棄物の最終処分場に,
ついては,総理府令,厚生省令)で定める「技術上の基準」に適合してい
ること」と定め,同処分場の技術的水準については共同命令によるべき。
ことを明らかにし,これは平成12年法15条の2第1項1号でも実質的
に改正されていないことから,本件処分場の技術的水準が充足されている
かどうかについては,共同命令で定める要件を満たしているか否かにより
判断されることになる。
そして,本件処分場は,前記のとおり,平成7年法15条1項の許可を
申請している者の管理型最終処分場に該当することから,平成10年改正
命令附則5条3項の規定が適用される。
平成10年改正命令附則5条3項は,既存管理型最終処分場に関する経
過措置について,別紙2「法令の定め」13枚目の平成10年改正命令の
附則欄のとおり規定しており,平成11年6月17日以後における既存管
理型最終処分場の技術上の基準については,1平成10年共同命令1条
1項4号から6号までの規定については,平成10年共同命令1条1項4
号,5号イ(3)及びヘ並びに6号並びに平成5年共同命令1条1項5号
イ及びロの規定の例により適用され,2平成10年共同命令1条1項4
号,5号イ(3)及びヘ並びに6号の規定については,別紙2の2「経過
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措置に係る共同命令の定め」の「平成10年共同命令」欄のとおりと読み
(,替えることになる平成10年共同命令1条1項5号ヘの規定については
浸出液処理設備に係る「法8条第2項7号に規定する廃棄物処理施設の維
持管理に関する計画に放流水の水質について達成することとした数値が定
められている場合における当該数値」については適用されない。これ。)
らの経過措置については,平成12年改正命令においても,改正されてお
らず,その効力はいまだ失われていない。
もっとも,平成12年共同命令1条1項5号への規定は,浸出液処理設
備について,平成10年共同命令1条1項5号ヘで規定された排水基準等
に加えて,ダイオキシン類対策特別措置法施行規則(平成11年総理府令
第67号)別表第2の下欄に定めるダイオキシン類の許容限度に適合させ
るとの要件を加える改正がされたから,平成12年共同命令1条1項5号
への規定のうち,浸出液処理設備に係る前記ダイオキシン類の許容限度の
要件は,適用される。
イしたがって,本件許可処分において適用される共同命令1条1項の規定
のうち共同命令2条1項4号で例によるべき規定は,本件で争点に関係し
ない平成10年共同命令1条1項1号を除外すると,同項4号,5号イ
(3,ヘ,6号及び平成12年共同命令1条1項5号ヘ(ただし,ダイ)
オキシン類対策特別措置法施行規則(平成11年総理府令第67号)別表
第2の下欄に定めるダイオキシン類の許容限度の部分に限る)並びに平。
成5年共同命令1条1項5号イ及びロになるというべきである(別紙2の
2「経過措置に係る共同命令の定め」の下線部分の規定。)
(2)本件許可処分に当たり審査すべき技術上の基準適合性について
法は,産業廃棄物最終処分場について,その設置許可を受けた者は,設置
許可後に都道府県知事の検査(以下「使用前検査」という)を受け,当該。
産業廃棄物処理施設が法15条2項1号に規定する技術上の基準に適合して
−14−
いると認めた後でなければこれを使用できず(平成7年法15条4項,使)
用開始後は,共同命令(環境省令)で定める技術上の基準に従い,当該産業
廃棄物処理施設を維持管理しなければならず(平成12年法15条の2の
2,施設の構造及び維持管理が,前記各技術上の基準に適合しないときは)
当該産業廃棄物処理施設の設置許可を取り消すことができ(平成12年法1
5条の3,あらかじめ当該最終処分場の状況が環境省令で定める技術上の)
基準に適合していることについて都道府県知事の確認を受けたときに限り当
(,該最終処分場を廃止することができる平成12年法15条の2の4第3項
平成12年法9条5項)旨を定めている。このように,法は前記各規制が段
階的に行われることを予定して最終処分場の技術上の安全性を担保している
ことからすれば,設置許可の段階における技術上の基準に係る審査において
は,専ら,使用前検査によって確認すべき事項や,使用開始後の実際の維持
管理において規制されるべき事項,廃止時の規制に係る事項については,そ
の対象とはならないと解すべきである。
4争点(2)ア(ア(擁壁等の設置)について)
(1)ア前記第2の2(3)の事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の
事実が認められる。
(ア)本件処分場は,盛土による堰堤で廃棄物の流出を防止する構造と
なっているところ一般に盛土の安全性耐力は盛土の構造計算安,(),(
定計算)によって求められる。
本件処分場の土堰堤の安定計算は,円弧すべり面を仮定した分割法を
用いて行っている。これは,すべり面上の土塊をいくつかのスライスに
分割し,各スライスで発揮されるせん断力(すべり落ちようとする力)
と抵抗力(滑り落ちるのを支える力)を求め,それぞれを累計し,その
比率によって安全率を求めるものであり,安全率(Fs)は以下の算式
によって求められる。
−15−
Fs=RΣ{CL+(W・cosα−Ub・cosα)tanφ}
RΣW・sinα
R:すべり円弧の半径(メートル)
C:粘着力(KN/平方メートル)
L:スライス底面の長さ(メートル)
W:スライスの全重量(KN/メートル)
α:スライス底面が水平面となす角度(度)
U:スライス底面に作用する間隙水圧(KN/平方メートル)
b:スライスの幅(メートル)
φ:内部摩擦角(度)
(イ)本件予定地の地盤調査報告書等に基づき,各層の土質定数(飽和
単位体積重量,湿潤単位体積重量,内部摩擦角及び粘着率等)を求め,
この数値を基に前記算式によって,本件処分場の土堰堤のすべり面ごと
に安全率を求めると,土堰堤全体の最小の安全率は1.505であり,
法面の最小の安全率は1.386となる。
イ前記ア認定事実及び証拠によれば,一般に盛土の安全率は常時で1.2
ないし1.3以上が標準とされているから,本件処分場の土堰堤の安全率
はこれを上回るものであって,十分な安全性を有するものというべきであ
る。
(2)ア原告らは,1最終処分場の土堰堤の工事と道路工事等の盛土工事
が同じ計算方法で足りる根拠が不明であること,2最終処分場の土堰堤
の安全率の標準値は道路工事とは別個の考慮が必要であること,3本件
予定地が地下水を含む地層を有する点を考慮していないことなどから十分
な耐力,安全性を有していない旨を主張する。
,(),,しかしながら前記1認定の事実証拠及び弁論の全趣旨によれば
−16−
1最終処分場の土堰堤の工事と道路工事の盛土工事は同様の土工事であ
り,力学的にも同様のものであると認められること,2最終処分場の設
置方法等を解説した指針解説においても道路工事等を同種の工事と考えて
道路工事の安全率と同様の値が基準値として示されていること,3本件
処分場の安定計算においては,本件予定地の地盤調査報告書に基づき本件
予定地の地下水位を算定し,地下水による影響を考慮して土質定数を算出
していることが認められ,原告らの前記主張はいずれもその前提を誤った
ものである。
イまた,原告らは本件予定地の基礎地盤が十分な強度を有しておらず,堰
堤の自重に対して安全ではない旨を主張する。
しかしながら,証拠及び弁論の全趣旨によれば,1本件予定地の谷部
が本件処分場の底部となる予定であるところ,その支持地盤は,建設工事
の際に本件予定地の谷部を掘削し,Ds2層(洪積第2砂質土層)となる
予定であること,その地盤強度は,本件予定地の地盤調査の際に行われた
孔内水平載荷試験(ボーリング孔の壁面を加圧し,そのときの圧力と変形
量から地盤の変形特性と強度特性を求めるもの)によれば,本件予定地の
Ds2層の降伏圧は,112.5t/平方メートルであり,産業廃棄物の
単位体積重量を一般的な2.0t/立方メートルとすると,埋立高約56
メートルの産業廃棄物の荷重に耐えられる計算であること(本件処分場の
埋立高は24メートルから25メートルの間となる計画である,2。)
本件予定地の谷部のDs2層のN値(N値とはその層における土の固さを
。,。)いうなお一般に砂質土の軟弱地盤は10から15以下とされている
は,平成10年5月の地盤調査時で12ないし50(モデル的な地盤で2
2程度,同年10月の地盤調査時は12ないし24(平均15)である)
こと,3本件予定地の掘削後,支持基盤の平板載荷試験(地盤に設置し
た円状の鉄板に荷重を加えて地盤の沈下量を測定する作業を荷重を増やし
−17−
ながら行って地盤の支持力を算定する試験)を実施する予定であり,その
結果,地盤の強度不足や著しい不均一が確認された場合,これを補うため
支持基盤の土を良質土に置き換えるなどして補強工事を行い必要な強度及
び連続性を有する支持基盤とすることが可能であることが認められること
,,などによれば設置許可の段階における技術上の基準に係る審査としては
支持基盤の強度及び連続性は堰堤の自重に対して十分な耐力を有する計画
となっているというべきである。
ウさらに,原告らは本件処分場の土堰堤は地下水の水圧に対して十分な考
慮をしてない旨を主張するが,前記第2の2(3)及び後記5(2)アの
とおり,本件処分場は地下水集排水管を張り巡らせ,排水ポンプで地下水
を集めて排水することで地下水位を強制的に下げる計画であるから,地下
水の水圧に対して十分な考慮をした計画であるというべきである。
エ以上によれば,原告らの主張はいずれも採用できない。
5争点(2)ア(イ)a(a(遮水層の要件)について)
()(),()1ア前記31判示のとおり平成12年共同命令1条1項5号イ1
の規定は,本件許可処分に当たっては適用されないから,技術上の基準と
はならず,平成5年共同命令1条1項5号イを充足しているかどうかが問
題となる。
イ(ア)本件処分場の遮水工の構造は,前記第2の2(3)のとおり,上
層の遮水シート(HDPEシート(高密度ポリエチレンシート)の上)
には保護層(法面部は遮光性短繊維不織布,底盤部は厚さ500ミリメ
ートルの保護覆土が敷設され下層の遮水シートEPDMシート加),((
硫ゴム系シート)については,上層のHDPEシートと下層のEPD)
Mシートとの間に敷設される保護層(法面は短繊維不織布,底盤部は厚
さ300ミリメートルの砂層)が敷設され,更にその下部に厚さ500
()ミリメートルの粘性土ライナー粘性土とベントナイトを混合したもの
−18−
が敷設されるのであり,二重の遮水シートに,更に粘性土ライナーが付
加されている。
(),()イ証拠によれば各遮水シートHDPEシートとEPDMシート
は,強度,耐熱性等において日本工業規格の標準規格に適合した最終処
分場用に用いられている製品を使用する予定であること,平成10年7
月16日付け環水企第301号・衛環第63号「一般廃棄物の最終処分
場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める命令の運用
に伴う留意事項について」と題する通知(この通知自体は,平成10年
改正命令の施行に係る留意点を通知したものである)によれば,施行。
作業及び埋立作業によりその表面に傷が発生した場合においても十分な
強度及び遮水性を確保すること並びに補修等を可能とすることを考慮し
て,アスファルト系以外を材質とする遮水シートについては,1.5ミ
リメートル以上とすることとされているところ,本件の遮水シートはい
ずれも1.5ミリメートルを用いる計画であることなどが認められるか
ら,十分な強度及び遮水性を有するものということができる。
(ウ)前掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,粘性土ライナーの設置自体
は,本件許可処分に係る技術上の基準では要求されていないが,一般的
には,遮水性能として透水係数が毎秒10ナノメートル(1×10のマ
イナス6乗センチメートル/秒)以下程度が要求されている(平成10
年改正命令によって,厚さが50センチメートル以上であり,かつ,透
水係数が毎秒10ナノメートル以下である粘土その他の材料の層の表面
に遮水シートが敷設されていることが要件とされた(平成10年共同命
令1条1項5号イ(1(イ)こと,本件処分場に設置される粘性土)))
,()(())ライナーについては前記第2の23別紙4のうち32部分
)(),,及び別紙4の5及び前記アのとおり厚さ500ミリメートルで
透水係数毎秒10ナノメートル以下の性能を満たすものを用いる計画と
−19−
なっていることが認められるから,粘性土ライナーは,十分な強度及び
遮水性を有するものということができる。
ウ以上によれば,本件処分場に敷設される遮水シート及び粘性土ライナー
の性能,敷設方法等に照らし,本件処分場の遮水工の構造は,十分な強度
及び遮水性を有する計画であるといえ,埋立地からの浸出液による公共の
水域及び地下水の汚染を防止するため,保有水等の埋立地からの浸出を防
止することができる遮水工を設ける計画となっているというべきである。
(2)原告ら主張の遮水工に係る問題点について
ア原告らは,1本件処分場の遮水工は,地下水の有効な排水が行われな
かった場合,遮水シート自体に水圧がかかり破損するおそれがあること,
2粘性土ライナーが地下水と接触して欠損し,遮水シートと基礎地盤と
が接触して遮水シートが破損するおそれがあること,3地下水によって
遮水工の周囲が洗掘され沈下がおきることなど,地下水の影響による遮水
工の問題点を主張する。
(),,,前記第2の23証拠及び弁論の全趣旨によれば本件処分場では
遮水工が地下水によって浸食されることがないよう,遮水工の下部及び周
辺に地下水集排水管を張り巡らせ,排水ポンプで地下水を集めて排水し,
地下水位を強制的に下げて地下水が遮水工に接触するのを防止する計画と
なっていること,地下水集排水設備は,埋立区域を包み込むように枝状に
敷設された地下水集排水管により,地下水を処分場中央の集水塔へ集め,
ポンプにより排水する構造となっていること,地下水集排水管の断面につ
いては,一般に最小管径は15センチメートル程度を目安に設定するのが
望ましいとされているところ,本件処分場の地下水集排水管の管径につい
ては,底面部幹線では100センチメートル,底面及び小段部では25セ
,,ンチメートル法面では20センチメートルとする計画となっていること
地下水集排水管の間隔については,一般に暗渠については20メートル間
−20−
隔程度をめどに,埋立地の地形,地質,土質並びに地下水集排水区域の面
積等を勘案して決定することとされているところ,本件処分場の地下水集
排水管の配置状況については,埋立区域を包み込むように枝状に敷設され
ており,本件処分場内の各地点から概ね20メートル以内に地下水集排水
管が敷設されていること(なお,地下水集排水管の間隔を施工前の計算に
よって確定することは困難であって,地下水の効果的な集排水を実現する
ため,実際に地下水集排水管を敷設する段階でその配置を変更する必要が
生じた場合には変更する予定である,被告は,使用前検査において,。)
地下水集排水管敷設工事施工中に集排水管の配置状況を検査・確認するこ
ととしていることなどからすれば,地下水は有効な排水が行われる計画と
なっていると認められるから,地下水の有効な排水が行われなかった場合
を前提とした主張はその前提を欠いたものであって採用できない。
イまた,原告らは,設置工事又は使用開始後の経年劣化など様々な原因に
より遮水シートが破損する可能性があること,破損が発見された場合の工
事方法,費用についても実証的な裏付けがないことから,遮水工が保有水
等の埋立地からの浸出を防止することができないことを主張する。
本件で使用予定の遮水シートは,前記(1)認定の事実,証拠及び弁論
の全趣旨によれば,前記(1)判示のとおり,十分な強度及び遮水性を有
し,かつ,破損が生じた場合には補修等が可能なものであると認められる
ところ,これを超えた設置工事又は使用開始後の経年劣化等による遮水シ
ートの破損可能性,破損が発見された場合の具体的な工事方法及びその費
用の裏付けの有無などは,専ら使用前検査又は使用開始後の維持管理上の
問題であって,設置許可の段階における技術上の基準に係る審査の対象事
項ではないというべきであるから,原告らの主張は採用できない。
ウさらに,原告らは漏水検知システムの問題点を主張する。
しかしながら,漏水検知システムは,設置自体が本件許可処分に係る技
−21−
術上の基準として求められているものではなく,また,計画段階において
その性能を発揮できないなどの不合理な点は認められないところ,原告の
主張はいずれもこれを超えて使用前検査又は使用開始後の維持管理上の問
題など設置許可の段階における技術上の基準に係る審査の対象外の事項を
主張するものというべきであるから採用できない。
(3)以上によれば,本件処分場の遮水工は,共同命令所定の技術上の基準
に適合したものであって,原告の主張は理由がない。
6争点(2)ア(イ)a(b(基礎地盤)について)
(),()()前記31判示のとおり平成12年共同命令1条1項5号イハ2
の規定に係る要件は,本件許可処分の技術上の基準にはならないから,これを
違法事由とする原告らの主張は失当であるというべきである。
7争点(2)ア(イ)a(c(遮水層の表面の覆い)について)
前記第2の2(3,証拠によれば,本件処分場の遮水工の表面は,法面部)
においては表面保護層(表面保護マット)については,遮光性を有するものを
使用し,底盤部においては500ミリメートルの保護覆土を施す計画となって
おり,遮水シートの劣化を防止するための必要な遮光の効力を有する不織布又
はこれと同等以上の遮光の効力及び耐久力を有する物で覆う計画であることが
認められるから,共同命令所定の技術上の基準に適合したものということがで
きる。
この点,原告らは,工事の際に不具合が生じる可能性があること,使用開始
後に風雨,工事又は埋立ての際の過誤等により表面保護マットがはがれたりす
るおそれがある旨を主張するが,いずれも専ら使用前検査又は使用開始後の維
持管理上の問題であって,設置許可の段階における技術上の基準に係る審査の
対象事項ではないというべきであるから,原告の主張は採用できない。
8争点(2)ア(イ)b(地下水集排水設備)について
前記3(1)判示のとおり,本件許可処分に当たっては,平成12年共同命
−22−
令2条1項4号,1条1項5号ハの適用はなく,本件許可処分に係る技術上の
基準とはならないから,これに違反することをいう原告らの主張は失当である
というべきである。
9争点(2)ア(イ)c(保有水等集排水設備)及びd(調整池)について
(1)前記3(1)判示のとおり,本件許可処分に当たっては,浸出水集排
水設備については平成12年共同命令2条1項4号,1条1項5号ニ及びホ
の規定の適用はなく,平成5年共同命令1条1項5号ロの規定のみが適用さ
れる。
(2)ア前記第2の2(3,証拠及び弁論の全趣旨によれば,浸出水排水)
設備については,1浸出水集排水管幹線(口径600ミリメートル,)
底盤部浸出水集排水管枝管(口径250ミリメートル,法面部浸出水集)
排水管(口径200ミリメートル)を別紙4の6「浸出水集水管平面図」
のとおり配置しており,浸出水は,埋立地の底面に敷設された法面部浸出
水集排水管,底盤部浸出水集排水管枝管及び浸出水集排水管幹線に集めら
れること,集排水管として高密度プレスト管を使用すること,浸出水集排
水管の周辺を包み込むように砕石の被覆材を施しており,目詰まりを防止
する計画となっていることが認められる。
イまた,証拠及び弁論の全趣旨によれば,集排水管(高密度プレスト管)
,,,の強度については一般にプレスト管は継手部からの漏水を防止したり
計画した通水断面を十分に確保するため等の必要から,許容たわみ率は管
の外径の8パーセントまでとされているところ,本件では,地質調査から
得た土質定数の数値から土の単位体積重量と内部摩擦角を算出し,埋立完
了時の盛土高を30メートルとした場合の土圧を算出し,これに基づき本
件のプレスト管のたわみ率を算出すると,600ミリメートル管が4.9
4パーセント,250ミリメートル管が4.60パーセントとなることが
認められるから,本件のプレスト管は十分な耐力を有するものということ
−23−
ができる。
(3)ア原告らは,被告が採用した浸出係数は不当に低く,0.9を採用す
べきであって,同数値を基礎とした場合には,本件処分場の保有水等調整
池(浸出水原水貯留槽)の容量では埋立区域内に浸出水が滞留することに
なる旨を主張する。
しかしながら,前記(1)のとおり,そもそも本件許可処分に当たって
は,浸出水排水設備については平成12年共同命令2条1項4号,1条1
項5号ホの規定の適用はないから,保有水等調整池(浸出水原水貯留槽)
の容量は技術上の基準として要求されず,原告の主張は失当というべきで
ある。
イなお,前記第2の1(3,証拠によれば,本件処分場は,浸出水の発)
生面積を現に埋立て作業中の1ブロック(5000平方メートル以下)部
分に限定することができる計画となっており,これを前提として,本件処
分場における浸出水の発生見込量(Q)を,以下の数式に基づき算出し,
水処理施設処理量を15.0立方メートル/日,20.0立方メートル/
日,25.0立方メートル/日の中で最も控え目な数値である15.0立
方メートル/日として水収支を計算しても,浸出水原水貯留槽の必要調整
容量は2852立法メートルとなることが認められる(乙2の519頁の
検討結果参照。)
Q=〔1/1000〕×C×I×A
Q:浸出水発生量〔立方メートル/日〕
A:埋立地面積〔平方メートル〕
C:浸出係数0.57
東京都の昭和26年から昭和55年の30年間の降雨量と蒸発量を
基に算出した月別浸出係数の平均値
I:降雨量〔ミリメートル/日〕
−24−
銚子市の昭和26年から昭和55年の30年間における降雨量デー
タから,最大降雨年である平成元年(明治20年から平成7年の10
9年間の最大降雨年にも当たる)の2352ミリメートル,平均的。
降雨年である昭和62年の1640.5ミリメートルをモデル年とし
て,昭和62年→平成元年→昭和62年→昭和62年(水収支計算順
序)と降雨したと仮定した場合の降雨量を用いる。
そうすると,本件処分場の浸出水原水貯留槽の容量は,4070立方メ
ートルとする計画であるから,過去30年間における最大降雨量があった
場合でも十分に対応できる容量であると認められ,これに浸出水集排水管
の能力(本管口径600ミリメートル)等に照らすと,埋立区域内に浸出
水が滞留することはないというべきである。
,,,また東京都と銚子市の気候及び地理的状況を考慮すると本件証拠上
日照時間,気温,風の状況及び天候等に照らして,銚子市の浸出係数が東
京都の浸出係数と比べて有意的な差異があることを認めるに足りる証拠は
,(),,.ないこと前記第2の23のとおり廃棄物を埋め立てる際には2
0メートルの廃棄物層に対して0.5メートルの中間覆土を繰り返す計画
であることから,埋立区域内の透水性が特別高くなるものとはいえないこ
となどからすれば,エコテックが採用した浸出係数が不合理ということは
できず,原告主張の浸出係数0.9を採用しないことが合理性を欠くもの
ではないというべきである。
(),()4したがって本件処分場の保有水等集排水設備浸出水集排水設備
は,有効に本件処分場内の保有水等を集め,これを排出することができる
堅固で耐久力を有する構造の集排水設備であるということができるから,
共同命令所定の技術上の基準に適合したものというべきであり,原告の主
張は理由がない。
10争点(2)ア(イ)e(浸出液処理設備)について
−25−
(1)前記第2の2(3)の事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の
事実が認められる。
ア本件許可処分に係る技術上の基準で浸出液処理設備に要求される排水
基準(以下「本件排水基準」という)は,別紙6の2「排水基準」の。
とおりである。
イ本件処分場の浸出水処理装置は,別紙4の7「浸出水処理施設」フロ
ーシート記載のとおり,a一次凝集沈殿処理,b生物処理(接触ば
っ気,c二次凝集沈殿処理,d砂ろ過処理,e活性炭吸着処理,)
fキレート樹脂吸着処理,g滅菌処理の7工程を経て処理すること
となっており,これらの工程が段階的に組み合わさることにより有害物
,「」質が除去され別紙6の1処理工程と処理水目標値及び処理水の水質
の「処理水質管理目標値」の処理水の水質基準を達成する計画となって
いる。
ウ本件処分場の浸出水処理装置は,管理型産業廃棄物最終処分場におけ
る水処理施設の納入実績を有する会社が設計・施工する計画である。
(2)前記第2の2(3)の事実及び前記ア認定の事実によれば,本件処
分場の浸出液処理設備(浸出水処理装置)は,本件排水基準に適合させる
ことができる計画の設備であるということができる。
(3)原告らは,1ダイオキシン類等の有害な有機物に対する有効な除
去手段が計画の中で講じられておらず,活性炭の交換頻度が不明である,
2キレート樹脂を用いた重金属類の除去はコスト面から大量の処理には
向かない方法であり,カドミニウム,ヒ素,水銀等の重金属類は除去でき
ず,キレート樹脂の交換頻度が不明である,3SS(浮遊物質)につい
ては砂ろ過を用いただけの方法では粒径1ミクロン以下のような小さなS
Sはほとんど除去することは不可能である,4浸出水に含まれる汚染物
質の濃度の予測が立てられておらず,本件処分場の工程ですべての有害物
−26−
質が問題のないレベルまで除去されるか否かにつき具体的な検討をしてい
ない旨主張する。
しかしながら,本件処分場の浸出水処理装置は,1ダイオキシン類等
についても前記(2)判示のとおり,本件排水基準を下回る計画となって
いる。2カドミニウム,ヒ素,水銀等の重金属類は,前記イa及びcの
キレート反応槽においてキレート補集剤により沈殿除去し,かつ,同fの
キレート樹脂吸着処理で吸着除去する計画となっており,これは一般的な
,,管理型最終処分場の重金属類の除去処理であるところこの処理工程では
排水基準に適合する処理ができないことを認めるに足りる証拠はない。3
SSについては,生物処理(前記イb)における接触酸化型の循環脱窒
法による除去(微生物等による吸着,凝集沈澱(前記イa,c)による)
除去(凝集剤による吸着沈澱)及び砂ろ過処理(前記イd)により粒径1
ミクロン以下のものについても除去される計画となっている。4浸出水
処理装置に係る浸出水に含まれる有害物質等についてその濃度等を想定し
て,前記(2)判示のとおり,本件排水基準に適合するレベルまで除去で
きることを計画している。
なお,他に原告らは浸出水処理装置の性能が本件排水基準を下回る性能
を実際に有するか否か,交換を要する設備の交換頻度が不明であるとして
本件の浸出水処理装置が技術上の基準に適合しない旨を縷々主張するが,
これらはいずれも専ら使用前検査又は維持管理上の問題であって,設置に
関する計画の技術上の基準の対象となる事項ではないというべきである。
したがって,原告らの主張は採用できない。
11争点(2)イ(周辺地域の生活環境保全)について
法は,平成9年改正法によって,平成9年法15条の2第1項2号,15
条3項を新設し,産業廃棄物処理施設の設置に関する計画及び維持管理に関
する計画が,処理施設に係る周辺地域の生活環境の保全について適正な配慮
−27−
がなされたものであることを産業廃棄物処理施設設置許可の要件とし(平成
9年法15条の2第1項2号,その許可に係る申請書には,厚生省令で定)
めるところにより,当該処理施設を設置することが周辺地域の生活環境に及
ぼす影響についての調査結果を記載した書類を添付しなければならない(同
法15条3項)旨を規定した。なお,平成12年改正法によって,環境省令
で定める周辺の施設についても適正な配慮がなされたものであることが産業
廃棄物処理施設設置許可の要件に追加された(平成12年法15条の2第1
項2号)が,平成12年改正法は,周辺地域の生活環境保全についての適正
な配慮については,平成9年法15条の2第1項2号を実質的に改正するも
のではない。
そうすると,前記1判示のとおり,本件許可処分に当たっては,平成9年
改正法附則4条により,平成9年法15条の2第1項2号,平成12年法1
5条の2第1項2号(周辺地域の生活環境保全についての適正な配慮に係る
部分,法15条3項(平成9年法及び平成12年法)並びに法15条3項)
(平成9年法及び平成12年法)の委任を受けた規則11条の2の各規定は
適用されないというべきである。
よって,本件許可処分に当たっては,平成12年法15条の2第1項2号
(周辺地域の生活環境保全についての適正な配慮に係る部分)は適用されな
いというべきであるから,原告らの主張は採用できない。
12争点(2)ウ(経理的基礎)及びエ(業務の不正又は不誠実)について
(1)法15条の2第1項3号及び4号の規定は,平成12年改正法によっ
て新設された規定であるから,前記1判示のとおり,本件許可処分の要件と
なる。
もっとも,本件では原告らは本件許可処分の直接の名あて人ではないとこ
ろ,行政事件訴訟法10条1項は,取消訴訟においては自己の法律上の利益
に関係のない違法を理由としては処分の取消しを求めることができないもの
−28−
と規定しているから,法15条の2第1項3号及び4号の規定が,自己の法
律上の利益に関する違法となるか問題となる。
行政事件訴訟法10条1項の規定の趣旨は,取消訴訟が違法な処分の是正
を直接の目的とする客観訴訟ではなく,違法な処分によって侵害された原告
の権利・利益を救済するための主観訴訟であるから,当該処分により自己の
権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそ
れのある者に該当するとして,当該処分の取消しを求めるについて同法9条
にいう法律上の利益が認められる者であっても,取消訴訟において原告らが
具体的に主張し得る処分の違法事由は,自己の法律上の利益に関係のあるも
のに限られるものと解すべきである。
そうすると,同法10条1項の「自己の法律上の利益に関係のない違法」
とは,一般的・抽象的には,処分行政庁の処分に存する違法のうち,原告ら
の権利・利益を保護する趣旨で設けられたのではない法規に違反したにすぎ
ない違法と解するのが相当であって,ここにいう法律とは当該処分の根拠規
定である行政実体法規を意味するものというべきである。もっとも,このこ
とは原告らが行政実体法規による処分の名あて人であることを要するもので
はなく,また,原告らの権利・利益を保護する趣旨で設けられた規定である
かどうかは,当該行政実体法規の立法趣旨,同法規と目的を共通する関連法
規の関係規定との関係等を考慮して判断すべきである。
(2)争点(2)ウ(経理的基礎)について
ア法が,平成12年法15条の2第1項3号,平成12年規則12条の2
の3第2号で,経理的基礎があることを最終処分場の設置許可の要件とし
た趣旨は,産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理に当たっては多額の資
金を要することから,設置者の経理的な基礎が不十分であることにより不
適正な産業廃棄物の処分や同処理施設の設置及び維持管理が行われること
を防ぐために,産業廃棄物処理施設設置許可申請者の総合的経理能力並び
−29−
に産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理のための資金計画を審査するこ
とにしたものであって,一次的には公衆の生命,身体の安全及び環境上の
利益を一般的公益として保護しようとしたものと解され,産業廃棄物処理
施設一般について,直接的に産業廃棄物処理施設の周辺に居住する者の生
命,身体の安全等を個々人の個別的利益として保護する趣旨を含むと解す
ることは困難である。
もっとも,平成12年法15条の2第1項3号,平成12年規則12条
の2の3第2号の趣旨は前記のとおりであるところ,前記2(1)判示の
とおり,人体に有害な物質を含む産業廃棄物の処理施設である管理型最終
処分場については,設置者の経理的な基礎が不十分であることにより不適
正な産業廃棄物の処分や同処分場の設置及び維持管理が行われた場合に
は,有害な物質が許容限度を超えて排出され,その周辺に居住等する者の
,。生命身体に重大な危害を及ぼすなどの災害を引き起こすことがあり得る
そうすると,経理的基礎は,単に健全な経営の維持にとどまらず,施設の
安全面をも資金的観点から担保する機能を果たすものということができ
る。このような前記法及び規則の規定の趣旨・目的及び前記災害による被
,,害の内容・性質等を考慮すると設置段階の設置者の資金計画等からして
およそ同処分場の適正な設置及び維持管理が困難であるとか,不適正な産
業廃棄物の処分が行われるおそれが著しく高いなど,管理型最終処分場の
周辺住民が生命又は身体等に係る重大な被害を直接に受けるおそれのある
災害等が想定される程度に経理的基礎を欠くような場合において,平成1
2年法15条の2第1項3号,平成12年規則12条の2の3第2号の規
定が,前記被害が想定される住民の生命又は身体等の安全を保護する趣旨
を含まないものとまでいうことはできないというべきである。
したがって,これらの規定は,前記周辺住民が重大な被害を被るおそれ
のある災害等が想定される程度に至る経理的基礎を欠くような場合には,
−30−
,,もはや公益を図る趣旨にとどまらず前記周辺住民の安全を図る趣旨から
前記周辺住民個人の法律上の利益に関係のある事由について定めていると
いうべきである。そうすると,この事由により違法となる場合は,設置段
階の設置者の資金計画等からして,およそ管理型最終処分場の適正な設置
及び維持管理が困難であるとか,不適正な産業廃棄物の処分が行われるお
それが著しく高いなど,管理型最終処分場の周辺住民が生命又は身体等に
係る重大な被害を直接に受けるおそれのある災害等が想定される程度に経
理的基礎を欠くような場合に限られるというべきである。
そこで,前記周辺住民に当たる原告E及び同Fについて,この観点に立
って,経理的基礎を欠く違法事由が存在するか否かについて,検討する。
イ証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア)エコテックは,本件処分場において産業廃棄物処分業を行うこと
を主たる目的とする会社であって,被告に提出した平成12年4月28
日付けの平成11年3月1日から平成12年2月29日事業年度(以下
「平成11年度」という)の決算報告書の貸借対照表及び損益計算書。
は,別紙8の1「貸借対照表」及び別紙8の2「損益計算書」のとおり
であり,平成12年2月29日現在の資本金は2000万円,資産は2
2億8043万5757円で,資産の構成は,借入金(借入先はG(約
11億8000万円)及びH(10億8000万円)が主体となって)
いる。また,平成11年度に係る売上げ及び所得は計上されていない。
(イ)エコテックが,被告に提出した本件処分場の事業の開始に要する
資金(以下「事業開始資金」という)の総額及びその資金の調達方法。
は,別紙8の3「事業の開始に要する資金の総額及びその資金の調達方
法を記載した書類」のとおりであり(これによると,事業開始資金は,
70億2750万円である,事業開始に係る資金の調達計画(以下。)
「本件資金計画」という)は,別紙8の4「資金計画書」のとおりで。
−31−
ある。事業開始後の収支計画(以下「本件収支計画」といい,本件資金
計画と併せて「本件事業計画」という)は,別紙8の5「年度別資金。
計画書」記載のとおりであり,計画の前提とした条件は別紙8の6「事
業収支の計算根拠について」記載のとおりである。
本件資金計画では,本件処分場に係る建設費を始め,事業開始資金の
全てを金融機関等から融資を受けることを予定し,その融資実行までは
ファイナンス会社からのつなぎ融資を受けることとしていた。また,本
件収支計画では,本件処分場における産業廃棄物処分業の収益のみを基
に,人件費,事務所経費,借入金の元利金の返済費用に加えて,危険防
止,環境汚染防止のための原資とすることを目的として,土木工事保険
及び請負賠償責任保険のほか,天災等不稼動保険,環境保険(営業開始
後処分場閉鎖までの間の雨による有害物質の漏出や有害物質汚染による
実害発生に対する補償,汚染を浄化するための費用や汚染防止の補修費
用について補償額5億円を限度)等に係る費用,法所定の維持管理積立
金8億4000万円などを計上しても,埋立て完了時(別紙8の5の1
1年目終了時)において,19億3880万3000円が残る収支計画
となっている。
エコテックは,平成12年11月13日付けで,本件許可処分後,平
成14年12月末までにGが自己資金及びエコテックへの貸付金を基に
して,1億8000万円の増資を引き受ける旨の増資計画書を被告に提
出している。
(ウ)エコテックは,平成12年11月13日付けで,被告に対し,前
記(イ)の事業開始資金70億2750万円の調達方法について,I銀
行(50億円)及びJ銀行等の金融機関(20億2750万円)からの
協調融資を受ける予定であるが,本件許可処分前に融資証明等が得られ
ないことから,ファイナンス会社から同額の融資内諾証明を受けて,前
−32−
記銀行等からの融資が実行されるまでの間,一時的に前記ファイナンス
会社からの資金を利用する旨を報告したが,その利息は明確にされてい
なかった。
エコテックは,本件許可処分時までに,被告に対し,同年12月21
日付けの本件予定地に第1順位の抵当権を設定できることを条件に71
億円を融資する旨のKの融資内諾書を被告に提出した。
(),「」「」エ本件予定地に対しては別紙9被担保債権一覧表の債務者
欄記載の債務者のために,同別紙「担保の種類」欄記載の担保権(以下
「本件各担保権」という)が,同別紙「設定日」欄記載の日に,同別。
紙「債権額」欄記載の被担保債権額で設定されており,これらの被担保
債権(以下「本件各被担保債権」という)の総額は36億7200万。
円であるところ,本件事業計画において,本件各担保権の抹消に係る費
用は計上されていない。
(オ)エコテックは平成11年9月16日付けで,Lから18億500
0万円の借入れをしているが,これは平成11年度貸借対照表には記載
されていない(なお,エコテックは,前記金員を借り入れたものではな
く,その旨の抵当権設定登記が無断でなされたものである旨を被告に報
告しているが,登記申請書類に当時のエコテックの代表取締役であるG
の署名及び印鑑証明書が添付されていることなどからすれば,前記報告
は信用できない。。)
(カ)厚生省の平成12年9月29日衛産第79号「産業廃棄物処理業
及び特別管理産業廃棄物処理業並びに産業廃棄物処理施設の許可事務の
取扱いについて」と題する通知には,経理的基礎について,1申請者
が法人である場合には,事業の開始に要する資金の総額及びその資金の
調達を記載した書類,貸借対照表,損益計算書並びに法人税の納付すべ
き額及び納付済額を証する書類の内容を十分に審査し,事業を的確かつ
−33−
継続して行うに足りる経理的基礎を有するか否かを判断すること,2
事業の開始に要する資金の総額とは,事業の開始及び継続に必要と判断
される一切の資金をいうものであって,資本金の額のほか,事業の用に
供する施設の整備に要する費用,最終処分場の埋立処分終了後の維持管
,,理に要する費用損害賠償保険の保険料などが含まれるものであること
3資金の調達を記載した書類には,資本金の調達方法,借入先,借入
残高,年間返済額,返済期限,利率など資金の調達に関する一切の事項
を記載させるものとし,利益をもって資金に充てるものについてはその
見込み額を記載させること,4事業を的確かつ継続して行うに足りる
経理的基礎を有すると判断されるためには利益が計上できていること,
又は自己資本比率が3割を超えていることが望ましいこととされてい
る。
ウ前記イ認定の事実及び弁論の全趣旨によれば,エコテックは,その資産
のほとんどが借入金で構成されており,自己資本が著しく少ない状態であ
ったから,銀行等の金融機関から本件処分場の事業開始資金の融資を受け
るに当たっては,本件予定地のすべてに融資元の金融機関の第1順位の抵
当権等を設定する必要があったというべきである。そうすると,エコテッ
クは,本件許可処分当時,エコテックが本件予定地を所有していたか否か
又は所有する予定であったか否か,エコテックは本件各被担保債務の債務
者又は保証人であるか否かなど,法的に本件各被担保債務を弁済すべき義
務を負う可能性がある否かに関わらず,銀行等の金融機関から,本件処分
場の事業開始資金70億2750万円を借り入れるためには,本件各担保
権を抹消する必要があり,そのための費用を支出する必要があったと認め
られる。
そして,本件証拠上,本件許可処分当時の本件各被担保債権額の残額は
明らかではないが,本件各被担保債権の借入日が本件許可の申請日に近接
−34−
したその前後の借入日であることや本件各被担保債権の利息はそのほとん
どが年15パーセントであること,エコテックは銀行等の金融機関からの
融資を得ると同時に,これら負債を全て返済した上で,本件予定地に融資
元金融機関の第1順位の抵当権等を設定する計画であったと推認されるこ
となどからすれば,本件事業資金を借り入れる時点においては,少なくと
も本件各被担保債権額の元本相当額が残存している蓋然性が高いというべ
きであり,したがって,同元本相当額が本件各担保権を抹消するために必
要な費用額であると推認するに難くない。
よって,エコテックは,事業計画において,本件事業計画の事業開始資
金70億2750万円に,本件各担保権の抹消に係る費用36億7200
万円を加えた106億9950万円を事業開始資金として計上する必要が
あったというべきである。
そして,エコテックは,前記イ(ア)のとおり,本件許可処分当時,自
己資本は2000万円しか有さず,事業開始資金の全額を借入金によって
調達する計画であったのであるから,前記106億9950万円のすべて
を借入金として調達する必要があったことになる。なお,エコテックは,
Gの出資による増資計画を被告に提出しているが,本件事業計画自体,本
件許可処分時点で増資をせずに,事業開始資金を全額借入れとする計画で
ある上,証拠によれば,1億8000万円の増資計画のうち1億6000
万円はGのエコテックに対する既存の貸付金の返済金を増資に係る株式の
払込金に充当する計画としており,この増資によっても借入れ予定の事業
開始資金の額が変更されるものではないから,同増資の点を資金計画上,
格別考慮することはできない。
そうすると,本件各担保権抹消に係る費用36億7200万円を本件処
分場の事業開始資金に加え,収支計画において,これを本件資金計画と同
様に銀行等の金融機関から借り入れることを前提として,その他の条件を
−35−
本件収支計画に係る設定条件と全く同様のものであるとすると,エコテッ
クの本件処分場に係る産業廃棄物処分業の収支計画は,別紙8の7「年度
別資金計画(裁判所認定」のとおりとなる。なお,エコテックのように)
自己資本が著しく少額であって,その事業開始資金のすべてを借入金のみ
に依存して最終処分場を設置し,営業利益によって借入金を返済する計画
である場合には,設置及び維持管理を的確かつ継続して行うに足りる程度
,,に経理的基礎を有するか否か判断するためには本件許可処分時において
借入先,借入残高,年間返済額,返済期限,利率などの融資内容及びその
条件が明確にされ,融資の実行を受けられることが相当程度確実であると
。,,いえる必要があるというべきであるしかし前記イ認定の事実によれば
融資元金融機関,融資内容及びその条件は明確ではなく,本件許可処分時
において,最終的な資金調達方法及びその条件はおよそ不明確であるとい
わざるを得ない。そうすると,そもそもエコテックが,事業開始資金10
6億9950万円の融資が受けられるか,仮に融資が受けられる場合にお
いても,本件収支計画で設定した借入れ条件(期間10年,年利2.3パ
ーセント)で融資を受けられるかについて重大な疑問が生じるというべき
である。
しかし,この点はさておくとしても,前記の裁判所認定の収支計画によ
れば,エコテックは本件処分場での事業開始1年目から7年目までは黒字
であるものの,8年目から11年目までは単年度収支が赤字となり,累計
でも9年目からは赤字となる。そして埋立てを終了する11年目には累計
で15億9771万4430円の赤字となることになり,埋立完了時に本
件収支計画どおりの利益を確保できないばかりか,埋立完了までに多額の
赤字が発生することが想定されることとなる。
そうすると,本件収支計画の収入額及び支出額のうち借入金の元利金の
返済額を除く部分を前提とする限り,借入金の返済を優先した場合には,
−36−
環境保険等の各種保険料の支払,維持管理積立金の積立て,遮水シート破
損等の事故に対する場内施設補修費等の本件処分場から有害物質が排出さ
れるのを防止又はこれに対応するための維持管理に必要な資金が不足する
ことが明らかである(これら費用の支出を優先した場合には,借入金の返
済ができず,本件処分場での産業廃棄物処分業が破綻することになる。。)
また,前記のとおりの多額の赤字を生ずることからすれば,その発生を防
止し,又は解消するために当初の計画以上の産業廃棄物の受け入れを行っ
たり,計画外の産業廃棄物を受け入れるなどの不適正な処分を行わざるを
得なくなる事態も想定される。
他方,被告は,本件処分場の事業開始資金が,前記判示のとおり,10
6億9950万円であることを前提とした場合に,本件許可処分当時にお
いて,それでもなお本件処分場でのエコテックの事業の収支計画が,少な
くとも本件処分場で原告らに対して生命又は身体等に係る重大な被害を直
接に生じさせるおそれのある災害等が想定される程度に経理的基礎を欠く
ものではないことについて,具体的な主張立証を行っていない。
そうすると,前記裁判所認定の収支計画を前提とする限り,エコテック
は,本件許可処分時点で,すでに本件処分場の十分な設置及び維持管理を
するために必要な資金調達の裏付けを欠いていたばかりか,仮に何らかの
方法でその調達ができたとしても,その後の事業運営や借入金返済に必要
な費用を支出した場合に事業が適正に運営される基礎を欠いていたという
べきである。すなわち,同社の場合,財政面から,前記時点で,およそ本
件処分場の設置及び適正な維持管理が困難であり,不適正な産業廃棄物の
処分が行われるおそれが著しく高い状況にあったことが明らかである。そ
のような状況の下では,有害な物質が許容限度を超えて排出され,その周
辺に居住等する者の生命,身体に重大な危害を及ぼすなどの災害を引き起
こす事故等が想定されるというべきである。
−37−
したがって,エコテックの経理的基礎は,本件許可処分時において,本
件処分場の周辺住民である原告Eらが,生命又は身体等に係る重大な被害
を直接に受けるおそれのある災害等が想定される程度に経理的基礎を欠く
状態であるというべきである。
そうすると,本件許可処分は,平成12年法15条の2第1項3号,平
成12年規則12条の3第2号の規定に反する違法な処分であるといわざ
るを得ない。
エこれに対し,被告は,1本件許可処分時にはLに対する18億500
0万円の借入れに係る抵当権設定仮登記がなされておらず,設置許可の申
請書類からも見いだすことはできないから,これを理由に不許可とするこ
とは不可能であり,本件許可処分自体の効力が失われるものではなく,職
権による裁量取消が問題となるにすぎないこと,2被告は,エコテック
は本件各被担保債務を支払う法的義務はないので,資金計画等にこれら抵
当権の抹消費用が記載されずとも計画として不十分とはいえないこと,3
経理的基礎については,産業廃棄物処分業の許可の際に再度,審査する
ことになっており,被告が本件許可処分時に知り得なかった債務があった
場合には,その時点で,その当時の資料を基に改めて判断することになる
にすぎないことなどを主張する。
しかしながら,1については,設置許可に係る経理的基礎を有するか否
かは,本件許可処分時において,客観的にエコテックが本件処分場を設置
及び維持管理する経理的基礎を有していたか否かが問題になるというべき
であるから,本件許可処分時においてエコテックが収支計画に反映させる
べき債務がある場合には,それが申請書類として提出されているか否かな
ど被告の知不知にかかわらず,経理的基礎の判断に用いるべき事情に当た
。,,,るというべきであるまた仮にこの点はさておくとしても本件の場合
エコテックは事業に必要な資金を借り入れに依拠していたところ,その借
−38−
入れの確実性を裏付ける資料としての融資内諾証明書には,融資先が本件
処分場予定地に第1順位の抵当権を設定できることが条件とされていたの
であるから,これが可能であるかどうかについても,被告として調査すべ
き義務があるというべきところ,被告は,前記認定によれば,この点の調
査を十分行っていないことが明らかである。そうすると,被告の1の点に
ついての主張はいずれにせよ採用することはできない。2については,前
記ウ判示のとおり,エコテックが支払う法的義務の有無に関わらず,本件
各被担保債権額相当の金員は,本件処分場の事業開始資金として必要な金
員であり,これをいかに調達するかによって本件処分場での事業の収支計
画は著しく影響を受けるのであるから,エコテックの経理的基礎を判断す
るための重要な審査事項に当たるというべきである。
さらに,3については,本件処分場の設置に係る資金計画及び収支計画
は,エコテックが自己資本をほとんど有さず,借入金によって事業開始資
金を調達して,本件処分場での産業廃棄物処分業を行い,その収益をもっ
て借入金の返済資金等の費用に当てる計画であるから,設置許可の段階に
おいて,最終処分場の設置及び維持管理を的確かつ継続して行うに足りる
資金計画及び収支計画を有しているか否かという観点から経理的基礎の要
件を検討すべきものであり,この点は,その後に産業廃棄物処分業の許可
の可否の審査の際に,経理的基礎を有することが要件となっているか否か
とは別個の問題であり,その際に再審査が可能であるからといって,本件
許可処分時において経理的基礎の要件の審査を特に緩和することができる
とする合理的根拠にはなり得ない。
よって,被告の主張はいずれも採用できない。
(3)争点(2)エ(業務の不正又は不誠実)について
法が,法15条の2第1項4号の規定を設けた趣旨は,法に従った適正な
処分の遂行を期待し得ない者を類型化して排除するために申請者の一般的適
−39−
性についての要件を定めたものであるところ,産業廃棄物処理施設の設置者
となるべき者を制限し,一般的公益として公衆の生命,身体の安全及び環境
上の利益を保護しようとしたものであって,これを超えて最終処分場の周辺
住民等の個人的権利・利益を具体的に保護する趣旨を含むものとまでは解す
ることはできない。
したがって,原告らが,平成12年法15条の2第1項4号,14条3項
2号イ,7条3項4号ホの規定に係る違法を主張することは,自己の法律上
の利益に関係のない違法に当たり,これを理由に本件許可処分の取消しを求
めることはできないというべきである。
13争点(2)オ(手続の欠如)について
前記第2の1及び前記1判示によれば,平成12年法15条3項ないし6項
の規定は,平成9年改正法で新設されたものであって,平成9年改正法附則5
条1項に規定する経過措置の適用があるから,本件許可処分に当たっては,平
成12年法15条3項ないし6項の規定は適用されない。
したがって,法15条3項ないし6項に規定された手続を欠いたことを本件
許可処分の違法事由として主張する原告らの主張は理由がないというべきであ
る。
14結論
以上によれば,本件訴え中,原告A,同B,同C及び同Dの部分はいずれも
不適法であるからこれらを却下し,その余の原告らの請求は理由があるからこ
れを認容することとして,主文のとおり判決する。
千葉地方裁判所民事第3部
−40−
裁判長裁判官堀内明
裁判官阪本勝
裁判官高石直樹は差し支えにつき署名押印できない。
裁判長裁判官堀内明
−41−
(別紙1)設置場所目録(省略)
(別紙2)法令の定め(省略)
(別紙3)原告ら位置関係図(省略)
(別紙4)本件処分場概要(省略)
(別紙5)当事者の主張(省略)
(別紙6の1)処理工程と処理水目標値及び処理水の水質(省略)
(別紙6の2)排水基準(省略)
(別紙7)地層構成図(省略)
(別紙8の1)貸借対照表(省略)
(別紙8の2)損益計算書(省略)
(別紙8の3)事業の開始に要する資金の総額及びその資金の調達方法を記載し
た書類(省略)
(別紙8の4)資金計画書(省略)
(別紙8の5)年度別資金計画書(省略)
(別紙8の6)事業収支の計算根拠について(省略)
(別紙8の7)年度別資金計画(裁判所認定(省略))
(別紙9)被担保債権一覧表(省略)

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