弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人横田隼雄、同菅沼利雄の各上告趣意は末尾添附の書面別載のとおりであつ
て、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 弁護人横田隼雄の上告趣旨について。
 所論の匕首について被告人の供述として第一審公判調書に記載されているところ
は論旨摘録のとおりであるが、右の供述は被告人の兄が朝鮮に帰国するに際して所
有権を抛棄した匕首を被告人が自己の物として占有していた趣旨と解し得られない
わけではないから、原審が右の供述によつて所論の匕首が被告人の所有に帰したも
のと認め、従つて右匕首が犯人以外の者の所有に属しないものと判断したことは虚
無の証拠によつたものと言うことはできない。されば、原判決には所論のような違
法はなく論旨は理由がない。
 弁護人菅沼利雄の上告趣意について。
 弁護人は論旨一、二において、本件の主犯はAであつて、被告人は同人より匕首
を渡され被害者Bを呼び戻すよう命ぜられたのである、原審の弁護人は右の事実を
明かにするためAを証人として訊問すべきことを請求したのに拘らず原審がその取
調をしなかつたのは審理不尽の違法があると主張している。
 しかし、記録を調べてみると、原審は弁護人の請求によりAを証人として訊問す
ることを決定し、同人を公判期日に召喚したが出頭しなかつたので公判を続行して
更に召喚したに拘らず同人は再び出頭しなかつたため弁護人は同人に対する証拠調
の請求を抛棄したことが明かである。弁護人の請求により証拠調の決定をした場合
に右の決定は弁護人の請求がその前提となつているのであるから弁護人がその請求
を後に抛棄したときには裁判所は特にその証拠決定を取消さずに取調をしなかつた
からといつて刑事訴訟法第四一〇条第一三号に違反するものではない。元来、証拠
調の限度を決することは事実審たる原審の自由裁量に属するところであつて、原審
は所論の事実を明かにするため他の証拠調を行つているのであるから原審には所論
のような違法はなく論旨は理由がない。
 論旨三の前段は原判決に事実の誤認あることを主張するのであるから、日本国憲
法の施行に伴う刑事訴訟法の応急措置に関する法律第一三条第二項により上告の適
法な理由とならず又後段は被告人不利益な事実の主張であるから、これも亦上告の
適法な理由とならない。
 よつて刑事訴訟法第四四六条に従い主文のとおり判決する。
 以上は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 宮本増蔵関与
  昭和二三年一二月二四日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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