弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中「当審における未決勾留日数中九〇日を原判決の本刑に算入す
る。」との部分を破棄する。
     原審における未決勾留日数中八七日を本刑に算入する。
     その余の部分に対する本件上告を棄却する。
         理    由
 検察官の上告趣意について
 記録によれば、被告人は、本件起訴前である昭和五二年一月三一日、第一審判決
判示第一事実と同一性のある事実につき覚せい剤取締法違反の罪名で勾留状の執行
を受け、その後一、二審を通じて引き続き勾留を継続されており、第一審は、同年
四月一九日被告人を懲役六月に処する等の旨の判決を言い渡し、これに対し、被告
人が同月三〇日控訴を申し立てたところ、原審は、同年八月三〇日右控訴を棄却す
るとともに控訴審における未決勾留日数中九〇日を第一審判決の刑に算入する旨の
判決を言い渡したものであるが、他方、被告人は、昭和四九年七月一七日登米簡易
裁判所において賭博場開張図利幇助、常習賭博の罪により懲役八月、三年間刑の執
行猶予、保護観察付の判決言渡を受けたが、昭和五二年七月一五日右猶予の言渡が
取り消され、同月二六日その刑の執行が開始され、原判決当時被告人はなお受刑中
であつたことが明らかである。したがつて、右懲役刑の執行開始の日以降は、原審
における未決勾留と右刑の執行とが競合していたものである。
 このように懲役刑の執行と競合する未決勾留の日数を刑法二一条により本刑に算
入する旨の言渡をすべきでないことは、所論引用の当裁判所の判例の示すところで
ある(当裁判所昭和二九年(あ)第三八九号同三二年一二月二五日大法廷判決・刑
集一一巻一四号三三七七頁、同四七年(あ)第一七五〇号同四八年三月一五日第一
小法廷判決・裁判集刑事一八六号二八七頁、同五〇年(あ)第九八七号同五〇年一
一月二八日第三小法廷判決・裁判集刑事一九八号六九九頁、同五〇年(あ)第二三
八五号同五一年六月二九日第三小法廷判決・裁判集刑事二〇一号九三頁)から、原
審における未決勾留日数のうち本刑に算入することの許される限度は、被告人の控
訴申立の日である昭和五二年四月三〇日から前記懲役刑執行開始の日の前日である
同年七月二五日までの八七日である。従つて、原審が右限度を超えて控訴審におけ
る未決勾留日数を本刑に算入したのは、刑法二一条の適用について右判例と相反す
る判断をしたものといわなければならない。論旨は理由がある。
 よつて、刑訴法四〇五条二号、四一〇条一項本文、四一三条但書により、原判決
中「当審における未決勾留日数中九〇日を原判決の本刑に算入する。」との部分を
破棄し、刑法二一条により原審における未決勾留日数中八七日を本刑に算入するこ
ととし、原判決中その余の部分に対する上告は、上告趣意としてなんら主張がなく、
従つてその理由がないことに帰するから、刑訴法四一四条、三九六条により、棄却
することとし、なお同法一八一条一項但書を適用して主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官団藤重光の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によ
るものである。
 裁判官団藤重光の反対意見は、次のとおりである。
 懲役刑の執行と競合する未決勾留の日数を本刑に算入することが許されないのは
もちろんであつて、この点に関するかぎり、わたくしも多数意見に同調する。ただ、
多数意見が本件のようなばあいに一部破棄・一部上告棄却を言い渡すべきものとす
る点については、わたくしは見解を異にするので、当裁判所昭和五一年一一月一八
日第一小法廷判決(刑集三〇巻一〇号一九〇二頁)におけるわたくしの反対意見(
その後段の部分)をここに援用する。私見においては、主文は、「原判決を破棄す
る。本件控訴を棄却する。原審における未決勾留日数中八七日を本刑に算入する。」
となるべきところである。
 検察官早川晴雄 公判出席
  昭和五三年二月九日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    本   山       亨
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   崎   萬   里

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