弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人佐藤敏栄の上告理由二2(二)について
 論旨は、要するに、昭和五〇年度夏季及び冬季の各賞与(以下「本件各賞与」と
いう。)における各従業員の人事考課率に差異を生ずるに至つたのは、その能力や
業績に応じて査定を行つた結果によるものであり、この点につき不当労働行為の成
立を肯認し、本件命令を適法とした原審の認定判断は違法であり、憲法二八条、二
九条に違反するというのである。
 一 本件につき原審の認定するところは、おおむね、次のとおりである。
 1 上告会社は、肩書地に本店(D店)を、弘前市にE店をそれぞれ置き、大型
小売店舗として総合衣料、食品、日用品等の小売を業とする会社であり、同社には、
昭和四九年一二月二一日E店の従業員を主体に結成された参加人C労働組合(以下
「参加人組合」という。)と、昭和五〇年一月中旬D店の従業員を主体に結成され
たF商事労働組合(以下「F労組」という。)とがあつた。
 2 上告会社における昭和五〇年度夏季賞与は、参加人組合員に対しては同年七
月二六日団体交渉で妥結し同年八月一日支給され、F労組員に対しては同年七月二
三日団体交渉で妥結し同月二八日支給され、また、同年度冬季賞与は、参加人組合
員に対しては同年一二月二八日確認書が交わされ同月二九日支給され、F労組員に
対しては同月九日団体交渉で妥結し同月一一日支給されたが、支給額の算出方法は、
いずれも「基本給×成果比例配分率×人事考課率×出勤率」との算式によることと
され、そのうち成果比例配分率は、夏季賞与については一・八か月、冬季賞与につ
いては二・一か月と定められた。
 3 上告会社における人事考課の方法は、夏季賞与については前年一一月二一日
から当年五月二〇日まで、冬季賞与については当年五月二一日から一一月二〇日ま
でをそれぞれ考課期間として、従業員の成績等を査定するものである。
 4 昭和五〇年度夏季賞与における人事考課率は、「五〇」から「一三〇」の範
囲内で定められた(人事考課率の数値は、いずれも百分率のそれである。以下同じ。)
が、参加人組合員についてこれをみると、最低の「五〇」が三一名で最も多く、「
六〇」が一七名、「七〇」が七名、「七五」が一名、「八〇」が四名という分布に
なつており、その平均は「五八」であるのに対し、F労組員については、最低の者
(四名)でも参加人組合員の最高の者より高い「九〇」であり、「九五」が八名、
「一〇〇」が一五名、「一一〇」が八名、「一二〇」が二名という分布になつてお
り、その平均は「一〇一」である。
  また、同年度冬季賞与における人事考課率は、「七五」から「一二五」の範囲
内で定められたが、参加人組合員についてこれをみると、最低の「七五」が二六名
で最も多く、「八五」が一一名、「一〇〇」が二名という分布になつており、その
平均は「七九」であるのに対し、F労組員及び非組合員については、最低の者(八
名)でも「八五」であり、「九〇」が二名、「一〇〇」が三六名、「一〇五」が二
名、「一一〇」が一四名、「一二〇」が一名、「一二五」が二名という分布になつ
ており、その大半が参加人組合員の最高である「一〇〇」以上の評価を得ており、
その平均は「一〇一」である。
 5 上告会社は、参加人組合がその結成を同社に通知して公然化した昭和五〇年
一月一二日の直後から、その代表者の発言等を通じて、参加人組合を嫌悪し、同組
合員とF労組員とを差別する行動を繰り返した。
 6 参加人組合結成前の昭和四九年度夏季及び冬季の各賞与における人事考課率
を、昭和五〇年度夏季賞与支給当時の参加人組合員とF労組員とに仕分けしてその
平均を比較すると、昭和四九年度夏季賞与についてはそれぞれ「一〇一」と「一〇
二」であり、同年度冬季賞与についてはそれぞれ「九一」と「九二」であつた。
 7 昭和五〇年度夏季賞与の考課期間の後に参加人組合を脱退して非組合員又は
F労組員となつた二一名の右賞与における平均人事考課率は「五九」であつて、そ
の当時の参加人組合員全員の平均人事考課率「五八」とほとんど差がなかつたのに、
同年度冬季賞与におけるそれは「九六」となり、その当時の参加人組合員の平均人
事考課率「七九」と比べ「一七」もの差が生じている反面、従前からF労組員又は
非組合員であつた者の平均人事考課率「一〇一」との差はわずかに「五」となつて
いる。
   なお、その間に、参加人組合員が、参加人組合の指令に基づいて、勤務時間
中故意に作業の能率を下げたり、接客態度を悪くしたりした事実はない。
 8 昭和五〇年度夏季賞与の考課期間における参加人組合員の平均出勤率は九三・
四パーセントであつて、F労組員の平均出勤率八九・一パーセントを上回つている。
 9 参加人組合は、本件各賞与につき、上告会社を被申立人として青森県地方労
働委員会に不当労働行為救済の申立をしたところ、同委員会は、上告会社に対し、
本件各賞与における各参加人組合員の人事考課率に、昭和五〇年度夏季賞与につい
てはそれぞれ「四〇」を加算した人事考課率により、同年度冬季賞与についてはそ
れぞれ「二二」を加算した人事考課率により、各賞与を再計算した金額と既に支給
した金額との差額等を参加人組合員に支払うべきことを命ずる旨の救済命令を発し
た。
   そして、右救済命令を不服として上告会社のした再審査の申立に対し、被上
告人G委員会は、昭和五二年一二月二一日付で、右再審査の申立を棄却する旨の本
件命令を発した。
  以上の原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、いずれも正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。
 二 以上の事実関係に基づき、本件における不当労働行為の成否について判断す
る。
  まず、参加人組合結成前の昭和四九年度夏季及び冬季の各賞与における人事考
課率の査定においては、後に参加人組合員となつた者らの平均考課率とF労組員と
なつた者らの平均考課率との間にほとんど差異がなかつたのであり、このことは、
これらの者の勤務成績等を全体として比較した場合その間に隔りがなかつたことを
示すものというべきところ、その後参加人組合が結成されこれが公然化した後にお
いて、参加人組合員らの勤務成績等がF労組員又は非組合員のそれと比較して劣悪
になつたことを窺わせる事情はなく、したがつて、本件各賞与における人事考課率
の査定時においても、参加人組合員らとそれ以外の者らとの勤務成績等に全体とし
て差異がなかつたものというべきである。他方、本件各賞与における人事考課率を
参加人組合員らとそれ以外の者らとの間で比較してみると、その間に全体として顕
著な差異の生じていることが明らかである。そして、これらの事実に参加人組合が
結成されこれが公然化した後上告会社において同組合を嫌悪し同組合員をF労組員
と差別する行動を繰り返していること、昭和五〇年度夏季賞与の考課期間の後に参
加人組合を脱退して非組合員又はF労組員となつた者らの同年度冬季賞与における
平均人事考課率がにわかに上昇し従前からF労組員又は非組合員であつた者らの平
均人事考課率に近似する数値となつていることなどの前記認定事実を合わせ考える
と、参加人組合員らとそれ以外の者らとの間に生じている右のような差異は、上告
会社において参加人組合員らの人事考課率をその組合所属を理由として低く査定し
た結果生じたものとみるほかなく、また、右の査定において、上告会社が個々の参
加人組合員の組合内における地位や活動状況等に着目しこれを考課率に反映させた
というような事情は全く窺うことができないのであるから、本件の事実関係の下に
おいては、上告会社は、本件各賞与における参加人組合員の人事考課率を査定する
に当たり、各組合員について、参加人組合に所属していることを理由として、昭和
五〇年度夏季賞与については参加人組合員全体の平均人事考課率とF労組員全体の
平均人事考課率の差に相応する率だけ、同年度冬季賞与については参加人組合員全
体の平均人事考課率とF労組員及び非組合員全体の平均人事考課率の差に相応する
率だけ、それぞれ低く査定したものとみられてもやむを得ないところである。以上
によれば、本件においては、上告会社により、個々の参加人組合員に対し賞与の人
事考課率の査定において組合所属を理由とする不利益取扱いがされるとともに、組
合間における右の差別的取扱いにより参加人組合の弱体化を図る行為がされたもの
として、労働組合法七条一号及び三号の不当労働行為の成立を肯認することができ
る。
  ところで、右に述べたとおり、使用者において賞与の人事考課率を査定するに
当たり個々の組合員の人事考課率をその組合所属を理由として低く査定した事実が
具体的に認められ、これが労働組合法七条一号及び三号の不当労働行為に該当する
とされる以上、労働委員会において、これに対する救済措置として、使用者に対し、
個々の組合員につき不当労働行為がなければ得られたであろう人事考課率に相応す
る数値を示し、その数値により賞与を再計算した金額と既に支給した金額との差額
の支払を命ずることも、労働委員会にゆだねられた裁量権の行使として許されるも
のと解することができる。
  してみると、右のような趣旨に出たものと解される本件命令に違法はないとい
うべきであり、これと同旨の原審の判断は、その判示にいささか適切を欠く点がな
いとはいえないが、結局正当として是認することができ、原判決に所論の違法はな
い。右違法があることを前提とする所論違憲の主張は、失当である。論旨は、採用
することができない。
 同上告代理人のその余の上告理由について
 所論の点に関する原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の
違法はない。右違法があることを前提とする所論違憲の主張は、失当である。論旨
は、ひつきよう、独自の見解に立つて原判決を論難するものにすぎず、採用するこ
とができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    牧       圭   次
            裁判官    木   下   忠   良
            裁判官    大   橋       進
            裁判官    島   谷   六   郎
            裁判官    藤   島       昭

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