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平成27年8月4日判決言渡
平成27年(ネ)第10008号特許権侵害差止等請求控訴事件
(原審・大阪地方裁判所平成25年(ワ)第3480号)
口頭弁論終結日平成27年6月9日
判決
控訴人X
被控訴人株式会社NTTドコモ
訴訟代理人弁護士深井俊至
補佐人弁理士大塚住江
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人に対し,金992万5000円及びこれに対する平成2
5年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
4この判決は,仮に執行することができる。
第2事案の概要
1訴訟の概要
⑴本件は,控訴人が,被控訴人に対し,携帯電話事業でiコンシェル等のサ
ービスを提供する被控訴人のコンピュータシステム(被告システム)を利用する機
能や利用の態様により特定した被告物件イ-1からイ-3は,いずれも控訴人の特
許発明の技術的範囲に属すると主張して,民法709条,特許法102条2項に基
づき,特許権侵害による損害の賠償の一部請求として,金992万5000円及び
これに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による
遅延損害金の支払を求めた事案である。
⑵原判決は,被告システムは控訴人の特許発明の技術的範囲に属しないとし
て,控訴人の請求を棄却した。
控訴人は,原判決を不服として,控訴を提起した。
2前提事実
以下のとおり付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」「第2事案の概要」
「1前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)」記載のと
おりである。
⑴原判決5頁19行目末尾の後に,行を改めて以下のとおり付加する。
「⑷本件特許の成立経緯等
ア本件特許は,株式会社ローレルインテリジェントシステムズによって平
成10年4月14日に特許出願された特願平10-102933号出願(乙2。以
下「原出願」という。)を優先権の基礎とし,原出願から4次目の分割出願によるも
のである。
すなわち,原出願の一部を分割して特願2004-29384号出願がされ(甲
78),同出願の一部を分割して特願2005-300427号出願がされ(乙9),
同出願の一部を分割して特願2009-271949号出願がされ(甲13,弁論
の全趣旨),前記⑵のとおり,平成24年6月8日,同出願の一部を分割して,本件
特許に係る出願(特願2012-130504号)がされ,同年11月16日に本
件特許(特許第5131881号)の設定登録がされた。
前記⑵のとおり,控訴人は,平成25年10月3日,本件特許の明細書及び特許
請求の範囲について訂正審判請求を行い(訂正2013-390148号),特許庁
は,平成26年1月15日,本件特許に係る明細書及び特許請求の範囲を本件審判
請求書に添付された訂正明細書のとおりに一群の請求項ごとに訂正することを認め
る旨の審決をした(甲47,甲61,甲65。以下,「本件訂正審決」ともいう。)。
イ本件特許の出願に先立ち,原出願は,平成20年12月26日に特許第
4235717号(乙7特許)として設定登録され,特願2004-29384号
出願は,平成21年11月27日に特許第4411992号(甲78特許)として
設定登録され,特願2005-300427号出願は,平成22年9月10日に特
許第4583285号(乙9特許)として設定登録された。
ウ他方,原出願から本件特許に至る系列とは別に,原出願の一部を分割し
て特願2007-239904号出願もされており,同出願は,平成21年5月2
9日に特許第4314336号(乙8特許)として設定登録された。
エなお,乙7特許,乙8特許及び乙9特許の設定登録時の特許権者は,い
ずれもA,甲78特許の設定登録時の特許権者はソニー株式会社,本件特許の設定
登録時の特許権者は控訴人である。
また,控訴人は,乙7特許及び乙8特許の共同発明者の1人,乙9特許及び甲7
8特許の発明者である(甲2,甲78,乙7から乙9)。
特願平10-102933(特許第4235717号・乙7)
├特願2004-29384(特許第4411992号・甲78)
│└特願2005-300427(特許第4583285号・
乙9)
│└特願2009-271949
│└特願2012-130504(本願・本件特許)
└特願2007-239904(特許第4314336号・乙8)

⑵原判決5頁20行目「⑷」を「⑸」と改める。
⑶原判決6頁13行目から14行目の「開始された(弁論の全趣旨)。」を,
「開始された(甲3,弁論の全趣旨)。」と改める。
3争点
原判決6頁19行目の「(しゃべってコンシェルまたはiコンシェルの単独利用)」
を,「(しゃべってコンシェル又はiコンシェルの単独利用)」と改めるほかは,原判
決の「事実及び理由」「第2事案の概要」「2争点」記載のとおりである。
4争点についての当事者の主張
以下のとおり付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」「第3争点に関す
る当事者の主張」記載のとおりである。
⑴原判決7頁10行目及び11行目を以下のとおり改める。
「⑴被告物件イ-2(iコンシェルの単独利用)の特定
被告物件イ-2は,次の構成を備えている。」
⑵原判決9頁8行目から20行目末尾までを以下のとおり改める。
「(ア)被告物件イ-2の構成aの各要素と構成要件Aとの対応関係
a-1の「ユーザに適した情報を配信する処理を行なうためのひとまとまりにな
ったプログラムであるエージェントエンジン」が,構成要件A-1の「自律的なソ
フトウェアモジュールとしてのエージェント」に,a-2の「ユーザにマッチする
コンテンツ(終電時刻,鉄道運行情報,デパート等のイベント更新情報等)である
か否かを判断し」が,構成要件A-2の「ユーザにマッチするコンテンツであるか
否かを判断し」に,a-3の「マッチするコンテンツをユーザのスマートフォンを
通して該ユーザに提供する」が,構成要件A-3の「マッチするコンテンツを該ユ
ーザに提供する」に,a-3の「コンピュータシステム」が,構成要件A-3の「コ
ンテンツ提供システム」に,それぞれ該当する。
したがって,被告物件イ-2の構成aの各要素は,構成要件Aを充足する。
(イ)構成要件A-1の「自律的なソフトウェアモジュールとしてのエー
ジェント」の意義及びa-1の「エージェントエンジン」が構成要件A-1に該当
することについて
a「エージェント」は学術用語であり,a-1の「エージェントエン
ジン」は上記学術用語を意味するところ(甲19,甲25,甲54参照。),本件訂
正審決による訂正後の本件特許に係る明細書(甲47。以下,「訂正後明細書」とい
う。)中,同学術用語の通常の意味に反する内容の記載は存在しない。
したがって,「自律的なソフトウェアモジュールとしてのエージェント」も,「エ
ージェントエンジン」と同様に,「エージェント」という学術用語の通常の意味を有
するものと解される。
b甲19号証(服部文夫ほか「わかりやすいエージェント通信」株式
会社オーム社,平成10年7月,7頁から25頁)には,「エージェント」は,応用
面からの視点によれば,「利用者から委託された仕事を代行処理するソフトウェア
(代理エージェント)」と定義付けられ,実現手段からの視点によれば,「知的エー
ジェント,移動エージェント(モバイルエージェント)及びマルチエージェントシ
ステム」の3つに分類される旨が記載されている。
そして,訂正後明細書(甲47)には,これら3つの分類のすべてが開示されて
いる(【0023】,【0027】,【0125】,【0235】,【0247】)。
c以上によれば,「自律的なソフトウェアモジュールとしてのエージェ
ント」は,「利用者から委託された仕事を代行処理する代理エージェント」であり,
前記3分類のいずれのエージェントによって実現されているかは問わず,従来のプ
ログラミング手法で作成されたものであってもよい。また,甲54号証のIT用語
辞典には,「エージェント」の定義として「自律的に動作するソフトモジュール」と
記載されていることにも鑑みると,「自律的なソフトウェアモジュールとしてのエー
ジェント」は,現時点における「エージェント」の一般的な定義に当てはまり,す
べての「エージェント」が該当するものといえる。
また,甲92号証及び乙22号証によれば,「エージェント」は,それ自体,自律
性を持って行動するモジュールということができる。
以上によれば,a-1の「エージェントエンジン」は,構成要件A-1の「自律
的なソフトウェアモジュールとしてのエージェント」に相当する。
(ウ)原判決の誤り-構成要件A-1の「自律的なソフトウェアモジュー
ルとしてのエージェント」の意義について
原判決は,構成要件A-1の「自律的なソフトウェアモジュールとしてのエージ
ェント」を「マルチエージェントシステムの一部」に限定して解するが,以下のと
おり,この解釈は,誤りである。
a原判決は,前記限定解釈の理由として,「原出願はマルチエージェン
トシステムの構成を前提とするものであるから,その曾孫出願をさらに分割してさ
れた本件特許が,複数のエージェントの協働という限定のない,単にエージェント
の存在のみを内容とするシステムを権利内容とするとは考え難い」と判示する。
この点に関し,原判決は,原出願に係る発明の詳細な説明ではなく,特許請求の
範囲に記載されている構成を根拠として前記のとおりの限定解釈をしているが,こ
のような解釈の手法は,最高裁昭和56年3月13日判決等に反するものである。
b前記(イ)aのとおり,「エージェント」は学術用語であるから,「自
律的なソフトウェアモジュールとしてのエージェント」の意義も,上記学術用語の
通常の意味に従って解釈すべきであるにもかかわらず,原判決は,訂正後明細書の
記載を参酌し,上記学術用語の通常の意味を超えて前記のとおりの限定解釈をした
点において,誤りがある。
c「自律的なソフトウェアモジュールとしてのエージェント」を「マ
ルチエージェントシステムの一部」に限定して解釈するためには,訂正後明細書に
おいて「マルチエージェントシステム」以外の構成による本件特許発明の構成が開
示されていないことを根拠とする必要があるところ,以下の点によれば,訂正後明
細書には,「マルチエージェントシステム」以外の構成による本件特許発明の構成も
開示されている。
原判決には,訂正後明細書が「マルチエージェントシステムを利用することで課
題を解決するとの構成を開示するものと認められ」ることを根拠として前記限定解
釈をした点において誤りがあり,また,訂正後明細書の記載の解釈自体にも誤りが
ある。
⒜訂正後明細書中,構成要件A-1の「自律的なソフトウェアモジ
ュールとしてのエージェント」に対応するものは,「第三者エージェント(「第三者
機関エージェント」と表現している場合もある。)」であり,「第三者エージェント」
は,「第三者機関8によって運用管理するエージェントに限定されるものではなく,
たとえば前記当事者のエージェントが仕事をするテレスクリプト・エンジン内のプ
レースと同じプレース上で仕事をしている他のエージェントによりこの第三者エー
ジェントを構成してもよい。」(【0235】)とされている。
そして,「前記当事者のエージェント」は,「ユーザエージェント26と移動先エ
ージェント27」により構成されること(【0237】)から,「前記当事者のエージ
ェントが仕事をするテレスクリプト・エンジン内のプレース」とは,「コンテンツ提
供業者7のテレスクリプト・エンジン18のプレース24」を指す(【0024】)。
このプレース24上で「仕事をしている他のエージェント」は,第三者機関エージ
ェント29以外のエージェントを指し,それは,ユーザエージェント26と移動先
エージェント27のことである(甲2の図2の⒝参照)。
ユーザエージェント26に関し,訂正後明細書には,「ユーザエージェント26に
は,(中略)ファイアフライ等の情報収集エージェントなど,種々の種類が存在する。」
(【0027】)と記載されており,原出願の乙7特許の明細書の【0039】にも
同様の記載がある。さらに,訂正後明細書及び原出願の乙7特許の明細書のいずれ
にも,「ユーザエージェント26の仕事を代理実行する第三者エージェントの方も,
ユーザエージェント26の種類に合せて機能別に複数種類用意しておく必要があ
る。」と記載されており(甲47【0027】,乙7【0039】),「第三者エージェ
ント」の方も,「ファイアフライ」等の情報収集エージェントに合わせた機能のエー
ジェントを用意しておくことが開示されている。
この点に関し,甲45号証によれば,「ファイアフライ」は,「マルチエージェン
ト」ではなく,単独で動作する知的エージェントであり,甲67号証によれば,原
出願当時,すなわち,平成10年4月14日当時において既に周知であった。
加えて,原出願においても,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明につき,「マル
チエージェントシステム」から,これに限定されない一般的な「エージェント」と
いう上位概念のものに補正されている(乙2【0011】,乙7【0011】,乙1
2,乙13など。)。
さらに,原出願時における特許請求の範囲の請求項4,発明の詳細な説明の段落
【0250】(乙2)及び訂正後明細書の段落【0235】において,「第三者エー
ジェント」は,当事者,すなわち,コンテンツ提供者及びユーザの「双方に対し中
立性を有する第三者エージェント」と記載されている。同記載によれば,「第三者エ
ージェント」は,コンテンツ提供者及びユーザに対して中立性を有するエージェン
トであり,コンテンツ提供者のエージェント及びユーザのエージェントに対して中
立性を有するものではなく,したがって,コンテンツ提供者のエージェント及びユ
ーザのエージェントとは無関係に,単独のエージェントとして成立するものといえ
る。
以上によれば,訂正後明細書には,「マルチエージェントシステムを利用すること
で課題を解決するとの構成」以外の内容も開示されている。
⒝仮に,訂正後明細書において,「マルチエージェントシステムを利
用することで課題を解決するとの構成」以外の内容が開示されていないとしても,
「マルチエージェントシステム」自体,単独のエージェントシステム同士を連携さ
せたものであるから,当業者は,「マルチエージェントシステム」に係る開示に接す
れば,単独エージェントシステムによる構成も,当然に実施し得るものといえる。
そして,訂正後明細書の【0011】によれば,本件特許発明の課題は,「ユーザに
マッチするコンテンツの提供を可能としつつ,ユーザのプロフィール情報に基づい
た第三者エージェントによる判断を,コンテンツ提供業者とは異なる別の機関に設
置されたコンピュータ内で行うことにより,プロフィール情報がコンテンツ提供業
者に漏えいする不都合も極力防止すること」であるところ,単独エージェントシス
テムによっても,この課題を解決することは可能である。
以上によれば,原判決の前記限定解釈は,誤りである。
d原判決は,前記限定解釈の根拠として,本件特許出願に関して平成
24年6月22日に提出された上申書(甲13。以下「甲13上申書」という。)の
記載内容を掲げているが,上申書の記載内容については禁反言が適用されないこと
から,甲13上申書の記載内容は,前記限定解釈の根拠にはならない。
e原判決は,「自律的なソフトウェアモジュールとしてのエージェント」
を「マルチエージェントシステムの一部」に限定して解釈する根拠の1つとして,
本件特許のいわゆる分割ファミリに当たる乙8特許の出願経過書類である意見書
(乙11。以下「乙11意見書」という。)を掲げている。
しかしながら,本来,原出願に係る発明と分割出願に係る発明とは,内容を異に
するものであるから,分割ファミリ間に禁反言は適用されない。特に,本件特許発
明は,原出願に係る乙7特許の発明及び乙8特許の発明のいずれとも,背景技術及
び課題において相違しているので,禁反言は適用されない。
したがって,原判決が,上記限定解釈の根拠の1つとして乙11意見書を掲げた
点は,誤りである。
(エ)原判決の誤り-被告物件につき,構成要件A-1の「自律的なソフ
トウェアモジュールとしてのエージェント」の充足性の有無に関して
原判決は,「被告システムのエージェントが,ユーザーのエージェントあるいはコ
ンテンツ提供業者のエージェントと,課題解決のために協調して動作するマルチエ
ージェントシステムが構成されている事実は,本件で提出された証拠によっては認
定することができない。」として,被告物件イ-2(iコンシェルの単独利用)は,
構成要件A-1の「自律的なソフトウェアモジュールとしてのエージェント」を充
足しない旨判示するが,以下のとおり,この判断は,誤りである。
a「しゃべってコンシェル」において使用するAWS側のサーバにイ
ンストールされている「音声エージェント」は,構成要件Fの「ユーザエージェン
ト」に該当するものであり,ユーザの質問を解釈し,その内容は,被控訴人が運営
するサーバ群に送信される。被控訴人が運営するサーバには,a-1の「エージェ
ントエンジン」がインストールされており,この「エージェントエンジン」は,ユ
ーザの質問に対する回答につき,まず,被控訴人が運営するストレージサーバ群に
記憶された社内データベースを検索するが,上記回答を見つけられないときは,検
索対象をインターネット経由で他のウェブサイトのWikipediaに送信し,Wikipedia
から送信された検索結果につき,「音声エージェントから送られてきたユーザの指示
内容に従ってマッチング判断を行なう。」ものである。
以上に鑑みると,「音声エージェント」は,a-1の「エージェントエンジン」と
交信しながらユーザの質問等を処理するものであるから,「マルチエージェントシス
テム」の一部に該当し,したがって,a-1の「エージェントエンジン」も,「マル
チエージェント」の一部である。
ba-1の「エージェントエンジン」が「マルチエージェントシステ
ム」の一部といえず,他方,構成要件A-1の「自律的なソフトウェアモジュール
としてのエージェント」が「マルチエージェントシステム」の一部であるとしても,
a-1の「エージェントエンジン」は,以下のとおり,構成要件A-1の「自律的
なソフトウェアモジュールとしてのエージェント」を構成する「第三者エージェン
ト」(構成要件D-1)と均等なものであるから,本件特許発明1の技術的範囲に属
する。
⒜第1要件
本件特許発明は,前述したとおり,「ユーザにマッチするコンテンツの提供を可能
としつつ,ユーザのプロフィール情報に基づいた第三者エージェントによる判断を,
コンテンツ提供業者とは異なる別の機関に設置されたコンピュータ内で行うことに
より,プロフィール情報がコンテンツ提供業者に漏えいする不都合も極力防止する
こと」を課題としているところ,同課題を解決するための構成要件は,①エージェ
ントが,ユーザのプロフィール情報に基づいて,コンテンツがユーザにマッチする
コンテンツであるか否かのマッチング判断を行うという構成要件C3-1及びC3
―2並びに②前記エージェントが,コンテンツ提供業者とは異なる別の機関に設置
されたコンピュータ内で前記マッチング判断を行うことにより,前記ユーザのプロ
フィール情報をコンテンツ提供業者に提供することなく前記マッチング判断を行な
う点(構成要件D-2及びD-3)であり,これらが本件特許発明1の本質的部分
である。
したがって,「第三者エージェント」(構成要件D-1)が「マルチエージェント
システム」の一部であることは,本件特許発明1の本質的部分ではない。
⒝第2要件
甲7号証,甲8号証及び甲15号証によれば,本件特許発明1の「第三者エージ
ェント」(構成要件D-1)を,a-1の「エージェントエンジン」に置き換えても,
本件特許発明の前記課題を解決することができ,本件特許発明と同一の作用,効果
を奏する。
⒞第3要件
①前記aによれば,被告システムは,複数のエージェントが交信し,連携して仕
事をする「マルチエージェントシステム」(甲14,甲19)と同様の機能を有する
ものといえること,②甲92号証記載のとおり,「エージェント」は,本来,自律性
を持った「モジュール」として設計されるべきものであることから,本件特許発明
1の「第三者エージェント」(構成要件D-1)をa-1の「エージェントエンジン」
に置き換えることは,当業者が被告システムの製造時において容易に想到し得たこ
とである。
⒟第4要件
被告システムは,本件特許発明1の特許出願時における公知技術と同一又は当業
者がこれから容易に推考できたものではない。
⒠第5要件
被告システムが本件特許発明1の特許出願手続において特許請求の範囲から意
識的に除外されたもの当たるなどの特段の事情は,存在しない。」
⑶原判決9頁22行目から10頁3行目末尾までを,以下のとおり改める。
「(ア)b-1の「終電時刻用情報や鉄道運行情報やデパートのイベント情
報等のコンテンツを提供する複数のコンテンツプロバイダ(株式会社駅探,ジェイ
アール東日本企画,デパート等)」が,構成要件Bの「コンテンツを提供する複数の
コンテンツ提供業者」に,b-2の「とは異なる別の機関である被告」が,構成要
件Bの「とは異なる別の機関」に,b-2の「被告に設置された複数台のサーバ群
およびストレージサーバ群からなるiコンシェルサーバ」が,構成要件Bの「別の
機関に設置されたコンピュータ」にそれぞれ該当する。
したがって,被告物件イ-2の構成bの各要素は,構成要件Bを充足する。
(イ)構成要件Bの「別の機関」の意義及び充足性の有無について
a訂正後明細書の【0084】及び【0089】によれば,構成要件
B「別の機関」とは,技術思想レベルにおいては,「秘密性が保持できないコンテン
ツ提供業者ではなく,秘密情報であるユーザプロフィール情報の漏えいを防止でき
る機関」を指し,甲7号証,甲8号証及び甲15号証によれば,被控訴人自身が上
記「別の機関」に該当することは,明らかといえる。
b①被控訴人は,複数のコンテンツプロバイダと複数のドコモユーザ
との間を仲介し,それらのコンテンツプロバイダに代わって,コンテンツを適切な
ユーザに配信し,その対価としての手数料をコンテンツプロバイダから徴収してお
り,したがって,被控訴人とコンテンツプロバイダとは,コンテンツの代理配信事
業者と代理配信依頼者という関係にあり,協力関係にあるとはいえないこと,②被
控訴人が個人情報保護法2条3項所定の個人情報取扱事業者に該当するのに対し,
コンテンツプロバイダは,同法23条1項所定の「第三者」に該当することから,
被控訴人は,コンテンツを提供するコンテンツプロバイダではない,前記「別の機
関」に該当する。また,被控訴人は,指定公共機関であるから(甲24),公共性を
有する機関ともいうことができる。」
⑷原判決11頁3行目の「イ-1」を,「イ-2」と,9行目の「エージェン
トエンジンが」を,「エージェントエンジンは,」と,13行目の「および」を「及
び」と,それぞれ改める。
⑸原判決11頁24行目末尾の後に,行を改めて以下のとおり付加する。
「なお,①構成要件D-1の「第三者エージェント」は,「ユーザのプロフィール情
報の漏えいを防止しながら,ユーザに対してマッチする情報を提供する」という仕
事を実行するエージェントを含む概念であること,②被控訴人は,被告システムが
「ユーザのためにデータ処理を実行するソフトウェア」を有していることは認めて
いるところ,甲23号証等によれば,この「ユーザ」には,コンテンツプロバイダ
も含まれることに鑑みると,d-1の「エージェントエンジン」は,構成要件D-
1の「第三者エージェント」に該当する。」
⑹原判決11頁26行目の「にも拘らず,」を「であるにもかかわらず,」と
改める。
⑺原判決12頁4行目の「また,」を削除し,「預かり」の後に「,」を付加し,
「代って」を「代わって」と改める。
⑻原判決12頁10行目の「株式会社NTTドコモ」を「被控訴人」と,2
3行目の「送信され」を「送信されて」と,26行目の「がユーザのスマートフォ
ンに表示される」を「をユーザのスマートフォンに表示する」と,それぞれ改める。
⑼原判決13頁2行目の「イ-1」を「イ-2」と改める。
⑽原判決14頁8行目末尾の後に,行を改めて以下のとおり付加する。
「オ構成e
認める。」
⑾原判決14頁9行目末尾に「(本件特許発明1の構成要件A-1について)」
を付加し,18行目から19行目の「コンピュータで実質的にデータ処理を実行す
るための機構」を,「コンピューターで実質的にデータ処理を実行する機構」と改め
る。
⑿原判決15頁22行目から16頁7行目末尾までを以下のとおり改める。
「(ア)構成要件A-1の「自律的なソフトウェアモジュールとしてのエー
ジェント」の意義について
a訂正後明細書(甲47)においては,【背景技術】と【先行技術文献】
として,非特許文献1として佐藤文明ほか「移動エージェントによる交渉システム
の設計」(乙1,情報処理学会ワークショップ論文集,日本,社団法人情報処理学会,
1997年7月,Vol.97,No.2,pp.557-562。以下「本件先行技術文献」と
いう。)が掲げられていること(【0002】,【0003】),訂正後明細書の【00
04】,【0023】から【0032】の記載等によれば,「自律的なソフトウェアモ
ジュールとしてのエージェント」とは,テレスクリプト等の通信用言語で記述され,
依頼された特定の仕事を自らの判断において行い,テレスクリプト・エンジン等に
よって提供される共通動作環境であるプレース上で独立に動作するプログラム」を
意味するものといえる。
そして,「自律的なソフトウェアモジュールとしてのエージェントが(中略)コン
テンツを該ユーザに提供するコンテンツ提供システム」(構成要件A)とは,この「自
律的なソフトウェアモジュールとしてのエージェント」が主体となって,コンテン
ツをユーザに提供するシステムを意味するところ,同システムにおいては,分散コ
ンピュータ環境における移動性を備えたエージェントであるモバイルエージェント
(【0023】)の利用が前提とされている。
bこの「自律的なソフトウェアモジュールとしてのエージェント」中,
構成要件Dには,ユーザとコンテンツ提供業者とを仲介して両者に代わって仕事を
実行するための「中立性を有する第三者エージェント」が,本件特許発明2及び3
に係る各請求項には,「ユーザの指示を受付けて仕事をするユーザエージェント」(構
成要件F及びH)が,本件特許発明4に係る請求項には,「前記ユーザエージェント
は,前記第三者エージェントと協働して仕事を行う」(構成要件J)ことが,それぞ
れ記載されている。
cさらに,訂正後明細書の【0024】から【0032】において,
構成要件D-1の「第三者エージェント」に相当する「第三者機関エージェント2
9」及び本件特許発明2から4に係る各請求項(構成要件F,H及びJ)の「ユー
ザエージェント」に相当する「ユーザエージェント26」のいずれも,移動可能な
エージェントとされ,「第三者機関エージェント29」と「ユーザエージェント」が
協働して仕事を行う旨が記載されている。
以上のとおり,訂正後明細書においては,「ユーザエージェント」は,モバイルエ
ージェント(移動エージェント)であり,「第三者機関エージェント」と協調して動
作することが記載されており,同記載によれば,「ユーザエージェント」が「マルチ
エージェントシステム」を構成するエージェントの1つとされていることは,明ら
かといえる。
この点に関し,控訴人は,「ファイアフライ」が「マルチエージェント」ではなく,
単独で動作する知的エージェントであることを前提として,訂正後明細書の【00
27】において,「ユーザエージェント26」の一例として「ファイアフライ」が記
載されていることをもって,訂正後明細書には,「マルチエージェントシステム」を
利用することで課題を解決するとの構成」以外の内容も開示されている旨主張する。
しかしながら,控訴人が指摘する上記記載は,「ファイアフライ」を,「マルチエ
ージェントシステム」を構成するエージェントの1つである「ユーザエージェント」
として使用してよいという趣旨であり,同記載をもって,訂正後明細書において控
訴人主張に係る内容が開示されているということはできない。
d以上によれば,構成要件A-1の「自律的なソフトウェアモジュー
ルとしてのエージェント」は,原判決認定のとおり,「マルチエージェントシステム
の一部」を構成するものと解すべきである。
(イ)被告物件イ-2に係る構成要件A-1の「自律的なソフトウェアモ
ジュールとしてのエージェント」の充足性の有無について
a被告システムは,「ユーザ(利用者)のためにデータ処理を実行する
ソフトウェア」を有しているにすぎず,「マルチエージェントシステム」を採用して
いない。したがって,被告物件イ-2は,構成要件A-1の「自律的なソフトウェ
アモジュールとしてのエージェント」を充足しない。
b控訴人は,a-1の「エージェントエンジン」が「マルチエージェ
ントシステム」の一部といえず,他方,構成要件A-1の「自律的なソフトウェア
モジュールとしてのエージェント」が「マルチエージェントシステム」の一部であ
るとしても,a-1の「エージェントエンジン」は,構成要件A-1の「自律的な
ソフトウェアモジュールとしてのエージェント」を構成する「第三者エージェント」
(構成要件D-1)と均等なものであるから,本件特許発明1の技術的範囲に属す
る旨主張するが,争う。
①第1要件につき,「マルチエージェントシステム」は,本件特許発明の本質的部
分であること,②第2要件及び第3要件につき,控訴人は,置換の具体的構成につ
いて主張していないこと,③第4要件につき,控訴人が主張する被告システムは,
原出願日前の公知技術,あるいは,少なくとも,同公知技術に基づいて当業者が容
易に推考できたものであること,④第5要件につき,③の点に加え,本件特許の出
願経過に照らせば,控訴人が主張する技術は,同出願経過において本件特許発明か
ら意識的に除外されたものといえることに鑑みると,控訴人が主張する均等論は,
成立しない。」
⒀原判決16頁15行目「ユーザにマッチするコンテンツであるか否かを判
断し」とは,」の後に,「訂正後明細書の【0015】及び【0032】によれば,」
を付加する。
⒁原判決17頁5行目末尾の後に,行を改め,以下のとおり付加する。
「オ構成要件Bについて
「コンテンツを提供する複数のコンテンツ提供業者(構成要件B-1)とは異な
る別の機関(B-2)」は,訂正後明細書の【0026】,【0236】から【023
8】及び【0248】によれば,当事者,すなわち,ユーザとサービスを提供する
サービス業者のみでは「解決困難なまたは解決不可能な中立性を要する仕事が発生
した場合に,そのような特定の仕事を当事者に代わって代理実行して解決するため
に設立された機関」を指し,「官庁等の公な機関あるいは半公共的な機関によって構
成するのが望ましい」とされている。そして,「特定の仕事」とは,「当事者エージ
ェント同士が対立するというトラブルが発生した場合の仲裁やどちらのエージェン
トが正しいかの判定,当事者エージェントの一方または双方が本当に正しい当事者
のエージェントであるかを立証するための第三者による証明等」の「当事者だけで
は解決が困難または不可能な中立性を要する仕事すべて」を対象とする。
被控訴人は,ユーザにコンテンツを提供するコンテンツプロバイダであり,控訴
人が主張する「ジェイアール東日本企画」等の「複数のコンテンツプロバイダ」(b
-1)は,被控訴人にコンテンツを提供するコンテンツプロバイダである。被控訴
人は,自らコンテンツプロバイダとして「複数のコンテンツプロバイダ」と協力関
係にあり,当事者のユーザ及びコンテンツプロバイダとは別に,中立的な仲裁や判
定等を行う第三者機関ではなく,したがって,「別の機関」(構成要件B-2)に当
たらない。
以上によれば,被告物件イ-2は,「コンテンツを提供する複数のコンテンツ提供
業者(構成要件B-1)とは異なる別の機関(構成要件B-2)」を充足しない。」
⒂原判決17頁6行目「オ」を「カ」と,12行目「カ」を「キ」と,それ
ぞれ改める。
⒃原判決17頁18行目「中立性を有する第三者エージェント」とは,」の後
に,「前記オのとおり,」を付加する。
⒄原判決17頁25行目「仕事を行う機関」を,「仕事を行う機関である構成
要件B-2の「別の機関」に改める。
⒅原判決18頁8行目「前記マッチング判断を行なった結果であり,」の後に,
「訂正後明細書の【0032】,【0050】,【0066】,【0067】,【0088】
から【0090】によれば,」を付加する。
⒆原判決18頁22行目末尾の後に,行を改めて以下のとおり付加する。
「ク甲13上申書には,本件特許発明につき,乙8特許を限定した発明であ
る旨が主張されていること,乙11意見書には,乙8特許につき,原出願の乙7特
許に新たな構成要件を付加した旨が記載されていることによれば,控訴人において,
本件特許発明の技術的範囲が乙7特許よりも広い旨主張することは,信義に反し,
許されない。
そして,乙7特許において,「マッチ」及び「中立性を有する第三者エージェント」
の意義は,それぞれ前記イ及びキと同様であり,したがって,これに反する主張は,
信義に反し,許されないものといえる。」
⒇原判決18頁25行目を,「⑴被告物件イ-3(しゃべってコンシェル又
はiコンシェルの単独利用)の特定」に改める。
(21)原判決19頁19行目から20頁19行目末尾までを以下のとおり改める。
「⑵本件特許発明2の構成要件へのあてはめ
アf-1の「ユーザの音声による指示(「当事者主義とは?」等のユーザー
の質問等),「を受付けて仕事をする音声エージェント(AWS側のサーバ群にイン
ストールされている音声エージェント)」が,構成要件Fの「ユーザの指示」,「を受
付けて仕事をするユーザエージェント」に,f-2の「音声認識エンジンによる認
識結果に基づいて意図解釈エンジンがユーザの指示の意図を解釈したその解釈結果」
が,構成要件Fの「受付けた指示内容」に,f-3の「に基づいて検索を行なった」
が,構成要件Fの「に基づいてコンテンツの検索を行って」に,それぞれ該当する。
f-4の「検索結果をユーザに提供する検索機能」とは,具体的には,意図解釈・
応答が返信され,「Wikipediaで調べます」が音声報知されるとともに,検索結果・
応答として「当事者主義とは,事案の解明や証拠の提出に関する主導権を当事者に
委ねる原則をいう。裁判・訴訟の分野における当事者主義に対立する概念としては,
裁判所による積極的な事案の解明や証拠の追究を認める職権主義がある」といった
返信がスマートフォンの画面に表示されることであり,構成要件Fの「検索結果を
ユーザに提供する検索手段」に該当する。
f-5の「社内データベースに検索対象の答えがない場合」とは,具体的には,
「当事者主義とは?」の質問に対する答えが社内データベースにない場合を指し,
この場合,被控訴人が運営する複数台のサーバ群は,検索対象の「当事者主義」を,
他のWebサイトのWikipediaやTwitterなど,被控訴人に設置されたコンピュータ以
外のネットワーク上のコンピュータにインターネット経由で送信するところ,これ
は,構成要件Fの「別の機関に設置された前記コンピュータ以外のネットワーク上
のコンピュータにおいて記憶されている情報を検索する」に該当する。
gの「コンピュータシステム」は,構成要件Gの「コンテンツ提供システム」に
該当する。
以上によれば,被告物件イ-3は,本件特許発明2の構成要件を充足する。
イ構成要件Fの「ユーザエージェント」の意義について
(ア)構成要件Fの「ユーザエージェント」に該当するf-1の「音声エ
ージェント(AWS側のサーバにインストールされている音声エージェント)」につ
き,「AWS」とは,アマゾンが提供するクラウドサービスを指し,東京に設置され
ているサーバ群及びストレージサーバ群(種々のデータを記憶,保存するためのサ
ーバ)を被控訴人に使用させており,上記サーバ群には,被控訴人の「音声エージ
ェント」がインストールされている。「しゃべってコンシェル」の音声認識機能及び
意図解釈機能は,AWSのサーバ群及びストレージサーバ群によって実現される。
すなわち,ユーザが,スマートフォンで「しゃべってコンシェル」を起動させて
「当事者主義とは?」と質問すると,同質問は,音声信号としてインターネット経
由でAWSのサーバに送信される。同サーバにおいては,ストレージサーバ群の記
憶データを活用しながら,音声認識エンジンが前記質問に係る音声信号を認識し,
その後,意図解釈エンジンが前記質問に係るユーザの意図を解釈する。この解釈結
果,すなわち,ユーザの質問内容は,インターネット経由で被控訴人が運営するサ
ーバ群に送信される。
被控訴人が運営するサーバ群には,被控訴人の「エージェントエンジン」及び検
索機能(甲16)のソフトがインストールされている。これらのサーバ群は,前記
のユーザの質問に対する回答につき,まず,被控訴人が運営するストレージサーバ
群に記憶された社内データベースを検索するが,上記回答を見つけられないことか
ら,検索対象の「当事者主義」を,インターネット経由他のWebサイトのWikipedia
に送信する。そして,被控訴人が運営する前記サーバ群は,Wikipediaから送信され
た検索結果を受け,これをインターネット経由でユーザのスマートフォンに返信す
る。
このように,構成要件Fの「ユーザエージェント」に該当するf-1の「音声認
識エンジンと意図解釈エンジンとを」含む「音声エージェント」は,AWSのサー
バ群及びストレージサーバ群によって実現されているが,構成要件Fの「ユーザエ
ージェント」は,同構成要件の「検索手段」を修飾する形容詞にすぎず,積極的構
成要件とされていないことに鑑みると,上記「検索手段」は,被控訴人側のサーバ
群やストレージサーバ群にある「検索手段」に該当する。
(イ)原判決の誤り
原判決は,「ユーザエージェント」につき,「単にユーザーが使用する独立したソ
フトウェアの一種というだけでは足りず,ユーザー端末からネットワークを介して
他のサーバー等に移動し,そこで情報処理を行うものでなければならない」と限定
的に解釈しているが,以下のとおり,この判断は誤りである。
a「エージェント」は,学術用語であるから,構成要件Fの「ユーザ
エージェント」も,上記学術用語の通常の意味に従って解釈すべきであるにもかか
わらず,原判決は,訂正後明細書を参酌し,上記学術用語の通常の意味を超えて前
記のとおりの限定解釈をした点において,誤りがある。
b原判決は,上記限定解釈の根拠として,①訂正後明細書において,
「ユーザエージェント」は,「モバイルエージェント」で構成されること,「モバイ
ルエージェント」が,共通動作環境であるプレースに移動して,そのプレース上で
他のエージェントと協調して相互に動作して仕事を行い,問題を解決することが記
載されており,原出願の乙7特許の明細書にも同様の内容が記載されていること,
②訂正後明細書及び原出願の乙7特許の明細書のいずれにも,上記記載以外に,ユ
ーザエージェントについての開示,説明はないことを挙げている。
しかしながら,訂正後明細書及び原出願の乙7特許の明細書には,「ユーザエージ
ェント」が「モバイルエージェント」であることを前提としない本件特許発明の構
成も開示されており,原判決は,訂正後明細書及び原出願の乙7特許の明細書の解
釈を誤ったものといえる。
⒜ユーザエージェント26に関し,訂正後明細書には,「ユーザエー
ジェント26には,(中略)ファイアフライ等の情報収集エージェントなど,種々の
種類が存在する。」(【0027】)と記載されており,原出願の乙7特許の明細書の
【0039】にも同様の記載があるところ,甲45号証によれば,「ファイアフライ」
は,「モバイルエージェント」ではなく,サーバ/クライアント通信を用いている。
そして,甲69号証によれば,「モバイルエージェント」は,サーバとクライアン
トのコンピュータ間でコマンドやデータのやり取りを複数回行う従来型の通信方式
であるサーバ/クライアント通信を改良し,クライアント側のエージェントが,サ
ーバに移動してサーバとの間でコマンドやデータのやり取りを複数回行い,その結
果を持ち帰ってクライアントに報告することにより,サーバとクライアントのコン
ピュータ間の通信回数を減少させるという改良型通信方式である。
⒝本件特許発明についての訂正審判請求(訂正2013-3901
48号)に係る平成25年10月3日付け請求書(甲47)においては,本件訂正
審決による訂正前の本件特許請求の範囲の請求項2に,構成要件Fの「,前記検索
手段は,前記別の機関に設置された前記コンピュータ以外のネットワーク上のコン
ピュータにおいて記憶されている情報を検索するための制御機能を有する」の記載
を付加する根拠の1つとして,「別の機関に設置された前記コンピュータ以外のネッ
トワーク上のコンピュータにおいて記憶されている情報」の一例として,ユーザ宅
17のパソコン14に記憶されているコンテンツのアブストラクトや番組アブスト
ラクトが開示されており,「検索するための制御機能」の一例として,ユーザエージ
ェントにおけるSA7のステップによりコンテンツのアブストラクトを検索して評
価したり,SA11のステップにより番組アブストラクトを検索して評価する(【0
014】,【0015】,【0048】,【0050】,甲2の図1,図4)。」ことが記載
されており,上記訂正審判請求は,本件訂正審決によって認められている。
前記記載によれば,「ユーザエージェント」は,ユーザ宅17のパソコン14内を
検索するものであり,ユーザ宅17のパソコン14から外部コンピュータ(例えば
コンテンツ提供業者7のテレスクリプト・エンジン18等)に移動する必要はなく,
したがって,「モバイルエージェント」であることを要しない。
c仮に,訂正後明細書及び原出願の乙7特許の明細書において,「ユー
ザエージェント」が「モバイルエージェント」であることを前提としない本件特許
発明以外の構成は開示されていないとしても,「モバイルエージェント」は,従来の
サーバ/クライアント通信を改良した改良型通信方式にすぎないことに鑑みると,
当業者は,訂正後明細書及び原出願の乙7特許の明細書における「モバイルエージ
ェント」の記載に接すれば,その従来通信方式である「サーバ/クライアント通信」
も,当然に実施し得る。
すなわち,当業者は,構成要件Fの「(ユーザ)エージェント」という記載及び訂
正後明細書の【発明を実施するための形態】の項における「モバイルエージェント」
の記載に接すれば,「モバイルエージェント」の従来通信方式である「サーバ/クラ
イアント通信方式」による被告システムの構成も,当然に実施し得るものといえる。
そして,本件特許発明の課題は,前述したとおり,「ユーザにマッチするコンテン
ツの提供を可能としつつ,ユーザのプロフィール情報に基づいた第三者エージェン
トによる判断を,コンテンツ提供業者とは異なる別の機関に設置されたコンピュー
タ内で行なうことにより,プロフィール情報がコンテンツ提供業者に漏えいする不
都合も極力防止すること」であるところ,「モバイルエージェント」ではない,従来
通信方式である「サーバ/クライアント通信方式」による被告システムの構成によ
っても,この課題は解決可能である。
以上によれば,原判決の前記限定解釈は,誤りである。
ウ仮に,構成要件Fの「ユーザエージェント」が「モバイルエージェント」
に限定されるとしても,以下のとおり,被告システムは,構成要件Fと均等なもの
といえるから,本件特許発明2の技術的範囲に属する。
(ア)第1要件
本件特許発明2は,「別の機関に設置されたコンピュータに記憶されているコンテ
ンツの範囲内でのマッチングサービスばかりでなく,前記別の機関に設置されたコ
ンピュータ以外のネットワーク上のコンピュータにおいて記憶されている情報から
広く検索するサービスも提供できる」という作用,効果を実現するものであるとこ
ろ,上記作用,効果を実現する構成要件は,「別の機関に設置された前記コンピュー
タ以外のネットワーク上のコンピュータにおいて記憶されている情報を検索するた
めの制御機能」(構成要件F)であり,この点が,本件特許発明2の本質的部分であ
る。
しかも,前記作用,効果は,構成要件Fの「ユーザエージェント」が移動しなく
ても実現し得るものである(甲47,甲65参照。)。
以上によれば,構成要件Fの「ユーザエージェント」が「モバイルエージェント」
であることは,本件特許発明2の本質的部分ではない。
(イ)第2要件
甲47号証によれば,構成要件Fの「ユーザエージェント」を,「モバイルエージ
ェント」ではない,f-1の「音声エージェント」に置き換えても,本件特許発明
2の前記作用,効果を実現できる。
(ウ)第3要件
前記(イ)及び前記イ(イ)cのとおり,①「ユーザエージェント」は,「モバイルエ
ージェント」であるか否かにかかわらず,本件特許発明2の作用,効果を実現でき
ること,②「モバイルエージェント」は,従来のサーバ/クライアント通信の改良
型通信方式であるから,当業者は,構成要件Fの「(ユーザ)エージェント」という
記載及び訂正後明細書の【発明を実施するための形態】の項における「モバイルエ
ージェント」の記載に接すれば,「モバイルエージェント」の従来通信方式である「サ
ーバ/クライアント通信方式」による被告システムの構成も,当然に実施し得るも
のといえることに鑑みると,従来通信方式である「サーバ/クライアント通信」は,
当業者が当然に実施し得る構成である。
以上によれば,構成要件Fの「ユーザエージェント」をf-1の「音声エージェ
ント」に置き換えることは,当業者が被告システムの製造時において容易に想到し
得たことである。
(エ)第4要件
被告システムは,本件特許発明2の特許出願時における公知技術と同一又は当業
者がこれから容易に推考できたものではない。
(オ)第5要件
被告システムが本件特許発明2の特許出願手続において特許請求の範囲から意識
的に除外されたもの当たるなどの特段の事情は,存在しない。」
(22)原判決20頁25行目の「twitter」を「Twitter」と,26行目の「ネット
-ワーク」を「ネットワーク」と,それぞれ改める。
(23)原判決21頁9行目から11行目「本件明細書によると,ユーザエージ
ェントは,ユーザーのパソコン内で動作しているエージェントであって,コンテン
ツ提供業者のコンピュータへと移動するエージェントであるが,」を,「本件明細書
によると,ユーザエージェントは,ユーザーのパソコン内で動作し,コンテンツ提
供業者のコンピュータへと移動するモバイルエージェントであり,かつ,マルチエ
ージェントシステムを構成するエージェントであるところ,」と改める。
(24)原判決21頁13行目末尾の後に,行を改めて以下のとおり付加する。
「ウ控訴人は,仮に,構成要件Fの「ユーザエージェント」が「モバイルエ
ージェント」に限られるとしても,被告システムは,構成要件Fと均等なものとい
えるから,本件特許発明2の技術的範囲に属する旨主張するが,争う。
①第1要件につき,「ユーザエージェント」は,本件特許発明2の本質的部分であ
ること,②第2要件及び第3要件につき,被告システムには,「ユーザエージェント」
と置換すべき構成も存しないこと,③第4要件につき,控訴人が主張する被告シス
テムは,原出願日前の公知技術,あるいは,少なくとも,同公知技術に基づいて当
業者が容易に推考できたものであること,④第5要件につき,③の点に加え,本件
特許の出願経過に照らせば,控訴人が主張する技術は,同出願経過において本件特
許発明から意識的に除外されたものといえることに鑑みると,控訴人が主張する均
等論は,成立しない。」
(25)原判決22頁2行目を,以下のとおり改める。
「本件特許権において,請求項3は請求項2の従属項であり,請求項2は請求項
1の従属項であるところ,被告システムが請求項1を充足しないことは,既に述べ
たとおりであり,その余の主張は,前記2の【被告(当審においては被控訴人)の
主張】⑵のとおりである。
したがって,被告物件イ-3は,本件特許発明3の構成要件を充足しない。」
(26)原判決23頁15行目を以下のとおり改める。
「本件特許権において,請求項4は請求項2又は請求項3の従属項であり,請求
項2は請求項1の従属項,請求項3は請求項2の従属項であるところ,被告システ
ムが請求項1を充足しないことは,既に述べたとおりであり,その余の主張は,前
記2の【被告(当審においては被控訴人)の主張】⑵のとおりである。
したがって,被告物件イ-3は,本件特許発明4の構成要件を充足しない。」
第3当裁判所の判断
当裁判所も,被告物件イ-1(連携サービスの利用),被告物件イ-2(iコンシ
ェルの単独利用)及び被告物件イ-3(しゃべってコンシェル又はiコンシェルの
単独利用)は,いずれも本件特許発明の技術的範囲に属しないと判断する。
その理由は,以下のとおりである。
1本件特許発明1の構成要件A-1の「自律的なソフトウェアモジュールとし
てのエージェント」の意義について
⑴訂正後明細書(甲47)の記載
訂正後明細書には,原判決の「事実及び理由」「第2事案の概要」「1前提事
実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)」「⑵本件特許」に記
載されたとおりの本件特許発明が開示されているものと認められるところ,本件特
許発明1の構成要件A-1の「自律的なソフトウェアモジュールとしてのエージェ
ント」に関し,以下の記載がある(下記記載中に引用する図面について別紙1参照。)。
【技術分野】
【0001】
本発明は,自律的なソフトウェアモジュールとしてのエージェントがユーザにマ
ッチするコンテンツであるか否かを判断し,マッチするコンテンツを該ユーザに提
供するコンテンツ提供システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来において,たとえば,中立的なネゴシエータを設けて,イニシエータとレス
ポンダの間の交渉の仲立ちをして提案及び提示を行う,交渉システムがあった(非
特許文献1)。
【0003】
【非特許文献1】移動エージェントによる交渉システムの設計,情報処理学会ワー
クショップ論文集,日本,社団法人情報処理学会,1997年7月,Vol.97,No.
2,pp.557-562
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このシステムの発明の目的は,改良されたコンテンツ提供システムを提供するこ
とである。
(【0005】から【0010】には,本件訂正審決による訂正前の特許請求の範囲
の請求項1から請求項6〔甲2〕と同旨の内容が記載されている。)
【発明の効果】
【0011】
上記の課題を解決するための手段を採用した結果,ユーザと複数のコンテンツ提
供業者とからなる当事者に代わって仕事を実行するための第三者エージェントが,
ユーザにマッチするコンテンツであるか否かを判断してくれるために,第三者エー
ジェントによりユーザにマッチするコンテンツの提供が可能となる。そのプロフィ
ール情報に基づいた第三者エージェントによる判断が,コンテンツ提供業者とは異
なる別の機関に設置されたコンピュータ内で行なわれるため,プロフィール情報が
コンテンツ提供業者に漏洩する不都合も極力防止できる。
【0023】
図2は,マルチエージェントシステムの構成を示す説明図である。本実施の形態
においては,ゼネラルマジック(GeneralMagic)社が開発した通信用言語である
テレスクリプトによる自律ソフトウェアとしてのエージェントを採用している。ユ
ーザエージェント26は,モバイルエージェントで構成されている。モバイルエー
ジェントとは,分散コンピューティング環境における移動性を備えたエージェント
のことであり,ネットワークを介してエージェントがサーバーに転送・処理される
こと(リモート・プログラミング)が特徴となっている。モバイルエージェントが,
テレスクリプト・エンジンによって提供される共通動作環境であるプレースに移動
して,そのプレース上で他のエージェントと協調して相互に動作して仕事を行ない
問題を解決する。
【0024】
ユーザのパソコン14内で動作しているユーザエージェントが,自己の判断でま
たはユーザの操作指令に応じてコンテンツを検索する場合には,図2(a)で示す
ように,コンテンツ提供業者7のテレスクリプト・エンジン18のプレース24に
移動する。プレース24上に移動したユーザエージェント26は,プレース24に
常駐している移動先エージェント27と打合せ(meeting)して,データベース1
9内のコンテンツを検索して希望するコンテンツを見つけ出してパソコン14に
まで持ち帰る(送信する)。
【0026】
一方,第三者機関8のテレスクリプト・エンジン22のプレース25には,第三
者機関常駐エージェント28が常駐している。データベース23内には,複数種類
の第三者機関エージェントが機能別に分類されて格納されている。この第三者機関
8は,当事者(たとえばユーザとそのユーザの要求に応えてサービスを提供するサ
ービス業者)のみでは解決困難なまたは解決不可能な中立性を要する仕事が発生し
た場合に,そのような特定の仕事を当事者に代わって代理実行して解決するために
設立された機関であり,官庁等の公な機関あるいは半公共的な機関によって構成す
るのが望ましい。なお,図中22aは,第三者機関8が運用管理するコンピュータ
である。
【0027】
第三者機関8のデータベース23に格納されている各種第三者機関エージェン
トは,この第三者機関8によって運用管理されるものであり,前述した中立性を要
する特定の仕事を中立性を守りながら実行して解決するために開発された専用の
エージェントである。そして,ユーザエージェント26には,たとえば,オンライ
ンショッピングするためのショッピングエージェント,ニュースソースからニュー
ス記事を検索して必要なもののみを選び出すニュースフィルタリングエージェン
ト,必要な電子メールのみを選び出す電子メールエージェント,ユーザの嗜好に合
致した音楽情報や映画情報を検索するファイアフライ等の情報収集エージェント
など,種々の種類が存在する。そこでそのようなユーザエージェント26の仕事を
代理実行する第三者エージェントの方も,ユーザエージェント26の種類に合せて
機能別に複数種類用意しておく必要がある。
【0028】
コンテンツ提供業者7のプレース24に移動したユーザエージェント26が移
動先エージェント27と協調してデータベース19内のコンテンツを検索する際
に,データベース19内の有料コンテンツを検索したい場合には,第三者機関常駐
エージェント28と連絡をとり,データベース23から適した第三者機関エージェ
ントを探し出してもらい,その第三者機関エージェントにコンテンツ提供業者7の
プレース24にまで出向してもらう。
【0029】
その状態が図2の(b)に示されている。出向してきた第三者機関エージェント
29は,ユーザエージェント26とmeetingして,ユーザの好み等のプロフィール
情報をユーザエージェント26から聞き出す。そして,コンテンツの検索に必要な
知識を取得した状態で第三者機関エージェント29がデータベース19にアクセ
スして,ユーザエージェント26に代わってコンテンツの検索を行ないその検索結
果をユーザエージェント26に知らせる。
【0030】
第三者機関エージェント29がコンテンツを検索するためには,ユーザのプライ
バシーにかかわるような秘密情報(たとえばユーザの年収,学歴,貯蓄額等)をユ
ーザコンテンツ26(判決注:「ユーザエージェント26」の誤記と思われる。)か
ら教えてもらわなければならない場合は,コンテンツ提供業者7のプレース24上
でその秘密情報をユーザエージェント26が第三者機関エージェント29に通知
すれば,その秘密情報がコンテンツ提供業者7に漏れてしまうおそれがある。本実
施の形態では,ユーザエージェント26は,前述したような秘密情報SI(図14
参照)を暗号化して暗号化データとして保有しているために,ユーザエージェント
26はコンテンツ提供業者7のプレース24に移動しただけでは,その秘密情報S
Iがコンテンツ提供業者7に知られてしまうことはない。しかし,コンテンツ提供
業者7のプレース24上において,第三者機関エージェント29が解読できるよう
に暗号化秘密情報SIを復号化して平文の形で第三者機関エージェント29に教
えた場合には,その平文の秘密情報SIがコンテンツ提供業者7に知られる可能性
が生ずる。
【0031】
そこで,このような秘密情報SIを用いなければコンテンツが検索できない場合
には,図2(c)に示すように,ユーザエージェント26が第三者機関8のテレス
クリプト・エンジン22のプレース25にまで移動し,そこに常駐している第三者
機関常駐エージェント28とmeetingして,最適な第三者機関エージェントを検索
してもらい,その検索された第三者機関エージェント29とユーザエージェント2
6とがmeetingして,検索に必要となる秘密情報SIを通知する(図2(d)参照)。
【0032】
その後,ユーザエージェント26がコンテンツ提供業者7のプレース24に復帰
し,常駐エージェント27とmeetingして有料コンテンツを暗号化した形で第三者
機関8のプレース25に転送してもらう。そして転送されてきた有料コンテンツを
復号化して第三者機関エージェント29がユーザエージェント26に代わってそ
の有料コンテンツを検索して評価する。その評価結果をプレース24上のユーザエ
ージェント26に通知する。このようにすれば,ユーザエージェント26が知識と
して保有している秘密情報SIがコンテンツ提供業者7等に漏洩することが防止
できる。なお,第三者機関8のプレース25上では,エージェント同士がいくら
meetingしても情報が外部に漏洩することが防止できるように構成されている。
【0061】
次に,図5,図6に基づいて,エージェント移動処理のフローチャートを説明す
る。SA31により,ユーザエージェントを移動させる処理を行なう。(中略)こ
のユーザエージェントの移動は,実際には,ユーザのパソコン14内のユーザエー
ジェントと全く同じユーザエージェント(クローン)を複製してそれを移動先に転
送する処理である。
【0065】
・・・SA44により,その入手希望高額コンテンツの検索に秘密情報(SI)
が必要であるか否かの判断がなされる。必要でない場合にはSA45に進み,移動
先エージェント27に自己のエージェントの種類を知らせて最寄りの第三者機関
エージェントに出向依頼を行なう処理がなされる。移動先エージェント27は,こ
の依頼を受けて,最寄りの第三者機関8の第三者機関常駐エージェント28と交信
し,ユーザエージェント26の種類に応じた最適な種類の第三者機関エージェント
の出向(派遣)を依頼する。その依頼を受けて,第三者機関エージェントが移動先
であるたとえばコンテンツ提供業者7のプレース24に出向してくれば,SA46
により,YESの判断がなされてSA64へ進む。
【0066】
SA64では,出向してきた第三者機関エージェント29とmeeting(打合せ)
して入手希望高額コンテンツの検索の代理を行なってもらうよう依頼する(図2
(b)参照)。すると,後述するように,第三者機関エージェント29は,必要な
プロフィール情報96をユーザエージェント26から聞き出してそれに基づいて
データベース19にアクセスして入手希望高額コンテンツの検索を行ない,ユーザ
エージェント26の持主であるユーザが好むであろうと予想される高額コンテン
ツを検索してその評価を行なう。次にSA66により,ユーザエージェント26が
第三者機関エージェント29に対し検索結果の評価を知らせてもらう。
【0067】
次にSA67に進み,検索された有料コンテンツを購入するか否かの判断をユー
ザエージェント26が行なう。(以下略)
【0071】
次に,前述したSA44により,入手希望高額コンテンツの検索に秘密情報SI
が必要であると判断された場合にはSA47に進み,ユーザ認証が必要であるか否
かの判断がなされる。(以下略)
【0072】
・・・そしてSA49に進み,最寄りの第三者機関8へユーザエージェント26
が移動し,第三者機関常駐エージェント28とmeetingして最適な第三者機関エー
ジェントを検索してもらうとともに,秘密情報の復号鍵SK1をパソコン14から
取り寄せてもらう依頼を行なう。次にSA51に進み,検索された第三者機関エー
ジェントとmeetingし,必要な暗号化秘密情報ESK1(SI)をその第三者機関エ
ージェント29に通知する。(以下略)
【0074】
次にSA54では,たとえばコンテンツ提供業者7のプレース24等の移動先へ
復帰する処理がなされ,SA55に進み,移動先エージェント27とmeetingして,
暗号化された入手希望高額コンテンツEPK3(KC)を第三者機関8に転送しても
らう依頼を行なう。
【0075】
第三者機関エージェント29は,EPK3(KC)を復号化して再生された入手希
望高額コンテンツKCを検索して評価を行ない,その検索結果の評価を第三者機関
8の秘密鍵であるSK3により暗号化し,その暗号化データであるEPK3(HK)
を移動先のプレース24上のユーザエージェント26へ転送する。(以下略)
【0088】
図8は,第三者機関エージェント29の動作を示すフローチャートである。(以
下略)
【0089】
このSC1,SC2のループの巡回途中で,第三者機関常駐エージェント28か
ら出向指令を任命されれば(SB6参照),SC1によりYESの判断がなされて
SC3へ進み,たとえばコンテンツ提供業者7のプレース24等の移動先に移動す
る処理が行なわれる。この移動処理は,具体的には,第三者機関エージェント29
をデータベース23内に残したままその第三者機関エージェント29のクローン
を移動先のプレース24へ転送する処理である。次にSC4に進み,移動先のプレ
ース24上において,ユーザエージェント26とmeetingして,入手希望高額コン
テンツを通知してもらうとともに,必要なユーザのプロフィール情報96(図14
参照)を教えてもらう処理が行なわれる(SA64参照)。(以下略)
【0090】
次にSC5に進み,入手希望高額コンテンツの評価を行なう処理がなされる。こ
の評価は,教えてもらったユーザプロフィール情報96に基づいて,ユーザが好む
であろうと推測される度合いを数値化して行なう。次にSC6に進み,入手希望高
額コンテンツは違法なコンテンツであるか否かの判断がなされる。(以下略)
【0094】
・・・ユーザエージェント26は,移動先エージェント27に対し入手希望高額
コンテンツKCを暗号化したEPK3(KC)を転送してもらう依頼を行なう(SA
55参照)。これを受けた移動先エージェント27は,EPK3(KC)を第三者機関
8の第三者機関エージェント28へ送信する。その送信されてきたEPK3(KC)
を受信すればSC16へ進み,DPK3{EPK3(KC)}を演算してKCを再生する
処理が行なわれる。次にSC17へ進み,その入手希望高額コンテンツKCの評価
を行なう処理がなされる。
【0095】
次にSC18へ進み,入手希望コンテンツは違法なコンテンツであるか否かの判
断がなされる。この判断は,前述したSC6と同様に行なわれる。そして違法なコ
ンテンツである場合にはSC7へ進むが,違法なコンテンツでない場合にはSC1
9へ進み,入手希望高額コンテンツKCの評価HKに対し第三者機関8の秘密鍵S
K3で暗号化したデータすなわちESK3(HK)を演算し,SC20により,その
演算結果を移動先のプレース24上にいるユーザエージェント26に送信する処
理がなされた後SC10へ進む。
【0235】
以下,実施例の内容をまとめて列挙する。
コンテンツ提供業者7とユーザ,または,CM制作者10とユーザにより,当事
者が構成されている。前記SA44,SA47により,当事者の一方または双方が
行なうには不向きな中立性を要する特定の仕事が発生したことを判定する特定仕事
判定手段が構成されている。第三者機関エージェント29,第三者機関常駐エージ
ェント28により,前記当事者双方に対し中立性を有する第三者エージェントが構
成されている。この第三者エージェントは,第三者機関8によって運用管理するエ
ージェントに限定されるものではなく,たとえば前記当事者のエージェントが仕事
をするテレスクリプト・エンジン内のプレースと同じプレース上で仕事をしている
他のエージェントによりこの第三者エージェントを構成してもよい。
【0236】
前記SA45,SA64またはSA49~SA53またはSA60またはSA6
9,SA70により,前記特定仕事判定手段の判定結果に従って,前記当事者双方
に対し中立性を有する第三者エージェントに前記特定の仕事を依頼する仕事依頼手
段が構成されている。この仕事依頼手段により依頼された仕事を前記第三者エージ
ェントが代理して実行する(図7,図8に示したフローチャート)。前記第三者機関
8により,前記特定の仕事を処理するために設立された第三者機関が構成されてい
る。そして前記第三者エージェント(第三者機関エージェント29,第三者機関常
駐エージェント28)は,その第三者機関により運用管理され,前記特定の仕事を
行なうために開発されたエージェントである。
【0237】
前記ユーザエージェント26と移動先エージェント27とにより,前記当事者の
それぞれの側のために働く当事者エージェントが構成されている。前記特定仕事判
定手段は,前記当事者エージェント同士が協調して動作しているときに,当該当事
者エージェントでは自己の立場の方に有利となる利己的動作(たとえば有料コンテ
ンツの不法持ち帰りや有料コンテンツに対する虚偽の評価)を行なうおそれのある
場合に前記特定の仕事が発生した旨の判定を行なう。
【0238】
前記データベース19により,有料コンテンツを格納しているコンテンツ格納手
段が構成されている。コンテンツ提供業者7により,前記コンテンツ格納手段内の
格納コンテンツを提供するコンテンツ提供者が構成されている。ユーザ宅17に居
住しているユーザにより,前記コンテンツ提供者が提供するコンテンツ内に入手し
たいコンテンツがあるか否かの検索を希望するユーザが構成されている。そして,
前記特定仕事判定手段は,前記当事者エージェントのうちのユーザ側エージェント
(ユーザエージェント26)が前記コンテンツ格納手段に格納されている前記有料
コンテンツの検索を希望した場合(SA43によるYESの判断がなされた場合)
に前記特定の仕事が生じたことを判定する。
【0239】
さらに,前記第三者エージェントは,依頼された仕事の実行を通して前記当事者
の一方または双方に違法性があるか否かを監視する監視機能(SC6,SC18)
を有する。
【0240】
前記SA43,SA44,SA67,SA58により,当事者の一方または双方
が行なうには不向きな中立性を要する特定の仕事が発生したことを判定する特定仕
事判定ステップが構成されている。前記SA45,SB1,SB5,SB6,SA
49,SA50,SB7~SB9により,前記当事者の双方に対し中立性を有する
第三者エージェントを調達する第三者エージェント調達ステップが構成されている。
前記SA45,SA46,SA64,SA49~SA53,SA69,SA70,
SA60により,前記特定仕事判定ステップにより前記特定の仕事が生じた旨の判
定がなされた場合に,前記第三者エージェント調達ステップで調達された第三者エ
ージェントに前記特定の仕事の依頼を行なう仕事依頼ステップが構成されている。
そしてその仕事依頼ステップにより依頼された第三者エージェントが依頼された前
記特定の仕事を実行する(図7,図8に示したフローチャート)。
【0241】
前記テレスクリプト・エンジン22とデータベース23とにより,第三者エージ
ェントを提供するためのエージェント提供装置が構成されている。前記データベー
ス23により,複数種類の第三者エージェントを格納しているエージェント格納手
段が構成されている。テレスクリプト・エンジン22により,仕事を当事者エージ
ェントに代わって第三者エージェントにより代理実行してもらいたい旨の依頼があ
った場合に,代理の対象となる前記当事者エージェントに応じた種類の第三者エー
ジェントを前記エージェント格納手段が格納している前記第三者エージェントの中
から検索して提供するエージェント検索提供手段が構成されている。
【0242】
ユーザエージェント26によりユーザ側のために働くエージェントであって,ネ
ットワーク上を移動して動作するモバイルエージェントで構成されたユーザ側エー
ジェントが構成されている。コンテンツ提供業者7により,前記ユーザの要求に応
えるサービス業者が構成されている。移動先エージェント27により,前記サービ
ス業者側のために働く業者側エージェントが構成されている。第三者機関8のプレ
ース25を有するコンピュータ22aにより,前記ユーザ側エージェントのワーキ
ングエリアとして機能し,秘密の漏洩が防止できる秘密保持用ワーキングエリアが
構成されている。
【0243】
そして,前記ユーザ側エージェントは,秘密にしたい秘密データ(秘密情報SI)
を秘密性が保持できる態様(暗号化した態様)で前記知識として記憶しており,該
ユーザ側エージェントが移動して仕事を行なう際に,前記秘密データを使用する必
要が生じた場合に(SA44によりYESの判断がなされた場合に),前記ユーザ側
エージェントは,前記秘密保持用ワーキングエリアに移動し(SA49),該秘密保
持用ワーキングエリア内で前記秘密データの秘密性を解除(SA50,SA51)
して前記仕事の実行を可能にする。
【0248】
前述した当事者の一方または双方が行なうには不向きな中立性を要する特定の仕
事の他の例としては,当事者エージェント同士が対立するというトラブルが発生し
た場合の仲裁やどちらのエージェントが正しいかの判定,当事者エージェントの一
方または双方が本当に正しい当事者のエージェントであるかを立証するための第三
者による証明等が考えられる。つまり,この特定の仕事とは,当事者だけでは解決
が困難または不可能な中立性を要する仕事すべてを対象とする。
【0249】
次に,実施例の効果を列挙する。
当事者の一方または双方が行なうには不向きな中立性を要する特定の仕事を当事者
双方に対し中立性を有する第三者エージェントが代理して実行してくれるために,
中立性を保ちながら特定の仕事の実行が可能となる。
【0250】
前記第三者エージェントが,前記特定の仕事を処理するために設立された第三者
機関により運用管理され,前記特定の仕事を行なうために開発されたエージェント
であるために,当事者にとってより一層中立性のあるエージェントによりより一層
中立性のある代理実行が期待できる。
【0251】
当事者エージェントでは自己の立場の方に有利となる利己的動作を行なうおそれ
のある場合に前記特定の仕事が発生した旨の判定が行なわれ,第三者エージェント
による代理実行が行なわれるために,当事者エージェントによる利己的な動作によ
る不都合を極力防止することができる。
【0252】
ユーザ側エージェントがコンテンツ格納手段に格納されている有料コンテンツの
検索を希望した場合に,特定の仕事が生じたと判定されて第三者エージェントがそ
の特定の仕事を代理実行してくれるために,ユーザ側エージェントが有料コンテン
ツを検索してその有料コンテンツに対する料金を支払うことなく有料コンテンツを
盗んでしまう不都合が極力防止できる。
【0253】
第三者エージェントが,依頼された仕事の実行を通して前記当事者の一方または
双方に違法性があるか否かを監視する監視機能を有するために,当事者の一方また
は双方に違法性があった場合にはそれが監視可能となる。
【0255】
当事者の一方または双方が行なうには不向きな中立性を要する特定の仕事が生じ
た場合に,当事者の双方に対し中立性を有する第三者エージェントにその特定の仕
事を代理実行してもらうことのできるプログラムが記録された記録媒体を提供する
ことができる。
【0256】
当事者の一方または双方が行なうには不向きな中立性を要する特定の仕事が生じ
た場合に,当事者の双方に対し中立性を有する第三者エージェントが調達されてそ
の第三者エージェントに前記特定の仕事を代理実行してもらうことができる。
【0257】
モバイルエージェントで構成されているユーザ側エージェントがネットワーク上
を移動して仕事を行なうに際し,ユーザ側エージェントが秘密データを使用する必
要が生じた場合には,ユーザ側エージェントが秘密保持用ワーキングエリアに移動
してそこで秘密データの秘密性を解除して前記仕事の実行が可能となり,秘密デー
タの漏洩を防止できながらその秘密データを使用しての仕事の実行が可能となる。
⑵検討
ア(ア)「エージェント」の意義
原出願前に頒布された刊行物である甲92号証(石田亨「エージェントを考える」
人工知能学会誌1995年9月,Vol.10,No.5,pp.663-667。なお,一部,甲19号
証において引用されている。)及び本件先行技術文献(乙1)並びに原出願直後に頒
布された刊行物である甲19号証においては,「エージェント」につき,「意思決定
原理・機構に基づき,外部から得られた情報に対して,自己の信念や興味(願望,
意図)に応じて行動するモジュール」(甲92),「利用者の意図を受け継いで,他の
エージェントやサーバとのやりとりを利用者に代わって行なってくれる,自律した
ソフトウェアモジュール」(乙1),「応用面からの視点では,『利用者から委託され
た仕事を代行処理するソフトウェア』,実現手段からの視点では,『利用者の指示か
ら独立して実行する能力をもったソフトウェア」(甲19)などと定義されており,
また,甲19号証においては,「エージェントの自律性を実現する上で重要な役割を
果たす」ものの1つとして,「エージェントのプランニング」を挙げ,その意義は,
「エージェントが環境を観測し,その状況認識のもとで目標を達成するために,と
るべき自分の行動を決定すること」と説明している。
以上によれば,情報通信の分野において,「エージェント」とは,一般に,「利用
者からの委託を受け,当該利用者の意図する結果を実現するために,自らの認識と
判断に基づき,当該利用者に代わって他のエージェントやサーバとのやり取りをす
るソフトウェアモジュール」を意味するものと解される。
そして,前記⑴の訂正後明細書の記載中,「当事者に代わって仕事を実行するため
の第三者エージェントが,ユーザにマッチするコンテンツであるか否かを判断して
くれる」(【0011】),「検索された有料コンテンツを購入するか否かの判断をユー
ザエージェント26が行う。」(【0067】)などの記載によれば,訂正後明細書に
おいても,「エージェント」は,上記の意味を有する用語として用いられているもの
ということができる。
(イ)「マルチエージェントシステム」の意義
甲19号証においては,「マルチエージェントシステムは単独のエージェントでは
なく,複数の独立したソフトウェアが相互に交信しながら,全体として何らかの処
理を実現するソフトウェア群」,「これらのエージェントは相互に協調して処理を実
現する場合もある(マルチエージェントシステムによる実現)」との記載が,甲92
号証においては「Multi-agent:個々の機能ではなく,協調や交渉などの相互作用を
研究対象とする。エージェントは相互作用を生じさせる基本単位」との記載がそれ
ぞれあり,これらの記載及び前記(ア)の「エージェント」の意義に鑑みると,「マル
チエージェントシステム」とは,「複数の独立したエージェントが,協調や交渉等の
相互作用を通じて処理を実現するシステム」を意味するものと解される。
そして,前記⑴の訂正後明細書の記載中,「図2は,マルチエージェントシステム
の構成を示す説明図である。(中略)モバイルエージェントが,(中略)そのプレー
ス上で他のエージェントと協調して相互に動作して仕事を行ない問題を解決する。」
(【0023】)との記載及び甲2号証の図2によれば,訂正後明細書においても,
「マルチエージェントシステム」は,上記の意味を有する用語として用いられてい
るものといえる。
イ本件特許発明と先行技術との関係
(ア)本件先行技術文献(乙1)には,概要,以下の内容が記載されてい
る(下記記載中に引用する図面について別紙2を参照。)。
a自律エージェントによってシステムを構築するためには,エージェ
ントが他のエージェントやサーバと協調作業ができる必要がある。
「協調」には,「協調問題解決」と「交渉と均衡」が含まれる。「協調問題解決」
は,「複数のエージェントが協力して組織を構成し,共通の目標を達成する」ことを
意味する。「交渉」は,「複数のエージェント間で合意を形成するためのプロセス」
であり,「交渉と均衡」は,「独立の目標を持つ複数のエージェントが交渉を通じて
競合を解決し,好ましい均衡を維持しながら各自の目標を達成する」ことである。
「移動エージェント」とは,「エージェントがネットワーク上を移動し,移動先の
計算機で情報の検索を行なったり,ユーザの意図にそって情報処理を行なうシステ
ム」である。移動エージェントには,「ユーザの意図を与えるだけで,自分で最適な
サーバを選択し,処理を行なう」などのメリットがある。
他方,移動エージェントには,エージェント自体が大きいと,移動させる通信コ
ストが大きくなる,移動先の動作環境において必ずしも十分な計算能力が期待でき
ないので,移動エージェントによる交渉では,従来の固定エージェントによる複雑
な手続や大規模な知識ベースの利用が困難であるという問題もある。
bこれらの問題を解決するために,交渉フレームワークを提案する(図
2参照。)。
交渉の当事者の他に,ネゴシエータを置き,ネゴシエータが移動して交渉する。
交渉の当事者は,交渉者を送り出すイニシエータと交渉者を呼び込むレスポンダに
分離する。
従来のエージェントは,妥協案の提案,提案の評価,再提案の作成,停止の判定
の機能がすべて組み込まれていたのに対して,このフレームワークでは妥協案の提
案,再提案の作成がイニシエータの設定によってネゴシエータに組み込まれ,提案
の評価,停止の判定がレスポンダによって行われる構成となっている。したがって,
移動エージェントの機能がシンプルとなり,移動しやすいものとなる。
c具体的な交渉手順は,以下のとおりである(図3参照)。
すなわち,ネゴシエータが,イニシエータにおいて設定した交渉条件に沿って代
表的な提案を行い,レスポンダがこれを判定する。ネゴシエータは,上記提案に対
するイニシエータ及びレスポンダの評価を合成し,両者が最も満足する値を交渉の
初期値に決め,交渉の出発点とする。
レスポンダは,ネゴシエータの提案を判定し,満足すれば,交渉は終了する。
レスポンダが満足しなければ,レスポンダの判定結果がネゴシエータに戻る。ネ
ゴシエータは,交渉の余地がある場合には,上記判定結果の値を基に再提案を計算
してレスポンダに提示し,交渉の余地がない場合には,同じ提案を繰り返す。レス
ポンダは,提案を見て,交渉の継続又は停止を決定できる。
dこの方式の特徴は,複雑な知識ベースなどを採用せず,イニシエー
タ,レスポンダ,ネゴシエータによる交渉機能の分割を行い,移動エージェントの
機能をシンプルにしている点である。
(イ)a前記(ア)によれば,本件先行技術文献に記載されている「移動エー
ジェントによる交渉システム」(以下「本件先行技術」という。)は,自律エージェ
ントによってシステムを構築するためには,エージェントが他のエージェントやサ
ーバと協調作業ができる必要があることから,「協調」の1つである「交渉」,すな
わち,「複数のエージェント間で合意を形成するためのプロセス」に関し,交渉の当
事者間を移動し,イニシエータが設定した交渉条件及びレスポンダによる提案の判
定結果に沿って提案,再提案を作成するネゴシエータという移動エージェントを採
用したものである。
そして,前記⑴のとおり,訂正後明細書には,①【背景技術】として「中立的な
ネゴシエータを設けて,イニシエータとレスポンダの間の交渉の仲立ちをして提案
及び提示を行う,交渉システムがあった」と記載されており,本件先行技術文献が
掲げられていること(【0002】,【0003】),②次いで,【発明が解決しようと
する課題】として「このシステムの発明の目的は,改良されたコンテンツ提供シス
テムを提供することである。」と記載されていること(【0004】)に鑑みると,訂
正後明細書には,本件先行技術を踏まえてこれを改良した発明が記載されているも
のと解される。
b訂正後明細書には,本件先行技術の改良すべき点,すなわち,本件
先行技術の課題の具体的内容は明記されていない。
この点に関しては,訂正後明細書中,【発明の効果】として,「そのプロフィール
情報(判決注:ユーザのプロフィール情報)に基づいた第三者エージェントによる
判断が,コンテンツ提供業者とは異なる別の機関に設置されたコンピュータ内で行
なわれるため,プロフィール情報がコンテンツ提供業者に漏洩する不都合も極力防
止できる。」(【0011】)との記載があり,また,【0030】において,ユーザの
プライバシーに関わる秘密情報がコンテンツ提供業者に漏えいする可能性が指摘さ
れ,【0031】及び【0032】において,上記漏えいを防止する方策として構成
要件Dに対応する内容が記載されている。
以上に鑑みると,訂正後明細書の記載によれば,本件先行技術については,ユー
ザに相当するイニシエータの個人情報が漏えいするおそれがあり,本件特許発明は,
上記漏えいの防止を目的の1つとするものと解される。
ウ訂正後明細書に開示されている本件特許発明1の構成
(ア)構成要件A-1の「自律的なソフトウェアモジュールとしてのエー
ジェント」は,コンピュータに送信されてきたコンテンツが「ユーザにマッチする
コンテンツであるか否かを判断し,マッチするコンテンツを該ユーザに提供する」
エージェントであり(構成要件A-2,3,C3-1,2),「ユーザと前記コンテ
ンツ提供業者とを仲介して両者に代わって仕事を実行するための中立性を有する第
三者エージェントで構成され」る(構成要件D-1)ものである。
そして,前記⑴のとおり,訂正後明細書中,①「第三者機関エージェント」(「第
三者エージェント」とも表記されている。)は,「当事者(たとえばユーザとそのユ
ーザの要求に応えてサービスを提供するサービス業者)のみでは解決困難なまたは
解決不可能な中立性を要する仕事が発生した場合に,そのような特定の仕事を」「中
立性を守りながら実行して解決するために開発された専用のエージェント」であり,
「ユーザエージェント26の仕事を代理実行する」ものである旨説明されているこ
と(【0026】,【0027】),②「そして転送されてきた有料コンテンツを暗号化
して第三者機関エージェント29がユーザエージェント26に代わってその有料コ
ンテンツを検索して評価する。その評価結果をプレース24上のユーザエージェン
ト26に通知する。」(【0032】)という記載があり,同記載の趣旨は,「第三者機
関エージェント29」は,コンピュータに送信されてきたコンテンツが「ユーザに
マッチするコンテンツであるか否かを判断し,マッチするコンテンツを該ユーザに
提供する」というものと解されることに鑑みると,訂正後明細書中の「第三者機関
エージェント」は,構成要件A-1の「自律的なソフトウェアモジュールとしての
エージェント」を構成する「第三者エージェント」(構成要件D-1)に相当するも
のと認められる。
(イ)前記⑴によれば,訂正後明細書には,本件特許発明1の構成等に関
し,概要,以下のとおり記載されている。
a本件特許発明1の前提となる構成
(a)ユーザのパソコン14内で動作しているユーザエージェントが,
自己の判断により,又は,ユーザの操作指令に応じてコンテンツを検索する場合,
コンテンツ提供業者7のテレスクリプト・エンジン18(判決注:テレスクリプト
とは,移動エージェントの環境の1つであり,エージェントをユーザが送信すると
いう方式である〔乙1〕。)のプレース24に移動する(【0024】,【0061】,
図2(a),図5)。
(b)ユーザエージェント26が,データベース19内の有料コンテン
ツの検索を希望する場合,第三者機関8のテレスクリプト・エンジン22のプレー
ス25に常駐している第三者機関常駐エージェント28に連絡をとり,データベー
ス23に機能別に分類されて格納されている複数種類の第三者機関エージェントか
ら最適のものを探し出してもらい,探し出された第三者機関エージェントに,コン
テンツ提供業者7のプレース24まで出向してもらう。
出向してきた第三者機関エージェント29は,ユーザエージェント26と打合せ
(meeting)し,ユーザの希望する有料コンテンツの検索の代理を行う旨の依頼を
受けるとともに,ユーザの好み等のプロフィール情報を聞き出してコンテンツの検
索に必要な知識を取得した上で,データベース19にアクセスし,ユーザエージェ
ント26に代わって有料コンテンツの検索を行い,その検索結果をユーザエージェ
ント26に知らせる。このように第三者機関エージェント29が有料コンテンツの
検索を行うことによって,ユーザエージェント26が料金を支払うことなく有料コ
ンテンツを盗んでしまうという不都合を極力防止できる(【0026】から【00
29】,【0065】,【0066】,【0088】,【0089】,【0252】,図2(b),
図5,図6,図8)。
b本件特許発明1の構成
第三者機関エージェント29がコンテンツの検索に当たって,ユーザのプライバ
シーに関わる秘密情報SI(ユーザの年収,学歴,貯蓄額等)を要する場合は,秘
密情報SIがコンテンツ提供業者7に漏えいする事態を防ぐために,前記aのとお
り,コンテンツ提供業者7のテレスクリプト・エンジン18のプレース24に移動
したユーザエージェント26が,第三者機関8のテレスクリプト・エンジン22の
プレース25にまで移動する。
そして,ユーザエージェント26は,第三者機関常駐エージェント28とmeeting
して最適な第三者機関エージェントを探し出してもらい,その探し出された第三者
機関エージェント29とmeetingして,コンテンツ検索に要する秘密情報SIを通
知する。
その後,ユーザエージェント26は,コンテンツ提供業者7のプレース24に復
帰し,プレース24に常駐している移動先エージェント27とmeetingして,有料
コンテンツを暗号化した形で第三者機関8のプレース25に転送してもらう。
第三者機関エージェント29は,転送されてきた有料コンテンツを復号化した上
で,ユーザエージェント26に代わってその有料コンテンツを検索して,検索した
ものにつき,ユーザエージェント26から聞き出したユーザプロフィール情報に基
づいてユーザが好むであろうと推測される度合いを数値化して評価し,次いで,違
法なコンテンツであるか否かを判断した上で,違法なコンテンツではないものの評
価結果をプレース24上のユーザエージェント26に通知する(【0030】から
【0032】,【0071】,【0072】,【0074】,【0075】,【0090】,【0
094】,【0095】。図2(c),(d),図5,図6,図8)。
エ(ア)前記ウによれば,訂正後明細書において,構成要件A-1の「自律
的なソフトウェアモジュールとしてのエージェント」を構成する「第三者エージェ
ント」(構成要件D-1)に対応する「第三者機関エージェント」は,「ユーザエー
ジェント」と打合せ(meeting)を行い,ユーザが希望する有料コンテンツの検索
の代理を行う旨の依頼を受けるとともに,ユーザの好み等のプロフィール情報を聞
き出してコンテンツの検索に必要な知識を取得した上で,「ユーザエージェント」
に代わってコンテンツを検索し,検索したものにつき,「ユーザエージェント」か
ら聞き出したユーザプロフィール情報に基づいてユーザが好むであろうと推測さ
れる度合いを数値化して評価し,次いで,違法なコンテンツであるか否かを判断し
た上で,違法なコンテンツではないものの評価結果を「ユーザエージェント」に通
知する旨記載されている。
(イ)この点に関し,「第三者機関エージェント」は,前記ウ(ア)のとおり,
「ユーザエージェント」の仕事を代理実行するものではあるが,「当事者のみでは
解決困難なまたは解決不可能な中立性を要する仕事が発生した場合に,そのような
特定の仕事を」「中立性を守りながら実行して解決するために開発された専用のエ
ージェント」であり,当事者双方に対して中立性を有し(【0235】,【0236】,
【240】等),「官庁等の公な機関あるいは半公共的な機関によって構成するのが
望ましい」(【0026】)とされ,また,「依頼された仕事の実行を通して前記当事
者の一方または双方に違法性があるか否かを監視する監視機能」【0239】も有
する。
他方,「ユーザエージェント」は,「ユーザ側のために働くエージェント」(【02
42】)であるから,「第三者機関エージェント」と「ユーザエージェント」とは,
それぞれ独立したエージェントということができる。
そして,前記(ア)のとおり,訂正後明細書においては,概要,「第三者機関エー
ジェント」と「ユーザエージェント」は,「打合せ(meeting)」を行い,「ユーザエ
ージェント」は,「第三者機関エージェント」に対して,ユーザが希望するコンテ
ンツの検索の代理を依頼するとともに,ユーザの好み等のプロフィール情報を伝え
て上記検索に必要な知識を提供する,他方,「第三者機関エージェント」は,「ユー
ザエージェント」に代わってコンテンツを検索し,検索したものにつき,ユーザが
好むであろうと推測される度合いを数値化して評価し,次いで,違法なコンテンツ
であるか否かを判断した上で,違法なコンテンツではないものの評価結果を「ユー
ザエージェント」に通知することが記載されている。訂正後明細書に記載された,
「第三者機関エージェント」と「ユーザエージェント」との間におけるこれらのや
り取りは,両者が,協調という相互作用を通じて,ユーザに対してその希望に即し
たコンテンツを提供するという処理を実現するものというべきである。
以上によれば,訂正後明細書においては,それぞれ独立したエージェントである
「第三者機関エージェント」と「ユーザエージェント」が,協調という相互作用を
通じて,ユーザに対してその希望に即したコンテンツを提供するという処理を実現
するシステムの構成による本件特許発明の構成が開示されているものといえ,同シ
ステムは,前記ア(イ)のとおり「複数の独立したエージェントが,協調や交渉等の
相互作用を通じて処理を実現するシステム」を意味する「マルチエージェントシス
テム」に他ならない。
したがって,「第三者機関エージェント」は,「マルチエージェントシステム」の
一部であり,これに相当する「第三者エージェント」(構成要件D-1)によって
構成される構成要件A-1の「自律的なソフトウェアモジュールとしてのエージェ
ント」も,「マルチエージェントシステム」の一部である。
⑶控訴人の主張に対して
控訴人は,以下のとおり,構成要件A-1の「自律的なソフトウェアモジュール
としてのエージェント」を「マルチエージェントシステム」の一部に限定して解釈
することは,誤りである旨主張するが,同主張は,採用できない。
ア控訴人は,「エージェント」は学術用語であるから,構成要件A-1の「自
律的なソフトウェアモジュールとしてのエージェント」の意義も,上記学術用語の
通常の意味に従って解釈すべきであり,訂正後明細書の記載を参酌し,上記学術用
語の通常の意味を超えて「マルチエージェントシステム」の一部に限定して解釈す
ることは,誤りである旨主張する。
しかしながら,特許法によれば,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許
請求の範囲の記載に基づいて定めなければならず(特許法70条1項),その場合に
おいては,「願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記
載された用語の意義を解釈するもの」(同条2項)とされていることから,一般的な
学術用語の意味を優先する控訴人の前記主張は,採用できない。
イ(ア)控訴人は,前記アのとおり限定解釈をするためには,訂正後明細
書において「マルチエージェントシステム」以外の構成による本件特許発明の構成
が開示されていないことを根拠とする必要があるところ,以下の①から③の点によ
れば,訂正後明細書には,「マルチエージェントシステム」以外の構成による本件特
許発明の構成も開示されている旨主張する。
すなわち,①訂正後明細書中,構成要件A-1の「自律的なソフトウェアモジュ
ールとしてのエージェント」に対応する「第三者エージェント(『第三者機関エージ
ェント』と表現している場合もある。)」につき,「前記当事者のエージェントが仕事
をするテレスクリプト・エンジン内のプレースと同じプレース上で仕事をしている
他のエージェントによりこの第三者エージェントを構成してもよい。」(【0235】)
とされている。「仕事をしている他のエージェント」は,「第三者機関エージェント
29以外のエージェント」,すなわち,「ユーザエージェント26と移動先エージェ
ント27」を意味し,訂正後明細書の【0027】には,「ユーザエージェント26
には,(中略)ファイアフライ等の情報収集エージェントなど,種々の種類が存在す
る。」と記載されており,また,「第三者エージェント」の方も,「ユーザエージェン
ト」の種類に合わせて機能別に複数種類用意しておくことを要する旨が開示されて
いるところ,甲45号証によれば,「ファイアフライ」は,「マルチエージェント」
ではなく,単独で動作する知的エージェントである。なお,原出願の乙7特許の明
細書にも,訂正後明細書の前記記載と同旨の内容が記載されている。
②原出願においても,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明につき,「マルチエー
ジェントシステム」から,これに限定されない一般的な「エージェント」という上
位概念のものに補正されている(乙2【0011】,乙7【0011】,乙12,乙
13など。)。
③「第三者エージェント」は,コンテンツ提供者及びユーザに対して中立性を有
するエージェントであり,コンテンツ提供者のエージェント及びユーザのエージェ
ントに対して中立性を有するものではなく,したがって,コンテンツ提供者のエー
ジェント及びユーザのエージェントとは無関係に,単独のエージェントとして成立
するものといえる。
(イ)しかしながら,訂正後明細書中,本件特許発明の構成につき,「マル
チエージェントシステム」,すなわち,「複数の独立したエージェントが,協調や交
渉等の相互作用を通じて処理を実現するシステム」を採用するもの以外は,記載さ
れていない。
また,前記⑵イのとおり,本件先行技術は,エージェント間等の「協調」の1つ
である「交渉」に関し,イニシエータが設定した交渉条件及びレスポンダによる提
案の判定結果に沿って提案,再提案を作成するネゴシエータという移動エージェン
トを採用したものであるところ,訂正後明細書の記載によれば,本件特許発明は,
本件先行技術を踏まえて,その問題点であったイニシエータの個人情報漏えいの防
止を目的の1つとするものと解される。この点に鑑みると,本件特許発明は,エー
ジェント間等の「協調」を前提とするものと考えられるから,訂正後明細書におい
て,エージェント間等の「協調」などの相互作用を含まない構成,すなわち,「マル
チエージェントシステム」以外の構成による本件特許発明の構成が示唆されている
と解することはできない。
(ウ)a控訴人主張の①の点については,「第三者エージェントを構成して
もよい」とされる「仕事をしている他のエージェント」を「ユーザエージェント2
6と移動先エージェント27」を意味するものとした点において,これは,前記⑴
及び⑵によれば,「第三者エージェント」の意義に明らかに反し,失当であるといわ
ざるを得ない。
もっとも,控訴人は,訂正後明細書中,構成要件A-1の「自律的なソフトウェ
アモジュールとしてのエージェント」を構成する「第三者エージェント」(構成要件
D-1)につき,「マルチエージェント」ではなく,単独で動作する知的エージェン
トである「ファイアフライ」を使用することもある旨が開示されており,これをも
って,訂正後明細書には,「マルチエージェントシステム」以外の構成による本件特
許発明の構成も開示されていることを主張しているものと解される。
b(a)甲45号証及び甲67号証には,「ファイアフライ」につき,概
要,以下のとおり記載されている。
すなわち,「ファイアフライ」とは,インターネットに関するソフトウェア・エー
ジェントの1つであり,音楽,映画,ウェブページを対象としてユーザの好みに合
いそうなものを抽出するというサービスを提供する。すなわち,ユーザが,たとえ
ば,好みのアーティストをテキスト入力し,同時にランダムにリストアップされた
サンプルを7段階で評価するなどして,自分の好みを提示する,「ファイアフライ」
は,これに基づいて,サービス利用の登録者から,ユーザと同様の好みを有する登
録者,すなわち,ユーザと同様の評価をした登録者を探し出し,当該登録者が好み
だと判定したもの,すなわち,高く評価したものをユーザに提示する。
(b)また,甲45号証には,「ファイアフライ」を用いた「Bignote」
という音楽に関する情報交換のサイトにつき,「個々のユーザーにエージェントがつ
き,エージェント同士が情報交換しておいてくれるという説明がなされることがあ
る。これはメタファに過ぎない。すべてがBignoteのウェブサイトで処理されてお
り,エージェント・プログラム同士が交信しているのではない。」と記載されている。
c(a)前記(b)によれば,甲45号証に記載されている「ファイアフライ」
については,他のエージェントとの間における協調や交渉等の相互作用を通じて処
理を実現するものではなく,単独で動作するものとみることができる。そして,控
訴人が主張するとおり,訂正後明細書の【0027】には,「ユーザエージェント2
6には,(中略)ファイアフライ等の情報収集エージェントなど,種々の種類が存在
する。」と記載されており,また,「第三者エージェント」の方も,「ユーザエージェ
ント」の種類に合わせて機能別に複数種類用意しておくことを要する旨が開示され
ている。
(b)しかしながら,訂正後明細書中,「ファイアフライ」に言及され
ているのは上記【0027】のみであり,また,前記(イ)のとおり,訂正後明細書
には,「マルチエージェントシステム」以外の構成による本件特許発明の構成につい
ては,何ら記載されていない。
これらの点に加えて,前記(イ)のとおり,本件先行技術は,エージェント間等の
「協調」の1つである「交渉」に関し,ネゴシエータという移動エージェントを採
用したことにも鑑みると,前記(a)の点をもって,訂正後明細書において「マルチエ
ージェントシステム」以外の構成による本件特許発明の構成が開示されているとい
うことはできず,控訴人の前記主張は,採用できない。
(エ)控訴人主張の②の点については,原出願の乙7特許の特許公報(乙
7)記載の特許請求の範囲の請求項1には,「ユーザの仕事を代行する自律的なソフ
トウェアモジュールとしてのエージェントを利用して売買を行なう際の不正防止シ
ステムであって,(中略)検索依頼手段と,(中略)プロフィール情報通知手段とを
含み,(中略)該通知機能は,前記コンテンツの中身の評価結果を通知することを特
徴とする,不正防止システム。」と,請求項2には,「前記検索依頼手段は,前記当
事者のそれぞれの側のために働く当事者エージェント同士が協調して動作している
ときに,前記コンテンツの要約に基づいて検索を行なう場合には前記ユーザ側のエ
ージェント自身が当該検索を実行し,前記コンテンツの中身に基づいて検索を行な
う場合には前記第三者エージェントに対し前記検索依頼を行なうことを特徴とする,
請求項1に記載の不正防止システム。」と,それぞれ記載されている。
これらの記載に鑑みれば,前記請求項1の「不正防止システム」は,「当事者エー
ジェント同士が協調して動作」するシステム,すなわち,「マルチエージェントシス
テム」の構成によるものであることは,明らかといえる。
また,前記特許公報記載の発明の詳細な説明においても,【0012】【課題を解
決するための手段】【0014】に,同旨が記載されている。
以上に加え,原出願に係る公開特許公報(特開平11-296490号。乙2),
平成19年7月12日付け拒絶理由通知(甲21),同年9月14日提出の手続補正
書(乙12)及び意見書(乙13)並びに特許公報(乙7)等から認められる出願
経過に鑑みても,原出願において,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明につき,
「マルチエージェントシステム」から,これに限定されない一般的な「エージェン
ト」という上位概念のものに拡張する趣旨の補正がされたものとは認められない。
したがって,控訴人の前記主張は,採用できない。
(オ)控訴人主張の③の点については,前記⑵ア(ア)の「エージェント」の
意義によれば,コンテンツ提供者のエージェント及びユーザのエージェントは,そ
れぞれ,各エージェントの利用者であるコンテンツ提供者及びユーザからの委託を
受け,コンテンツ提供者及びユーザの意図する結果を実現するために,自らの認識
と判断に基づき,当該利用者に代わって他のエージェントやサーバとのやり取りを
するソフトウェアモジュールを意味するものである。
したがって,「第三者エージェント」が,コンテンツ提供者及びユーザに対して中
立性を有するのであれば,コンテンツ提供者及びユーザから委託を受け,それらの
意図を反映するコンテンツ提供者のエージェント及びユーザのエージェントに対し
ても中立性を有することは明らかといえ,控訴人の前記主張は,前提を欠き,採用
できない。
ウ控訴人は,仮に,訂正後明細書において,「マルチエージェントシステム
を利用することで課題を解決するとの構成」以外の内容が開示されていないとして
も,「マルチエージェントシステム」自体,単独のエージェントシステム同士を連携
させたものであるから,当業者は,「マルチエージェントシステム」に係る開示に接
すれば,単独エージェントシステムによる構成も,当然に実施し得るものといえ,
また,本件特許発明の課題は,単独エージェントシステムによっても,解決可能な
ものであるとして,構成要件A-1の「自律的なソフトウェアモジュールとしての
エージェント」を,「マルチエージェントシステム」の一部に限定して解釈するのは,
誤りである旨主張する。
しかしながら,たとえ,当業者において,単独エージェントシステムによる構成
を実施することができ,本件特許発明の課題は,単独エージェントシステムによっ
ても解決し得るものであったとしても,特許請求の範囲に記載された用語の意義は,
願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して解釈するものとされており(特許
法70条2項),前記イ(イ)のとおり,訂正後明細書においては,「マルチエージェ
ントシステム」以外の構成による本件特許発明の構成は,記載も示唆もされていな
い以上,構成要件A-1の「自律的なソフトウェアモジュールとしてのエージェン
ト」が,「マルチエージェントシステム」以外の構成に係るものも含むと解すること
はできない。
したがって,控訴人の前記主張は,採用できない。
2本件特許発明2の構成要件Fの「ユーザエージェント」の意義について
⑴「モバイルエージェント」の意義
甲69号証によれば,「モバイルエージェント」とは,「分散コンピューティング
環境における移動性を備えたエージェントのことであり,ネットワークを介してエ
ージェントがサーバに転送・処理されること(リモート・プログラミング)」を特徴
とするものであるところ,訂正後明細書の【0023】中にも,同旨の記載が存在
することから,訂正後明細書においても,「モバイルエージェント」は,上記の意味
を有する用語として用いられていることが明らかである。
⑵訂正後明細書の記載
前記1⑴によれば,訂正後明細書において,本件特許発明につき,「ユーザエー
ジェント」は,ユーザのパソコン14内からコンテンツ提供業者7のテレスクリプ
ト・エンジン18のプレース24に移動する,同プレース24から第三者機関8の
テレスクリプト・エンジン22のプレース25に移動する,同プレース25から前
記プレース24に復帰すると記載されている。また,「ユーザエージェント26は,
モバイルエージェントが構成されている。」(【0023】),「ユーザエージェント2
6によりユーザ側のために働くエージェントであって,ネットワーク上を移動して
動作するモバイルエージェントで構成されたユーザ側エージェントで構成されて
いる。」(【0242】),「モバイルエージェントで構成されているユーザ側エージェ
ント」(【0257】)という記載がある。
⑶構成要件Fの「ユーザエージェント」の意義
前記⑵によれば,構成要件Fの「ユーザエージェント」は,前記⑴のとおり「分
散コンピューティング環境における移動性を備えたエージェントのことであり,ネ
ットワークを介してエージェントがサーバに転送・処理されること(リモート・プ
ログラミング)」を特徴とする「モバイルエージェント」であることは,明らかとい
うべきである。
また,前記1⑵エ(イ)のとおり,訂正後明細書においては,それぞれ独立したエ
ージェントである「第三者機関エージェント」と「ユーザエージェント」が,協調
という相互作用を通じて,ユーザに対してその希望に即したコンテンツを提供する
という処理を実現するという「マルチエージェントシステム」の構成による本件特
許発明の構成が開示されているものといえ,上記「第三者機関エージェント」は,
構成要件D-1の「第三者エージェント」に,上記「ユーザエージェント」は,構
成要件Fの「ユーザエージェント」に,それぞれ該当する。
したがって,構成要件Fの「ユーザエージェント」も,構成要件D-1の「第三
者エージェント」と同じく,「マルチエージェントシステム」の一部である。
⑷控訴人の主張に対して
控訴人は,以下のとおり,構成要件Fの「ユーザエージェント」を「モバイルエ
ージェント」に限定して解釈することは,誤りである旨主張するが,同主張は,採
用できない。
ア控訴人は,「エージェント」は学術用語であるから,構成要件Fの「ユ
ーザエージェント」も,上記学術用語の通常の意味に従って解釈すべきであり,訂
正後明細書の記載を参酌して,上記学術用語の通常の意味を超えて「モバイルエー
ジェント」に限定して解釈することは,誤りである旨主張する。
しかしながら,前記1⑶アのとおり,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した
特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならず,同記載中の用語の意義は,
願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して解釈するものであるから(特許法
70条1項,2項),一般的な学術用語の意味を優先する控訴人の前記主張は,採
用できない。
イ(ア)控訴人は,以下の①及び②の点によれば,訂正後明細書及び原出願
の乙7特許の明細書には,「ユーザエージェント」が「モバイルエージェント」で
あることを前提としない本件特許発明の構成も開示されている旨主張する。
すなわち,①訂正後明細書の【0027】には,「ユーザエージェント26には,
(中略)ファイアフライ等の情報収集エージェントなど,種々の種類が存在する。」
と記載されており,乙7特許の明細書の【0039】にも同様の記載があるところ,
甲45号証によれば,「ファイアフライ」は,「モバイルエージェント」ではなく,
サーバ/クライアント通信を用いている。
②本件特許発明についての訂正審判請求(訂正2013-390148号)に係
る平成25年10月3日付け請求書(甲47)中の【0014】,【0015】,【0
048】及び【0050】の記載並びに甲2号証の図1及び図4によれば,ユーザ
エージェントは,ユーザ宅17のパソコン14内を検索するものであり,ユーザ宅
17のパソコン14から外部コンピュータに移動する必要はなく,したがって,構
成要件Fの「ユーザエージェント」は,「モバイルエージェント」であることを要
しない。
(イ)aしかしながら,訂正後明細書に記載された本件特許発明の構成の
いずれにおいても,前記1⑴のとおり,「ユーザエージェント」は,移動するもの,
すなわち,「モバイルエージェント」とされており,「ユーザエージェント」が移動
しないことを前提とする構成は,記載されていない。
bまた,前記1⑶イ(イ)のとおり,訂正後明細書の記載によれば,本
件特許発明は,ネゴシエータという移動エージェントを採用した本件先行技術を踏
まえて,その問題点であったイニシエータの個人情報漏えいの防止を目的の1つと
するものと解されるところ,本件先行技術文献によれば,「移動エージェント」は,
「エージェントがネットワーク上を移動し,移動先の計算機で情報の検索を行なっ
たり,ユーザの意図にそって情報処理を行なうシステム」(前記1⑵イ(ア))である
から,「モバイルエージェント」に相当するものといえる。
そして,前記1⑵ア(ア)のとおり,「エージェント」とは,「利用者からの委託を
受け,当利用者の意図する結果を実現するために,自らの認識と判断に基づき,当
該利用者に代わって他のエージェントやサーバとのやり取りをするソフトウェア
モジュール」を意味するところ,前記1⑵イによれば,移動エージェントであるネ
ゴシエータは,イニシエータに設定された交渉条件に従って提案を作成し,レスポ
ンダに提示するものであることに鑑みると,ネゴシエータの役割には,交渉当事者
の一方であるイニシエータの「エージェント」としての役割が含まれているものと
いえ,同役割は,当事者であるユーザの「エージェント」である構成要件Fの「ユ
ーザエージェント」の役割に近いものというべきである。この点に鑑みると,訂正
後明細書において,「ユーザエージェント」が移動しないことを前提とする構成が
示唆されていると解することはできない。
(ウ)a控訴人主張の①の点については,確かに,「ファイアフライ」につ
き,甲45号証には,「問い合わせに対して応答を返すだけのシステムであって,
ユーザーのコンピュータに存在しているエージェントがネットワークを巡り,答を
もって帰ってくる訳ではない。使われているのは,WWWで標準のサーバー/クラ
イアント通信である。」と記載されており,「サーバー/クライアント通信」は,「モ
バイルエージェント」を使用しない通信ネットワークである(甲69)。
bしかしながら,前記1⑶イ(ウ)c⒝のとおり,訂正後明細書中,「フ
ァイアフライ」に言及されているのは【0027】のみであり,また,前記(イ)a
のとおり,「ユーザエージェント」が移動しないことを前提とする構成は,何ら記
載されていない。
これらの点に加えて,本件先行技術は,ネゴシエータという移動エージェントを
採用したものであり,前記(イ)bのとおり,ネゴシエータは構成要件Fの「ユーザ
エージェント」に,移動エージェントは「モバイルエージェント」にそれぞれ相当
するものであることに鑑みると,訂正後明細書において,「ユーザエージェント」
が移動しないことを前提とする構成が開示されているということはできず,控訴人
の前記主張は,採用できない。
(エ)控訴人主張の②の点については,控訴人が主張の根拠として掲げる
平成25年10月3日付け請求書(甲47)中の記載及び甲2号証の図面のうち,
【0048】及び甲2号証の図4(別紙3)の「ユーザエージェント」の動作を示
すフローチャートについてみると,「ユーザエージェント」は,「サイト紹介情報受
け取り」(SA1),「番組アブストラクト受け取り」(SA2)及び「ユーザからの
指示受け取った」(SA3)のいずれも,「N」,すなわち,なかった場合,「移動時
刻が来た」(SA4)とき,「エージェント移動処理」(SA5a)が実施され,そ
の後,「サイト紹介情報受け取り」(SA1)及び「番組アブストラクト受け取り」
(SA2)のいずれも,「Y」,すなわち,あった場合,「アブストラクトとサイト
紹介情報とで評価」(SA7)を行うものとされている。これら一連の処理は,明
らかに,「ユーザエージェント」が移動性を備えたものであることを前提としてい
るものといえる。
以上に鑑みると,「ユーザエージェント」は,ユーザ宅17のパソコン14内を
検索するものであっても,移動性を備えた「モバイルエージェント」であるという
べきであり,控訴人の前記主張は,採用できない。
ウ控訴人は,仮に,訂正後明細書及び原出願の乙7特許の明細書において,
「ユーザエージェント」が「モバイルエージェント」であることを前提としない本
件特許発明の構成は開示されていないとしても,「モバイルエージェント」は,従
来のサーバ/クライアント通信を改良した改良型通信方式にすぎないことに鑑み
ると,当業者は,訂正後明細書及び原出願の乙7特許の明細書における「モバイル
エージェント」の記載に接すれば,その従来通信方式である「サーバ/クライアン
ト通信」を用いた構成も,当然に実施し得るものといえ,また,本件特許発明の課
題は,従来通信方式である「サーバ/クライアント通信方式」による被告システム
の構成によっても解決可能であるとして,構成要件Fの「ユーザエージェント」を
「モバイルエージェント」に限定して解釈するのは,誤りである旨主張する。
しかしながら,たとえ,当業者において,「サーバ/クライアント通信方式」に
よる構成を実施することができ,本件特許発明の課題は,「サーバ/クライアント
通信方式」による被告システムの構成によっても解決し得るものであったとしても,
特許請求の範囲に記載された用語の意義は,願書に添付した明細書の記載及び図面
を考慮して解釈するものとされており(特許法70条2項),前記イ(イ)のとおり,
訂正後明細書においては,「ユーザエージェント」が移動しないことを前提とする
構成は,記載も示唆もされていない以上,構成要件Fの「ユーザエージェント」が,
「モバイルエージェント」ではないものも含むと解することはできず,控訴人の前
記主張は,採用できない。
3被告物件イ-1からイ-3に係る本件特許発明の技術的範囲の属否につい

⑴被告物件イ-1からイ-3について
前記第2の2「前提事実」,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が
認められる。
ア被告システムには,被控訴人が運営するサーバ群が存在し,利用者のた
めにデータ処理を実行するソフトウェア群がインストールされている。
後記イのとおり被控訴人が取得したユーザに関する情報は,被控訴人の内部にお
いてのみ利用され,コンテンツプロバイダに提供されることはない(甲7〔なお,
甲27号証は,甲7号証とほぼ同じ内容である。〕,甲8,甲15)。
イ「iコンシェル」(被告物件イ-2,3に関するもの)について
(ア)「iコンシェル」は,被控訴人が携帯電話のユーザに情報を配信す
る有料のサービスである。
ユーザが「iコンシェル」を利用すると,被控訴人は,ユーザ端末内のスケジュ
ール帳データ,電話帳その他のデータの送信を受け,これらの情報を被告システム
のサーバに定期的に保存する。さらに,被控訴人は,平成21年の冬頃から,オー
トGPS機能(現在地を自動かつ定期的に測位する機能)を「iコンシェル」と連
携させ,ユーザ端末の位置情報も把握して被告システムのサーバに保存するように
なった。
被控訴人は,ユーザに対し,サーバに保存された前記情報のほか,被控訴人が保
持する契約者情報及びユーザが入力した各種設定情報に基づき,エリアや時間帯に
合わせて,各ユーザに適合した鉄道運行情報,道路交通情報,気象情報,イベント
情報等を配信するほか,被控訴人と契約して利用料を支払っているコンテンツプロ
バイダの情報(航空会社の運賃情報,ファーストフード店のクーポン等)も配信す
る。この配信は,ユーザのリクエストに応じて行われるプル型の配信ではなく,被
控訴人が行うプッシュ型の配信であり,コンテンツプロバイダは,個別に情報を配
信することはできない(甲7,甲8,甲15,甲23,甲29)。
(イ)たとえば,通勤時間帯に,ユーザが普段利用する鉄道路線で遅延等
が発生した場合,ユーザ端末の画面上に鉄道運行情報が表示される。
また,ユーザがある店舗のイベントのスケジュールをダウンロードし,「iコンシ
ェル」のスケジュール帳に登録すると,店舗のスケジュールが更新される都度上記
スケジュール帳も自動的に更新され,ユーザ端末の画面上に,「全国有名寿司展開催
8/1~8/3」など,当該店舗の最新のイベントに関する情報が表示される(甲
7,甲22)。
ウ「しゃべってコンシェル」(被告物件イ-3に関するもの)について
(ア)「しゃべってコンシェル」は,音声による指示に従って情報の検索
等のサービスや端末の操作を実現するサービスである。その対応アプリケーション
は,一定の規格を備えたスマートフォンにおいて動作するものであり,ユーザに対
して無料で提供される。
「しゃべってコンシェル」は,アマゾンが提供するクラウドサービスであるAW
Sを被告システムの一部として使用しており,AWS側のサーバに,音声認識エン
ジン及び意図解釈エンジンによって構成される音声エージェントがインストールさ
れている(甲9,甲48,甲51,甲66)。
(イ)たとえば,ユーザが「しゃべってコンシェル」のアプリケーション
を起動し,ユーザ端末に対して「富士山の高さは?」,「当事者主義とは?」などと
口頭で質問すると,これらの質問は,音声信号としてインターネット経由でAWS
側のサーバに送信される。前記(ア)のとおり同サーバにインストールされている音
声エージェントを構成する音声認識エンジンが前記音声信号を認識し,意図解釈エ
ンジンが前記質問に係るユーザの意図を解釈する。この解釈結果,すなわち,ユー
ザの質問内容は,インターネット経由で被控訴人が運営するサーバ群に送信される。
被控訴人が運営するサーバ群は,当該質問の回答につき,まず,被控訴人が保有
するデータベースを検索し,同データベースに適切な情報が存在しない場合には,
外部のウェブサイト等を検索して,ユーザに回答する(甲9,甲16,甲50,甲
66)。
エ「連携サービス」(被告物件イ-1に関するもの)について
「連携サービス」は,「しゃべってコンシェル」を「iコンシェル」と連携させた
サービスであり,「iコンシェル」のユーザが「しゃべってコンシェル」を利用する
際,前記イ(ア)のとおり,被告システムが有する「iコンシェル」のユーザに関す
る情報を反映した回答を提供するものである。連携サービスが提供する回答は,「雨
雲アラーム」,「鉄道運行情報」,「終電アラーム」,「公開交通取締り情報」及び「道
路交通情報」である。
たとえば,「iコンシェル」のユーザが,スマートフォンに対し,「あと,どれく
らいで雨降る?」と口頭で尋ねると,「連携サービス」は,前記イ(ア)のとおり,被
控訴人がオートGPS機能によって把握した上記ユーザの端末の位置情報を前提と
して,「現在地周辺では,11時頃に降り出しそうです。」と音声による回答を提供
するとともに,気象ニュース会社の雨雲アラームを上記端末の画面に表示する(甲
4,甲10)。
⑵被告物件イ-1からイ-3に係る本件特許発明の技術的範囲の属否につい

ア前記1⑵エ及び2⑶によれば,構成要件A-1の「自律的なソフトウェ
アモジュールとしてのエージェント」を構成する「第三者エージェント」(構成要件
D-1)と構成要件Fの「ユーザエージェント」とは,協調という相互作用を通じ
て,ユーザに対してその希望に即したコンテンツを提供するという処理を実現する
「マルチエージェントシステム」を成すものであり,したがって,いずれも「マル
チエージェントシステム」の一部である。
また,前記2⑶によれば,構成要件Fの「ユーザエージェント」は,移動性を備
えた「モバイルエージェント」である。
イ他方,前記⑴によれば,「iコンシェル」(被告物件イ-2,3に関する
もの),「しゃべってコンシェル」(被告物件イ-3に関するもの)及び「連携サー
ビス」(被告物件イ-1に関するもの)のいずれにおいても,ユーザ端末と被控訴
人が運営する被告システムのサーバ群との間では,ユーザに関する情報及びユーザ
端末に送信する情報のやり取りが,被告システムのサーバ群とコンテンツプロバイ
ダとの間では,ユーザ端末に送信する情報のやり取りが,それぞれ行われている。
しかしながら,これらは単なる情報の授受にすぎず,前記1⑵エ(ア)のとおり,
本件特許発明において構成要件D-1の「第三者エージェント」に相当する「第三
者機関エージェント」と「ユーザエージェント」とが「打合せ(meeting)」を行い,
「ユーザエージェント」が「第三者機関エージェント」に対して,ユーザが希望す
るコンテンツの検索の代理を依頼するとともに,同検索に必要な知識を提供すると,
「第三者機関エージェント」は,これに応じ,「ユーザエージェント」に代わって
コンテンツを検索した上,検索したコンテンツを自ら評価してその評価結果を「ユ
ーザエージェント」に通知するという,相互作用とは,異なるものである。
その他,「iコンシェル」,「しゃべってコンシェル」及び「連携サービス」のい
ずれにおいても,エージェント間の相互作用といえるものの存在は,証拠上,認め
るに足りない。
以上によれば,被告物件イ-1からイ-3のいずれにおいても,「複数の独立し
たエージェントが,協調や交渉等の相互作用を通じて処理を実現するシステム」を
意味する「マルチエージェントシステム」の存在を認めるに足りない。
ウまた,「iコンシェル」,「しゃべってコンシェル」及び「連携サービス」
のいずれにおいても,エージェントの移動の事実を認めるに足りず,したがって,
被告物件イ-1からイ-3のいずれにおいても,「モバイルエージェント」の存在
を認めるに足りない。
エ以上によれば,被告物件イ-1からイ-3のいずれも,「マルチエージ
ェントシステム」の一部である構成要件A-1の「自律的なソフトウェアモジュー
ルとしてのエージェント」及び「マルチエージェントシステム」の一部であるとと
もに「モバイルエージェント」である構成要件Fの「ユーザエージェント」を充足
せず,したがって,本件特許発明1及び2の技術的範囲に属しない。
そして,本件特許発明3は,本件特許発明2を引用するものであり,本件特許発
明4は,本件特許発明2又は本件特許発明3を引用するものであるから,被告物件
イ-1からイ-3のいずれも,本件特許発明3及び本件特許発明4の技術的範囲に
属しないといえる。
以上によれば,被告物件イ-1からイ-3のいずれも,本件特許発明の技術的範
囲に属しない。
⑶控訴人の主張に対し
ア(ア)控訴人は,AWS側のサーバにインストールされている音声エージ
ェントは,構成要件Fの「ユーザエージェント」に該当するものであり,ユーザの
質問を解釈し,その内容は,被控訴人が運営するサーバ群に送信され,a-1の「エ
ージェントエンジン」が,前記ユーザの質問に対してその回答の検索等の処理を行
うことをもって,上記「音声エージェント」は,a-1の「エージェントエンジン」
と交信しながらユーザの質問等を処理するものであるから,「マルチエージェント
システムの一部」であり,したがって,a-1の「エージェントエンジン」も,「マ
ルチエージェント」の一部である旨主張する。
(イ)しかしながら,そもそも,上記「音声エージェント」は,被告シス
テムの一部として使用されているクラウドサービスであるAWS側のサーバにイ
ンストールされているものであるから,構成要件Fの「ユーザエージェント」に該
当するものとはいえない。
また,確かに,上記「音声エージェント」は,ユーザの質問を解釈し,その内容
は,a-1の「エージェントエンジン」がインストールされている被控訴人が運営
するサーバ群に送信されるものの,上記「音声エージェント」は,単に,音声認識
機能によりユーザの質問の意味を解釈してそれをそのままa-1の「エージェント
エンジン」に対して一方的に伝えるにすぎないから,複数のエージェント間の相互
作用を通じて処理を実現する「マルチエージェントシステム」を構成しているとも
いえない。
したがって,a-1の「エージェントエンジン」は,「マルチエージェントシス
テム」の一部とはいえず,控訴人の前記主張は,採用できない。
イ控訴人は,a-1の「エージェントエンジン」が「マルチエージェン
トシステム」の一部といえず,他方,構成要件A-1の「自律的なソフトウェアモ
ジュールとしてのエージェント」が「マルチエージェントシステム」の一部である
としても,a-1の「エージェントエンジン」は,構成要件A-1の「自律的なソ
フトウェアモジュールとしてのエージェント」を構成する「第三者エージェント」
(構成要件D-1)と均等なものであるから,本件特許発明1の技術的範囲に属す
る旨主張しており,これは,被告物件イ-1からイー3のいずれも,本件特許発明
1と均等なものとして本件特許発明1の技術的範囲に属する旨を主張するものと
解される。
しかしながら,前記1⑵エ(イ)及び2⑶によれば,本件特許発明は,構成要件A
-1の「自律的なソフトウェアモジュールとしてのエージェント」を構成する「第
三者エージェント」(構成要件D-1)と構成要件Fの「ユーザエージェント」と
が,協調という相互作用を通じて,ユーザに対してその希望に即したコンテンツを
提供するという処理を実現するシステムであるから,構成要件A-1の「自律的な
ソフトウェアモジュールとしてのエージェント」及びそれを構成する「第三者エー
ジェント」(構成要件D-1)は,構成要件Fの「ユーザエージェント」と共に,
本件特許発明の本質的部分であることは,明らかといえる。
したがって,被告物件イ-1からイ-3のいずれも,均等の第1要件(非本質的
部分)を充たしておらず,本件特許発明1と均等なものとして本件特許発明1の技
術的範囲に属するということはできない。
したがって,控訴人の前記主張は,採用できない。
ウ控訴人は,仮に,構成要件Fの「ユーザエージェント」が「モバイルエ
ージェント」に限定されるとしても,被告システムは,構成要件Fと均等なものと
いえるから,本件特許発明2の技術的範囲に属する旨主張し,これは,被告物件イ
-1からイー3のいずれも,本件特許発明2と均等なものとして本件特許発明1の
技術的範囲に属する旨を主張するものと解される。
しかしながら,前記イのとおり,構成要件Fの「ユーザエージェント」は,本件
特許発明の本質的部分であるから,被告物件イ-1からイ-3のいずれも,均等の
第1要件(非本質的部分)を充たしておらず,本件特許発明2と均等なものとして
本件特許発明2の技術的範囲に属するということはできず,控訴人の前記主張は,
採用できない。
第4結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の請求は理由が
ないから,これを棄却した原判決は,相当である。
なお,控訴人は,原審の訴訟指揮には,控訴人のみに対して一方的に釈明を求め
るなど公平さを欠き,違法な点があった旨主張するが,原審の審理に違法な点があ
ったとは認められない。
よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
新谷貴昭
裁判官
鈴木わかな
別紙1(甲2号証図面)
図2各種エージェントの動作を説明するための説明図
図5ユーザエージェントの動作を示すフローチャート
図6ユーザエージェントの動作を示すフローチャート
図8第三者機関エージェントの動作を示すフローチャート
別紙2(乙1号証図面)
別紙3(甲2号証の図4)
ユーザエージェントの動作を示すフローチャート

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