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平成29年11月9日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成29年(ネ)第1627号意匠権侵害差止請求控訴事件
(原審大阪地方裁判所平成28年(ワ)第7185号)
口頭弁論終結日平成29年9月12日
判決
控訴人(一審原告)株式会社誠文社
同訴訟代理人弁護士木村圭二郎
同松井亮行
同補佐人弁理士倉内義朗
同宇治美知子
被控訴人(一審被告)株式会社アーテック
同訴訟代理人弁護士梅本弘
同高橋英伸
同訴訟代理人弁理士内山邦彦
同岡田充浩
同補佐人弁理士杉本勝徳
同辻忠行
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,原判決別紙「被告製品目録」記載の製品を製造し,譲渡し,譲
渡の申出をしてはならない。
3被控訴人は,前項の製品を廃棄せよ。
4訴訟費用は,第1,2審を通じて被控訴人の負担とする。
5第2,第4項につき仮執行宣言
第2事案の概要
以下で使用する略称は,特に断らない限り,原判決の例による。
1本件は,意匠に係る物品を植木鉢とする本件意匠権を有する控訴人が,被控
訴人による被告製品の製造販売行為が本件意匠権の侵害となると主張して,被
控訴人に対し,意匠法37条1項に基づき,被告製品の製造,譲渡,譲渡の申
出の差止め,同条2項に基づき,被告製品の廃棄を求めている事案である。
2前提事実,争点及び争点についての当事者の主張は,後記3のとおり,当審
における控訴人の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の1
及び第2の2(原判決2頁10行目から10頁3行目まで)のとおりであるか
ら,これを引用する。
ただし,原判決3頁9行目の「同時に」を「その直後」に改める。
3当審における控訴人の主張
(1)本件意匠では,ペットボトル等の給水容器等を挿入するための円形孔部が,
植木鉢と一体でかつ植木鉢を構成する部分として形成された意匠をもって,
新規に創作されたということができる。したがって,本件意匠の要部は,植
木鉢の背面の両角を結んだ線上付近に位置するように形成され,かつ,植木
鉢の背面の中央付近で,ペットボトル等の給水容器等を挿入するための円形
孔部の植木鉢の内側への侵入範囲と外側への突出範囲とが概ね同等程度とな
る点にある。
給水ボトルの保持部の形状については,一定程度の関心が寄せられるにせ
よ,本件意匠に係る植木鉢の需要者が学童あるいは初等教育機関の教員であ
れば,給水ボトルの保持部の細かな形状等が需要者の最も注目するところと
いうことはできず,本件意匠の要部を構成するということはできない。
(2)本件意匠は,控訴人において2年にわたって構想され,創作され,平成1
7年から本件意匠に係る植木鉢を販売し,累計販売台数が約285万個にも
上る大ベストセラー商品である。その間,本件意匠にかかる植木鉢は,学童
及び初等教育機関の教員の間で広く認知された。このような中,突如,平成
28年に被告製品の販売が開始された。需要者は,見た目の形状や価格によ
り選んだ植木鉢を購入する。同事実を前提とすると,被告製品と本件意匠に
かかる植木鉢を混同して被告製品を購入する者が少なからずいる。
被控訴人は,本件意匠の顧客吸引力にただ乗りする形で,被告製品を製造
販売するという極めて悪質な行為を行っている。これを許容すれば,意匠権
は画餅に帰する。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,被告製品は本件意匠と類似しないから,控訴人の意匠権を侵害
するものではないと判断する。
その理由は,次のとおり原判決を補正し,後記2のとおり,当審における控
訴人の主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第3の
1から第3の4まで(原判決10頁5行目から15頁11行目まで)に記載さ
れたとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決10頁15行目の「なお,本件意匠が」から18行目末尾までを「な
お,被控訴人は,背面図と参考斜視図における外側枠体部の高さの比率が一
致しないことを理由に,本件意匠が特定されていないと主張する。しかし,
背面図における外側枠体部の形状は,右側面図,B-B断面図と整合してお
り,外側枠体部の形状を客観的に再現することができる。参考斜視図は,背
面の斜め上から斜視図であるため,外側枠体部の高さの比率が図面に正確に
反映されなかったものと思われるが,本件意匠の特定を欠くものではない。」
に改める。
(2)原判決11頁12行目の「引っかける」を「取り付ける」に改める。
(3)原判決11頁14行目の「において」を「を用いて」に改める。
(4)原判決13頁5行目の「植木鉢」を「土入れ部」に改める。
2当審における控訴人の主張に対する判断
(1)控訴人は,本件意匠の要部は,ペットボトル等の給水容器等を挿入するた
めの円形孔部が,植木鉢と一体でかつ植木鉢を構成する部分として形成され
た意匠をもって,新規に創作されたということができ,本件意匠の要部は,
円形孔部の植木鉢における配置にあり,給水ボトルの保持部の形状について
は本件意匠の要部ということはできないと主張する。
確かに,前記引用の原判決「事実及び理由」第3の3(3)のとおり,本件意
匠のように,給水容器の保持部が植木鉢の内側に入り込む形で一体となって
いる形状は公知の意匠にはなく,円形孔部の配置は新規であるといえるが,
本件意匠は,部分意匠であり,植木鉢と円形孔部の具体的な位置関係自体を
意匠権の内容とするものではない。その一方で,需要者である学童あるいは
初等教育機関の教員が,植木鉢の背面の斜め上から見るのが通常である(本
件意匠にかかる植木鉢は,給水ボトル保持部の円形孔部にペットボトルを挿
入して使用し,ペットボトル内の水分量に注目して使用するのが通常であ
る。)以上,円形孔部と植木鉢のフランジ部との位置関係とともに,給水ボト
ルの保持部がどのような形をしているかについて注目すると考えられる。
そうすると,本件意匠の要部は,植木鉢の背面上方に形成された給水ボト
ル保持部を形成する枠体部の形状であると認められる。
控訴人の主張は採用できない。
(2)さらに,控訴人は,本件意匠に係る植木鉢は大ベストセラー商品であると
ころ,被控訴人は,本件意匠の顧客吸引力にただ乗りする形で,被告製品を
製造販売しているとも主張する。
しかしながら,前記認定判断のとおり,本件意匠と被告意匠は類似である
と認めることはできず,本件意匠を侵害するものではないし,上記の事情に
よって類否の判断が左右されるものでもない。
控訴人の主張は理由がない。
3結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の被控訴人
に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきである。これと同
旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文
のとおり判決する。
大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官山田陽三
裁判官髙橋文淸
裁判官種村好子

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