弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役25年に処する。
未決勾留日数中170日をその刑に算入する。
名古屋地方検察庁で保管中の石頭鎚1本を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1A(当時34歳)から約100万円の借金をしていたところ,同人から保証
人を立てることを求められると,保証人が見つかったと嘘をついた。すると,
前記Aから,ゴールデンウィーク中に保証人を連れて来てほしいと言われ,被
告人は焦りを募らせた。そこで,被告人は,前記Aに対し,背後から石頭鎚で
その頭部を殴打して同人からの借入金の借用書を強取するとともに,前記借入
金の返済を免れようと考え,令和2年5月2日午後9時頃から同日午後9時2
2分頃までの間に,愛知県大府市a町bc番地のd所在のB方離れ2階廊下に
おいて,前記Aが同人の部屋から前記廊下に出てきたので,同人に対し,殺意
をもって,その頭部等を石頭鎚(重量約880グラム)で多数回殴り付け,そ
の反抗を抑圧したが,物音等を聞いて駆けつけたC(当時60歳)に発見され
たため,前記借用書の強取及び前記借入金の返済を免れる目的を遂げず,前記
Aに全治不能の失語症及び右半身麻痺の後遺症を伴う頭蓋骨陥没骨折,左脳挫
傷並びに左視束管骨折等の傷害を負わせたにとどまり,死亡させるに至らなか
った。
第2前記日時頃,前記Cによる警察への通報を阻止するため,逃げ出した同人を
追い掛け,前記B方離れ1階車庫において,前記Cに対し,その頭部を前記石
頭鎚で1回殴り付ける暴行を加え,よって,同人に全治約3週間を要する右頭
頂骨陥没骨折等の傷害を負わせた。
(事実認定の補足説明)
第1本件の争点
本件の争点は,判示第1の行為時における被告人の殺意の有無である。
当裁判所は,被告人に殺意が認められると判断したので,以下,その理由を説
明する。
第2当裁判所の判断
1前提事実
関係証拠によれば以下の事実が認められる。
(1)被告人の用いた凶器
被告人は,凶器として,打撃面が鋼鉄製で,重量が約880グラムの石頭
鎚(以下「本件石頭鎚」という。)を用いているところ,石頭鎚は,一般的
に,土木作業を行う際に杭を打ち付けるなどの用途で用いるものである。
(2)被告人の殴打回数
被告人は,判示第1の犯行時,Aの左側頭部や顔面等を少なくとも5回殴
り付けた。
(3)Aの負傷状況
Aは,被告人による前記暴行により,左側の頭蓋骨陥没骨折,頭蓋底及び
左頬骨等に多数の骨折を負うなどし,頭蓋骨の骨折部分の一部が陥没して
頭蓋内に入り込み,脳組織を損傷していた。Aは,判示第1の犯行後直ちに
救急搬送されたが,病院に到着した際,意識レベルは深昏睡の状態で,頭部
からの多量の出血が原因となって出血性ショックを起こしていた。
2行為の危険性について
上記の事実から,被告人は,殺傷能力の高い凶器である本件石頭鎚を用いて,
Aの頭部等を目がけて,頭蓋骨が陥没骨折するなどし,多量に出血するような相
当強い力で少なくとも5回殴り付け,重傷を負わせたことが認められ,被告人の
行為は,人が死ぬ危険性が高い行為であったということができる(D医師も,仮
に救急搬送が遅れていれば,出血性ショックもしくは重度の意識障害による呼
吸停止などにより死亡していた可能性が高いと供述している)。
3行為の危険性の認識について
被告人は,Aを殴って気絶させようと考えていたのであり,同人が死ぬかもし
れないとは思わなかったと供述する。しかし,被告人は,本件石頭鎚をふだん仕
事で使っていたと述べており,本件石頭鎚の危険性は十分認識しているはずで
あること,犯行当時Aの頭部等を殴り付けたおおよその回数や,同人が抵抗して
いたことなどの本件犯行当時の状況を記憶していることからすると,被告人が
自身の行った行為の意味について理解していないとは考えられない。また,被告
人自身,Aを死亡させないよう手加減して殴り付けたのでもないと供述してい
る。そうすると,被告人が本件石頭鎚を用いて,Aの頭部等を目がけて,頭蓋骨
が陥没骨折するなどの相当強い力で少なくとも5回殴り付けたことを認識して
いたにもかかわらず,Aが自身の行為により死亡する可能性を認識できなかっ
たような特別の事情はなく,行為の危険性を認識していたと認められる。したが
って,これに反する被告人の主張は採用することができない。
4結論
以上のとおり,被告人は,判示第1の行為時,人が死ぬ危険性が高い行為をそ
れと分かって行ったことが認められ,被告人に殺意があったということができ
る。
(量刑の理由)
本件において,犯罪事実に関する事情として最も重視すべきは判示第1の犯行の
結果である。Aは,判示第1の犯行により,脳を損傷し,全治不能の失語症と右半身
麻痺の後遺症が残っている。Aは,本件当時34歳であり,事件前までは土木作業の
仕事をしていたが,右半身を自由に動かせなくなり,更に,失語症のため,話す,聞
く,読む,書くということができなくなった。そのため,Aは,これまでどおりの生
活をすることは到底不可能であり,一生,人の手を借りて生活しなければならなくな
ってしまった。したがって,被告人の判示第1の犯行により,Aに与えた傷害結果は
余りにも重大であり,同人の将来を楽しみにしていたAの両親がいずれも被告人に
対し非常に厳しい処罰を求めているのは当然である。また,判示第1の犯行態様につ
いても,石頭鎚という危険な凶器を用いて,相当強い力で頭部等を少なくとも5回殴
り付けるという比較的強い殺意に基づいた執ような犯行である。被告人は,きちんと
生活していけるための努力をせずに,A以外からも多額の借入金があった中で,Aか
ら保証人を立てることを求められると,判示のような動機で犯行に及んでおり,Aに
は非はなく,身勝手な動機,経緯に酌むべき点はない。判示第2の犯行についてみて
も,被告人は,警察への通報を阻止し,逮捕されないようにするためという身勝手な
動機で,逃げ出したCの背後から本件石頭鎚で頭部を殴り付けるという危険な犯行
に及び,Cに全治約3週間を要する右頭頂骨陥没骨折等という重い傷害を負わせて
いる。
以上のような被告人が行った犯罪事実に関する事情に照らすと,強盗の目的は遂
げていないことを考慮しても,本件は同種事案の中では重い部類に属する。
次に,犯罪事実以外の事情についてみると,被告人が,本件各犯行のうちAに対す
る殺意以外については認め,Aやその家族に対し申し訳ないと述べるなどして反省
の態度を示していること,被告人には前科前歴がないこと,被告人の内妻が,被告人
との間の子らとともに日本で暮らし,被告人との家族関係を維持する意向を示して
いることなど,被告人の更生に資する事情も一定程度認められる。
そこで,犯罪事実に関する事情を基礎に,犯罪事実以外の事情も考慮して,主文
のとおりの刑を量定した。
(求刑-懲役27年及び主文掲記の没収)
令和3年2月1日
名古屋地方裁判所刑事第3部
裁判長裁判官宮本聡
裁判官西前征志
裁判官大井友貴

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